ありふれない怨霊こそ世界最愛   作:白紙

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72.降臨

「こ、れは・・・なんとーーー。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

 社と共に現れた■■(異形)を前に、言葉を失うティオとフィルル。ユエから念押しされ覚悟はしていたが、予想を遥かに上回る圧倒的な『呪力』と悍ましい気配は、歴戦の竜人族でさえ硬直させていた。最も、無闇に取り乱しもせずに、「攻撃するな」と言うユエの言いつけを守れている事こそが、皮肉にも2人の実力の高さを証明しているのだが。一方、そんな竜人主従を他所に、社は背後を見やると満足気に頷く。

 

「・・・うん。ちゃんと隠せてるみたいだ。後はーーーと、その前に。■■ちゃん、俺の友人達を呼んでくれないかな。」

 

「ハァーイ。」

 

 パン パン パン

 

「うおっ!?」/んぶべぇっ!?」/「キャッ!?」

 

 ■■が裏拍手*1をした途端、前線で魔物達の足止めをしていた筈のハジメ達が、突如、城壁の上に現れた。突然の事に動揺したのも束の間、社と■■が居るのを見たハジメは、大きな溜息を吐くと構えていたドンナーを下げる。

 

「本当に何でもありだな、お前の婚約者(フィアンセ)は。後ろの民衆が騒いでいないのも、何か絡繰(カラクリ)があるな?」

 

「相変わらず良く見てるよなぁ、ハジメは。■■ちゃんには〝かくれんぼ〟してもらってる。折角広めた〝豊穣の女神〟様の名が傷付くのは、流石に不味いだろ。」

 

 社の言う通り、■■の持つ雰囲気や力は凡そ健常とは言い難い。どれだけ社本人が気にしていなかろうと、それを他者に強要できる筈も無く。愛子に迷惑をかけないためにも、社は■■にウルの町の住人から隠れてもらう様に頼んだのだ。

 

「無事に婚約者(フィアンセ)さんを呼べて何よりです社さん!それはそれとして、婚約者(フィアンセ)さんにもう少し優しく運んでくれる様に頼んでくれませんか!私、頭から地面にダイブして地味に痛かったんですぅ!ハジメさん、可哀そうな私を優しく慰めて下さい!」

 

「嫌だ。」

 

「一言でバッサリ!?潰れたカエルみたいな声出しちゃった女の子は嫌ですか!?アルみたいにキャッ!?て可愛い乙女みたいなニャンニャン声出せば良かったんですかチクショウですぅ!」

 

「何で今アタシまで刺したの義姉(ネエ)サン!!!」

 

「・・・これ、妾達がおかしいのかのぅ、フィー?」

 

「・・・どうでしょう・・・?」

 

 俄かに騒がしくなるハジメ達を見て、ポカンとしてしまうティオとフィルル。数百と余年もの長きに渡り生きてきたティオ達をして、■■の存在は異質に過ぎる。にも関わらず、ギャイギャイと騒いでいるハウリア姉妹を始めとして、その場に居る誰もが■■の事を気にしている様には見えないのだ。

 

「クラルスさんにフマリスさん、驚かせてすみませんね。時間も無いので説明は省きますが、彼女は味方なので気にしないで下さいね。」

 

「・・・ふむ、あい分かった。フィーも良いな?」

 

「承知致しました。」

 

 社の端的と言うには端折りすぎた説明に、何も聞かずに引き下がるティオとフィルル。理解も納得も殆ど出来ていないだろうに、それでも何も言わずに黙っていてくれるのは、彼女達も竜人族と言う秘密を抱えているからか、或いは単にお人好しなだけか。何方にせよ有難い、と社は内心で礼を言いつつ、再び■■に向き直る。

 

「それじゃあ、■■ちゃん。〝かくれんぼ〟の続きだ。向こうに隠れている人間が何処にいるか、教えてくれないかな。」

 

「イイヨォ。」

 

 リィィィーーー・・・ン

 

 ■■からーーーより厳密に言えば■■の喉元から、澄み渡る様な鈴の音が鳴り響く。静かで物寂しげで、染み入る様に耳に残る音色は、それでいて迫る魔物の軍勢に掻き消される事無く、確かに戦場に響き渡る。

