ありふれない怨霊こそ世界最愛   作:白紙

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前回投稿から何時の間にか5か月も経ってた・・・。


83.残された者達②

 光輝達の目の前に現れた、冷ややかな笑みを浮かべる赤い髪の女魔人族。瞳の色は髪と同じ燃える様な赤色で、服装は艶の無い黒のライダースーツらしき物を纏っている。肉体にピッタリ吸い付く様なデザインなのでボディラインが薄暗い迷宮の中でも丸分かりであり、胸元も大きく開いている為見事な双丘がこぼれ落ちそうになっている。また、前に垂れた髪を僅かに尖った耳に掛ける仕草は実に艶かしく、そんな場合では無いと分かっていながらも見惚れた幾人かの男子生徒の頬が赤く染まる。 

 

「さて、いきなりで悪いんだけど、この中に〝闇術師〟と〝降霊術師〟が居るだろう?誰だい?」

 

「「「「「!!」」」」」

 

 が、目を奪われたのも束の間。女からの唐突な質問に、ハッとすると共に何人かが息を呑む。狙いまでは分からないが、魔人族にもある程度情報は知られているらしい。

 

(積極的に隠していた訳じゃねぇから、バレてんのは別におかしか無いが・・・漏らした馬鹿が居やがんな)

 

(社君が言ってた内通者疑惑、当たりだったかー。死ねば良いのに)

 

 お目当てが自分達だと知り、内心で毒吐く幸利と恵里。社から予め言われていた事もあり、2人は一部を除き王国の人間を信用していなかった。幸いにして誰も幸利と恵里に視線を向けなかった為に正体はバレていないだろうが、それも時間の問題だろう。

 

「魔人族が何故そんな事を気にする!?俺の仲間に手を出そうとするなら許さないぞ!」

 

「ん?・・・あー、あんたが例の〝勇者〟かい。アホみたいにキラキラした鎧着ているから、分かりやすくて良いね」

 

「あ、アホ・・・う、煩い!アホ呼ばわりされる謂れは無いぞ!それより、何故魔人族がこんな所に居る!」

 

 油断無く光輝達を観察していた魔人族のあんまりな物言いに、軽くキレつつも驚愕から立ち直った光輝が問い返す。だが、女は気怠さを隠そうともせずに質問を無視すると、心底面倒そうに言葉を続ける。

 

「はぁ~、例の2人ならまだしも、こんなの絶対使い物にならないだろうに。人形にでもするつもりかね?・・・まぁ、命令だし仕方ないか。・・・えーっと、誰だか分からないけど〝闇術師〟と〝降霊術師〟の2人。悪い様にはしないから、あたしらの側に来ないかい?」

 

「な、何?来ないかって・・・どう言う意味だ!」

 

「呑み込みが悪い上に、あんたにゃ聞いてないんだけどね。そのまんまの意味だよ、その2人を勧誘してんの。あたしら魔人族側に来ないかって。色々、優遇するよ?」

 

 予想だにしない発言に、クラスメイト達の反応は様々だった。魔人族の言葉が信じられない者、「何故その2人なのか?」と困惑や驚愕を露わにする者、初めから聞く耳を持たない者等々。だが、その中でも冷静さを保っていた永山や雫は、魔人族の女が飄々とした態度とは裏腹に本気で勧誘しているのだと感じていた。

 

(〝闇術師〟と〝降霊術師〟・・・分かり易く戦闘に秀でた者では無く、搦手(からめて)を得意とする2人を優先する理由は何だ?・・・魔物の精神や魂に、直接干渉出来るからか?だとすると、魔人族にとっても2人の力は無視できない事になるが)

 

(何にせよ〝勇者〟である光輝じゃなくて清水君と恵里を狙ってる辺り、かなり本気みたいね)

 

