ありふれない怨霊こそ世界最愛 作:白紙
■月◇日
いやぁ、ライセン大迷宮は強敵でしたね。・・・いや、ネタ抜きでクッソ怠かったので、正直もう2度と行きたくはない。攻略に掛かった日数はオルクス大迷宮の半分未満の筈だが、精神的な疲労は比べ物にならないくらいライセン大迷宮の方が酷かった。案の定ミレディの野郎も生きてたし、余程の事が無い限り再び足を踏み入れる事は無いだろう。・・・無いよね?フラグ立って無いよね?
さて、今現在俺達が居るのは、ブルックの町にある〝マサカの宿〟。ライセン大迷宮へ挑む前に泊まったのと同じ場所に宿泊している。迷宮内で逸れたハジメ達とも無事に合流し、誰1人欠ける事無く全員が新たな〝神代魔法〟を手に入れる事が出来たので、結果だけを見れば正に文句無しであると言えよう。
迷宮攻略中、最深部まで後1歩と言うところで俺はハジメ達と分断させられ、別の部屋(ミレディ曰く〝オシオキ部屋〟)に飛ばされてしまった。その後、部屋の守護者たる巨大ゴーレム騎士を、何故か一緒に着いて来た妹さんと共に撃破した俺は部屋を脱出(因みに出口は一見壁にしか見え無い箇所が開いた。ゴーレムが守っていたのはダミーだった。Fu◯k)。その先で待っていたのは、爆心地かと思われる程に荒れ果てた部屋(後で聞いたところ、脱出際にハジメが手榴弾投げたらしい。GJ)と、そこを泣く泣く掃除する小型のゴーレムーーーミレディ・ライセンその人だった。
詳しい原理は分からんが、ミレディは自分の魂をゴーレムに移し替えて生き延びていたらしい。恐らく〝神代魔法〟に魂かそれに準ずる物質に干渉する魔法が有るのだろう。残念ながら今回手に入ったのは〝重力魔法〟であり、俺自身の適性も皆無だったが、もし目当ての〝神代魔法〟が手に入ったのなら、きっと怨霊化した■■ちゃんにも干渉出来る筈。期待し過ぎるのも不味いと頭では分かってるが、希望が見えた今やはり気合いも
と、〝神代魔法〟の継承も無事に完了し、諸々の説明を受け終えた俺はそんな事を考えていたのだが、ふとミレディが
無論、全く身に覚えが無ーーーい訳でも無かったので、取り敢えず詳細を聞いたところ、どうやらミレディから見た俺は
あくまでもミレディの主観である為断言は出来ないが、気配の持ち主は恐らく■■ちゃんだろう。元々、■■ちゃんの気配は
最も、何故こんな仕様になっているのかは分からない。恐らく■■ちゃんが俺に取り憑いた際、俺と■■ちゃんの間で結んだ複数の『縛り』が原因なのだろうが・・・肝心の俺が
記憶が欠落しているのは、■■ちゃんとの他者間の『縛り』の影響だろう。『縛り』の内容は恐らく『結んだ縛りの詳細を記憶出来ない』辺りだろうか。〝詳細を記憶から消した上で、複数の『縛り』を破らない様に守り続ける〟。我が事ながら全く持って正気の沙汰では無いと思うが、しかしここまでしなければならない理由にも心当たりはあった。
以前日記にも記したとは思うが、ウチの家系には時たま何がしかの依代に特化した子が産まれる場合がある。それは俺自身も例外では無く、俺の場合は
と、まぁそんなこんなで大体の説明が終わって、ミレディから「伝えるべき事は君達の仲間にも伝えたし、迷宮の外に送ってあげる」との申し出があった直後。俺は抜き身の〝
俺の突然の凶行に慌てる妹さんとは対照的に、ミレディは落ち着いたまま悪意を向けるでも無く何のつもりか聞いてきた。今にして思えば、ミレディ自身も何を聞かれるか分かっていたのでは無いだろうか。動じないミレディに俺が投げた問いは実に
