ありふれない怨霊こそ世界最愛 作:白紙
「初めまして。冒険者ギルド、フューレン支部支部長イルワ・チャングだ。ハジメ君、ユエ君、シア君に、社君、アル君・・・でいいかな?」
簡潔な自己紹介と共にハジメ達の名を確認しているのは、金髪をオールバックにした鋭い目付きの30代後半位の男性ーーーこのギルドの長であるイルワだ。今現在ハジメ達はとある事情からギルド内にある応接室に案内されていた。
「ああ、構わない。名前は手紙に?」
代表してイルワと握手を交わしながら、情報源について聞き出すハジメ。
本来であればステータスプレートが身元証明の代わりになるのだが、ユエとハウリア姉妹はステータスプレートを持っていなかった。作ろうにもプレート作製時には必ず隠蔽前の技能を見られてしまうからだ。固有魔法は勿論の事、今なら神代魔法すら表示されるだろう。大騒ぎになるのは目に見えていた。
さて、どうするか?と頭を悩ませたハジメ達を助けたのは、ブルック支部のキャサリンから受け取った手紙だった。ブルックの町を出る間際に「ギルド関連で揉めたときにお偉いさんに見せれば役立つかもしれない」と言われ受け取ったのだが、ダメ元で確認してもらったところ職員の表情が一変、そのまま応接室まで通されたのだ。
「その通りだ。先生からの手紙に書いてあったよ。随分と目をかけられている・・・と言うより注目されている様だね。将来有望、ただしトラブル体質なので、出来れば目をかけてやって欲しいという旨の内容だったよ。」
「トラブル体質・・・ね。確かにブルックじゃあトラブル続きだったな。まぁ、それはいい。肝心の身分証明の方はどうなんだ?それで問題無いのか?」
「ああ、先生が問題のある人物ではないと書いているからね。あの人の人を見る目は確かだ。わざわざ手紙を持たせる程だし、この手紙を以て君達の身分証明とさせてもらうよ。」
キャサリンからの手紙は本当にギルドのお偉いさん相手に役立ったらしい。随分と信用がある上に、キャサリンを〝先生〟と呼んでいる事からかなり濃い付き合いがあるように思える。ハジメの隣に座っているシアはキャサリンに特に懐いていたことから、その辺りの話が気になるようでおずおずとイルワに訪ねた。
「あの~、キャサリンさんって何者なのでしょう?」
「ん?本人から聞いてないのかい?彼女は王都のギルド本部でギルドマスターの秘書長をしていたんだよ。その後、ギルド運営に関する教育係になってね。今、各町に派遣されている支部長の5〜6割は先生の教え子なんだ。私もその一人で、彼女には頭が上がらなくてね。」
イルワ曰く、キャサリンはその美しさと人柄の良さから、当時は男衆のマドンナ的存在、あるいは憧れのお姉さんのような存在だったらしい。余りの人気っぷりに、結婚発表時はギルドどころか王都が荒れたなんて逸話まで残っているのだとか。その後は「子供を育てるにも田舎の方が良い」とブルックの町のギルド支部に転勤したのだとか。
「はぁ~、そんなにすごい人だったんですね~。」
「そりゃ、荒くれ者の冒険者達を纏められる訳ッスね。」
「・・・キャサリンすごい。」
「人に歴史有り、ってやつか。」
「只者じゃないとは思っていたが・・・思いっきり中枢の人間だったとはな。ていうか、そんなにモテたのに・・・今は・・・いや、止めておこう。」
聞かされたキャサリンの正体に感心するハジメ達。想像していたよりずっと大物だったらしい。最も、ハジメは若干時間の残酷さに遠い目をしていたが。
「まぁ、それはそれとして、問題無いならもう行っていいよな?」
