ありふれない怨霊こそ世界最愛   作:白紙

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73.VS〝神の使徒〟

 一対の銀翼を背に生やし、大剣を携えて戦場に現れた真の〝神の使徒〟。ドレスと甲冑の合いの子の様な白い装束を纏う姿は、RPGに出てくるワルキューレを彷彿とさせる。煌めく銀髪は神秘的で、美しい(かんばせ)や一流の彫像めいた肉体は見る者を虜にする魅力に溢れていたが、唯一点、何の感情も映さない無機質な瞳が、それら全てを台無しにしていた。

 

〝無事か社!何があった!?〟

 

〝クソ神直属の使徒(パシリ)が来た。黒ローブ、もとい中野は捕まえたから、回収にクロスビットを飛ばしてくれ。〟

 

 中野の首根っこを掴んだまま、ハジメからの〝念話〟に端的に返す社。急な回避で振り回されたからか、中野は既に気を失っている。流石に邪魔者を抱えたままで戦える程、目の前の敵は甘く無いだろう。

 

「・・・全ては我が主の為に。」

 

「チィッ!」

 

 氷の如き冷たさを帯びた瞳が社に向けられた瞬間、〝神の使徒〟から空間を軋ませる程の銀色の魔力が吹き出した。現時点でのユエを越え、ハジメにすら届き得る程の魔力。「一筋縄ではいかない」と舌打ちした社が全力で中野を明後日の方向に投げたのと、〝神の使徒〟が大剣を構えて突撃して来たのはほぼ同時だった。

 

 ザンッ!!

 

 振り下ろされた2m級の大剣を、〝天祓〟で受け止めずに身を捩って回避する社。大剣には魔物達を消滅させた力は込められていなかったが、それでも剣圧のみで地面に亀裂が入ったのを見ると、やはり膂力も並大抵では無いらしい。

 

〝ハジメは中野を回収したら、引き続き魔物達の相手を頼む。他の誰もこっちには近寄るなよ!〟

 

〝お前1人でやる気か!?〟

 

〝まだ魔物は山程残ってる!寄生花の増え方が分からない以上、1匹たりとも町の方に行かせる訳にはいかない!〟

 

 ハジメ達全員に〝念話〟を飛ばしながら、〝神の使徒〟の大剣を避け続ける社。対策の甲斐あってかハジメ達は誰も寄生花に寄生されていないが、寄生の条件や方法まで判明した訳では無い。もし、寄生花が簡単に仲間を増やせるのであれば。もし、魔物達が1匹でも包囲網を突破したならば。もし、寄生された対象を救う方法が見つからなければ。どれも仮定に過ぎないが、最悪、生物災害(バイオハザード)顔負けの阿鼻叫喚が生まれてもおかしくは無いのだ。愛子達や町の住民を、不用意に戦わせる訳にはいかない。

 

〝何より()()()使()()()()()()()()()()()此奴(こいつ)の相手をしている間に先生達を()られたら、それこそ俺達の負けだろうよ!〟

 

〝ーーーあぁ、その通りだよ、クソッたれが!全員聞いたな!?社の方には加勢に行くな!魔物共を殺し尽くす事だけ考えろ!〟

 

 ハジメの怒りを噛み殺した〝念話〟が途切れたのを確認した社は、大剣の大振りを躱すと仕切り直しと言わんばかりに大きく後ろに後退する。一方の〝神の使徒〟も、剣が全く当たらない状況に辟易したのか、追撃をせずに大剣を構え直した。

 

「・・・流石は、主の興味を引くだけの事はありますね。」

 

「知るか。お前らの感想なぞ、どうでも良いわ。」

 

 油断無く〝神の使徒〟を見据えながらも、社は別の事象について考えを巡らせていた。使徒が魔物達の進軍と同時にウルの町を襲撃していた場合、今とは比べ物にならない程厄介な状況になっていただろう。それをしなかったのは、社達との遭遇自体が想定外(イレギュラー)であり、何より〝神〟そのものが社達の動向を捕捉出来ていない事を意味している。目の前に居る〝神の使徒〟を従えている事も含め、〝神〟を名乗るに相応しい力はある様だが、全能と言う訳でも無いのだろう。

 

