ありふれない怨霊こそ世界最愛   作:白紙

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64.捜索

 北の山脈地帯ーーー標高1000mから8000m級の山々が連なるそこは、北へ北へと幾重にも山々が重なっており、未だ全容が明かされていない弩級の山脈だ。現在確認されているのは4つ目の山脈までで、その向こうは完全に未知の領域になっている。とある冒険者がその先を目指した事もあるそうだが、山を越えるたびに生息する魔物が強力になっていくので途中で断念したらしい。

 

 また、どう言う訳か生えている木々や植物、環境がバラバラで規則性が無く、日本の秋の山の様な紅葉が見られたかと思えば、真夏の木の様に青々とした葉を付けていたり、逆に枯れ木ばかりだったりと、ある意味非常に異世界らしい様相が広がっているのも特徴だった。

 

 今回ハジメ達が訪れたのは1番手前の山脈であり、地理的にはかの【神山】から東に1600kmほど離れた場所だ。紅や黄といった色鮮やかな葉をつけた木々が目を楽しませ、そこかしこに香辛料の素材や山菜を発見する事が出来る、ウルの町が潤うのも納得の実り豊かな山である。

 

「悪くない景色だ。ギルドの依頼さえなきゃ、もっとゆっくり観光したいとこだが。」

 

「本当になー。・・・何で愛子先生ってば、そんな顔真っ赤なんです?」

 

「な、何でもありません。気にしないで下さい、宮守君。*1

 

 山脈の麓に四輪を止め、見事な色彩を見せる自然に見蕩れるハジメ達。正しく天然の芸術とも言える風景を眺めながら、ハジメは四輪を〝宝物庫〟に戻すと、代わりに指輪と全長30cm程の鳥型の模型を幾つか取り出した。

 

「出たな、ファン◯ル!しかも脳波コントロール出来る!」

 

「モチーフは(ラフレシア)じゃなくて鳥だがな。いつかはビーム兵器も載せたいけどな。」

 

 はしゃぐ社を尻目にハジメは指輪ーーー鳥の意匠に小さな石が嵌め込まれているーーーを嵌め、鳥型の模型を4つほど放り投げる。そのまま地に落ちるかと思われた贋作の鳥達は、しかし予想を裏切り宙に浮かぶと、ハジメ達の頭上を幾度か旋回した後に音も無く山の方へと飛び去って行く。

 

「あの、南雲君、あれは・・・?」

 

「うん?あぁ、鳥型のゴーレムを遠隔操作してる。俺達の世界風に言えば、無人偵察機だ。」

 

 ハジメの言葉に驚きで息を呑む愛子達。ハジメが〝無人偵察機〟と呼んだ鳥型の模型ーーーハジメ命名〝オルニス〟は、ライセン大迷宮で遠隔操作されていたゴーレム騎士達を参考に、ミレディから巻き上げた貰った材料から作り出したものだ。重力石*2を核として、ゴーレム騎士を操る元になっていた感応石を組み込み、更に遠透石*3を頭部に組み込む事で偵察機としての役割を持たせたのだ。ハジメは右眼の 魔眼鏡(モノクル)にも遠透石を組み込む事で、〝無人偵察機(オルニス)〟の映す光景を見る事が出来るようになっていた。

 

「最大で何体操作出来るんだ?」

 

「見回りさせる位なら、4機同時が限界だ。1機だけなら俺も全力で動きながら精密操作出来るし、〝瞬光〟使ってれば7機まで増える。・・・ミレディはどうやって、あれだけのゴーレムを操ってたんだか。」

 

 ゴーレムの操作数の限界は、そのまま脳の処理能力の限界でもある。〝瞬光〟に覚醒してからはハジメと社の脳の処理能力も上昇していたが、それでも50近い数のゴーレムを操っていたミレディとは雲泥の差だ。神代魔法の適性や練度の差か、他に何か理由があるのか。或いは、それこそが「神代魔法を全て集めろ」と言った理由に繋がるのか。ミレディに敵対する意思は無いのだろうが、それを差し引いても何とも謎の多い人物だった。

 

 

 

 

 