元々は身分証明のためだけに来たので、用が終わった以上長居は無用だとハジメがイルワに確認する。しかし、イルワは瞳の奥を光らせると「少し待ってくれるかい?」とハジメ達を留まらせる。何となく嫌な予感がするハジメと社に対し、イルワは隣に立っていたドット室長*1を促して1枚の依頼書を差し出した。
「実は、君達の腕を見込んで、1つ依頼を受けて欲しいと思っている。」
「断る。」
イルワが依頼を提案した瞬間、ハジメは被せ気味に断りを入れ席を立とうとする。他の面々も続こうとするが・・・。
「ふむ、取り敢えず話を聞いて貰えないかな?聞いてくれるなら、今回の件は不問とするのだが・・・。」
「「・・・・・・。」」
続くイルワの言葉に思わず足を止めるハジメと社。言外に「話を聞かなければ今回の件について色々面倒な手続きをするぞ?」と言いたいのだろう。リシーを始めとした周囲の人間による証言で、ハジメ達がプーム達にした事で罪に問われる事は無くなった。が、いささか過剰防衛の嫌いもあった為、正規の手続き通り、当事者双方の言い分を聞いてギルドが公正な判断をするという手順を踏むなら相応の時間が取られるだろう。結果、ハジメ達に非が無いと言う事にはなるだろうが、逆に言えば結果の分かりきった手続きをバカみたいに時間をかけて行わなければならないと言う事でもある。そしてこの手続きから逃げると、めでたくブラックリストに乗る訳だ。今後、町でギルドを利用するのが途轍もなく面倒な事になるため、出来れば避けたい事態である。
(どうするよハジメ?取り敢えず話だけでも聞くか?)
(・・・〝悪意感知〟は反応しているか?)
(いや、無反応だ。この件で俺達を嵌めようとは考えて無いんだろうな。)
イルワを睨みながら小声でやり取りするハジメと社。2人の想定する最悪は、イルワが依頼を建前としてプームへの仕打ちに対する報復を行う事だった。片や貴族のボンボン、片や大都市のギルド支部長と、権力者同士の横の繋がりがあっても不思議では無いからだ。最もイルワやドットからは悪意を感じられず、今回の件も〝依頼を受ければ〟ではなく〝話を聞けば〟と言っている事から、その心配も杞憂だった様だ。話を聞く位なら、と思い直し再び座席に座るハジメ達。
「聞いてくれるようだね。ありがとう。」
「・・・流石、大都市のギルド支部長。いい性格してるよ。」
「君達も大概だと思うけどね。さて、今回の依頼内容だが、そこに書いてある通り行方不明者の捜索だ。北の山脈地帯の調査依頼を受けた冒険者一行が予定を過ぎても戻って来なかった為、冒険者の1人の実家が捜索願を出した、と言うものだ。」
事の発端は、北の山脈地帯で魔物の群れを見たという目撃例が何件か寄せられた事だった。北の山脈地帯は1つ山を超えると殆ど未開の地域となっており、大迷宮の魔物程ではないがそれなりに強力な魔物が出没する。よって、ギルドはそれに見合う高ランクの冒険者達に調査を依頼したのだが・・・実はこの時、本来のパーティーメンバーに加えて、ある人物が少々強引に同行を申し込んでいた。
この飛び入りが、クデタ伯爵家の三男ウィル・クデタという人物だった。クデタ伯爵は家出同然に「冒険者になる!」と飛び出していった息子の動向を密かに追っていたが、今回の調査依頼に出た後、息子に付けていた連絡員諸共に消息が不明となり慌てて捜索願を出したそうだ。
「伯爵は家の力で独自の捜索隊も出している様だけど、手数は多い方がいいとギルドにも捜索願を出した。それがつい昨日の事だ。最初に調査依頼を引き受けたパーティーはかなりの手練でね、彼等に対処出来ない何かがあったとすれば並みの冒険者じゃあ二次災害だ。相応以上の実力者に引き受けてもらわないといけない。だが、生憎とこの依頼を任せられる冒険者は出払っていてね。そこへ君達がタイミングよく来たものだから、こうして依頼しているという訳だ。」
