新任Pとシンデレラガール達   作:むつさん

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新任Pの就任のお話。




新任Pと346プロダクション

……

 

長い一難が去って…

 

というには少し違うが

いつでも難にぶつかってしまうのは

私の人生の性なのかもしれない

 

…………

 

陽射しの強い真夏の日

 

両親が亡くなった。

 

大した持病も無いはず両親が

突然力なく立て続けに眠るように亡くなった

原因は老衰だと医者は言う

昨日まで元気にゲームをしていた両親が老衰なんて。まだ60代なのにそれは考えられないが…今更医者にどうこう言うつもりはない

 

葬儀や両親の部屋の片付け

一頻り手続きが終わり長男の兄貴と二人で家に戻ってきた

 

長男「お疲れ様」

 

雪樹「兄貴も、最後だけはしっかり手伝ってくれるんだな」

 

長男「まぁ、産みの親の最後くらいは、それに別居とはいえこういうのは長男の役割だと思ってるし」

 

雪樹「まぁ、一段落ついたというか。楽になったというか。」

 

長男「お前は特に散々振り回されただろうな」

 

雪樹「良く言えば親想いの息子、悪く言えば人柱、そんなところ」

 

長男「まぁまぁ。あと。結局あいつは来たのか?」

 

雪樹「来てないよ、縁を切るって言って出てったし。白状といえばそうだけど。それが正解だと思う、うちに関しては」

 

長男「それは。血の繋がった人同士としてどうかと思うけどな。俺は。」

 

雪樹「知らんよ。本人に言って」

 

長男「まぁ、今更だな。」

 

雪樹「さて…親の遺品もなくなってこの家はどうするか。広くなるな。こっち来る?」

 

長男「そうだな、それもありかもしれん。そしたら俺が家を持つけど」

 

雪樹「頼むわ。俺とあの兄貴だけじゃ広すぎるしさ。そのうち俺も出てくだろうし。」

 

長男「下二人もなんだかんだひとり暮らし?」

 

雪樹「一応、ただ二人とも相手がいるからそのうち結婚するだろうよ。あ~あ、先越されるわ」

 

長男「仕方ないだろ。お前は」

 

雪樹「まぁ、一生独身でもいいけどね。やりたいことできるし」

 

長男「24歳がよく言うわ」

 

雪樹「まぁ、とにかく次は兄貴一家の引っ越しだな。まだまだ大変だわ。」

 

長男「ああ、手間かけさせてすまんね」

 

雪樹「いいよ、俺はこの家計で一番の苦労人だろうから気にしてない」

 

長男「それ言うのは反則、まぁ手伝って貰うけど」

 

数日後には手続きを終え

長男一家も同居することになった。

 

頑固で天下取りな性格の両親とは違い

歳も近いからか親と比べて格段と話しやすい。

 

それで、一つ話を持ちかけた。

 

雪樹「兄貴。一つだけ頼みがある」

 

長男「なんの頼み、またPC系?」

 

雪樹「仕事。変えたいなって思っててさ。就活期間とかできるかもなぁって?」

 

長男「まぁ、構わんけど年単位はやめてくれよ?お前も貯金はあるだろうけど無限じゃないだろうし」

 

雪樹「その辺はわかってるよ。」

 

長男「それで次は何の仕事をしようと思ってるんだ?」

 

雪樹「まぁ、事務系の会社員かな。そのほうが自分的に。」

 

長男「商業高校通ってたのもあるだろうからな。悪くないと思うぞ」

 

雪樹「まあ。さっさとやめようかなと」

 

長男「そんなに嫌なのか?」

 

雪樹「別にやりづらいとかじゃないよ。仲が悪いわけじゃないし。」

 

長男「なら変える必要なくね。お互い負担なだけだと思うけど。」

 

雪樹「まぁ、俺が接客業を良しとしないのと。いつまでもこの仕事してるとあいつらを何故か思い出して嫌なだよな。」

 

長男「あいつら、ああまぁ。」

 

雪樹「できる限り、思い出したくはない」

 

長男「そうか、」

 

雪樹「感謝してない訳じゃないけどね。それ以上に嫌な思いさせられてるから。」

 

長男「まぁ気持ちはわからんでもない。お前がそう言うなら今の仕事辞めてもいいと思うけど。仕事辞めて次どうするかだな」

 

雪樹「有給休暇期間くらいはのんびりさせてくれ。」

 

