ありふれない怨霊こそ世界最愛   作:白紙

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46.異世界より⑥

 ■月●日

 

 <悲報>ブルックの町は変態の巣窟だった<倫理とは>

 

 久々の柔らかいベッドで目覚めた俺はハジメ達と朝食を平らげた後、迷宮攻略に向けた買い出しをする事になった。本当なら全員で行く筈だったんだが、ハジメは作りたいものが幾つかあると宿に残る事になった。てっきり昨夜の内に全て終わらせたもんだと不思議に思っていたら、当のハジメはジト目でユエさんと姉ウサギさんを見つめており、2人は露骨に話を逸らしていた。予想以上に昨夜は色々あったらしい。やっぱりお楽しみだったんじゃないか。

 

 唯、以前俺が頼んだ物はもう既に完成させていたのだとか。以前にも作った事があるとは言え、仕事が速いのは流石である。後はこれを姉ウサギさんに渡して、ちょっとした頼み事をするだけ・・・だったんだが。何を勘違いしたのか姉ウサギさんは「社さんのお気持ちは嬉しいんですけど・・・私にはもう心に決めた人が居るので!ごめんなさい!」とか血迷った事抜かしてた。

 

 渡した物のデザインがデザインなだけに、そういった誤解も止むなしーーーな訳があるか。余りにもふざけた勘違いだったので、思わず本気でデコピンした俺は悪くない。俺が■■ちゃん以外にアプローチかける訳無いでしょうに。その辺りの事情はまだハウリア姉妹には話していないが、そこはそれ、俺にも譲れない部分の1つや2つはあるのだ。バツン!と人体から出るとは思えない音と共に、叫びながら額を押さえて崩れ落ちる姉ウサギさんを見たら少しは溜飲下がったけど。

 

 余りの痛みに悶絶していた姉ウサギさんだったが、渡した物の用途を説明して協力を仰いだところ「もちろんですぅ!」と快諾してくれた。やはり自分の家族が関わる事象であれば、とても真剣かつ真摯に取り組んでくれるらしい。そういった部分を見せてけば、ハジメもちゃんと見直すんじゃないかなー。

 

 そんな一幕もありつつ、ハジメを除いた俺達4人は町に繰り出す事に。目的は食料品とポーション等の医療品、そしてハウリア姉妹の衣服である。特にハウリア姉妹の服は結構年季入ってるので、一通り買い替えてしまうそうな。武器・防具類はハジメがいるので必要無し。仲間内(パーティー)に戦闘も十全に熟せる生産職がいるとか、RPGならぶっ壊れも良いとこだった。

 

 武器と言えばで思い出した。今現在俺の所有している呪具の内、〝 ■■ちゃんの『呪い』を移している刀〟を除いた〝天祓(あまはらい)〟と〝流雲(りゅううん)〟の2つには、定期的に俺の呪力を流している。俺の呪力を馴染みやすくするとか、呪具そのものを少しでも強化出来たら良いなーくらいの気持ちでやってるんだが、その際にちょっぴり違和感があった。

 

 天祓と流雲に俺の『呪力』を流すと、呼応するかの如く元々宿っていた『呪力』が俺に干渉しようとする・・・気がする。何と言うか、指向性を持つと言うか、まるで()()()()()()()()()()()()()()()感じだ。

 

 まぁ、『呪力』≒負の感情なので、天祓と流雲に意思が宿っても不思議では無いだろう。付喪神とか割とメジャーだしな。問題があるとすれば、自我を持った際に「下克上じゃー!」と再び俺を襲う可能性があるくらいか。まぁ現状この2本から悪意は感知出来ないし、俺の『呪力』を流すのに抵抗する様子も無いので、多分大丈夫だろう。意思を持つ武具(インテリジェンスウェポン)とか浪漫あるしな。本当に意思が宿ったらハジメに自慢してやろう。間違い無く羨ましがる。

 

 閑話休題(話が逸れた)。宿のチェックアウトまで数時間しか無いので、時間帯による混雑と効率を考えた結果、まずは衣服から揃える事に。ハジメから〝宝物庫〟を預かっているユエさんと、〝影鰐(かげわに)〟で影に品物保管できる俺とで別行動しても良かったんだが、何か妙な悪意がユエさんとハウリア姉妹に向けられている気がしたので、念の為団体行動する事にしたのだ。蓋を開ければしょーもないオチだったけどな!

