お前に足りないものはカルシウム、あるいは   作:灯火011

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艦娘と深海棲艦の違い?

作ったやつが美少女好きか

作ったやつが()好きかの違いしかないぞ

―戦艦レ級―


鉄底海峡を望む

 ここは鉄底海峡。敵も味方も、今死ぬし、明日死ぬ。1週間生きれば英雄だ。

 

 

 今日も今日とて、敵も味方も艦が、死にに来る。

 

 

 

 艦娘と呼ばれる物の連合艦隊と後方支援部隊。大編成の彼女達は、しかし、残りをわずか1艦として戦艦レ級の前に立っていた。

「お前に足りないのはカルシウム。あるいは…頭だ」

 そう言葉を発したのは、戦艦レ級である。だが、その周りには他の異形の姿は見えない。彼女らとの戦いでレ級を除きすべて沈んでしまったからだ。

「なんだと!」

 レ級の言葉に激怒したのは、戦艦長門の艦ではあるが、艤装は破壊され、服も破けている。つまりは、大破だ。

「旗艦が大破した段階で帰らないのは馬鹿だろう。勇敢さ?根性?希望論?どれを貴様が選んだのかは判らないが、そのせいで艦隊は壊滅だ。軍人として失格だ。勉強し直せ。…よかったなぁ、敵の士官、しかもメッタに()()()()()()()戦艦レ級からのありがたぁーーーーいお言葉だぞ?なぁ、長門。反芻しろ、頭に刻みこめ、夢でも復習しろ」

「貴様ァ!」

 

 長門は更に激高し、ぼろぼろの体でレ級に殴りかかる。いくら艤装が壊れているとはいえ、戦艦の艦娘だ。身体能力はレ級をも凌駕する。だが―。

 

「そして死ね」

 

 そうレ級が言葉を発した瞬間、長門の下半身はレ級の尻尾の中にあった。

 

「キュヒ…」

 

 断末魔の、悲鳴ともいえない一言を発して長門はあっけなく、こと切れる。

 

「ゴリラ味。筋肉質で食えたもんじゃない」

 

 そういいつつもレ級は、巨大なミキサーで何かを混ぜる音をさせながら残った長門の上半身を食らう。その表情は恍惚に溢れている。

 

「固いが、味はそこそこ。ま、言うて私も戦うだけで頭は足りんがね。あとカルシウム…は今のゴリラで足りるか」

 

 そういうレ級は海域にただ一人ただずむ。足元には自軍艦隊であった肉片が漂い、その手と顔は敵艦隊の血肉で赤い化粧がされている。そして、レ級は通信機の電源を入れると、マイクに向かって言葉を発した。

 

「敵艦隊の撃滅は達成された。自軍の生存は6艦のうち1艦、戦艦レ級のみ。敵勢力の損失、12艦のうち12艦。そして後方支援の6艦、計18艦」

 

 双眼鏡を覗きながら戦果の確認をする。そして、誰も残っていないことを確認したレ級は、腰に下げている麻袋の中身を確認する。

 

 長門のカチューシャ

 陸奥のカチューシャ

 赤城の草履

 加賀の胸当て

 島風のリボン

 天津風の靴

 

 扶桑と山城の副砲

 翔鶴と瑞鶴の()()()

 時雨のヘアバンド

 電の髪留め

 

 暁の帽子

 阿武隈の胸のリボン

 金剛のカチューシャ

 龍驤のバイザー

 伊勢のリボン  

 

 そして、特徴的な赤い瞳。駆逐艦、()()()()

 

 戦果の証拠だ。肉体でも備品でもなんでも持ち帰れば、ようやく、戦果として認められる。無論体を持ち帰れば資材になり有益になりうるのだが、今回の場合のようなほぼお互いを喰らいつくす戦いの場合、費用対効果が認められないし、何より運搬手段が無い。随伴艦として輸送艦がいる場合を除いて、このレ級のように敵の体のパーツや遺留品を基地へと持ち帰るのが通例となっていた。

 

「よし、戦果分の備品は回収OK、だな。レ級、()()する」

 

 レ級はそう言いつつ、魚雷を数発海域へと投下する。わずかに浮いた敵味方の残骸に寸分の狂いなく吸い込まれたそれらは、けたたましい音を立てて全てを藻屑へと変えていった。

 

 

「ご苦労。消費した兵はこちらで補充しておく。3日もあれば届く。それまでは非番とする」

 

