ありふれない怨霊こそ世界最愛   作:白紙

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お待たせしました。今年最後の投稿となります。

皆様、良いお年をお過ごし下さい。


67.竜人族

「全員気を抜くなよ!まだ終わってない!」

 

 シュラーゲンの次弾を装填しながら周囲に警告を飛ばすハジメ。その言葉を裏付けるかの様に、黒竜は満身創痍となりながらもハジメを睨み付けていた。首から右肩までの肉を竜鱗ごとごっそり抉られ、片翼は千切れ飛び、全身血塗れになっても尚、戦意に翳りは見られない。

 

(充填(チャージ)が足りなかったってのもあるが、寸でのところで逸らしやがった。一体、何処にそんな魔力が残っていた?)

 

 ハジメがシュラーゲンの最大充填(フルチャージ)を待たなかった理由は2つ。黒竜にこれ以上の抵抗を許したくなかったのと、最大威力で無くてもギリギリ仕留められると踏んでいたからだ。しかし予想に反して黒竜は純粋な魔力のみで爆風を生み出すと、ギリギリでシュラーゲンの弾丸を逸らしたのだ。アルの『術式』でかなりの量の魔力を奪われていたにも関わらずである。

 

「だが、どの道これで終いだ。くたばれ黒竜。」

 

 魔力の出所は気になるが、それ以上に戦闘を長引かせるのは悪手だと考えたハジメが、再びシュラーゲンを黒竜に向ける。今度こそ確実に敵を仕留めるべく、紅い雷が黒鉄の砲身に迸り、殺意と共に充填(チャージ)されていく。

 

 ザッパァァァン!!

 

「!?チッ、またか!」

 

 だが、シュラーゲンを放つよりも先に、黒竜の周囲の地面から間欠泉の如く水が吹き出した。射線を遮る様に吹き出した水流は、まるで蛇がのたうつ様に黒竜に纏わり付くと、そのままドーム状になり黒竜を閉じ込めてしまう。水流に巻き込まれない様に黒竜から距離を取ったハジメは、そのまま社達へと合流する。

 

「無事か、ハジメ。」

 

「あぁ。そっちも大丈夫そうだな。」

 

「・・・ん。全員、無事。」

 

 ユエの返事と共に全員がしっかり頷いたのを確認しつつ、ハジメは黒竜を見据える。水で出来た檻に閉じ込められた黒竜は、酸素を求めて苦しそうにもがいている。先程の様に暴風や息吹(ブレス)を使えば抵抗出来るだろうが、既に魔力は底を突いているのだろう。身体に纏わり付いた蔦や花も、シュワシュワと泡立ちながら溶かされていく。このままであれば、確実に溺れ死ぬだろうが・・・。

 

「この水は例の『術師』の仕業か。一体、何が目的だ?」

 

「?何って、黒竜にトドメを刺したいんじゃないですか?」

 

「・・・それなら、ハジメの邪魔をする必要は無い。」

 

「社サンは、どう思います?」

 

「さてねぇ。〝悪意感知〟には()()反応が無いから、単純に黒竜を殺したい訳じゃ無いのかもね。」

 

 黒竜への警戒を緩めないまま、ハジメ達は未だ姿を見せない『術師』に対して疑念を募らせる。植物のみを溶かす霧と言い、ハジメ達を援護した水球と言い、最初は寄生花を弱らせるのが目的かと思われたが、ここに来て何故か黒竜を仕留める邪魔をしている。無論、全て結果論ではあるが、どうにも『術師』の目的が見えて来ない。

 

(この『術師』は一貫して寄生花にのみ攻撃している。寄生された魔物にはそれが最も効率的だったから、俺達も特に違和感は感じなかったが。・・・黒竜を寄生花から解放したいのか?だが、何のために?第一、感じとれた悪意はーーー。)

 

「噂をすれば、だ。あれが例の『術師』みたいだな。」

 

 どこか違和感を拭えないまま思考を回していた社の意識が、ハジメの呟きによって現実に引き戻される。ハジメの視線を追った先には、此方に近づいてくる人物が1人。霧の中から出て来たのを見るに、十中八九、件の『術師』だろう。

