ありふれない怨霊こそ世界最愛   作:白紙

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51.芽吹き

 ハジメ達が社に背中を押されて、ブロックを飛び移りながら進んで行く事少し。一行の目の前に現れたのは、宙に浮く20m程の超巨大なゴーレム騎士だった。全身甲冑はそのままに右手が赤熱化(ヒートナックル)、左腕にはフレイル型のモーニングスターを装備しており、その威容はこれから始まる戦いこそ本当の試練だと理解させるに相応しいものだった。

 

「やほ~、はじめまして~、皆大好きミレディ・ライセンだよぉ~。」

 

 にも関わらず、放たれた第一声は耳を疑う程にふざけた挨拶だった。張り詰めていた筈の雰囲気が、一気に霧散しかけるのを感じつつも、無言のまま警戒だけは解かないハジメ達。だが、その反応はゴーレム(の中の人)には面白くない物だったのだろう。巨体ゴーレムは不機嫌そうな女性の声を出した。

 

「あのねぇ~、挨拶したんだから何か返そうよ。最低限の礼儀だよ?全く、これだから最近の若者はーーーうわわわわわ!?」

 

 ズガァアアアン!!

 

 だが、巨大ゴーレムの台詞を遮る様に連続した爆音が発生した。問答無用と言わんばかりにハジメがオルカンからロケット弾を発射、火花の尾を引く破壊の嵐がゴーレムに直撃したのだ。空間全体を振動させる程の轟音と、もうもうとたつ爆煙がその威力の凄まじさを物語っている。

 

 だが、この程度で終わるとはハジメ達も思っていない。案の定、煙の中から現れたヒートナックルが横薙ぎに振るわれ煙が吹き散らされると、大して堪えた様子の無いゴーレムが現れた。両腕の前腕部が多少砕かれてはいたものの、ゴーレムは近くを通ったブロックを砕いて、欠けた両腕の材料にして再構成する。

 

「もぉ〜〜〜!!人が喋っている時は邪魔しちゃいけないって、両親に教わら「ユエ、シア。あのゴーレムの核は、心臓と同じ位置だ。あれを破壊するぞ!」んなっ!何で、分かったのぉ!?」

 

 先制攻撃にヒヤリとしつつも、健在で有る事をアピールして会話の主導権(イニシアチブ)を取ろうとする巨大ゴーレム。彼女としては待ちに待った迷宮攻略者(候補)であり、更に言えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。そうでなくとも自分達の力を託す事になる訳だから、相手の性質を見定める為にも会話は必須だった。だが、ハジメに自分の(コア)があっさり見抜かれた驚愕に、その目論見もご破産となる。

 

「ま、待った待った!もうちょっと余裕を持たないかな若人達!?私に聞きたい事、たくさん有るでしょう!?例えば自我を持つゴーレムなんて聞いた事無い!とか、何でこんな迷宮を造った!とか、お前がミレディ・ライセンな訳無いだろ!とか!質問によっては、答えてあげなくも「ウルセェ、黙れ粗大ゴミ。それは全部テメェをスクラップにした後、ゆっくり尋問して聞いてやる。」何でそんなバーバリアン染みてるの!?ほら、隣の女の子達も何か言ってーーー無言で殺気バリバリ!?嘘でしょ〜〜〜!?!?」

 

 全くと言って良い程に会話が成立しない事に、本日何度目か心底から驚愕する巨大ゴーレム。数百年ぶりとなる他者との交流に内心では狂喜乱舞していたのだが、その期待はものの見事に裏切られる事になった。最も、話を聞いて貰えないのはハジメ達3人の思考が、「試練をさっさと終わらせて社とアルを救助したい」方向性で完全に振り切れているからで、その原因も巨大ゴーレムにある為に自業自得ではあった。

 

(う〜〜〜ん。試練の内容が嫌らし過ぎたかなぁ?それとも、仲間の子と分断された事に怒ってるのかなぁ。でもなぁ、森人族の子は兎も角、あの眼鏡の少年はなぁ・・・。思わず〝オシオキ部屋〟に送っちゃったけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて、どう考えてもヤバイかったしなぁ。この子達は気にしていないのか・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のかな。)

 

「さっさとブッ壊れろよ!図体だけの、木偶の棒が!」

 