「前提として俺達にその相応以上の実力ってやつがないとダメだろう?生憎俺も社も〝青〟ランクだぞ?」
「さっき〝黒〟のレガニドを瞬殺したばかりだろう?それに・・・ライセン大峡谷を余裕で探索出来る者を相応以上と言わずして何と言うのかな?」
「!何故知って・・・まさか手紙に?」
「だとしても、キャサリンさんにはそこまで話していない筈だが。」
イルワの断定にも近い口調に少なからず驚くハジメと社。ハジメ達がライセン大峡谷を探索していた事は誰にも話しておらず、イルワがそれを知っているのならば手紙に書かれていたから以外には有り得ない。だが、ならば何故キャサリンがそれを知っていたのかという疑問が残る。頭を捻るハジメと社だったが、その答えは直ぐに見つかった。
「あー・・・スイマセン。アタシらが話しちゃいました。」
「アルさんが?」
「そうッス。南雲サンと社サンが居ない時に、キャサリンさんに色々聞かれちゃいまして。アタシが気付いた時には義姉サンが結構喋っちゃってたんで、ヘタに誤魔化すよりは、ってある程度話しちゃいました。」
気まずそうな表情で社に答えるアル。確認がてらシアとユエの方を見ると、2人もバツの悪そうな顔で目を逸らしていた為、漏らしたのは3人で間違い無いらしい。
「一応、言い訳を聞こうか、ユエにシア?」
「え~と、つい話が弾みまして・・・てへ?」
「・・・キャサリンが聞き上手だったから、仕方ない。」
「2人共お仕置き確定な。」
(・・・どこまで話したの、アルさん。まさかとは思うけど、迷宮や神代魔法の事まで話した訳じゃないよね?)
(そこは義姉サンにも予め念押ししてたんで大丈夫ッス。あくまでもライセン大渓谷で探索してただけ、としか伝えてないんで。キャサリンさんもどっちかと言うと、アタシらが「奴隷とは言え理不尽に扱われていないか」が気になってたっぽくて、そこまで深くツッコまれなかったッス。)
ハジメのお仕置き宣言に冷や汗を掻くユエとシアを尻目に、アルから詳細を聞き出す社。アルの口が比較的とは言え硬かったのは、社から『術式の開示』を始めとした『縛り』について教わっていたからだった。自らが知る情報を敢えて開示する事で呪いの出力を上げる『縛り』は、『呪術師』にとっては手頃且つ身近な手法であり、それを学んでいたアルは情報の扱いに慎重になっていたのだ。
「アルさんの話を聞く限り、取り敢えずはセーフかな。今回は見逃しても良いんじゃない?」
「お前は相変わらず甘いな、社。まぁ、良い。今度からは気を付けてくれよ。」
「・・・ん。」/「了解ッス。」
「了解です!・・・ハジメさんも社さんみたく私に甘々でも良いんですよ?」
「前言撤回、反省の色が見えねぇ。シアはお仕置き2倍だ。」
「イヤーーー!?」
「何で態々見えてる地雷踏みに行くのシアさん?」
途端に騒がしくなるハジメ達を見て、目を丸くするドットと苦笑いするイルワ。先程プームとレガニドを躊躇無く再起不能にしたとは思えない程に、今のハジメ達は年相応の少年少女にしか見えない。そんな一同を興味深く観察しながら、イルワは話を続ける。
「生存は絶望的だが、可能性はゼロではない。伯爵は個人的にも友人でね、出来る限り早く捜索したいと考えている。どうかな。今は君達しかいないんだ。引き受けてはもらえないだろうか?」
(あー、繋がりがあったのは豚の方じゃなくてコッチか。)
