「勝手に酔い痴れて勝手に評価してヨネ」   作:ベリーバッドなんですケド!

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青点は面白い。でも、あの世界で輝けるようなキャラクターを作るには、作者は若輩過ぎる。
それなら、作者の知ってる濃い芸術家キャラクターをモチーフにしよう。それに、主人公とも近い方が良いな。女主人公しか書いたことないから、姉か妹。矢口八虎は兄貴分っぽい。⋯⋯お兄ちゃん。あれ?「お兄ちゃん!(竹達彩奈ボイス)」。中の人が竹達彩奈な芸術家で濃いキャラクターと言えば⋯⋯。

山口つばさ先生に敬意を。ブルーピリオドをすこれ。私の作品ではブルーピリオドの面白さの100分の1も出せないけど、ブルーピリオドは超面白いからブルーピリオドを読んで。


第一話

 コハクはピカソの絵の良さが全部分かるカラ。

 

 それが一番凄いとされる美術のことはベリーボアリングだと思ってる。

 

 笑えない。

 

 

 

 ―――コハクなら、もっとグッドでベストなアートが描ける。

 

 

 

 1

 

 

 帰ろうか、それとももう少しだけ粘ろうか。

 ぼんやりとした心持ちで美術室の天井を眺めてみるが、何も変わりはない。

 

 あの、ブレインが活性化されて膨張した末に、それらをホイップのように絞り出していく感覚。

 

 アレ(・・)さえくれば、コハクはきっと⋯⋯。

 

 

「ハア⋯⋯」

 

 

 ⋯⋯今日は何のインスピレーションも浮かばない日に違いない。こういう日には帰るに限る。考えるまでもなかった。

 

 すると、先程まで無言で(もり)センパイの絵を見ていた佐伯(さえき)センセイが、荷物を纏めて帰ろうとするコハクのことを呼び止めた。

 

 

琥珀(コハク)さーん、これ、お願いできますかー?」

「ハア? センセイ、もしかしてコハクに雑用させようとしてるワケ?」

 

 

 その手にあったのはいくつかの角材を詰めた用具箱。

 大方、裏に置いてこいってことだろうケド、このコハクを雑用に使うなんて良い根性してるヨネ。

 

 

「コハク、もう帰るつもりだったんだケド」

「そう言わずにお願いしますよ」

「⋯⋯仕方ないからやってあげるケド、コハクは置いてきたらさっさと帰るカラ」

「はい、お疲れ様です」

 

 

 近くの机に荷物を置き、受け取った用具箱を抱えて裏へ。

 すると、そこには用具の整頓をする見知った顔が。

 

 

「あれ、琥珀ちゃん、もう帰るの?」

龍二(りゅうじ)⋯⋯アナタも雑用押し付けられたワケ?」

 

 

 心底嫌そうな顔をするのは同級生の鮎川龍二(あゆかわりゅうじ)

 中性的、いや、どちらかと言えば女性的な顔立ち。スラッとしていて整ったスタイル。女の装いをした男でなければ、コハクに描かせてもらいたいくらいなパーフェクトボディ。男だケド。

 

 

「そういうところ、八虎(やとら)に似なくて良いのに⋯⋯ユカちゃんって呼んで」

「それで、龍二も雑用させられてるみたいだケド、絵は描かなくても良いワケ?」

「⋯⋯もう。それに、今日は俺も帰るつもりだよ」

「そう」

「そうって⋯⋯」

 

 

 いくら女顔とはいえ、男が頬を膨らませるのはベリーバッドなワケ。

 

 龍二はいろいろと悩みがあるみたいだケド、コハクには何も関係無い。さっさとこれを置いて家に帰る。それでもって、次の美術展に出品する作品を完成させなくてはいけない。

 

 コハク的にはインスピレーションの湧かないままに描いた作品なんてナンセンス極まりないケド、そんなのが好きって言う物好きの方がこの世の中には多いカラ。

 

 それに、コハクが自由にやっていくためにはお金が必要。画材だってタダじゃない。あの二人、特にママもコハクが賞を取って稼いでる内は何も文句は言えない。

 大学だって大したお金のかからない唯一の国立美大、東京藝術大学を目指さなくちゃいけないケド、そんなものは通過点だカラ。

 

