ありふれない怨霊こそ世界最愛   作:白紙

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キャラ崩壊注意、かな?後、次回から原作突入します。


7.友人たちの話⑥ー宮守社の友人達ー

1.清水幸利の友人事情

 

「それではこれより、第・・・何回目だこれ?まあいいや、【南雲ハジメに白崎香織さんが絡むのをなんとかしようの会(仮称)】開催しまーす」

 

 相も変わらずクッソグダグダな音頭の後「ドンドンパフーピューピュー」等と社のヤツが口で擬音を出しながら何時もの集まりが始まった。

 

 ・・・毎回思うんだがこの馬鹿っぽいくだりいるのか?いや、様式美とか言われたら一端のオタクである俺は黙らざるを得ねーか。そういうのはお約束としてなら尊ぶべきものだろうからな。水戸黄門の印籠然り、戦隊モノの変身シーン然り、王道というのはそれだけ多くの人間に支持されてきたものだ。訓練されたオタクであるという自負がある俺としては、その辺りを蔑ろにする訳にはイカンよな。

 

「はーい、というわけでハジメ君、前回の議題で出た【時間ギリギリまで俺達と空き教室で時間をつぶし、ホームルームギリギリで教室に入ることで、白崎さんの朝の追撃を躱そうぜ大作戦】の首尾を報告願いまーす」

 

 一人で様式美について俺が納得していると、社はとても楽しそうにハジメに報告をするよう促す。最初の音頭と言い俺たちといる時の言動と言い、教室にいる時と全然雰囲気とか態度違うじゃねーか。なんでこんなちゃらんぽらんな奴が文武両道な優等生で通ってやがるんだ。猫被っているとは言え、周りのクラスメイトも教員も見る目無さすぎじゃねーか。いや愛ちゃん先生は見抜いてるっぽいが。それで見抜けない人間に限って此奴に告白なんてしちまうんだから言葉も出ねぇよ。

 

 ・・・当の本人が1人の女の事しか眼中にないって時点で勝ち目はないのだから、その辺りは同情するがなぁ。まぁ、優等生やってんのも、本人から言わせてみれば()()()()()()()()()()()()()らしいが。

 

「いやいや、社君も幸利君も結果知ってるでしょ!午前中の授業の間にある休み時間のたびに、白崎さんてば僕のほうに来て色々聞いてきたんだからね!?そのせいでクラスメート達からの目線は痛かったし、君らに目線を向けても助けるどころか無視するし!社君に到っては僕の様子見て笑ってたじゃないか!!」

 

「いやだってハジメの顔が少しづつ絶望に染まるのが楽しかったんだよ」

 

 我慢ならんと叫ぶハジメに対して、まったく悪びれる事無く言葉を返した社。余りにも無慈悲な返答に、怨嗟の呻き声を上げながら思わず机に倒れこむハジメ。こいつホンットいい性格してんなぁオイ。こういう所を他の人間に見せれば、簡単に幻滅されそうだな。幻滅される本人に全くダメージ無いだろうけど。

 

 にしても、だ。正式名称【南雲ハジメに白崎香織さんが絡むのをなんとかしようの会(仮称)】だったか?大仰で長ったらしい名前の割に、実際の中身に関しては、俺と社、ハジメの3人で適当に集まって、喋ったり遊んだりハジメの愚痴を聞いているだけの非常に中身の無いありふれたモンだ。

 

 場所も不定期で今回は適当な空き教室の開催だったが、ファミレスだったり、図書室での勉強会も兼ての開催だったりするしな。ぶっちゃけ言えば、ハジメの悩みを出汁にして集まっているだけとも言えなくもない。

 

 それでも尚、こうして集まるってのは、俺を含め3人ともこの集まりを楽しみにしてはいるんだろうよ。・・・こんなこと口に出した日にゃこいつら2人とも鬼の首を取ったかのように「何だよやっぱりツンデレかよ」だの「男のツンデレは需要無いよ?」だの言ってくるだろうから口が裂けても言わねーけどな。ハジメは苦笑気味だったり振り回され気味だが、この集まりに関しては肯定しているし。社のヤツはハジメの恋バナとも言えないような話に興味津々だし。

 