 魔物の目撃情報があったのは、山道の中腹より少し上、6合目から7号目の辺りだ。ならば、ウィル達冒険者パーティーもその辺りを調査した筈である。そう考えたハジメ達はゴーレムを先行させながらハイペースで山道を進み、凡そ1時間と少しで6合目まで到着していた。

 

「はぁはぁ、きゅ、休憩ですか・・・けほっ、はぁはぁ。」

 

「ぜぇー、ぜぇー、大丈夫ですか・・・愛ちゃん先生、ぜぇーぜぇー。」

 

「うぇっぷ、もう休んでいいのか?はぁはぁ、いいよな?休むぞ?」

 

「・・・ひゅぅーひゅぅー。」

 

「ゲホゲホ、南雲達は化け物か・・・。」

 

 息も絶え絶えに言葉を絞り出しているのは、愛子達である。この世界基準で一般人の数倍のステータスを誇る愛子達は、本来なら6合目までの登山如きでここまで疲弊することはない。だが、それも通常のペースで登山すればの話だ。速すぎるハジメ達の移動に追い着くべく、殆ど全力疾走しながらの登山となった愛子達は、四つん這いになり必死に息を整えていた。

 

「先生達の体力を計算に入れてなかったな。」

 

「休憩も兼ねて、この辺調査するか。休めそうな場所はあるか?」

 

「近くに小川がある。ウィル達が休憩に寄った可能性も高いし、そこで良いだろ。」

 

「あいよー。じゃあ、先に行っててくれ。俺は愛子先生達が復帰するのを待ってるわ。」

 

「・・・じゃあ、アタシも付き合いますよ。」

 

「あ、そう?サンキュー、アルさん。」

 

 完全にバテ切った愛子達に若干困った視線を向けつつ、無人偵察機からの情報を基に、ハジメとユエとシアの3人は近くの川を目指して森の中を分け入って行く。残ったのは未だに息も絶え絶えの愛子達と、息一つ切らしていない社とアルだった。

 

「な、何で、宮守達は、ゼェ、そんな余裕なんだ、ハァ・・・。」

 

「そりゃ、鍛え方が違うしなぁ。むしろ、バテ気味とは言え、俺達に着いて来れた相川達に驚いたぞ、俺は。」

 

「ゼェ、そりゃ、着いて来たいって言ったのは、俺達だし?ハァ、逸れる訳にも、いかねぇし・・・。つうか、それが分かってんなら、もう少し、加減してくれよ・・・ゼェ。」

 

「あぁ、だから、全力では飛ばして無かったろ?」

 

「嘘でしょ・・・?」

 

「清水がゴリラ呼ばわりしてたの、今なら納得しかねぇや・・・。」

 

 信じられない、と言った様子で社を見る愛子達一同。この世界(トータス)に呼ばれて身体能力の上がった彼等をして、ハジメ達の体力は規格外と評して良いだろう。「幾らハジメ達の方が強くても、流石に全く追い付けないなんて事は無いだろう」と言う考えは、甘かったと言わざるを得ない。

 

「ハァ、ハァ、フーーー・・・やっと、落ち着いて来た。・・・それで、ずっと気になってたんだけど、そこの子とはどう言う関係なの、宮守君?」

 

「え?アタシッスか。」/「いきなりどうした、菅原さん?」

 

 脈絡の無い急な質問に、仲良く首を傾げる社とアル。が、この話題を気にしていたのは菅原だけでは無かったらしく、気が付けば愛子と〝愛ちゃん護衛隊〟の全員が社とアルに注目していた。

 

「いや、だって南雲君がめちゃくちゃに綺麗なお人形さんみたいな子と、すごいカワイイ亜人族の子の三角関係(ハーレム)築いてたから、てっきり宮守君にもお相手がいるのかなーって。」

 

「そうだそうだ!南雲も宮守も、何で周りが美少女だらけなんだ!チクショウ羨ましいぞこの野郎どうかコツがあったら俺達にもご教授下さいませ!!」

 

「「お願いします師匠!」」

 

「男子共は悪態吐くか下手に出るかどっちかにしろ。後、地味に距離を詰めてくるのは止めろ。必死過ぎてキモい。」

 

「えっと、アルさんで良いんだよね。私は菅原妙子って言うんだけど、ズバリ宮守君とはどんな関係なの?唯のお仲間?それとも、まだお友達?馴れ初めは?」

 