長男「それくらいはいいけど。真面目に就活しろよ?」

 

雪樹「その真面目にって言葉がやけに刺さる」

 

長男「図星じゃねぇか」

 

雪樹「まあ。しばらくは問題ないと思うけど。」

 

長男「有給休暇期間ってどれぐらいあるんだ?」

 

雪樹「有給休暇を普段からほとんど取ってないから二ヶ月分くらいはあると思う。」

 

長男「え、長すぎない…?大丈夫?」

 

雪樹「いや、給料出るから何も問題ないって。」

 

長男「二ヶ月も人生サボってんのにお金貰ってるとか羨ましいわ。」

 

雪樹「人生サボるという表現よ」

 

長男「そりゃ、仕事しないでずっと家で呆けてたら人生サボってるようなもんだろ」

 

雪樹「やめて、せめてニートって言って」

 

長男「会社に籍は残ってるしお金もらってるんだからニートじゃないだろ」

 

雪樹「ごもっともで。よっしゃ人生サボったろ」

 

長男「自覚ありじゃねぇか。こいつめ。」

 

雪樹「だって週休7日不労所得だよ、最高じゃん。」

 

長男「だめだ。こいつぶん殴ってやらないと」

 

雪樹「うわ物騒」

 

長男「働けニートめ」

 

雪樹「さっきの発言どこいったよ」

 

長男「ハイハイ。とりあえずちゃんと手続きは踏めよ」

 

雪樹「そりゃもちろん。それまでサボったら一生あの会社で社畜人生だしな。」

 

長男「レッツ定年退職」

 

雪樹「あの会社では勘弁してくれ」

 

………

 

有給休暇期間も終わり

真面目に就職活動を初めて数日が経ったある日。

 

ある会社の面接を終えての帰りの夕方、知り合いに進められたCDを買うのに、CDショップに向かっていた

 

いざ着くと列が出来ており、店に入るのにも一苦労した。

 

店の入り口でカウンターができておりそこに並んでいるようだった。

 

雪樹「なるほど、握手会か」

 

アイドルの握手会。

有名なアイドルなのだろうか

 

雪樹「まぁ、俺の目的はまた別だからな、」

 

知り合いに勧められたCDを探し。

運が良かったのか限定版の一つが余っていたようだ

 

雪樹「あいつ、限定版欲しかったって言ってたし。譲ってやるか」

 

限定版を手に取った時

ビンク髪の女性が隣で物欲しそうに見ていた

 

雪樹「あれ。」

 

女性「あれっ…それ最後の一つじゃん…」

 

雪樹「もしかして、限定版目当てでした?」

 

女性「目当てっちゃ目当てだし…まぁ…でもCDだけでもいいかなって…いやでもせっかくのしまむーソロ曲で限定版だし…」

 

雪樹「いいですよ、僕は特に限定版とか気にしてなかったので。」

 

女性「え、いいの?ほんとに?」

 

雪樹「はい。元々、アイドルの曲はあまり興味持ったことなくて。今回勧められて買おうと思っただけですし。狙ってたとかじゃないので、どうぞ。」

 

女性に限定版のCDを手渡しすると喜んで会計口まで向かっていった

改めて通常版を手に取り、表紙を見ると先の握手会のアイドルが写っていた。

 

雪樹「なるほど、今日握手会に来ていたファンの人だったのかな」

 

会計口に向かうとまた別の女性に話しかけられた。

 

女性「あっ!そのCDは!」

 

雪樹「えっと。何かありましたか?」

 

振り向くと先のアイドルが居た。

 

アイドル「買って頂けるんですね!」

 

雪樹「そうですね。知り合いの紹介で、ちょっと気になったので」

 

アイドル「ありがとうございます!是非聞いてください!」

 

女性「ちょっと卯月、まだ片付け終わってないんだから手伝って」

 

アイドル「あっ、ごめん!」

 

アイドルは謝りながらも笑顔のまま戻っていった

 

雪樹「名前は…島村卯月。」

 

見慣れない名前。

サンプルを聴かせてもらった時は、曲の一部だけだったか。

 

会計を終えて店を出る直前。

さっきのアイドルがまだ居た。

目が合うと近寄って話しかけて来た。

 

卯月「あの、さっきの方でしょうか?ご紹介で私のアルバムを買ったということはファンの方から?」

 

雪樹「そういうことになるかな。サンプルは聴かせてもらって。気になったんだ」

 