 アイツの事情を知るものとして、以前「ある意味ずっと嫁さんと一緒にいるようなモンとは言え、ハジメの恋バナ擬き聞くとかお前大丈夫かよ?」と心配交じりにつっこんだら、「それはそれ、これはこれ」とあっけらかんと抜かしやがった。「何言ってんのお前?」とでも言いたげな、心底不思議そうな顔であったため、強がりでもなんでもなく本当に素での反応だったと思う。お前のその精神的な頑健さとか図太さに関してはマジで尊敬するぜ、俺は。

 

「いやでもさぁ、ハジメも満更でもないんじゃないの?2次元じゃない、リアル美少女に心配されんの。正直に言ってみ?ここには俺と幸利しかいないぜ?俺達はお前さんが何を言っても責めないよ」

 

 社はハジメに対して、心中を吐き出して楽になれ、と優しく諭すように言う。が、言い方に騙されることなかれ、ヤツの言葉は諭すというよりも、(そそのか)すというほうが相応しいだろう。一般的には甘言だとか悪魔の囁きでもいいがな。

 

「いや、まぁ、それは・・・。正直、その・・・ちょっとだけ、ちょっとだけね?・・・優越感あるよね」

 

 そうしてまたヤツの言葉に乗せられた哀れな犠牲者が一人ーーーっていうかハジメも嫌だ嫌だ言いながら優越感に浸ってたのかよ!!

 

「幸利裁判官。被告はこう述べていますが、判決は如何に?」

 

 有罪(ギルティ)だな。言い訳の余地はない。ここで骨となり朽ち果ててしまえ、ハジメ。

 

「さっき責めないって言ったじゃん!手のひらクルックルかよ君ら!?」

 

 叫ぶハジメの声をきいて、また笑いあう俺達。こうやって3人で雑談してると、よくもまあ社との付き合いがここまでの長丁場になったもんだと、自分でも不思議に思う。初めてこいつと出会ったときーーーいや。キチンとこいつの事を知った時か。その時の俺に、今も社とダチやってる事を伝えても、「こいつ正気か?」何て目で見られるに違いねぇや。それほどまでに、俺が中1の頃に味わった体験はイカレているものだった。

 

 ・・・この件については、俺は語る口も、思い出すべき記憶もねぇ。今でこそ、リアルの女子相手に多少ぎこちなくなる程度まで回復してはいるが、当時は女性の姿を見ることにさえ抵抗感が半端なかった。

 

 それが何とかなったのは、事件が終わった後も欠かさずフォローをしてくれた社のお陰でもある。あの件で俺が得たものがあるとすれば、それは社っつーダチ1人だけだろう。きっとそれだけ覚えていれば、今後も仲良く馬鹿な話に花を咲かせることができるだろうよ。

 

 なんてことを思いつつ、雑談をしていたその10分後、八重樫と中村が今回の集まりに参加することを知り、俺は即座に空き教室から撤退した。八重樫はともかく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。同じ理由で白崎の事も苦手だ。白崎の場合、対象はハジメだがな。

 

 以前に社は「愛こそが最も歪な呪い」とか言ってたけど、それに関してはあの一件で嫌というほど身に染みてるんだよ。マジでその通りだった。しっかしなんであいつら愛されてる自覚ねえんだ。その姿見せられて冷や冷やすんのは俺だかんな?あの事件からどれだけ経とうとも怖いもんは怖いんだよ・・・(震え声)。

 

 

 


 

2.八重樫雫の友人評価

 

「それで?何でまた、俺を態々呼び出したんだ?」

 

 私の友人である宮守社は、訝しげな表情を隠さないまま私達に向けてそう言った。

 

 とある日の放課後、私は香織に「宮守君を紹介して欲しいの!」と頼まれた。その言葉に何故か心の中に黒いモヤモヤが溜まった気がしたけれど、続く「南雲くんと仲良くする為のヒントとかが欲しいの!」と言われると、納得と共にモヤは晴れた為気にしなかった。

 

 そして帰りのホームルームが終わった後、私から社に「少ししたら何時もの空き教室で待っててくれないかしら?」とお願いし、私達は先に向って空き教室で待機。10分後、到着した社が発したのが冒頭の言葉だった。

 

 社の発した言葉に応えるように、私の隣にいた香織が前に出て頭を下げながら「どうすればハジメ君と仲良くなれるか教えて下さい!」と口を開いた。

 

(・・・我が親友ながら、正面突破も良いところね)

 

 呆れる程に真っ直ぐで、南雲君への好意を隠さない香織。彼女に少しの呆れと羨ましさの様なものを感じつつも社の方を見ると、彼にしては珍しい事に目を見開いて驚き固まっていた。親友の私でも驚いたのだから、余り他人に興味のない社でも驚くわよね。