 

「ミィツケタ。アソコニイルヨ。」

 

「流石は■■ちゃん。ハジメ。」

 

「もう飛ばしてる。ーーー居た。1人だけだが、黒ローブの男だ。」

 

 ■■が魔物の軍勢の一角に向けて指を差すと、そこにマーカーの如く赤い線が地面と垂直になる様に立ち上がる。意図を察したハジメが直ぐ様〝無人偵察機(オルニス)〟を飛ばすと、赤い線の真下には下手人であろう黒ローブの男が居た。男にも赤い線は見えているらしく、マーカーに向けて風属性らしき魔法を放ってはいるものの、全く消える様子が無い。

 

「後、30秒位か。寂しいけれど、最後のお願いを頼めるかい?」

 

「ウン、マカセテェ。」

 

 ゴゥッ!!

 

 名残惜しさを隠さない社の言葉に応える様に、■■の身体から莫大な量の『呪力』が吹き出す。余りにも歪で悍ましい、ともすれば冒涜的なまでの『呪力』は、しかし社の願いによって周囲の人間には一切影響を及ぼさない。

 

 社が■■に望んだ願いは3つ。1つ、「ウルの町の住民に■■の気配を悟られない様にする事」。2つ、「魔物の軍勢側に居る人間を探し出す事」。そして、本命たる3つ目が「眼前の魔物達を全力で迎撃する事」。ランプの魔神と言い表すには余りにも邪悪過ぎる特級過呪怨霊(かいぶつ)が、唯1人の為だけに持ち得る全てを吐き出さんとする。

 

「ヤシロガキライナラ、ワタシモキラァイ。ソンナモノ、ゼェンブ、イナクナレバイイヨネェ。」

 

 無邪気な殺意が魔物達に向けられたと同時、■■の『呪力』が何かを形作る様に集まっていく。最初は半透明のボヤけた(もや)でしかなかった『呪力』の集合体は、しかし直ぐ様輪郭を伴って色付いていくと、確かな実体を持つ()()へと変化する。

 

「・・・・・・オイオイ、冗談キツくないか。」

 

 引き攣った笑みを浮かべながら唖然とするハジメ。他の面々も似た様なもので、目の前に広がる光景に言葉を失っている。■■の『呪力』によって創り出された物が、全く理解出来ないーーー否。寧ろ、ハジメ達は良く理解出来ているからこそ、一層信じ難いと感じていた。

 

 ーーーゴォガァアアア!!!

 

 雷鳴を咆哮代わりに空へと現れたのは、5()()()()()〟。ユエが発動するのと何ら遜色の無い〝雷龍(ソレ)〟は、しかし纏った『呪力』によって漆黒に塗り潰されていた。その真下には20m級の魔法陣が10門発生し、そこから半透明のーーー恐らくは竜化したティオを模した頭部が出現。更にその下、ハジメ達が居る城門の上には、迎撃兵器よろしく都合20門ものメツェライが起動状態で現れる。

 

「ヤシロノジャマシチャダメダヨォ。ミィンナ、キエチャエ。」

 

 子供らしい一途さと残酷さが入り混じった死刑宣告と共に、魔物達にとっての地獄が再現された。

 

 

 

 

 

(・・・有り得ねぇ。どんな『術式』なら、こんな真似が出来るんだ。)

 

 一方的過ぎる殲滅戦ーーー最早、戦いとすら呼べぬ虐殺を前に、目付きを鋭くするハジメ。黒い〝雷龍〟達は大きく顎門を開くと片っ端から魔物達を飲み込み、纏う雷の余波で大地ごと周囲を焼き尽している。魔法陣から現れた竜は口元に魔力を溜めると、代わる代わる息吹(ブレス)を撃ち込んでは射線上の魔物を蒸発させていく。運良く城門近くまで近付けたものも、自動で動く20門のメツェライによって悉くが処理されてしまう。天災どころの話では無い、世界の終わりか、はたまた終末すら想起させる光景だった。

 

(百歩譲って魔法を再現出来るのは良い。物質を0から創り出せるのも、ぶっ飛んでやがるがまだ良い。だが、何で()()()()()()()()()()()()()()()!?何で魔法が『呪力』を纏っている!?何で『模倣(コピー)』が本物(オリジナル)の出力を超えている!?)

