美少女戦士セーラームーン☆太陽の戦士 作:Doc Kinoko
クリスタルパレスの王の間に、エリオスの声が響いた。
「次に私が地上を訪れるのは、スモールレディの即位式でしょうか。それとも、何千年も先の話でしょうか。それまで、どうか皆さんお元気で、聖地エリュシオンから私はいつも、皆さんの幸せを祈っています。」
新たなるセーラー戦士たちの拝命式を終え、クリスタルパレスの玉座に腰掛けるネオ・クィーン・セレニティとキングエンディミオンに、別れの挨拶を済ませると、エリオスはキングを始め、多くの戦士たちに見送られながら、自身の戻るべき、聖地エリュシオンへ向かって王の間を後にした。
…
「待ってエリオス」
王の間を後にし、時空の扉へ向かうエリオスを呼び止めたのは、スモールレディ。走ってきたのか、息を切らしている。
「エリオス待って。エリュシオンまで送らせて頂戴。さっきお母様に外出の許可を頂いてきたわ。」
笑顔で言うと、柔らかな両手で、エリオスの手をそっと包んだ。
「もちろん大歓迎ですよ。スモールレディ。聖地の者たちもきっと喜びます。ぜひ顔を覗かせにいらして下さい。」
そうして聖地エリュシオンへ続く時空の扉へ向かって、パレスの廊下を並んで歩く二人の行く先に、時空の扉が姿を見せた。
「あら、素敵なご両人ね。エリオス、もう聖地へ戻るのね?」
可愛らしい声で二人に話しかけたのは、時空の扉の番人ダイアナ。
「ダイアナ。エリオスを送りに私もエリュシオンへ行くわ。もちろんお母様も了承済みよ。さ、扉を開けて頂戴。」
スモールレディの指示に、ダイアナがそっと目を閉じ、時空の扉に向かって力を放つと、ゆっくりと扉が開く。
「さぁ、行ってらっしゃいスモールレディ。エリオスも、次に会えるのはいつかしらね。またきっと遊びに来てね。」
エリオスはダイアナに笑顔で応え、そっと彼女を抱き上げ、軽くキスをすると、ダイアナの頭を優しく撫でる。
「もちろんですダイアナ。またお会いしましょう。」
そう言ってエリオスは、スモールレディと共に聖地エリュシオンへと、時空の扉を後にした。
…
時空の扉から、聖地エリュシオンの雲へと降りる七色に輝く不思議な階段。エリュシオンが大好きなのだろう。スモールレディは笑顔で階段を駆け降り、聖地の空に浮かぶ銀色の雲に降り立った。
エリュシオンの空に歌う小鳥たちと、やわらかに駆け抜ける銀色の風が、エリオスの帰りを待ち兼ねたように、二人を迎え、優しく舞い踊る。小鳥と戯れ、銀色の風に美しい髪を揺らすスモールレディ。
「見てエリオス。この子たち、あなたが帰ってきて、すごく喜んでる。」
彼女が嬉しそうに笑う。エリオスも、優しい笑顔で、舞い踊る小鳥たちを指先で遊ばせている。そしてエリオスがそっと囁いた。
「いいえ、この子たちがこんなにも喜んでいるのは、あなたがいらしたからですよ、スモールレディ。みんな、あなたのことが大好きだ、って。」
エリオスの言葉に、笑顔を一段と輝かせたスモールレディは、聖地の空に語りかけた。
「まあっ。私も、みんなのことが大好きよ!」
両手をいっぱいに広げて、エリュシオンの空を抱くスモールレディ。
愛おしい目で彼女を見つめるエリオスは、ひとつ息をすると、スモールレディに声をかける。
「スモールレディ。よろしければ『祈りの搭』で、祈りを捧げていってくださいませんか?聖地の皆が喜びます。それに、あなたの新しい光を、聖地にも分け与えていただきたいのです。」
スモールレディの来訪に、聖地エリュシオンがこんなにも喜びに溢れている。彼女の新しいチカラは、聖地エリュシオンに、さらなる強い輝きを与えるであろう。エリオスはそう思っていたのだ。
「ええ!もちろんよ、エリオス。じゃあ、祈りの搭まで行きましょう!」
スモールレディはそう言って、エリオスに歩み寄り、彼の胸にそっと寄り添った。スモールレディの肩をしっかりと抱いたエリオスが、そっと瞳を閉じ、祈りの祝詞を唱えると、その背中に銀色に輝く翼を宿す。
「しっかり捕まっていて下さいね、スモールレディ!」
