ありふれない怨霊こそ世界最愛 作:白紙
広大な平原のど真ん中に、北へ向けて真っ直ぐに伸びる街道がある。街道と言っても、何度も踏みしめられる事で自然と雑草が禿げて道となっただけのものだ。この世界の馬車にはサスペンション等は無いので、きっとこの道を通る馬車の乗員は、目的地に着いた途端に自らの尻を慰めることになるのだろう。
そんな整備されていない道を有り得ない速度で爆走する影がある。黒塗りの車体に4つの車輪を付けて凸凹の道を苦もせず突き進むのは、ハジメ作の魔力駆動四輪である。かつてライセン大峡谷の谷底で走らせた時とは比べものにならないほどの速度で街道を疾走しており、時速80kmは出ているだろう。魔力を阻害するものも無いので、魔力駆動四輪も本来のスペックを十全に発揮している。座席順はいつもの通り、運転手ハジメ、助手席ユエ、後ろの席にハウリア姉妹、荷台の座席に社が座っている形である。
あの後、ギルドから正式にウィル・クデタ捜索依頼を受けたハジメ達は、支度金や北の山脈地帯の麓にある湖畔の町への紹介状、件の冒険者達が引き受けた調査依頼の資料を受け取り、フューレンの街を出立していた。
「さて、他にも色々抱えていそうな辺り、本当に君達の秘密が気になってきたが・・・それは依頼達成後の楽しみにしておこう。ハジメ君の言う通り、どんな形であれ、ウィル達の痕跡を見つけてもらいたい・・・ハジメ君、ユエ君、シア君、社君、アル君・・・宜しく頼む。」
社達と『此処での会話は他言無用にする代わりに、命を懸けない範囲で依頼達成に最善を尽くす』『縛り』を結んだイルワは、そう言ってゆっくりと頭を下げてハジメ達を送り出していた。大都市のギルド支部長が一冒険者に頭を下げる等、そうそう出来る事ではない。キャサリンの教え子というだけあって、能力だけで無く人の良さもにじみ出ていた。・・・ちゃっかり自分の要望も『縛り』に盛り込んでいた辺り、相応に抜け目無い人物でもあったが。
「ん〜、良い風ですねぇ〜。」
「同感だけど、何回乗ってもこの速さは慣れなくナイ?」
四輪の窓から吹き込む風を浴びて、各々の感想を語るハウリア姉妹。天気は快晴で暖かな日差しが降り注ぎ、まさに絶好のドライブ日和と言えるだろう。
「それはそうとユエさん、帰りは場所交換しませんか?」
「・・・ダメ。ここは私の場所。」
「え~、そんなこと言わずに交換しましょうよ~!私もハジメさんの隣が良いですぅ!」
後ろの座席からテンション高めに助手席をねだるシアを、言葉数少なく一刀両断するユエ。ハジメにシアを蔑ろにするのは「メッ!」するが、それはそれとしてそう簡単に隣を譲る気は無いらしい。複雑な乙女心だった。
「お前が隣に座ったら、十中八九運転の邪魔するだろうが。俺はこんなとこで事故って心中するつもりは無い。」
「さすがの私もそんなことしませんよ!?私のこと何だと思ってるんですかハジメさぁん!」
「お前、ライセン大峡谷の移動中に車ん中でギャーギャー騒ぐわ、はしゃいで後ろの座席から運転席ガンガン揺らすわ、散々邪魔したの忘れたのか?」
「・・・・・・テヘペロ☆(・ω<)」
(イラッ)
反省0のシアに、ハジメの額に思わず青筋が浮かぶ。何が腹立つって、自分の見た目の良さを完全に自覚してやっている事だった。少しだけ、本当に少しだけ可愛いと思ってしまった事に、己への苛立ちすら感じるハジメ。
「・・・・・・・・・。」
「何がそんなに気になってんスか、社サン。」
「うん?あぁ、いや、イルワさんから貰った資料でちょっとね。」
報酬の前払いで受け取った〝神の使徒〟ーーークラスメイト達についての資料を真剣に読み込む社に声を掛けたのはアルだ。車内の会話に加わらず荷台で黙々と資料を読んでいる姿を見て、何となく気になってしまったが故の行動だった。
「やっぱ、王国に居るオトモダチが心配スか?」
