ありふれない怨霊こそ世界最愛 作:白紙
「凄い今更なんだけど、女性4人の中に
「おや、社でもそう言う事を気にするんじゃのぉ」
「それはどう言う意味かな、ティオさん?」
ティオの心底意外そうな反応を見て、ニッコリと圧をかける様に笑う社。イルワに勧められたVIPルームで一晩を過ごした社達は、食料や消耗品を補充すべくフューレンの商業区へ買い物に出ていた。と言っても〝宝物庫〟には蓄えがまだ十分入っている為、旅中で消費した分を早々に買い終えた社達は店を幾つか冷かした後、宿で勧められたオープンカフェで休憩していた。
大通りから道2つ外れた場所にあるこのカフェは、静かでゆったりした雰囲気が特徴的な
「今頃は
「何だかんだ言ってもハジメの事だから、ちゃんとエスコートはしてるだろうし、アルさんもそんな心配しなくて良いんじゃない?」
「イヤ、どっちかって言うと、心配なのは
「・・・・・・大丈夫。ハジメは、その程度でシアを見捨てたりしない」
「出来れば空回りしないって方を否定して欲しかったッス、ユエサン」
各々が注文した飲み物を口にしながら、この場に居ない2人の話をする社達。前日の約束通り、ハジメとシアは今朝から観光区へデートに出かけている。何時もの丈夫な冒険者風の服では無く、可愛らしい乳白色のワンピースと黒いベルトで着飾りながら
「ふむ。それにしてもユエよ。本当に良かったのか?」
「?・・・シアとハジメのデートの事?」
「うむ。もしかすると今頃、色々進展しているかもしれんよ?ユエが思う以上にの?」
ティーカップを優雅に傾けるユエに、何処か
「・・・実を言うと、アタシも気になってたんスよね。幾らユエサンが
「やはり、アルの目から見ても不思議であった、と。では、社はどう考えておるのじゃ?我等よりもユエ達と付き合いの長いお主の考えも、是非聞かせて欲しいのぉ」
「え、このタイミングで俺に聞くんだ?・・・ん〜、ユエさんが良いんなら良いんじゃないかな。こう言う時に1番大事なのは、本人達の納得だと思うし」
「ほう、意外と素っ気無いと言うか、ドライな意見じゃな?」
「恋愛事なんてデリケートな話だから、無闇に首突っ込んで引っ掻き回すのもね。それにティオさんも言ってた通り、ハジメもユエさんもシアさんも短く無い付き合いだから、酷い事にはならないって信頼してるし」
急に話を振られて若干面食らいながらも、自分の考えを述べる社。ユエが何を思ってシアを受け入れようとしているかを、社は理解出来ていない。だが、それ以上に社はハジメとユエとシアを仲間として信頼している。それ故、3人の内の誰かに請われるまでは、中立に徹すると決めていたのだ。
「無関心故の放置では無く、信頼故の静観であるか・・・して、ユエよ。肝心のお主はどう考えておるのじゃ?」
社の意見に納得したティオとアルから、疑問と共に視線を向けられるユエ。だが、肝心の吸血姫は動揺の欠片も無く、2人にチラリと目を向けると肩を竦めた。どうやら本当に、何の危機感も持っていない様だ。
「・・・進展しているなら、嬉しい」
「嬉しいじゃと?惚れた男が他の女と親密になると言うのに?」
「・・・他の女じゃない。シアだから」
「
頭上に?マークを浮かべながら首を傾げるティオとアルに、ユエはティーカップを置くとゆっくりと話を続ける。
「・・・最初は、ハジメにベタベタするし・・・色々下心も透けて見えたから煩わしかった・・・」
「エーット、その節は我が
「・・・ん、アルも気にしないで良い。それに、あの子を見ていて分かった。あの子は何時も全力。一生懸命。大切なものの為に、好きなものの為に。良くも悪くも真っ直ぐ」
亜人族にあるまじき難儀な体質でありながら、そんな苦労を感じさせず笑顔を絶やさないシアは、ハジメ達のパーティでは貴重なムードメイカーであった。まだ若い故に色々残念な所や空回る時もあるが、それも引っくるめて愛嬌に出来るのはシアの人徳あっての事だろう。実際、ティオもシアのそう言う所は気に入っていた。