こうしてエリオスの翼に抱かれたスモールレディは、聖地の中心『祈りの搭』へ向かって、エリュシオンの空を駆け抜けた。
美しい聖地エリュシオンの中心。輝くクリスタルで創られた神秘なる『祈りの搭』
エリオスの翼に抱かれたスモールレディがふんわりとそこへ舞い降りると、祈りの塔は銀色の輝きをさらに増し、二人を優しく迎え入れる。
「なんだか不思議…。昨日来たばかりなのに、新しい場所に来たみたいに、胸がドキドキするわ。」
スモールレディは、ドレスの裾を銀色の風に揺らし、見上げる祈りの塔に、新しい出会いのような輝きを感じていた。
その後ろで、スモールレディの肩を抱き、彼女を見守るエリオスは、全てを悟っているかのように囁く。
「それは、あなたが生まれ変わった証拠。その胸の新しいクリスタルの輝きを、祈りの塔も祝福しているのですよ。本当に…立派になられました。そんなあなたが、エリュシオンに祈りを捧げてくださる。こんなに嬉しい日はありません。
さぁ、スモールレディ。この聖地エリュシオンに、新たな輝きを…」
スモールレディは、エリオスの言葉に応えるように、大きな瞬きをひとつして、その瞳に祈りの塔を映した。
そして1歩前へ出ると、すっ とひざまづき、ドレスの裾をエリュシオンの大地へ降ろす。美しい指先が祈りの印を結ぶと、静かに瞳が閉じられた。ゆっくりと息をしながら、胸のクリスタルの輝きを高めてゆくと、スモールレディの指先からこぼれるいくつもの光の粒が、無数の輝くビーズを机に撒き散らすように、ゆっくりとエリュシオンの大地を跳ねる。スモールレディの祈りのチカラで放たれる光の粒が、聖地を包んだのだ。
彼女の祈りに応えるように、聖地エリュシオンの銀色の風が一面に咲く花たちを空へ舞い踊らせ、小鳥たちは歓喜の歌声を響かせる。
…
すると、聖地から溢れる喜びの声に乗せて、透き通る歌声がエリュシオンの空へ響いた。
聖地の風が運ぶ美しい歌声。
そっと耳を澄ませるエリオスは、その歌声をよく知っている。
「…太陽の歌…?…また、彼女が歌っている…。」
その歌声にスモールレディは、瞳を ぱっ と開くと、遥か向こうの空に浮かぶ『太陽の神殿』を見つめた。
「…この歌…。あそこから聴こえる。なんて綺麗な歌声なんでしょう…。エリオス、これが、彼女の声なのね?」
スモールレディにはすぐに感じることができた。
雲間を突き抜けるいくすじもの光のようにまっすぐに響く美しい歌声が、太陽の神殿で祈る巫女、彼女の歌声であることを。
「その通りです、スモールレディ。これが、『太陽の巫女=ラー』が、祈りと共に歌う『太陽の歌』
この美しい歌声が、地上に光を与えるのです。彼女も喜んでいるのですよ、新たに生まれ変わったあなたが、聖地を訪れたことを。」
エリオスとスモールレディは、その歌声に耳を澄ませ、光溢れるエリュシオンの空に、輝く想いを馳せた。
…
「ねぇエリオス。私、ラーに会ってみたいわ。ねぇ、いいでしょう?太陽の神殿まで、私を連れて行ってくれないかしら?」
思いついたようにエリオスに声をかけるスモールレディ。瞳はきらきらと輝き、好奇心溢れる少女の眼差しであった。
しかし、そんなスモールレディのお願いに、エリオスは少し困った顔して下を俯く。
「…エリオス?…ダメなの?」
エリオスの困った顔を見て少々気落ちしたのか、その声から、さきほどの強さがなくなっている。
少し考えごとをしたのか、エリオスは大きく息をすると、スモールレディにそっと向き直り、少し重たさを感じる口を開いた。
「残念ですがスモールレディ。彼女には…会えないのです。いえ、会えないと言うよりも、彼女はあそこにいるのに、あそこにいないのです。
…彼女には… 実体がないのです。」
エリオスから突然の事実を聞かされたスモールレディは、驚き息を呑んだ。
『実体がない』という彼の言葉。
太陽の巫女に、人ならざる気配を感じたのだ。
「エリオス…それって…。どういうこと…?」
スモールレディは瞬きするのも忘れ、エリオスに詰め寄った。