「ん〜、心配してない訳じゃ無いけど・・・俺の友人は皆、何だかんだで肝が据わってるから大丈夫じゃないかな。」
「?なら、何でそんなムズい顔してんスか?・・・関係無いアタシには、話せないっスか?」
「あぁ、いや、そうじゃない。どうにも、分からない事が多すぎてね。」
微妙にネガティブな事を言い出したアルに対して、慌てて言葉を付け足した社。曖昧な言い方になってしまったのは、資料を読んだ事でより多くの謎が生まれてしまったからだった。分かりやすく頭上に?マークを浮かべるアルを見て、苦笑しつつも社は説明を続ける。
「イルワさん達から貰った資料によると、今現在行方不明になっている〝神の使徒〟は6人。その内の2人は俺とハジメだから除外するとして、残るは4人な訳だけど・・・じゃあ、この4人は
「誰が、とか何処で、じゃ無くて、何故、ッスか?」
社の言い方に違和感を持つアル。普通、行方不明になった相手を気にするならば、まずは【誰が】消えたのか、そして【何処で】消えたのかを気にするものだろう。しかし社が気にしたのは【何故?】と言う理由の方だ。或いは、その辺りに社の気になる点があるのだろうか、と考えるアル。
「まず、誰が、についてだけど、これは流石にギルドの情報網でも分からなかったみたいだから一先ず除外しよう。王国が1番隠したい部分だろうし、ギルドも王国や教会を敵に回すつもりも無かっただろうから、無理に調べなかっただろうしね。で、次は、何処で、だけど・・・俺は
「???社サンと南雲サンがオトモダチの皆サンと逸れたのは、オルクス大迷宮ッスよね?だったら、この4人も同じ様にオルクス大迷宮で行方不明者になったんじゃ?」
アルの疑問は至極最もだ。まず大前提として、
そして、そんなクラスメイト達を庇護しているのがハイリヒ王国、引いては聖堂教会だ。有無を言わさず拉致られたと言う点はあるものの、彼等はエヒト神に選ばれた〝神の使徒〟。謂わば、特別待遇のVIP扱いである。そんな彼等を守りこそすれど蔑ろにする人間は、王国や教会には基本的には存在しない。・・・実際には〝神の使徒〟の一員であるにも関わらず、ハジメを役立たず扱いした愚かな貴族も居た訳だが、今は割愛しよう。
この条件下でクラスメイト達が行方不明になるのは中々に難しい。自主的にしろ誰かの手引きにしろ、少なくとも「〝神の使徒〟を見張っている王国・教会の目と守護を掻い潜り」、その後に王国が出すであろう「〝神の使徒〟捜索隊の捜索範囲から逃れる」の2点をクリアしなければならないからだ。それ等を比較的簡単に満たせそうなのがオルクス大迷宮なので、アルの疑問は非常に正しいものと言える。通常であれば。
「うん、俺も普通はアルさんの考え方は正しいと思うよ。でも、この4人が行方不明になったのは、俺とハジメがオルクス大迷宮で行方不明になった後なんだよね。〝神の使徒〟をこれ以上失いたくない王国が、そう簡単に二の舞を踏むかね?」
資料から目を離さないまま、アルの疑問に返答する社。資料によれば、王国は社達が行方不明になった後も、クラスメイト達に強くなる事ーーー戦う事を強要していたらしく、オルクス大迷宮への遠征も定期的に行われている事が記されていた。王国の貴族や教会の信者共が心底腐り切っている事に、内心でキレ散らかしそうになりながらも、社はアルに推測の続きを語る。
「王国も教会も、これ以上〝神の使徒〟って言う
オルクス大迷宮に向かうクラスメイト達の引率は、今も引き続きメルド達王国騎士団員が行っているらしい。ハジメが堕ちた後はほんの2、3回言葉を交わしただけであったが、それでもメルドが酷く気に病んでいた事は社にも分かっていた。そんな彼等が再び同じ過ちを繰り返すとは到底思えない。