 基地にたどり着いたレ級は補給と洗浄もそこそこに、執務室へと足を運んでいた。空母級の司令管の執務室ではあるが、武骨な鉄が剥き出しの味気ない部屋だ。

 

「ハッ!司令。承知しました」

 

 レ級は敬礼で答える。その姿に満足したのか、司令は少しだけ笑みを浮かべると、部屋の隅を指さした。

 

「ああ、それとこの小娘をドッグに連れていけ。A遠征に出す」

 

 指さした方向をレ級が見れば、なんとも小さい、人型の駆逐級が此方を睨んでいた。そして何を言うかと思えば。

 

「まだ私は話が終わってません!なぜ私が遠征なんぞ」

 

 上官へあるまじき台詞を吐いた。

 

「雑音だな。レ級。教育してやれ」

 

 姫がそう言葉をこぼした刹那。レ級の拳が新入りの腹に刺さる。

 

「ぐひっ」

 

「豚だったのか。いくぞ新入り。司令室はドッグではない。そのぐらいは知っているだろう」

 

 レ級は新入りの髪を掴み頭を持ち上げる。そして自分の顔に近づける。

 

「なぁよく聞け。命令が出たら『自決』でも行うのが我々兵隊だ。お前に好きだ嫌だの人間性は求めていない。我々は軍隊だ。右を向けと言われたら右を向くんだよ。これ以上の命令違反は銃殺だ」

 

 新入りの喉がヒュッと鳴り、以後言葉を発しなくなった。それが答えのようだ。レ級は佇まいを正すと、司令に面と向かい敬礼を行う。

 

「では、この新入りを地獄に届けてまいります」

「よしなに。では頼んだぞ」

 

 司令も敬礼で返す。2人の間にはこれで十分に意思疎通が出来ているようだ。だが、敬礼をやめたレ級は神妙な面持ちで口を開いた。

 

「ああ、一つ、意見具申をよろしいでしょうか」

「許可する」

「このような()()を私の部隊に補充しないで頂きたい。私が足を引きずられて沈んでしまう」

「考慮する」

「有難うございます。では、失礼します」

 

 そういうとレ級は、未だ納得をしていない顔をする駆逐の首根っこを掴み、執務室より退出していった。

 

 

 執務室を後にした駆逐級とレ級だが、未だに駆逐級は遠征をいう命令に納得していないようで。

 

「私はこんなことしたくないのに…早く艦娘と戦いたいのに」

 

 未だにぐちぐちと下を向いて未だ愚痴る。あまりに見かねて、レ級は口を開く。

 

「まぁ、そうだな」

 

 レ級は新入りにニタリとした顔を向ける。そして、鋭く、言葉を吐き捨てた。

 

「お前に足らないのはカルシウム、あるいは我慢だ。文句と()()()を垂れる前に遠征に行け。命令は下っているのだ。それともやはり命令違反で銃殺にされたいのか?物好きだ」

 

 その言葉に新入りは顔を上げ、レ級を睨む。そして文句を言おうとしたのか口を開いた。

 

「しかし私は未だ納…」

 

 だが、その言葉はレ級の言葉と表情で遮られる。

 

「納得など兵士に必要はない。私であれば、()()()()()()()()()()()()()()()。と即答するがな」

 

 そういったレ級の顔は無表情。瞳に光は無く、何も感じていない。目の前の新入りですら、関心がない。命令が下ったのならば、行く。それぞ兵士ぞ。これこそが兵士ぞ。判ったか新入り。そういいわんばかりの、無表情である。

 

「かくあれかし、と、ご覧に、いれます」

 

 気持ちで押された新入りは、言葉をオウム返しするだけであった。それを見たレ級は、無表情のまま言葉を続ける。

 

「よろしい。先の姫への無礼は任務の達成で帳消しとする」

「はい…」

「なんだその覇気のない返事は。やはり貴様にはカルシウム、あるいは兵としての自覚が全く足りん。海の中で十分に頭を冷やしてくるんだな」

 

 そういってレ級はさっさと新入りをドッグへと同行させ、鬱憤を晴らすように、駆逐級の背中を蹴り上げた。

 

「蹴るなんて痛いじゃないですか!」

「知るか。ドッグで艤装をつけて、遠征に迎え。慣れている駆逐イ級を1杯つける。命令には従うように」

「護衛なんていりません!」

「護衛ではない。任務を達成するための先導役だ」

「私は敵艦を倒したいんです!こんな任務やってられません!」

 

