美少女戦士セーラームーン☆太陽の戦士 作:Doc Kinoko
『…彼女がその姿を現す時…それは…
この世界が闇に染まる時… 』
スモールレディの胸の中で、激しい鼓動と共にエリオスの言葉が何度もリフレインする。
「まさか…現れると言うのか…?彼女がっ…?」
呟くエリオスは、スモールレディを抱きしめる腕に思わず力を込めた。
闇に染まる聖地エリュシオンの空。遥か向こうに浮かぶ『太陽の神殿』から、光の粒のように舞い降りる美しい歌声に合わせて、太陽の神殿が光り輝く。
歌声に乗ってまっすぐに伸びるひとすじの光が、エリオスたちのいる『祈りの塔』へゆっくりと舞い降りると、きらきらと輝くガラス片のような光の粒が、エリオスとスモールレディを優しく包んだ。
「やはり…君なのか…?ラー…!!」
自分たちを包む無数の光の粒を見つめ、エリオスは彼女の名前を呼んだ。
エリオスの呼びかけに応えるように、無数の光の粒が、ゆっくり、ゆっくりと、そのカタチを結ぶ。
… … …
金色の長い髪が揺れる。薄黄金色に輝く法衣が、闇に染まる聖地を駆ける灰色の風になびく。
白く、透き通るほど美しい肌に輝く金色の瞳。しなやかな両手にそっと携える、金色の竪琴。
長い指先が、竪琴をひとつ弾くと、彼女とエリオスたちを包む無数の光の粒が、噴水のように聖地の空へ散った。
… … …
訪れる静寂。
彼女の出現に、瞳を大きく見開き、息をすることも、瞬きすることも忘れたエリオスとスモールレディ。
そんな二人に、優しく微笑みかける彼女の唇が、ゆっくりと動く。
「…久しぶりね…エリオス…」
彼女の声はまるで、銀色に輝く水晶のように透き通る。
「ああ…久しぶりだね…ラー。エリュシオンの空が闇に染まり、君が現れた。わかっているさ…」
彼女が出現した理由を、エリオスは痛いほどよくわかっている。絶望と悲しみに曇るエリオスの瞳を見つめるラーは、それでも穏やかな笑みを浮かべている。
彼女の瞳に、『悲しみ』という感情はないのか、ラーは穏やかに語る。
「そうよエリオス…。先ほど地上が、そして太陽系が、カオスの放つ闇に覆われました…」
ラーの言葉を聞くが早いか、両膝をエリュシオンの大地に落とし、泣き叫んだスモールレディ。
「そんな。お母様は…?お父様は…?セーラーカルテットたちは…?みんな、みんなはどうなったと言うのっ?!ねぇっ!!みんなはどうなったと言うのっ?!教えてよっ!!教えてよっ!!ラーッ!!」
瞳から溢れる大粒の涙を、いくつも聖地へ落とし、ラーへ掴みかかろうとするスモールレディを、エリオスが強く抱きしめる。
「初めましてスモールレディ…
大丈夫よ。微かだけれど、地上にネオ・クィーン・セレニティの輝きを感じるわ。きっと彼女たちはまだ無事。
ごめんなさいねスモールレディ。こんな時ですら、私にはこうして微笑んでいることしかできない…
私には…『悲しみ』と言う感情は…ないの…」
スモールレディにゆっくりと微笑みかけるラー。ラーの言葉、そして、『悲しみ』を持たない瞳に見つめられたスモールレディは、ハッとした。
「ガイアッ…いえ…もう一人のあなたが地上にいるのっ!!あなたなんでしょ!?お願いよ ラーッ!みんなを助けてっ!!」
スモールレディがラーに叫んだ。
もう一人のラー=ガイア
スモールレディは確信していた。
この世界に、『悲しみ』しか感じることのできないガイア。
こんな時でさえ、『悲しみ』すら感じることのできないラー。
彼女たちは太古の神々によって引き離された、2人でひとつの存在であると。
「そう…。彼女…いえ、私を知っているのね。遠い昔、神様が引き離した…もう一人の私。
地上にカオスを呼んだのは、きっと私のせいね。ごめんなさいね、スモールレディ…」
もう一人のラー=ガイア がその身に取り込んだカオス。
「いいえっ!あなたも、ガイアも、なんにも悪くないっ!神様が決めたことなんでしょうっ?!
ラーもガイアも、全然悪くないのに、どうしてっ…!」
スモールレディはエリオスから聞かされている。彼女は地上に光を与えるために、神に選ばれた生贄だと言うことを。
「あなたは優しいのね、スモールレディ。大丈夫よ。地上が闇に染まる時、私が現れる。
私は、闇の中にこそ現れる…最後の光。カオスの闇も、私の光で照らしてあげる…それが私の使命…」
そう言って、携える金色の竪琴を握り締めるラーの姿。
『それが使命』と呟いたラーに、スモールレディは、胸に訪れた直感と共に、無意識に呟いた。
「使命…。あなたはまさか…セーラー戦士…?」
ラーの持つ特別なチカラ。ラーだけに与えられた、特別な使命。
スモールレディが本能的に感じた彼女の輝きは『セーラー戦士』の輝きであった。
「いいえ。私の存在は、光そのもの。セーラー戦士ではないわ。
私はスターシードを持たないの。いえ、持たないのではく、見えないの。
一切の闇を持たない私のスターシードが、そのカタチを結ぶことはないわ。だから…私はセーラー戦士になどなれない…」
呟いたラーの胸元が、キラリと光った。そこにスターシードがあるかのように。しかし、スモールレディたちの瞳に、彼女のスターシードが映ることはない。
「さあ、私は地上へ向かいます。 そうなれば、このエリュシオンは完全に闇に閉ざされ、あなたたちも無事では済まないわ。共に地上へ行きましょうエリオス、そしてスモールレディ、いえ…セーラー・テラ…」
テラ・クリスタル・パワー・メクアップッ!!
差し延べられたラーの手を取り、強く頷いたスモールレディの高らかなスペルアウトが、闇に染まる聖地の空に、輝く光の柱を貫いた。