ありふれない怨霊こそ世界最愛   作:白紙

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8.日常の終わり

 ーーーただひたすらに面倒くさい。

 

 月曜日という恐らくはほぼ全ての労働、あるいは勉学に勤しむ人間が最も忌むべき曜日に対して、南雲ハジメと言う少年が持つ感想はそれだった。

 

(神様は一週間の内6日で世界を作り1日休んだって言うけど、何故もっと休まなかったんだ。6日働いたのだから6日休もうよ。偉大なる御身が勤勉なせいで、僕達人類も勤勉にならざるを得ないんじゃなかろうか。そもそも何故学校などという教育機関が存在しているんだろう)

 

 自らの怠惰さを棚に上げ、寝ぼけている頭で益体のないことをつらつらと考えるハジメ。学校でも仲の良い友人に恵まれたとは言えどもそこはそれ、憂鬱さが微塵も消える事は無かった。

 

 いつものように始業チャイムが鳴る10分前には教室の前に到着。扉を開けた瞬間、教室の男子生徒の()()()()舌打ちやら睨みやらを頂戴する。それ以外の男子生徒や女子生徒に関しては、ハジメには興味無い様だった。いや、一部の物好きはハジメ達を熱心に観察していた。主にBでLを好む貴腐人な方達だが。

 

 その辺を極力意識しないように自席へ向かうハジメ。しかし、毎度のことながらちょっかいを出してくる者もいる。

 

「よぉ、キモオタ!また、徹夜でゲームか?どうせエロゲでもしてたんだろ?」

 

「うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん~」

 

 一体何が面白いのかゲラゲラと笑い出す男子生徒達。()()()()()()()ワザと聞こえる様に声を上げるのは、檜山大介(ひやまだいすけ)と言う毎日飽きもせず日課のようにハジメを小馬鹿にする生徒の筆頭だ。近くでバカ笑いをしているのは斎藤良樹(さいとうよしき)近藤礼一(こんどうれいいち)中野信治(なかのしんじ)の3人で、大体この4人がハジメを小馬鹿にする。

 

 が、ハジメは全く気にも止めず眠たげに欠伸をする。この程度の事を気にする程、柔な性格をしてはいないのだ。友達2人に鍛えられたとも言うが。そんな態度が余計に檜山グループを煽っているのだが、ハジメ本人は気づいていない。

 

 自分の席に座りいざひと眠り、という所でハジメの友人の1人である清水幸利がハジメの席に近づいてきた。挨拶しようとするハジメに対して、幸利は(おもむろ)に顔を横に向けて耳に手を当てた。側から見るとハジメの言葉に耳をすましている様にも見える。

 

 ?マークが頭の上に浮かぶハジメ。徹夜で趣味に没頭すると言う、ある種禁断の果実とも言える味を堪能していた頭では、この友人が何をしたいのかは全く分からない。寝ぼけた頭で、幸利の行動の意味を問おうとするハジメ。しかしーーー。

 

「何?!真正面から文句のひとつも言えない上に自分よりも遥かに成績の悪いクソ雑魚ナメクジ共に、何言われようとも気にする訳ねーだろ、だって!?さすがハジメさん、俺達が思っても言えない事を言うなんて!そこに痺れる憧れるゥー!!」

 

「何言ってくれちゃってんの幸利君!?」

 

 それよりも早く、幸利から特大級の爆弾発言が飛び出した。その発言により凍り付くハジメと一部クラスメイト。「ああ、またか」と納得とともに吹き出したり笑いを堪えている生徒も居るが。

 

 徹夜だとかまだ眠いだとか、そんな生温い考えはハジメの頭の中からは完全に消え去っていた。そんな寝ぼけた事を言っている場合では無い。ハジメにとって最も親しい友人の1人は、本日付けで最も憎むべき邪智暴虐の大敵になっていた。

 

「僕そんな事言って無いよね?それ全部今適当に考えただけでしょ!朝からとんでもない事言わないでくれるかな!」

 

