ありふれない怨霊こそ世界最愛 作:白紙
「・・・え〜、先程は
愛子ギャン泣き事件(仮)から約10分後、何とか愛子を落ち着かせたハジメ達は、他の客の目もあるからとVIP席の方へ案内されていた。各々がメニューを頼み終えた後、未だ顔の熱が引かない愛子が周囲に向けて主張するが、彼女の言う通りにする人間は誰1人居らず、それどころか生暖かな視線は強まるばかりだ。残念ながら、慕われる事と威厳がある事は愛子に関しては別らしい。
「と、取り敢えず、この話は置いておきましょう。南雲君、今から貴方達に聞かねばならない事があります。・・・答えて、くれますね?」
「あぁ、俺達も最初からそのつもりだ。あくまでも
「・・・えぇ、分かりました。ではまずーーー。」
愛子が口火を切ると、様々な質問がハジメ達に投げかけられる。一度落ち着いた事で、気になる点が幾つも出て来たのだろう。愛子だけでなく他の生徒達からも怒涛の質問責めを食らうハジメと社だが、当の本人達は目の前のニルシッシルを食べながらマイペースに答えていく。
「・・・確かに、話せる範囲で良いとは言いました。ですが、こうも話せない事があるとも思っていませんでした。南雲君に宮守君、真面目に答える気はありますか?」
粗方質問を終えた愛子が難しい顔で2人を問いただす。他の生徒達もまた、納得出来たとは言いずらい表情だ。とは言え、愛子達の反応も致し方無いものではある。何せハジメ達はオルクス大迷宮で知り得た事、及びそれに関連する出来事についてを
「真面目に決まってるだろ、先生。そもそも、まともに話す気が無いなら、俺達はとっくにこの宿から出ている。ここにいる全員を撒くなんて造作も無いからな。」
「・・・宮守君は、どうですか?」
「概ねハジメと同意見です。が、先生の言い分も理解出来ます。そっちからすれば、ふざけてる様にしか聞こえないでしょうしね。でも、それを理解した上で尚、俺達の答えは変わりません。少なくとも、今、この場では〝話せない〟んです。」
愛子の問いをはぐらかしながら、言外に理由がある事を仄めかす社はチラリと別のテーブルに目を向ける。視線の先には隊長のデビッドをはじめとした愛子専属護衛隊の面々がおり、ハジメ達に胡乱な目線を向けていた。
(気に食わないのは俺達の対応か、それともシアさん達亜人か・・・いや、両方か。ったく、マトモな騎士はメルドさんとこだけかよ。)
ハウリア姉妹への侮蔑の視線を隠さないデビッド達を見て、内心ため息を吐く社。感じる悪意の質的に、大方「亜人如きが汚らわしい」とでも考えているのだろう。彼らの対応は王国や教会の人間にとっては
(今この場で「お前らの信じる神は頭がイカれていて、人々を殺し合わせる事に愉悦を抱いているゴミクズだ」なんて言ったら、間違い無く殺し合いになるだろうしなぁ。もし真実を伝えるとしても、先生1人だけにすべきかね。)
仮にデビット達と戦いになったとして、社達が負ける事は有り得ない。だが、その場合愛子やクラスメイト達を巻き込む事にもなる為、迂闊な事を言う訳にもいかなかった。
(問題はその辺りを汲み取って、先生がこの場を引いてくれるかどうかだが・・・意外と大丈夫そうだな?やっぱ俺達の事よく見てるなー、先生。)
社達の返答を聞いた愛子は、眉間に皺を寄せながらも何かを考え込むかの様に唸っていた。ハジメ達の真意を彼女なりに汲み取ろうとしてくれているのだろうか。良い意味で変わらぬ様子の担任に感心する社だが、そこに空気を読まない声が響く。
「おい、お前!愛子が質問しているのだぞ!真面目に答えろ!」
大声を上げてキレたのは、愛子専属護衛隊隊長のデビッドだった。愛する女性が蔑ろにされている(様に見える)事に耐えられなかったのだろう。完全に見当違いなのだが、恋は盲目なのか拳をテーブルに叩きつけ怒鳴る始末である。
「食事中だぞ?行儀良くしろよ。」
が、それを意に介さず、溜息を吐きながらデビットに注意するハジメ。全く相手にされていない事が丸分かりの物言いであり、それを理解したデビットの顔が真っ赤に染まる。が、何を思ったのか、のらりくらりと明確な答えを返さないハジメから矛先を変えたデビットの視線がシアに向く。
「ふん、行儀だと?その言葉、そっくりそのまま返してやる。薄汚い獣風情を人間と同じテーブルに着かせるなど、お前の方が礼儀がなってないな。せめてその醜い耳を切り落としたらどうだ?