近い将来、俺達は聖教教会から神敵、或いは異端認定されるだろう。それ自体は避けられないだろうからまだ良い。問題はそれを信じて俺達に向かってくる信者達だ。この際、そいつらが善人だとか悪人だとかは関係無い。俺にとって大事なのは身内・友人であり、理不尽な異世界の事情や他人に忖度する気もさらさら無いので、例え鏖殺したとして心は痛まない。痛まないのだが・・・その結果ミレディがどう出るかは未知数だった。
俺は〝解放者〟達が何を思って七大迷宮を遺したのか、上辺だけの理由でしか知らない。守るべき人々に裏切られて尚、この世界の為に尽くそうとしたであろう彼等彼女等の気持ちを、きっと俺は理解出来ても納得は出来ないだろう。俺が〝解放者〟の立場なら仲間を討たれた時点で、扇動された人々も敵だと断じていただろうしな。そしてそれはミレディ達も同じだろう。「守るべき人々に罪は無い、力を振るう訳にはいかない」と散っていった〝解放者〟達にとって、俺の考えは乱暴且つ幼稚に映る筈だ。無論、どっちが正しい等と比較しようも無いが、だからこそ相容れないだろう。それこそ、今此処でミレディとの殺し合いが始まってもおかしくない程には。
俺の問い掛けから数十秒が経過した後。最初に沈黙を破ったのはミレディだった。返ってきた答えは「君達の思うままにすると良いよ」と言うもの。想定通りと言えば良いか、予想外と言えば良いか。そう答えるんじゃないかと予想しつつも、何故だと思わずにはいられない答え。俺のやり方は〝解放者〟達の努力を台無しにしかねない筈なのに。
困惑しつつも構えを解かない俺を見かねたのか、ミレディは「世界を変えられず後世に託すしか無かった私達が、今を生きる君達の邪魔をする事は出来ない」と答えた。それがミレディの本心から出たのか、若しくは唯の建前で他にそうするだけの理由があるかは分からなかった。だが、その後俺と『宮守社とその仲間達の邪魔をミレディは直接・間接問わずしない』と言う他者間の『縛り』を躊躇無く結んでいたので、少なくとも嘘は無いのだろう。・・・こうして日記を書いている今も、ミレディの考えは理解出来ても納得は出来ないし、真似するつもりも毛頭無い。だが、誰かの為に世界を良くしようとした〝
唯、その直後に「
と、まあ、そんな感じでライセン大迷宮をウォータースライダー宜しく排出された俺と妹さんは、地下水脈を経由してブルックの町から1日程離れた泉の
後々話を聞いてみたところ、大迷宮から排水中に姉ウサギさんが溺れてしまい、ハジメが止む無く人工呼吸したのをキスされたと勘違いしたらしい。此方の世界には救命行為的な概念は無いのか。まぁ、ハジメも本当に嫌なら人工呼吸なんてしないだろうし、姉ウサギさんも迷宮攻略に大分貢献したとの事なので、それ位のご褒美はあっても良いのでは無かろうか。・・・実際の所、心肺停止状態で最も重要なのは心臓マッサージであり、人工呼吸は感染症の観点からすると必ずしも必須では無いのだが。武士の情けでハジメには黙っといてやろう。
積もる話もそこそこ有ったのだが、皆疲労が溜まっていたので明日以降に持ち越しとなった。残りの大迷宮は後5つ。出来れば精神的に疲れない試練だと良いんだが。
■月☆日 ブルックの町 滞在初日
ブルックの町に滞在してから一夜明け、今後の方針を話し合った結果、俺達は諸々の事情から1週間程この町に滞在する事になった。以下にその理由を纏める。
① ハジメの武器・弾薬補充&新たな兵器開発
②〝重力魔法〟の習熟
③シアさん及びアルさんの戦闘訓練
以上、3点である。俺が直接関わるのは③位であるが、それ以外にもやる事はある為、
まず①について。これは単純にハジメが迷宮攻略に使用した弾薬やら手榴弾やらの消耗品を、時間がある内に製作・補充しておこうと言うものだ。ハジメの場合、事前準備に費やした物量と時間がそのまま火力に繋がる為、こういった作業を怠る訳にはいかない。