「しっかし、宿木(やどりぎ)ねぇ。未成年の身体に興味津々とか、お前らのご主人様はとんだド変態だな。〝神〟は〝神〟でも変態の神か?どうなのよ、変態の(ワン)ちゃん?」

 

「・・・知る必要はありません。貴方は此処で終わるのですから。」

 

「ハッ、やってみろよ使徒(パシリ)如きが!」

 

 更に情報を得るべく〝神の使徒〟を煽るものの、肝心の使徒は眉1つ動かさずに再び斬りかかって来る。元々期待もしていなかった社は即座に〝天祓〟を腰に佩くと、高速で迫る〝神の使徒〟を迎撃する。

 

「ーーーシィッ!」

 

「・・・・・・。」

 

 始まったのは、先程の焼き増しの様な戦い。〝神の使徒〟が振り回す大剣を回避しながら、社は隙を見て反撃(カウンター)を狙う。変わり映えの無い光景は、しかし高速で行われる故に一流の冒険者ですら目が追い付けない領域まで至っていた。

 

(王国に居た時もそうだったが、相変わらず悪意が薄くて読み辛いな。魔物を消し飛ばした魔法も得体が知れないし、どう攻めたもんかね。)

 

 数多の斬撃を掻い潜りながら次の1手を考える社。王国に滞在していた頃に感じた無機質な悪意は、ほぼ間違い無く目の前の〝神の使徒〟の物だろう。だが、悪意と呼ぶには余りにも平坦で起伏の無いそれは、結果的に〝悪意感知〟をすり抜けて、初動を読ませないステルスの様な働きをしていた。とは言えその程度で支障が出る訳も無く、ましてや攻め手を緩める程、社も温い修羅場は潜っていないが・・・。

 

(見た感じ、銀の光に当たった魔物は死骸1つ残さず消し飛んでる。〝焼却〟・・・は熱を感じなかったから多分違う。〝消滅〟か〝分解〟辺りかね。何にせよ当たるべきじゃないな。)

 

 社が未だに攻め切れない理由のもう1つが、正体不明の魔法についてだった。魔物達に一切の抵抗を許さず消し去った銀の砲撃は、社の経験上、絶対に当たってはいけない攻撃に分類される。いざとなれば被弾覚悟で突っ込むし、何なら手足の1、2本も差し出す覚悟だが、流石に時期尚早だろう。やるにしても、もう少し手の内を見切ってから、と言うのが社の考えだった。

 

(・・・何と言う身体能力。主から聞いていた通り・・・いや、それ以上ですか。肉体の精度だけなら、私すらも凌駕している。)

 

 社が消極的な立ち回りに終始している中、使徒もまた内心で舌を巻いていた。社は知る良しも無いが、〝神の使徒〟は〝狂った神〟が作り上げた自律式人形(オートマタ)とでも評すべき人形であり、文字通り神の手足に相応しいだけの能力を有している。空を自由に駆ける〝銀翼〟と、ユエと同じ全属性の魔法適正、全てを塵と化す〝分解〟の力。更に使徒本体はステータス換算で、筋力体力耐性敏捷魔力魔耐、その全てにおいて12000と言う脅威の数値を叩き出している。合計すれば60000と破格の能力を持つ〝神の使徒〟。本来であれば敵無しの彼女は、しかし未だ社に剣先の1つも掠らせてはいなかった。

 

(今の私が一方的に攻勢に出ていられるのは、宿木(やどりぎ)が私の魔法を警戒して無理に攻めて来ない故。今は均衡を保っていますが、いつ崩れてもおかしくは無いでしょう。さて、どう対処するか・・・。)

 

 無論、〝神の使徒〟である彼女にも幾つか切り札はある。だが、それは社も同様だろう。先に手札を晒して主導権(イニシアチブ)を握るか、或いは伏せたまま凌いで後の先を取るか。お互いがそれぞれの理由で、手札を切るべき時を見極めようとする。

 

 グォオオォォォ!!

 キシャアァア!!

