ありふれない怨霊こそ世界最愛   作:白紙

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これにて2章終了です。


54.異世界より⑧

 ■月φ日 ブルックの町 滞在5日目

 

 変態が 編隊組んで やって来た。(季語無し)

 

 俺はこの世界の人間の事を舐めていた。この町の変態達の業の深さを甘く見ていたのだ。何なんだ「ユエちゃんに踏まれ隊」って。日中の往来で土下座する程の事なのか。度し難いにも程が無いか?「シアちゃん/アルちゃんの奴隷になり隊」は最早奴隷制度に真っ向から喧嘩売ってないか。亜人族は被差別種族じゃなかったのか?マジでどうなってんだ。

 

 ・・・イカン、少し冷静では無かった。結論から言えば、決闘騒ぎそのものは激減した。ハジメに即銃撃されてたのもそうだが、何より俺が身包み剥いでたのが効いたのだろう。相変わらずユエさんやハウリア姉妹に見蕩れていたり、俺やハジメに羨望と嫉妬の視線を向ける奴等は減らないが、あくまでもそれだけだ。下心やら何やらの悪意を持って近付こうとする輩は大分減ったのだ。・・・そう、悪意を持った輩は。代わりに、屈折した好意を隠さない馬鹿共が台頭して来やがった。

 

 世間話をしたクリスタベル氏曰く、ブルックの町には既に4大派閥が出来ており日々(しのぎ)を削っているらしい。前述した「ユエちゃんに踏まれ隊」、「シアちゃんの奴隷になり隊」、「アルちゃんの奴隷になり隊」、残る最後が「お姉(ユエ)さまと姉妹になり隊」である。それぞれ文字通りの願望を抱え、実現を果たした隊員数で優劣を競っているらしい。嘘だろ。

 

 あまりにぶっ飛んだネーミングと思考の集団に、俺達はドン引き以外の反応を許されなかった。何がヤバいって、基本的にこの集団悪意が殆ど無いのだ。ほぼほぼ100%純然たる好意で行動していやがる。よって、〝悪意感知〟による先んじた回避とか出来ない。何てこった。

 

 深く考えると思考が汚染されそうだったので、出会えば即刻排除が俺達の間の基本且つ鉄則になっている。深淵を除く時、深淵もまた俺達を覗いているのだ。深淵と書いてヘンタイと読むのが余りにも救いが無い。

 

 唯、明確な悪意の下、実力行使に出て来る奴がいない訳では無かった。「お姉(ユエ)さまと姉妹になり隊」とか言う奴らは、ユエさんに付き纏う女性のみの集団なのだが、俺やハジメが邪魔者に見えていたらしい。何で俺までと思わなくも無かったが、所謂(いわゆる)過激派、同担拒否とか厄介強火オタクとかそっちの畑の人なんだろう。

 

 まぁ、妄想するのは人の勝手だし、俺も実害がなければ放って置いたんだが。流石に「お姉さまに寄生する害虫が!玉取ったらぁああーー!!」とか叫びながらナイフを片手に突っ込んで来るのは、弁解の余地無くアウトである。無謀にもハジメと俺に特攻して来た少女には、持っていたナイフの使い方を念入りに()()()()()()()()()()()()教えてあげたので、再犯は有り得ないだろうけど。

 

 勿論、最終的には傷1つ残さず帰してあげたし、手引きをした子や未遂の模倣犯にもしっかりと教えてあげたので、近い内に過激派は自主解散するだろう。俺の身内に手を出してタダで済ますはずが無いやはり一罰百戒(みせしめ)一罰百戒(みせしめ)は全てを解決する・・・!

 

 俺の対応は即座に集団内部で伝わったのだろう。その後、俺達に向けられる悪意と過激な行動は激減した。ここまですれば、流石にもう馬鹿な事をしようとする奴も居なくなるだろう。やっと枕を高くして眠れそうである。

 

 

 

追記:翌日「社様に酷い事され隊」が結成されていた。どうして。

 

 

 

 ■月γ日 ブルックの町 滞在6日目

 

 問題が発生した。と言っても、(くだん)の変態集団の事では無い。そっちも大分問題ではあるんだがそちらはまだ良い。いや良くは無いが、この町を出るまでの辛抱なので一先ず置いておこう。今はそれよりも重要な事がある。

 