 

 社はすぐに我に帰ると、うなじに手をあて目を瞑った。社が昔から考え事をする時の癖の様で、彼の祖父の癖が移ったと溢していたのを聞いた記憶がある。数秒して目を開けた社は私のほうを見てため息をついた。ちょっと、何で私の方見ながらなのよ。

 

「タイムだタイム。ちょっと雫と作戦会議させてくれ。雫さんはちょっとお話があるからこっち来なさい」

 

 そう言って教室の隅に移動して私に手招きする社。これじゃ「私達は今から内緒話します」と言ってるようなものでしょ。巻き込んだの私だから強く言えないけど。

 

 言われた通り教室の隅に行くと、社はこれまた彼にしては珍しく苦虫を噛み潰した様な顔でこちらを見ていた。社は友人・身内以外への興味や関心が薄いから、他人に感情を良くも悪くも向けない節がある。感情のリソースを割かないと言っても良いかもしれない。だから今回の様に他人である筈の香織が原因でこんな顔をするのは珍しかった。

 

 ・・・親友が彼から珍しい表情を引き出した事に対して、よく分からない感情やら気がかりやらに何やらモヤモヤしてしまう私。出所の良くわからない感情に無理やりに蓋をして口から出たのは、「貴方が他人にそんな顔をするなんて珍しいじゃない?そんなに香織が気になる?」という非常に棘のある言葉だった。

 

 ーーー全然心に蓋出来てないじゃないの私ー!なんか凄い嫌味っぽい言い方じゃないかしら!?これじゃただの嫌な奴じゃないのよ!別に社が悪い訳じゃないのよ。ここは素直に謝るべきーーー

 

「そりゃそうだ。他人ならいざ知らず、雫の親友ならある程度の配慮はして然るべきだろ。彼女、お前さんの親友なんだろ?」

 

 私の謝罪よりも速く耳に届いた社の台詞に、自分の顔が耳まで真っ赤になるのが分かったので即座に顔を伏せる。見なくても分かる、社は今絶対に「ハァ?何言ってんのお前、これくらい当然でしょ?」みたいなキョトンとした顔をしている。「おーい雫さんやーい何俯いてんのー?」じゃないわよ何でアンタはそう言う事さらっと平然と言えんのよ!貴方本当にそう言うとこだからね!

 

 ・・・社は、身内や友人、他人なんかの線引きを明確に行っている。普通の人であれば多かれ少なかれ無意識にしている事だと思うけど、社は訳あって()()()()そうしているらしい。理由は分からないけど、しかし他人に対して排他的と言う訳でもなく、受け答えもしっかりしてるし出来る範囲での気遣いや親切もしている。が、それだけ。社が心を砕くのは自分の身内・友人以上なのだ。

 

 他人に親切に、しかし自分から関せず限られた身内・友人を出来る限り大切にする。要するに線を引いた上で、誰をどの位優先するかの判断が非常に上手いのだ。社が本当にタチが悪いのはそこ。線の外側にいる他人から見ると「付き合いは良くないけど、まぁまぁ親切な文武両道の優等生」と言う評価になる。なってしまう。その癖、友人・身内の視点で見ると線の内側の人間、要は私達を良い意味で露骨に贔屓しているのが良く分かるのよね。

 

 さっきの台詞もそう、社は冗談でも他人にあんな、お、お前(の友人)だから特別、何てことは絶対言わないのだ。社は線引きをしっかりして、相手をしっかり選んだ上で、言っている。それがわかっているから、社の友人は数が少ないし、私以外クセは強いけど結束は硬い。ホント特定少数を誑し込むのがでたらめに上手いんだから。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そういう意味では光輝と真逆なのよね。皆を、不特定多数を大事にしようとする光輝と、特定少数を大事にしている社。他人にも身内にも手を伸ばすつもりである光輝と、自分の選んだ人間のみに必ず手を伸ばす社。他人との線引きがひどく曖昧な光輝と、他人と身内や友人の線引きが明確な社。社に噛みつく光輝と、光輝を他人としか見ず興味を持たない社。どちらが良いかなんてーーー。

 

 ・・・駄目ね話が進まないわ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の言葉に惑わされている訳にはいかない。今重要なのは同性の親友だもの。顔の熱も取れたし、本題に入りましょう。

 

 何で呼ばれたかは分かっているかしら?と、気を取り直し改めて問う私に、「おお、復活した」と抜け抜けと(のたま)う社。誰のせいだと思っているのよ。

 

「想像はつく、大方ハジメの事だろ。で?」

 

 相変わらず友人関係では鋭い。そんな社に対して「私は顔繋ぎ。内容に関しては香織本人から聞いて」と私が返すと、成る程そりゃ道理だ、と納得の呟きと共に彼が香織の方に顔を向ける。と、すぐ様社の横顔が、何かまずいものでも見たかの様に変わる。どうしたの?