 声を張り上げ自分の無実を証明しようと叫ぶハジメ。その言葉で、凍り付いていた生徒がハジメに対しての興味を無くす。図星を突かれた檜山グループは敵愾心タップリだが。それを相変わらず無視して、クラスメイトの気が逸れた事に息を吐き出し胸を撫で下ろすハジメ。

 

「いやでも、お前の方が成績だいぶ良いのは事実だろぉ?」

 

「だからこそタチの悪い嘘になるんじゃないか。事実でも口に出さない方が良いこともあると思うよ僕は」

 

 ハジメの成績が良いのは事実ではある。少なくともテストの点数は上から数えたほうが間違い無く早い為、成績が良くない等とは口が裂けても言えないだろう。行き過ぎた謙遜は唯の嫌味である。が、ハジメ自身の認識では自分の成績が良いのは自らの努力が理由であるとは思ってもいなかったので、事実であってもあまり声を大にして言うつもりはなかった。

 

「確かに成績は良い方だけど、それは君と社君が僕に勉強教えてくれるからでしょ」

 

 ハジメの成績が良い理由は、友人2人がハジメに勉強を教えてくれていたからだった。社は「友達に勉強教えるとか、優等生っぽいだろ?」とハジメに気を遣ってか冗談めかして言い、幸利は「俺達オタクは肩身が狭いんだから、何か1つ武器作って世間様から【僕達オタクでも頑張ってます!】って自己防衛するんだよぉ!」とある意味非常に現実的かつ切実な理由で、それぞれがハジメに協力していた。

 

 正直な所、将来に備えて父親の会社や母親の作業現場で働いているハジメにとって、成績の良し悪しは割とどうでも良い事ではあった。しかし、2人の善意を無碍にするのも悪いと思い勉強会に参加した所、予想外に2人の教え方は分かりやすく上手かったのだ。勉強会は本人達の趣味や雑学を交えて行われるものであったので、以外にも面白味があるものだった。

 

 ハジメの地頭も悪いものではなかった為、あれよあれよと言う間に成績が上がっていき、気が付けばクラスの平均は優に超えている状態だった。この結果を最も信じられなかったのはハジメ自身ではあったが、両親も喜んでくれたしお小遣いもアップしたので、2人には多いに感謝してはいる。

 

「ーーーそれは違うと思うぞ、ハジメ」

 

 ハジメと幸利の会話の横から、いつの間にか来ていた社が先程のハジメの発言を否定する。

 

「過程と結果は別物だろ?別々に評価するべき、でもいいけどな。どういう理由であれ、ハジメが努力したのも、結果を出してるのも事実だ。そこを否定されると、協力した俺達も悲しくなる」

 

 静かに、しかし真面目な口調でハジメに語りかける社。学校にいる間ーーー正確には、朝に校門を通ってから放課後のHRが終わる迄の間ーーー社は猫を被って優等生をやっている。優等生状態の社は()()()()()巫山戯たりせず表面上は真面目な為に、猫被りがバレてないクラスメイトからの評価は高い。一言で表すのなら「付き合いが悪いけど、親切で文武両道な優等生」と、概ねそんな評価だろうか。時たま素で天然な発言をかます事もあるが、その辺りもある種の愛嬌のように扱われているようだ。

 

「もし仮に、俺達に教えられているのだから勉強できて当たり前、なんて言う奴がいても気にするなよ?そう言う奴に限って、自分で努力出来ない性格も頭もクソな奴だからな?」

 

 ハジメ達以外の人間からは見えない絶妙な角度で、悪い笑みを浮かべる社。性格の悪さに関しては隠し切れていなかったが、社曰く「宮守社という人間でも優等生をやれるっていう証明」のために優等生をしているとハジメは聞いていた。なので極端な話、周りの人間に猫被りがバレても問題ないのだろう。友人達もそれを承知で気にしない様にしている。

 

