ありふれない怨霊こそ世界最愛 作:白紙
北の山脈地帯からウルの町に向けて、陸地を高速で移動する物体が2つ。獣道よりはマシ程度の荒れた道をものともせず突き進むのは、ハジメ作の魔力駆動四輪と魔力駆動二輪である。
〝この調子で飛ばしたとして、ウルの町まで2時間くらいか。深夜になる前には着くかね。〟
〝ああ。魔物共の速度からして、少なくとも丸1日は掛かる。俺達が着いた頃には手遅れ、なんてのは有り得ない。〟
それぞれ二輪と四輪を運転しながら〝念話〟で連絡を取り合うハジメと社。彼等が今、全速力でウルの街に向かっているのは、魔人族の企みーーー魔物の軍勢がウルの町に向けて進軍しているのを知ったからであった。
〝滅んだ筈の竜人族に、魔人族側の切り札らしき寄生花に、万を超える魔物の大群。挙句の果てには
〝あの駄竜を態々助けた甲斐はあったらしいな。〟
ハジメに打たれた注射*1により、黒竜ーーーティオ・クラルスと名乗った彼女は、無事?に寄生花から解放された。その後、社の『呪力反転』により怪我を治療されたティオの口から語られたのは、竜人族たる彼女達がこの地に来た経緯と、自らを操った下手人達の目的についてだった。
ティオによると、事の発端は数ヶ月前に竜人族の隠れ里にて異常な規模の魔力が感知された事だった。竜人族の中でも魔力感知に優れた者が、特大の魔力の放出と共にこの世界以外から来た何者かーーーつまりハジメ達がこの世界にやって来た事を感知したのだ。
竜人族には〝表舞台には関わらない〟と言う掟もあったが、彼等は「未知の来訪者達を何も知らないまま放置するのは、自分達にとっても不味い」と結論付け、議論の末に異世界からの訪ね人達の調査に踏み切った。その調査員と言うのが、ティオとお付きの
彼女達は山脈を越えた後は人型で市井に紛れ込み、竜人族である事を秘匿して情報収集に励む予定だった。が、万が一竜人族である事を見抜かれた時の事も考え、先にフィルルだけがウルの町に潜り込んだらしい。そしてその間、ティオは休息を摂るべく1つ目の山脈と2つ目の山脈の中間辺りで休んでいた。「下手な魔物は歯牙にも欠けず、寧ろ警戒すべきは人間族である」と考えてフィルルを先行させたティオが浅慮だったとは言えない。事実、北の山脈地帯には彼女達を傷つけ得る存在は皆無だからだ。だが、結果的にこの判断は間違っていた事になる。
ティオは休息中、竜人族の代名詞たる固有魔法〝竜化〟により黒竜形態になっていた。これは周囲の魔物に寝込みを襲われまいと考えたからであったが、唯一の問題点として滅多な事では起きられなくなってしまう。それこそ
睡眠状態に入った
黒ローブの男達の目的は、寄生花で支配した魔物の軍勢でもって人間族の町を襲撃する事だった。寄生花に支配された
魔物達から逃走していたウィル達を見つけたティオは、命じられたままに彼等を襲おうとして、しかし失敗した。冒険者達を襲撃する寸前、間一髪のところでフィルルが
フィルル本人に聞いた話によると、ウルの町で「北の山脈地帯がきな臭い」との情報を聞き、念の為に急いでティオの下に戻ろうとしたところで、
その後はハジメ達も知っての通りである。寄生花に支配された
〝愛子先生達の様子はどうよ?〟
〝問題無いとは言わないが、今は落ち着いてる。てっきり、俺達にどうにかしてくれ、なんて泣き付くかとも思ったがそれも無しだ。他の奴等もな。〟
〝ほーん。色々考えてんのかもなぁ。〟