 

 キャサリンさんから貰った地図を頼りに、俺達は冒険者向きの衣服店に足を運んだ。他にもいくつか候補は有ったんだが、機能的な服の他、普段着もまとめて買える点が決め手だった。

 

 店に入った俺達を迎えてくれたのは、店長であるクリスタベルさん(♂)。身長2m強、筋肉モリモリな恵体の持ち主であり、弁髪の先端をピンクのリボンで結んだ、正に絵に描いたような漢女(オカマ)だった。一言で言えば「北斗◯拳の画風(タッチ)で書かれた、女装したラーメン◯ン」みたいな人。パワーワードが過ぎる。

 

 そんな人がクネクネと身を捩りながら、語尾にハートマーク付けて話しかけてくるもんだから、女性陣は完全に硬直していた。姉ウサギさんに至っては意識が飛び掛かっていたし。第三種接近遭遇かな?こんな未知との遭遇は嫌すぎる。

 

 仕方無いので、俺が代表して話を通す事に。俺達に向ける悪意は微塵も感じられなかったし、真剣に話を聞いてくれてもいたから悪い人では無いんだろう。普段と変わらない様子でクリスタベルさんと話す俺に、女性陣は畏怖と畏敬の視線を向けていた。気持ちは分からんでもないが、失礼なのでやめて差し上げて。

 

 と言うか、元の世界で『呪霊』やら妖やらを祓ってきた俺に言わせれば、あからさまに人外染みた見た目をした奴よりも、美形だったり美人だったりする奴等の方が邪悪且つ凶悪且つ悪辣だった記憶がある。正確に言うのならば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。俺が■■を躊躇無く呼ぶ様な奴らは、総じて見た目が良い奴ばっかりだったしな。比例する様に腹ん中悪意で満ち満ちてたりもしたが。

 

 無論、皆が皆そうでは無かった。俺の『式神調(じゅつしき)』で式神を作れる程に仲良くなれた人外達も美形だったが、皆気の良い奴だったし。とある仕事(バイト)の際に知り合った吸血鬼なんかは、一族全員が例外無く頭脳明晰、美男美女と来て、更には凄まじく強いにも関わらず、何故だか人類と友好的な関係を築いている。態々世界的な大企業を作ってまで、である。「下等な人類は我々が支配するべきなのだ!」とか言うトンチキは(少なくとも彼女の氏族に限っては)生まれて来ないらしい。マジで謎過ぎる。

 

 また話が逸れた。極論、俺にとっては俺と身内に悪意が向いてさえいなければ良いのだ。そしてクリスタベルさんが俺達に向ける悪意が皆無である以上、彼女の容姿が如何なる物でも俺にとっては瑣事(さじ)である。露骨なオネエキャラは良キャラの証だってハジメと幸利も言ってたし。

 

 実際、クリスタベルさんの目利きは見事な物だった。色々な意味で躊躇していたハウリア姉妹から巧みに要望や好みを聞き出し、少なくない品揃えの中から彼女達に見合う服装をキチンと見立ててくれたのだから。最初こそ屠殺場に向かう家畜が如き目をしていたハウリア姉妹も、この結果には満足だった様で素直にお礼と謝罪をしていた。クリスタベルさんも気にせず「また来てねん♥」と良い笑顔で返していた。やさしい世界だった。

 

 因みに、姉ウサギさんは比較的露出の多目な服を、妹さんは露出皆無な服をそれぞれ見立てて貰っていた。『呪力』のコントロールも上達してきたので、余程でなければ妹さんに見た目の異常は出ない筈ではあるが、まだ何となく素肌を隠さなければ不安らしい。この辺りは気長にやってくしかないだろう。姉ウサギさんはその事を知ってか何も言わなかったが、それでもいつか必要になった時のためにと、妹さんに内緒で洒落たスカート等を見繕って貰っていた。こういった細やかな気遣いを見ると、同じく義妹を持つ身としては素直に姉ウサギさんを尊敬する。いつの日か妹さんが気にせずオシャレできる日が来る事を祈ろうかね。