 魔人族が最近手に入れたと言われる〝魔物を使役する力〟がどう言った物なのか、人間族の間でも詳しく知られている訳では無い。だが、真っ先にその2人を勧誘するところを見るに、幸利と恵里の力は魔人族にとって良くも悪くも重要視されているのだろう。戦力としても旗印としても、人間族で最も期待されているであろう光輝(勇者)を捨て置いているのが良い証拠だった。

 

「断る!人間族を・・・仲間達を・・・王国の人達を・・・裏切れなんて、よくもそんな事が言えたな!やはり、お前達魔人族は聞いていた通り邪悪な存在だ!態々勧誘しに来た様だが、1人でやって来るなんて愚かだったな!多勢に無勢だ。投降しろ!」

 

「だから、あんたには聞いてないんだけどね。ぶっちゃけた話、上からは〝勇者〟よりも、その2人を最優先するように言われていてね。正直、あんたには少し引っ込んでおいて欲しいんだけど?」

 

「っ!何だと!?」

 

 女の「お前等眼中に無い」と言わんばかりの態度に、怒りを露わにして声を荒げる光輝。だが、魔人族の女は煩わしそうにするばかりで全く気にした様子が無い。それどころか、そのままマイペースに会話を続ける始末だ。

 

「そんな訳だからさ、その2人とセットならお仲間も一緒で良いって上からは言われてるんだよね。()()()()()()()も割と上手くやってるみたいだけど、どうする?」

 

「!待て、それはどう言うーーー」

 

「答えは同じだ!何度言われても、俺達は裏切るつもりなんて一切無い!」

 

 魔人族の言葉に引っ掛かりを覚えた永山が詳しく聞きだそうとするも、それを遮る様に光輝が独断で返答してしまう。魔人族からの提案が余程不愉快だったらしく、既に聖剣を起動させ光を纏わせている程だ。魔人族の意味深な発言も、頭に血が登っているのか耳に入っていないらしい。

 

(即断即決は必ずしも悪では無い。無いが・・・)

 

(少し先走り過ぎよ。相変わらず駆け引きは苦手ね)

 

(チッ、やっぱ永山にリーダー任した方が良いんじゃねぇか?)

 

(少しでも情報を引き出すって発想が浮かばないかなぁ?まぁ、幼馴染の恋心にも気付かないくらいだし、そっちに期待するのは無理かなー)

 

 光輝と魔人族のやり取りを聞いた永山と雫、そして幸利と恵里は内心で舌打ちしつつも魔人族の女より周囲に最大限の警戒を行っていた。4人は場合によっては1度、嘘を吐いて魔人族の女に迎合してでも場所を変えるべきだと考えていた。が、それを伝えるより早く光輝が怒り任せに答えてしまった為、仕方なく不測の事態に備えたのだ。

 

(どれだけ魔法に優れた魔人族でも、たった1人でこの階層まで来れるとは考え難い。この階層の魔物を単独で蹴散らせる程に強いのなら、人間族はとっくに滅ぼされている筈だ)

 

(私達を目の前にしてこの余裕。自分の実力だけじゃ無い、十分な戦力を用意しているのでしょうね。他の魔人族が周りに居る感じはしないから・・・魔物を何処かに伏せている可能性大ね)

 

 この階層に到達出来る人間族11人を前にしても、魔人族の女は全く焦っていない。戦闘の痕跡を隠蔽した事も考えれば、最初に危惧した通り此処で待ち伏せしていたと考えるのが自然だろう。戦力は未知数、地の利も魔人族の女にある。何が起きても不思議では無い。

 

「そう。なら、もう用は無いよ。後、一応、言っておくけど、あんたらの勧誘が失敗した時は()()()()と口酸っぱく言われていてね・・・ルトス、ハベル、エンキ!!餌の時間だよ!」

 

 バリンッ!!