 

 私の声に答えない代わりに、社が自分の向いている方を指差す。一体何よと思い、そちらを向いた瞬間、迫ってきた香織が私の両方を強く掴んだ。

 

「どうして?」 

 

 え?

 

 俯いている為、表情のわからない香織から発せられた疑問の声に、私達2人も同じく疑問の声を出す。ほっときすぎたかしら、とそれについて謝罪しようとして。

 

「どうして、宮守君と付き合ってるのを教えてくれなかったの!?」

 

 私達2人を見て、目をキラキラさせた香織が爆弾発言した。

 

 それを聞いた瞬間に程々の強さで舌をわざと噛む事で、痛みによって顔が赤くなる事を防ぐ。何時までも同じ失態を見せはしないわよ・・・!と、自分でもよくわからない方向に意地を張っていく私。それと一応、社の反応が気になった訳ではないけれども、そう、気心が知れた友人として、お互いのことを知るために、社の方を向く。

 

 

 

 が、私の目に入ってきたのは、目を閉じて空を仰ぎながら、「うっわめんどくさぁ・・・」と呟く社の姿だった。

 

 

 

「ーーー〝雷突・崩し〟」

 

 社の思いもよらぬ反応に対して、ブチリと頭の中の線が切れるような音がした。チクリという痛みとともに心中のモヤモヤが爆発的に増加し、一気に頭に血が上る。取り合えず軽くへこませてやろうと、自分の怒りがどこから来たのかさえ考える事もなく、八重樫流体術である〝雷突〟(相手の懐に潜り込んで繰り出す肘鉄。)の変形技を加減して打ち込もうとする。がしかし、ヒョイと避けられてしまう。

 

「何してんのぉ雫さ~ん?新しい踊りかなんかかなぁ?もっと練習が必要じゃないカナー?」

 

 加減したとはいえ私の技を簡単に避けた挙句、煽るようにワザと間延びするような言い方で、小馬鹿にするように「プププ」と笑う社。・・・そう、よっぽど叩きのめされたいのね貴方は。

 

 その後ムキになった私と、それを煽る社の追いかけっこが始まり、香織に止められる迄の5分間ほどじゃれ合いは続いたのだった。なんで本題に入る前から疲れているのかしら・・・。

 

 まぁ、最終的には「南雲君の味方」であることを前提に社を巻き込むことには成功したし良しとしましょうか。何故か最初の議題が「雫と宮守君っていつから付き合い始めたの!?」だったのには頭が痛くなったけれど。

 

 ・・・ため息つくんじゃないわよ社!はっ倒すわよ!

 

 

 


 

3.中村恵里の恋愛計画

 

「エリリンの言ってた【王子様】って、もしかして宮守くんの事?」

 

 ーーー!?!?ッゲホッゴフッグフゥ!!

 

「あわわ、エリリン大丈夫!?」

 

 時刻は昼休み半ば。親友・・・と言っても良いかは分からないけど、仲の良い友達である鈴と一緒にお昼を取っていた時。何でも無い様な世間話をする様に、鈴の口から爆弾発言が飛び出した。動揺し過ぎて、思わず咽せてしまったけれど、乙女の意地で何とか口から吹き出すのは防いだ。ギリギリ、セーフかな?

 

「・・・エリリンがそこまで動揺したの初めて見たよ」

 

 アウトだった。まさか気づかれるとは思わなかった。いや確かに授業中とか、授業の合間にある中休みとかに、周りにバレない様に盗み見たり、さり気なく近付いたりは結構してたけど。それでもまさか鈴が気付くとは思わなかった。何故気づいたんだろう?