侮蔑をたっぷりと含んだ眼で睨まれ、ビクッと体を震わせるシア。ハジメや社からすれば、デビットの発言は聞く耳を持つ価値の無い
有象無象の事など気にしないと割り切ったつもりだったが、外の世界に慣れてきたところへの不意打ちだったので、思いの他ダメージがあったらしい。シュンと顔を俯かせるシア。
(・・・・・・・・・。)
(あーあー、アルさんもブチ切れ寸前じゃん。しかも自分じゃなくてシアさんが馬鹿にされたほうに切れてるし。・・・まぁ、気持ちは分かるから、結界張る準備だけしとくか。)
アルから少しづつ殺意と『呪力』が立ち昇るのを見て、周囲にバレない様にテーブル下に〝
デビット達神殿騎士は聖教教会や国の中枢に近い人間だ。それは信心深い人間であるのと同時に、亜人族に対する差別意識が強いと言う事でもある。何せ、差別的な価値観を聖教教会と国が許しているのだから。が、だからと言ってハウリア姉妹がそれに納得する必要など無いのだ。究極、アルがここでデビット達を皆殺しにしたとして、社は止める気なぞさらさら無かった。
ギュッ
「・・・ユエさん?」
あんまりな物言いに思わず愛子が注意をしようとするーーーよりも早く、俯くシアの手を握ったユエが、絶対零度の視線をデビッドに向けた。最高級のビスクドール染みた美貌の少女に、体の芯まで凍りつきそうな冷たい眼を向けられて一瞬たじろぐデビット。だが。
「何だ、その眼は?無礼だぞ!神の使徒でもないのに、神殿騎士に逆らうのか!」
見た目は幼さを残した少女であるユエに気圧された事に逆上するデビット。普段ならここまでキレやすい人間では無いのだが、愛しい愛子から非難がましい視線を向けられて軽く我を失っている様だった。思わず立ち上がるデビッドを副隊長のチェイスは諌めようとするが、それより先にユエの言葉が彼等の耳に届く。
「・・・小さい男。」
たった一言、だがそれは痛烈にデビットを嘲笑う言葉だった。「たかが種族の違い如きで喚き立て、少女の視線1つに逆上するお前の器の小ささが知れる」と、デビットの無様さを嗤うユエ。唯でさえ怒りで冷静さを失っていたデビッドは、よりによって愛子の前で男としての器の小ささを嗤われ完全にキレた。が、キレていたのはデビットやユエだけでは無い。
「本当の事言うのはやめてやりなよ、ユエさん。ああいうタイプは大した能力も無く、コネで立場を買うもんだから自分に自信が無いんだ。だから、自分より弱そうに見える奴を見下さなきゃやってられないんだよ。」
「・・・それにも、限度はある。」
「しょうがないね。彼は如何に自分が格好悪いかに自覚が無いんだ。きっと鏡すら見た事無いブ男だろうから、寛大な心で許してあげようよ。ーーーなぁ、見下す事でしか自分を良く見せられない自称騎士様ぁ?」
ニタニタと酷く悪い笑みを浮かべたまま、ユエと共にデビットを
「ーーー貴様らぁ!!獣共々に地獄へ送ってやる!!」
激昂しながら傍らの剣に手を掛けるデビッド。突然の修羅場に生徒達はオロオロし、愛子やチェイス達は止めようとする。だが、デビッドは周りの声も聞こえない様子で、遂に鞘から剣を僅かに引き抜いた。その瞬間。
ドパンッ!!