「残念ながら、そう簡単にはいかないよぉ〜?余りミレディさんを舐めて貰っちゃ困るのさぁ〜。」

 

 対話拒否されて微妙に悲しくなりつつも、気を取り直して武器を構えた巨大ゴーレム。余りにも異様な雰囲気を放っていた少年が気にならないと言えば嘘になる。だが、今は目の前の挑戦者達に集中すべく、彼女は思考を打ち切るとハジメ達に向けてモーニングスターを振り下ろした。

 

 

 

 

 

「さて、どうしたもんかね。」

 

 右手を(うなじ)に当てながら、誰に聞かせるでも無く独り言を呟いた社。ハジメ達と分断された上、未知の部屋に閉じ込められたにしては随分と呑気な物言いである。しかし事実として、社は今自身が置かれている状況に困ってはいたものの、焦りを感じてはいなかった。

 

(部屋の大きさは目測で100m位の正方形。俺と妹さんがこの部屋に入って、少ししてから壁面に灯がついたから、視界自体も良好。今のところ罠が発動する気配も、発動した形跡も無し。悪意も感じ無いから、多分迷宮の管理者からの邪魔は入らないと見て良い・・・まぁ、コイツが居るからそんなもの要らないんだろうが。)

 

 部屋の壁を背もたれにしながら状況を整理した社は、自分達が居るのとは反対側の壁の方を見つめる。その視線の先には、この部屋に唯一つだけあった出口らしき扉と、その前で門番の如く宙を浮く巨大なゴーレム騎士がいた。

 

(いや、デカ過ぎでは?幸利がみたら「デカァァァァァいッ説明不要!!」とか言いそうだが・・・あの質量は流石に洒落にならんなぁ。それに・・・。)

 

 一旦思考を打ち切った社は、徐に拳を地面に叩きつける。恐らく〝感応石〟で出来ているであろう床に、蜘蛛の巣状のヒビが広がると共に衝撃で破片が飛び散った。その中で手頃なサイズの石を握ると、社は『呪力』を込めながら大きく振りかぶって巨大ゴーレム騎士に投げつけた。

 

 筋力値15000、埒外の怪力から繰り出された真っ直ぐ(ストレート)は、凄まじい速度で巨大ゴーレム騎士に向かっていく。もし人間に当たりでもすれば、付与された『呪力』も相まって間違い無く死ぬ。当たりどころが悪ければ、光輝(勇者)ですらも即死は免れないだろう。

 

 ヴオオォォン!!

 

 だが、そんなお手軽極まりない凶器は、見事に撃ち落とされる。巨大ゴーレム騎士が空気を切り裂く音と共に振るった、これまた巨大な剣によって。

 

(範囲内に入ったものは、何であれ自動で迎撃される訳だ。俺達がこの部屋に入った直後に襲われたのも、アレの射程距離内だったからか。)

 

 眉を顰めながらも、巨大ゴーレム騎士の観察を続ける社。ゴーレムの大きさは全長30m程で、オルクス大迷宮にいたヒュドラと並んでも見劣りはしないサイズと言えばその大きさは伝わるだろう。鎧の意匠自体はこの部屋に来る前に見た通常のゴーレム騎士達とさほど変わらないが、両脚は存在せず常に地面から1m程浮いている状態である。周囲に風が巻き上がったり排気音がしないところを見るに、恐らくこちらも重量を操作して浮いているのだろう。そして極め付けは阿修羅像宜しく6本の腕を持ち、それぞれの腕に15mはある大剣を手にしている事だった。先程社達を襲いアルの両足を斬り飛ばしたのも、この内の1本だった。

 

(ラッキーだったのは、あのジオ◯グ擬きがあそこから動かない事。そして決められた範囲内に入らなければ、攻撃もしてこないことか。そうじゃなきゃ、今こうしてのんびり妹さんの治療なんて出来なかった。)

 

 隣で横たわるアルを視界に入れながら、ゴーレムに対しての考察を深めていく社。この部屋に入った直後、両足を断ち切られ意識を失ったアルを抱えた社は、即座にゴーレムとは反対側に向かって退避した。背負ったアルを『呪力反転』で治癒しつつも社はゴーレムから目を離さなかったのだが、当の巨大ゴーレム騎士は追撃はおろか2人の後を追うそぶりすら見せ無かった。