 

 均衡を破ったのは、第3者の介入。千日手に近い状態に陥った社と〝神の使徒〟の戦いに、魔物達が割って入ったのだ。大幅に数を減らしたとは言え、寄生花に支配された〝花付き〟はまだまだ数が居る。乱入されない訳が無かった。

 

「・・・邪魔です。」

 

「!良いねぇ。」

 

 ある意味では予定調和とも言える邪魔者に、しかし2人の取った対応は真逆。迫り来る魔物達を次々と薙ぎ払う〝神の使徒〟に対して、社は魔物達をあしらうばかりで一切攻撃を行わない。だんだんと包囲網を築く〝花付き〟に対して悪手でしか無い行動に、〝神の使徒〟が若干の困惑と共に綺麗な眉を顰めた瞬間。軍勢に巻き込まれる様に()()姿()()()()()()()()()()

 

「?宿木(やどりぎ)は、何処にーーーガッ!?」

 

 〝花付き〟達を捌いていた〝神の使徒〟の真横から、社渾身のボディブローが放たれる。よろけながらも即座に大剣を薙ぐ使徒だが、社は再び魔物達の間に溶け込む様に紛れてしまう。

 

「〝気配遮断〟系統の技能ですかっ。小賢しい真似をーーーグゥッ!?」

 

 〝神の使徒〟が魔物を処理する狭間を縫って、社は着実にダメージを通していく。寄生花付きの魔物が使徒まで襲ったの見て、戦況を変えるべく〝花付き〟すら利用しようと考えたのだ。敵すら躊躇無く戦術に組み込む姿勢は、良くも悪くも『呪術師』らしい狡猾さと言えよう。

 

「・・・ならば、全て斬り払うだけの事。」

 

 心無しか不快げな表情を浮かべる〝神の使徒〟のガントレットが光り輝くと、もう1振りの大剣が現れる。身の丈を超える大剣を二刀流に構えた使徒は、更に銀の魔力を刀身と両翼に流し込むと、襲い来る〝花付き〟を脅威的なスピードで消し飛ばし始めた。

 

(凄いな、触れた端から何もかも消し飛んでる。・・・何故、大技で纏めて排除しないんだ?)

 

 少し離れた場所で〝気配遮断〟を発動しながら、使徒の力を見て疑問を抱く社。〝分解〟の力が込められた大剣は、熱したナイフがバターを斬るかの如く容易く魔物を裁断しており、同じく両翼からは〝分解〟を宿した白銀の羽根が舞い散ると、恐るべき魔弾となって掃射されている。何方も当たればタダでは済まないと社も理解しているが、どうにも見立て以上に出力が弱いとも感じていた。

 

(さっきから一向に魔力が減らないところを見るに、多分〝神〟から魔力の供給を受け続けるなりしてるんだろう。でも、それなら燃費の悪さとかで大技を出し渋る理由も無いしなぁ。)

 

 切り札を隠すと言うならまだ理解出来るが、今の社には〝神の使徒〟が手を抜いている様にしか見えなかった。出会い頭に放たれた銀の砲弾然り、最初に感じた銀の魔力の圧力(プレッシャー)然り、間違い無く過去最高の死闘を覚悟させる物だった。にも関わらず、使徒は全力を出している様には見えず、酷くコンパクトに戦っていた。

 

(最初にデカいのブッ放してるから、何らかのデメリット付きって線も薄い。となると・・・ちょっと、試してみるか。)

 

 ふと閃いた小さな思い付きを試すべく、社は魔物達の群れへ再び紛れ込むと、そのまま〝神の使徒〟に近づいていく。一定の距離まで接近した社は、使徒の手により次々と駆逐される魔物を眺めながら、静かにタイミングを待つ。そして。

 

「ハァイ、使徒(パシリ)ちゃん。さっきぶり。」

 

「っ!?」

 

 気軽に声を掛けながら姿を現した社に、目を見張り驚愕する〝神の使徒〟。先程までの鉄面皮は跡形も無く、心底予想外なのが簡単に見てとれる。だが、その反応もやむなしだろう。何故なら、社が現れたのは使徒と魔物の間であり、今まさに振り下ろされた大剣が直撃する間合いだったのだから。

 

 ブォォン!

 

 グギャアアァ!!