卯月「そうなんですね。それなら是非他のアイドルのも、サンプルだけでもいいので聴いてみてください!」

 

雪樹「うん、気が向いたらいくつか調べて見るよ。」

 

卯月「それでは!私はそろそろ戻らないといけないので。ありがとうございました!」

 

元気な笑顔で去っていくと。他のアイドル達と車に乗り込んで行った。

 

雪樹「まぁ、これも何かの縁。か」

 

その後は特に何もなく家まで帰り、購入したCDの曲を聴いていた。

 

 

 

数日後

 

先日の会社の合否発表の日

会社のロビー掲示板にて合否発表という、なんとも言えない通知方法だったため会社まで出向くことになった。

 

雪樹「普通、電話か書類送付するだろ……いやこの会社人数多いからこの方が確実なのかもしれないのか…」

 

ロビーに着くとスーツ姿の人達が大勢居た。

中途採用が多いからか中年の人が多い

 

なんとか割り込んで掲示板が見えるところまで行くが掲示板の合格欄には自分の番号はなかった。

 

つまり。落ちた訳だ

 

雪樹「まぁ、次探すかな」

 

会社のロビーで挨拶だけして帰ることにした。

 

帰りのバス待ち中。

一人の少女が数人の男性に囲まれてるのが目に映った

 

いい雰囲気じゃない…

押し付けがましい様な雰囲気。

少女も必死に避けようとしてる

 

雪樹「ナンパには見えないし、少し度が過ぎるな…」

 

そう呟いたとき別の少女がその現場に近づく。少女の知り合いか、友人か。

よく見ると。先日CDショップにいた握手会のアイドルだった。

私に話しかけてきたアイドルとは他の子だ。

 

それでも少女が2人いた所で。

大人の男性が4人もいるなら変なことに巻き込まれる可能性もある

会話の内容は聞こえないが。

見てみぬふりはできない

 

現場に向かうと後から来ていた少女が思いもよらぬ発言をした。

 

少し背の高い少女「あっ、プロデューサー、遅いよ」

 

(えっ…そう来るの…アドリブやめてよ…)

 

雪樹「急に呼び出しておいて、遅いは酷いと思うけどな」

 

男性「おや、プロデューサーということは、彼女達はもしや、」

 

雪樹「うちのアイドル達に何か御用ですか?」

 

男性「用事、というか少しモデルのお手伝いをお願いしようと思いまして。」

 

背の低めな少女「いや…だから…モデルなんてもりくぼには…」

 

少し背の高い少女「これから撮影の予定があるから断るって言ってるんだけどしつこくて。」

 

雪樹「プロダクション所属のアイドル達ですので勝手な行動は困ります、お引き取り願えますか」

 

男性「ほんの少しだけお時間あればいいのですが、それでもだめですかね」

 

???「キミ達、うちの事務所のアイドルに何をしてる」

 

背の高い女性。うちの事務所のアイドルってことは…

 

鋭い眼差しに上からの目線

 

男性「少しモデルのお手伝いをですね…」

 

背の高い女性「少女相手にモデルの協力とは感心しないな。必要であればうちの事務所のプロ達を用意するが、どうかな?」

 

男性「いえ。け、結構です…」

 

背の高い女性「そうか、それは残念だ。彼女達はこれから別で仕事がある、勝手されては困るから、お引き取り願おうか。」

 

男性「そ、そうですね、それでは…」

 

男性達は早歩きで去っていく

 

ひとまず落着と言った感じだ

 

女性「キミは話を聞いていなかったのか」

 

少し背の高い少女「待ってください専務、この人は私達を助けようとしたんです。」

 

女性「そうか、感謝する。」

 

背の低めな少女「あの…ありがとう、ございます…」

 

雪樹「まぁ、いきなりプロデューサーって呼ばれたときはどうしようかと思いましたよ。なんとかアドリブ効かせましたけどね。」

 

女性「アドリブまでさせて…」

 

雪樹「いえいえ、お気になさらず。あのまま見てみぬふりするつもりもなかったので、少なくともアドリブ無しでも止めに入ってましたし。」

 

女性「心遣い助かる。名前を聞かせてもらってもいいかな?」

 

雪樹「松谷雪樹、あいにく名刺はなくて、大した事情ではないんですが、仕事を辞めて、今はフリーです。」

 

女性「そうか、私は346プロダクションの美城という。これから用事がないのであれば、せっかくだから次の撮影を見学していくといい。」

 