 

 その後数分が経過してもゴーレムに動きが見られ無かった為、アルを床に寝かせた社は彼女の両足の回収も兼ねて、巨大ゴーレム騎士の起動条件や攻撃範囲を調べるべく、幾度かちょっかい(と言う名の威力偵察)を出していた。その結果、【ゴーレムは決まった範囲内でしか動かない】事、そして【その範囲内に侵入した物にのみ攻撃を行う】事が判明したのだ。

 

 あくまでも社の推測でしか無いが、恐らく巨大ゴーレム騎士にはそこまで複雑なAIは搭載されていない。或いは、迷宮に挑む者向け用として(ワザ)と隙を作っているのか。何方(どちら)にせよ、単純(シンプル)な命令を幾つか守る事しか出来ないのだろう。

 

(この部屋にはあのデカブツと扉以外には何も無い。多分真っ向勝負でゴーレムをぶっ壊さなきゃならないんだろう。ゴーレムの攻撃を潜り抜けて、扉を開けるって選択肢もあるが・・・今までの経験からして、そう簡単にはいかんよなぁ。)

 

 今までの部屋に比べて、この部屋の造りはかなりシンプルだ。出口らしき扉と、それを守る守護者(ゴーレム)の構図。だからこそ、搦手染みた解決法は期待出来ないだろう。例えば守護者(ゴーレム)を倒さなければ出口は開かない、程度ならまだ可愛らしい。最悪、ゴーレムを無視して扉を開けようものなら、ズルをしたペナルティ等と言う名目で更なる罠が発動してもおかしくは無い。

 

(ハジメ達の救助を待つって手も無くは無いが、この状況がいつまで続くか分からんし、罠が追加されないとも限らない。つくづく妹さんへの奇襲を防げなかったのが痛かったな。直接操ってたり指示してたならまだしも、自動操縦(オートマチック)なゴーレムに悪意なんてないから、攻撃(悪意)先読み(感知)なんて出来ん。)

 

 打開策の無い現状に大きなため息を吐いた社は、一旦アルの容体を確認する。ハジメ達を待つにしろ、罠を承知で出口の扉を開けるにしろ、正攻法でゴーレムを撃破するにしろ、アルの復帰は必須事項だ。不幸中の幸いか、アルの斬られた両足の断面は酷く滑らかであり、『呪力反転』での治療は容易では無いが不可能でも無かった。

 

「・・・大丈夫そうだな。」

 

 アルの容体が安定してるのを見て、安堵の息を吐く社。(プラス)の『呪力』を掛け続けていた甲斐あって、青白くなっていた顔は血色を取り戻し、浅かった呼吸も安定している。斬られた両足の傷口も、多少血が滲んでいるものの繋がってはいた。何時目を覚ましても不思議では無いだろう。

 

「さて。それじゃあ、今の内にやるだけやりますかね。来い、〝岐亀(くなどがめ)〟、〝狗賓烏(ぐひんからす)〟。」

 

 アルに背を向け立ち上がった社は、2体の式神を召喚する。そしてアルの周囲を結界で覆うと、全身に風を纏いながら再び巨大ゴーレムへ向けて突撃した。

 

 

 

 

 

「妹さんってさ、何でそんなおっかなびっくりなの?」

 

「・・・ハイ?なんの話ッスか?」

 

 それはハジメ達がライセン大迷宮の攻略に乗り出すよりも前の話。生き残るために強くなると決意したハウリア達に、ハジメと社が戦いのイロハを叩き込んでいた時の事だ。彼等の訓練と並行してアルに『呪術』の指導をしていた社が、唐突に問いかけたのがきっかけだった。脈絡の無さすぎる質問を投げられて、思わず『呪力操作』の訓練を中断して聞き返してしまうアル。

 

「ごめん、言い方が悪かった。正確には『()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「・・・・・・・・・どうして、そう思ったんスか。」

 

 だが、アルの疑問は端的かつ非常に痛烈に、図星を突く形で返された。余りにも自然に自分の悩みを見抜かれたアルは、喉が干上がる様な感覚を無視して何とか絞り出す様に声を出した。一方の社はと言うと、そんなアルの様子を気にする事も無く淡々と答えていく。