 

「何かメイドさんみたいな格好してますねぇ?」

 

「みたいな、じゃなくてそのものだろう。この場には不釣り合いも良いとこだがな。」

 

 此方との距離が近付くにつれ、推定『術師』の容姿がハッキリとしてくる。性別は女性。伝統的(クラシカル)なロングスカートのメイド服に身を包んでおり、遠目で見ても断言出来る程の美女だ。腰程まである長い銀髪を三つ編みのハーフアップで束ねており、小走りながらも忙しなさは感じさせない歩みで向かって来る。従者として見苦しくない走り方をしていると言うより、ハジメ達に警戒されないギリギリの速度を保つ為の動きだろう。十数秒もしない内にハジメ達の下に辿り着いたメイドは、優雅さを崩さないまま挨拶を始めた。

 

「お初にお目に掛かります、皆様。不躾である事は承知の上でお訊ねしたいのですが、皆様が()()()()()()()()()()()()()()()で宜しいでしょうか。」

 

「・・・・・・そうだ、と言ったら?」

 

 両手でスカートの裾を持ち上げて綺麗な膝折礼(カーテシー)*1を披露したメイドの核心を突いた問いに、警戒を一段階引き上げながらハジメが答える。

 

「時間がありませんので手短に。霧の向こうの洞窟に、皆様が探しているであろう貴族のご子息様と、その護衛の方々がいらっしゃいます。衰弱を避けるため仮死状態で保護しておりますが、全員無事に生きておられます。」

 

「・・・何故、俺達が捜索隊だと?」

 

「保護した方々の中に1人だけ、冒険者に似つかわしくない雰囲気の方がいらっしゃいました。(わたくし)職業(メイド)柄、そう言った雰囲気には覚えがございます。恐らくは高名な貴族のご子息様では無いか、であれば捜索隊が出てもおかしくは無いのでは、と考えた次第です。」

 

「そいつの名は聞いたか?」

 

「えぇ。詳細まではお聞きしていませんが、名をウィル・クデタ様と。」

 

「名前まで知ってるなら、もう当たりじゃないですぅあ痛ぁっ!?何で太もも叩いたんですユエさん!?」

 

「・・・余計な事、言わない。やり口は幾らでもある。」

 

「今のは義姉(ネエ)サンちょっと迂闊。」

 

「まぁ、素直なのはシアさんの美徳だとは思うよ。」

 

「怪しまれるお気持ちも重々承知しております。ですが、ウィル様達のご容態も決して良いとは言えません。(わたくし)があの黒竜を抑えておきますので、どうか迅速にこの場をお離れ下さい。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

 メイドの流暢な受け答えに、眉間に皺を寄せて考えるハジメ。今のところ、メイドの発言に目立つ矛盾は無い。所々気になる点はあるが、今気にするべきでは無いだろう。問題は1つ、メイドがハジメ達の敵か否か。幾ら筋が通った言い分とは言え、鵜呑みには出来ない。タイミングが良過ぎるのもあるし、何より魔法と言う超技術が有る世界なのだ。幾らでも誤魔化しは効くだろう。

 

〝社。悪意感知に反応はあるか?〟

 

〝少なくとも、俺達に向けた悪意は殆ど無い。感覚的に俺達への警戒とか、その辺りだろう。〟

 

〝そうか。なら、シロか?〟

 

〝多分な。唯、ちょっと試したい事があるから協力してくれ。それによっては即戦闘に入る事になる。気を抜かないでくれ。〟

 

〝了解。〟

 

 ハジメと〝念話〟で手早く打ち合わせた社は、改めてメイドの方に向き直る。メイドの身体から薄らと立ち昇る『呪力』は、先程見つけた『残穢(ざんえ)』と一致している。彼女こそが植物を溶かしていた『術師』で確定だろう。向こうも社の『呪力』には気付いていたのか、少しだけ目を見開いて驚いていた。

 

「貴女の言葉を信じましょう、メイドさん。念の為聞きますけど、あの霧は俺達が触れても大丈夫ですか?」

 

「ええ、あの『毒』の霧は植物のみに作用しますので。まさか、こんな所で『呪術師(どうるい)』と相見(あいまみ)えるとは思いもしませんでしたが。」

 

「そうですね、それは俺も予想外でした。それで1つ聞きたい事があるんですがーーー撃て、ハジメ。」

 

 ドパンッ!