渋谷「専務?いいんですか?」

 

美城「感謝の意を込めてだ、それに私自身が少し無礼した謝罪の意も込めている。」

 

雪樹「ご厚意感謝します。お言葉に甘えて職業見学させていただきますね」

 

少し移動したところでバスが待っていた

 

森久保「やっと…街中を出れるんですね…」

 

渋谷「乃々、ほんと人集り苦手だもんね」

 

美城「苦手は早めに克服するといい。そうでなければ舞台で支障が出るかもしれないぞ」

 

森久保「わかってるんですけど…それでも…」

 

渋谷「まぁ、乃々、少しずつ慣れていこう」

 

人集りが苦手…か

 

雪樹「一つ質問よろしいですか」

 

美城「答えれる範囲でなら回答するが、何かな。」

 

雪樹「アイドルの姿についてなんですが……いえ、今ここで、この質問をするのは無粋かもしれません。また後でさせてもらいます」

 

美城「そうか、折を見てまた聞くといい」

 

撮影を見届けてもいない部外者が

容易に聞くべきじゃないだろう

 

到着したのは街外れの森の

別荘のような場所

 

ある美容品のCM撮影。

あれほど恥ずかしがっていた少女もいざ撮影となると、微かに笑顔で撮影に応じている。

もう一人の少女もそれに応えるように振る舞う。

 

これがアイドル…プロ…なのだろう

握手会や撮影の仕事

以前見た舞台での演技や披露もそう。

 

想像していたものと大きく違う。

 

少し前の自分が…接客と販売だけを繰り返していた自分がとても小さく見えてくる。

 

雪樹「これが。アイドル」

 

美城「先の質問の回答は見つかったかね」

 

雪樹「いえ、まだひとつだけ引っかかります」

 

美城「何かな。」

 

雪樹「なぜ彼女達は、アイドルになれた、のでしょうか」

 

美城「アイドルになれた、か、それはいくつか回答があるな。まず一つ、我々プロダクションのメンバーによる協力。あとは彼女達自身の中にある輝きに彼女達自身が気づいたから。もう一つは単純に根気や努力と言ったところだろう。」

 

雪樹「アイドル自身の問題とプロダクションによる協力か。」

 

美城「私は主に彼女達がすぐにでも実力付く為に協力するようにしている。」

 

雪樹「実力付ける努力…例えば、アイドル同士で協力して切磋琢磨を繰り返す…お互いの輝きがお互いをより一層強くする。アイドルになった過程は違えども同じ目標に目指しているから。」

 

美城「面白い意見だな、確かにそれもあるだろう、だがそれは度が過ぎると、ただのお遊戯に成りかねないな。」

 

雪樹「貴重な回答。ありがとうございました」

 

美城「キミの人生に役立つかわからないが納得したのならそれでいい、さてそろそろ時間だろう。」

 

森久保「あの…撮影、もう終わりですか…」

 

美城「十分だ。あとはプロダクションの営業と相手方の話し合い次第。場合によってはまたお願いするかもしれないが、ひとまず今日は終わるとしよう。」

 

渋谷「お疲れ様、乃々」

 

森久保「はい、お疲れ様です…」

 

美城「さて、キミも帰るといい。タクシーを用意してある。これを受け取って欲しい」

 

手渡しされたのは万札。

タクシー代に万札…

 

雪樹「タクシーにしては多過ぎる思いますか」

 

美城「余った分は好きにするといい、それと、私の名刺も渡しておこう。」

 

雪樹「ご丁寧にどうも。」

 

美城「キミには少し期待している。また声を掛けてくるといい。」

 

渋谷「専務…それって」

 

美城「もちろん。今日限りでも構わない。やりたい仕事を見つけるのが今のキミに必要なことだ。」

 

雪樹「そうですね…」

 

一つのチャンスでもあるわけか

 

美城「ほら、バスに乗り込むぞ。それではな」

 

三人はバスで帰っていった。

 

少しもしないうちにタクシーが着き、

家までタクシーで向かった

 

運転手「着きました。お疲れ様です。お代は3250円ですね〜」

 

タクシー代…めちゃくちゃ余った

 

 

翌日。

 

雪樹「ここが、事務所にあたるのか」

 

名刺の住所を便りにプロダクションを訪ねた

 

エントランス前で数人の少女達が話し合っていた

 

