ありふれない怨霊こそ世界最愛   作:白紙

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呪術廻戦0映画観て来ました。
マジで凄かった。特に映画オリジナルシーン。


50.分断

「こっちは問題無い。〝悪意感知〟にも反応は無いし、暫くは休めるだろ。」

 

「そうか、こっちも特に異常は無しだ。」

 

 壁から放たれる青白い仄かな光に照らされながら、周囲の状況を報告する社とハジメ。彼等は今、安全を確認した部屋で仮眠と休憩を取っていた。

 

 ハジメ達がライセンの迷宮に入ってから今日でちょうど一週間になるが、未だに迷宮の最奥へは到達出来ていない。後一歩のところでスタート地点に戻される事7回、致死性のトラップに襲われる事48回、全く意味のない唯の嫌がらせ169回。悪辣な罠々に最初こそ心の内をミレディ・ライセンへの怒りで満たしていたハジメ達だが、4日を過ぎた辺りから「何かもうどうでもいいやぁ~」と投げやりな心境になっていた。

 

「食料に余裕がある事だけが救いだ。こんなとこで飢えて死ぬとか、マジ勘弁してほしい。」

 

「それな。だが、〝マーキング〟のお陰で迷宮の変形パターンも把握しつつある。もう少しで突破出来るだろうよ。」

 

 壁に寄り掛かりながら、迷宮に対する愚痴を溢す2人。身体スペック的には早々死にはしない為、ここ数日は休息を取りながら少しずつ探索を進めていたのだ。その結果、迷宮の構造変化には一定のパターンがあることが判明。後はそれに合わせて上手く移動するだけであった。

 

「やっと光明が見えてきた訳だ。・・・でぇ?両手に華とは良い御身分ですなぁハジメくぅん?どう言った心境の変化なのか、俺に教えてくれても良いのよ?」

 

「チッ、ウッゼ、マジウッゼ。」

 

 ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべる社に舌打ちしつつ、ハジメは自分の両隣に目を向ける。今現在ハジメの右側にはユエ、左側にはシアがそれぞれ座り込んでおり、スゥースゥーと寝息を立てている。 2人はハジメにもたれ掛かりながら、肩を枕替わりに睡眠をとっていた。

 

「ったく、人の気も知らず気持ちよさそうに寝やがって・・・ここは大迷宮だぞ?」

 

 ハジメの苦笑混じりの囁きが響く。社同様、見張り役だったのでずっと起きていたのだ。ハジメが抱きしめられている腕をそっと解いてユエの髪を撫でると、僅かに頬が綻んだように見えた。それにつられてハジメの目元も僅かに緩む。

 

「ンフフフ、お熱いねぇ。見てるこっちが火傷しちまいそうだ。」

 

「フン、よく言うぜ。お前もお前で揶揄いのネタにして楽しんでるんだろうが。」

 

「そりゃ勿論。友人の恋愛事情に首を突っ込む事でしか得られない栄養素があるからな。」

 

「未知数すぎる(ブツ)を生み出すな。」

 

 寝ているユエ達に配慮して小声ではあるものの、ハジメと社の軽口の叩き合いは止まらない。オルクス大迷宮でユエが加入、その後も何だかんだとハウリア姉妹もパーティー入りして一気に大所帯となった為、男2人のみで話す機会は激減していた。別にそれ自体悪い事では無いのだが、偶には野郎のみで馬鹿話に花を咲かせるのも良いだろう。

 

「それでぇ?姉ウサギさんには何かしてあげないのぉ?」

 

「しねぇよ。つーか、その間延びした喋り方止めろ。地味に腹立つ。」

 

「へーい。でも、姉ウサギさん、頭撫でてほしいとか言ってなかったっけ。ハジメもウサミミ気になってんじゃないの?」

 

「・・・・・・・・・。」

 

 図星を突かれたハジメは、社から目を逸らす様にシアに視線を転じる。想い人とその親友の話題に上がっていたとは思いも知らぬシアは、ハジメの肩に盛大によだれを垂らしながらムニャムニャと口元を動かし、実に緩んだ表情で眠っている。ハジメがそっとシアの髪(とついでにウサミミ)をなでてみると、唯でさえだらしない事になっている表情が更にゆるゆるになってしまった。実に安心しきった表情だ。ハジメ達が見張り役をしている以上、いや、もしかしたらハジメが傍にいるだけで安心なのかもしれない。やわらかな青みがかった白髪やウサミミを撫でながら、何とも複雑な表情をするハジメ。