 話が通じていない。そう思ったレ級は、駆逐級の言葉を無視するように言葉を続けた。

 

「では行ってこい。しかし貴様の任務は遠征だ。違うなよ」

「…納得が」

 

 そう言葉を続けようとした駆逐級に、レ級の視線が刺さる。その目は、無駄口を叩くな、と語っていた。駆逐級も腐ってもレ級と同類。その意味が解らぬわけでもない。

 

「返事は」

「…い」

「…返事も出来んクズを連れてきた気はないのだが?」

 

 レ級は平坦な口調で言葉を続けた。

 

「かくあれかしと…ご覧に…入れます…」

「よろしい。()()()()

 

 そういって駆逐級をドッグへと叩き込む。そして後方に控えていた駆逐イ級へと命令を下す。

 

「イ級。貴様はいざとなればアイツを切り捨てろ。任務を優先するように」

「承知致しました。必ずや任務を優先し、完遂するよう()()()尽くします」

 

 そこにあるのは普通の会話だが、目線を合わせて力強く頷くあたり、只の命令ではない。

 

()()()()。では任せた」

 

 つまりは最後のチャンスというやつだ。遠征が出来れば良し、出来なければ、駆逐級は死ぬだけである。

 

 そして2隻が出港する姿を眺めていたレ級だが、ふいに後ろから声を掛けられていた。

 

「あんな状態で送り出してよかったんで?練兵のイ級がついているとはいえ、姫からの預かりもんでしょう?」

 

 そういうのはレ級の艤装を担当する整備士である。特に船としての名前は無いが、レ級が艤装を任せるあたり優秀といって差し支えないであろう。

 

「いいんだよ。あの新入り駆逐はどうせ発見されて死ぬ。そもそも我が軍にとっては害悪だ。敵軍に生まれ変わったほうが我が軍にとって得だ。感情で動く兵士など使い物にならん」

「そんなもんでしょうかね?あれは人型だから姫級の実力があったでしょうに」

「ああ、素質は間違いなく私よりも上だよ。でもな、あいつに足らないのはカルシウム、あるいは兵としての自覚だからな」

「相も変わらず冷たいお方だ。まぁ、今の態度を見ていればあの駆逐級、ガキみたいなもんであるのが間違いないですね」

「だろう?」

 

 そして、レ級の言う通り、新入りが艦娘に沈没させれらたと、そして、()()()()と連絡が来るまで、そう時間はかからなかった。

 

「しかも相も変わらず変な口癖ですね。お直しにならないんで?」

「煩い。しかし、実際の所、あの短絡さからしてカルシウム足りてないだろう」

「ふむ。であれば、貴方の艤装にカルシウム満載とでも刻印しておきましょうか?」

「いらん。不要だ」

 

 

 3日後、レ級の私室に5隻の船が集合していた。

 

「空母ヲ級以下、5隻。第18迎撃部隊へ着任致しました」

 

 美しい敬礼を見せ、佇む5隻。ヲ級が一杯、ル級が2杯、チ級が2杯という打撃部隊の編成だ。レ級は同じように礼を返すと、命令を下した。

 

「ん。了解した。出撃は明日からだ。ドッグに入り体調と装備を整えておけ」

「はっ!承知致しました!」

 

 シンプルな会話だが、軍にはこの程度で十分だとレ級は考える。

 

「ああ、あとそこの…ル級は残ってくれ。他は命令あるまで自由にしてよし」

 

 そしてレ級にしては珍しく、一人の部下を引き留めた。他の4隻が部屋を出ていくと同時に、レ級は椅子に座り、ル級に相対する。

 

「さて…貴様は確か南方の所にいたル級では?あぁ、今は公ではないからフランクで良いぞ。椅子に座れ」

「はい。ではお言葉に甘えさせていただきます」

 

 用意された椅子に座るル級。身長差でいうと親子ほどの差があるため、ル級がレ級を見下ろす形になるが、お互いに特には気にしていない。

 

「…よく、この一兵卒の事を覚えておられますね」

「長門と陸奥の2隻を相手に善戦していた奴を忘れる方が難しいと言うものだ。煙草はやるか?」

「頂戴いたします。過分な評価、ありがとうございます」

「過分ではないさ」

 