 

「ぐっ!?」/「がっ!?」

 

 魔人族の女が名を呼んだ瞬間、破砕音と共に雫と永山が苦悶の声を上げて吹き飛ばされる。透明な正体不明の何かが〝縮地〟もかくやという速度で接近し、〝結界師〟の鈴が咄嗟に張った結界を紙クズの様に破りながらクラスメイト達に襲いかかったのだ。

 

 2人が吹き飛ばされたのは寸前で空間の揺らぎに気付き、咄嗟に見えない敵に狙われていたであろうクラスメイトを庇ったからだ。だが、元々スピードファイターの為防御力が低い雫は兎も角、防御に適性のある〝重格闘家〟*1の永山まで吹き飛ばされるのは勇者パーティにとっても予想外だった。その上、防御が間に合っていたにも関わらず、雫は腹を、永山は両腕を深々と切り裂かれている。鈴が予め障壁魔法を準備していなければ、最悪の事態すら起こっていたかも知れない。

 

 だが、その鈴すらも障壁破砕の衝撃をモロに浴びて後方へ吹き飛ばされてしまう。幸い、直ぐ後ろに居た恵里が受け止めた事で大事には至らなかったが、他の面子はそうもいかない。迫り来る敵意にクラスメイト達は反応しきれないままーーー。

 

「光の恩寵と加護をここに!〝回天〟〝周天〟〝天絶〟!」

 

 透明な揺らぎが飛び掛かろうとした瞬間、香織が詠唱省略で3つの光系魔法を同時発動する。切り裂かれ吹き飛び、地面に叩きつけられた雫と永山を即座に癒す為の〝回天〟*2。回復効果を最低限に絞った上で〝対象に魔力光が纏わり付く〟性質を活かして不可視の敵を浮かび上がらせる為の〝周天〟*3。そして鈴の代わりを務めんと、皆を庇う様な配置で光の盾を生み出した〝天絶〟。*4咄嗟とは思えぬ程に的確な魔法発動は、香織の弛まぬ努力の賜物であった。

 

 降り注ぐ白い燐光は周囲に広がると、3体の透明な何かに纏わりついていく。程なくして現れた輪郭は、文字通りのキメラ。ライオンの頭部に竜の様な手足と鋭い爪、蛇の尻尾に鷲の翼を背中から生やす怪物だ。姿だけで無く気配も消せるのは相当厄介だが、行動中は空間が揺らめいてしまうのを見るに完全な隠密は難しいのだろう。

 

(2人があんな簡単に!絶対、まともに当たっちゃ駄目!)

 

 最も、そんな欠点は香織にとって気休めにもならない。何せ、クラスメイトの中でもトップクラスの近接戦闘能力を持つ雫と永山を、一撃で行動不能に陥れたのだ。そこに姿や気配を消せる能力まであれば、とても太刀打ち出来ない。今までの階層の魔物と比較しても明らかに逸脱している。

 

 纏わりつく光を気にも止めず、キメラ達は追撃の爪牙を振り下ろそうとする。目標は雫、永山、鈴の3人。だが、香織の出した3枚の光の盾が、間に割り込み間一髪で逸らしきる事に成功する。鈴の結界が容易く壊されたのを見て、咄嗟に衝撃を受け流す様に角度をずらして設置したのが功を奏したのだ。

 

 これが〝結界師〟である鈴ならば、壊される端から高速でシールドを補充し続け、弱くとも突破に時間の掛かる多重障壁を作ったりも出来た。が、香織は光属性全般に高い適性を持つものの、結界専門の鈴には及ばない。それ故に、一か八か攻撃をいなす事に賭けたのだった。

 

 攻撃をいなされた3体の魔物達は、やや苛立った様に唸りつつも再度攻撃に移ろうとする。稼げた時間は一瞬であり、問題は無い。それがキメラ達の総意であり事実だが、そう考えたのは香織も同様である。欲しかったのは、この一瞬なのだから。

 

「雫から離れろぉおお!!」

 

 怒りを多分に含ませた雄叫びを上げた光輝が、〝縮地〟で一気に雫の近くにいたキメラに踏み込んだ。残像を生み出す程の急加速の下、振りかぶった聖剣の一振りがキメラの首を跳ねんと輝きを増す。