 問題が発覚したのは今日のお昼過ぎ。きっかけは物資補充と新兵器開発を粗方終わらせたハジメから、「〝天祓(あまはらい)〟と〝流雲(りゅううん)〟にも〝重力魔法〟付与してみるか?」と聞かれた事だった。

 

 何でもハジメ曰く、「武器に付与する形にすれば、適性の無い社でも〝重力魔法〟が擬似的に使える様になる」との事。技能の複数付与が出来るかはハジメの腕前と付与する物の材質に依存する為、こればかりは試さなければ分からないらしい。また『呪具』に本格的に干渉するのも初の試みなので、それも含めて色々試したいのだとか。

 

 非常に魅力的な提案ではあったが、それと同じくらい何が起こるか分からない危険性も秘めていた。調伏の儀式とは言え1度俺を殺そうとしたし、何より意志らしきモノを持ち始めている〝天祓〟と〝流雲〟が、何を考えているか知りようも無かったからだ。依然としてこの2本から俺達に悪意を向ける素振りは感じられないが、慎重を期すに越した事は無いだろう。

 

 最終的には俺とユエさんがその場に立ち会う事を条件として、〝重力魔法〟を付与してもらう事になった。少なくともこの3人なら遅れを取る事も無いだろうと言う判断である。ハウリア姉妹も弱い訳では無いのだが、戦闘になった際シンプルに殺傷能力の高い〝天祓〟と〝流雲〟相手に、自力での防御か回復手段が無いのは結構辛い為今回は遠慮して貰う事にした。姉ウサギさんは少しションボリしていたが、信用してない訳じゃ無いから気にしないでおくれ。

 

 で、問題が起きたのはその後だ。準備を整えたハジメに〝天祓〟と〝流雲〟を手渡そうとした瞬間、俺の手から『呪具』が2つとも落ちたのだ。上手く手渡せなかったのでも、ハジメが掴み損ねたのでも無い。持っていた2つの『呪具』の()()()()()()()()()()からだ。

 

 直後に響いたドゴンッ!と言う落下音に俺とハジメは暫し呆けていたが、ユエさんに声を掛けられ我を取り戻すと直ぐに〝天祓〟と〝流雲〟を調べた。その結果、「〝重力魔法〟は付与されていないが、それに近い機能が備わっている可能性がある」事が判明。具体的には、『()()()()()()()『呪具』本体の重量の増減が可能になっていたのだ。

 

 何故こんなフワッとした説明なのかと言えば、ハジメが『呪具』に込められた技能を読み取れなかったからだ。元々〝生成魔法〟に適性のあったハジメは、物質に付与された技能を読み取る事が出来たのだが、〝天祓〟と〝流雲〟に限っては完璧には読み切れなかったらしい。宿った『呪力』がノイズになっているのか、はたまた他の原因があるのか・・・。依然として詳細は不明である。

 

 で、その後直ぐに関係者会議と相なった訳であるが、此方(こちら)でもやはり(かんば)しい成果は得られ無かった。兎にも角にも情報が足りなさ過ぎるのだ。今現在断定できるのは、『呪具』達に〝『呪力』を消費して重量を増減する〟機能が付いた事のみ。これが意味するところは、即ち『呪術による〝重力魔法〟の限定的な模倣』であるのだろう。果たしてそんな事が可能なのか、俺には全く理解不能だが。

 

 1番最初に思い付いたのは、■■ちゃんが持っているであろう『術式を模倣する術式』との関連性だが・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?異世界の全く異なる法則(ルール)に基づき振るわれる超常の力を、無条件で自らの力に出来る?如何に■■ちゃんとは言え、そんな事が可能なのだろうか。

 

 或いは、何かしらの代償を払ったのならばどうだろう。俺と■■ちゃんの間で結んだ『縛り』が健常化したから、より強力な力を振るえる様になったのか。若しくは、俺との間で結んだ数多の『縛り』により、■■ちゃんの元々所持していた『術式』が変質・強化されたのか。一応、前例はあるのだ。幸利と友人になるキッカケを作ったあの事件。忌々しい記憶だろうにそれでも決して『縛り』による記憶の喪失だけは頑なに拒んだ幸利にとって、因縁深い元凶とも言うべき怨霊の持っていた術式(チカラ)

 