 

 社の合図と同時に、ハジメが()()()()()()発砲した。乾いた炸裂音が響くが、しかし何時もの様に弾丸は放たれない。大きな音が鳴っただけーーー要するに唯の空砲である。だが、それを知るのはハジメと社だけだ。異世界の人間が、地球の銃器の仕組みを知る筈が無い。ハジメ達の戦いを眺めていた彼女には「大きな音と共に閃光が撃ち出されていた」位にしか見えていなかっただろう。

 

 ズドドドド!!

 

 空砲の音に釣られて、地面から無数の土の壁が迫り上がる。弾丸が本当に放たれていたのなら丁度その射線上に、まるで黒竜を庇う盾の様に見えただろう。勿論、黒竜が生み出したものでは無い。感じる魔力は、ハジメ達の目の前にいるメイドのものと同一だ。どう見ても、彼女が黒竜を庇ったのは明白だった。

 

「さっきのは空砲、言ってしまえばハッタリです。さて、一応お聞きしますが、貴女は一体どの勢力の人間なんでしょう。あの寄生花を生み出した勢力ですか?それとも、黒竜側の勢力ですか?若しくは、魔人族側ですか?ーーー或いは〝狂った神〟側だったりしますか?是非、お答え頂きたい。」

 

「・・・・・・おやおや、(わたくし)とした事が、鎌掛けに引っかかってしまいました。まだまだ精進が足りませんね。」

 

 更に警戒を強めるハジメ達とは対照的に、クスクスと愉快そうに笑うメイド。してやられたと言う割には、社達に対する悔しさや怒りは微塵も感じられない。余裕を崩さない得体の知れない相手に対して、ハジメ達は既に何時でも動ける体勢に入っている。一触即発の空気が広がる中、先に口を開いたのはメイドだった。

 

「失礼致しました、皆様。先程の問いに答えるならば、(わたくし)はあの寄生花でも、魔人族でも、ましてや狂った神の勢力に与している訳でもありません。(わたくし)はあの黒い竜ーーー哀れにも寄生花に操られ、現在進行形で醜態を晒している竜人族の姫様にお仕えしているメイドに御座います。」

 

「・・・竜人族?本当に?」

 

「確か、何百年か前に滅びたって言う、あの?」

 

「えぇ、その竜人族で相違ございません。皆様を謀ろうとした事については、平にご容赦を。我々は嫌われ者ですので、無用な諍いを避けたかったので御座います。*2

 

 メイドの言葉に色々な意味で驚く一同。中でもユエは特に驚いた様で、珍しく瞳に好奇の光が宿っている。吸血姫のユエにとっても竜人族は伝説の生き物である。自分と同じ絶滅したはずの種族の生き残りとなれば、興味を惹かれるのも頷ける。

 

「その竜人族が、何故こんなところに?」

 

「話せば長くなりますので、お嬢様を介抱してからでも宜しいでしょうか?もうそろそろ、寄生花も溶かし終えてーーー。」

 

 ドパァァァン!!

 

「・・・おやまぁ、まさか〝水牢〟*3を振り払うとは。誤算でしたわ。」

 

「言ってる場合ッスか!?結構余裕あるッスね、メイドさん!つーか、どんだけ底無しなんスかあの黒竜!アタシ無茶苦茶魔力搾り取ったハズなんスケド!?」

 

 あくまでも余裕を崩さないメイドに対して呆れながら、アルが驚愕と共に叫ぶ。然もありなん、自身を覆う水のドームを吹き飛すべく、黒竜は再び純粋な魔力による爆発を起こしたのだ。アルに魔力を根刮ぎ奪われた上、シュラーゲンを防ぐために黒竜は限界まで魔力を使い切っていた。どこにそんな力が残っていたのかとハジメ達が疑問に思うのも当然だった。