乾いた破裂音が〝水妖精の宿〟全体に響き渡ると同時、今にも飛び出しそうだったデビッドの頭部が弾かれたように後方へ吹き飛んだ。デビッドはそのまま背後の壁に凄まじい音を立てながら後頭部を強打し、白目を向いてズルズルと崩れ落ちる。
「何だ、実弾じゃないのか。てっきりそのまま額をブチ抜くのかと。」
「あんな馬鹿共の血に塗れたまま、飯を食いたくはねぇな。って言うか、お前もちゃっかり先生達に結界張ってやる気満々じゃねぇか。」
「いや、アルさんがキレて自称騎士達をブチのめしそうだったから。流石に先生達まで巻き込むのは悪いしなぁ。」
「・・・アタシが暴れンのは、止めないんスね?」
「まさか。寧ろ、良く我慢したと褒めるとこさ。俺がアルさんの立場だったら、とっくに全員どつき回してんじゃ無いかな。」
「師匠の過激さがしっかり弟子に引き継がれてやがる。呪術師ってこんなんばっかりか。」
「そう言う訳じゃ無いが、この世界は割と人の命が軽いからなぁ。自衛の為に躊躇無く暴力振るえる方が良いだろ?」
「・・・確かにな。」
突然の事態に硬直する愛子達を尻目に、呑気に会話するハジメ達。あれだけ分かりやすくデビットを挑発したのは、相手に先に手を出させる事も目的の1つだった。「自分達は自衛しただけだ」と言い張れば多少やり過ぎても言い訳はつくし、何より愛子達の騎士達に対する不信感も煽れるからだ。あまり王国や教会を信用されすぎるのは、社達にとっても愛子達やクラスメイトにも良くない。
「皆さん、如何なさいました!?大きな音がしましたが、怪我人は!?」
「あ、フォスさん。いえ、大丈夫です。誰も怪我人は居ません。ですが・・・。」
大きな破裂音を聞きつけたフォスがカーテンを開けて飛び込んで来たのを見て、愛子達が我を取り戻した。気絶しているデビッドに向けられていた視線は、破裂音の源ーーーハジメの持っていた〝
「総員、抜tーーーぐぅっ!?」
詳細は分からずとも攻撃したのがハジメであると察した騎士達が、副隊長チェイスの掛け声の下、殺気を放ちながら一斉に剣に手を掛ける。が、その直後、騎士達とは比べ物にならない凄絶な殺気が、立ち上がりかけた騎士達を強制的に座席に座らせる。ハジメの〝威圧〟混じりの殺気である。
「・・・っ、南雲、君っ・・・。」
(・・・ハジメの〝威圧〟を浴びても、目だけは逸らさないか。このまま俺達にビビって、先生達の方から離れてくれるのが1番なんだけど・・・さて、どうするかね?)
〝岐亀〟の結界に包まれているとは言え、殺気混じりの〝威圧〟を浴びるのは愛子とクラスメイト達にとっては中々の負担だろう。実際、彼等は満足に口を開く事さえ出来ていない。だが、それでも愛子だけは、ハジメから目を逸らそうとはしなかった。
「俺は王国や教会に興味が無い。関わりたいとも、関わって欲しいとも思わない。いちいち、今までの事とかこれからの事を報告するつもりも無い。ここには仕事に来ただけで、終わればまた旅に出る。あんたらが何処で何をしようと勝手だが、俺の邪魔だけはするな。今みたいに敵意をもたれちゃ・・・つい殺っちまいそうになる。」
ドンナーを
「悪いが、先生達とも此処でお別れだ。互いに不干渉でいこう。」
ハジメは続いてクラスメイト達にも視線を転じるが、愛子は何も言わなかった。迸る威圧感に呑まれているのもあるが、ハジメの言葉を了承するのは教え子を放置してしまう事に他ならない。それは愛子の教師としての矜持が許さなかった。
ハジメは溜息を吐き肩を竦めると〝威圧〟を解いた。なんとなく愛子の心情を察して諦めたとも言う。凄まじい圧迫感が消え去ると騎士達がドウッと崩れ落ちて大きく息を吐き、愛子達も疲れたように椅子に深く座り込む。ハジメは何事もなかったように食事を再開しながら、シュンとしているシアに話しかけた。
「おい、シア。これが〝外〟での普通なんだ。気にしていたらキリがないぞ?」
「はぃ、そうですよね・・・分かってはいるのですけど・・・やっぱり他の人間の方にはこの耳は気持ち悪いのでしょうね。」
