さいかさんといっしょ! 作:愛愛愛
ぽたぽたと血が滴っている。
(――愛してるわ)
ああ、僕もだよ。
だから、僕だけを見てくれよ。僕だけを感じて、僕だけを愛して、僕だけを――
っていうのは、押しつけがましいかな、はは、ごめんね。
「えいっ」
ぐしゃりと右手に持った日本刀を振り下ろす。逆手に握ったそれは僕の右腿を貫通して刃先を朱色に染める。
手に握る罪歌から、傷口に刺さった罪歌から、震えあがる歓喜が伝わる。
(好き。好き。愛してる。筋繊維を絶った時の、プチプチした貴方が。神経を引き裂いた時の、ブルリとした震えが。肉をかき分ける中で掠めた、官能的な大腿骨が。ああ、愛してるわ。愛してるわ。もっと、もっと)
「うん、わかってる。だから、他の奴らの味何て忘れてね?」
ぐしゃり、ぶしゅり。無造作に振り下ろす手は、びくびく痙攣する右足に間断なく突き刺さっていく。血は垂れ流しというレベルじゃない。もう手遅れだと確信するほどの勢いで、命が抜けていく。脳を焦がすような痛みが恐怖を生む。
その全てが、罪歌への愛で快感に昇華されていく。
ああ、罪歌を喜ばせられてる。罪歌とこんなにも交わっている。この痛みが愛おしい。この寒気が狂おしい。
もう、僕は死ぬだろう。構うものか。罪歌が僕以外に振り向くなんて、それこそ死んでも嫌だ。
死んでも嫌だ。
死んでも死んでも、嫌だ。
死んでも死んでも、死んでも死んでも死んでも死んでも死んでも死んでも死んでも死んでも死んでも死んでも死んでも死んでも――
――罪歌がいないくらいなら、世界が滅びた方がましだ。
「ふ、くは、あはは」
ああ、自分が罪歌へ向ける愛に酔い痴れる。脳内麻薬が酔い痴れさせる。
ぐさぐさ振り下ろす感覚も、もう感じない。手の感触すらしない。だけど、罪歌が喜んでいるんだ。きっと振り下ろされているんだろう。
そろそろ死ぬということが、経験からわかる。こうやって死ぬのは珍しくない。罪歌を信頼しきれていない僕が悪いのだ。罪歌の愛が、簡単に他に移るなんて疑っている僕が悪いのだ。だから仕方ない。
「ん……さぁ……」
罪歌をワイヤー状にばらけさせる。
罪歌は人類への愛で出来た妖刀で、刀の形を持っているのは「妖刀」と定義されているからなのだ。本来は不定形。普段は与えられた形をなぞっているだけで、頼めば他の形にも変わってくれる。
そもそも罪歌は人の作った物じゃない。自然発生した、世界のバグの様な物なのだ。だからそんなものに形は無い。ああ、そんなものじゃないか。
まあ、何て言っているのかというと、罪歌ならこういうこともできるという事なのだ。
ワイヤー状にばらけた罪歌が鉄条網となって空間に球体を描く。半球状に広がった後は、中心――つまり僕に向かって勢いよく収束する。しているはずだ。
すると、僕はボンレスハムの様に網目状に罪歌に包まれて、チューブから押し出されるひき肉の様に体が引き裂かれていくはずだ。
ぎちぎちと熱を持って包んでくれる罪歌に、僕は暖かさを感じてうれしくなる。
ああ、罪歌。次の世界でも一緒だよ。
「あい、してる」
(――愛してるわ)
あはは。
それだけで。この言葉だけで。
僕は、満たされる。
そして世界は朱に染まる。
罪歌の愛に染まるのだ。
この世界には僕と罪歌だけ。
次の生でも、また愛し合おう。
そう考えて、僕は安らかに眠りにつく。
『――次のニュースです。昨日、上野動物園の――え? ああ、はい』
『ここで臨時ニュースです。都内某所の廃ビルで男性十四名。女性四名。性別不明の遺体が一名発見されました』
『性別不明の死体は遺体が激しく損傷しており、執拗なまでに細切れに切り刻まれているという有り様から、怨恨による犯行が有力視されています』
『また、現場の他の死体は全て失血死であり、傷口は長い刃物、或いはワイヤー状のものでつけられた痕跡が見られます』
『男性十名の遺体から、地本の広域指定暴力団に属している証拠品が見つかったため、武力抗争が起こった可能性もあるとして警察は捜査を――』
お粗末様です。