ありふれない怨霊こそ世界最愛 作:白紙
北の山脈地帯を背に魔力駆動四輪が南へと街道を疾走する。何年もの間、何千何万という人々が踏み固めただけの道であるが、北の山脈地帯へ向かう道に比べれば遥かにマシだ。サスペンション付きの四輪が錬成で道を舗装し、振動を最小限に抑えながら快調にフューレンへと向かって進んでいく。
「む〜、私は二輪の運転でも良かったんですが・・・。」
「お前は運転荒いから駄目だ。」
窓を全開にして風を浴びながらウサミミをパタパタさせるシアを、運転席で呆れた様に嗜めるハジメ。シアとしては四輪より二輪の方が好きらしく若干不満気だ。何でもウサミミが風を切る感触や、ハジメにギュッと抱きつきながら肩に顔を乗せる体勢が好きなのだとか。
「あのぉ~、本当に良かったのですか?」
「ん?ウィルか。何の話だ。」
後部座席から少々身を乗り出しながら、運転席のハジメに気遣わしげに話しかけてきたのはウィル・クデタだ。北の山脈地帯で保護された彼は、数日の療養の甲斐あってある程度の調子を取り戻していた。流石に激しい運動は無理だが、それでも日常生活には問題無いとの事で世話になった冒険者達と別れを済ませ、ハジメ達と共にフューレンに向かっているところである。
「愛子殿の事です。今更ですが、一緒に行動しなくても良かったのですか?愛子殿も名残惜しそうでしたが・・・。」
「別に良いんだよ。あれ以上、俺達がウルの町に居ても面倒な事にしかならない。それに先生があの調子なら俺達が居ても居なくても、間違った決断なんてしないだろうしな。俺達にも目的があるし何時までも一緒って訳にはいかない。」
「それは、そうかもしれませんが・・・。」
「・・・人が良いと言うか何と言うか・・・他人の事で心配し過ぎだろ?」
ハジメの言葉を聞いても尚、心配そうな表情をするウィルにハジメは苦笑いだ。王国の貴族でありながら冒険者を目指すなど随分変わり者だと考えていたが、まさかそれを通り越して心配になるぐらいお人好しであるとは思っていなかったのだ。フューレンのギルド支部長であるイルワが「冒険者の資質が無い」と評していたのは、こう言った性格も理由なのだろう。
最も、ウィルからすればハジメ達は他人どころの話では無い。遭難した自分達を助けてくれただけで無く、ウルの町を襲撃した魔物の大群を退け見事に無辜の人々を守ったのだ。前者は『縛り』込みの依頼であり、後者は結果的にそうなっただけであるが、ウィルの視点ではハジメ達は返し切れない程の恩人であり、最新の英雄でもあるのだ。お人好しな性格も相まって余計に気になるのだろう。
「余り気にするべきでは無いじゃろうよ、ウィル坊。それにご主人様の言った通り、あのまま滞在すれば面倒な連中に絡まれていただろうしのぉ。お主も分かっておろう?」
「・・・僕としては、それもやり切れません。確かに問いたくなる気持ちや言い分も分からなくは無いですが、だからと言って町を救った皆さんにあんな失礼な言い方は・・・!」
「ああいう手合いは、何時の世でも一定数存在するものだと存じます。お嬢様の仰る通り、ウィル様が気にする事では御座いませんわ。」
不安気な表情から一転、プリプリと怒り出したウィルを宥めるのは、同じく後部座席に座っているティオとフィルルである。彼等が話題に上げているのは、愛子専属護衛騎士であるデビット達の事だ。ハジメ達が魔物の軍勢を撃滅した後、彼等は懲りずにハジメ達にアーティファクトの提出や製造方法の開示を求めていた。その時はたまたま居合わせた愛子にキツく叱られていた為、ハジメ達も特に相手にせず居たのだが、それでもウィルは溜飲が下がらないらしい。