「だから、自分の努力と出した結果に胸を張れハジメ。お前さんは、前を向き高らかに声を上げ、自分の思いを言っていいんだ。ーーー成績が僕以下のヤツに人権は無い、と

 

 ハジメのもう1人の友達は、知らぬ間に鬼畜外道か悪魔にでもなっていたようだ。優しげな声と口調で、しかし本日通算2度目の爆弾発言がよりにもよって優等生状態の社の口から炸裂した。再び凍りつくハジメと一部クラスメイト。あと先ほどよりも明らかに吹き出す生徒が増えている。幸利は爆笑していた。

 

「何でこういう時に限って社君は(普段教室では言わない様な)冗談言うのさ!?僕完全に嫌な奴じゃん!幸利君と打ち合わせでもしたの!?」

 

 動揺しつつも突っ込みを入れるハジメ。彼ら2人の爆弾発言にはよく振り回されているため、対応は中々に熟れたものになっている。

 

「いや?幸利とは打ち合わせはしていない。面白そうだから乗った」

 

「イヤイヤ、わが親愛なる親友(ブラザー)が周りに溶け込めているか、あるいは虐められないか、俺は心配で心配で夜しか眠れなくてなぁ、そのサポートってやつだよ」

 

「その理由良いな幸利。じゃあ俺もそれで」

 

「じゃあ!?じゃあって言った今!?あと幸利君、夜しっかり寝れてるじゃん!」

 

 突っ込み所しかない幸利と社の会話。ハジメにとって最も信頼しうる2人の友人は、いつの間にか最悪の敵になっていた。吹き出したり笑い声が増える中で、ハジメは【地獄への道は善意で舗装されている】という(ことわざ)がヨーロッパかどこかにあるのを思い出す。意味までは把握していなかったが、額面通りに受け止めるのであれば絶対に間違いだろう。地獄への道は悪意でもバッチリと舗装されていた。

 

「ご心配どうもありがとう!!おかげさまでクラスの皆に朝一で笑いをとれるくらいには馴染めてるよ!あと僕を現状虐めてるのは間違いなく君らだけどね!!」

 

 ハジメの突っ込みに周りから笑いが起きたところで、一時間目の授業を担当する教師が入ってくる。笑われたことに対して赤くなるハジメに、「スマンスマン」と声を掛ける社。授業の挨拶をし終えたハジメには、朝に感じていた眠気は既に無かった。・・・精神的な疲労感は大分あったが。

 

 

 

 

 

 午前中の授業が終わり、昼休憩。授業から解放された生徒たちが俄かに騒めく教室で、ハジメは一人背伸びをしながら一息つく。ふと、ここしばらく自分が授業中に居眠りをしていないことに気づく。遅刻・居眠り常習犯であり、あまり勉強に乗り気でなかった自分がここまで変わるのだから、人生は分からないものだ、と老成した世捨て人の様な事を考えるハジメ。

 

 考え事もそこそこに、いつもの昼のお供である十秒チャージのゼリーをゴソゴソと取り出すハジメ。そこにそれぞれの昼食を持った社と幸利がやってくる。

 

「毎度毎度それ食ってるの見るたび思うんだが、お前さん昼飯それで足りんの?」

 

「ハジメの事だから、弁当食うのすらめんどくせーんじゃねーか?」

 

 心配半分不思議さ半分でハジメに問いかける社に、投げやりに、しかしそう的外れでもない返答をした幸利。社の手には運動部男子であれば丁度良いサイズと言っていい大きさの弁当箱が、幸利の手には購買で買ってきたであろう幾つかのパンがあった。

 

「相変わらず社君はよく食べるね・・・」

 

「我ながら燃費悪いとは思うんだが、食わないと午後持たないしな」

 

「そりゃあんだけ動けりゃ腹減るわな。このフィジカルお化けが」

 