 

 ■■の圧倒的な力を目の当たりにして、ハジメの思考の冷静な部分がけたたましく警鐘を鳴らしていた。■■の持つ『術式』が単なる『模倣(コピー)』で無い事は、社もハジメも理解していたつもりだった。断言は出来ずとも「条件付きで『模倣(コピー)』も出来る『術式』である」と予想もしていた。だが、それは全くもって甘い見積もりだったと思わざるを得ない。それ程までに、今の■■の力は他と隔絶したものだった。

 

(さっき社は「後、30秒位」っつってたから、時間制限有り、その後も暫く呼び出せないって『縛り』辺りは結んでそうだが・・・それにしたって無法過ぎる!出力も範囲も桁違いだろ!?)

 

 通常、社が■■を呼び出す場合、少なくとも()()()()()()()()()代償は発生しない。その代わりと言っては何だが、呼び出された■■は社以外の個人の区別が付かず、何より社を第一に考えていた為に言う事を聞いてくれない場合があった。だが、今回の完全顕現では、それらのデメリット*2を丸ごと無視しているのだ。どう考えても『縛り』と効果が釣り合っていない。

 

(そもそもの話、『縛り』の1つや2つ課したところで、こんな無茶苦茶をいきなり出来る様になる訳がーーーいや、まさか・・・『縛り』の健常化が原因か!?)

 

 ハジメの脳裏で閃いたのは、社と■■が結んでいる『縛り』が健常化した事だった。オルクス大迷宮の最深部にて最後の番人たるヒュドラと戦った際、社は■■の生得領域らしき場所で再び『縛り』を結び直した。その結果、社は〝憑依装殻〟を獲得、辛くもヒュドラを撃退するに至ったのだ。あの戦いは間違い無く死闘と呼べるものであり、手段を選んでいる余裕も無かったが・・・。

 

(『縛り』の健常化が原因なら、俺達が思っている以上に社は無茶苦茶な『縛り』を結んでいる。それこそ、自分の命すら懸けている可能性も十分に有り得る。・・・何で、(コイツ)婚約者(フィアンセ)はそれを飲んだ?本当に、()()()()()()()()()()()()?)

 

 社と■■が結んだ『縛り』の内容は、依然として不明なままだ。何せ、社本人がどんな『縛り』を結んだかを覚えていないのだから。社が■■を繋ぎ止めるには、それだけリスクを背負う必要があったのかも知れないが・・・或いは、■■が何らかの思惑を持って(わざ)とそうした可能性も捨て切れないのだ。

 

(今考えても、詮無い話ではあるが。一度、社と腹を割って話す必要がありそうだ。)

 

 社の事情を知る者達(ハジメ、幸利、恵里の3名)の間では、■■に関する話は触れてはならないーーーとまではいかないものの、積極的に出す話題でも無かった。それは例えば気遣いだったり、単純に苦手意識だったり、或いは敵対心にも似た対抗意識だったり。三者三様の理由はあれど、暗黙の了解になっていたのだ。だが、■■が社にとって明確な害になる可能性が浮上した今、悠長な事を言ってる訳にもいかなくなった。友達が大事なのは、何も社だけでは無いのだから。

 

(・・・切り替えろ。今は、目の前の戦いに集中だ。まだ、何一つ終わっちゃいない。)

 

 逸る思考を打ち切り、一先ず目先の戦いへと意識を向けるハジメ。その顔には、迷いない覚悟が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

「もう時間か。またね、■■ちゃん。」

 

「バイバァイ、マタネェ。」

 

 手を振って見送る社に対して、■■は手を振り返すと陽炎の様に消え去った。終末じみた光景を生み出した極大の力とは裏腹に、酷くアッサリした退場である。■■の姿が見えなくなって若干気落ちする社に、背後から声が掛けられる。

 

「身体の具合はどうッスか?何かおかしいトコとかありそうッスか?」

 

「ん?いや、特に無いよ。」

 