それに、何時でも作業時間が取れるとも限らない。ミレディから他の大迷宮の所在地を聞いていた俺達は、次の目的地を【グリューエン大砂漠】にある大迷宮【グリューエン大火山】に定めた。試練内容までは推察出来ないものの、砂漠に火山と過酷な環境である事は間違いなく、そんな場所で悠長に精密作業が出来る訳も無い。
よって、比較的時間と場所(場所についてはキャサリンさんの好意でギルドの1室を間借り出来た。)に余裕のある今の内に物資を補充しつつ、新たなアーティファクトなんかも作ってしまえ、となった訳だ。物資が無いなら無いでどうにかするだろうが、有るに越した事も無いので必要経費だろう。ハジメの力には色々助けられてるしな。
次、②について。正直、これについて俺が手を出せる事はほぼ無い。何故なら俺に〝重力魔法〟の適性が皆無だから。〝生成魔法〟を習得した時もお世辞にも適性があるとは言えなかったが、その時の比では無い。ミレディも「君も悲しいくらい適性無いねぇ〜」とかほざいてやがったので間違い無い。その後、「森人族ちゃんは魔力無いのに適性あるねぇ〜?宝の持ち腐れ?」と真顔で煽られた妹さんと共に、ミレディでサッカーしたのは記憶に新しい。サッカーしようぜ!お前ボールな!
話を戻そう。結論から言えば、〝重力魔法〟に適性が有ったのはユエさんと妹さんの2名のみ。よって、習熟もこの2名が中心となり進める事となった。最も、〝重力魔法〟と他の魔法の組み合わせを模索するユエさんと、まず他者から魔力を受け取らなければならない妹さんでは、
因みに、俺とハジメと姉ウサギさんは仲良く適性皆無だったが、姉ウサギさんは体重の増減位は可能、ハジメは〝生成魔法〟で〝重力魔法〟の付与が可能との事。よって得た物が最も少ないのは俺だった。悲しみ。
最も、ミレディは「適正に関係無く、全ての〝神代魔法〟を集めなさい」と言っていたが。真意は謎のままだが悪意は感じなかったので、恐らく善意からの助言だろう。性格の悪い善人とか1番どうしようもない気もするが。ヘタレでビビりだが
尚、ハジメが善人かは現在審議拒否である。今のところ座右の銘が
次、③について。これも内容としては単純で、今後の大迷宮攻略に向けてハウリア姉妹の鍛錬を継続して行おうと言うだけである。と言っても、俺達に着いてくるのは姉ウサギさんだけなので、妹さんはそのついでとなるが。妹さんは『術式』の掌握も無事に出来た事だし、ハウリアを守る分には充分過ぎる程に強くなったので、俺達について来る必要も無いだろう。この町でお別れとなるか、何なら俺達でフェアベルゲンに送り届けても良いしな。
妹さんと言えば、彼女が己に課した『この場で何も出来ず、足手纏いのまま終わるなら死ぬ』『縛り』は無事に解かれていた。俺の助力込みとは言え、あの巨大ゴーレム騎士を倒したのは間違い無く妹さんだ。客観的に見てもそれは事実である為、『縛り』が達成されるのも納得ではある。
正直な所、俺単独では巨大ゴーレム騎士を倒せなかったかと聞かれれば、Noと答えざるを得ないが・・・それでも大分楽が出来たのも事実だ。間違い無く、MVPは妹さんだろう。無論、その辺も込みで無茶な『縛り』も含めて、包み隠さず姉ウサギさんに経緯を伝えた訳だが。妹さんの無茶を聞いた涙目の姉ウサギさんからの説教を、気まずい表情で聞いていた妹さんは中々に印象的だった。尚、俺に助けを求める様な視線を向けていたのは
兎にも角にも、やるべき事が明確なのはありがたい事である。残り6日間、やれるだけの事をやろう。
■月δ日 ブルックの町 滞在3日目