 午前中にあった体育の授業で行われていたサッカーで、社が無双していたのを思い出すハジメと幸利。サッカー部相手に全く引くことなく、ハットトリック一歩手前までいったのだから文句のつけようもない。授業後、社の動きを見ていたサッカー部員達に熱心に勧誘されていたようだが、丁重にお断りしていた。社本人としては、打ち込めるだけの情熱がないから、という理由で入部するつもりはないらしい。

 

 適当な椅子と机に座り3人であーだこーだ喋っていると、ハジメの後ろから「南雲君」と呼ぶ声がした。その声を聞き、理由は異なれど動きがピタリと止まるハジメと幸利。

 

「・・・あ~っと、俺ってば用事があったんだ、ウッカリしてたわ~、悪いがちょっと席を外すぞ。ーーーだからこの手を放せやハジメ」

 

「ハハハ、死なば諸共って言葉を、まさか幸利君が知らないはずないよね?君、いつも文系のテスト満点に近いんだから」

 

 あくまで幸利の主観において、という言葉が頭につくが、特定の条件を満たす女性に対してはトラウマが発動する幸利。声の主がその特定の女性に当てはまる人物であると気づくと、座っていた椅子から立ち上がり、この場から即座に離脱を試みる。

 

 が、しかし幸利の逃亡を読んでいたハジメは、自分が逃げ切れないことを悟った上で道連れを作ることを決意。普段の様子からは想像できない様な機敏な動きで幸利の手を掴むことに成功する。お互いに表面上は笑顔を作りながらも、ハジメと幸利の間では確かに散る火花。そんなことをやっている間に、両者にとって死の宣告にも等しい発言がなされる。

 

「相変わらず3人とも仲いいね。南雲君はお昼食べたの?良かったら一緒に食べない?」

 

 先ほどのやり取りを見ても、まったく怯むことなくハジメに声を掛けてきた人物の名は白崎香織(しらさきかおり)。美少女と言ってもいい美貌と、分け隔てない優しさや責任感を持つ彼女は、学校で二大女神と言われ男女問わず絶大な人気を誇っている。

 

 ハジメ本人はそんな香織に対して「天は二物も三物もあたえるんだなぁ」程度の感想と興味しかなかったのだが、それに反するかのように、彼女はそこそこ頻繁にハジメを構おうとするのだ。学校中から大人気の香織が自分に構う理由も分からない上に、良くも悪くも彼女の存在は教室の注目を集める。現に今も、周りのクラスメイトはこちらを見てひそひそ声で話している。悪い噂で目立つのは本意ではない為、正直勘弁してほしいというのがハジメの素直な気持ちだったりする。

 

 ーーー実の所、クラスメイトが話しているのはハジメに関する悪い噂では無かったりする。興味本位だったり、下世話な内容はあるだろうがハジメに対して否定的なものではない。そもそもの前提として、ハジメのことを嫌っている人間は()()()()()()()()()()ほぼ存在しないと言ってもよい。理由は幾つかあるのだが、その中でも大きいものが2つ。1つ目は社の存在である。

 

 社は本人の猫かぶりの甲斐もあり、()()学校では成績優秀スポーツ万能と文武両道の優等生として通っている。顔立ちも悪くなく、身長も180㎝を超えている為ルックスも十分。また、美少女剣士として有名な八重樫(やえがし)(しずく)とも昔から懇意にしているとあって、彼女たちと同様にとまではいかずとも割と目立つ。そんな社の友人をしているのだから、当然ハジメにも注目はいく。いくのだが、しかしここでハジメ本人の人の良さが目立つのだ。

 

 本人は意識していないだろうが、ハジメの持つ生来の優しさと冷静に周りをよく見る観察眼は困っている人間を見つけると放って置かない。シンプルに手助けすることもあれば、場合によっては当人も気づかない様なさりげない気遣いを見せ、しかしそれを言いふらすでもない。本来であれば見逃される様な細やかな気配りーーー要はハジメの美点と言っても良い部分が、社の注目の余波を受けて多くの人間に気づかれているというだけの話である。