「ふむ。それは見ていて分かる気がするの・・・だから
「・・・半分は」
「半分?もう半分は何じゃ?」
しかし、それでも唯一無二の恋人とデートさせる理由としては些か弱いと感じたティオが確認すると、やはり他にも理由があったらしい。興味津々のティオに対して、ユエは初めて口元に笑みを浮かべて答えた。
「・・・シアは私の事も好き。ハジメと同じ位に。意味は違っても、大きさは同じ・・・可愛いでしょ?」
「成る程。あの子には、ご主人様もユエもどちらも必要と言う事なんじゃな。混じり気の無い好意を邪険に出来る者は少ないからのぉ。それがあの子の魅力でも有る訳かの」
「それに、ちゃんとハジメと区別しているけれど、シアは社の事も好き。・・・そう言う、義理堅い所も可愛いから。でしょう、社?」
「そうだねぇ。俺としても、シアさんは
「い、いい、いきなり何スか。ア、アタシの話はして無いッスよ」
「・・・シアとは違うけど、アルも十分に可愛い。・・・特に、自分の名前も呼ばれないかソワソワする所とか、照れると耳まで真っ赤になる所とか」
「〜〜〜ッ!?!?!?(ボッ)」
「オヤオヤ、見事な撃沈っぷりでございますね」
ユエの一言が図星だったのか、声にならない声を上げて机に突っ伏すアル。社もユエも嘘偽り無い本心からの言葉ではあるのだが、いかんせんアルにとっては
「ふむ、ユエのシアへの思いは分かったが・・・ご主人様の方はどうじゃ?心奪われるとは思わんのか?あの子の魅力は重々承知じゃろ?」
「・・・フフフ」
ティオの問いに対して「それこそ馬鹿馬鹿しい」と肩を竦めたユエが、妖艶な笑みを見せた。目を細め、頬を染め、チロリと舌が唇を舐める。少女の様な幼い見た目と相反する様な溢れ出る色気に、数少ない周囲を歩く者達が男女に関係無く足を止めて目を奪われている。隣に居るティオの色気溢れる豊満な肉体ですら霞む程で、当のティオだけで無くフィルルやアルすらも思わず見蕩れてしまう程だ。
「・・・ハジメには〝大切〟を増やして欲しいと思う。でも・・・〝特別〟は私だけ・・・奪えると思うなら、やってみれば良い。何時でも何処でも誰でも・・・受けて立つ」
〝貴女に出来る?〟そう言外に言い放ち微笑むユエに、言い知れぬ迫力を感じて顔を引き攣らせるティオ。数秒間、2人は目を逸らさずに互いを見つめていたが、ふとティオは苦笑いしながら両手を上げて降参の意を示した。
「まぁ・・・喧嘩を売る気は無い。妾は、ご主人様に罵ってもらえれば十分じゃしの」
「・・・変態」
呆れた表情でティオを見るユエに、本人はカラカラと快活に笑うだけだった。態々こんな話を始めたのも、自分達との関係を良好な物にする為なのはユエも既に察している。憧れだった竜人族のブレない変態ぶりには深く絶望したが、それでも上手くやっていけそうではあった。
「ユエ様の魅力が、まさかここまでの物とは。皆様とご一緒していると、予想外の連続で全く飽きが来ませんね」
「予想外過ぎて、心臓止まるんじゃ無いかって時もあるッスけどね。・・・アタシとしては、ユエサンに一切見惚れなかった社サンに驚きッスケド」
「いや、綺麗だなーとは思ったよ?感想として、それ以上が無いだけで」
「何と言うか、お主も筋金入りよのぉ」
「鏡なら幾らでも貸してあげよう、ティオさん」
和気藹々とブーメランを投げ合いながら親睦を深めていく一行。幸いな事に、話す内容については事欠かない。ハジメと社が元居た世界の話から始まり、ユエやハウリア姉妹との出会い、繰り広げて来た冒険の一部始終等、短くとも濃密な体験談は場を賑やかせるのに一役も二役も買ってくれていた。
「・・・1つ、社に話さなきゃならない事があった」
「?はいはい、何かあった?ユエさん」