 

「まったく、俺みたいなヤツの何処がいいんだか・・・こんな所まで付いて来やがって・・・。」

 

「異性観やら恋愛観なんてのは、それこそ人それぞれだろうけど。それでも自分の恋心だけでここまで食らいついてきてんのは、心底尊敬する。」

 

 社にとって、シアの在り方は多少空回り気味ではあるものの、十分に敬意を抱けるものであった。家族の為、そして自分の恋の為と言う理由は、社にとっても身に覚えがありすぎるから。面と向かって言えば確実に調子づくので口には出さないが、シアの真っ直ぐさは社にとって好印象でしかなかった。

 

 ハジメも似たような感想を抱いているのか、悪態は付いているが眼差しは柔らかい。シアが求めるような、ユエに対するものと同じ感情を抱けるとは今のところ思えないが、それでもシアのポジティブな考え方や明るさ、泣き言を言いながらも諦めない根性は、結構気に入っていた。自然、撫でる手付きも優しくなる。約1名、その様子を見てニヤニヤしていたが、ハジメは努めてそちらに目を向けぬようにしていた。視界に入らなきゃ居ないのと同じである。と、その時、シアがムニャムニャと寝言を言い始めた。

 

「むにゃ・・・あぅ・・・ハジメしゃん、大胆ですぅ~、お外でなんてぇ~、・・・皆見てますよぉ~。」

 

「・・・。」

 

「ンブフォッ。」

 

 余りにもあまりなタイミングに思わず吹き出す社。一方で、ハジメは優しい目つきはそのままに瞳の奥から笑みが消えていた。ハジメはそのまま流れる様に優しい手付きで、そっとシアの鼻を摘み口を塞ぐ。穏やかだったシアの表情が徐々に苦しげなものに変わっていくが、全く気にする様子は無い。

 

「ん~、ん?んぅ~!?んんーー!!んーー!!ぷはっ!はぁ、はぁ、な、何するんですか!寝込みを襲うにしても意味が違いますでしょう!」

 

 ぜはぜはと荒い呼吸をしながら目を覚まし猛然と抗議するシアに、ハジメは冷ややかな目を向ける。

 

「で?お前の中で、俺は一体どれほどの変態なんだ?お外で何をしでかしたんだ?ん?」

 

「えっ?・・・はっ、あれは夢!?そんなぁ~、せっかくハジメさんがデレた挙句、その迸るパトスを抑えきれなくなって、羞恥に悶える私を更に言葉責めしながら、遂には公衆の面前であッへぶっ!?」

 

 聞いていられなくなったハジメの強化済みデコピンを額に叩き込まれ、シアは衝撃で大きく仰け反った挙句、背後の壁で後頭部を強打し涙目で蹲った。やはり残念キャラは変わらないらしい。

 

「うーん、コレがカルチャーギャップってやつか。亜人の人達も中々に業が深い。」

 

「・・・イヤ、んな訳無いッスからね?そんな疑い掛けられたら、亜人総出で訴訟も辞さないッスよ。」

 

 シアの逞しい妄想を聞き、亜人、ひいては異世界での文化的差異について考える社に、寝ぼけ眼を擦りながらアルがツッコミを入れる。先程までシアの隣で丸くなって寝ていた筈だが、いつの間にか起きていたらしい。

 

「ん〜?何となく、幸せな気持ちになったのですが、気のせいでしょうか?社さん見張りで起きてましたよね、何か知りません?」

 

「・・・・・・いやぁ、俺にも分からないかなぁ?」

 

「そうですかぁ・・・。」

 

(すまんな、姉ウサギさん。俺もハジメが凄く優しげに頭を撫でてたって、言ってあげたいんだけども。ハジメからの無言の圧が強くて無理だ。)

 