 

 グギュッ、ルゥ、ルゥアアァァーーー。

 

「そんなにボロボロなのに、まだ戦うつもりですかぁ!?」

 

「・・・もう、動くのも辛い筈。まだ、操られてる・・・?」

 

 全身を血に染め悲痛な叫び声を上げながらも、未だ動こうとする黒竜を見て悲しげな顔をするユエとシア。溺死寸前まで追い込まれ半死半生となりながらも、黒竜は傷だらけの身体を引き摺りもがいていた。敵であれば容赦すべきでないと頭では分かっているものの、余りの痛々しさに2人は悲痛な表情を隠せない。

 

「妙ですね、体を覆う寄生花は全て溶かしました。口からもかなりの量の『毒』を飲ませたので、体内にも残っていないと思うのですが・・・。」

 

「いや、まだ生き残ってる。ハジメ、〝魔眼鏡〟で見えるか?」

 

「あぁ。さっきまで周りの寄生花が邪魔だったが、今なら見える。不自然に魔力が集中してる場所があるな。」

 

 ユエ達とは異なり全く表情を変えないメイドを訝しみつつも、社とハジメは最後の寄生花を見つけ出す。黒竜を覆っていた蔦と花を溶かした事で、体内に隠れていた核となる花が持つ悪意と魔力を感知したのだ。

 

「細かい場所までは俺には分からんが、多分ラス1だよな。」

 

「あぁ。それに、尽きない魔力の絡繰りにも納得がいった。あの寄生花、()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「あー、やっぱりか。そんな気はしてた。」

 

「「「「!!」」」」

 

 ハジメの無慈悲な断定に、社以外の全員が目を見開いた。ハジメがその事実に気付けたのは、〝魔眼鏡〟により読み取った不自然な魔力の流れが、ハジメが得た技能〝魔力変換〟の挙動とよく似ていたからだった。

 

 〝魔力変換〟は魔力を別の物ーーー具体的には魔法や身体強化等に使用する際の変換効率が上がる常時発動(パッシブ)型の技能である。そして〝魔力変換〟が派生すると[+体力]や[+治癒力]と言った様に、魔力を別の物に変換できる様になるのだ。黒竜の不自然な魔力発生は、これらの派生技能と非常に似通っていた。

 

「南雲サンは兎も角、何で社サンは分かったんスか?」

 

「大抵の場合、無法な力ってのは無法な代償が付き物だ。『呪術』やら『縛り』うんぬん関係無くね。だから、あぁなるのも納得してるだけさ。・・・で?どうするよ?」

 

「どうするって、何がだ。」

 

「あの黒竜をこのままブチ殺すのか、それとも助けるのかについてだ。因みに俺は助けるのもアリだと思ってる。」

 

「はぁ?」

 

 突拍子の無い社の発言を聞き、「何言ってんだコイツ」と言わんばかりの表情になるハジメ。相変わらずいきなり過ぎる発言に呆れつつも、さっさと説明しろと促す視線をハジメが向けると、社は苦笑しつつも説明を続ける。

 

「まずメイドさんに聞きたいんですけど、貴女のお嬢様が誰にどうやって寄生されたのかって知ってます?」

 

「いいえ。情報収集のために、別行動していましたので。完全に裏目に出てしまいましたが。」

 

「・・・つまり、現時点で寄生花の正体に1番近いのはあの黒竜で、どうにか生かせれば下手人の正体を探れるかも知れない、と。」

 

「その通り。」

 

 社の意見を聞き、ハジメもまた黒竜を生かす事のメリットを考える。メリットは先程社が言った様に、一連の寄生花騒動の下手人が分かるかも知れない事だ。寄生花を生み出した存在は、十中八九人類に敵対的な存在だろう。これからも敵対する可能性は決して低く無いため、今の内に正体を暴いておくのは悪い話では無い。メイドが嘘を吐いている可能性も、悪意を読める社が指摘しない以上、考えなくて良いだろう。だが。

 