 

 鋭い風切り音と共に断末魔が響く。使徒の振るう大剣が、社ごと魔物を仕留めたーーーのでは無い。魔物を斬り伏せたのは、社が背後に振るった〝天祓〟だ。使徒が振るった大剣は、何も無い空を切っただけ。紛れも無い使徒自身が、社から切先を逸らしていたのだ。

 

「っ、宿木(やどりぎ)、貴方まさかーーー。」

 

「『式神調 (きゅう)ノ番〝(くゆ)(きつね)〟』」

 

 自身の狙いを気取られたからか焦りの声を上げる〝神の使徒〟を尻目に、社は〝(くゆ)(きつね)〟を召喚。『呪力』を練り上げて白煙を生み出すと、周囲一面を瞬く間に白く包み込んでしまう。

 

「・・・今度は目眩しですか。小手先の技でどうにかなるとーーー。」

 

「「思ってるから、やってんだよなぁ!」」

 

「なーーーガァッ!?」

 

 同時に聞こえた2つの声に驚いたのも束の間、左右から与えられた衝撃に苦悶の声を上げる〝神の使徒〟。混乱しつつも現状を把握しようとする使徒の目には、社本人と何時の間にか腕に巻き付いていた〝双頭の蛇(双子夜刀)〟、そして半透明の分身らしき存在が映る。

 

宿木(やどりぎ)の身で、忌々しき『呪い』の力をーーーグゥッ!?」

 

「「何言ってるか聞こえねぇよ、使徒(パシリ)ぃ!」」

 

 体勢を立て直す隙を与えぬまま、社は呼び出した分身と共に使徒を滅多打ちにする。先程までとは打って変わって強気に攻め続ける姿は、〝分解〟の危険性(リスク)を度外視している様にしか見えない。無理矢理、埒を開ける為の無謀な特攻ーーー否。社は〝神の使徒〟が無闇に〝分解〟を使えない理由を察していた。

 

(恐らく此奴は〝神〟に「俺の身体を傷付けない、もしくは殺さない様に連れて来い」と命じられている!1番最初、これ見よがしに銀の砲弾をブッ放したのは、その命令を俺に悟らせない為の(ブラフ)!)

 

 〝神の使徒〟が初回以外に銀の砲弾を使わなかった事や、出力を絞っていた様に感じた事は、社にとっては無視出来ない違和感だった。社が試しに態と大剣に当たりにいった際も、案の定と言うべきか使徒は驚愕の表情と共に自分から太刀筋を逸す始末だ。生死や傷の有無をどれだけ気にしているかまでは分からないが、〝神〟が社の身体を欲しているのは確定と見て良いだろう。

 

(俺を何に使いたいのか知らないが、そっちの都合で手加減するなら、当然足元見られても文句無いよなぁ!)

 

 見た目だけは良い〝神の使徒〟を、分身と2人がかりで躊躇無くボコる社。光輝(勇者)辺りが見れば、問答無用で社に斬りかかる程度には非人道的な絵面だが、その様な些事を気にする社では無い。寧ろ「敵の弱みは徹底的に突け」と祖父に教わっている為、その拳打には一切の情け容赦が無かった。

 

(・・・予想以上です。まさか、ここまでやるとは。)

 

 社と分身、2人の攻勢を何とか捌きながら、内心で歯噛みする〝神の使徒〟。社の読み通り、使徒は〝神〟から〝宿聖樹〟ーーー 宿木(やどりぎ)たる社の捕獲を命じられていた。〝神〟の命令は絶対であり、そこに油断や慢心を持ち込む機能は使徒には無い。だが、そんな思惑を嘲笑うかの様に、社の力量は〝神〟達の予想を遥かに超えていた。一手し損じれば、或いは〝神の使徒〟さえ食い破れる程に。

 

(・・・この様子だと、我々の狙いはバレているでしょう。ですが、大きな問題とはならない。まずは、厄介な分身から片付ける!)

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、分身を処理する事を決めた〝神の使徒〟は、銀翼と2本の大剣に〝分解〟の魔力を込める。幸いにして分身は半透明の水色をしている為、容易に見分けが付く。間違って本体を傷付ける心配はまず無い。狙うのは、被弾覚悟の反撃(カウンター)

 

(ーーー今!)