 

 と、ここで終わってくれたなら「麗しい姉妹愛だなぁ」で済んだんだが、そうは問屋が下さなかった。問題が起きたのは店を出た後、道具屋に向かって歩みを進めていた時の事。他愛の無い雑談をしていた俺達を、妙な悪意を向けた集団が取り囲んだのだ。

 

 俺達を取り囲んでいたのは、数にして30人強の男達。冒険者風の男が大半だったが、中には店番放って来たのかエプロンをしている男もいた。変な奴らがいる事には俺も気付いてはいたんだが、彼等には悪意は有っても敵意が無かった。俺とユエさん達女性陣とで向ける悪意の種類が異なっていた、と言うべきか。それ故、一先ず様子見に徹していたのだ。

 

 訝しむ俺達の前に、男衆の内の一人が前に進み出た。今にして思えばあの男、俺達がキャサリンさんと話している時に冒険者ギルドにいた1人だったんだろう。ユエさんとハウリア姉妹の名前を確認する様に聞くと、他の男連中達も覚悟を決めた目でユエさん達を見つめていた。何が起こっても良い様に、怪しまれない範囲で迎撃体制を整える俺をよそに、男衆はそれぞれユエさんとハウリア姉妹の前に出た。そして。

 

「「「「「「ユエちゃん、俺と付き合ってください!!」」」」」」

「「「「「「シア/アルちゃん!俺の奴隷になれ!!」」」」」」

 

 男衆が声を揃えて叫びやがった。予想の斜め上を突き抜けた答えを聞き、思わずズッコケそうになった俺。シリアスさを返して欲しい。大の男が真っ昼間から大勢で何してんだマジで。

 

 とは言え、こうなるのはある種予定調和ではあったのだろう。方向性は違えど*1美少女と言って良い3人が集まっているのだから、こういった奴等が集まるのも止む無しだったのかも知れない。元の世界ーーー特に日本ではまずあり得ない事態ではあるが、そもそも価値観が違い過ぎてその辺りを論ずるのも無駄だろうしな。

 

 ユエさんとハウリア姉妹で口説き文句が異なるのは、亜人か否かの違いだろう。本来なら奴隷の譲渡は主人の許可が必要である筈だが、ハジメに声を掛けない辺り、昨日の宿での仲睦まじい(ハジメは否定するだろうが)やり取りが知れ渡っているのだろう。一先ず奴隷側から説得しよう、とでも考えたのかね。

 

 だが生憎と、そんな話を馬鹿正直に聞く面子はウチには居ない。誰一人反応を返す事なく、彼等をシカトして歩き続ける女性陣。文字通り眼中に無い感じである。うーん、強い。

 

 それでも諦めが悪い奴は居る者で「なら力づくで俺のものにしてやるぅ!」と雄叫びを上げた男を中心に、他の連中も俺達を逃さない様に取り囲んで、ジリジリと迫ってきた。いい歳した男衆が顔を赤らめ鼻息荒くして迫ってくる絵面は、シンプルにキモかった。

 

 その内に我慢出来なくなった男の1人がユエさんに飛びかかったんだが、俺が迎撃するよりも速く、首から下を瞬時に凍らされて敢えなく墜落させられていた。人目に着く場で詠唱無しの魔法を使うのヤバいか?とも思ったんだが、周囲の反応を見るにセーフっぽかった。「事前に呪文を唱えていた」とか「魔法陣は服の下にでも隠しているに違いない」とか聞こえたので、良い感じに解釈してくれたらしい。

 

 その後ユエさんは氷漬けにした男の元に歩み寄ると、何故か氷を溶かし始めていた。それを見て「俺の想いが伝わったのか!」とめでたい勘違いをしていた男だったが、しかしユエさんの真の狙いに気付いて顔を青くした。氷を溶かしたのが下半身の一部分ーーー所謂男の象徴がある場所であり、そこに狙いを定めていたからだ。

 