ハジメ達の無事を知り喜んだのも束の間、事のあらましを伝えられた愛子と〝愛ちゃん護衛隊〟の面々は揃って顔を蒼白に変えた。然もありなん、どれだけ彼等が優れていようとも、数万の魔物の群れをどうこう出来る道理は無い。何より、クラスメイト達は未だトラウマを払拭できていないのだ。・・・それでも尚、誰1人として強者側のハジメ達に縋らないのは、未だ現実を飲み込めていないのか、それとも別の理由があるからだろうか。
〝大丈夫そうなら、それで良いか。・・・それで?車体に括り付けられて、滅茶苦茶に揺らされてるにも関わらず、何故か恍惚としてる竜人族のお姫様について、我が親友たるハジメくんはどうお考えで?〟
〝・・・・・・・・・知らん。〟
社が話題を変えた途端、露骨に声のトーンが下がるハジメ。〝念話〟である為に表情は見えないが、間違い無く嫌な顔をしていると断言出来る口ぶりだった。が、その程度で会話を打ち切る優しさは社には無い。
〝いやそりゃ無理あるだろ。今だって、ハジメに向けてすっごい悪意向けてんだぞ?主に色欲っつーか、ドマゾい劣情だけど。絶対、尻に杭ぶち込んだのが原因だって。イケナイ扉開かせちゃったんだって。〟
〝知らんったら知らんっ!クソッ、何で俺はあの時、あんな血迷った真似をしちまったんだ、チクショウ!!〟
不可抗力に近いとは言え、厄介な変態を誕生させてしまったかも知れない事実に戦慄するハジメ。そんな親友に憐憫を抱きつつ社が四輪の天井を見やると、やはりと言うべきかティオはうっとりと頬を染めながら嬉しそうにビクンビクンしていた。見た目は酷く艶かしい美人*2なのだが、この光景を見ると百年の恋すら冷めそうである。
因みに、何故ティオが四輪の天井に括り付けられてるのかと言えば、単純に座る席が無かったからだ。行きでさえ人数ギリギリであったのに、更にそこへ竜人族を2人乗せるスペースは無かったのだ。整地機能が追いつかない程に速度を出している為、天井に磔にしたティオと荷台の男子生徒はミキサーの如くシェイクされているが、ティオにとっては問題無いらしい。未だハジメ達から受けたダメージは抜け切っていない筈だが、ここまで来ると何らかの技能が発動しているのでは?と疑いたくなるレベルである。
「世の中には、色んな
「そんな低俗な理由で世界の広さを知らなくても良いんじゃ無いかな。と言うか、フマリスさん的にはアレって大丈夫なんです?」
何処か遠い目で悟った事を言うアルに突っ込みつつ、社はサイドカーに乗せていたフィルルに話を振る。今現在、社にとって最も目を当てられない*3のはティオであるが、最も気にしている相手はフィルルだった。
「?それはティオお嬢様の事でしょうか。」
「ええ。クラルスさんって、良いとこのお嬢様なんでしょう?それが事故に近いとは言え、あんな風になってるんで。何かあるかなぁ、と。」
「・・・お嬢様も既に成人なされてから、幾久しく経ちます。で、あるならば、ご自分の進む道はご自分で決められるでしょう。そこに従者である
四輪の天井で悶えるティオを見ながら、従者として模範的であろう答えを返すフィルル。言葉だけ見れば「主人を信じる忠誠心の高い従者」の台詞であるが、何処か
「ンー、要するに、自己責任だから干渉はしないって事ッスか?」
「平たく言えば、そうなりますね。」
(・・・嘘は言ってない。騙そうとしたり隠そうとする素振りも無い。俺の考え過ぎか?)