「ちょっと妙子、少し落ち着きなさい。いきなりごめんなさいね、アルさん。私は園部優子、南雲と宮守のクラスメイトよ。・・・因みに、貴女の好みは南雲みたいなタイプ?それとも、宮守みたいなタイプ?」

 

「イヤ、た、唯の恩人ってだけで、別に異性としては・・・ちょっ、社サン、助けて・・・。」

 

 疲労困憊だった先程までとは打って変わって、キャイキャイと盛り上がる〝愛ちゃん護衛隊〟一同。社とアルは知らない事だが、魔力駆動四輪に乗っていた時も、女生徒達はシアを相手に恋バナ(と言う名の質問責め)をしていた。異世界で、しかも異種族間の恋愛など、花の女子高生としては聞き逃せない出来事なのだろう。やはり、何時の世でも男女のあれこれはホットな話題らしい。

 

「あまり生徒の恋愛に口を挟みたくはありませんが、節度を持った付き合いを心掛けて下さいね、宮守君。」

 

「そりゃ勿論。ハジメの様にハーレム作る度量なんて、俺にはありませんよ、愛子先生。後、アルさんは唯の仲間ですよ。」

 

「そう言う意味で言ったのでは無いのですが・・・。」

 

「?」

 

 求めていたのとは何処かズレた答えを返され、言葉を濁す愛子。まだまだ若手とは言え教師である愛子は生徒をよく見ていたし、この世界に来てから色んな人物と相対した事で、観察眼はより確かなものへと磨かれていた。その愛子の目から見て、社が一切嘘を言ってないのは直ぐに分かったが、それとこれとは話が別だ。社にその気が無くても、周囲まで同じとは限らないからだ。愛子が知る限りでも、社を憎からず思う生徒は()()()2()()いる。元の世界でなら言わずもがな、この世界でそんな人物が増えない保障など何1つ無かった。

 

(南雲君といい、宮守君といい、白崎さんといい、私の生徒達は異性関係で苦労する定めなのかもしれませんねぇ。)

 

 園部達に押され気味なアルを、助けるでも無く呑気に眺める社。そんな良くも悪くも変わっていない元優等生を見た愛子は、教え子達の未来を憂いて遠い目をするのだった。

 

 

 

 

 

 約10分後、息を整えた愛子達を連れた社とアルは、小川へと向かいハジメ達と合流した。周囲の索敵は無人偵察機とシアが済ませており、魔物の気配も無い様だ。川のせせらぎが耳に心地良く、液面も澄んでいて日光をキラキラと反射している。社達を待つ間に息抜きをしていたのか、ユエとシアは裸足で川に足を浸していた。

 

「「「び、美少女の素足と、水浴び風景・・・!此処が天国(パライソ)か・・・!!」」」

 

「そんな下心丸出しだから、あんた等は彼女ができないのよ。」

 

「マジレスで腹を殴るのはやめてくれないか、園部。」

 

「余り事実を口にするなよ、俺達の心は弱いぞ?」

 

「あれ、おかしいな、目から汗が止まらないや・・・。」

 

 園部から放たれた、正論と言う名の致命の一撃(クリティカルヒット)が、玉井達男子生徒を見事撃沈する。その間に、玉井達の視線に気が付いたユエ達も川から上がっていく。・・・その光景を何処か口惜しそうに眺めている辺り、玉井達も中々に図太かった。

 

「気持ちは分からんでも無いが、ガン見すんのは止めとけ。モテたいなら少しは余裕と紳士さを身に付けた方が良いんじゃねぇかなぁ。」

 

「その余裕の持ち方を、是非俺達にも教えて欲しいんですけどぉ!つーか、何で宮守は、あんな美少女達を前にして表情1つ変えないんだ!?」

 

「そりゃあ、こう見えて婚約者(フィアンセ)のいる身だしな。他の女の子に(うつつ)を抜かすなんて不義理は出来ないだろ。」

 

 玉井のヤケクソ染みた嘆きに、淡々と返す社。小さい頃の約束だとか、自分に取り憑いているだとか、化け物染みた外見に成っているだとかは、社にとっては些細な事でしかない。愛する■■を裏切りたくないーーーその一点こそが最も重要で大切な真実なのだから、他の女性に目移りするなどもっての外だった。