 あれの主犯であった怨霊は、酷く限定的な『縛り』を複数己に課していた代わりに、条件に該当する対象を『時間・距離の概念を無視して、強制的に墜落死させる術式』を保持していた。咄嗟とは言え■■ちゃんの防御(ガード)をぶち抜き、半分しか条件を満たしていない筈の俺の膝から下を文字通りミンチにしたのだから、その威力は押して知るべしだろう。『呪力反転』使えなきゃマジで死んでたわ。

 

 閑話休題(話がズレた)。先も書いたが余りにも判断材料が少な過ぎる。上記の推測以外にも、考えられる理由は複数あるからだ。〝天祓〟と〝流雲〟を生み出したであろう『蠱毒呪法』に、拡張機能(アップグレード)的な機能があった可能性。〝生成魔法〟による『呪力生成』の付与が、何らかのバグやイレギュラーを生み出した可能性。〝天祓〟と〝流雲〟が意志を宿し始めた事にも関連性が無いとは言えない。俺が〝重力魔法〟を得た事とも無関係では無いと思うが、だからと言って劣化だとしても〝重力魔法〟を『呪術』で再現出来るのか。考える程にキリが無い。

 

 更に言えば、原因が〝神代魔法〟側に無いとも言い切れないのだ。ミレディは「全ての〝神代魔法〟を集めなさい」と言っていた。その際彼女から悪意は感じなかったが、その理由を教えてくれた訳でも無かった。〝神代魔法〟を全て集めれば分かる事ではあるが・・・或いは、その辺りに今回の事件の原因がある可能性も否定出来ない。

 

 結局、何も答えが出る事も無く話し合いは終了。2つの『呪具』は経過観察を行い、何かあったら直ぐに俺から報告する事になった。尚、〝重力魔法〟の、と言うより技能全般の付与は無期限中止となった。残当である。必要が無くなったと言うのもあるが、何よりも得体が知れなさ過ぎるからだ。俺だけならまだしも、ハジメにまで被害が及ぶ可能性まで考えれば妥当過ぎる。正直俺も(推定ではあるが)■■ちゃんが関わっていなければ、この2本の使用は躊躇っていたとは思う。現実として■■ちゃんが製作に携わっているのはほぼ確定しているので、嬉々として使っている訳だが。

 

 ハジメ達は微妙に釈然としないだろうが、それでも■■ちゃんが俺の為に作ってくれたとあれば、手放すなんて出来る筈も無いのだ。まして、原型は無いが元となる武器達を造ったのはハジメである。愛する婚約者(フィアンセ)と大切な親友が作り上げてくれた物を俺が手放すと思ったら大間違いである。

 

追記.↑で書いた様な事をハジメに言ったら呆れつつもツンデレてた。今のハジメと幸利を合わせたらどうなるのだろう。男のツンデレ同士、ミラーマッチとか起こったら間違い無く腹を抱えて笑う。

 

 

 

 ■月θ日 ブルックの町 滞在7日目

 

 ブルックの町に滞在する事早1週間、明日の早朝にはこの町を出る予定だ。急ぐ旅でもない為、商隊の護衛依頼を受けながらゆっくりと【グリューエン大砂漠】ーーー厳密にはその途中にある【中立商業都市フューレン】に向かうつもりである。あるんだが・・・何と妹さん、改めアルさんが()()()()()()()()()()()()()

 

 いやぁ、頼もしい味方が増えてめでたし、めでたしーーーで終わる訳は無く。俺はてっきりこの町でお別れするものだと思っていたから、アルさんがいきなり「皆さんの旅について行っても大丈夫ッスか?」と言い始めた時は耳を疑った。ハジメやユエさんも同じ反応だった為、2人も予め聞いていた訳では無いらしい。唯一、姉ウサギさん、もといシアさんには話していたみたいだが。

 

 取り敢えずアルさんの真意を問うたところ、「もっと強くなりたいンスよ」との事。もう充分強くなってないか?「I need more power(もっと力を)」とか言い出すのは闇堕ちフラグじゃなかろうか。原作的に言い出すのは姉、もとい兄だけど。いや、貪欲なのは悪い事じゃないが、何と言うか今思い出しても変な感じだった。嘘は言ってないけど、本当の事も話してない様な雰囲気と言えば良いか。

 

 似た様な事をハジメとユエさんも感じ取っていたのか、2人の視線も訝しげな物だった。取り敢えずこのままでは話が進まないので、1番の問題である「アルさんの帰りを待つハウリアの人達に説明どうすんの?」案件を聞いてみたところ、今度は何故かシアさんが説明を始めた。