懇願するようなイルワの態度を見るに、クデタ伯爵とは良い友人同士であるのだろう。もしかすると行方不明となったウィルとも面識があるのかもしれない。個人的にも安否を憂いているのだろう。
「そう言われてもな、俺達も旅の目的地がある。ここは通り道だったから寄ってみただけなんだ。北の山脈地帯になんて行ってられない。断らせてもらう。」
だが、そんな事情はハジメ達には関係無い。名前しか知らない貴族の三男の生死など心底どうでもいいのだ。それ故に躊躇無く断りを入れるハジメだが、それを見越していたのかハジメ達が席を立つより早くイルワが報酬の提案をする。
「報酬は弾ませてもらうよ?依頼書の金額はもちろんだが、私からも色をつけよう。ギルドランクの昇格もする。君達の実力なら一気に〝黒〟にしてもいい。」
「いや、金は最低限でいいし、ランクもどうでもいいから・・・。」
「なら、今後、ギルド関連で揉め事が起きたときは私が直接、君達の後ろ盾になるというのはどうかな?フューレンのギルド支部長の後ろ盾だ、ギルド内でも相当の影響力はあると自負しているよ?君達は揉め事とは仲が良さそうだからね。悪くない報酬ではないかな?」
「大盤振る舞いだな。友人の息子相手にしては入れ込み過ぎじゃないか?」
ハジメの皮肉げな言葉にイルワが初めて表情を崩す。後悔を多分に含んだ表情だ。
「彼に・・・ウィルにあの依頼を薦めたのは私なんだ。調査依頼を引き受けたパーティーにも私が話を通した。異変の調査といっても、確かな実力のあるパーティーが一緒なら問題無いと思った。実害もまだ出ていなかったしね。ウィルは貴族は肌に合わない、と昔から冒険者に憧れていてね。だが、その資質はなかった。だから、強力な冒険者の傍でそこそこ危険な場所へ行って、悟って欲しかった。冒険者は無理だと。昔から私には懐いてくれていて・・・だからこそ、今回の依頼で諦めさせたかったのに・・・。」
イルワの独白を聞くに、思っていた以上にウィルとの繋がりは濃いらしい。先程まですまし顔で話していたが、イルワの内心はまさに藁にもすがる思いなのだろう。生存の可能性は時間が経てば経つほどゼロに近づいていく。無茶な報酬を提案したのもイルワが相当焦っている証拠なのだろう。
〝お前はどう思う、社。ランクは兎も角、後ろ盾についてはアリだと俺は思うが。〟
〝概ね同意見だ。何時狂信者共が俺達を異端扱いするか分かったモンじゃ無い以上、教会以外の権力との
〝念話〟で報酬について意見を話し合うハジメと社。ハジメ達が聖教教会や王国に迎合する気がゼロである以上、そう遠くない内に異端認定を受ける事はほぼ確定している。その場合、少なくとも教会の息の掛かった町では極めて過ごしにくくなるだろうが、コネでその辺りをクリア出来るなら大分楽になる。大都市のギルド支部長なら権力的にも充分と言えるだろう。
〝あのクソ神に覗かれている可能性がある以上、ユエさん達の身元証明にステータスプレート作んのも難しかったし、イルワさんに身元保証してもらうのもアリかもな。・・・
〝・・・・・・ああ。〟
〝なら、イルワさんに言うだけ言ってみたら良いんじゃね。向こうの返答次第で依頼受けるか決める感じで。かなり足元見てるし、通るかは怪しいがな。〟
社は以前「ステータスプレートは神がこの世界に於いて有用な人材や害悪となる人物を見つける為にばら撒いたのでは?」と仮説を立てていた。これは社が王国の貴族達から悪意を向けられ始めたのが、ステータスプレートに登録したタイミングと一致したからであったのだが、問題はユエが