 

 2点目についても内容としては単純で、白崎香織が南雲ハジメを好きであるという事、またそうなった切っ掛けを()()()()()()()()が暴露しているからである。暴露と言ってもクラスメイト全員にではなく、クラスメイトの女子相手にではあるが。

 

 ハジメの美点が気づかれるようになり、周りからの見る目が変わる中。香織本人は自分の思い人が正しく評価されることを自らの事のように嬉しく思いながらも、「自分のようにハジメに思いを寄せる異性が現れるのではないか?」と内心非常に焦っていた。困り果てた香織は親友である雫と、()()()()()()()()()に相談。結果として「いっその事、何もかも正直に話して周りの女子全部味方につけちゃえば良い(要約)」と言うアドバイスを頂戴する。

 

 このアドバイスは周りの女子を味方につける以外にも、未だ目に見えぬ恋敵候補に対して牽制をするという意味合いも兼ねていた。思春期女子にとってのある種の暗黙の了解、所謂「私が先に彼を好きになったんだから他の女子は色目使わないでね♡」と言うヤツである。

 

 その辺の事情に鈍かった香織ではあるが、助言に含まれた意味や理屈を聞くとすぐさま納得。そのままの勢いでアドバイス通り実行し、多くの女子の協力を取り付けることに成功したのであった。因みにこの時、香織はハジメに興味を持つ切っ掛けとなった【ハジメ土下座事件】についても詳しく話しており、その話を聞いたクラスメイト女子からも「やる時はやるヤツ」と、概ね好印象も持たれている。

 

 尚、周りからの見方が自分にとって良い方向に変わっている事や、香織に懸想されている事、自分の黒歴史(土下座)が結構な数の人間に周知されている事にハジメ本人は気づいていない。割とこの男、周りは見えるくせに自分がどう見られているか気づいていないのである。さらに言えば、幸利と社はこの辺の事情を完璧に把握してはいるが、ハジメ本人には伝えていない。「ハジメが自分で気づいたときにどんな顔するのか、お楽しみは取っておく」と言うのが2人の共通の見解である。

 

 香織の(幸利にとっては死刑宣告に等しい)発言に、己が逃げ遅れたことを悟り大人しく席に座りなおす幸利。その顔からは感情が完全に消え去っており、心なしか血色も悪くなっている。その姿を見て多少なりとも罪悪感が湧き出すハジメ。しかし此処で彼を逃がせば、残るはハジメと香織と社の3人。そうなった場合、優等生(猫被り)状態の社のほうも何だかんだと気を使って席を離れていくだろう。その後に残るのは自分と香織の二人だけの、針の筵と言ってもいい時間である。

 

(それだけは断固として避けたいっ・・・)

 

 内心でそこそこ酷いことを思うハジメ。強かと言うか抜け目ない性格になったのは友人2人に影響されたからか、はたまた香織の性格に似てきたか。友人たちを道ずれに、香織と向き合う覚悟を決めたーーー

 

「ごめんなさい南雲君、ちょっと社と清水君借りていくわね」

 

 ーーー瞬間。八重樫雫(香織の親友)という第三者からの全く想像していなかった追撃がハジメを襲う。何を言われたか分からず呆然とするハジメ。時間にして数秒の忘我だったが、それがいけなかった。

 

「イヤー、ヤエガシニサソワレチャコトワレナイナー(棒)」

 

「・・・すまんなハジメ。骨は拾ってやるよ」

 

 その数秒の間に、雫によって連れていかれる友人2名。後に残ったのは、何が起こったか分からず「え・・・?え・・・?」と呟くばかりのハジメと、思い人と2人きりの昼食にありつけてホクホク顔の香織。状況について行けないハジメの口から出たのは「なんでやねん・・・」という弱弱しい呟きだけだった。

 

 

 

 

 

「で、今回のお誘いは白崎さんの指金か?」

 