 

 より確実に、一撃で仕留める為、分身の蹴りを受け切ってから大剣を振り下ろす〝神の使徒〟。肉斬骨断の一振りは、半透明の身体を容易く切り捨て、跡形も無く消し去るーーー筈だった。

 

「次は、宿(やどり)ーーーギッ!?」

 

「「ハズレだよ、馬鹿が!」」

 

 尾を引く様に残像を纏いながら、斬られた筈の分身と共に〝神の使徒〟を殴り付ける社。2人が発動したのは〝気配遮断〟の派生、[+幻踏]と呼ばれる技能だ。気配を遮断する際に、ほんの数秒だけ元いた位置に遮断前の気配を残す事で、今もその場に居る様に錯覚させる技能である。

 

 最も、手品のミスディレクションに近い技術である為、注意深く観察すれば比較的簡単に看破は出来る。だが、コンマ数秒が勝敗を分ける戦いにおいてはその限りでは無いし、戦闘巧者は気配に敏感な傾向がある為、額面以上に有用な技能なのだ。その上、社は幾つかの小技を合わせる事で、効果を最大限にまで引き上げている。

 

(一瞬だけ気配を残し、目眩しをする技能・・・!しかも、本体だけで無く、()()()使()()()()()()()・・・!)

 

 現れては消える複数の気配に、見事に翻弄される〝神の使徒〟。社本体と分身、そして[+幻踏]で残される気配により、使徒は最大4つの気配に手を焼かされていた。それに加えて厄介なのが、社と分身が残された気配に被さる様に立ち回っていた事だ。

 

(こうも入れ替わられては、分身だけを狙って消すのは至難・・・!)

 

 本体の残した気配に分身が、分身の残した気配に本体が重なる様に動く事で、社は分身が狙われるのを妨害していた。〝神の使徒〟が本来の能力を発揮すれば、全てを〝分解〟するのも不可能では無いが、それを出来ない事さえ折り込み済み。元の世界に居た頃、醜悪な『呪霊』や『怪異』と殺し合う中で培われた戦闘経験は、トータスでも存分に発揮されていた。

 

(このまま決まれば楽で良いんだがな。)

 

 防戦一方の使徒を、ここぞとばかりに攻め立てる社。〝双子夜刀〟で呼び出せる分身は1人のみで『術式』も使えないが、最大で本体の8割の性能と〝技能〟を使用する事が出来る、文字通り「量より質」を体現した式神だ。〝神の使徒〟もかなり頑丈だが、分身と2人がかりで殴り続けたダメージは確実に蓄積している。このままジリ貧に追い込めば、楽に決着をつける事も可能だろうが・・・。

 

(ま、そう上手くはいかないよな。)

 

 銀の魔力が膨れ上がるのを感知した社は、分身を〝神の使徒〟に突っ込ませると、〝(くゆ)(きつね)〟の生み出した煙幕から脱出する。その直後、煙の隙間から銀色が漏れ出したかと思うと、眩い光が辺りを照らして白煙が霧散する。

 

「オイオイ、そんなに派手に力を使って良いのか?俺の事、大事な大事なご主人様に渡すんだろう?もしかしたら、怪我しちゃうかもだぜ?もっと大切に、蝶よりも花よりも丁重に扱えよ。お使いすら満足に出来ない人形なんて、捨てられるだけだろうに。」

 

「・・・戯言はそこまでです。もう、容赦はしません。」

 

 社の煽りに憮然とした表情で返したのは、全身に銀の魔力を纏った〝神の使徒〟。煙が晴れ銀幕の如き光が晴れた先、使徒の身体は致命傷には至らずとも既にあちこちがボロボロで見るも無惨な状態だ。にも関わらず、痛みすら意に介さぬと剣を構える姿は歴戦のヴァルキリーの様で、神々しさに翳りは全く見られない。

 

「ハイハイ、出た出た〝本気でやります〟宣言。〝今までは手を抜いていた〟ぁ?〝ここからは思う通りになると思うな〟ぁ?俺1人にそこまでバカスカ殴られてる癖にみっとも無ぇ言い訳だな、オイ。言葉は正確に使えよ、〝自分(テメェ)の見積もりが甘かったですゴメンナサイ!〟だろうが。」

 

「・・・何と言おうと無意味です。我々〝神の使徒〟に感情はーーー。」

 

「あぁ、そうか、分かったぞ。お前、何だかんだ言い訳並べて、俺に殴られたかった訳だ。生粋のドMか?いやぁ、未成年の身体に興味津々の主人(カミ)と、未成年に殴られて悦んじゃう従者(しと)!世も末ーーー。」

 

 ザンッ!!!