そもそもの話、ハジメが奈落の底に堕ちる原因を作ったのは檜山だ。檜山が居なければクラスメイト達が罠に掛かる事も無く、例え他の理由で罠に掛かっていたとしてもベヒモス達からは逃げ切れていた、と言うのが社の見立てだった。メルド達騎士団員に全ての責任があるとは、口が裂けても言えないだろう。
「俺達を指導してた騎士団員達は皆、王国の人間にしては珍しく実力も人格も信用出来る人達だった。だから、彼等の目が黒い内は、まず行方不明者は出ないと思うんだ。」
「成る程・・・じゃあ、その騎士団サン達でも、如何にもならない相手が現れたって可能性はどうスか?メッチャ強い魔物とか、魔人族とか。」
「その場合、メルドさん達は〝神の使徒〟を身を挺してでも庇おうとするだろうね。少なくとも、俺達が罠に掛かった時はそうしてたよ。」
上から命令されたと言うのも勿論あるだろうが、それ以上にメルド達はハジメ達〝神の使徒〟に入れ込んでいた。全く関係無い世界から無辜の若者達を、自分達の事情で戦いに巻き込んでしまう事に罪悪感もあったのだろう。騎士団の長として、国防の要として見るならば、その姿勢は必ずしも正しくは無い。だが、それが分からないメルドでは無いし、そう言った善性が彼の部下やクラスメイト達に慕われていたのも事実だ。それを多少なりとも感じ取っていたからこそ、社もまた騎士団員達だけは信用していたのだから。
「もしアルさんが言う通り〝神の使徒〟を狙う強大な敵が居たとして。メルドさん達は間違い無く自分達の命を盾にしてでもクラスメイト達を守るだろうね。でも、今のところ王国騎士団の訃報は聞こえてこないから、その線は無いと考えて良い。仮にそんな相手が本当に居たとして、行方不明者が4人だけって言うのも少なすぎるしね。」
「あぁ、そっか。そんなスゴい相手なら、たった4人で終わらすハズが無いって事ッスか。・・・その騎士団員サン達が死んでるのも隠されてる可能性は?」
「それも無いかな。寧ろ大々的に発表して
メルド達王国騎士団員は、王国内部でも結構な花形役職だ。そんな彼らが死んだとなればそれなりに衝撃も大きいだろうが、それすら利用してクラスメイト達〝神の使徒〟を前面に押し出す位はやるだろう。王国騎士の死を乗り越え、勇者達は前に進むーーーいかにも権力者や信者共が好みそうな
「で、騎士団員達が無事なら、彼等の目が届く範囲ーーーオルクス大迷宮と迷宮に向かう往復の道で行方不明になる可能性は、今のところはかなり低いと俺は見てる。」
「え?じゃあ、社サンのオトモダチは、何処で?」
「消去法になるけど、まぁ、ほぼほぼ
あっけらかんと、酷く軽い感じで話す社とは対象的に、信じられないと言った様子で目を見開くアル。社の発言はそれだけ驚くべき内容であるし、何より王国の実情に詳しく無いアルですら、王国が〝神の使徒〟に期待している事は今までの会話で分かり切っているのだ。クラスメイト達に対する不埒な真似を、王国が許すとは到底思えない。
「ハァ!?イヤイヤイヤ、あり得なくないッスか?」
「まぁ、魔人族とか外部の犯行は現実的では無いかな。クラスメイト達に監視が付いてないとは考え難いし、何より王都には大結界がある。アレを割るのは至難の技みたいだし、万一割れたとしても派手に目立つだろうから、大騒ぎになるのは確定だしね。」
「そうッスよ。余り詳しく無いアタシでもムズイって分かるんスから、外から侵入するなんて無理じゃーーー・・・いや、まさか。居るんスか、裏切り者が。」
「ピンポーン、正解でーす。景品に飴ちゃんをあげよう。」
半信半疑の推測を肯定されて、ピシッと固まるアル。そんな彼女のリアクションを「良い反応するなー」等と呑気に見やりながら、社は〝
「あぁ、ドーモ・・・ん、美味しーーーじゃねぇンですケドォ!?ハァ!?よりにもよって内部犯の仕業ッスか!?」