 

「オオォォォォラァ!!」

 

 勇者の突貫と同時。龍太郎も永山を襲わんとするキメラへと正拳突きの構えを取った。直接踏み込んで攻撃するより、篭手型アーティファクトの能力である衝撃波を飛ばしたほうが早いと判断したからだ。龍太郎から裂帛の気合が迸り、篭手に魔力が収束していく。

 

 更に同時。吹き飛ばされ鈴を受け止めていた恵里が片手を突き出し、鈴と同様に危機感から続けていた詠唱を完成させて強力な炎系魔法を発動させた。〝海炎〟と呼ばれる炎系中級魔法は、文字通り炎の津波を操る範囲魔法だ。素早い敵でも簡単に避けられはしない。

 

 光輝の聖剣が壮絶な威力と早さをもって大上段から振り下ろされる。龍太郎の正拳突きが美しいフォームから繰り出され、凄絶な衝撃波が砲弾のごとく突き進む。恵里の死を運ぶ紅蓮の津波が、目標を呑み込み灰塵にせんと迸る。窮地を覆すには十分であろう攻め手。だが。

 

「「ルゥガァアアア!!」」/「グゥルゥオオオ!!」

 

「「ッ!?」」

 

 勇者達の果敢な抵抗を削ぐべく、咆哮を上げて新たな魔物達が参戦する。光輝と龍太郎に猛烈な勢いで突進してきたのは、体長2.5m程の人型魔物。知る者が見ればブルタール*5を連想するだろうが、迫り来るソレは極限まで鍛え抜かれた肉体を持っている。間違い無く近接特化の魔物だろう。

 

 新たな乱入者に驚く光輝と龍太郎に対し、人型魔物は急接近すると金属性のメイスを豪速で振り抜いた。光輝は振るった剣の遠心力を利用して身を捻り、バランスを崩しつつも転がりながら距離を取る。龍太郎は突き出した右腕に代わり、引き絞った左腕をカチ上げて眼前まで迫っていたメイスを弾くが、続く拳撃を受けて吹き飛ばされてしまう。

 

「ッ、龍太郎!」

 

「問題ねぇ!それより、コイツらヤベェぞ!」

 

「あぁ、分かってる!」

 

 短い言葉で友の無事を確認しながら、光輝は人型魔物を睨みつける。不意打ちだった事を加味しても、膂力・移動速度共に今まで倒した魔物の比では無い。仮にベヒーモスとの殴り合いであっても、或いは勝利してしまうかもと思ってしまう程だ。

 

 ヒュオオオォォ!!

 

「・・・冗談キッツいなぁ!」

 

 一方、恵里達の方は被害こそ無いものの、光輝達以上に衝撃的な光景が広がっていた。魔物達を飲み込むはずだった炎の津波を、突如割り込んだ影が呑み込み始めたからだ。広範囲に展開していた筈の炎が、魔物の口内へ収束し消えていく。全ての炎が喰われ尽くすのに、僅か10秒も掛からなかった。

 

 ギュゥゥゥン

 

 空間から炎と熱気を喰らい尽くし、6本足の真っ赤な亀の様な魔物が現れる。と、間も無く、多足亀が再び口を大きく開いた。唯でさえ赤かった背中の甲羅が空気を揺らぐ程に赤熱し、口内の奥からは赤い輝きが生まれる。特撮や怪獣映画でよく見る、ビームを打つ前の溜めの様な物だろう。喰らったらひとたまりも無いのは明らかだが、魔法を放った直後の為、恵理は対応しきれない。

 

「にゃめんな!守護の光は重なりて、意志ある限り蘇る〝天絶〟!」

 

 ビームが放たれる刹那、香織の治癒魔法により復活した鈴がシールドを展開した。恵里達の前に重なる様に現れた10枚の光の盾は、出現と同時に放たれた超高熱の砲撃を何とか防ぐ事に成功する。

 