 

 何とシアさん曰く、アルさんが兎人族の下に戻らず俺達の旅について来る可能性が高い事を、旅に出る前にハウリアに伝えていたのだとか。用意が良いと言うか何と言うか。

 

 何でも俺達がハルツィナ樹海を出立する前夜に、アルさんが俺達の旅に着いてきたらどうなるかを〝未来視〟で見ていたらしい。で、その結果場所や時間までは分からないものの、とても楽しそうに笑う姿が見えたのだとか。その結果を兎人族に伝えたところ、「アルがついて行く事を選ぶなら」とカムさんは快諾したらしい。俺達に対する信頼度が無駄に高い。

 

 で、昨夜アルさんから相談を受けたシアさんは、〝未来視〟で見た事を話しつつ、真正面から伝えるのが1番良いとアドバイスを送ったらしい。それが今の状況に繋がった訳である。

 

 まぁ、事情は分かったが、それはそれとして俺とハジメ、ユエさんの3人は困惑する様に顔を見合わせていた。割といきなりだったのもあるし、言っては何だがそれだけの理由で着いて来るのも危うい気がしたからだ。俺達はいずれ神や神の使徒、或いはそれに準ずる相手と敵対する事になる。そして、その戦いが死闘になるのは言わずもがなだ。ハジメへの想いに殉ずる覚悟のあるシアさんは兎も角、アルさんが着いてくるのは余りにもリスキーだと思う。

 

 そんな俺達3人の視線に居た堪れなくなってきたアルさんと共に、何故かシアさんがユエさんを連れて「女子だけで作戦会議しますぅ!」と突然席を離れた。何が何だか分からないまま連れて行かれる吸血姫と、その後ろ姿を眺めるしか無い男子2名。混沌(カオス)此処に極まれりだった。

 

 そして10分も経たない内に女子3人が戻ってきたのだが、何と開口一番ユエさんが「・・・アルも、連れて行こう」と言い出したのだ。これには俺もハジメも酷く驚いた。一体どんな説得が行われたのだろうか。気にはなったが、最後まで内容を教えてもらう事は出来なかった。

 

 しかし、相変わらずシアさんは誰を味方に着ければ良いかの判断が上手い。相手を身構えさせない人懐っこさも含めてだが、恐らくは天性のモノだろう。シアさんの天職はネゴシエーターとかで良いんじゃなかろうか。

 

 兎にも角にもこれで3票。パーティー内の過半数が賛成に回った事と、男子2名にも特に反対意見が無かった事から、アルさんは正式にパーティー加入が決定した。で、その後、直ぐにハウリア姉妹で模擬戦をする事に。無論、アルさんがどこまで出来るのか、ハジメとユエさんが見定める為である。アルさんの実力に関しては俺の方で太鼓判を押している為、そこまで不安視はしていないだろうが、それでもしっかり確認しておくのは必要な事だろう。俺としても、ライセン大迷宮を乗り越えたシアさんの実力を目にしておきたくもあった。それ故の姉妹対決である。

 

 で、結果から言えば、勝ったのはアルさんだった。

 

 試合開始直後、始まったのは真っ向からのぶつかり合いだった。片や、魔力による身体強化を駆使してドリュッケンを振り回すシアさん。片や、膨大な『呪力』に物を言わせて身体強化するアルさん。何方(どちら)もこの世界基準で超一流の冒険者を難無くしばき倒せるだけの潜在能力(ポテンシャル)を秘めているだけあり、2人の戦いは十二分に見応えのある物となっていた。

 

 予め話を聞いていたとは言え、アルさんがシアさんに渡り合えているのを見たハジメとユエさんは驚いていた。然もありなん、アルさんの才が本当の意味で目覚めたのは、巨大騎士ゴーレムに『黒閃』をキメたあの時だ。見違える程と言う表現そのままに、アルさんは比べ物にならない位に強くなっていた。

 

 だが、何も強くなったのはアルさんだけでは無い。徐々に徐々にではあるが、形勢がシアさんの方に傾いて来る。ドリュッケンを使っているのもあるだろうが、何よりも身体強化の出力が出鱈目(でたらめ)も良いとこだ。強化率だけで言えば、俺やハジメを優に超えている。いや、それに喰らいつけるアルさんの『呪力』量も頭おかしいレベルなんだけど。

 