今のところ、神と思わしき存在からハジメ達に向けられる悪意は感知出来ていない。だが、もしステータスプレートを神が自由に覗けるのであれば、ユエが登録した瞬間に認識されてしまう可能性も十分にあった。何時かはバレてしまうだろうが、自分から見つかる可能性を高める必要も無いだろう。
そう考えればこの際、自分達の事情を教えた上で『縛り』を結んで口止めをしつつ、不都合が生じたときに改めてイルワ達を利用させてもらうのも選択肢としては十分にアリだろう。ウィルとは随分懇意にしていたようだから、仮に生きて連れて帰ればそうそう不義理な事もできないし、仮に罠に嵌めようとも社の悪意感知で簡単に見破れる筈だ。
「そこまで言うなら考えなくもないが・・・2つ条件がある」
「条件?」
「ああ、そんなに難しいことじゃない。ユエとシア、アルの身元についてアンタの権限で身元を保障してくれ。もう1つがギルド関連に関わらず、アンタの持つコネクションの全てを使って俺達の要望に応え便宜を図る事。この2つだな。」
「それは余りに・・・。」
「出来ないなら、この話は無しだ。もう行かせてもらう。」
席を立とうとするハジメ達に、イルワもドットも焦りと苦悩に表情を歪めた。1つ目の条件は特に問題無い。が、2つ目に関しては実質フューレンのギルド支部長が1人の冒険者の手足になるのと同義だ。責任ある立場として、おいそれと許容することはできない。
「何を要求する気かな?」
「そんなに気負わないでくれ。無茶な要求はしないぞ?唯、俺達は少々特異な存在なんで、教会あたりに目をつけられるーーーいや、これから先、確定で目をつけられるだろう。その時に伝手があった方が便利だと思っただけだ。面倒事が起きた時に味方になってくれればいい。指名手配とかされても施設の利用を拒まない、とかな。」
「指名手配されるのが確実なのかい?ふむ、個人的にも君達の秘密が気になって来たな。キャサリン先生が気に入っているくらいだから悪い人間ではないと思うが・・・。そう言えば、そちらのシア君は怪力、ユエ君は見た事も無い魔法を使ったと報告があったな・・・その辺りが君達の秘密か。そして、それがいずれ教会に目を付けられる代物だと。大して隠していない事からすれば、最初から事を構えるのは覚悟の上、か。そうなれば確かにどの町でも動きにくい、故に便宜を、と。」
流石は大都市のギルド支部長だけあり、頭の回転は早い様だ。暫く考え込んだイルワは、意を決したようにハジメに視線を合わせる。
「犯罪に加担するような倫理にもとる行為・要望には絶対に応えられない。君達が要望を伝える度に詳細を聞かせてもらい、私自身が判断する。だが、出来る限り君達の味方になることは約束しよう・・・これ以上は譲歩出来ない。どうかな。」
(え、コレが丸々通んのか。幾らキャサリンさんのお墨付きとは言え、俺達を信用し過ぎじゃないか?こうまで警戒されない訳が・・・何か、他にも独自の根拠があるのか?)
表情には出さないものの、自分達の要求がほぼ飲まれた事に驚愕する社。幾ら世話になったとは言え、キャサリンの手紙だけでここまで自分達を信用するとは思えない。悪意は無い為、罠に掛けよう等とは考えていない様だし、支部長として人を見る目があると言われればそれまでではあるが・・・。
(ギルドなら冒険者達のリスト・・・それこそ良い意味でも悪い意味でも注目すべき冒険者達はベテラン・新人問わずリストアップしている筈。俺達の様にいきなり頭角を表す例も無いでは無いだろうが、それにしたって俺達は悪目立ち過ぎる・・・いや、だからこそ多少色を付けてでも繋がりを持ちたいのか?)