 何処となく不安げなアルに、問題無い事を告げる社。今までと同様、今回の■■の完全顕現も社の身体には何1つ異変を起こしていない。魔力は勿論、『呪力』すら欠片も消費していないのだ。或いは、何の代償も無い事を問題視すべきなのかも知れないが。

 

「それなら、良いッスケド。・・・あんま、心配かけさせないで下さいよ。

 

「心配かけちゃったか。悪かったね、ありがとう、アルさん。」

 

「そこは都合良く聞こえないフリしてくれないッスかね!?」

 

 儚げな笑みを浮かべながら礼を言う社に、顔を赤くしてそっぽを向くアル。見て見ぬフリをする優しさも無いでは無いが、それ以上に仲間の心配を無碍にするつもりは社には無かった。

 

「気を取り直して、と。さぁーて、魔物共は・・・おぉ、ごっそり減ったな。」

 

「何でやらかした片割れがそんな呑気なんだよ。」

 

 他人事の様に呟く社に対して、ジト目でツッコむハジメ。顕現時間はたった1分、実際に力を振るったのは僅か30秒強にも関わらず、■■が魔物側に齎した被害は甚大極まりなかった。3万弱は居た筈の軍勢は、既に5千を割り2千から3千と言ったところ。最初に10万弱居た事を考えれば、残りは2〜3%程だろう。もし魔物側に指揮官が居れば、「責任を取れ」と自害すら命じられるかも知れない。

 

「これだけ減らせば、後はどうにでもなるだろ。全員、準備は良いな?」

 

「勿論です!後は直接殺れば良いんですよね!」

 

「・・・いや、まあ、そうだが。何て言うか、お前逞しくなったなぁ・・・。」

 

「当然です。ハジメさん達の傍にいるためですから。」

 

 にぱっと笑みを見せるシアに、苦笑いしつつもどこか優しげな笑みを返すハジメ。だが、直ぐに表情を引き締めてると、ドンナー・シュラークを抜き構える。魔力を使い果たしてグロッキーなティオとフィルル以外の面々も、それぞれの武器を手にすると、迫る軍勢に何時でも飛び出せる様に構える。

 

「行くぞ!ユエ、援護を!」

 

「〝雷龍〟」

 

 ハジメと社、ハウリア姉妹の突撃を援護する為に、ユエが魔法を発動した。即座に立ち込めた暗雲から激しくスパークする雷の龍が、落雷の咆哮を上げて前線を右から左へと蹂躙する。大口を開けた黄金色の龍が魔物の群れを片端から滅却するのを見て、ハジメ達もまた一気に群れへと突撃する。

 

 ドパパパパパパンッ!

 

 〝縮地〟で大地を疾走しながら、ドンナー&シュラークを連射するハジメ。我先にと迫り来る魔物達を、撃ち放たれた死の閃光が一切の区別無く骸へと変えていく。犠牲を顧みず只管に進軍する魔物は、本来なら恐るべき敵であろうが、今のハジメには物の数では無い。

 

 目の前で同胞が死んでいるにも関わらず、魔物達は浮き足立つ事も無く襲いかかって来る。と、不意にその内の1体の頭上に影が差す。咄嗟に天を仰ぎ見た魔物の眼には、ウサミミを靡かせ巨大な戦鎚を肩に担いだ少女(シア)が、文字通り空から降ってくる光景が飛び込んできた。

 

「りゃぁああああ!!!」

 

 可愛らしい雄叫びと共に、変形縋(ドリュッケン)を構えたシアが猛烈な勢いで落下する。〝重力魔法〟により体重を一気に数倍まで引き上げ、ドリュッケンの引き金を引いて激発の反動を利用して更に加速。その上で身体強化を最大まで施した、今出来る最大の一撃。落下の勢いを減じぬまま、破壊の権化とも言うべき鉄槌を叩き付ける。

 

 ドォガァアアアア!!!