 

「前にさ、俺達がフェアベルゲンに案内されてた時に、妹さん『術式』暴走させかけてたよね。」

 

「・・・ハイ、その節はご迷惑をお掛けしました。」

 

「いや、別に気にして無いし、責めるつもりもないんだ。唯、俺の(プラス)の『呪力』を吸収する直前、自分が何を言ったかって覚えてる?」

 

「?アタシ、何か言ってましたっけ?」

 

「成る程、やっぱり無意識だったと。」

 

 納得した様に目を瞑った社を見て、アルの焦りは徐々に困惑へと変わっていく。てっきり、『術式』が暴走した当時の事を責められると思っていたからだ。だが、実際に社が気にしていたのは『術式』が暴走した事では無く、暴走直前に自分(アル)が何を言ったのか。しかし当の本人は全く覚えていない為、碌な答えは返せそうに無い。だが、その発言を誰であろう社は確かに耳にしていた。

 

「妹さんね、俺の『呪力』を見つめながら『良いなーーー欲しいな』って呟いてたんだよ。」

 

「ーーーーーーーーー。」

 

 社の言葉に、アルは大きく目を見開いた。絶句と言う表現がまさに当てはまるだろう。余りにも受け入れ難い事実に、血の気が引いたアルの顔が真っ白になる。この反応も無理は無い。「無自覚・無意識で振われる『呪術』は、得てして術師の欲望(ねがい)を叶える形で発動する」と、自らの体質を打ち明けた際にアルは社から学んでいた。要するに『術式』が暴走した原因は、「アルが自分の欲望を抑えきれなかったからだ」と言われた様なものだ。

 

「あー待った待った、何か誤解がある!大丈夫、ちゃんと妹さんは自分の『術式』をコントロール出来てるよ。」

 

「エ・・・イヤ、デモ、ならなんで『術式』が暴走なんて・・・?」

 

「ん〜、ここからは推測になるんだけど、君の『術式』発動が不安定()()()理由は主に2つ。まず1つ目が、君自身が持つ『呪力』を始めとした力に対する認識と知識の不足だ。ぶっちゃけこれはしょうがない。で、問題はもう1つの方。『術式』の影響で君の肉体が魔物の様に変質していた事だ。」

 

 生まれ付き『呪術師』が持つ『術式(さいのう)』ーーー『生得術式』は、術師の肉体に直接刻まれている。種類にもよりけりではあるが、自らの五体を使用して発動する*1『術式』も存在する以上、『生得術式』と術師の肉体は非常に密接な関係にあると断言して良いだろう。

 

 アルの場合『術式』の副作用だったとは言え、肉体そのものが様々な魔物のキメラと言える程に変質してしまっていた。その所為で『生得術式』までもが変質し、発動が覚束無くなったとしても何ら不思議な事では無い。

 

「そもそもの大前提として、『術式』の暴走って簡単に押さえられ無いんだよ。それが出来るならそもそも暴走しないし。で、あの時君は確かに俺の(プラス)の『呪力』を吸い取ったかも知れないけど、それも手に纏っていた分だけで無理矢理搾り取る様なものじゃ無かった。つまり君は、無意識に『術式』を発動させていたにも関わらず、ほぼ完璧に『術式』の制御が出来ていた事になる。」

 

 社がアルの『術式』に当たりを付けたのも、この暴走(未遂)が原因だった。しかし、『術式』の発動は事故に近かった割に、『術式』の制御自体は出来ている様にも見えた為、混乱を避ける為にも口を噤んでいたのだ。正直な所、あの場でアルが『術式』の制御を手放していたら、恐らくハジメ達3人以外は全滅していただろうが。

 

「此処で漸く、最初の話に戻るわけだ。君は既に『呪術』に対する最低限の知識と使い方を学び、その結果として元の素敵な身体を取り戻す事も出来た。にも関わらず『術式』の発動は不安定なまま、それでいて発動後の制御は既に完璧と言って良い。此処まで来たら、後はシンプルな答えしか残らないよ。『術式』を発動するの嫌なんでしょ、妹さん。」

 

「・・・・・・。」

 