 そこから先は地獄だった。ユエさんの指先から風の礫が放たれる度に、大の男の酷く情けない悲鳴が響き渡る。一撃で仕留めるのでは無く、意識を奪わず最大限に痛みを与える為にされた 威力調整(てかげん)は正に神業の一言。無駄に洗練された無駄の無い無駄な魔法とも言う。

 

 永遠に続くかと思われた集中砲火(みせしめ)は、男の意識(と象徴)の喪失により終わりを告げた。人差し指の先をフッと吹き払い「・・・漢女(おとめ)になるがいい」と呟いたユエさん。彼女は第2のクリスタベルさんでも生み出すつもりなのだろうか。

 

 隙あらば飛び掛かろうとしていた他の連中も、目の前で行われた処刑の余りの惨さに及び腰になっていた。関係ない野次馬やら近くの露店の店主やらも股間を両手で隠していたのは正直可哀想ではあった。気持ちは痛いほど分かる。流石にここまでやられたら周りの連中も諦めるーーーかと思いきや。今度はコイツら、俺の方に絡んで来やがったのだ。

 

 このタイミングで何故俺が標的に?と訝しんだんだが、ふと気が付いたら妹さんが何故か不安そうに俺の後ろに隠れていた。その様子を見て、思わず「え?何してんのこの子?」的な目線で妹さんを見てしまう俺。言い方悪いがこの程度の有象無象、今の君なら一蹴出来るでしょうに。

 

 そんな俺の視線に気付いたのか、ワタワタと慌てながらも弁解を始めた妹さん。彼女曰く「家族(ハウリア)以外に素顔を見られた時は化物(バケモノ)呼ばわりされてたんデ、こんな大勢に見つめられるのはチョット・・・」との事らしい。想像以上にゲロ重な事情だった。

 

 ハウリアは元々亜人の魔力持ち(姉ウサギさん)と言う例外が居た為、 兎人族(どうぞく)以外とは極力交流を断っていた筈。フェアベルゲンでも妹さんに対する言及は特に無かったので、(アルフレリック氏は怪しいが)誤魔化せてもいた筈だ。だが、それでも運悪く他の亜人と遭遇してしまい、素顔を見られる事もあったのだろう。全て推測に過ぎないが、当たらずも遠からずだと思う。

 

 一族から捨てられ、他の亜人からは化物(バケモノ)呼びされた彼女が、多少ぶっきらぼうとは言え家族想いな性格に育ったのは、(ひと)えにハウリアの愛情の賜物だろう。優しさだけで全てが解決出来る程、亜人にとって余裕のある世界では無いだろうに、それでも家族とした相手に愛を注ぎ続けたハウリアの人々には脱帽である。

 

 と、そんな事を話している内に、心折れた筈の男衆が再び立ち上がろうとしていた。その目に爛々と嫉妬の炎を燃やしながら、である。彼等の品の無い言い分曰く「見た目クール系美少女が心細そうにしているギャップに庇護欲が湧き、頼られつつもイチャイチャしているアンタには嫉妬しか湧かぬ!!(意訳)」だとか。目ん玉ガラス玉でも詰まってんのか。後「同じ男だし、ユエさんみたいな股間攻撃(ほうふく)はしないよね?」みたいなビビリがあんのも透けて見えたからな、ヘタレ共め。

 

 しかし「ハウリア姉妹のそれぞれどちらを俺とハジメの奴隷にするのか」までは気が回っていなかった。設定上とは言え、人の奴隷(もちもの)に手を出す為にここ迄の人数が出張るとは思ってもみなかったからだ。この場で「妹さんは俺の奴隷ではありませんよ」「彼女の主人はハジメです」と言うのは簡単だが、解決方法としては下の下だ。ハジメは今この場には居ないから証明は出来ないし、それでコイツらが納得するとも思わない。最悪「この子達は奴隷じゃ無いのか!?」なんて勘違い(大当たりではあるんだが)されたなら、それこそ本当に大騒ぎになる。目の前の馬鹿共は間違い無く調子付くに違い無いしな。

 