 

「コハクはもう帰るから。じゃあネ」

「うん、またね」

 

 

 今度はコハクの作品を見つめる佐伯センセイに気が付かれないように美術室を後にする。

 

 本当はあんな家に帰りたくないケド、野宿なんてありえないカラ。

 コハクは、疲れてもいないのに重たい体を引き摺るようにして帰路についた。

 

 

 2

 

 

 やけにずっしりと難く重く感じるドアを開ければ、そこは嗅ぎなれた我が家の臭いというヤツ。

 

 それでもやっぱり、この環境はコハクにとってはあまりにも微妙で何も得るものが無いという点で、どこまでもマイナス。

 

 

「ただいま」

「あ、クーちゃんおかえりー。部活お疲れ様ー」

 

 

 労う母の声に応えるでもなく、そそくさと自室に向かえば途中で目に入るのは兄の部屋。

 

 兄のことは、好きでもなければ嫌いでもない。

 ママやパパに向けるそれよりも幾分かベクトルは違うが、飾らずに言えばコハクは兄に“興味が無い”。

 

 

「⋯⋯ハァ。タレントには恵まれても、環境には全く恵まれなかったワケ。芸術家の運命ってヤツなら、笑えない冗談だヨネ」

 

 

 画材やキャンパス以外にこれといって何も置かれていない殺風景な部屋。

 

 色の無いベッドの上で寝転がって独り言ちてみれば、あまりにもあまりな現状分析に失笑を禁じ得ない。

 

 元々、コハク達みたいな芸術家っていう生き物は圧倒的少数。そんなだから、誰からも認められ、受けが良いような存在にはなれないし、なろうとも思いはしない。

 

 

 だって、そこに情熱は一欠片も無いから。

 

 

 佐伯センセイは、好きなことに努力できる人間は誰よりも強いって言ってたケド、コハクもそう思うワケ。

 

 好きな絵を描いてるコハクは、自惚れでなく最強なんだカラ。

 

 

 しばらくぼうっとしていると、お腹が空く。晩御飯を食べたら、コハクも作業に取り掛かろう。

 

 

「よ、よお琥珀」

「⋯⋯お兄ちゃん」

 

 

 そう思って部屋を出ると、ばったりお隣と鉢合わせる。

 

 矢口八虎。コハクの同い年の()

 染めたのか脱色したのか分からない髪に、精巧な顔立ちの魂が抜けたような男。

 アメリカ留学から帰ってきたばかりのホープとデライトに満ちていたコハクは、いの一番にコハクを迎えに来た兄のことを見て、歩く死人(ウォーキング・デッド)って呼んだこともある。

 

 それくらいには、コハクは兄のことが嫌いだ。血の繋がった他人としか思わない。

 

 

「また、遊んでくるつもりなワケ?」

「⋯⋯っ、関係無いだろ。母さんに言っておいてくれ」

「分かった」

 

 

 そそくさと去っていく兄もまた、コハクに何かを抱いていることも知っている。

 

 だけど、焦燥感とか劣等感とか複雑なそれらを、コハクが気に留めることは無い。

 

 だって、天才のコハクと、何にも心動かされてくれない兄とじゃ、生きている世界が違うカラ。

 兄は、ママとかパパと同じような、曖昧な存在なのだ。

 

 

 なのに⋯⋯。

 

 

 3

 

 

 何も描けず、ご飯を食べて寝て。

 翌日も、その翌日も、そのまた翌日の今日も、連日のスランプの影響かメランコリックな気分で一日が終わって。美術室に顔を出すことも無く、すぐに家に帰ってきた。

 

 だけど、その日はいつもと違った。

 

 

「琥珀、居るか?」

「⋯⋯何? 珍しいヨネ、お兄ちゃんがコハクの部屋に来るなんて」

 

 

 いつも、コハクの部屋から遠ざかろうとする兄が、珍しく、本当に珍しくコハクの部屋に入ってきたのだ。

 

 少しだけリザレクトしたインスピレーションの発露を邪魔されたことはムカつくけど、予想外の来客に驚いたコハクは兄をそのまま通してしまう。

 