 社の推測を聞いて、俯き無言になるアル。「沈黙は金、雄弁は銀」と言うが、アルの沈黙は何より雄弁に社の推測が当たっている事を物語っていた。

 

「ま、別に良いんだけどね。俺も根掘り葉掘り聞くつもりないしねー。」

 

「・・・ハイ?」

 

 何か言うべきか、何を言うべきか、と悩んでいたアルの耳に届いたのは、今までの真面目な雰囲気が消え去る様な気の抜けた声。顔を上げたアルが目を丸くしているのを見て、社は肩をすくめて苦笑すると更に言葉を繋げる。

 

「別に俺が教師役だからって、妹さんが何もかも話さなきゃいけないわけじゃないさ。俺はあくまでも使い方を教えるだけ。『術式(それ)』を使うかどうかは、君自身で決めると良いさ。」

 

「・・・そんなモンッスか。てっきり〝怖いなんて甘えた事言うな!〟とか言われるかと思ってました。」

 

「言わない言わない。君が持つ力も、考えや在り方も、何をしたいのかも。全部全部君が決めるべき物だよ。俺個人としては〝家族の為に〟って理由はとても好ましいものだけどね。」

 

 社達とアル達とでは、余りにも多くのものが違い過ぎる。人種に性別、周囲の環境や文化に価値観、そして文字通り住んでいる世界すらも違うのだ。ここまで異なると共通点を見つける方が難しいだろう。今回は〝『呪力』が扱える〟と言う非常に珍しい共通点があったが、それも本当に偶々なのだ。そこまで違いがある相手に己の価値観を押し付けるのは、余りにも悪手だと言わざるを得ない。少なくとも社はそう考えていた。

 

「唯、そうだね。その上でアドバイスが有るとするなら・・・優先順位を間違えない事かな。」

 

「?と言うと?」

 

「簡単な話さ。例えば妹さんが自分の大切な人の重大な危機に直面したとして。果たして、君自身は『術式(ちから)』を使うべきなのか、或いは使いたくないで終わらせるべきなのか。ーーー出来れば、この選択だけは間違えない様にね。自分の無力で大切な人が死ぬのは、文字通り死ぬ程堪えるよ。」

 

「!」

 

 世間話の様な気軽さで呟かれた言葉にハッとするアル。肝心の社は「ま、そんな状況にならない様にするのが、1番良いんだけどねー」と軽い感じで締め括ってはいたが、先の発言に込められた重みは本物だった。少なくとも、アルはそう感じていた。

 

 

 

 

 

 ギィィィィン!!

 

「・・・う、ぐ・・ぁ・・・?」

 

 遠くから聞こえる耳障りな音と両足から感じる違和感が、深い眠りについていたアルの意識を浮上させる。思わず漏れた声は、己のものとは思えない程に低く掠れていた。

 

「こ・・・こ、は・・・ッ(ヅウ)ッ!?」

 

 目覚めきれないまま現状を把握するべく、不用意に動いたアルに灼ける様な激痛が走る。不意打ちに涙目になりつつも、痛みの大本を探ったアルの目には、血が滲みながらも繋がり掛けた両足が映った。着けていた筈の脚甲(プロテクター)は原型も無い程に砕かれており、アルの身に起きた惨状を静かに語っていた。

 

 ギャリギャリギャリギャリギャリ!!

 

(・・・そ、っか。アタシは、いきなり斬られて、それで・・・。)

 

 痛みが気付けとなり意識を覚醒させたアルは、直ぐに気絶までの経緯を思い出した。よくよく見れば、自身の身体を覆う様に(プラス)の『呪力』が広がっている。社が治療の為に掛けてくれたのだろう、と推察するアル。だが、当の社の姿は周囲には見えない。

 

 ヒュガッ!!!