 そんな風に考えを巡らせている内に、醜く叫ぶ男衆を見て軽くビビった妹さんは余計に俺の後ろに隠れるし、それを見て血の涙を流さんばかりに気炎を挙げる男衆。喧しいし、舐められたままなのもこれからの買い物に支障が出る。良い加減面倒にもなってきたので、男衆が行動するよりも速く、ユエさんが処刑した男の腰から剣を拝借。「ここでやるつもりか!?」と身構える男衆の前で、(おもむろ)()()()()()()()()()()()()()()

 

 唖然とする男衆を尻目に「これ、何だと思います?ーーー10秒後の貴様らの姿だ」と笑顔で凄んだところ、彼等は仲良く血の気を失って土下座していた。規格外(ユエさん)(つる)んでいる時点で、その周りも規格外である可能性には至らなかったらしい。そこまでするなら最初から無体を働くなと言いたい。今更だがハジメがあの場に居なくて良かった。最悪インスタント血の池地獄が錬成される所だった。と言うか、此方の世界にも土下座あるんだな。

 

 「次に絡んで来たら手足の1、2本は覚悟して下さいね?」としっかり念押しして、俺達はその場を後にした。その言葉を聞いて、取れんばかりの勢いで首を縦に振った男衆。あの様子ならもう無駄に絡んでは来ないだろう。俺達の目の前にいた奴らが、道を開ける様にズラッと左右に移動したのは少し笑いそうになったが。

 

 畏怖の視線を向けてくる男達の視線を無視して、俺達は買い出しの続きに向かった。その後は特に問題が起きる事も無く、平穏無事に宿へと帰還。そのままチェックアウトしてブルックの町を後にしたのだった。・・・買い物の道中で町の女の子達が「ユエお姉様・・・♡」とか呟いて熱い視線を向けてたり、どこで聞いたのかユエさんとハウリア姉妹のファンらしき人々が見送りに来てたのは見なかった事にした。どこか甘ったるい様な、ネットリした悪意を感じたのでユエさんとハジメには一言報告しておいたけど。

 

 後、魔導四輪でライセン大渓谷を目指す道中、ハウリア姉妹に謝罪とお礼を言われた。妹さんは無意識とは言え俺を盾にした事について、姉ウサギさんは自分の義妹を庇ってくれた事について、である。これに関しては彼女達が悪い訳では無いので、特に謝る事も無いよと返しておいた。悪いのはどう考えても男衆だったしな。

 

 それと同時に、仮初とは言え妹さんの主人である事を否定しなかった事も、説明と共に謝罪しておいた。今後誰かに問われた時は、姉ウサギさんがハジメ、妹さんは俺の奴隷であると明確に受け答えしてくれとも。致し方無かったとは言え、年頃の娘さんを奴隷扱いしてそのままなのは、少しばかり良心が欠けている。異世界では俺達の常識や道徳が通用しない為、多少なりとも強引な手段に出ざるを得ない時もあるだろうが、俺の両親や義妹、爺さんに顔向け出来ない事はあんまりしたく無い。尚、俺の良心が適応されるのは、身内に友人、精々が俺の身内に害の無い他人までである。敵?敵は人扱いしません。某檜山とか檜山とか檜山とか。

 

 有難い事に、ハウリア姉妹は名目上の奴隷扱いに気を悪くした様子は無かった。何だかんだ言いつつもしっかり話せば分かってくれる辺り、ハウリアの人の良さは受け継がれていた。・・・姉ウサギさんは「何でこんな紳士的な人がハジメさんの親友やっているんですぅ?」とハテナマーク浮かべてたが。言いたい事は分かるけど、あんまり言わないであげて。ハジメも色々あったんだ。俺も俺でハッチャケる時はハッチャケるし、何より「女の子には優しくするものよ」と■■ちゃんも言ってたしな。「特に私には1番優しくしてね?」とも。

 

 妹さんに関しても「少しずつ慣れていけば良い」的な事を言ってフォローしておいた。・・・薄々自覚していた事ではあるが、どうにも妹さんには対応が甘くなってしまう。その理由もハッキリしてはいる。ハウリア達が予想以上に家族思いで、悪意とは無縁の善人達だったのも理由の1つではあるが。1番の原因は、俺の家で引き取った義妹達と重ねてしまっているからだ。

 