自嘲気味に、自分のウサミミを手で撫でながら苦笑いをするシア。やはり、差別的な扱いはシアの心に根深く刻まれている様で、その表情は晴れない。だが、そんな彼女を放っておくほど、薄情な人間はこのパーティーにはいない。
「あんなブ男の戯言なんて、聞く必要無いデショ義姉サン。」
「そうだぞー、シアさん。見てみなよ俺のクラスメイト達を。どいつもこいつも、君らに見惚れてるぞ。あんまり気にするもんじゃないさ。」
「・・・シアのウサミミは可愛い。」
「皆さん・・・そうでしょうか。」
「あのな、こいつらは教会やら国の上層に洗脳じみた教育されてるから、忌避感が半端ないだけだ。兎人族は愛玩奴隷の需要では一番なんだろう?それはつまり、一般的には気持ち悪いとまでは思われちゃいないって事だ。」
皆に褒められてもまだ自信無さげなシアに、今度はハジメが若干呆れた様子でフォローを入れる。ユエに「メッ!」されることが多くなってから、シアに対する態度が少しずつ柔らかくなっているハジメの精一杯の慰めだった。
「そう・・・でしょうか・・・あ、あの、ちなみにハジメさんは・・・その・・・どう思いますか・・・私のウサミミ。」
ハジメの言葉が慰めであると察して少し嬉しそうなシアは、頬を染めながら上目遣いでハジメに尋ねる。ウサミミは「聞きたいけど聞きたくない!」と言う様にペタリと垂れたまま、時々、ピコピコとハジメの方に耳を向けている。
「・・・別にどうも・・・。」
「別にどうもぉ?王国に居た頃は幸利と一緒にケモミミ談義してたよなぁ?ハジメの一押しはウサミミだったろぉ?」
「何でお前はそう言うどうでも良い事ばっかり覚えてやがる社ぉ!」
「・・・シアのウサミミはハジメのお気に入り。シアが寝てる時にモフモフしてる。」
「ユエまでッ!?それは言わない約束だろ!?」
「ハ、ハジメさん・・・私のウサミミお好きだったんですね・・・えへへ。」
社とユエ渾身の裏切りに思わず声を上げてしまうハジメ。一方で、ハジメに己のウサミミが気に入られてると知ったシアは、赤く染まった頬を両手で押さえイヤンイヤンとユルユルな笑みを浮かべていた。ふにゃりと力無く垂れていたウサミミも、今や喜びを表現する様にわっさわっさと動いている。
「あれ?不思議だな。さっきまで南雲のことマジで怖かったんだけど、今は殺意しか湧いてこないや・・・。」
男子生徒の1人である相川昇が、ハジメ達のラブコメちっくなやり取りを見てポツリとこぼす。ついさっきまで「護衛騎士達が皆殺しにされるのでは?」と錯覚しそうな緊迫感が漂っていたのに、今彼等の前に広がっているのは砂糖を吐くと錯覚する程の桃色空間なのだ。愚痴の1つも言いたくなるだろう。
「お前もか。つーか、あの3人、ヤバイくらい可愛いんですけど・・・どストライクなんですけど・・・なのに、目の前にいちゃつかれるとか拷問なんですけど・・・。」
「・・・南雲と宮守の言う通り、何をしていたか何てどうでも良い。だが、異世界の女の子と仲良くなる術だけは聞き出したい!ーーー昇!明人!」
「「へっ、地獄に行く時は一緒だぜ、淳史!」」
グツグツと煮えたぎる嫉妬を込めた眼で、一致団結する愛ちゃん護衛隊の男勢三人。先程までハジメの〝威圧〟に当てられ萎縮していたとは思えない立ち直りっぷりである。遅れて調子を取り戻した女生徒達が、そんな男子生徒達に物凄く冷めた目を向けていた。
「南雲君で良いでしょうか?先程は隊長が失礼しました。何分、我々は愛子さんの護衛を務めておりますから、愛子さんに関する事になると少々神経が過敏になってしまうのです。どうか、お許し願いたい。」
〝おいハジメ。分かってるとは思うが、コイツら謝る気ゼロだぞ。敵意が全く隠せてない。〟
〝ああ、お前の様に悪意感知が無くても、それ位は分かる。面倒が起きる可能性もあるし、一応、社の方でそのまま先生達を結界で囲んどけ。〟