 

「ッ!?何ーーー宮守、サン?」

 

 と、ここで部屋全体が揺れたと錯覚するほどの轟音が響く。痛む足を庇いながら音の発生源を探すアルが見たのは、目も眩むほどの大きさのゴーレム騎士。そして、それに真っ向から立ち向かう社の姿だった。

 

「っし、『黒閃』決めたしこのままーーーあっぶね!?クソ、武器まで再生するとか面倒過ぎだろ!」

 

「・・・・・・(スゴ)。」

 

 悪態を吐きながらも巨大なゴーレム騎士と見事に渡り合う社。〝岐亀(くなどがめ)〟による結界で即席の足場を作りつつ〝狗賓烏(ぐひんからす)〟で風を纏いながら空を駆ける社に、巨大ゴーレム騎士は攻撃を当てるどころか掠る事さえ出来ていない。一方、社の攻撃は巨大ゴーレムの武器や鎧を順調に壊していくものの、暫くすると砕けた破片が集まり元通りに再生されてしまう。部屋から材料を補充していると言うより、()()()()()()()()()()()()()()()()、そんな印象を受ける。

 

(・・・何か、アタシが居なくても、大丈夫っぽい。)

 

 パッと見では互角、体力差を考えれば消耗の見えないゴーレム側が有利だろう。だが、それにしては社に余裕がありすぎる様にアルの目には見えた。恐らく、本気を出していないか、未だ見せない奥の手があるのだろう。何方(どちら)にせよ、自分の出る幕は無いと無意識に安心したアルは目を瞑った。

 

 バシィィン!!

 

「〜〜〜〜〜ッ!!!ッ(タァ)ァ〜〜!!!」

 

 その直後。アルは間髪入れずに()()()()()()()()()()()()()()

 

(違う!何安心してんだフザケんな!!そうじゃないだろ!!!アタシは何で此処まで来た!?アタシは、アタシはーーー大事な家族(みんな)を守れる程に強くなる為だろうが!!!)

 

 自分に課した(いたみ)を噛み締めながら、アルは己の情け無さに怒りが湧き上がる。この場を社に任せる事自体は、そこまで悪い手では無い。下手に手を出して足手纏いになるくらいなら、最初から割り切って任せるのもアリだし、何よりも社は未だ切り札を切っていない。■■の召喚や〝憑依装殻〟を使う程に追い詰められてはいないし、ハジメ達なら大丈夫だろうと言う信頼もある*2。アルも負傷しているが容体は落ち着いている為、社からすれば急いでゴーレムを倒す必要性はあまり無いのだ。だが、それらは何1つ、アルにとって戦わなくても良い理由にはならない。

 

(アタシが宮守サンに着いてきたのは、万一『術式』が暴走した時に宮守サンならアタシを止められるからーーー都合良く甘えただけだろ!!それなのに、肝心なトコだけ任せて、ジッとしてる?その方が利口?ーーーフザケんなクソが!!!)

 

 社の指摘通り、アルは己の『術式』を使う事に未だ恐怖を感じていた。『呪力』を制御出来る様になった今でも、恐怖(それ)は変わらず心の底で澱みの様に溜まっている。だが、それは得体の知れない力に振り回されるのが嫌だとか、自分の身体が再び醜く変わるかも、等の理由では無い。アルが心底から恐れているのは唯1つ。自分の家族を己の『術式(のろい)』に巻き込む事だけだった。

 

 アルは幼少のみぎりに樹海の一角で兎人族に拾われたのだが、問題はその時の周囲の状況だった。ハウリア達が赤子だったアルを発見した場所は、アルを中心とした半径数mには動植物が一切存在せず、まるで最初から何も無かったかの様な状態だった。この現象自体は「当時幼かったアルが防衛本能により『術式』を発動、その結果周囲の生命力を根刮ぎ喰らい尽くした」で説明がつくので、それは良い。問題だったのは、術式対象とした生命が何だったのかーーー否、『術式』に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 アルの『術式』は、人魔問わず生命を対象にする時が最も本領を発揮出来る。その気になれば生命力を奪い尽くし木乃伊(ミイラ)化ーーー果てには塵と化す事さえ難しくない、対生命特化の凶悪無比な『術式』。幼児だったアルが何故樹海の片隅に捨て置かれていたのかは未だに謎のままだ。だが、詳細を知らなかったとは言え、自分の持つ『術式(ちから)』を何となく把握していたアルが、実の両親や兄弟を殺した可能性に気付かない訳が無かった。・・・それでも尚、アルが自死を選ぶ程に絶望しなかったのは、一重に掛け替えの無い兎人族(かぞく)が居たから。

 

(義姉(ネエ)さんは強くなった。家族に迷惑を掛けない為に、そして叶うかも分からない自分のキモチを届ける為に。義父(トウ)さん達も皆も強くなった。大切な家族を、義姉(ネエ)さんや、アタシを守れる様に。それなのにーーーそれなのに、アタシは?)