 親も身寄りも無かったあの子達は自分の『呪い(ちから)』を持て余した結果、迫害一歩手前な目に合っていた。俺が仕事(バイト)先であの子達に会わないままであれば、いずれ村総出で虐待が始まってもおかしく無かっただろう。それ故に、俺は口八丁手八丁に加えて■■まで呼び出し、村の人々をペテンにかけ『縛り』を結んで彼女達を助けたのだから。ハッタリをかます為に腹に刀をブッ刺したのは流石にキツかったが、血みどろになりながらも必死さに溢れた俺の演技(すがた)を見た村人達は、コロッと騙されていた。

 

 その後双子の姉妹を実家に連れ帰る道中で改めて事情を話し合い、帰宅後に両親並び爺さんに開幕土下座をかまして「俺の仕事(バイト)代と貯金全部突っ込むから、彼女達を家で面倒みてもよろしいでしょうか!」と叫んだのは懐かしい記憶である。最も、二つ返事でOK貰えた時は己の耳と家族の正気を疑ったが。金銭的には余裕あるの知ってるけど、それにしたって器大き過ぎないかな、俺の家族。そう言うところはカッコいいと常々思っているけど。

 

 ・・・あの村に居た人々が悪人だったのかどうか、俺には未だに判断が付かない。邪悪では無かったのだろうが、何の罪も無かったあの子達を寄って集って悪様に言う姿は、俺の目には只管(ひたすら)に醜悪にしか映らなかったからだ。そして、少なくとも義妹(あのこ)達は醜悪でも邪悪でも無く、何を言われようともお互いを想い合うだけの被害者だった。村の人々は自分達を助けた(実際に呪霊から被害を受けてはいたので、その意味では正しい)俺に悪意を向けなかったから、彼等は俺の敵では無いと見る事も出来なくは無いし、義妹(あのこ)達は見ず知らずの俺にすら強い悪意を向けていたのだから、義妹(あのこ)達こそ敵と判ずるべきであったのかも知れない。

 

 それでも結局、俺はあの子達を見捨てる事が出来なかった。或いは、無意識に義妹(あのこ)達を■■ちゃんと重ねたのか。何の罪も無いのに不運な事故で死んでしまった■■ちゃんも、村人達の自己保身の為だけに傷付けられ続けた義妹(あのこ)達も、きっと正しさや正義なんてものでは救えなかったのだから。・・・こう考えてみると、幼少の頃に恵里と恵里の父親を助けた時から、俺の精神性は余り成長していないのかも知れない。何だかんだハウリア達にも大分肩入れしちゃったし。

 

 爺さんの伝手を頼り義妹(あのこ)達を正式に家に迎えた後、俺にしては珍しく暫くの間色々と悩んでいた記憶がある。「本当にあの村の住人助ける価値あったか?」とか、「もうちょい義妹(あのこ)の為になるやり方あったんじゃね?」とか。今思えばまぁまぁ面倒臭い悩み方してたなと思わずにはいられない。最終的には他人のーーー知り合った直後で名前すら聞いてなかったハジメの「僕がそうしたかったから」*2なんて一言でどうでも良くなったのだから。1人で悩んでたのが馬鹿馬鹿しくなったとも言う。ハジメの言う通り、俺もそうしたかったから義妹(あのこ)達 を助けたのだ。そこに悔いは無い事だけは、胸を張って言える。

 

 妹さんも含め懸念事項はまぁまぁあるが、俺1人で気負い過ぎても肝心な時にポカやるだけだろう。ハジメやユエさん達を頼りつつ、上手くやって行こうと思う。

 

 

 

 ■月◎日

 

 ブルックの町を出立し、ライセン大峡谷に突入してから早5日が経過。今のところ、ライセン大迷宮(仮)が見つかる様子は無い。【オルクス大迷宮】の転移陣が隠されていた洞窟も2日前には通り過ぎており、このまま見つけられずに通り過ぎてしまう可能性も高くなってきた。大火山に行くついでなのだからと言われればそれまでなんだが。

 