 

「だって最近様子が変だったしね。ソワソワしたり、宮守くんの方を見つめてたり。他の人は気付かないだろうけど、親友である鈴には隠せるとは思わない事だね!」

 

 ーーー抜かった。まさか最近の調子から見抜かれていたとは。色々焦っていたとは言え、少しばかり大胆だっただろうか。こう言う鋭い一面が有るのが、鈴の侮れない所だった。

 

「それもまああるけどさ、昨日見ちゃったんだ、宮守くんと一緒に帰ってるトコ。宮守君の隣でさ、エリリンが見た事ないくらい楽しそうにニコニコしてたから気になっちゃって。それで今日学校に来たら、様子が戻ってたどころか、すごいご機嫌オーラ出してたし。それで鈴はピンと来た訳ですよ」

 

 訂正。気付かれたのは鈴が鋭いからじゃ無くて、僕が分かりやすいだけだった。感心して損した気分だ。やっぱり鈴は鈴だった。

 

「それでそれで!?どうして今まで噂の王子様が宮守君だって教えてくれなかったの?何か話せない事情でもあったの?」

 

 そう言う訳ではーーーある。僕と社君との馴れ初めを正直に話すのであれば、それ即ち呪術等のあれこれも話さなければならない。それだけはダメ。たとえ鈴でも俄かには信じられないだろうし、百歩譲って信じてくれたとしても、社君には迷惑を掛けたくない。

 

 ーーー宮守社君。10年以上前に、事故に遭った()と父さんを助けてくれた恩人。彼のお爺様との約束を破ってまで、私たちを救う為に尽力してくれた、愛しい人。当時、事故に遭って動揺していた私は、私達親子を包み込む暖かで優しい光を使う彼に見惚れた。魅了されたと言っても良い。「彼の事を忘れたくない」と言う一心で彼の申し出た『縛り』を一度拒否したのは、後で考えれば酷く迷惑な事だったと反省したけれど、それ以上に私にしては会心の仕事をしたと今でも思っている。

 

 『縛り』により幼い私と父は彼の事を忘れてしまったけれど、【助けてくれた誰か】がいた事は憶えていた。父と私が助かった事を泣いて喜んでいた母も、その言葉を信じてくれて、いつかまた会えればお礼を、と言うのが家族の総意だった。

 

 そして4年前。()にとっては運命の再会となる、九州での出来事。当時中学2年生だった私は、呪術絡みの事件に巻き込まれた、らしい。らしい、と言うのも事件に巻き込まれている最中の記憶がないから。

 

 後から社君に聞いた話によると、お盆と言うある意味霊にとって居心地の良い時期に、暇を持て余した精霊やら妖やらが10代の少年少女を自身の領域(本人?達にとって都合の良い居場所の様なものらしい)に拉致。その後、特にこれといった危害も加えず、ごく普通に遊んでから解放するという何とも言えない事を続けていた、言ってしまえばそれだけの事件。ただし、期間と頻度がマズかったらしい。何でも、領域と現実では時間の流れがズレているらしく、拉致してから解放するまでの期間が最小3分、最長で何と半月であり、それが1月で数十件近く同時多発的に発生したのだ。

 

 被害者達は1人の例外無く当時の事を覚えておらず、身体検査の結果も異常なし。しかし一様に「なんか分からないけど楽しかった気がする」と証言。この事件を担当していた人達は「害は無いみたいだけど行方不明になるのは問題だし、そもそも犯人は何したいんだコレ?」とお手上げ状態であったらしい。そこで原因究明のために社君のお爺様に声が掛かり、代役として社君に白羽の矢が立ったのだとか。

 

 私が意識を取り戻したのは、社君が私を背負って領域から脱出した直後だった。社君は念の為にと背負った私を治癒し続けてくれた。目を覚ました私は、あの時よりも強く優しく、でも本質は何一つ変わる事の無い暖かな光に包まれながら、社君の声を聞いた事で全てを思い出した。

 

 私と父さんを救ってくれた人。彼にとっては何の得にもならない約束を過去に私と交わして、でもそれをその場凌ぎの嘘にせず。私がそれを忘れていようとも、約束を守るためだけに私の元に駆け付けてくれた人。本人は「唯の偶然」と言い張っているけれど、私にとっては関係ない。10年以上前のあの日から、4年前のあの時から、私の、僕の英雄(おうじさま)は社君ただ1人だけなのだから。

 

 全てを思い出した私は社君の背中で泣き出してしまい、彼を困らせた。その後、何とか私を両親の所に送り届けようとした社君は、今度は無事に合流できた私の両親も泣かせていた。何でも私と同じ時間帯に父も記憶を取り戻したらしく、それを聞いた母と共に見つかった娘を迎えてみれば、一緒にいたのは再び娘を救ってくれたという10年以上前の恩人だったんだから泣いてもしょうがないと思うな。