思考を回す社の脳裏に浮かんだのは、ブルックからフューレン行きの商体護衛にて知り合ったユンケル・モットーだ。生粋の商人であった彼もまた、ハジメ達を「特異な人間」と称して繋がりを求めていた。それ故、ギルド支部長であるイルワが同じ様に考えても不思議では無い。だが、その推測も直ぐに社自身が否定する。
(いや、ユンケルさんの時とは状況が違う。あの時は商隊の護衛として俺達の身元はギルドに保証されていたが、今回はそもそも俺達の身元がイルワさん達には全く分からない。ステータスプレートを作らず、身元も不明、にも関わらず腕前だけは一流・・・そんな存在がここまで警戒されない訳がーーーあ゛。)
そんな都合の良い存在なんて居る訳ーーーと考えた社に、1つだけ。たった1つだけ、それら全てを解決し得る答えが浮かび上がる。「そんな馬鹿な」と思わずには居られない社だが、しかし確かに1番しっくり来る予想でもある為、内心で完全には否定し切れない。
(どうするかなぁ。イルワさんもドットさんも信用出来そうだし、話しちゃっても大丈夫・・・の筈。最悪『縛り』を結ぶ事も視野に入れてーーー。)
「オイ、社。何時までボケッとしてんだ。行くぞ。」
「うぇっ!?あ、もう交渉終わったのか。」
「いや、聞いてなかったのかよ・・・。」
何時の間にかハジメとイルワの話し合いは終わっていたらしい。周囲を見ると社以外は既に談話室から出る準備を終えている。社のマイペースっぷりに呆れつつも「報酬は依頼が達成されてからで、持ち帰るのはお坊ちゃん自身か遺品辺りだ」と補足してくれるハジメ。
〝OK、依頼については了解。で、話は変わるんだが、少なくともイルワさんは、
〝いや突拍子無さすぎんだろお前!?ったく、考え込んでたのはそれか。で、根拠は?〟
〝俺達に対する疑念や警戒なんかの悪意が余りにも薄いからだ。多分、独自のルートで、神の使徒が行方不明になってる事を知っている。そして、それが俺達だってのもな。〟
〝・・・俺達は不必要に身分を隠し、それ以上に出鱈目な実力を身に付けている。にも関わらず警戒されないのは、行方知れずになった神の使徒との特徴が一致するからか。〟
〝ああ。で、ここからが本題。もしかしてイルワさんなら、王国に居る神の使徒ーーー
〝念話〟越しに考えを話し合うハジメと社。オルクス大迷宮を脱出した後、社は行く先々で王国に居る〝神の使徒〟ーーー幸利や恵里、雫達クラスメイトについての噂を調べていた。余り目立つ訳にもいかないので、精々が街の住人や冒険者達にそれとなく聞き込む程度だったのだが、それを加味した上でもクラスメイトの噂は不自然な程に集まらなかったのだ。
〝神の使徒降臨!なんてセンセーショナルな話をあのクソ狂信者共が吹聴しないのは、
〝恨み骨髄だな、オイ。・・・だが、その不信な点に気付かないバカだけじゃ無い。その例が、イルワって訳か。〟
〝その通り。で、いっその事、その辺り聞いてみるかなぁ、と。・・・聞いても良いか?ぶっちゃけまぁまぁリスクはあるけど。〟
社がハジメに態々許可を取ったのは、イルワに王国について聞く事自体にリスクがあったからだ。イルワを通して王国にハジメ達の存在がバレる事も勿論だが、もしクラスメイト達を気にかけている事が知れれば、最悪人質として利用すらされかねない。その辺りの事情を考慮した上での相談である。
〝好きにしな。俺も幸利や白崎の事が気にならないと言えば嘘になる。最悪、俺達に多少不利な条件でも、イルワ達に『縛り』を結ばせれば良いだろ。〟
〝そうだな、サンキューハジメ。・・・白崎さんより先に幸利の名前が出る辺り、ヒロイン力で負けてんな、白崎さん。〟
〝早よ聞けバカちん。〟
〝念話〟越しに悪態を吐いたハジメは、踵を返すと再びイルワに向かい合って座る。突然なハジメの行為に目を白黒させる女性陣とドット達とは対照的に、イルワは実に興味深そうにハジメと社を見据えている。