 

「無意味だと言っています、宿木(やどりぎ)!」

 

「眉間に皺寄ってんぞ、使徒(パシリ)が!」

 

 〝神の使徒〟が2本の大剣を振り下ろしたのを皮切りに、再び戦い始める2人。先程と異なるのは、使徒と社、両者の身体能力が爆発的に上昇している事だろう。使徒は〝神〟から無制限に供給され続ける魔力を用いた全力の強化、社は虎の子である〝限界突破〟*1を使った、互いに全身全霊の真っ向勝負。

 

「・・・まだ、こんな手を残していましたか。」

 

「〝神の使徒〟相手に一対一(タイマン)張ろうってんだから、切り札くらいあるに決まってんだろ。やっぱり目ん玉節穴だな?ーーー〝(くゆ)(きつね)〟!」

 

 超高速の近距離戦闘(インファイト)を行いながら、表面上は淡々としている〝神の使徒〟と、白煙を撒き散らしつつ隙あらば煽る社。既にこの世界有数の強者ですら、理解出来ない規模(スケール)の戦いになっている。一瞬が数十倍に引き延ばされた様な感覚を味わう2人だが、その一方でこの戦いの決着が近い事も悟っていた。

 

(・・・ここまでは見事、と言っておきましょう、宿木(やどりぎ)。ですが、貴方に打てる手はもう無い。)

 

 式神から発生する白煙を〝分解〟しながら、自身の勝利が揺るがない事を確信する〝神の使徒〟。社に絶え間無く斬りかかりながらも、使徒は極めて正確に戦況を分析していた。

 

(・・・触れれば〝分解〟されるのが分かっていて尚、真っ向から挑む胆力。我々の狙いを読み取った上で、それを逆手に取る狡猾さ。適切なタイミングで手札を切る判断力。・・・認めましょう、貴方は確かに過去最高の敵となり得た。)

 

 煙に紛れて不意を突こうとする社だが、その殆どが使徒に見破られ不発に終わってしまう。ここまで来て社が攻めあぐねてしまうのは、互いの身体能力がほぼ互角になったから、では無い。〝(くゆ)(きつね)〟の干渉を、偶然ながら使徒が跳ね除けた事が原因だった。

 

(・・・〝分解〟を身に纏う事で、漸く気付きました。この煙こそ、宿木(やどりぎ)の本命。僅かずつ五感を狂わせ、気付かぬうちに蝕ませる『呪い』を振り撒くのが狙い。)

 

 〝(くゆ)(きつね)〟が出すのは、社の敵にのみ効果を表す『呪い』の白煙。遅効性故に直ぐには効果が出ないが、だからこそ致命的になるまで気付かない悪辣さ。それを使徒は〝分解〟を鎧の様に纏った事で、遮断する事に成功したのだ。

 

(・・・我等に伍する程の強化術も驚異としか言い様がありませんが、代償も大きい筈。そう長くは持たない、無理せずとも時間は我々の味方だーーーと思わせておき、白煙の『呪い』をギリギリまで染み込ませ、最後の最後で不意を突く。・・・やはり、主の仰った通りです。『呪術師』を、侮ってはならない。)

 

 体内に染みた『呪い』は既に〝分解〟済みであり、何時でも全力で動く事が可能だ。しかし、だからこそ使徒は、敢えて『呪い』の影響に気付かぬフリをして社を迎え打とうと考える。

 

(・・・もし、仮に私に『呪い』が効いていないと知られれば、宿木(やどりぎ)が何をしでかすか分からない。ならば、勝ちの目がある、と偽りの希望を持たせた上で、行動を制限させた方が良い。)

 

 過去に〝神〟や〝神の使徒〟に歯向かったこの世界(トータス)の『呪術師』達は、力の強弱はあれど、いずれも大なり小なりイカれていた。中には『自身の死を前提とした』『縛り』を課して『怨霊』と成り、少なく無い被害を齎した者も複数居た。社がそうしないと言い切れる根拠は無く、寧ろ嫌がらせの為だけに命を捨てる可能性すらあるのだ。それを考えれば、寸前まで社の策に乗ってやるのも悪い手では無い。

 

(・・・何時でも、何処からでもどうぞ。どんな手段を取ろうとも、結果は変わりません。)