 谷底には相変わらず多種多様な魔物達が生息しており、どいつもこいつも俺達に気付いた途端に襲い掛かってくる。無論、全て撃滅しているが。異なるのは死因くらいか。銃殺、斬殺、圧殺、焼殺、撲殺・・・レパートリーだけは豊富。

 

 この世界の基準で言えばまぁまぁ上位に位置する強さの筈だが、やはりオルクス攻略組(ハジメとユエさんと俺)では全く相手にならない。このまま俺達が轢き潰しても良いんだが、折角なので練習がてらハウリア姉妹達に積極的に戦ってもらう事に。

 

 最初はおっかなびっくり戦ってたハウリア姉妹だったが、自分達の力が通用するのに気付くと、少しずつ積極的な動きが増え始めた。流石に複数体の相手は覚束ないが、1対1(タイマン)なら危なげなく勝ちを拾えている。経験を積めば、多人数戦も問題無くこなせる様になるだろう。

 

 姉ウサギさんは強化した身体能力でもって、ハジメ謹製の大槌型アーティファクト:ドリュッケンを豪快に振り回す戦闘スタイル。このドリュッケン、待機状態だと「ハンマー部分が不自然に大きいトンカチ」にしか見えないが、魔力を流す事で格納されていた取っ手が伸縮し、大槌の名に相応しい見た目になるのだ。しかも幾つかギミックが隠されているとか。何それかっこいい。

 

 勿論それに見合った重量はあるみたいだが、それを苦にせず姉ウサギさんはバッタバッタと魔物をミンチにしていく。「硬い?デカい?知るか死ね」と言わんばかりの一撃必殺っぷりは、端的に言って凄い男心を擽る戦い方だった。何せ「見た目は華奢なウサミミ美少女が」「容姿にそぐわぬ剛力で」「身の丈以上の大槌を振り回して」「同じく身の丈以上の敵を」「一撃で薙ぎ倒していく」のである。浪漫てんこ盛りを通り越して、属性の過剰搭載と言えるだろう。だがそれが良い。

 

 一方で妹さんは『呪力』による肉体強化を駆使して魔物達をどつき回していた。基本戦術はヒット&アウェイで攻撃を掻い潜りつつ、隙あらば強化された脚力で敵を蹴り抜くカウンター型である。流石に姉ウサギさんよりも肉体の強化幅は小さい様だが、その差を埋めるべく相手の機動力を削いだり、急所を躊躇無くぶち抜いているので見劣りは全くしない。攻め手に容赦が無いのは非常にgoodである。

 

 後、やはりと言うべきか、妹さん自身が持つ『()()()()()()()()()()()()。■■程では無いが、少なくとも俺の『呪力』量は軽く超えているだろう。爺さんは「(おれ)の『呪力』量は中々のもの」と言ってたので、それを優に上回る妹さんの『呪力』量は正に埒外と評するべきだろう。

 

 妹さんの容姿が変化していたのは、不完全とは言え『術式』の発動が原因だった。彼女の身体に魔物の特徴が表れたのは幼少の頃であり、今まで収まる事なくずっと続いていた。それはつまり『術式』の維持に使用して尚、余りある程に規格外の『呪力』を持っていた事の証左でもあった。良くもまあ、脳が焼き切れなかったもんだ。・・・逆説、彼女の『呪力』が簡単に使い切れる量であれば、もっと早くに『術式』の制御や解除が出来ていたと考えると皮肉でしか無いが。

 

 因みに、彼女は姉ウサギさんの様に特注のアーティファクトは作られていない。流石にそんな時間は無かったし、俺達の旅にずっとついてくる訳でも無いので仕方ない。その代わりと言っては何だが、脚甲(プロテクター)をハジメに作成して貰った。軽くて丈夫、動きも阻害しないとシンプルだが有用な武具だった。ゴテゴテしたのも派手で良いが、飾り気が無いのもまた無骨な感じがして良いものである。

 

 妹さんが脚技メインなのは『術式』との兼ね合いがあるからだ。『術式』を発動する場合、対象に素手で直接触れるのが1番効率が良いらしい。触れていなくても出来なくは無いが、少しでも距離を取ると途端に効率が悪くなるのだとか。あくまでも感覚的なモノと言ってはいたが、恐らく間違い無いだろう。・・・依然として、妹さんは『術式』の発動がぎこちない。出力を一定に保ったり下げるのは非常に上手いんだが、逆に一定以上に上げようとすると途端に下手くそになる。普通は逆の筈なんだが・・・。念の為、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、いざと言う時に使えるかは五分五分だろう。