「ふむ・・・まだ、何か話す事があったかな?」
「えぇ、イルワさん。あ、別に報酬についてイチャモンつけたい訳じゃ無いんです。唯、幾つか聞きたい事がありまして。」
「君は社君だったか。私に答えられる事なら構わないよ。」
「では遠慮無く。正直、腹の探り合いなんて面倒なんで、単刀直入に聞きますけどーーー
「・・・・・・ほう。」
「・・・本当に、気付いてたのか。食えないオッサンだ。」
「「「「?」」」」
社の問いに殆どの者が首を傾げる中、明確に周囲と異なる反応をしたのは2人。予め話を聞いていたハジメと、表情を変えないまま、しかし感心した様な声を上げるイルワ。明らかに、社の言葉を正しい意味で理解出来ている。
「うん、そうだね。私は君達が〝神の使徒〟では無いかと疑ってーーー否、殆ど確信していたね。最も、確かな証拠が揃っていた訳では無いから、強いて言えば一ギルド支部長としての勘が主だった訳だけど・・・当たっていたらしいね?それで、態々私に聞いたと言う事は、欲しいのは王国・・・と言うより〝神の使徒〟達の情報かな。それ位なら報酬の前払い、と言う形で君達に渡そうか。ドット、私の部屋から〝神の使徒〟関連の資料を持って来てくれ。」
「え・・・は、承知しました!」
あっけらかんと、世間話をするかの如く社の言葉を肯定するイルワ。それどころか社達が欲する情報にすら目を付けた上で、先払いすると言う気前の良さすら見せつける始末だ。ドットに資料を取りに行かせた事すら、或いは重要な話が始まると察して人払いを済ませたのかも知れない。
「・・・マジモンの狸め。さっき報酬の話で困り果ててたのも演技かよ。」
「まさか。君達に話した内容に、嘘は全くありはしないよ。これはギルドの信用の問題でもあるしね。狸呼ばわりについては、褒め言葉と受け取っておこう。私も支部長の端くれだから、これ位出来なくては、ね。」
人好きのする笑みを浮かべながら、綺麗なウィンクをするイルワ。何処と無くその仕草がキャサリンを彷彿とさせる辺り、本当に心から慕っていたのだろう。優秀さだけで無く茶目っ気もキャサリン仕込みらしい。
「さて、細かい事はドットの資料に書いてあるから、それを確認してもらうとして、だ。大まかに私の口からも説明しておこう。察しているかも知れないけど、教会が〝神の使徒〟の情報を伏せているのは、肝心の〝神の使徒〟が行方不明になってるからだ。」
「やっぱり、俺達が原因か。しっかし、敬虔な信者が真っ向から隠蔽工作するとか終わってんな。」
「今更だろ。中身グズグズに腐り切ってんだよ、あのカス共。」
「・・・いや、君達だけが原因とは限らないよ。」
躊躇無く教会の悪口を言うハジメと社に苦笑いしつつ、イルワはハジメの言葉を否定する。頭上に?マークを浮かべる2人に対して、イルワは予想だにしなかった事を告げる。
「ーーー行方不明になっている〝神の使徒〟は、
色々解説
・恨み骨髄な社。
王国内で貴族共によく悪意を向けられていたと言うのも有るが、1番は明らかにハジメを無能と見下す視線が多かったから。後、無理矢理拉致して戦わせてるのにも関わらず、無責任且つ無自覚に雫を慕っていたメイド共にも大分苛ついていた。詳しくは事は後々。
・ドット・狸・イルワ(30代)
ありふれ原作を見て「良い人だけど食えねぇ〜人じゃね?」と言う作者の偏見から、新たに狸属性が生えた。報酬もキチンと支払うつもりだし、ウィルに対する友好や心配も本心だし、ハジメ達を陥れるつもりも微塵も無いし、何なら『ハジメ達との会話を他言無用にする』『縛り』も結ぶけど、それはそれとして代わりに『命を賭けない範囲でウィルの捜索に最善を尽くす』『縛り』を盛り込むし、聞かれなければ〝神の使徒〟関連の話題を口にするつもりも無かった。ある意味で〝悪意感知〟の天敵みたいな性格と能力してる人。