 

「成る程なぁ。そりゃ婚約者(フィアンセ)が居るなら、下手な事は出来なーーーなんて???」

 

「き、聞き間違いじゃなけりゃ、今、フ、婚約者(フィアンセ)が居るって、言ったか?」

 

「え?うん。」

 

「「「「「「はぁ!?!?!?」」」」」」

 

「おっと、ハジメが呼んでるみたいだから行くわ。お前さん達もしっかり休憩しとけよー。アルさん、行くよー。」

 

「了解ッス。」

 

「おい待て待ってくれ!?一体どこまで本当(マジ)なんだ!?まさか本当に婚約者居るのか!?」

 

「行っちゃったんだけど!?とんでもない爆弾を落とすだけ落として、宮守君さっさと行っちゃったんだけど!?このモヤモヤどうすれば良いの!!」

 

「あ、あの若さで、もう相手が居るのですか?それに引き換え、私は彼氏の1人すら・・・い、いえ、今の私は教師なのです。まだまだ精進が足りないのに、色恋にかまける暇なんて・・・。」

 

 社の婚約者(フィアンセ)発言に、騒然とする愛子プラス〝愛ちゃん護衛隊〟の面々。約1名は若干方向性が異なるが、それでも驚き具合は変わらず大きいものだった。一方、そんな彼等の心境を知ってか知らずか、〝念話〟で呼び出された社は、ハジメが感じとった違和感について話していた。

 

「魔物の姿が、一向に現れない?」

 

「ああ。移動した可能性も考えて、さっきから川の上流に無人偵察機(オルニス)を飛ばしてるんだが、魔物の1匹すら現れやしない。此処まで来る道すがらに会わなかったのも偶々だと思っていたが、こうも見当たらないとなるとキナ臭いものがある。」

 

 ハジメ達は現在、7合目の半ばほどで休憩を取っている。この山脈は山を越えさえしなければ比較的安全と言われているが、だからと言って魔物が全く居ない訳でも無い。弱い魔物ならそれこそ群れていてもおかしく無いのに、影すら見当たらないのは異常としか言い様が無い。

 

「残念ながら、〝悪意感知〟にも反応は無い。このまま慎重に進むしか無いな。・・・ところで、ユエさんとシアさんはさっきから何してるんだい?」

 

「・・・ん。ハジメ成分を補給中。」

 

「私はユエさんが羨ましくなって、イチャイチャに混ぜてもらいにきました!」

 

「そこまで欲望に素直だと、一周回って潔く見えてくるッスね。」

 

 社の問いに満面の笑みで答えるユエとシア。現在、手頃な岩に腰掛けたハジメの膝にユエが乗り、後ろからはシアが全体重を掛けて抱き着いていた*4。要するに、ユエとシアでハジメをサンドイッチしている構図である。一般的な思春期の男子なら垂涎物の状態だろう。その光景に川岸で水分補給に勤しんでいた愛子は頬を赤らめ、園部達女生徒達は黄色い声を上げ、玉井達男子達は血涙を流さんばかりにハジメを睨んでいた。

 

「まごう事なき美少女2人に挟まれてる気分はどうだい、親友?」

 

「うるせぇ、黙れ。ゴーレムの操作に集中させろ。」

 

「へーい。・・・ねぇねぇ、ユエさん。その状態でハジメはおっきしてないの?いや、ハジメって言っても、ハジメの息子(ハジメ)の方なんだけど。」

 

「俺に話しかけなきゃ良いって意味で言ったんじゃねぇよこの馬鹿!つか、お前は何を突然トチ狂った事聞いてやがる社!!」

 

 怒鳴りながら親友(やしろ)の頭を引っ叩くハジメ。本来、と言うか今までの社なら、女性相手に露骨な下ネタを言う事は無かった。それは雫や恵里に対しても同様であり、ユエやハウリア姉妹にも同じだとハジメは考えていたのだが、どうやら違ったらしい。少なくとも品性と紳士さは欠片も無い。

 

「ったく、油断も隙もねぇな。お前、女子相手に下ネタ言うタイプじゃ無いだろ。少なくとも俺は聞いた事ねぇぞ。」

 