「でも、その後はサッパリ絡まれなかったッスよね。てっきり出発前とかに、空気読まず突っかかって来るかと思ってたんスケド。先生サンがよっぽどミッチリ怒っといてくれたんスかね?」
「いいえ、アル様。かの護衛騎士の方々は、愛子様に見つからぬタイミングを見計らっていただけの様です。最も、それを見越した南雲様と宮守様から徹底的に打ちのめされておりましたが。」
「何スかそれ社サンアタシ聞いてないんスケド???」
「真顔で迫るのはやめてくれないかなぁアルさん。怖いから。」
フィルルの補足を聞き、荷台の座席でアルに詰め寄られる社。車内は定員オーバーとまではいかずとも、全員が座れる程の余裕も無かった為*1、社は見張りも兼ねて荷台の座席に座っていたのだが、何故かアルも一緒に荷台に乗っていた。社としては「気を遣ってくれたのかなー」程度にしか考えていなかったが、今の状況では完全に裏目に出ている。
「町を出る少し前に、態々俺とハジメに絡んで来たんだよ。で、余りにもしつこいから適当にシバいたってだけさ。」
「言っとくが殺しちゃいないからな。適当にボコした後、湖に叩き込みはしたが。」
ウルの町を出発する少し前、デビット率いる愛子専属護衛隊の騎士達は、ハジメと社の2人に対して
勿論、ハジメも社もそんな物に興味が無い上に、教会そのものを信用していないので早々に話を切り上げようとした。だが、そんな2人の態度に業を煮やしたデビット達は徐々にヒートアップ。やれ「〝女神の剣〟と呼ばれて良い気になるなよ!」だとか、「〝女神の騎士〟は我々こそが相応しい!」*2等と嫉妬心丸出しで叫び始めたのだ。結局、無駄に騒ぎ始めた騎士達を外に連れ出した2人は、拳で黙らせる羽目になったのである。
「愛子先生にはチクッといたし、今頃たっぷりお説教されてるだろ。良い気味だ。」
「恋は盲目とは言うが、愛子先生もたらし込む相手は選んで欲しいもんだ。」
ケケケと悪い笑みを浮かべる社とは対象的に、ハジメは呆れた様に呟いて溜息を吐く。愛子本人が聞けば顔を真っ赤にして反論するだろうが、たらし込んでいるのは事実なだけに否定も難しい。
「・・・愛子は、魔性の女?」
「ユエさんが言うと、なんだか説得力がありますねぇ〜。」
「妖艶代表みたいなユエサンに言われるとか、先生サンもよっぽどッスね。」
「ふぅむ、先生殿には人を惹きつける魅力がある様じゃなぁ。」
「人は見かけによらぬもの、で御座いますね。」
ユエの疑惑を皮切りに〝愛子人たらし〟説がハジメ一行の間で確度を上げていく。一応、愛子の名誉の為に付け加えるならば、彼女が狙って男性を落とした事は無い。恋愛経験が皆無と言う訳でも無いが、見た目や言動の愛らしさに反して本気の恋愛とは縁が極めて薄いのが実情だったりする。理由は単純で、日本には見た目10代前半の少女である愛子に本気になる人間は、大抵〝
尚、「デビット達は〝
「愛子先生の魔性っぷりは一旦置いておくとしてだ。オイ、そこの竜人族
「む?」/「はい?」
「お前らは本気で俺達の旅に着いて来るつもりか?」
恩師への謂れ無き(とも言い切れない)風評被害を逸らしながら、今一度ティオとフィルルに確認を取るハジメ。
「前にも話したが、異世界からの召喚で中心となったのは天之河ーーー〝勇者〟の天職持ちだ。俺と社も色々特殊だが、向かうのならそちらじゃ無いか?」
「それも考えたんじゃがのぉ・・・フィーとも話し合ったが、我々の求める物に最も近いのは、やはりご主人様達だと結論が出てな。竜人族の役目を果たす為にも、旅に付いて行かせてもらおうと思った訳じゃ。」