 レ級はそう言いながら笑みを浮かべる。そして、指を立てて話をつづけた。

 

「しかし解せぬことが一つある。なぜ辺境の、しかも損耗率が高い私の部隊に配属となったのだ。貴君であればより上位の姫の元で過ごすこともできたであろうに」

「私が志願した次第です」

「志願?私の元にわざわざ?理由を聞いても?」

 

 怪訝な顔をしたレ級は紫煙を吐いた。自覚はしているのだ。レ級は強いが、深海棲艦の中で特別なのだ。他の一般の船はとてもじゃないがついてこれない。良くて弾除けだ。

 

「貴女の実力は確かだ」

 

 力強い目がレ級を射抜く。思わずレ級は体が硬直してしまう。ル級はその姿を見て、苦笑しながら言葉を続けた。

 

 

「だが、部下がついていかない。以前見た時も、そして、今回も。遠い地で毎回耳に入るの戦果はレ級以外は全滅という言葉のみ」

「…確かに。事実だがそれがどうしたというのだ」

「なればこそ、艦娘とある程度互角に戦える私めが、一番最前線で戦う貴女の負担を少しでも減らしたいと志願した次第です」

 

 一瞬レ級が呆けた顔を浮かべる。だが、次の瞬間には大笑いを始めた。

 

「はははは!嬉しい事を言ってくれる。解った。では貴君には期待をもって副官としての任を与えよう。手始めに部下の手綱をしかりと握れ」

「あり難き幸せ。しかりと部下を導きます」

「頼んだ。まぁ、手始めには明日からの出撃でいきなり沈んでくれるなよ」

 

 レ級はニヤリと口角を上げながら手を差し出す。それにこたえるように、ル級もまた、手を差し出していた。

 

「はい。生き残って見せましょう」 

 

 

 そして数日後。またもや鉄底海峡の深部。同じようなシチュエーションにレ級はあきれ顔を浮かべていた。敵は24隻で攻め込んできたのだが、結局いつものようにすべてを喰らいつくして、最後の1艦が目の前にいるだけだ。

 

「レ級うううう!姉さんの仇!」

 

 それは奇しくも喰らった長門の妹である陸奥だ。艤装が壊れ、もはや立ってるだけという状態でいながらも殺意をレ級に向けていた。

 

「ふむ、陸奥か。戦争に私情を挟むなど…愚の骨頂よ。姉と同じだ。一度座学をやり直せ」

「なんですってぇ!」

 

 啖呵を切るやいなや、陸奥は残りの出力でもってレ級に肉薄しようとする。だが、レ級は冷ややかな目でそれを見下していた。

 

「そうやって激情に身を任せて勝てるほど、戦争は甘くないし、我らも弱くは無い、ということさ」

 

 陸奥の頭を徹甲弾が貫き、花が咲く。あっけない陸奥の最後に、レ級は唾を吐いた。

 

「ほらみたことか。まだ呉の海で沈んでいた方がよかったではないか」

 

 レ級はそう言いながら、弾が飛んできた方向へと視線をやる。先日副官となったル級が駆け寄ってきていた。

 

「お怪我はありませんか。隊長殿」

「ああ、何も。副官のお陰だ。…ほう、ヲ級も生き残ったか」

 

 ル級の後ろにはボロボロになりながらも立っている空母ヲ級の姿があった。それを確認したレ級は、通信機の電源を入れる。 

 

「報告。敵艦隊の撃滅は達成された。自軍の生存は6艦のうち3艦。敵勢力の損失、12艦のうち12艦。そして後方支援の12艦、計24艦。報告終わり。帰島する」

 

 そういうとレ級は通信機の電源を切り、ため息を一つついた。すかさずル級が言葉を発する。

 

「大戦果、と言って過言ではありませんね。隊長殿」

「ああ、貴君がしっかりと部下の手綱を握ってくれているからだ、副官。感謝する」

 

 敬礼で答える2人。その後ろで、ヲ級は虚ろな目をしながらひとり呟いている。

 

「ははは、生き残れるとは…奇跡…奇跡…」

「ヲ級殿、貴女の空母としての能力、感服致しました」

「そんなたいそうなことは…」

 

「ああ、私からも礼を言う。これで多少はやっかみも少なくなるってものだ」

 