少女「あれ?」

 

雪樹「えっと。初めまして。美城さんにお話があってきたんだけど。今居るかな」

 

少女「お客様でごぜーますね、案内するですよ!」

 

少女達に連れられて着いたのは一つの部屋だった。

 

少女がノックして声をかけると聞き覚えのある声がした

 

美城「開いているぞ」

 

少女に連れられて部屋に入ると

先日の女性が忙しそうに書類整理していた

 

雪樹「先日はお世話になりました。雪樹です」

 

美城「キミか、ここに来たということは、そういうことだな。」

 

少女「え?どういうことでごぜーますか?」

 

美城「市原仁奈だったか。いまキミのプロデューサーはどこにいるかわかるか?」

 

市原「今は前の人がやめて、いねーですよ?」

 

美城「そうだ。それで新しいプロデューサーを連れてこないといけないな」

 

市原「そうでごぜーますね。」

 

美城「それで、この人はうちの事務所の新しいプロデューサーとなるんだ。」

 

市原「おお!つまりこの人が仁奈達の新しいプロデューサー!」

 

美城「そうだ」

 

雪樹「面接とか必要ないんですか?」

 

美城「安心したまえ。私からの推薦と言う形で通してあるから。基本的には書類手続きのみで大丈夫なはずだ、まぁ問題はそれを終えてからだがな」

 

雪樹「そうですね。彼女達が僕を受け入れてくれるかどうか。」

 

美城「仮に受け入れられなくとも。嫌でもともに歩まねばなるまい。本当に嫌ならば、キミが消えるか。他のプロダクションに行くか。どちらか選ぶだろうな」

 

雪樹「そうなるよな。」

 

美城「市原仁奈、案内ありがとう。戻っていい」

 

市原「お疲れ様でごぜーます!!」

 

少女が部屋から出ていくと

美城さんとの会話が続いた

プロデューサーとしての活動内容

アイドル達への教育

営業とライブとの兼ね合い等

 

美城「まぁざっくりとした話はこれぐらいだろう。」

 

雪樹「まぁ、ある程度想像はつきます。」

 

美城「だがな、今の事務所を考えるとそれもままならない状態にある」

 

雪樹「どういうことです?」

 

美城「前任が最悪でな。アイドル達に猥褻な行為を中心に手を出していたんだ。痴漢に近い行動が多かったがな。立場を利用した悪質な手口だ。アイドル達からのクレームも多かった上に、何人か事務所に来るのを拒む者も出た。」

 

雪樹「信じられませんね。最悪です」

 

美城「おかげさまでライブや予定していた撮影も営業も代理人手配や中止が多発、リハーサルの段階でのキャンセルで会場を出してくれた企業の信頼やファン達も減っていく一方だ。それでもまだ残ってくれているアイドルは居るが。」

 

雪樹「さっきの子達や、先日の二人とか」

 

美城「ああ、前々任が良くしていたからな。恩返しだと彼女達自身も言っていた。ただ、前任が原因で来なくなったアイドルも確かにいる。」

 

雪樹「建て直しから、ということですね。」

 

美城「連絡すら取れないアイドルも居る。そういったアイドル達を戻って来させる自身はあるか」

 

雪樹「自身は無いと一括するのは簡単なことですね。ただやる前から決めたくはありません」

 

美城「覚悟はあるようだな。これから大変だぞ」

 

雪樹「右も左もわからないですから勉強しながら、少しずつやっていきます」

 

美城「私も元々別の役職で臨時でプロデューサーとしているだけだ。キミが新任となるならサポートはするが基本キミの判断となる。」

 

雪樹「もちろん、それは承知の上です。やれるだけ、やってみましょう。」

 

美城「そうか。先に釘は打っておくが。アイドル達からのクレームが重なれば、キミの席も無くなると思っていい」

 

雪樹「その時はお構い無く。それが結果ですから。ただ私は意図的に嫌な事はしたくありません。そういうの、苦手なので」

 

美城「その言葉、今は信じておこう、それで連れて行く場所がある、こっちだ」

 

専務の部屋を出てしばらく歩くと

また別の部屋に案内された。

 

美城「ここだ。」

 

鍵を開け部屋を開ける

窓も閉め切っていて薄暗く埃っぽい

 

奥に机があり。

左右に棚、多くのファイルとトロフィー。

 

美城「ここがプロデューサーのオフィスだ、前任が使った形跡はほとんどない。少し掃除が必要だが。ここを使ってほしい。」

 