「そうか。で、本音は?」
「勇者とやらがどんな奴かは知らんが、ご主人様より無慈悲で容赦無いお仕置きをしてくれるとは思えん!大体、妾は既に〝ご主人様〟と崇める相手を決めたのじゃ、気分で主人を変える様な尻軽とは思わないで欲しいのじゃ!」
「どうせそんな事だろうと思ったよクソが!!」
余りにも(主にハジメにとって)救いようの無い本音を聞き、思わず全力で叫ぶハジメ。他の面々も性癖を全く隠そうとしないティアにドン引き気味であり、ユエに至っては竜人族への憧れが消え去っていたにも関わらず、ショックを受けて片手で目元を覆ってしまっている。
「安心せい、ご主人様。妾はご主人様であれば、どのような愛でもしかと受けきってみせる。だから・・・もっと乱暴にしても良いんじゃよ?もっと激しくしても良いんじゃよ?」
「黙れ変態。身を乗り出すな、こっちに寄るな。オイ、ウィル。そこのドアを開けて今すぐソイツを突き落とせ。俺が許す。」
「ッ!?ハァハァ・・・何処までも弁えたご主人様め・・・じゃが断る。妾はご主人様に付いて行くと決めたからの。竜人族としての役目もそうじゃが、何より責任をとってもらわねばならんしの。別れる理由が皆無じゃ。ご主人様がなんと言おうと付いて行くぞ。絶対離れんからな。」
変態発言を連発するティオを無表情で冷たく突き放すハジメ。だが「寧ろそれが堪らん」とティオは更に表情を蕩けさせながら、しかし断固とした意思でもって譲らない。
「ふざけんな。何が責任だ。あれは唯の殺し合いの延長だろうが。殺されなかっただけありがたいと思え。」
「そこは否定せんし感謝もしておる。じゃが、それはそれとしてご主人様と離れるのは嫌じゃ。絶対に嫌じゃ。何処に逃げても追いかけるからの?あちこちの町で妾の初めてを奪った挙句、あんな事やこんな事をしてご主人様無しでは生きていけない体にされたと言いふらしながら、ご主人様の人相を伝え歩くからの?」
「お前なぁ、手段を選ばないにも程がーーーオイコラ社ォ!!テメェ、他人事だからってゲラゲラ笑ってんじゃねぇよ!はっ倒すぞ!!」
「ウワハハハハ!いやだって、親友が何時の間にやら美女・美少女を侍らせる1級フラグ建築士になってたんだぞ?これはもう笑うなって方が無理じゃんかよぉアハハハハーーー」
ドパパパンッ!!
「ーーーッブネェッ!?!?いきなりドンナーぶっ放すなよ!?」
「ウルセェ!人の心の痛みが分からないなら、物理的に分からせるしかねぇなぁ!変態に好かれる苦しみをお前も味わえ!」
「ず、狡いのじゃ!妾も、妾にも痛みを分けて欲しいのじゃ!出来ればご主人様手ずから、丁寧にじっくりと
荷台で笑う
「・・・・・・・・・ハァ。」
「だ、大丈夫ですってユエさん!きっとティオさんが特別変わってるだけで、他の竜人族の人はもっと真っ当ですよ!だから、気を強く持って下さい!」
「其方のお姫様、本当に大丈夫なんスかフマリスサン。さっきから色々とんでもない事口走ってるんスケド。」
「どうぞ、お気軽にフィルルとお呼び下さい、アル様。以前にも申し上げましたが、お嬢様も成人して久しい身で御座います。であれば、御自身の道は御自身で決められるでしょう。そこに進言こそすれど口を挟もうなどと、出しゃばりな真似をするつもりは
「み、皆さんはこの状況で良く平然とされてますね?やっぱり、英雄ともなればこの程度は気にしないものなんですね・・・!」