「お気になさらず。命令ですから」

「死にたくはありませんから。がむしゃらでしたよ」

「しかしそれでも50%の損耗か。艦娘の攻撃も熾烈な事だ」

 

 レ級は周囲を見渡す。艦娘の首が、手が浮かび、味方の足が、胴体が浮かんでいる。

 

「…鉄底海峡は地獄、とは良く言ったものだ」

「そうですね。よく飽きもせず攻めてくるもんです」

「それを言ってしまうと、我々もよく飽きずに戦うものだな」

「確かに」

 

 

 はい。私です。

 

 はい。ありがとうございます。艦娘と深海棲艦のパワーバランスが保たれているようで何よりです。

 はっ。過分なお言葉。まことにありがとうございます。

 

 はい。はい。は、今後の展望はどうなさいますか?

 はい、はい。ソロモンで苦戦をお望みと。物好きだ。ええ、希望に添えるように致しましょう。

 で、今回の裏返りの艦はどうされます?

 …裏返りは海外の娘をご希望ですか。ははぁ、ついに国内の娘では足りなくなりましたか。

 では米国がよろしいでしょう。彼女らの魂は有り余っております。

 はい。ではその通りに。

 

 は?はぁ…確かにおりますが。ただアレは出さないという密約が。

 ふむ、ふむ。なるほど。

 

 …ほお、ではご希望通り、戦艦レ級を特殊作戦海域に配置いたしましょう。

 判っております。最深部への突破の障害にはならないように致します。

 潮の流れで行きつく先に。はい。はい。はい。はい。

 ―承知しております。損害はほどよく、ですね。

 はい。ええ。はい。ああ、それは助かります。

 承知しております。ソロモンは一度明け渡しますので。はい。はい。

 その時はまた指令を頂ければご用意いたします。ええ、はい。

 

 ――――では、命令通りに。大元帥閣下。

 

 ………

 

 私だ。レ級、首尾はどうだ。

 ほお、お前のところにしては残ったな。副官に任命したアレが良い仕事をしているようだな。

 過不足なかろう?今までの米国の量産機とは違う。中身はエリートだ。

 

 企み?何、純粋に普段の礼だ。

 ん?ああ、ああ。そうだな。わかっているわかっている。

 富士山観光だろう?予定は入れてある。横須賀が計画を立てている。

 何?いうに事欠いて山頂から夕陽を見たいだと?

 何をお前は…ああ、それか。わかった、話を通しておこう。

 

 それはそうと、大元帥閣下より命令を頂戴した。

 特殊海域にお前を配置したいそうだ。

 ああ。そうだ。お前だ。ただ、安心しろ、メインルートではない。外れだ。

 ああ。そうだ。刺激をお望みなのだろう。彼らも飽き始めている。

 彼らにとっては戦争だが、そのさなかにも刺激が必要なのだろう。

 ああ、程よく暴れて、程よく追い返せ。ああ、それでかまわん。

 

 何、大元帥閣下も大変なのだ。国民と艦娘の手綱を握らなければならんからな。

 そうだ、彼ら同士が争わぬ仮初の平和のためだ。我らは敵を演じなければならん。

 

 ああ。ああ。そうだ。ままならんよ。わかっている。特殊海域の後は褒章を出す。

 

 では、頼んだぞ。

 

 

「どうされましたか、隊長」

 

「どうもせんよ。新たな命令が下っただけだ」

 

「お聞かせ願えますか」

 

「時期は不明だが敵軍が大規模侵攻を行うらしい。私、ひいては我々の部隊も引き釣り出されれる」

 

「後方の守備のかなめである、我々も、ですか?」

 

「ああ。何、問題は無い。代理は常に用意されているし、損耗した部下の補充は順当に行われる予定だ」

 

「それを聞いて安心いたしました。しかし奴らの大規模侵攻ですか。毎度のことながら生き残れる気がしませんな」

 

 ル級の顔は浮かばない。何せ、今回以上の攻勢で敵軍は襲ってくるのだ。ヲ級も顔面蒼白である。だが、レ級は口角を上げてカラカラと笑う。そして、相も変わらずの口癖を、自慢げな顔で言葉にした。

 

「そうだな、お前達に足りないものはカルシウム、あるいは、幸運だ。―なぁに、今回は生き延びた。だから我々()今度は沈まんよ。副官」

 

 そういいながらレ級は双眼鏡を取り出し、ニヤリと口角を上げながら水平線を覗き込んだ。

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