雪樹「僕の前の人たちはここを使ってたですよね。」

 

美城「そうだ。だから今更別の部屋を用意する必要もないと思ってな」

 

雪樹「そうですね…この方がいい。」

 

美城「気に入ったかな、」

 

雪樹「ええ、今日はここを綺麗にして、一度帰ります。」

 

美城「そうか。好きにするといい、私はまだ仕事があるから。それではな。」

 

美城さんがオフィスを出てから

早速、掃除を始めた。

カーテンを開き窓を開け換気をする。

照明も合わせると一気に明るくなった

 

ソファーや床やテーブルも。

机の上すら埃まみれなのを必死になって拭いていく

 

棚や窓も入念に水拭きする。

 

雪樹「まさか、掃除から始めるとはな、でもこれも大切な仕事だ」

 

正式に決まったわけじゃない

ただ今後利用させてもらえるなら

大事なことだ

 

二時間ほど掛けてようやく一頻り綺麗になっただろう。ソファーや窓、机も棚

 

雪樹「疲れたな。」

 

ソファーに座り込みオフィスを見渡す

決して広くはないが十分すぎるスペースはある。

 

雪樹「ああ…だめだ、眠たくなってきたな…」

 

考えが纏まらなくなって少しするともう意識はなかった。

 

……

 

???「…きて、お……さい!」

 

誰かの声が聞こえる。

よく聞き取れない

 

???「起きてください!」

 

雪樹「はっ?!」

 

起きた。寝てしまっていたんだろう

 

雪樹「えっと…そうだ…掃除してついうたた寝して…」

 

???「どうして寝てるんですか?」

 

さっきから声をかけていたのは女性の人だったようだ

 

雪樹「美城さんに案内されて。少し部屋をキレイにしてました。そしたら疲れてしまって。」

 

女性「美城専務、やっぱり貴方が美城専務が言ってた新しいプロデューサーさんですね」

 

雪樹「ああ、もう話が通してあるのか…」

 

女性「私は、プロデューサーさんのアシスタントの千川ちひろです。今後ともよろしくお願いしますね」

 

雪樹「新しくプロデューサーになる、松谷雪樹です。アシスタントですか、よろしくお願いします千川さん。」

 

千川「またこの部屋が使われる日が来たんですね」

 

雪樹「ええと、まぁ」

 

千川「前の方はこの部屋を嫌っててほとんど使ってなかったんですよ。アイドル達気に入ってたんですけど。」

 

雪樹「そうだったんですね」

 

千川「大変かもしれませんが、しっかりサポートさせてもらいますので頑張って行きましょう!」

 

雪樹「はい、よろしくお願いします。」

 

???「あれこの部屋開いて…あれ…?」

 

また入ってきた別の人

 

雪樹「あれ、君は先日の」

 

森久保さんだっただろうか。

 

森久保「え…あ、えっと…」

 

雪樹「こんにちは。新しくプロデューサーになったよ。これからよろしく」

 

森久保「え?ほんとにプロデューサーになったんですか…」

 

千川「お二人は知り合いだったんですね」

 

雪樹「先日、ちょっとした出来事があってその時にね」

 

森久保「嬉しいような…そうじゃないような…」

 

雪樹「どうしてかな?」

 

森久保「プロデューサーさんがいれば、事務所の皆さんがまたお仕事ができますけど…森久保はそんなにお仕事ほしいわけじゃないので…でも、あんまりなさすぎるのも…」

 

雪樹「まぁ。仕事取れたときはまた声掛けるから、そのときはよろしく」

 

森久保「は、はいぃ…そ、それでは私はこれからレッスンがあるので…」

 

雪樹「また今度ね」

 

千川「えっと、今のこのプロダクションについてなんですが…」

 

雪樹「美城さんから大体は聞きました。とりあえず今日は一旦帰ります。」

 

千川「わかりました。今後もよろしくお願いしますね。あと、事務所の鍵を。」

 

雪樹「ありがとうございます。」

 

千川「朝開けて起きますけど、夜とか夕方最後に出るときは締めてくださいね。」

 

雪樹「わかりました。」

 

事務所を出て帰宅する。

 

雪樹「また。難しい話になって来たな…」

 

一言呟いて、帰路に向かう。

 




不安と希望を抱えて進むプロデューサー

シンデレラガール達との対話のお話が続きます

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