 雫によって社と幸利が連れてこられたのは、教室内で昼食をとっていた別の女子グループの輪の中だった。メンバーは雫、恵里、鈴の3名。幸利が恵理の姿を視認した瞬間、体を反転させ逃げようとしたのを社が難なく首根っこを捕まえ、無理やり着席させながら聞く。

 

「・・・それが無いとは言わないけれど、昼食に誘いたかったのも事実よ」

 

「フフフ、偶にはこんなメンバーでも良いよね」

 

「鈴も色々聞きたいことあったし全然オッケーだよ!」

 

 雫の言い訳じみた言葉をフォローするかのように、恵里と鈴が揃って賛同する。その発言を聞きつつチラッとハジメのほうを見ると、香織に自分の弁当のおかずを進められタジタジになっていた。哀れな友人に心の中で黙祷を捧げる社。

 

「と言うか、天之河はどうした?アイツ白崎さん関わるとよくハジメに絡んでんじゃん」

 

「光輝は今龍太郎に抑えてもらってるわ」

 

 不思議そうに聞く社に、雫が簡潔に答えて指をさす。そちらを見ると、数人の男子グループ内で一緒に昼食を取っている天之河(あまのがわ)光輝(こうき)がいた。隣には光輝の親友である坂上(さかがみ)龍太郎(りゅうたろう)の姿もある。光輝はどうやらハジメ達が気になるようではあったが、一緒にいる龍太郎たちを無碍にするわけにもいかず、合間を縫ってはチラチラとハジメたちに目をやっている。

 

「人の恋路を邪魔する奴は死ね、って言う言葉を知らんのかね、天之河は」

 

「そんな言葉があるのは社のふざけた頭の中だけよ。後、光輝は香織の気持ちに気づいていないわ」

 

 社が呟いた殺意しかない造語に、辛辣なツッコミを入れつつ訂正の言葉を入れる雫。社の方はというと、雫の言葉を聞き現状を理解すると共に眉間に皺を寄せ、信じられないものを見るかのような目で光輝の方を見る。

 

「嘘だろ?白崎さん物凄くハジメ好き好きオーラ出してるじゃん。何、天之河ってば恋愛の感性死んでるの?」

 

「・・・光輝は少し子供っぽいから」

 

 その言葉に愕然とし更に無慈悲な発言をする社に、こめかみを抑えながらフォローとも言えない言葉を絞り出す雫。その顔にはありありと苦悩と苦労がにじみ出ていた。

 

 雫の苦悩を察し「・・・お、おぅ」としか返せない社。ふと横を見ると何時の間にか立ち直っていた幸利が、携帯の写真機能でハジメと香織の仲睦まじい姿を撮っていた。その抜け目のない姿に「よくやった」とサムズアップする社に、幸利もまたサムズアップで返す。言葉を交わさずとも2人の心は今、「後でハジメに写真見せてからかおう」と言う思いで繋がっていた。ハジメが本当に哀れである。

 

 

 

「んー・・・。宮守君ってさ、もしかして猫被ってる?」

 

 

 

 ーーー唐突に、雫との会話や幸利とほくそ笑む社の姿を見ていた鈴が、そんなことを口に出す。鈴本人としてはふと思いついた疑問を聞いただけのつもりなのだろう。しかしその瞬間、社と質問した鈴以外の3人の動きが止まる。

 

(・・・おいこれ、どーすんだよ?)