 

 その後、私の我がままを通す形で、御礼も兼ねて半ば無理矢理に社君と一緒に旅行を再開。社君から話を聞くと、予想以上に近所に住んでいたことが発覚。一緒に帰って、社君が住んでいる神社(一応呪い対策として、念のためご両親とは別に暮らしていたらしい。)に行き、そこで呪術関連の説明を受けた私達一家は、その後も社君一家との付き合いを深め現在に至るという訳だ。

 

 ・・・正直な所、初めて社君の事情を聞いたときに沸いた感情は、『呪術』やら怨霊やらに対しての恐怖でもなんでもなかった。社君には失望されてしまうかもだけど、僕の心にあったのは死んでいても尚ツキちゃん(社君に憑いてる怨霊のあだ名。由来は社君に憑き(ツキ)まとっているから。社君にはナイショ)が社君に変わらず愛してもらえている事に対しての、焼け付くような嫉妬と狂おしい程の羨望だった。

 

 婚約者(フィアンセ)?結婚の約束をした?ずっと一緒?---うるさい知らない()()()()。僕の運命の(愛する)相手は僕が決めるの。呪われようと、祟られようと、そこだけは絶対に譲らないと僕は自分の心に決めたのだから。

 

 社君は一途だ。きっと呪いを解いてツキちゃんを解放するまで恋愛はしないだろうし、ツキちゃん以上に愛する相手は現れないだろう。好きな人の事だから確信できる。でもそれで良い。仮に全てが上手くいき、奇跡が起きてツキちゃんと恋仲になったとしても、()()()()()()()()()()()()()()。何故なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 目論見が上手くいく目は十分にある。今の僕の社君の中での立ち位置は、身内・家族に限りなく近い友人だ。もし今彼に告白でもしようものなら、間違いなく断られる。それどころか、それ以上に仲良くなるのも難しくなる。それならいっそ、僕が社君を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、社君ともっと仲良くなればいい。それこそ、僕達からいきなり迫ったとしても、僕達を突き離せないほどに。一人称を僕に変えたのも、僕が異性であるという意識を逸らす一環だしね。

 

 社君は人間関係にキッチリ線引きする代わりとでも言う様に、身内・友人にとても甘い。下手に欲張らずにこの関係のままなら、今よりももっと仲良くなるのは難しくない。それに加えて社君は、婚約者がいると宣言した人間にわざわざ恋する様な物好きなんていない、と無意識に思っているみたいだから、僕の恋心は簡単に隠せるだろう。いや、略奪愛なんかは知識としてあるんだろうけど、僕がそんなことする筈が無いと信頼してくれている。そういう自分の線の内側にいる相手には脇が甘くなるところは、社君の欠点かな?そういう所も勿論大好きだけどね。

 

 それに社君の義妹(いもうと)である双子ーーー真理(まり)ちゃんと有理(ゆうり)ちゃんーーーと協力できるのもよかった。彼女たちも僕と同じように助けられ、彼に恋をして、思いの成就の為に僕と同じような結論に至ったみたいなので、簡単な話し合いで同盟を組むことができた。

 

 社君のお相手が増える事に思う所が無いでは無いけど、このままでは彼はツキちゃん以外に目を向けないだろう。・・・社君は、何故ツキちゃんが怨霊となったのか、呪いになったのかがわからないと言っていたけれど、僕は確実にツキちゃんが元凶だと思っている。理由は単純、何故なら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。所謂女の勘でしかないけれど、ツキちゃんと僕はきっと同類だろうから、この勘もそう外れたものじゃないと思うな。

 

 まあ、例え呪いが解けなくても、ツキちゃんに憑かれっぱなしであろうとも、社君を愛し続けることには変わりないから良いんだけどね。僕が社君のことを異性として愛してるって、社君本人が知ったら一体どういう反応するんだろう?想像するだけで堪らないなぁ、ウフフフフ・・・。

 

 

 

 ・・・鈴?何で社君目掛けて突撃しようとしてるの?「エリリンが照れて話してくれなさそうだから本人から直接馴れ初めを聞く。」って待って、それは困るから、社君の迷惑になるから!分かったよ、放課後時間作るからそれまで待っててお願いだから!?

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