「俺達が、そこまでする必要があるか?理由はどうあれ、此奴は俺達を殺す気で襲って来ただろう。俺は殺すべきーー「・・・私は、反対。」ーーユエ?」

 

 それでも尚、黒竜にトドメを刺そうとするハジメに待ったをかけたのはユエだった。ごくごく自然にハジメに抱きついたユエは、上目遣いになりながら真っ直ぐにハジメの目を見て言葉を紡ぐ。

 

「・・・ハジメも、分かってる筈。黒竜は、一度も殺意も悪意も向けなかった。」

 

「それは、そうだが・・・。」

 

「・・・自分に課した大切なルールに妥協すれば、人はそれだけ壊れていく。黒竜を殺すことは本当にルールに反しない?」

 

 ユエが最も懸念していたのは、ハジメが〝敵〟以外を殺す事で壊れていく事だった。ユエとて、ハジメの〝敵は全て殺す〟スタンスは知っている。だが、だからと言って〝敵〟となり得る者全てを殺してしまえば、ハジメは何時かきっと壊れてしまうだろう。

 

「・・・あの黒竜は、きっと〝敵〟じゃない。私は〝敵〟じゃない相手をハジメに殺して欲しくない。」

 

 元吸血鬼族の王であって、手痛い経験もあるユエの人を見る目は確かだ。そのユエの眼が、今の黒竜が〝敵〟には見えなかった。無論、殺し合いの最中にまで配慮しろとは言わないが、余裕のある今ならまだ生かす道もあるとユエはハジメに告げていた。

 

「・・・分かったよ。シアとアル、お前らもそれで良いか?」

 

「勿論ですぅ!正直、戦ってる最中ならまだしも、あんなに苦しんでいる相手に追い討ちをかけるのはちょっと嫌でした!」

 

「アタシは、まぁ、どっちでも。皆サンに合わせるッス。」

 

 ハウリア姉妹も黒竜を生かす事に否は無いらしい。ハジメは片腕でユエを抱きしめたまま溜息をつくと、最愛の人の言葉に従おうと決める。大切なパートナーや仲間達の意見を無視してまで、黒竜を殺そうとする気はハジメには無かった。

 

「・・・決まりか。オイ、メイドもそれで良いな。」

 

(わたくし)にとっては願ってもない事ですが、本当に宜しいのですか?」

 

「お前がウィル達を保護してた分を返すだけだ。後、助けるのが無理そうなら躊躇無く殺すからな。」

 

「えぇ、お嬢様も(わたくし)も覚悟の上です。皆様の慈悲に、心より御礼申し上げます。」

 

(・・・なぁんか、イマイチ読めないメイドさんだな。黒竜を助けたいってのは、本心っぽいが。さっき黒竜に悪意を向けていた様に感じたのは気のせいだったかね?)

 

 フワリと、先程よりも深い膝折礼(カーテシー)を決めるメイドに対して、微妙な引っ掛かりを覚える社。今のところ、メイドはハジメ達に警戒以外の悪意を向けていない。ウィル達を人質として使った交渉等もしてくるかと予想していたが、そう言った様子も無い。黒竜を助けると決めたハジメ達に対する感謝も、悪意を感じない以上は本心だろう。教会に正体がバレるリスクを背負ってまでウィル達を保護していた事も加味すれば、少なくとも目の前のメイドは「常識と良識を兼ね備えた善人」と言う評価になる。唯一、気になるのはメイドが黒竜にむけて()()()()()()()()()()()()()事だった。

 

(うーむ、分からん。今まで出会った事の無いタイプだ。)

 

「それで、方針が決まったのは良いんですが、どうやって黒竜さんを助けます?そもそも、体内にある寄生花って具体的にどの辺りにあるんですぅ?」

 

「・・・場所が分かったところで、取り除く方法が無ければ同じ。」

 

「生命力を魔力に換えてるってンなら、あんまり時間も無いッスよね。」

 

「難しく考える必要はねぇ。寄生花の場所も対処方も、もう思いついてる。おい、メイド。()()に寄生花を殺していた毒を塗れ。」

 