 少しずつだが確実に押され気味になってきたアルさん。このまま勝負が着くのかと思われたが、アルさんがシアさんに向けて手を(かざ)した瞬間、何とシアさんの体勢が急に崩れたのだ。余りに急な事にアルさん以外の全員が驚愕に固り、その隙を付いたアルさんがシアさんに接触(タッチ)。日常生活に問題無い程度に魔力を奪い取って試合終了である。

 

 魔力を奪われ目を回すシアさんを介抱した後、俺達はアルさんに合格を伝えた。いや、余程酷い結果で無ければ着いて来るのを拒んだりはしなかったが、しかし想定以上の結果を出したのも事実である。シアさんに油断が無かったと言えば嘘だろうが、しかしアルさんの力を予想しろと言うのも無理がある。なのでユエさん、小さな声で「・・・もっとシゴきが必要」なんて言うのはやめたげて。シアさん(うな)されてたから。

 

 その後数分が経過してシアさんが目を覚ましたのを確認したアルさんは、俺達に旅の許可について礼を言うと、『術式』の詳細について話してくれた。『術師』にとって『術式』は生命線だと教えはしたんだが、それでも話しておくべきだと思ったのだとか。うーん、義理堅い。かく言う俺もこの後、諸々の事情含めてハウリア姉妹に話したんだけど。

 

 アルさんから『術式』の詳細を聞いたハジメとユエさんは、この日1番の驚愕と共に納得もしてくれた。ハジメは「初見殺しなんてレベルじゃ無い、近距離型の天敵じゃねぇか」とコメント。それには心底同意見だった。相手に触れさえすれば格上すら殺し切れるとか、強者殺し(ジャイアントキリング)も良いとこだった。

 

 後で聞いた話だが、シアさんの体勢を崩したのは『術式』を使用してシアさんの周囲の重力を吸収、無重力に近い状態にしたからなのだとか。何でも『術式』で吸収出来るエネルギーはアルさんの認識により吸収出来るか否かが決まるらしく、〝重力魔法〟の取得ーーー正確に言えば〝重力魔法を運用するのに必要な、重力に関する知識〟を得た事により認識が明瞭化、重力すらも吸収出来る様になったとか。

 

 本人はサラッと言っていたが、コレ滅茶苦茶に凄い事である。アルさんの認識1つで吸収の可否が決まるのなら、それこそ吸収出来るエネルギーに際限は無いだろう。『術式』の扱いを極めたなら、凡ゆる魔法を吸収・無効化出来る様になる可能性すらある。

 

 俺の式神の1つである〝反魂蝶(はんこんちょう)〟も似たような事は出来るが、凶悪さで言えばアルさんに軍配が上がるだろう。反魂蝶の能力は『エネルギーの吸収・譲渡が出来る鳳蝶を無数に作り出す』事だが、吸収出来るエネルギーは魔力、『呪力』、生命力の3種類しか無く、作り出した鳳蝶自体が非常に脆い為、戦闘中にはとてもでは無いが使えない。エネルギーの譲渡はアルさんの『術式』との差別化にもなっているが、ほぼほぼアルさんの『術式』は上位互換と言って良いだろう。

 

 そんなこんなで模擬戦が終わり何処と無く気の抜けた雰囲気が漂う中、俺は「これから一緒に旅を続ける上で、話さなければならない事がある」と前置きして、ハウリア姉妹に■■ちゃんの事を隠さずに打ち明けた。折を見てシアさんには話そうと思っちゃいたんだが、アルさんも旅に着いて来る以上、このタイミングがベストだと思ったからだ。

 

 俺が話した内容は、以前オスカーの隠れ家でユエさんに話したのとそう変わらない。俺に■■ちゃんと言う婚約者(フィアンセ)が居る事、事故死した■■ちゃんが怨霊となり俺に取り憑いている事、如何にかして■■ちゃんの『呪い』を解けないか色々試している事等etc。包み隠さず知る限りの全てを伝えた。同時に、「もし気になる様なら、俺とは程々に距離を取る事をお勧めする」とも。

 

 そんな感じで俺が抱える諸々の事情をハウリア姉妹には伝えたのだが、肝心の反応は予想外も良いとこだった。特にシアさんはなんかもうこっちが引くくらい普通に号泣していた。

 