「おぉ、良いノリツッコミ。でも、内部犯なら全部説明がつくんだよね。王国の内情を知っているなら、見張りの目を盗む事も可能だし。内通者なら余り派手な事は出来ないから、行方不明者が少ないのも、その4人以外に被害が出ていないのも納得だし。」
「いやでも、〝神の使徒〟なんスよね?王国の連中なら、何より社サン達を優先するハズでしょ?」
「そうだね。では、ここで更に問題です。信者達にとって〝
「・・・それこそ〝神〟そのものって訳ッスか。」
険しい顔で答えたアルを見て満足げに頷く社。アルの言う通り、〝神〟そのものは信者達にとって何よりも優先されるべき存在なのだ。それは〝神の使徒〟相手であっても変わらないだろう。信者にとって〝神〟は絶対なのだ。肝心の〝神〟が信者達をどう思っているかすら、彼等には関係無いのだろう。
「実を言うと、俺も王国に居た頃からそれっぽいのに目を付けられてたんだよね。結局、アクション起こされる前に、ハジメが奈落に堕とされたからそれどころじゃなかったんだけど。」
社が思い出すのは、王国貴族の何名かから向けられた悪意。そして、出所の分からない、それでいて一定且つ全く揺らぐ事の無い・・・まるで無機質な人形を思わせる様な、酷く奇妙な悪意だった。今にして思えば、あれこそ神直属のーーー本当の意味での〝神の使徒〟だったのかも知れない。
「王国の中身、ズタボロじゃ無いッスか。社サンのオトモダチ、マジで大丈夫なんスか?」
「俺の友人達なら大丈夫の筈。出来る限り1人では過ごさない様に言っておいたし、何より『式神調』で創った式神が無反応だからね。・・・唯、他の面子に関しては、今はどうしようもないかな。」
出したままの影鰐を撫でながら、『式神調』の仕様について答える社。『創り出された式神は、基となる好感情の持ち主の危機に反応し、その場所を指し示す』ーーーこの仕様こそが、大切な友人達の危機かも知れない事態を前に、社が落ち着ついている最大の理由だった。
友人達の無事が確信できる現状、気になるのは他のクラスメイト達であるが・・・誰が居なくなったかも分からず、王国からは距離もあるので今のところ自分に出来る事は無い、と社は割り切っていた。「見捨てるつもりは無いが、自身の命を懸けるつもりも無い」と言うのが社のクラスメイト達に対するスタンスだった。*1
「そう言えば、元になった感情の持ち主の危機に反応するって話だったッスね。でも、なら何でちょっかい掛けてきてんスかね?」
「問題はそこなんだよね。内通者が〝神〟の手先だったとして、じゃあ何で態々〝神の使徒〟を拉致ったの?って話になるから。ぶっちゃけ目的が見えないんだよね。」
〝解放者〟達の遺した記録を信じるならば、〝神〟は神託という形で人々を巧みに操り、殺し合う様を見て楽しんでいたらしい。そして〝解放者〟もまた、煽動された信者達に追い詰められ討ち取られた訳だが・・・気になるのは何方も〝神〟が直接的には手を下していない点だった。
「勇者の召喚自体が、神による梃入れだったとして・・・これ以上の干渉をする何らかの理由が神にあったのか、あったとして何なのか?そもそも、直接的な干渉を控えていたのは何故なのか?態とか、それとも干渉出来ない理由があったのか。それに、何でこのタイミングで、何で4人だけなのか・・・うーん、全く分からん。」
資料を影の中にしまいながら投げやりに締め括る社。これ以上を求めるには流石に情報が足りない。どうにも手詰まり感が強かった。アルに自分の推測を話したのも、誰かに話す事で気付きを得られるかと考えたからだが、そう上手くいく訳も無かった。
「・・・あの、スゲー今更何スけど。
「それも考えてはみたんだけどね・・・やっぱり、どうしても問題が山積みだからねぇ。」
王国からの脱走。己の身を狙われた社自身、似た様な事を画策していた事もあり、クラスメイト達も同じ様にする可能性は割と最初から考えていた事ではあった。しかし、社が脱走しようとしていた時と、今とでは余りにも状況が異なる。