ブルックの町に滞在してから、期日である1週間も半ば折り返し地点に来ているが、基本的には順調に事が進んでいる。基本的には。
いや、本当に準備自体は順調そのものである。ハジメの武器・弾薬補充&新兵器開発も滞り無く進んでいる様だし、ユエさんも〝重力魔法〟を掌握しつつあるし。ハウリア姉妹も精力的に訓練に取り組んでいるので、順風満帆と言って差し支え無い筈なのだ。・・・あくまでも、俺達の内情だけならば。問題はそれ以外、ブルックの街に生息している変態共にあった。
この町に辿り着いてから今日に至るまで、俺達は多種多様な馬鹿共に絡まれっぱなしだった。姉ウサギさん→ハジメ←ユエさんと言う美少女2人を絡めた3角関係に興奮したのか、事あるごとに覗きを敢行するマサカの宿の
まぁ、実害があったかと言われれば微妙だったけど。
俺もハジメみたいに一蹴する事も考えたのだが、敢えて止めておいた。この機会を利用して、トータスに於ける冒険者の平均的な実力を知るべきだと考えたからだ。純然たる事実として、俺達は信じられない程に強くなった。それこそ、トータス基準でも元の世界基準でも、だ。それ自体は良い事なんだが、一般的な強さの基準や目安が無いのもそれはそれで困るのだ。もっと言えば、その辺り擦り合わせなければ容易に死人が出る。と言うか俺達が出しかねない。俺も手加減は得意な方だが、万が一が無いとも限らないしな。
と、言う訳で片っ端から男衆の相手をした。この時に大事なのは「相手と決闘を行う事に頷かない」事である。戦うのは相手が「決闘だ!」と声を上げ突撃してからで、決闘をする事自体には絶対に是非を返さない。こうすれば、億が一負けた際に「俺が返事する前に襲い掛かって来たから、迎撃しただけですが?」としらばっくれる事が出来る。まぁまぁ苦しいが一応筋は通っているし、そもそもいきなり決闘吹っかけてくる相手の方が悪いしな。
勿論きっちり全勝したし、終わった後は相手の身包み剥いだけど。偶に文句言う奴も居たが「自分から決闘吹っかけておいて、負けたら何も無いなんて許されると思うのか?」で通したので、こちらもやはり問題は無い。もし仮に「金は無い」等と誤魔化そうとしても、俺には〝悪意感知〟があるので無駄である。そう言う奴は念入りにボコったので、再犯や模倣犯も出ないだろう。ぶっちゃけ極道やらマフィアのやり口だが、相手が悪いと諦めてもらおう。敵対する『呪術師』相手に『縛り』である事を明確にせず、口約束で済ます方が悪い。
そんなこんなで都合の良い
変態共と言う不安要素こそあれど、暫くぶりの穏やかな時間なのだ。このまま何事も無く英気を養える事を祈ろう。
色々解説
・■■との他者間の『縛り』について
基本的に怨霊の■■は社に従順だし社の周囲を傷付けた事も無いが、だからと言ってそうそう都合の良い話なだけでは無く、代わりに複数の『縛り』を設けていたと言うお話。その中には『縛りの内容を覚えておけない』縛りもあると社は推測している。やってる事は目隠しして地雷原でブレイクダンスしてるのと大差無い。
・ミレディの感じた死の気配
本当に■■のものかは不明。
・呪殺される筈の推定3000を超える無辜の人々を救った、現代に於ける
恐らく1番の原作改変要素。詳しい事はいずれ本編で。唯、この事件こそ社と幸利が友人になったきっかけであり、当作品の幸利が女性恐怖症を患った直接的な原因。事件を解決したのは社ではあるが、社単独だった場合3000人は道連れに呪殺されていた可能性が高かった為、比喩では無く誇張抜きに英雄と呼んで差し支えない。尚、当の幸利はその事を知らないし、知ったところで自慢も吹聴もしないだろう。1番救われて欲しい人は、既に亡くなっていたから。