〝悪意感知〟に
(何でフマリスさんは今のクラルスさん見て〝
本来であれば、社はここまで他人の悪意に頓着しない。〝悪意感知〟で様々な悪意を読み取れる関係上、気にし過ぎればキリが無いし、何より「人間誰しも大なり小なり悪意は持つものである」と社は認識しているからだ。にも関わらず社がここまで考えているのは、フィルルの悪意が社にとって未知数だったのと、ハジメ達を巻き込まないかを心配しているからであった。
(駄目だ、全然分からん。ハジメ達に実害無ければ良いか。竜人族の内ゲバなんざ、どーでも良いしなぁ。)
「・・・
「へ?いきなりどうしたんスか?」
「いえ、宮守様が考え事をしている様でしたので、
フィルルからの突然の話題に、少しだけ面食らう社とアル。どうやら、社が黙り込んだのを見て誤解したらしい。最も、社がフィルルについて考えていたのは事実の為、彼女の勘違いもそう的外れでは無かったが。
「気にならないと言えば嘘になりますが、聞くつもりはありませんよ。」
「?何故でしょう?」
「例え親しい仲であっても、『術式』を無理に聞き出すのは『呪術師』的にはマナー違反らしいッス。アタシも聞き齧りッスけどね。」
「・・・成る程。」
(・・・『術式』や『呪術師』って単語には反応しないか。竜人族の里では『呪術師』が珍しくないのか、それとも何らかの資料やらが代々受け継がれているのか?いや、それなら迂闊に自分の『術式』について話そうとはしないか。)
何処か納得のいかない表情のフィルルを見る限り、『呪術』に関する知識はある様だが、『呪術師』特有の不文律は知らなかったらしい。あれだけ『術式』を操れるにも関わらず、持っている知識がチグハグであるのは妙な違和感があった。
「社サン、社サン、ちょっと良いッスか?」
「ん?何?アルさん。」
「イヤ、話変わっちゃうんスケド。さっきからずーっと、アタシらメッチャ睨まれてません?」
「あー・・・やっぱり、気になるよねぇ。」
アルに耳打ちされた社は、渋々ながらも自分達を見つめている相手に目を向ける。社達を射抜かんばかりの視線は、前を走る四輪の荷台から飛んできている。具体的には、人数オーバーの為に仕方無く後ろに乗せられた〝愛ちゃん護衛隊〟が1人、相川昇が発生源だった。
「
「やっぱ、ずーっとコッチ見てたッスよね?アタシら何かやらかしちゃいましたっけ。心当たりあるッスか、社サン。」
「うん、いや、あると言うか、寧ろ心当たりしか無いと言うか。ぶっちゃけ、今この状態が原因だろうね。」
社の微妙に要領を得ない答えに、横に座っているフィルルと、
「このまま睨まれてんのも良い気分しないだろうし、ここは1つ穏便に話をすませようかね。」
「とか言いつつ、ワルワルな笑顔なのが少し怖いんスケド。」
不安がるアルを余所に、社は二輪を加速させて四輪に近づいて行く。荷台に乗っている男子生徒達は、地面からの振動をダイレクトに食らっている為か顔を青くしてグッタリしていた。それは相川も例外では無かったが、目だけは爛々と血走っており、嫉妬の念と共に社を睨み付けている。あの様子では、まともな話にはなりそうも無いが・・・。
「『式神調
「ハ?イヤイヤ、式神まで呼んで何するつもりッスか、社サン。」
「おや、これはまたユニークな『術式』でございますね。」
片や困惑、片や興味と反応は別れつつも、態々式神を呼んだ社の狙いは、アルとフィルルには見えて来ない。「一体何をするつもりだろう」と2人が頭上にハテナマークを浮かべた次の瞬間。
「ウェ〜イ、相川君見てる〜?俺は今、美人さん達と一緒に楽しく
「「「「ーーーーーーーーー。」」」」
「おやまあ。」
何をどう言い繕っても、擁護出来ない外道がそこに居た。〝
「■Φ★死●dieμ▲殺⬜︎ーー!」
「昇が壊れたぁ!?おっま、みや、宮守ぃ!お前、このタイミングでなんつー事口走ってんだよぉ!」
「おい馬鹿、落ち着け!あんまり激しく暴れると酔いが酷くーーーウップ。」
「頼むから耐えてくれよ、明人!クソッ、これが本当の煽り運転ってか!?喧しいわボケが!!!」
相川の豹変を皮切りに、四輪の荷台で阿鼻叫喚の惨劇が形成された。視線と
「相川も
「インスタントに地獄作っといて、反応がソレだけって
「あらあら。中々に愉快な方々でいらっしゃいますね。」