 

 煙を巻いても無意味だと判断されない様に、それでいて不自然にならない程度に白煙を〝分解〟しながら、社が最後の特攻に来るのを待ち構える〝神の使徒〟。小細工は全て叩き潰すと言わんばかりに、使徒は堂々とした態度で白煙の中を佇む。

 

(・・・来た。)

 

 そして遂に、決着の時が訪れる。銀の魔力を帯びた2つの大剣を構える〝神の使徒〟に対して、白煙をその身で切り裂いて真正面から突っ込む社。放たれた矢の如く突き進む姿は、乾坤一擲の気迫に満ちている。

 

(・・・貴方の行動は、全て悪足掻きに過ぎない。完璧に対応して見せましょう。)

 

 腰を落とし銀翼をはためかせながら、使徒は社の一挙手一投足から目を離さない。何をしても、何をされても無慈悲に返してみせると、全身を魔力で満たした〝神の使徒〟は迎撃体勢をとる。

 

 

 

 ダンッ!!

 

 

 

「・・・は?」

 

 それでも使徒が惚けた声を上げたのは、社が全く無意味な行動を取ったからだった。

 

(・・・何故?何故、このタイミングで跳び上がる!?)

 

 社の行動に意味を見出せず、脳内が疑問で満たされる〝神の使徒〟。それもその筈、彼我の距離が10mを切った所で、社はいきなり跳んだのだ。使徒の攻撃を避けるでも無く、社自身が攻撃の起点にするでも無い。意表を突いてはいるが、唯それだけの謎跳躍(ジャンプ)。どんな行動も無意味に帰すつもりではあったが、最初から無意味な行動をしてくるとは読めなかった。

 

(・・・ここまで来て、無駄な事をする訳が無い。理由が分からないならば、尚更宿木(やどりぎ)から目を離してはいけない!)

 

 予想外の行動に固まりかけた思考を、しかし直ぐ様回し始める〝神の使徒〟。硬直は一瞬、即座に上を見上げた〝神の使徒〟の視線と、前方宙返りの姿勢で上下逆さになった社の目が合った。

 

(・・・何だ、何を見て・・・()?それに、肩の()はーーー。)

 

 

 

 

 

 ドガンッ!!

 

 

 

 

 

 白い煙を振り払い、真紅の稲妻を纏った弾丸が、〝分解〟の鎧ごと〝神の使徒〟を穿ち貫いた。

 

(ーーーな、にが・・・?)

 

 胴体を丸ごと貫かれ下半身と泣き別れさせられた〝神の使徒〟は、薄れゆく意識の中で飛んできた何か(弾丸)の方角に目を向ける。果たして、強化された視界の先には、数百mは離れた地点に巨大な大砲(シュラーゲン)を抱え、先程社の側に居たのと同じ鳥ーーー〝比翼鳥(ひよくどり)〟の片割れを伴う(ハジメ)がいた。

 

(・・・私を見ていたのは、私の場所をあの狙撃手に伝える為・・・!宿木(やどりぎ)の言動は全て、この一撃を当てる為の(ブラフ)・・・!)

 

 1番最初に社がハジメからの応援を断ったのは、いざと言うときに〝神の使徒〟の中から「社の仲間が援護してくる」可能性を消す為だった。態とらしく煽り倒していた事も、〝(くゆ)(きつね)〟の煙を撒き続けていた事も、「挑発して行動を単純化させる」「『呪い』を吸わせて鈍らせる」と目的を錯覚させて、ハジメの援護射撃を悟らせない為の偽装。意識外から必殺を当てる、言わば必中必殺の策だった。

 

「流石はハジメ、良い仕事だ。ーーーお前みたいな相手に、態々一対一(タイマン)する訳が無いだろう。良い加減、死ね。」

 

(・・・主、もうし、わけ、ありまーーー。)

 

 最期に視界に映ったのは、己を嘲笑しながら刀を振り翳す社。主に謝罪しながら、使徒の意識は今度こそ闇へと消えた。

*1
自身の身体能力を3倍まで引き上げる技能。ただし、時間制限付き、且つ肉体に相応の負担が掛かる。




(本話を書き終わった後、見直してみて)主人公側の戦い方じゃない・・・。
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