「んぐぐぐぐぅ・・・!」

 

「が、頑張って、鈴!」

 

 親友に支えられ、歯を食いしばりながら魔力を練り上げる鈴。香織がやった様に斜めに設置されたシールドは、砲撃を上方に逸らしながらも次々と破られていくが、鈴は追加の詠唱と魔力を注ぎ込んで対抗する。〝結界師〟ならではの力技で、無理矢理拮抗状態に持ち込んだのだ。

 

「いきなり過ぎだろ、クソッ!」/「考えてる暇はないわよ!」

 

 逸らした砲撃が激震と共に迷宮の天井を貫き、周囲を粉砕しながら赤熱化した鉱物を雨の如く撒き散らす。と、ここで漸く混乱から抜け出した他のクラスメイト達が戦闘態勢を整える。雫や永山も完全に治癒され、それぞれ眼前のキメラ達に攻撃を仕掛け始めた。

 

 ヴォッ!

 

 風が爆ぜる様な音を響かせた雫が、残像すら残さない超高速へと突入する。〝縮地〟の派生技能〝無拍子〟により予備動作を消した上で、八重樫流の歩法を組み合わせ急激な緩急を生み出す事で認識をずらし、文字通り触れる事すら叶わない動きを実現したのだ。

 

 突如消えた獲物にキメラが疑問を浮かべるよりも速く、雫は真後ろを取ると抜刀術を繰り出した。〝剣術〟の派生技能〝斬撃速度上昇〟〝抜刀速度上昇〟を乗せて放たれたのは、八重樫流の奥義が一〝断空〟。空間すら断つ、空間ごと断つと言う名に相応しく、銀色の剣線が走った後でキメラの蛇尾が半ばから断ち切られた。

 

「グゥルァアア!!」

 

 怒りの咆哮を上げて振り向きざまに鋭い爪を振るうキメラだが、既に反対側へと回り込んでいた雫には掠りもしない。そのまま振るわれた二の太刀は、キメラの両翼を容易く切り裂いた。

 

(・・・振り切れない!さっさと倒して、他の手助けに行きたいのに!)

 

 速度で翻弄しながら着実にダメージを与えていく雫だが、その表情は晴れる所か苦虫を噛み潰した様に苦い物だ。それもその筈、本来なら先の二撃はキメラの胴体を両断する為のモノだったからだ。最初の一撃は寸前で蛇尾が割って入り届かず、二太刀目も直前で身を屈められて結果的に両翼を切り裂いただけ。これが意味するのは、キメラは雫の速さに付いて来られずとも、全く対応出来ない訳でも無いと言う事。姿を消せる事を加味すると、つくづく難敵だと言わざるを得ない。

 

 内心で滲む焦りを抑えながら、雫は三、四太刀目と剣を振るうとキメラの体に無数の傷をつけていくが、どれも浅く致命傷には遠く及ばない。それどころか、キメラは徐々に雫の速度に慣れ始めている様にも思える。「捉えられるのも時間の問題」と歯噛みする雫をよそに、魔人族は更なる一手を打つ。

 

「キュワァアア!!」

 

 突如、部屋の中で響いたのは新たな魔物の叫び声だ。発生源は、何時の間にか魔人族の女の肩に止まっていた双頭の白い鴉。甲高(かんだか)い鳴き声が響くと、それに呼応する様にキメラが赤黒い光に包まれていく。そして。

 

「嘘でしょう、回復役までいるの!?」

 

 眼前のキメラの傷がみるみる癒えていくのを見て思わず叫ぶ雫。唯でさえ決定打が遠いのに、浅い傷は即座に癒される始末。キメラが雫の速さに順応してきている上に回復役までいる以上、長期戦は雫達の不利にしかならないだろう。だが、拙速を許すほど容易い相手でも無い。

 