 

 繰り出された渾身の一撃は、さながら隕石の如く。直撃を受けたブルタール型の魔物は、頭から真っ直ぐ地面へと圧殺され凄絶な衝撃に血肉を爆ぜさせた。付近に密集していた魔物達も、ドリュッケンの齎した圧倒的な衝撃と散弾の如く飛び散った土石により、肉体を吹き飛ばされて瞬く間に無惨な姿へと変えられる。

 

 作り出したクレーターの底で、地に埋もれたドリュッケンを引き抜いたシアはそのまま魔物達に襲い掛かる。流石に懐に潜り込まれたまま好き勝手させる甘くは無い様で、魔物達は数で圧殺するかの如くシアを取り囲もうとする。だが、シアはドリュッケンの柄を更に1m程伸ばすと、激発と強化した怪力でもって高速回転を行った。独楽と言うには余りにも物騒なソレは、迫り来る魔物達をピンポン玉の様に軽々と吹き飛ばしていく。

 

 見た目は華奢な少女が、自分の数倍の巨躯を誇る魔物を一方的に薙ぎ倒すのはまるで冗談の様な光景だ。シアは回転運動から体勢を戻すと、今度は別の集団を襲撃すべく踏み込みの体勢に入る。

 

 と、その瞬間、右後方より新手が高速で接近する音をウサミミが捉える。シアは慌てず最適のタイミングで体ごと回転させて迎撃(カウンター)を試みるが、新手ーーー黒い体毛に4つの紅玉の様な眼を持つ狼型の魔物は、それを予期していた様に寸前で急激に減速。見事にシアの一撃を躱すとそのままドリュッケンに飛び掛かり、その強靭な顎と全体重で地に押し付ける様にして封じたのである。

 

「んなぁっ!?」

 

 黒い四目狼の予想を裏切る動きに、驚きの声を上げるシア。通常の魔物なら、シアが武器を振りきって隙の生まれた所を襲うだろう。実際、シアもそうするだろうと読んで身体強化を足に集中し、踏み込んできた瞬間頭部をカチ上げてやるつもりだったのだ。先の回避と言い、シアの動きを読んでいるかの様な攻め方である。

 

 勿論、たかが魔物の1体、シアの膂力ならどうと言う事は無い。が、それでも意表を突かれて、一瞬動きを封じられた事に変わりは無く。そこに完璧なタイミングで、シアの後方から同じ魔物が牙を剥き出しにして眼前まで迫っていた。眼を見開いたシアは咄嗟に足に集中させた身体強化を解除、防御すべく全身に回す。

 

「ーーーホント危なっかしいなぁ、義姉(ネエ)サンは!」

 

 あわや、狼の牙がシアを血濡れにさせるかと言う瞬間、横合いからアルが四目狼を蹴り付ける。潤沢な()()により強化された蹴撃(けり)は、四目狼の体をくの字に折り曲げると、勢いそのままに蹴り飛ばしてしまう。哀れ、即席の弾丸となった四目狼は他の魔物に衝突、諸共粉々になる。

 

 ズドンッ!!

 

 アルの援護に遅れて、シアの背後で発砲音が聞こえた。シアが音の方を振り返ると、ドリュッケンに喰らい付いていた四目狼が腹部と頭部を撃ち抜かれて絶命している。その近くでは2つの十字架らしき金属製の物体ーーー縦60cm、横40cm、中心部分にラウンドシールドが取り付けられているーーーが浮遊しており、銃口らしき部分から白煙が上がっていた。

 

〝シア、油断するな。魔物の中に明らかに動きの違うヤツがいる。寄生花に支配されているにしては、動きが単調じゃ無い。お前ら姉妹にはクロスビットを2機ずつ付けておくから、上手く使え。前線はユエが後5分は持たせてくれる。〟

 

 〝クロスビット〟ーーー〝無人偵察機(オルニス)〟と同じ原理で動く十字架型の浮遊物体は、ハジメの作成した攻撃特化型ビットである。内部にライフル弾や散弾が装填されており、感応石付きの腕輪で操作しているのだ。表面を覆う鉱石には生成魔法により〝金剛〟が付与されており、感応石の魔力に反応して強固なシールドにもなる優れ物である。

 

〝了解です!それと、助かりました。有難うございます!〟

 

〝おう、気をつけてな。〟

 

 ハジメから届いた〝念話〟により、ハッと我を取り戻したシアは気を引き締め直し、首元のチョーカー*3の念話石を通して返事をする。

 

「・・・ふふ、最近、ハジメさんの態度がドンドン軟化していますぅ。既成事実まで後一歩ですね!」

 