 ユエさんに宥められながら涙と鼻水、もとい乙女の尊厳を垂れ流すシアさんは「社さんも婚約者(フィアンセ)さんも辛すぎですよぅ〜、私で手伝える事があれば何でも言って下さいぃ〜」と泣きながら、それでも迷わずに言ってくれた。そんな姉とは対照的にアルさんは特に感情を表に出す素振りは見せなかったが、しかし「・・・アタシも、義姉(ネエ)サンと一緒のつもりッスから」と、静かに、しかし確かに言ってくれた。

 

 俺の身の上話をする中で、2人には■■ちゃんの姿を見てもらっている。周囲への影響を考慮して下ろした『(とばり)』の中で、正しく怪物と言ってよい姿と雰囲気を放つ■■ちゃんを、2人は確かにその目で確認したのだ。にも関わらず、ハウリア姉妹からはとうとう俺や■■ちゃんに対する悪意を感知出来なかった。・・・その時の俺の心情をどう表せば良いのか、日記を書いてる今でも分からない。分からないが、少なくともこの繋がりを手放す事だけはしてはいけないと思う。異世界に来て尚、人の縁に恵まれたのは間違い無く幸福な事だろうから。

 

 若干雰囲気が湿っぽくなりつつあったが、「■■ちゃんが死んでもまだ一緒に居られるのは俺にとって幸福である」「だからあんまり気にしないで」的な事を言ってフォローしつつ、本日はお開きとなった。明日の朝には此処を出るし、ハウリア姉妹も疲れを癒す時間が必要だろうしな。

 

 明日からはまた旅を再開する。今度はどんなーーー

 

 

 

 

 

 コンコンコンッ

 

「・・・ん?どうぞー。」

 

 草木も眠る丑三つ時ーーーと言う程では無いが、良い感じに夜も更けてきた頃。日記を書いていた社の部屋のドアをノックする音が響いた。不思議に思いつつも社が入室の許可を出すと、キィィと控えめに軋む音を鳴らしながらドアが開く。

 

「おや、予想外のお客さん。まさかアルさんだとは。」

 

「ドーモッス。今、大丈夫ッスか?」

 

「別に良いよ。日記書いてただけだし。」

 

 深夜の来訪者はアルだった。この時間帯に己の部屋を訪れる人物と言えば、ハジメか精々が宿屋の人間辺りだと考えていた為、社の予想は外れる事となった。

 

「アルさん1人か。お姉さんどうしたの?」

 

「アー、義姉(ネエ)サンは、その・・・。」

 

「?」

 

 アルを部屋に招き入れた社は備え付けの椅子を差し出すと、アルが態々1人で来た事について話を振る。だが、アルは言いづらそうに言葉を濁すと、目を泳がせながら何とも言えない微妙な表情になった。何処と無く、頑張って言葉を選んでいる雰囲気がある。

 

「・・・ヒラヒラの、ネグリジェ来て。南雲サンのトコに・・・。」

 

「OK、把握。何でそんなストロングスタイルなんだ、シアさん。」

 

 十数秒後、アルの口から返って来た言葉を聞き社は全ての事情を察した。義妹(アル)の視点で端的に語るのならば、「義姉(シア)想い人(ハジメ)の部屋に下着姿同然で向かった」である。しかも「既に恋人(ユエ)がいる部屋」にだ。単なる事実を羅列しただけにも関わらず、字面が余りにも酷い。控えめに言って頭が痛くなるだろうし、言い淀む気持ちも良く分かる。何が悲しくて身内の男女のアレコレを説明しなければならないのか。勿論、シアの目的はハジメだけでは無いだろうが、だとしてもアルの苦悩が偲ばれた。

 

「まぁ、その辺はハジメが上手くやるだろ。それで、アルさんの用件は?」

 

「大分お待たせしたッスケド、名前決まったンで。報告に来ました。」

 

「名前?・・・ああ、『術式』のか。」

 

 色々と愉快複雑な恋模様を展開している親友(ハジメ)に全てを丸投げした社は、アルの用件を聞いて納得の声を上げた。アルの『術式』ーーー『手で触れた対象から、術師(アル)が認識したエネルギーを強奪する』能力を持つ、強力無比と言っても過言では無い『術式(ちから)』。命名には中々苦戦していたと社は記憶していたが、漸く名前が決まったのだろう。

 

「態々悪いね。それで、何て名付けたの?」

 

「アタシの『術式』名はーーー腹飲(ふくいん)呪法に決めました。」

 