 後頭部をさすりながら不思議がっている辺り、シアも無意識にハジメの撫でを感じてはいたのだろう。だが、それを言えばシアは間違い無く調子に乗る。それはそれで面白そうではあったのだが、ハジメの余計な事言うなオーラが強すぎた為、素直に口をつぐんだ社。後が怖かったとも言う。

 

 ハウリア姉妹も起きたところで、ハジメはユエを優しく揺さぶり起こす。ユエは「・・・んぅ・・・あぅ?」と可愛らしい声を出しながら、ゆっくりと目を開いた。そして、ボーとした瞳で上目遣いにハジメを確認すると目元をほころばせ、一度、ハジメの肩口にすりすりすると、そっと離れて身だしなみを整えた。

 

「うぅ、ユエさんが可愛い・・・これぞ女の子の寝起きですぅ~、それに比べて私は・・・。」

 

 今度は落ち込み始めたシアに、ユエは不思議そうな目を向けるが、〝シアだから〟という理由で放置する。方向性はどうであれ、信用値は高かった。

 

「ほれ、戦力(じょしりょく)で圧倒されていることは最初からわかりきったことだろ?落ち込んでないで探索開始だ。」

 

「・・・優しさって、どこかに落ちてないですかね?」

 

「・・・?ハジメは私にも社にも、ドロップしてくれる。」

 

「ぐすっ、どうせお2人だけですよ。ちくせう。」

 

「道のりは険しいねぇ。妹さんは準備OK?」

 

「大丈夫ッス。」

 

 シアが少々やさぐれた様子で立ち上がる。他の4人は既に準備万端だ。今度はスタート地点に戻されないことを祈って、ハジメ達は迷宮攻略を再開した。

 

 

 

 

 

 再び降りかかる嫌らしいトラップとウザイ文の数々を、菩薩の心境でクリアしていく一行。そして遂に、再びゴーレム騎士達の居る部屋に戻って来た。最初にスタート地点に戻して天元突破な怒りを覚えさせてくれた、忌々しい記憶の残る部屋である。ただし、今度は封印の扉が最初から開いており、その奥は部屋ではなく大きな通路になっていた。

 

「ここか・・・また包囲されても面倒だ。扉は開いてるんだし一気に行くぞ!」

 

「んっ!」/「はいです!」

 

「あいよ。」/「これで最後にしたいッスね!」

 

 ハジメの号令と共に、全員がゴーレム騎士の部屋に一気に踏み込んだ。部屋の中央に差し掛かると、案の定、ガシャンガシャンと音を立ててゴーレム騎士達が両サイドの窪みから飛び出してくる。が、それを読んでいたハジメが、出鼻を抉くべく前方のゴーレム騎士達を銃撃し蹴散らしていく。そうやって稼いだ時間で、ハジメ達は更に加速し包囲される前に祭壇の傍まで到達。ゴーレム騎士達が猛然と追いかけるが、全員が扉をくぐる方が明らかに速い。逃げ切り勝ちだとほくそ笑むハジメ。だが・・・。

 

「イヤ、何かフツーに部屋超えて追いかけて来てんスケド!?」

 

「ハァ!?チッ、迎え撃つーーー天井を走ってるだと!?」

 

「・・・びっくり。」

 

「重力さん仕事してくださぁ~い!」

 

 部屋を跨いだのにも関わらず、ゴーレム騎士達の追跡は止まらない。それどころか、重力を完全に無視する様に壁やら天井やらを走る始末である。度肝を抜かれつつもハジメが、咄嗟に通路に対して〝鉱物系鑑定〟を使うが、材質は既知のものばかり。重力の中和や吸着等、目の前の状況を説明出来る性質を持つ鉱物は一切検知できなかった。

 

「どうなってやがるんだ?」

 

「あの重量で飛ぶのは反則ーーー皆気を付けろ!ゴーレム共が何かしてくるぞ!」

 

 ハジメの疑問を他所に、微弱ながら悪意を感知した社が警告を飛ばす。その声に釣られて背後の騎士を振り返ったハジメ達は、更に度肝抜かれることになった。天井を走っていたゴーレム騎士の1体が、まるで砲弾のように凄まじい勢いで、進行方向ーーーハジメ達に向けて宙を飛び突っ込んで来たのだ。

 