 

 谷底から月(らしき星)を眺めつつ、野営の準備をする俺達。テント張ったり晩飯の準備してると、キャンプでもしてる気分になり少しだけワクワクする。最も、道具は全てハジメ謹製のアーティファクトだったりするので、快適さは段違いだが。

 

 野営テントは〝暖房石〟と〝冷房石〟が取り付けられており、常に快適な温度を保ってくれるし、冷房石を利用した〝冷蔵庫〟や〝冷凍庫〟も完備されている。骨組みには〝気配遮断〟が付加された〝気断石〟を組み込んであるので、敵にも見つかりにくくなっている。調理器具には流し込む魔力量で熱量を調整できるフライパンや鍋、〝風爪〟が付与された切れ味鋭い包丁の他、なんとスチームクリーナーモドキ迄ある。相変わらずの凝り性っぷりだった。便利だから文句なんて無いけど。

 

 後驚いたのは、姉ウサギさんが料理上手だった事だ。俺も1人暮らししていたのである程度は出来るが、比べるのが烏滸がましいレベル。今日の夕食だったクルルー鳥*3のトマト煮も、非常に美味でした。妹さんと一緒にお代わりまで貰ってしまった。

 

 満足度の高い食事を終え、日記も纏めたので後は見張り番を立てつつ寝るだけーーーだったんだが。姉ウサギさんが何かを見つけたらしい。取り敢えずそれだけ確認して寝る事にする。

*1
CuteだったりPassionだったりCoolだったり

*2
4.友人たちの話③-ハジメ視点②-参照

*3
空を飛ぶ事以外は、味や見た目がほぼ鶏なこの世界の鳥




・社の日記について
割と今更な説明になりますが、題名に「異世界より」と入っている話は、社が書いた日記になっています。また、この日記は100%社の主観なので、必ずしも正しい事が書いてあるとは限りません。

・社の義妹について
話の流れとしては、
①村人達に害を為す『呪霊』が存在。②村人達は『呪霊』を認識出来ず、災いの原因が双子の女の子達であると盲目的に断定、迫害開始。③村人の悪意から生まれた『呪力』と、義妹達が元々持っていた『呪力』を吸収して呪霊はより強力に。④それに比例する様に被害が大きくなり、更に迫害が強くなる悪循環が生まれる。とこんな流れ。そこに祖父から修行がてら仕事を任された社が介入、紆余曲折を得て家で保護した感じです。『呪術廻戦』本編で詳しく描写された訳じゃ無いけど、夏油一派の美々子&菜々子と境遇的には同じイメージ。

 唯、社は夏油程精神的に追い詰められてもいなければ、真面目でも無いのでどう頑張っても闇堕ちはしない。と言うか、身内・友人にバリバリ非術師が居るので「悲術師(さる)は皆殺し」なんて発想には絶対至らない。恐らく社が『呪術廻戦』本編のキャラで最も相性が悪いのが呪詛師堕ち後の夏油。(呪霊操術による数のゴリ押しをされるとトータス転移前の社では近付けず、性格的にも呪術師である社に夏油は悪意を向けない為、奇襲を感知出来ない。)

・村人達について
↑で書いた通り、社は「悲術師(さる)は皆殺し」なんてファンキーな考えには至らないので、村人達を誰1人殺害無いし危害を加えたりはしていません。ただし、『義妹達は今回の様な危害を村人達に加えない代わりに、村人達も義妹達と故意・偶然に関わらず2度と関わらない』と言う『縛り』を結んでいます。・・・勘の良い方なら気付くと思いますが、この『縛り』、村人の方にしかリスクがありません。今回の事件で義妹達は村人達には危害を加えていないので、何しても『縛り』に抵触しません。なので、復讐しようと思えば簡単に出来るし、恐らく社も止めません。義妹達が復讐したいと思っているかは別ですが。
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