「王国は〝神の使徒〟を失う事に過敏になっているだろうから、良くも悪くも見張りの目は増えてると思うんだよね。突発的にしろ計画的にしろ、脱走は上手くいかないんじゃないかな。」
王国内で行方不明になった場合、国王を始めとした権力者達は凡ゆる手を使ってクラスメイト達を捜索するだろう。そしてその中には、周辺の町への捜索隊やギルドへの連絡も含まれる。最悪、指名手配すら有り得るだろう。そこまでされては幾らステータスが優れているクラスメイト達でも、見つかるのは時間の問題だ。逆説、今尚見つからない4人は、何某かの強い力が働いている可能性が高い訳だが。
「仮に成功したとしても、脱走した後どうすんの?って話だし。だから、衣食住が保障されてる王国から自発的に離れるとは考え難いんだよね。」
「?イヤ、自発的に離れる理由ならあるじゃないッスか。」
「え?」
自力での王国脱出は厳しい。そう結論づけようとした社に対して、困惑した様な口ぶりで否を返したアル。思わず気の抜けた声を出してしまう社だが、しかしその理由には思い当たるフシがない。「何かあったっけ?」と頭を悩ませる社。だが、続くアルの言葉を聞き、思わず絶句する事になる。
「イヤ、社サンと南雲サンを助けに、王国から離れて迷宮攻略に向かう可能性があるじゃないッスか。」
「ーーーーーーーーー。」
完全なる不意打ち、思いもよらない角度からガツン!と頭を殴られた気分だった。端的に言って青天の霹靂である。十数秒に渡る
「い、いやいやいや、有り得ない有り得ない。そんな危険を冒してまで、迷宮に挑もうとする馬鹿はいないでしょ。」
「イヤ、社サンこそ南雲サン追ってオルクス大迷宮突っ込んだんデショ。同じこと考える人が居てもおかしくないんじゃ?」
「・・・迷宮の攻略自体は続いてるんだから、焦らずゆっくり挑むべきでは無いだろうか。」
「寧ろ、攻略ペースがゆっくりになったから、無理にでも攻略しようとしてんじゃ無いッスか?社サンもソレ見越して南雲サン助けに行ったんデショ。」
が、駄目。反論する尽くが綺麗に叩き潰されてしまう。そもそもの話、先に挙げた例は全て社に当てはまっている。己の事を引き合いに出されれば、黙る以外の選択肢は無かった。完全にブーメランである。
「・・・そ、そもそも!俺達の為にそこまでしてくれる奴が、4人も居る、居る訳、居る訳が・・・・・・。」
「・・・心当たり、あるんスね?」
「・・・居るかもしんない・・・4人ピッタリ・・・。」
アルの何処か生暖かい物を見る様な視線もどこ吹く風で、社は心当たりの人物を内心でリストアップする。面子は丁度4人。恵里、幸利、香織、そして雫である。
(先ず恵里だ。俺がオルクス大迷宮に突っ込む時は無理矢理止めたけど、あの様子なら諦める可能性は低い。で、幸利の場合は多分恵里よりは冷静だろうけど、一回腹括ったら平気で無茶苦茶やりかねない。アイツ前科あるし。白崎さんは未知数だけど、そう簡単にハジメを諦めるとは思えないし、唯一
思わず頭を抱えてしまう社。可能性としては極々低いものではあるが、しかし決して有り得ないとも言い切れない。そして何よりも問題だったのは、この4人なら騎士団員を出し抜いた上で、迷宮攻略も不可能では無い点だった。
(オルクス大迷宮で訓練するって名目でホルクスの町に宿泊してるなら、王国の目からは一先ず逃れられる。メルドさん達も一緒だろうが、寝ている隙に幸利が闇魔法使えばそのまま気付かれずに昏倒させる事も出来る。見張りもステータスを上げた雫なら不意打ちでどうにでもなるだろうし、最悪バレても恵里が降霊術使って周囲にパニックを起こせば、騎士団員は対処に掛かり切りになる。・・・このパーティー、バランス良すぎじゃね?)