「・・・・・・それは、また、何とも。」

 

 あっけらかんと告げられた名前に、社の顔は思わず引き攣ってしまう。ふくいん、フクイン、腹飲ーーー()()。偶然なのか、はたまた二重の意味(ダブルミーニング)なのか。己の『術式(ちから)』を酷く疎んでいた筈のアルがこんな皮肉の効いた名付けをするとは、社は欠片も想像していなかった。

 

「イヤ、別に皮肉とか嫌みだけじゃ無いッスからね!?その辺狙って名付けた部分はありますケド!」

 

「あ、やっぱ(わざ)とか。・・・何でまた、って理由は聞いても?」

 

「勿論ッス。その為に来たんスから。」

 

 キッパリと言い切るアルの姿には、気負いや後ろ暗い感情は見当たらなかった。嘘や建前では無く、本当に本心から自分の術式(ちから)と向き合う事が出来たのだろう。その様子を見た社は一先ず安堵すると、話の続きを促した。

 

「もう知ってるとは思うんスケド、アタシはアタシの姿も『術式(ちから)』も生まれも種族も全部嫌いでした。何でアタシがこんな目に、なんて思うのはしょっちゅうで、ぶっちゃけ何もかんも投げ出して居なくなりたいって思った事もありました。でも、結局、アタシには出来なかった。義姉(ネエ)サンと義父(トウ)サンと、ハウリアの皆がいたから。」

 

 アルの口から吐露されたのは、兎人族(ハウリア)にも話した事の無いアルの本心だった。大切な家族だからこそ、話す事の出来なかった本音。それを聞けば、優しい兎人族(ハウリア)の皆は悲しんでしまうと分かりきっていたから。それを今、社に話したのはアルなりに自分自身と折り合いが付いたからだろうか。

 

「アタシがどれだけ自分を嫌いでも、ハウリアの皆はアタシの事を好きでいてくれた。血の繋がらないどころか、兎人族ですら無いアタシが生まれた事を、祝福してくれた。だから、今度はアタシの番なんスよ。アタシの力が皆の役に立つ様にーーー兎人族(ハウリア)にとっての福音になる様に。そんな願掛けを込めて、名付けました。・・・どうッスかね?」

 

 自信無さげな言い方とは裏腹にアルの表情に迷いは無い。ライセン大迷宮で命を懸けた『縛り』を結んだ時から、既にアルは迷う事を止めたのだろう。他でも無い、何よりも大切な兎人族(かぞく)の為に。降り掛かる理不尽を、何もかも打ち払う為に強くなろうと。その想いは、社にとっても馴染み深いモノだった。

 

「良いんじゃないかな。とても素敵な理由だと思うよ。」

 

「アハハ、そう言って貰えるなら、光栄ッスね。・・・じゃあ、夜も遅いんで、そろそろ戻ります。義姉(ネエ)サンも多分、南雲サンとこから追い出されてると思うし。」

 

「はいよ、お休みなさい。」

 

 社の褒め言葉を聞いたアルは少しだけ早口になりながら、椅子から立ち上がるとそそくさと部屋を後にする。照れ隠しなのは分かりきっていたし、若干耳も赤くなってはいたが社は気付かないフリをした。流石にそれを指摘する程、社は野暮でも無かった。これがハジメや幸利相手の場合は間違い無く煽り倒していただろうが。

 

「ーーー・・・ああ、それと、言い忘れてました。」

 

 ドアノブに手を掛け部屋から出る寸前で、思い出したかの様にアルが立ち止まる。「他にも何かあった?」と首を傾げる社にアルは「大した事じゃ無いッスケド」と前置きして振り返り。

 

「これから、宜しくお願いしますね。ーーー()サン。」

 

 はにかむ様に、薄く笑うのだった。 




色々解説
・決闘騒ぎとナイフ少女の対応の違い
決定的なのは感知出来る悪意の差。決闘騒ぎを起こしていた人達はやり口は強引だったものの、ハジメや社の命まで奪おうとまでは考えておらず、(社に巻き上げられたとは言え)対価も払っていた。ナイフ少女の方は割とマジの悪意込みであり、特に払うべき対価も持ち合わせていなかった為、対応の温度差がとんでもない事になった。自業自得とも言う。後、刃を向けたのが社だけじゃ無かったのも不味かった。

()サン呼び
・・・親愛ですよ?
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