素晴らしい反応を見せてくれた相川にご満悦の社と、それをジト目で眺めるアル、そしてクスクスと上品さを崩さずに笑うフィルル。目と鼻の先で繰り広げられる惨状を前に三者三様の反応を見せる『呪術師』達だったが、ここで突然四輪のサンルーフ*4が開くと愛子が顔を出した。前方に向けて必死に手を振る愛子を見た社は、何事かとハジメに〝念話〟で問いかける。
〝ハジメ、愛子先生何してんの。〟
〝前から愛子先生の護衛騎士の奴等が来てる。んで、四輪に攻撃しようとしてるから、今必死に止めてんだよ。〟
〝へー。意外と早かったな。〟
ハジメの端的な説明を聞き、納得しながらも興味を失う社。現在地がウルの町と北の山脈地帯の丁度中間辺りである事を考えると、愛子が居なくなったと知り、直ぐに出発する準備を始めたのだろう。園部達が残した書き置きも余り意味をなさなかったらしい。
「一体どうしたンスか、先生サンは?」
「愛子先生を追って来た護衛の連中が四輪を攻撃しようとしてるから、それをどうにか止めようとしてる。」
「ウゲェ、アイツらがぁ?」
護衛騎士に対して心底嫌そうな顔をするアルに苦笑しながら、社は〝
「デビッドさーん、私ですー!攻撃しないでくださーい!」
デビット達護衛騎士の魔法を止めるべく、声を張り上げる愛子。攻撃されたところで簡単に傷付く様な柔な作りはしていない為、極論このまま突っ切ってしまっても問題は無い。が、荷台の生徒達やティオに当たる事も考えれば、愛子的にはそうもいかないのだろう。そんな愛子の必死さが通じたのか、何時の間にかデビット達は魔法の発動を中止していた。
〝何であいつら、あんなうっとりしてるんだ、気持ち悪い。〟
〝愛子先生と感動の再会(笑)ができて、嬉しいんだろうさ。当の本人には全く相手にされてないってのに、哀れな奴等だよ。〟
デビット達の恍惚とした表情を見て、呆れた様にウンザリするハジメと社。愛子との再会が余程嬉しかったのか、護衛騎士達は1人残らず満面の笑みと共に両手を大きく広げている。まるで「さぁ!飛び込んでおいで!」と言わんばかりである。良い年した大人が揃って同じ事やってる絵面は、中々にキツいものがあった。
〝で、どーするよ?〟
〝説明が面倒だ。このまま突っ込む。〟
〝了解。「関係無い、行け」って事ね。〟
手短に〝念話〟を済ませたハジメと社は、魔力を思いっきり注ぎ込み二輪と四輪を加速させた。社に至っては〝
〝チッ、惜しい。避けやがったか。〟
〝お前はホント、身内の敵に容赦ねぇよな。〟
〝シアさんとアルさんを馬鹿にした挙句、逆ギレして剣を抜こうとしたあの屑供が悪い。こちとら天職『呪術師』だぞ?やられた恨みは晴らすまで根に持つに決まってる。〟
〝お前が味方で良かったよ、本当に。〟
ハジメと社が〝念話〟会話している間にも、デビット達との距離はどんどん離れて行く。愛子の「なんでぇ~」という悲鳴染みた声がドップラーしながら流れていき、それを聞いたデビッド達は我を取り戻すと、猛然と四輪を追いかけ始めた。「愛子ぉ~!」と叫びながら迫る姿は、実態は兎も角として、まるで無理やり引き裂かれた男女の悲恋物語を思わせた。
「さぁて、ウルの町まで後半分だ。それまではもう少し
「さっきフツーにアイツら轢こうとしてた人とは思えない爽やかさッスね。イヤ、別に良いんスケド。」
「・・・ク、クフ、ウフフフフ、本当に、皆様は面白い方ばかりですわね。」
(今笑うとこあったか?)/(笑いのツボが謎ッスね?)
魔物の大群と言う弩級の災害を背後に抱えながら、一行は急ぎウルの町に戻って行く。多くの者が命を懸けるべき鉄火場は、もうそこまで迫っていた。
尚、町に着いた際、憧れの竜人族であるティオの醜態ーーー具体的には四輪の振動をボロボロの身体で受けて〝感じていた〟ーーーを知ったユエは、珍しくショックを受けた表情になっていた。現実は非情である。
色々解説
・ティオが既に駄竜呼ばわりされている件
原作ではティオのドMっぷりが発覚するのはもう少し後だが、本作だと〝悪意感知〟経由でハジメに向けた劣情が伝わっているので、既に扱いが雑になってる。尚、それにより一番得しているのはティオなので、余り意味は無かったりする。
・社→デビット達護衛騎士に対する反応
シアやアルに正式に謝罪した訳でも無ければ、彼女達が許すと言った訳でも無いので、普通に好感度は最低値のまま。社的にはほぼ敵扱いの為、今度何かやらかしたら愛子達の目に入らない場所でそのまま処理される可能性大。