「そこで調子乗るからダメなんじゃないの、義姉(ネエ)サン。」

 

「正論で殴るのはやめてくれませんか、アル!?」

 

 自分を守るように周囲を浮遊する〝クロスビット〟に頬を綻ばせたシアに、無慈悲なツッコミを入れるアル。和気藹々(わきあいあい)とした姉妹の交流ではあるが、そこには油断も慢心も無い。互いに背を預けながら、2人は魔物達を狩り尽くすべく再び動き出した。

 

 

 

 

 

「ふぅ、相変わらず、どっか危なかっしいんだよな、アイツ・・・。」

 

 呆れた口調とは裏腹に、猛烈な勢いで魔物を駆逐していくハジメ。ハジメの周囲にも1機の十字架が浮遊しており、ドンナー・シュラークと併用する事で文字通り弾丸の嵐を繰り広げている。

 

「アルさんも居るし、大丈夫だろ。何処かの誰かさんは、態々クロスビット飛ばしてあげたみたいだがなぁ?」

 

「ウルセェ、ニヤつくな、頬に風穴開けんぞ。」

 

 背中合わせに軽口を叩きながら、社もまたハジメと共に魔物達を処理していく。蛇腹刀にした天祓に〝風爪〟を纏わせ、更に〝狗賓烏〟の風を操作する力で強化した刃は、魔物の硬度や数を無視して全てを切り刻んでいく。ハジメが弾丸の嵐なら、社は突風を纏った刃である。過程は違えど魔物達の死と言う結果は変わらず、瞬く間に死体の山が築かれていく。

 

「しかし、シア以上に、妹の方が集団戦に向いてるとはな。継戦能力はピカ(イチ)か。」

 

「『術式』の性質を考えると、当然と言えば当然なんだがな。」

 

 アルの『腹飲呪法』は〝触れた対象のエネルギーを奪う〟性質上、どうしても触れればほぼ勝ち(ジャイアントキラー)と言う部分に目を奪われがちだ。勿論、それも間違いでは無いが、アルの『術式』が最も真価を発揮するのは一対多数の戦いだった。

 

「敵は山程いるから魔力は奪い放題。『呪力』は『術式』の発動にしか使わない上に、そもそも量が桁違いだから『呪力』切れも起こらない。身体強化は奪った魔力で充分、と。いや、敵に回したらマジで厄介だな、アルさん。」

 

「その上、『術式』の一撃必殺(ワンチャン)も警戒しなきゃならないんだろ?有り得ない強化幅のシアと言い、姉妹共々ネジが外れてやがる。」

 

 感心半分、呆れ半分と言った様子でハウリア姉妹の居る方を見遣るハジメと社。尚、一般人視点だとハジメ達は誰もがブッ飛んでるし、その中での2トップは何を隠そうハジメと社なので、完全におま言う案件である。

 

「まぁ、味方にする分には頼もしいーーー見つけた。7時の方向、黒ローブの男だ。」

 

「こっちも今確認した。やっぱり隠れてたか。」

 

 〝狗賓烏〟と共に〝悟り梟〟を呼んでいた社が、視界の端で黒ローブの男を捉える。それを聞いたハジメが〝遠目〟を発動すると、遠くの方で喚いている人影が見えた。間違い無く件の人間族だ。黒ローブの男は癇癪を起こす子供の様に喚くと、植物の茎や枝が絡み合った極彩色の杖を翳して何かを唱え始める。

 

「ハジメ。」

 

「分かってる。」

 

 ドパンッ!

 

 何をするかは不明だが、そのまま詠唱の完了を待ってやる義理は無い。ハジメは片手間でドンナーを発砲すると、極彩色の杖を半ばから吹き飛ばす。余波でもんどり打って倒れこむ黒ローブの男だが、それと入れ替わる様に今度は黒い四目狼が一斉に飛び出して来る。

 

「今更逃げられても面倒だ。社、先に行って黒ローブの奴を確保しろ。」

 

「それは良いんだが。お前さん1人で相手するのは面倒じゃないか?」

 

「所詮は烏合(うごう)、四目狼も精々が二尾狼*4程度だ。問題ねぇよ。」

 