「それはそうだけど、ユエさんなら良いかなって。割とその辺りは寛容だし、何よりハジメの反応が面白いし。ーーーで、どうなの?」

 

「・・・ん。」(ポッ)

 

「待てユエ。そこで顔を赤くされると、俺がとても困るーーー社も他人の下半身事情を追求すんのは止めろ!ドタマカチ割るぞ!?」

 

「そんな!?ハジメさんの雄は、私の巨乳ではおっきしてくれないんですか!?」

 

「何でこのタイミングで割って入ろうとしたシア!頼むから今はちょっと黙ってろよ!」

 

「・・・あの、義姉(ネエ)サン。ちょっと、声大きいから・・・社サンのクラスメイトさん達にも聞こえるから・・・。」

 

「オラ、全員良く見ろハウリア妹の恥じらう姿を!貞淑にとは言わないが、せめて少しは恥じらいを持ってーーーあん?」

 

 怒涛のボケ倒しにツッコミと言う名の悲鳴を上げていたハジメの表情が、怪訝なものへと変わる。それに気付いた社達も騒ぐのを止めると、邪魔にならない様にハジメからの反応を待つ。

 

「これは・・・剣に盾、か?鞄も・・・。」

 

「ん・・・何か見つけた?」

 

「ああ、ある程度川の上流を遡ったところに、デカい戦闘の痕跡があった。・・・取り敢えず、向かってみよう。全員、行くぞ。」

 

 異変を発見したハジメ達は阿吽の呼吸で立ち上がると、すぐに出発の準備を始めた。愛子達も疲労が抜けきった訳では無いが、何か手がかりを見つけた様子となれば動かない訳にはいかず、猛スピードで上流へと登っていくハジメ達に必死になって追随して行く。

 

「着いたぞ、此処だ。」

 

「おぉう、これまた派手にやったな。」

 

 十数分後、ハジメ達が到着した場所には、無人偵察機で確認した通りの大規模な戦闘の痕跡が残されていた。周囲の木々は無惨に切り裂かれており、自然本来の美しさは見る影も無い。地面は所々が抉られたり、余程の高温で焼かれたのか焦げついており、それに加えて冒険者が持ち込んだと思われる物が散乱していた。

 

「ハジメさん、この盾とか鞄って、やっぱり探してる人達が使ってたやつでしょうか?盾なんか、金属製なのにもの凄いひしゃげちゃってますけど。」

 

「多分な。シア、社。2人共、全力で周囲を探知してくれ。何か手がかりが残ってるかも知れない。」

 

「了解です。」/「あいよー。」

 

 ハジメに指示され、索敵に秀でた2人を筆頭に注意深く周囲を見渡す一行。周囲の破壊痕の中には爪や牙で切り裂いたのか数mを越えた大きさのものもあり、どう見ても人間業で無いのが分かる。恐らくは、ウィル達冒険者と争った魔物が付けた傷なのだろう。

 

(このサイズの魔物が居たとして、俺達に全く見つからないなんて事があるのか?この山で未だに魔物1匹見当たらないのと、何か関係があるのか・・・。)

 

「社サーン、ちょっと良いッスかー!?」

 

「ん?アルさんの方で何かあったー?」

 

「見てもらいたい物があるんスケドー!アタシだけじゃ判断つかないンで来てもらいたいッスー!」

 

 社は思考を打ち切ると、声がする方へと足を進める。向かった先でアルが見ていたのは、薙ぎ倒されていた木々の内の1本だった。直径70cm程のそれは真ん中ほどから折られており、此処で起こった戦闘の激しさを物語っている。だが、アルが気にしていたのはそこでは無かった。

 

「この木、傷痕もおかしいんスけど・・・コレ、『()()()()()()()()()()()()?」

 

「・・・・・・本当だ。僅かにだけど、残穢(ざんえ)が残ってる。」

 

 折られて剥き出しになった木の断面は、どう言う訳が()()()()()()()()()()()()()が付いており、そこには僅かながら残穢(ざんえ)が残っていた。試しに溶解されたと思わしき部分を触ってみても、質感は完全に木のままである為、一体どうやったのかは見当も付かない。十中八九、『術式』によるものだろう。

 

「一体、誰の仕業ッスかね?」

 