 

 アルが社達と巡り会うよりも、ずっとずっと前の話。己の家族に手を掛けた可能性に気付き、何もかもが嫌になり命すら投げ出そうとした時も。未制御の『術式』の影響で魔物(キメラ)の様な姿を見られ、偶然出会した亜人に「化け物!」と叫ばれ逃げられた時も。1人で居た時に運悪く出会した帝国兵達に「家族を差し出せば見逃してやるぜぇ?」と下衆に笑われ、()()()()()()()()()()()()()()()()。アルの姿に何かを察した兎人族はいつも通り何も言わずに、けれでも少しだけ優しく過ごしてくれたのだ。それにどれだけ、アルが救われたか。

 

(自分達が死ぬ可能性を知った上で、アタシが本当に化け物かも知れないのが分かってて、それでもアタシを育ててくれた家族(ハウリア)に甘えたままなんてーーー誰が許しても、アタシ自身が許せる訳が無いジャン!!!)

 

 家族(ハウリア) が注いでくれた無償の愛に、今度こそ報いる為に。全身全霊でアルは『呪力』を練り上げる。自らが持つ悪感情ーーー情け無い自分に向けた怒り、自分に刻まれた『術式(ちから)』に対する苛立ち、心の底にこびり付いていた家族を巻き込むかも知れない恐怖。そしてそれらを上回る程に大きな、家族(ハウリア)に向けた執着と言う名の()い。それら全てを余すとこ無く変換され生まれた『呪力』は、決して少なく無い筈の社の呪力量すら優に超えていた。だが、それでも尚()()()()と。アルは貪欲に力を求めていく。

 

(そんな無能なままなら、ここまで図々しく着いて来た(クセ)して弱いままならーーーそんなアタシはここで死んでしまえ!!)

 

 唯でさえ尋常で無かったアルの生み出す『呪力』の量が、()()()()()()()()()()。勿論、種もあるし理屈も実にシンプル。『この場で何も出来ず、足手纏いのまま終わるなら死ぬ』と言う『縛り』を己に課しただけ。「術師にとって最も簡単(インスタント)に能力を底上げする方法は、命を懸けた『縛り』である」と、アルは社に、社は師である祖父に教わっていた。最も、教えた理由は「こういった使い方は基本的にしてはいけない」と言う、典型的な悪例としてだったが。

 

(・・・コレ、貰っといて良かった。準備まで良いとか、至れり尽くせり過ぎ。ホント、感謝しなきゃ。)

 

 荒れ狂う感情を『呪力』として吐き出す事で若干ながら落ち着きを取り戻したアルは、血の滲む傷口と痛みを無視して無理矢理立ち上がると、首に掛けたネックレスに触れた。銀色のチェーンの先には2重になったリングが通されており、側面には兎の耳を象った彫りが入っている。繋がる様に重なるリングを指で触り、淡い笑みを浮かべるアル。

 

(お願い、シア義姉(ネエ)さん。アタシに、力を貸して。)

 

 祈る様に、願う様に。何もせず嗤うだけの神では無く、自分の信じる大切な家族に向けて。アルはリングを握りしめると『術式』を発動して。

 

 

 

 次の瞬間、部屋を光で満たすほどの莫大な()()が溢れ出した。

*1
手を叩く、原形の手で直接対象に触れる等。言葉に呪力を乗せて発声する『呪言』も該当する。

*2
アルは知らない事だが、〝悟り梟(ハジメの分身)〟が騒がない為、今のところハジメも無事だと確信があるのも理由の1つである。




・〝オシオキ部屋〟
本作オリジナル要素。迷宮を攻略中の存在が管理者視点で邪悪判定(仲間を躊躇無く盾にする、奴隷を使いつぶす等)を受けた場合や、万一神の使徒かそれに準ずる存在が侵入してきた場合に送られる部屋。今回は社の雰囲気があまりにも異質だった為に送られた。部屋内部に居るゴーレムについての解説は次話で。
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