 社の懸念を鼻で笑い飛ばすハジメ。四目狼は特異な攻撃こそ持たないが、時折知っていたかの様に攻撃を躱す事があった。恐らくは〝先読〟系の固有魔法を持っているのだろう。連携も二尾狼とタメを張るレベルの為、低層とは言え奈落にいても何らおかしくない魔物ではある。何故、そんな魔物が此処に居るのか、と言う疑問もないでは無いが・・・。

 

「どの道、下手人に吐かせれば良い話だ。さっさと行って捕まえて来い。」

 

「それもそうか。じゃ、此処は任せた。」

 

 ハジメの言葉に納得した様に頷いた社は、魔力で強化した両足で飛び上がると〝空力〟を発動。〝狗賓烏〟の風を纏いながら、迫り来る12体の黒い四目狼を飛び越して、黒ローブの男の下へと飛び立っていく。主人が危ないと察したのか何匹かが反転して社の後を追おうとするが、ハジメはドンナー&シュラークを連射すると、四目狼をその場に釘付けにする。そして。

 

「見〜つけた。」

 

「ヒィィッ!?」

 

 黒い四目狼に(またが)り、今まさに逃亡を計ろうとしていた黒ローブの男の下へ、社が辿り着いた。外敵を排除すべく、四目狼が飛び掛かろうとするがーーー。

 

「邪魔だ。」

 

 社の握る天祓により、容易く真っ二つにされる四目狼。自慢の手下が呆気なく殺されたからか、はたまた目の前の現実を受け入れられないのか、黒ローブの男は尻餅をついたまま動かない。刃に付いた血を振り払うと、社は黒ローブの男に語りかける。

 

「ここまで好き勝手やっといて、危険が迫ったら尻尾巻いて逃げ出すなんて、許される訳ないよなぁ?」

 

「ヒッ、来、来るなっ、ば、化け物!」

 

「オイオイ、元クラスメイトに向けて、何て言い草だ。俺だって傷付くんだぜ、()()()()君?」

 

 態とらしく悲しむ社の口からその名前が出た瞬間、黒ローブの男がビクンッと反応する。中野信治ーーーハジメ達と共にこの世界(トータス)に拉致された〝神の使徒〟であり、何者かの手を借りて王国から脱走したと思しき4人の内の1人。社にとっては忌々しい檜山(ゴミクズ)と仲が良かった筈の人物。今回の騒動の下手人の1人は、紛れも無く社達の同郷だった。

 

「観念しな。もう、お前に逃げ場はーーー・・・?おい、中野。お前、その身体は、ッーーー!!!」

 

 腰を抜かしたのか、這いずりながらも逃げようとする中野。その姿を見て妙な違和感を感じ取った社が、中野を問い詰めようとした瞬間、全身が総毛立つ程の悪寒に襲われる。〝悪意感知〟が反応しなかった事に疑問を抱く暇も無く、中野の首根っこを掴んだ社がその場を離脱した数秒後ーーー天空より()()()()が降り注いだ。

 

(見境無しかよ!いや、そんなもの気にする連中じゃ無いか!)

 

 敵の徹底振りに内心で毒吐く社。月の光を思わせる銀の光は、逃げ遅れた魔物達を大地ごと飲み込むと、跡形も無く消し飛ばしていた。草1つ残らぬ攻撃に最大限の警戒をしつつ、社は空に居る()()()()()()()()()()に向けて天祓の切先を向ける。

 

「まさか、お前まで居るとはな。王都のクソ貴族共の扇動はもう良いのか?ーーー(ゴミ)使い(パシリ)が。」

 

 

 

 

 

「・・・宿木(やどりぎ)とは言え、口が過ぎますよ。その身体、早急に我が主に献上なさい。」

 

 佳境に差し掛かる戦場に、銀に耀(かがや)く翼と大剣を携えた真の〝神の使徒〟が降臨した。

*1
手の甲を打ち付ける拍手。滅茶苦茶に縁起が悪いので絶対やっちゃ駄目。

*2
それでも、■■を使役する代償としては破格としか言い様が無いが。

*3
シア的には断じて〝首輪〟ではない。

*4
オルクス迷宮深部に居た魔物。〝纏雷〟の固有魔法持ち。

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