「分からない。冒険者達の中に『術師』が居たのか、それとも『呪術』を使える魔物が居るのか・・・。アルさん、似た様な痕って他にもあった?」

 

「何本か、似た様な事になってる木や植物がありました。」

 

「うん?その言い方、もしかして溶けた様な痕があるのって植物限定?」

 

「・・・そう言われればそうッスね。アタシが見た限りでは、溶けた様な痕と残穢がセットで残されてたのは、全部草や木だけッスね。」

 

(・・・この場でウィル達冒険者と何者かの戦闘があったのは、周囲の遺留品や状況から見てもほぼ確定だろう。問題は『術式』を使ったのが俺達の敵か否か、そしてどんな『術式』が使われたかだ。誰が『術式』を使ったかは分からないから、そこは一先ずは置いておくとしても・・・多分、そう単純な『術式』じゃ無いんだろうな。)

 

 アルの答えを聞き、暫し考え込む社。目の前の結果だけを見るならば、使われたのは『植物に作用する』『術式』になるが、そう考えるのは早計だろう。『術式』の対象にもよるだろうが、例えば広義での『生命』を対象とする様な、『植物にも作用する』パターンや、『植物にのみ作用する代わりに出力を上げる』『縛り』を課しているパターンもある。一概に決め付けるのは危険だった。

 

「もう少し、この辺を探索しようか、アルさん。何か気付いたら教えてくれる?」

 

「了解ッス。」

 

 再び手分けして周囲を探索する社達。奥の方に進むに従い、冒険者達の遺品らしき物や、戦いの痕跡が幾つも見つかっていく。先程の様に『術式』で半ばから溶かされたらしき木や、踏みしめられた草木、更には折れた剣や血が飛び散った痕もあった。人の死が感じられる生々しい痕跡を見つける度に、愛子達の表情が強ばっていく。彼女達には少々刺激が強かったらしい。

 

 その後も探索は続き、一段落着いた頃には既に日もだいぶ傾いており、野営の準備に入らねばならない時間に差し掛かっていた。

 

「そっちの成果はどんなもんだ、社。」

 

「ハジメか。大した物は見つかって無い。一応、身元の特定に使えそうな物は拾っちゃいるが。」

 

「そうか。こっちも似た様なもんだ。写真入りのロケットなんかも拾ったが、誰の物かも分からん。そろそろ、引き上げ時かもな。」

 

 一度集合し、各々の成果を伝え合うハジメ達。夜になり効率が悪くなると言うのもあるが、それ以上に野生動物以外の生命反応が無い事にハジメ達は警戒していた。ウィル達を襲ったらしき魔物どころか、それ以外の魔物すら1匹たりとも感知されなかったのだ。今ハジメ達が居るのは、大体八合目と九合目の間であり、山は越えていないとは言え、弱い魔物の1匹や2匹出てもおかしくない筈である。にも関わらず、全く魔物と遭遇しないのは、えも言われぬ不気味さがあった。

 

「ま、しゃあないか。日が暮れる前に、さっさと下山して「いや、それは少し待ってくれ。」ーーー・・・ハジメ?」

 

 そそくさと撤収準備に入ろうとした一同の動きが止まる。ハジメの声色が真剣味を帯びており、何かを見つけたのが容易に想像できたからだ。ハジメの邪魔をしない様に、黙ったまま固唾を飲んで見守る事数十秒、ハジメの口から凶報が告げられた。

 

「魔物の群れを見つけた。・・・数十匹なんてモンじゃない。少なくとも300は優に越えている。」

*1
運転席のハジメに膝枕されて爆睡していた。ユエは拗ねた。

*2
生成魔法により、重力魔法を付与された鉱物。重力を中和し、宙に浮く性質を持つ。

*3
同質の魔力を注ぐ事で、遠隔にあっても片割れの鉱物に映る景色をもう片方の鉱物に映す事が出来る。ゴーレム騎士達の目に使われていた鉱物で、ミレディもこれでハジメ達の細かい位置を把握していた。

*4
所謂、あすなろ抱き。




社が残穢に気付かなかったのは、膨大な『呪力』の塊である■■に取り憑かれているせいで、『呪力』感知がザルも良いとこなレベルになってるからです。なので今回の様に呪術の痕跡を見つけたい場合は、現状では完全にアルに頼りきりになります。
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