「んなっ!?くそったれ!」

 

「リアルロケット頭突きは洒落になんねぇ!?」

 

 驚愕の声を漏らしながらもハジメはドンナーを連射、社は腰に佩いていた〝 天祓(あまはらい)〟を抜き〝薙鼬(なぎいたち)〟を召喚して迎撃する。放たれた弾丸と斬撃は飛んできたゴーレム騎士をバラバラにするが、砕き切れなかった四肢や持っていた大剣や楯等の武具は地面に落ちることなく、そのままハジメ達に向かって突っ込んでくる。

 

「回避だ!」/「全員回避ィ!」

 

 猛烈な勢いで迫ってきたゴーレム騎士の残骸を、屈んだり跳躍したりとどうにかして躱していく。ハジメ達に命中する事無く通り過ぎたゴーレム騎士の破片は、そのまま勢いを減じること無く壁や天井、床に激突しながら前方へと転がっていった。

 

「おいおい、あれじゃまるで・・・。」

 

「ん・・・〝落ちた〟みたい。」

 

「重力さんが適当な仕事してるのですね、わかります。」

 

「念の為聞くけど、やっぱり異世界(トータス)でもあり得なかったりする?」

 

「無いッスね。」

 

 ユエやシアの言葉が一番しっくりくる表現だった。どうやらゴーレム騎士達は重力を操作できるらしい。何故、前回使わなかったのかは不明だが。あの部屋では使えないのか、今ハジメ達が居るこの通路で無ければ使用出来ないのか、はたまた別の理由が存在するのか・・・。

 

 そんな推測もゴーレム騎士達がこぞってハジメ達に〝落下〟して来た事で中断された。中には大剣を風車のように回転させながら迫ってくる猛者もいるが、ハジメの銃撃やユエの〝破断〟で遠距離攻撃しつつ、接近してきたものを社とシアが打ち払う事で、足を止めずに先へ進んでいく。だが・・・。

 

「むぅ・・・ハジメ。」

 

「ああ、分かってる。まぁ再構築できるなら、そうなるわな。」

 

「は、挟まれちゃいましたね。」

 

 ハジメ達の目の前には、ゴーレム騎士達が隊列を組んで待ち構えていた。ハジメ達へと落ちたゴーレムが、道の先で再構築したのだろう。盾を前面に押し出し腰をどっしりと据えて壁を作っている。ご丁寧に2列目のゴーレム騎士達は盾役の騎士達を後ろから支えていた。

 

「ほーん、ただ並ぶだけじゃ一蹴されるって分かってると。やっぱり誰かが操ってるのは確定か。」

 

「ちっ、面倒な。ーーーまぁ良い、全部ぶっ壊せば同じだ。」

 

「ん?おぉ!遂に浪漫武器が!」

 

 ハジメは舌打ちをするとドンナー・シュラークを太もものホルスターにしまい、〝宝物庫〟からある兵器を取り出した。奈落の底で創り出した兵器群の1つーーーロケット&ミサイルランチャー:オルカン*1である。

 

「全員、耳塞げ!ぶっ放すぞ!」

 

「Sir,yes,sir!」/「ん。」

 

「えぇ~何ですかそれ!?」/「義姉サン!言う通りに!」

 

 オルカンを脇に挟んで固定したハジメが、口元を歪めて笑みを作りながら指示を出す。初めて見るオルカンの異様にシアが目を見張る中、ユエ、社、アル(それ以外の3人)は走りながら人差し指を耳に突っ込んだ。シアのウサミミはピンッと立ったままだが、お構いなしにハジメはオルカンの引き金を引く。

 

 バシュウウ!