「それは構いませんが、一体何処からお出しになりましたのでしょう。メイド驚愕の収納術で御座いますね。」

 

 ハジメが〝宝物庫〟から取り出したのは、直径20cm・長さ1.2m程の大きな杭だった。その正体は義手の外付け兵器、〝パイルバンカー〟より射出する為の弾丸だ。〝圧縮錬成〟により4トン分の質量を圧縮し、表面をアザンチウム鉱石でコーティングした、文句無しに世界最高重量且つ硬度の杭である。

 

「それでは失礼して。ーーー『術式』起動。」

 

 いきなり虚空から現れた杭に驚きながらも、メイドは『術式』を発動する。すると、メイドの周囲に直径5cm程の透明な水球が現れる。次第に数が増えていく水球は次々と杭に纏わりつくと、杭の表面を満遍なく濡らしていく。30秒も経てば、杭の表面は余すとこなく綺麗にコーティングされていた。

 

「コイツで外側から黒竜ごと寄生花を貫く。シンプルで分かりやすいだろ?」

 

「おいマジか、ハジメが脳筋(オレ)みたいな解決策出しやがった!」

 

「嬉しそうな顔してんじゃねぇよ。寄生花が黒竜の生命力を奪っているなら、下手に時間はかけられねぇだろ。俺が寄生花をブチ抜いたら、お前が『呪力反転』で黒竜を治せ。」

 

 ハジメの〝魔眼鏡〟ならかなり正確に寄生花の位置を見抜ける為、刺し間違いはまず起こり得ない。猶予がどれほど残されているか分からない以上、手段を選ぶ時間さえ惜しい。やり方が酷く乱暴である点を除けば、ハジメの提案は酷く合理的であった。

 

「まぁ、それが一番手っ取り早いか。悪いけど、メイドさんもそれで良いですね?」

 

「勿論で御座います。最終的に救えるのであれば、多少の無茶も折り込みずみですわ。」

 

(・・・何かまた黒竜に愉悦を感じてないか?いや、でも黒竜を助けたくない訳でも無さそうだし・・・良く分からんな、このメイドさん。)

 

「他の面子は念の為黒竜の周囲で待機!黒竜が抵抗してきたら、力づくで抑えろ!」

 

 メイドの悪意に後ろ髪を引かれつつも、社はハジメと共に黒竜に近づいて行く。未だ寄生花の支配下にある黒竜はどうにかしてハジメ達を迎撃しようとするが、既に身体の自由が効かないのか身じろぎしか出来ていない。ユエ達が固唾を飲んで見守る中、ハジメと社は遂に黒竜に触れられる位置まで近づいた。

 

「そう言えば、寄生花の位置って何処なんだ?」

 

「目の前だが。」

 

「・・・・・・成る程、尻尾か。」

 

「何処見てんだよ、尻尾じゃなくて尻だ、尻。尻の中に寄生花が居やがる。」

 

「よりにもよって(ソコ)かー。何でまた、そんなとこにーーーいや、外部から体内に種を埋め込んだと考えれば、寧ろ自然な選択肢ではあるのか?」

 

 寄生花がどういった過程(プロセス)を経て魔物に取り付くか分からない為断言は出来ないが、アルラウネモドキと同じように胞子を吸わせる場合、かなりの量が必要になった筈だ。体内に取り込ませると言う点を考えれば、口だけでなく尻からも吸収させるのは、方法としてはアリなのかも知れない。

 

「あの〜、ユエさん?私の気のせいじゃなければ、ハジメさん、黒竜のお尻目掛けて構えてません?」

 

「・・・・・・ん。社が直すから、大丈夫。多分。きっと。」

 

「そう言う問題なんスかねぇ!?なんか社さんも止める気無いっぽいスケド!アレ、良いんスか、メイドサン!?」

 

「・・・・・・えぇ、まぁ、お嬢様には良いお灸になるでしょう。」

 

「えぇ・・・。」

 

 ユエ達も寄生花の場所を察し、ハジメがしようとしている事に顔を引き攣らせる。最も、誰も本気で止めようとはしない辺り、黒竜に対する躊躇いは欠片も無かったが。

 