俄かに騒がしくなる車内だが、特に気にする様子も無く世間話を続ける女性陣と、そんな彼女達に尊敬の眼差しを向けるウィル。非殺傷とは言え銃弾が飛び交う中でも平然とお喋りが出来るのは、ハジメの腕を信用しているからか、それとも
「チッ、実力を伴う変態がここまで厄介だとはな。同行を許したのは間違いだったか・・・?」
「まぁ、性格と能力が釣り合わないなんてのは良くある話だしなぁ。」
ドンナーをしまいながら
一方の社であるが、実の所ティオの変態性については余り気にしていなかったりする。〝悪意感知〟によりティオに悪意が無い*3のは把握している為、「異世界にもそう言う趣味の人が居るんだなぁ」程度にしか考えていないのだ。〝悪意を持って害を与えようとする〟相手には酷く冷酷な対応を取る反動か、それ以外での許容範囲は割と広めな社である。
「そう嫌そうな顔をするでない、ご主人様よ。妾達は役に立つぞ。ご主人様達の様な規格外では無いが、力量は証明は出来ているじゃろ?何を目標としておるのかは分からんが、妾達にもお供させておくれ。ご主人様、お願いじゃ。」
「メイドは兎も角、お前は生理的に無理。」
「ッ!!!?ハァハァ・・・んっ!んっ!」
「これは酷い。無敵かな?」
全く話の流れを汲まないハジメの言葉に、両腕で何かを堪えるように自分の体を抱きしめ股をモジモジさせるティオと、その様子を見て何処か感心した様に呟く社。ハジメとしてはいっその事、記憶を無くすまで殴り続けるのも有りかと思うのだが、頑丈さは折り紙つきである以上、記憶が飛ばなければ更に取り返しがつかないほど喜ばせそうなので気が進まない。現状では打つ手無し、詰んでいるに等しいと言えた。
「・・・ハァ〜・・・もう良い。俺達の邪魔をしないってんなら、好きにしろよ。俺にはもうお前をどうこうする気力自体が湧かない・・・。」
「お?おぉ~、そうかそうか!うむ、では、これから宜しく頼むぞ、ご主人様、ユエ、シア、社、アル。妾のことはティオで良いからの!ふふふ、楽しい旅になりそうじゃ・・・。」
「色々とご迷惑をお掛けしてしまうと思いますが、何卒宜しくお願いします、皆様。」
「・・・むぅ。」/「よ、宜しくお願いしますです。」
「お願いしまーッス。・・・ホントに大丈夫なんスかね?」
「2人とも宜しくお願いしまーす・・・さぁねぇ?」
ティオとフィルルの挨拶に、各々の反応を返す一同。新たな仲間を迎えたハジメ達は、一抹の不安を抱えながら中立商業都市フューレンへと向かうのだった。
色々解説
・ティオとフィルルの正体について
ウィルには普通に竜人族バレしている。が、原作と異なりウィルや冒険者達に被害を出していないのと、街を救う為に協力していた事で普通に尊敬されている。勿論、変態性については見なかった事にされている。
・ハジメとシアのデート
原作ではシアが身体を張って愛子を庇ったので、ご褒美にハジメとデートを取り付けた。本作では社達の尽力もあり愛子も無事だった為、デートはお流れーーーと言う訳でも無く、ちょっとした諸事情もあり普通にデートはする事になる。具体的には次かその次の話で。
・社の無意識の許容範囲。
身内や友人、他人に対する優先順位はかなりしっかりつけている反面、許容範囲については結構ガバガバ。〝悪意感知〟により悪意の有無を見抜ける事や、「悪意を持たない人など居ない」事を知っているのも原因だが、何よりも大きいのが最愛の女性が怨霊となって自分に取り憑いている点だったりする。ぶっちゃけ、特級過呪怨霊となった■■を普通に受け入れている時点でその辺の感覚が大分マヒしている。他にも変態に振り回されるハジメを見るのが楽しいと言うのもあるだろうが。