 

 特徴的な推進音と共に火花の尾を引きながらロケット弾が発射され、狙い違わず隊列を組んで待ち構えるゴーレム騎士に直撃。次の瞬間、轟音と大爆発が発生した。通路全体を激震させながら、大量に圧縮された燃焼粉が凄絶な衝撃を撒き散らす。ゴーレム騎士達は、直撃を受けた場所を中心に両サイドの壁や天井に激しく叩きつけられ、原型をとどめないほどに破壊されている。再構築にも暫く時間がかかるだろう。その間に、ハジメ達は一気にゴーレム騎士達の残骸を飛び越えて行く。

 

「ん〜〜〜Marvelous!素晴らしい!やはり火力こそ正義!火力は全てを解決する!この調子で全てを焼き尽くす暴力(オーバー〇ウェポン)とか創ろうぜ!」

 

「お前ホントにロマン武器好きだよなぁ。だが気持ちは分かる。」

 

「ウサミミがぁ~、私のウサミミがぁ~!!」

 

「何でよりにもよって1番敏感な義姉サンが耳塞いで無かったの。」

 

 浪漫兵器を見てテンションがブチ上がる社とは対照的に、ウサミミをペタンと折りたたみ両手で押さえながら涙目になって悶えているシア。兎人族は亜人族内で最も聴覚に優れた種族である故、この結果は予定調和ではある。

 

「だから、耳を塞げって言っただろうが。」

 

「ええ?何ですか?聞こえないですよぉ。」

 

「・・・ホント、残念ウサギ・・・。」

 

 ハジメとユエが呆れた表情でシアを見るが、悶えるシアは気がついていなかった。

 

 

 

 

 

 再び落ちて来たゴーレム騎士達に対処しながら、駆け抜けること5分。遂に、通路の終わりが見えた。通路の先は巨大な空間が広がっているようだ。道自体は途切れており、10mほど先に正方形の足場が見える。

 

「全員飛ぶぞ!」

 

 ハジメの掛け声に各々(シアは聴覚回復済み)が頷く。背後からは依然、ゴーレム騎士達が落下してくる。それらを迎撃・躱しながらハジメ達は通路端から勢いよく飛び出した。身体強化されたハジメ達の跳躍力は、オリンピック選手の記録を優に超えている。人類の限界を超えた身体能力で眼下の正方形に飛び移ろうとするハジメ達。だが、思った通りにいかないのがこの大迷宮の特徴。何と、放物線を描いて跳んだハジメ達の目の前で、正方形のブロックがスィーと移動し始めたのだ。

 

「何ぃ!?」

 

 この迷宮に来てから何度目かの叫びを上げるハジメ。目測が狂いこのままでは落下する。チラリと見た下は相当深い。咄嗟にアンカーを撃ち込もうと左手を掲げた直後、社の声が響いた。

 

「〝岐亀(くなどがめ)〟!」

 

 式神を呼び出した社は、直ぐ様着地予定地点に結界を展開。墜落しかけていた一行の足場の確保に成功する。

 

「ナ、ナイスだ、社。」/「・・・GJ。」

 

「社さん、流石ですぅ!」/「マジ頼りになるッスね。」

 

「ハッハッハ、任せなーーーってやってる場合じゃねぇ!後ろからゴーレムが飛んで来てる!」

 

 墜落せずに済んだことに思わず笑みを浮かべ、口々に社を賞賛する面々。だが、そんな和やかな雰囲気は空飛ぶゴーレム騎士達によって遮られた。恐らく重力を制御して落下方向を決めているのだろう。凄まじい勢いで結界の上に居るハジメ達に接近して来る。

 

「皆早く前のブロックに飛び乗れ!」

 

「社サンはどーすんスか!?」

 

「ここで足止め!結界(あしば)なら自由に張れるから、直ぐに追い付ける!来い、〝薙鼬(なぎいたち)〟!」

 

「分かった!俺達も飛び移ったら直ぐに援護する!」

 

 ハジメ達がブロックの方に跳躍するのと同時、社は天祓を抜き放つと〝薙鼬(なぎいたち)〟を呼び出して、宙を浮くゴーレム達に斬撃を飛ばしていく。縦横無尽に宙を動いて迫り来るゴーレム騎士達を、社は1体1体確実に切り落としていく。

 

(さっきよりもゴーレム共の動きが冴えている。この部屋に何か仕掛けがあるのか・・・まさか操作している奴が近くに居るのか?)