場の雰囲気が落ち着いたのを悟り、他の隊員をデビッドの治癒に当たらせるたチェイスがハジメに謝罪する。その顔には微笑が張り付いているが、心の奥に警戒心と敵意を押し殺しているのが丸分かりだった。〝念話〟で会話しながらも、ハジメと社は一切警戒を解かない。
「別に構わねぇよ。お前らがどうなろうと、どう思おうと興味は無い。当然、次は無いが。」
心底どうでも良いと言わんばかりの態度に、チェイスの眉が一瞬ピクッと動くが、微笑のままポーカーフェイスは崩れない。そしてチェイスはそのまま、目の前のアーティファクトらしき物に目を向けると話を続ける。
「そのアーティファクト・・・でしょうか。
微笑んでいるがチェイスの目は笑っていない。チェイスの見立てでは、先程のやり取りの中で魔力が使われた様な気配が無かった。つまり、弓の様に純粋な物理機構が用いられている可能性があるのだ。それが意味するのは、即ち量産が可能でありながら、誰でも使えるかも知れない強力で汎用性のある兵器であると言う事。コレ1つで戦争の行く末すら左右しかねない為、どうしても聞かずにはいられなかったのだ。
「そ、そうだよ、南雲。それ銃だろ!?何で、そんなもん持ってんだよ!」
(そこは嘘でも黙っておこうぜ、玉井。・・・まぁ、しゃあないか。)
ハジメがチラリとチェイスを見て、何かを言おうとしてーーーしかし、興奮した声に遮られた。男子生徒の1人、玉井淳史だ。その叫びにチェイスが反応する。
「銃?玉井は、あれが何か知っているのですか?」
「え?ああ、そりゃあ、知ってるよ。俺達の世界の武器だからな。」
〝玉井・・・玉井淳之、聞こえますか・・・今、貴方の脳内に、直接語りかけています・・・。〟
「え?うわ何だ!?頭の中から宮守の声が!?」
〝貴方に、伝えなければならない事があります。ーーー余計な事言ってるんじゃ無いよこのお馬鹿。「沈黙は金、雄弁は銀」て金言を知らんのか?〟
「うおぉ!?なんか良く分からんけどすまん!?俺はお前等や清水みたいに国語の成績良くないんだよ!」
「だ、大丈夫ですか、玉井君?何かありましたか?」
玉井の言葉に目を光らせたチェイスを見て、〝念話〟を飛ばす社。玉井が余計な事を言ってしまったのは事実だが、その辺りの事情も考えて話せと言うのも酷だろう。それ故、社は特に怒っていた訳では無いが、それはそれとして釘刺しと揶揄いも兼ねて、〝念話〟を飛ばす事に抵抗も無かった。シンプルに性格が悪い。
頭の中に響く声に困惑する玉井と、それに若干驚きながらも宥めている愛子を尻目に、チェイスは改めてハジメに問いかける。
「つまり、この世界に元々あったアーティファクトでは無いと・・・とすると、異世界人によって作成されたもの・・・作成者は当然・・・。」
「俺だな。」
(あ、そこは素直に答えるのか、ハジメ。〝玉井、すまん。さっきのは嘘だった、忘れてくれ。〟)
「え?嘘!?俺は一体何を信じれば良いんだ、宮守!?」
「お、落ち着いて下さい、玉井君。宮守君はさっきから一言も喋っていませんよ?」
ハジメがあっさりと自分が創り出したと答えた事に、チェイスと社は意外感を表にした。チェイスはハジメに秘密主義者という印象を抱いていた為、社は適当にはぐらかすと思っていたからである。一方で、玉井は完全に遊ばれていた。
「あっさり認めるのですね。南雲君、その武器が持つ意味を理解していますか?それは・・・。」
「この世界の戦争事情を一変させる・・・だろ?量産できればな。大方、言いたい事はやはり戻ってこいとか、せめて作成方法を教えろとか、そんな感じだろ?当然、全部却下だ。諦めろ。」
「ですが、それを量産できればレベルの低い兵達も高い攻撃力を得る事が出来ます。そうすれば、来る戦争でも多くの者を生かし、勝率も大幅に上がる事でしょう。貴方が協力する事で、
取り付く島も無いハジメの言葉だが、チェイスも諦め悪く食い下がる。遠距離から一方的に敵を殺す兵器ーーー銃はそれだけ魅力的だったのだ。それ故に、言葉を尽くしてどうにか説得を試みるチェイス。だが、それは結果的に彼にとって最悪の一手になってしまう。
「ーーーそれは、俺達への脅しと受け取って良いんだな。」