 

「あのな、琥珀⋯⋯えっとさ⋯⋯あー」

「要領を得ないなら、帰って欲しいワケ」

 

 

 兄がコハクの前で逡巡する姿を見せるなんて本当に珍しい。いつもはさっさと会話を終わらせようとしてたのに。

 

 周囲を、壁に貼り付けた未完成の絵や床に散乱する画材を見回しながら、兄は言葉を選んでいた。

 

 それが、あまりにも予想外だったから。

 コハクは、少しだけ兄の言葉に耳を貸そうと思ったんだヨネ。

 

 

「⋯⋯コハクは、天才だろ?」

「マア、そう言われることはよくあるヨネ」

 

 

 コハクは、確かに天才だ。そんなこと、コハクが一番知っている。

 あのピカソでも、時間さえあればコハクの足元にも及ばなくなるくらい突き放してみせる。それくらいの才能があると自負していなければ、この世界ではそれなり未満で潰えていく。だから、コハクはどれだけ不遜でも、このハングリーな精神を失わず、天才で在り続ける。

 

 しかし、そんなことを聞く為に来たのか。期待して損した。

 

 

「要はそれだけ? なら「待ってくれ!」⋯⋯?」

 

 

 話を切り上げようとしたコハクの両肩を掴み、兄は真剣な(・・・)眼差しでコハクを引き止める。

 

 ⋯⋯今日はどれだけの予想外が重なれば気が済むのか。本格的に何かあると踏んだコハクは、最後まで聞いてみることにした。

 

 

「コハクは、なんで絵を描くんだ?」

「⋯⋯お兄ちゃん、ソレ、コハクになんで息するんだ?って聞いてるのと同じなワケ」

「そんなもんなのか?」

「流石のお兄ちゃんでも分かってると思ってたんだケド」

 

 

 まあ、兄はわけも分からず焦っているようなタイプの人間だ。だから、コハクの絵を見てなんか凄いとか、変だとか思うくらいはできても、そこから先は無い。

 

 そのはず、だ。

 

 

「俺、さ。絵を描いてみたんだ」

「⋯⋯ふーん」

「琥珀からしてみたら、お絵描き未満かも知れないけどさ、兄ちゃん、もしかしたら絵を描くってこと、少しだけ分かったかもしれない」

 

 

 ⋯⋯なんで?

 

 お兄ちゃんは、そんなんじゃ、ないはずだヨネ。もっと、何も無くって、

 

 

「⋯⋯お兄ちゃん、何が言いたいワケ?」

「⋯⋯っ」

 

 

 きっと、その答えは着いていた。

 あの、コハクから逃げ続ける兄は、もういないんだって、何となく分かってた。

 

 

 

「―――俺、藝大を目指すことにした」

 

 

 

 この時、コハクの目に映るお兄ちゃんは、確かに生きていた(・・・・・)

 

 その力強い生命の輝きが灯った眼を、コハクは一生忘れないだろう。

 

 

「そ。なら、お兄ちゃんはコハクの敵なワケ。さっさと帰ってくれる?」

「⋯⋯折り入って頼みがある」

「?」

 

 

 もう、暫くは顔も見たくなかったのに。

 

 どこまでも澄んだ眼は、コハクを逃がさないとばかりに射抜いてきて。

 

 

「いつか、俺の絵を見てくれ。それが、俺だから⋯⋯!」

「⋯⋯考えといてあげるケド、ゴミみたいな絵だったら承知しないカラ」

 

 

 まさか、お兄ちゃんの頼みを聞く日が来るなんて思ってもみなかった。それも、あんなに興味のなさそうだったアートの話で。

 

 きっと、今日は今までとは違う一日なんだろう。

 明日になれば、この苛立ちとも歓びとも不安とも不快とも取れる感情は綺麗さっぱりデリートできるはずだカラ。

 

 去っていくお兄ちゃんの後ろ姿を後目に、コハクはベッドに身を投げ出した。

 

 

 

 この時のコハクは、自分に変化が訪れるだなんて、微塵も考えていなかった。

 

 

 

 ―――東京藝術大学入学試験まで、あと650日。

 

 




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