 苦戦しているのは雫だけでは無い。光輝や他の面々も支援を受けつつ強化ブルタールを相手取るが、どれだけ傷を与えようとも逆再生の如く治されてしまっている。中には手足が千切れかけたり腹が抉れるなどの致命傷もあったが、それらもお構い無しだ。白鴉の治癒能力は、香織に匹敵する程らしい。

 

(・・・〝勇者〟呼ばわりは伊達じゃない、か。仲間達も手練れ揃い。王国の秘蔵っ子なだけはあるね)

 

 腕を組み余裕の態度を見せつけながら、光輝達をつぶさに観察する魔人族の女。現状、戦いは魔人側が優勢のまま進行しており、このまま押し切るのも時間の問題だろう。だが、それが「自分の実力である」と増長する程、女は思い上がっていなかった。

 

(あの方から頂いた魔物達に、こうまで喰らいつくとはね。こうまで腕が立つなら、確かに〝寄生花(パララント)〟の宿主としちゃ充分か。あたし1人だったら、やってられなかったね)

 

 魔物以外の()()()も含めれば、まず間違い無く不覚をとる事は無いだろう。だが、少しでも気を抜けば万が一も起こりうると、魔人族の女は冷静に戦況を俯瞰していた。

 

「だいぶ厳しいみたいだね。どうする?やっぱり、あたしらの側についとく?今なら未だ撤回も受け付けーー「ギュワァアァアァァ!!」ーーッ何だい!?」

 

 答えなど分かり切っているが、苦戦する光輝達の心を折る為に敢えて再び勧誘の言葉を投げ掛ける魔人族。だが、その途中で突如、肩に止まっていた白鴉が狂った様に暴れ始めた。余りにも唐突な出来事に面食らいつつも、魔人族の女は魔物の制御を試みる。

 

「落ち着きな!ったく、いきなり何がーーーあ?あー・・・いや、そうか」

 

 自分の指示を無視して狂乱する白鴉に、悪態を吐きながら宥めようとした女が、ふと納得した様に独りごちた。彼女の視線の先では、魔物達の治癒が何時の間にか中断されている。こんな真似が出来るのは女の知る限り唯1人だけだ。

 

「まぁ、あたしがあんたと同じ立場でもそうするけど。つくづくあたしらの鬼門だね、〝闇術師〟って奴は」

 

「・・・ハッ。リジェネ付きのレイドボスなんざ、ナーフされて当然だろうが」

 

 魔人族の女の視線の先に居たのは、此方を睨み付けながら闇属性の魔法を発動している幸利だった。「ここまで用意周到な奴が奥の手を隠していない訳が無い」と確信していた幸利は、詠唱を完了させた後、戦況を見極めるべくギリギリまで魔法の発動を温存していたのだ。

 

「あのウザったいクソ鴉は封じた!復帰される前に、全力で磨り潰せぇ!!」

 

「良くやった、清水!俺達は魔人族なんかに絶対に負けはしない!行くぞ〝限界突破〟!」

 

 魔人族の女の言葉と態度に憤怒の表情を浮かべた光輝は、再びメイスを振り下ろしてきた強化ブルタールの一撃を聖剣で弾き返すと、一瞬の隙をついて〝限界突破〟を使用する。神々しい光を纏った光輝は勝利を勝ち取るべく、魔人族の女に向かって突進した。

*1
文字通り〝身体強化〟の技能の他、派生技能〝身体硬化〟、そして〝金剛〟等の防御に寄った技能が多い。

*2
光系中級回復魔法。離れた位置、且つ複数を対象に出来る。

*3
光系の中級回復魔法。回復量が小さい代わりに一定時間ごとに回復魔法が掛かる。所謂オートリジェネ。

*4
光系の中級防御魔法。同じく光系の初級防御魔法〝光絶〟の上位版。主な違いは生み出す光のシールドの枚数。

*5
RPGで言うところのオークやオーガっぽい魔物。大した知能は持っていないが、群れで行動し〝金剛〟の劣化版〝剛壁〟の固有魔法を持っている為、一般的には中々の強敵として知られている。

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