「俺達の手を焼かせた挙句、態々助けてやるんだ。何も知らないじゃ済まさねぇからな。」

 

「・・・安らかに眠ってくれ、黒竜さん。」

 

 毒でコーティングされた杭を担いだハジメは、黒竜の尻尾の付け根の前に陣取ると槍投げの様な構えを取った。ご丁寧に〝豪腕〟も発動しており、確実に(あくまでも寄生花を)仕留めるつもりなのだろう。黒竜の末路を想像した社も、流石に同情を禁じ得なかった。

 

「さぁ、お注射の時間だ。歯ぁ食い縛れ!」

 

 そして遂に、ハジメのパイルバンカーが黒竜のお尻目掛けて勢いよく突き込まれた。ズブリと音を立てて突き刺さる様は、思わず目を背けたくなる程に完全にOUTな絵面である。

 

 グ、グギャアァアァァァアアア!?!?!?

 

「・・・まだ、寄生花生きてないか?悪意が消えないんだが。」

 

「ん?あぁ、結構奥まで入り込んでるみたいだからな、まだ完全に殺し切れて無いんだろ。もうちょい押し込むか。」

 

 ドゴムッ!!

 

 〜〜〜〜〜ッ!?!?!?

 

「うわぁ、エッグゥ。」

 

 杭の入りが足りないとみるや、ハジメは躊躇無く拳で杭を押し込んでいく。ズムズムと生々しい音を立てて杭が入り込む度に、黒竜は声に鳴らない悲鳴を上げながら痙攣している。いっそ殺してあげた方が良いのでは?と言う考えがハジメ以外の頭を()ぎる。そして。

 

「おっ、手応えありだ。このままブチ抜いてやる。」

 

 ドゴムッッ!!

 

〝アッーーーーーなのじゃああああーーーーー!!!〟

 

 一際力強くハジメが杭を殴り込んだと同時、黒竜の口から明確な悲鳴が発せられた。漸く寄生花の支配から脱したのだろう。その証拠に寄生花の持つ悪意や不自然な魔力の流れは跡形も無く消え去っていた。

 

〝お尻がぁ~、妾のお尻がぁ~。アヒィン♡〟

 

「ったく、手間取らせやがって。まぁ、これだけ騒ぐ元気があるなら問題無いだろ。

 

「・・・本当に大丈夫だろうか、色々な意味で。」

 

 黒竜の悲しげで切なげで、それでいて何処か興奮したような声音をBGMに、「またハジメが苦労する予感がする」と不吉な事を思いながら、社は『呪力反転』で黒竜の治療を開始したのだった。

*1
目上の相手に対して、片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げて背筋を伸ばしたままする礼。

*2
〝竜化〟という固有魔法を使えた為、魔物と人の境界線を曖昧にし差別的排除を受けた、半端者として神により淘汰された等、様々

な説があるが、教会からは一律で良く思われていない。

*3
本作オリジナルの水属性の中級魔法。対象の周囲に水の膜を発生させる、本来なら防御用の魔法。




色々解説
・本作オリジナル魔法〝水牢〟について
本作オリジナルの水属性の中級魔法。注釈にも書いた様に、本来は対象の周囲に水の膜を発生させる防御用の魔法。今回は生み出した〝水牢〟に『毒』を混ぜた上で、膜の内部を水で満たして溺れさせた。黒竜を弱らせつつ『毒』も飲ませられるので妙手ではある。必要以上に黒竜が苦しむ点に目を瞑れば。

・〝魔力変換〟について
原作にて詳細な説明が(作者が探した限りでは)無かったので、本小説では魔力を使用する際の効率が良くなる常時発動(パッシブ)型の技能と定義。尚、寄生花が行っていた様な生命力→魔力の様な変換を、ハジメと社が出来る様になるかは不明。

当小説オリキャライメージ画像
宮守社(画像はストイックな男メーカーより)

【挿絵表示】

アル・ハウリア(画像は妙子式2より)

【挿絵表示】

竜人族のメイド(画像は妙子式2より)

【挿絵表示】
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