 

 元の世界の『呪術師』や妖、『呪霊』の中には、生物非生物問わず何かを使役する力を持つ者も一定数居た。それは例えば『生得術式』によるものであったり、或いは多少の下準備は要るものの誰でも扱える汎用式神だったりと千差万別だった。だが、そう言った力には、ある程度共通した法則(ルール)も存在していた。例えば『一定の距離でしか操作出来ず、距離が遠いほどに精度も落ちる』等だ。無論例外も存在するが、もしこの理屈が目の前のゴーレム達にも当て嵌まるのだとすれば。

 

「こっちは全員無事だ!お前も早く来い、社!」

 

「了解!」

 

 思考を回していた社の背後から、発砲音と共に幾条もの閃光が走りゴーレム騎士達を撃ち落としていく。無事にブロックに飛び移る事が出来たハジメからの援護射撃だ。時間稼ぎが成功した事を知った社は直ぐ様反転、結界の淵からハジメ達の元に向かおうと全力で跳躍した。その、直後。

 

(ーーー!!このタイミングで妨害が入んのかよ!?)

 

 社の〝悪意感知〟がこの迷宮内で初めて、今までの希薄な物とは異なる明確な悪意を感じ取った。余りのタイミングの良さに歯噛みする社だが、跳躍直後の為に直ぐ様回避には移れない。

 

 ギュゥウウン!!!

 

 悪意に晒され身構える社の周囲に、漆黒の球体が複数個現れる。大きさは直径で30cm程、それが数十個ほど逃げ道を塞ぐ様に社を取り囲んでいた。迷宮内部で初めて目にするギミックだが、他の罠同様に当たれば禄でも無い事になるのは目に見えている。

 

 ドパパァン!!

 

 ジャラララ!!

 

 突然の事態にも関わらず、ハジメと社は即座に黒玉の迎撃を行う。ハジメは二丁拳銃による射撃で、社は天祓を蛇腹剣状にして振り回す事で周囲の黒玉を削っていく。だが、それでも撃ち漏らした黒玉の幾つかが社の肉体に命中してしまう。

 

「?何だーーーッ!〝岐亀(くなどがめ)〟!!」

 

 自らの身体に吸い込まれる様に消えていくだけで、痛みや衝撃が来ない事を訝しんだ社。だが、それも一瞬の事。自身が()()()()()()()()のを理解した社は、落下方向へと結界を展開して何とか足場にする事に成功する。だが、その周囲には再び黒玉達が生成されていた。何とか体勢を立て直し天祓を振るう社だが、1つまた1つと僅かな隙間を縫う様に黒玉が命中してしまう。

 

「社!」

 

「先に行けハジメ!変わってるのは重力の向きだけじゃない!この黒いのに当たる度に、俺自身の重さが増している!どの道そっちには渡れない!」

 

 最近のハジメにしては珍しい焦りの声を聞き、先に進む様に促す社。無理矢理突破しての跳躍も不可能では無いが、どこまで自重が増えるか不明な為、部の悪い賭けになるだろう。よしんば上手くハジメ達の下へ跳べたとして、増えた重みで足場のブロックを壊さないとも限らない。かと言って周囲に結界を展開した所で、そのまま全方位を埋め尽くされるだけだ。現状、社が合流するのは不可能に近い。そうこうしてる間に、社の重さに耐え切れなくなった結界にヒビが入る。

 

「さっき悪意を向けられて分かった!黒玉(コイツ)を生み出している本体は直ぐそこだ!俺を助けるつもりがあるなら、そいつを叩いた方が速い!」

 

「ーーー分かった。その代わり、死んだら殺すからな!」

 

「その台詞をまさか現実(リアル)で言われるとは思ってなかったなぁオイ!」

 

 ハジメが逡巡する様に瞑目したのは一瞬だった。何時もの様に憎まれ口を叩いたハジメは、社に背を向けると浮遊していた別のブロックに飛び移った。この部屋に入った直後は気付かなかったが、この空間は非常に広大な作りになっており、内部を様々な形状・大きさのブロックが浮遊し、不規則に移動していた。

 

「ちょ、良いんで「・・・早く行く!社の覚悟を無駄にしない!」〜〜〜はいですぅ!!絶ぇ〜〜〜っ対にぃ、戻って来ますからねぇ社さぁん!!!」

 

「・・・こっちは、任せて。」

 