 

(鈴ってばホント無駄なとこで鋭いなー)

 

(私達は黙って社に任せるべきかしら・・・)

 

 等と目線で会話して打開策を練ろうとする幸利、恵里、雫。この間0.5秒の早業である。社の猫かぶりを知っている3人はどうやって誤魔化すか、いや私達は何も言わないほうがいいのでは、と再びアイコンタクトでの会話を始めようとする。が、その前に。

 

「猫?ああ、被ってるよ」

 

 間髪入れずに鈴の疑問を肯定する声を社が放つ。あっけらかんとした発言を聞き、座っているにも関わらず、思わずズッコケそうになる3人。質問した鈴本人もこんな簡単に答えられるとは思って無かったらしく、目をパチクリしていた。

 

「いや隠さねーのかよ!?何かこう、それっぽい建前とかあるだろーがフツー!?」

 

「私は時々社が何考えているか分からなくなるわ・・・」

 

「アハハ、社君らしいね」

 

「いやだって、周りからのイメージなんてあんまり気にしてもしょうがないだろ?第一、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 思わず叫ぶようにツッコミを入れる幸利に、再びこめかみを抑え頭痛を堪えるような表情になる雫、苦笑いになりながらも笑み自体は崩さない恵里。本人たちの性格が出ている三者三様の反応に対して、ある意味で身も蓋もないことを言う社。ここで猫被りを暴露されて固まっていた鈴が復活し、社の発言に引っ掛かりを覚える。

 

「・・・なんか色々と聞きたいことが増えちゃったような気がするけど!その言い方だと、何か別の理由があって、宮守君は優等生やってるの?」

 

「あー・・・それは・・・」

 

 復活した鈴からの質問に、今度は「余計なこと言った」と言わんばかりの顔で社が固まった。不思議そうに社の様子を見る鈴と雫。そんな2人とは対照的に「俺知ーらね」とばかりに明後日の方向を向きながら静観を決め込む幸利と、社の方を向きながらある種の余裕すら感じさせる笑みを浮かべる恵里。

 

「・・・その様子だと清水君と恵里(そっちの2人)は社が猫被ってる理由知ってるのね。長い付き合いの私には、一言もそんなこと言わなかったのに。ねぇ、社?その辺り、どう思っているの?私にキッチリと説明はしてもらえるのかしら?

 

 そんな2人の様子を雫が気づかない訳が無く、社に対して笑顔で、しかし言外に隠し事など許さないという態度で問う雫。確かに笑ってはいるのだが、張り付けられた、という表現が非常にしっくりくる能面の様な笑みである。目は言わずもがな笑っていない。心なしか彼女の後ろから、何やら黒いオーラ的なものが噴き出ていそうな幻覚まで見える。その豹変ぶりに横にいた鈴が「ひっ」と短い悲鳴を上げるが、雫本人はそれに気づかない。

 

(いや、説明って言っても■■ちゃん絡みだし言えるわけないんだよな・・・)

 

 雫から予想外の突き上げを喰らい焦る社。この様子だと、中途半端な理由ではすぐに嘘だと看破されるだろう。友人のそういった鋭さに冷や汗をかきながら、何か打開策が無いかと雫を除いた頼れる友人2人に目を向ける。が、恵里は相変わらず笑みを浮かべたまま、口パクで「頑張って」と声援を送るのみ。幸利に到っては、俯いた状態で顔を手で覆っていた。恐らくは雫の豹変ぶりにトラウマが再発したのだろう。

 

(ーーー終わった。もうこれ駄目じゃね)

 

 万事休す。もはや言い逃れは不可能であり、雫から来る圧力は徐々に強くなる一方である。気のせいか空間さえも軋むような音が聞こえてくる気もする。打つ手なしか、と全てを諦めかけたその時。

 

 

 

 光輝の足元に純白に光り輝く円環と幾何学模様が現れた。

 

 

 

「ーーーは?」

 

 その声を発したのは誰だったか。その異常事態には直ぐに周りの生徒達も気がついた。全員が金縛りにでもあったかのように輝く紋様――俗に言う魔法陣らしきものを注視する。

 

 その魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大しーーー。

 

「全員急いで教室から出ろ!!!」

 

 自分の呪力に対しての感知能力の無さにイラつきながらも、退避の言葉を叫ぶ社。しかし事態を飲み込めていないクラスメイト達が動ける筈も無く。

 

 

 

 

 魔法陣の輝きが爆発したようにカッと光った後、教室には誰も残されていなかった。

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