世間話に華を咲かせていた最中、ユエがふと思い出した様に社に話を振った。気負った様子の無いユエの声に、心当たりこそ無いものの軽い調子で反応した社。
「ーーーハジメと社が、私に隠している事について」
いつもと変わらぬ普段通りの態度と声色で、ユエが本題を切り出した。
ユエから突如として放たれた断定に近い問い掛け。控えめに言っても大きくはない声量にも関わらず、染み入る様に広がったユエの一言は場に確かな静寂と緊張を齎した。言葉の意味は分からずとも、ユエが真剣に言っている事だけは伝わるからこその自発的な沈黙。それを打ち破ったのは、ユエの視線の先で僅かに苦笑する社だった。
「・・・・・・うん、まぁ、バレるよね」
話し声が途絶え静けさが広がる中、誤魔化す事など出来ないと確信した社は、ユエの問いを素直に認めた。元々、何時かはバレると覚悟していた事もあり、アッサリと認める姿にはある種の潔さも感じる程だ。
「・・・やっぱり、社は正直。そう言う有耶無耶にしない所は、美点」
「マジで?ユエさんに言われると自信付くわ〜」
「・・・お主ら、やるならやるで先に言ってくれんかのぉ。少し冷や冷やしたぞ」
先の張り詰めた空気が嘘の様に霧散するのを感じたティオが、社とユエに呆れる様にジト目を向ける。短いながらも緊迫した雰囲気が広がったのだから、小言の1つも言いたくなるのは当然と言える。ティオ達に一通り謝罪した後、社は改めてユエと向き合う。
「ごめん、ごめん。さて、お褒めの言葉を貰った矢先に申し訳無いんだけど、俺とハジメの隠し事はまだ話す訳にはいかないんだ」
「ユエサン絡みって事は、もしかしてアタシらお邪魔ッスか?」
「ん?あぁ、いや、アルさん達が居る事は余り関係無いかな。これに関しては、中々に面倒な事情があってね」
アルの心配をやんわりと否定しながら、社は言葉を濁す。2人の隠し事は【オルクス大迷宮】の最深部、オスカーの隠れ家で見つけた
「だから悪いんだけど、ユエさんにはもう少し我慢してもらう事になりそうかな」
「・・・構わない。そもそも、私が言いたいのはそこじゃない」
「?なら、何を?」
「・・・私が言いたいのは、逆。ハジメと社の隠し事を、
「ーーーーーーーーー」
ユエからの予想だにしない発言を聞き、驚愕に目を見開く社。隠し事がバレる事も、それについて問いただされる事も予想はしていた。仮にどうしてもユエが知りたいと言うのであれば、隠していた理由を伝えた上で全てを打ち明けるつもりでもいた。だが、隠し事がバレた上で「話さなくても良い」と言われるとは思いもしなかったのだ。余りの予想外っぷりに絶句する社を見て、ユエはクスクスと上品に笑うと言葉を続ける。
「・・・ハジメと社が私に話さないのは、私に話さない方が良いか、若しくは
「・・・・・・本当に、ハジメは良い
「フフフ・・・それ程でも、ある」
首筋に手を当てながら「参りました」と言わんばかりに苦笑する社を見て、酷く愉快そうに笑みを浮かべるユエ。切った張ったの領分ならば、社とてユエに遅れを取るつもりは無い。だが、今回の様にユエに大人の余裕を出されてしまうと、流石に勝てる訳は無かった。何せ、文字通り人生経験が違い過ぎるからだ。
「良し、決めた。ハジメとシアさんが帰ってきたら、少し相談してみるよ。その結果次第で、ユエさんには改めて俺達が隠していた事を話そうと思う」
「・・・本当に?無理はしなくて良い」
「別に大丈夫だよ。さっきユエさんも言ってたけど、俺達が黙ってたのは
「・・・?社?」
ユエの心配を笑い飛ばそうとした社の言葉が、突如として途切れた。不思議に思った女性陣が社の方を見ると、肝心の社はこれと言った反応を返さず、あらぬ方向へと視線を向けている。先程まで社を手玉に取っていたユエも、流石に困惑していた。
「社サン?何かあったッスか?」