 アッサリと社を見捨ててしまうーーー実際はそうでは無いと頭では分かっているもののーーー事に思わず声を上げてしまうシア。だが、ユエの本気の叱責に理不尽を無理矢理飲み込むと、大声で叫びながらハジメのいるブロックに飛び移った。それを見届けたユエも、シンプルながら確かな信頼の籠った台詞を残して跳躍をする。

 

(さぁて、鬼が出るか蛇が出るか。落ちてからのお楽しみかね。)

 

 蜘蛛の巣状にヒビ割れていく結界越しに、社は自分が落ちる先を確認する。社の落下先、正しく重力を受けているのであれば真横に当たるはずの壁には、何時の間にか穴が空いていた。1辺2m程の正方形の穴は、社を飲み込まんと迷宮が大口を開けている様にも見える。

 

(若干とは言え俺にだけ悪意が強かった時点で、目をつけられてんのは分かってたが、まさかこんな強硬手段を取るとはなぁ。『呪術』がこっちの世界じゃそれだけ異質なのか、それとも()()()()()()()()()()()。)

 

 既に腹は括っている為、特に慌てず別の事象に思考を割く社。考えるのは、こうまでして自分とそれ以外を分断しようとする(推定)管理者の思惑について。『呪力』や『術式』が珍しいから、と言う理由ならまだ良い。だが、もしそれ以外の理由があるのならば。

 

「ーーーっと、と。ウッワ、ホントに重くなってる感じがする。乙女の敵だ。」

 

「本当になー。うら若き淑女(レディ)の体重に干渉するなんてーーー何で???」

 

 社の思考が一気に現実に引き戻された。代わりに脳内を占めるのは「は?何故に?Why?」等の疑問の声のみだ。それもその筈、社の乗っている割れ掛けの結界にアルが飛び移って来たからだ。そして、その衝撃で遂に結界の限界が訪れた。

 

「ええい!取り敢えず『呪力』全開で身体強化!落下の衝撃に備える事!」

 

「了解ッス!」

 

「返事だけは良いね!もう何時落ちてもーーー。」

 

 バリンッ!

 

 社が言い終わる暇も無く、綺麗に結界が割れた。通常よりも速い速度で落下して行く社達が最後に耳にしたのは、「アルゥゥゥ!?!?」と言うシアの叫びだった。

 

 

 

 

 

「くっそ、ヒデェ目にあった。」

 

「イテテ・・・上下の感覚マヒりそうッス。」

 

 無事?に落下した先の空間で、何とか立ち上がる社とアル。2人が落ちたのは、この1週間1度も辿り着いた覚えの無い未知の部屋だった。

 

「体重が元に戻ったのだけは救いか。妹さんは怪我は無い?」

 

「大丈夫ッス。体重(ソッチ)も元通りッスね。」

 

 アルを気遣いながらも、周囲の警戒は怠らない社。横向きにかけられていた重力は既に正常な形に戻っている。この部屋に入った瞬間に重力と体重が元に戻ったのを考えると、黒玉の操作及び効力はあの部屋限定なのかも知れない。最も、まんまと分断させられた事を考えると欠片も喜べないが。

 

「それにしても、此処何処なんスかね。真っ暗で何も見えないんですケド。」

 

「さてね。取り敢えず〝夜目〟と〝(さと)(ふくろう)〟で周囲をーーー妹さん避けろ!!!」

 

「ッ!?!?!?」

 

 頭が疑問を浮かべるよりも速く、アルの肉体は反射だけで跳び上がった。その直後、大きな何かがコンマ1秒前にアルの居た場所を薙ぎ払った。あのままなら、間違い無く直撃コースだったろう。

 

「イィッ!?何アレ「まだだ!〝岐亀(くなどがめ)〟!」ーーーエ?」

 

 瞬間。別角度から放たれた何かが、アルを守ろうとした〝岐亀(くなどがめ)〟の結界を紙屑の様に破りーーー宙に居たアルの両足を裁断した。

*1
長方形の砲身と12連式回転弾倉付き、連射可能且つ複数種の弾を撃ち出せる代物。ロケット弾は長さ30cm、弾頭には生成魔法で〝纏雷〟を付与した鉱石が設置されており、着弾時弾頭が破壊されることで燃焼粉に着火・爆発する。

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