社の背中を冷や汗が伝う。やるやらないは別として、この4人なら騎士団員達を高確率で出し抜けると気付いてしまったのだ。更に言うと、個々の役割がハッキリしてる為、1つのパーティーとして見ても高水準なのだ。
具体的には前衛に雫を置き、中衛に幸利、後衛を恵里と香織が務める。一見後ろに偏っている様にも思えるが、恵里の降霊術ならば陽動・撹乱はお手の物だろうし、その隙に幸利が闇魔法で敵を操る、無いし動きを止めてしまえば、前衛の少なさは如何様にでも埋められる。そもそもの話、雫単独でも十二分に前衛は務まるので余り問題にはならないだろう。攻撃魔法にしても、幸利が〝風属性〟、恵里が〝炎属性〟、香織が〝光属性〟に適性を持っている為バランスが良く、回復・防御についても香織が
「・・・どーすっかなぁ、やっぱり1回見つかるの覚悟で王国戻るべきか?」
「え?今からッスか?」
「いや、流石にそりゃ無理だね。イルワさんとの『縛り』もあるし、ハジメに相談してからになるけど、早くてもこの依頼が終わってからかなぁ。」
ハジメ達は現在、ウィル一行が引き受けた調査依頼の範囲である北の山脈地帯に1番近い町まで後1日弱程の場所まで来ている。このまま休憩を挟まず一気に進めば、恐らく日が沈む頃には到着するだろう。その後、町で1泊して明朝から捜索を始める予定だ。
「そう言えば、南雲サンはよく支部長サンと『縛り』を結ぶ気になったッスよね。あんまり他人に興味なさげなタイプなのに。」
「『縛り』を結ばなくてもやる事は変わらないからね。どうせ依頼を受けるなら、ウィルさんを生かして返した方が恩を売れるし。」
これから先、王国や教会との面倒事は嫌と言う程待ち受けているだろう。その時に盾になる相手がいればある程度は楽になる筈、と言うのがハジメと社の出した結論だった。それに比べれば、多少急ぐ程度は苦労の内にも入らないだろう。実際、イルワという盾がどの程度機能するかは未知数であるが、保険は多いほうが良い。
「兎にも角にも、この依頼をこなしてからだね。それまでは、取り敢えず保留で良いんじゃないかな。後1日もかからないだろうし、アルさんもゆっくり休んどきな。」
「了解ッスー。」
そう言って、後ろに流れていく景色に目を向けながら、雑談を続ける社とアル。・・・この数時間後、思いもよらない再会が待っているのだが、今の社等には知る由もないのだった。
「そう言えば、これから行くウルの町は湖畔が近くて水源が豊からしいね。名物は米料理だってさ。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・無言&真顔で手持ちのお金を数えるのはやめようか、アルさん。普通に怖い。」