瞬間、社から〝威圧〟と『呪力』が吹き出した。余りに突然の事に、チェイスを含めた騎士達は勿論、愛子やクラスメイト達も一切反応する事が出来ていない。最も、反応出来たとして、何か行動に移せたかは怪しいが。それ程までに、社から放たれる圧は強く不気味な物だった。
「っ、申し訳、ありません。何か、気に障る「チェイスさん。あんた今、〝愛子先生やクラスメイト達を人質に使えば、言う事を聞かせられるかも。〟と思ったろ。」ーーー!?」
今まで感じた事の無い悍ましい『
「な、何をーーー「俺の持つ技能〝悪意感知〟は、悪意限定なら大抵の事は見破れる。それこそ、大それた悪事から、小さな嘘までな。・・・〝お友達や先生の助けになる〟だったか?よく言うよ、先生達を心配するつもりで、遠回しに俺達への人質に取ってた訳だ。いやぁ、中々の役者だよ、チェイスさん?」ーーーっ。」
何もかもを見すかした様な社の言葉に、チェイスは絶句するしか無い。社の言葉が概ね、チェイスの考えを見抜いていたからだ。ハジメ達は尋常ならざる力を持っており、力付くの説得は不可能と考えたチェイスは、代わりにハジメ達の情を揺らそうと考えた。無論、真正面から人質扱いでは反感しか生まない為、如何にも愛子達やクラスメイト達を心配しています、と言う風を装ったのだがーーーその結果、チェイスは社の唯一にして絶対の逆鱗に触れてしまう。
「ま、待ってーーー「聞く耳は持たない。語る口も無い。何方にせよ、あんたは俺達〝神の使徒〟を脅したんだ。覚悟は出来てるよな。」ーーーまっ、ぎぃぁああああああ!?!?」
喚くチェイスの首を掴んで持ち上げた社は、そのまま〝纏雷〟を放つ。レールガンを多用するハジメと違い、社の〝纏雷〟には[+出力増大]*2の派生技能は付いていないが、だからこそ痛めつけるのにはもってこいでもあった。
「ハジメも言ったがな、あんたらが何しようが俺達にとってはどうでも良い。だが、言葉には気を付けろよ。ーーーアンタらとの殺し合いを、避ける理由も無いからな。」
黒焦げになったチェイスを投げ捨てた後、周囲を睥睨しながら告げる社。他の護衛騎士達も、社の圧力に負けて頷く事しか出来ない。先程ハジメが〝威圧〟を放ったのと同じ焼き増しの様な状況の中、最も素早く立ち直った愛子が口を開く。
「チェイスさんの件についても、言いたい事は多々有りますが・・・南雲君達は、本当に戻って来ないつもり何ですか?」
「ああ、戻るつもりはない。明朝、仕事に出て依頼を果たしたら、そのままここを出る。」
「・・・そう、ですか。」
(俺達を問いただす様な真似はしない、か。俺達にビビったか、それとも・・・。)
悲しそうにハジメを見やる愛子だが、しかし無理にハジメから理由を聞こうとする素振りは無い。他のクラスメイト達もまた、余波とはいえ社の『呪力』混じりの〝威圧〟を受け、顔を青くしたまま動かないでいる。その内にハジメが席を立ち、それに続く様にユエやハウリア姉妹もまた席を立つと、一行は2階への階段を上っていってしまった。
後に残された愛子達の間には、何とも言えない微妙な空気が流れる。死んだと思っていたクラスメイト達が生きていたのは嬉しい。だが、以前とは比べ物にならない程強くなっていた彼等は、自分達の事などまるで眼中に無かった。一体、何があったのか、自分達はどうすれば良いのか、疑問だけが心中を渦巻いていた。
愛子自身も、怒涛の展開と教え子の変貌に内心激しく動揺してはいた。だが、ハジメ達の言い方、そして多少なりとも芽生えていた王国や教会への不信感が、「ハジメ達にも何か事情があり、それを私達に伝えるのは不味いのでは無いか?」と言った考えを強くさせていた。
食事はすっかり冷めてしまい、食欲も失せている。一体何があれば人はああも変わるのか、あの時檜山が放った〝攻撃〟をハジメはどう思っているのか、ハジメと社は今、自分達をどう思っているのか・・・そんな考えが脳内をぐるぐると巡り、皆一様に沈んだ表情でその日は解散となるのだった。