〝ちょっと面倒な事態になりそうだから、このまま何事も無いフリをして聞いて欲しい。結論から言うと、どうやらユエさん達4人が狙われているみたいだ〟
「「「「!」」」」
社の〝念話〟を通して伝わった情報に、少なからず驚きを見せるユエ達。だが、それも一瞬の事。直ぐに平静を取り戻すと、自然に振る舞いながら社の次の言葉を待つ姿勢になった。そんな仲間達の姿を見て頼もしさを感じながら、社は自分の感じた悪意について話し始める。
〝ついさっき、俺以外の4人に向けて、大勢から同時に悪意が向けられたのを感知した。俺にも向いてない訳じゃ無いが、比べ物に無らない位にそっちの方が多い。ほぼ間違い無く4人が本命だ〟
〝アタシらが?いきなり何でッスか?〟
〝悪意の質からして、多分奴隷とかの売り物にするつもりじゃないかな。まぁ、見目麗しい美人さん達が、ボディーガードすら碌に着けずにほっつき歩いてるんだ。良からぬ事を考える奴からすれば、鴨がネギ背負ってる様に見えるんじゃない?〟
〝・・・・・・美人とか、サラッと言うのズルくないッスか〟
〝いや、でも事実だからねぇ〟
〝アル様。先程の発言は、宮守様に美人だと言わせるフリの様に聞こえましたよ?〟
〝・・・変な所であざといの、シアに少し似てる〟
〝ウグゥ!?!?〟
〝危機感薄いのぉ、お主ら〟
ユエとフィルルから揶揄われて、再び耳まで真っ赤にしながら机に突っ伏して悶えるアルと、緊張感が無いのを見て呆れるティオ。最も、そこらの人間が束になっても絶対に敵わないと言い切れる面々なので、余裕があるのも当然と言えば当然だった。
〝あくまでも俺の経験則だけど、悪意の広まり方と数からして、相手はそこそこ大規模な組織だと思う。多分、皆の似顔絵とか情報が共有されて、そこから一斉に悪意が向けられたんじゃないかな〟
〝1つ疑問なのですが、ギルドから情報が流れた可能性は無いでしょうか?〟
〝んー、ギルドは多分白かな。少なくとも、イルワさん含めて俺が会った事のある職員は全員大丈夫だね。まぁ、
フィルルの指摘に否を返す社。悪意の数からして敵が大規模な組織なのは確定であり、そこまでの大きさならギルドが把握していない訳が無い。問題はギルド内部に
〝で、これからの方針なんだけど。取り敢えず、ハジメとシアさんの2人と合流するのが優先で良いかな〟
〝この感じだと、
〝だね。で、その後はハジメと相談してからになるけど、多分敵のアジトを片っ端から潰していく事になると思う〟
〝簡単に言うのぉ。アジトと一口に言っても、そう簡単に場所は分からんじゃろ?〟
〝それについては、俺が悪意が固まってる場所を辿れるから問題無いよ〟
〝聞けば聞く程、とても便利な力で御座いますね〟
〝まぁね!■■ちゃんも良い物くれたよ、本当に〟
〝悪意感知〟を褒められて、満更でも無い気分になる社。本人としては愛する
「それじゃ、方針も決まった事だし、お会計してハジメ達を探そうか」
「そうッスね。
「・・・また、デートの機会はある」
「そうじゃのぉ。しかし、ご主人様達も何処に居るやら」
「観光区の方に行くとシア様が仰られていましたので、一旦そちらにーーー」
ドゴオオォォォォン!!!
「「「「「・・・・・・・・・」」」」」
遠くから響いた破壊音を聞き、一斉に黙りこむ社達。音の発生源を見ると、結構な高さのある建物が粉塵を巻き上げながら倒壊する真っ最中であった。方角的には、観光区の方だろう。こんな派手な事をやらかすのは、この場に居ない2人しか有り得ない。
「我が親友ながら、巻き込まれるの早過ぎないか」
「・・・過激なハジメも、素敵」
「デート台無しにされて、
「誰も2人の心配しとらんのぉ。まぁ、要らぬか」
「恐らくは」
軽口を叩きながら、会計を済ませた一同は倒壊した建物の方へ向かっていく。この調子ならば、直ぐにハジメ達に再会できると全員が内心で確信していた。