ドクターとオペレーターの短編ラブコメ   作:機玉

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少し天然なシージとドクターの話


ライオンはソファで丸くなる(シージ)

「ドクター失礼する。ふむ、料理中だったか」

「シージか、いらっしゃい」

 ある日の事、珍しく休日が取れたので自室で気晴らしに料理をしているとシージがやってきた。

 料理の匂いに釣られてきた、というわけでもなさそうだ。

「シージは訓練上がりか?」

「いや、訓練という訳ではないが、他のオペレーターと運動をしていてな。

 今シャワーを浴びてきた所だ。少しここで寝ても良いか?」

「構わないよ、この部屋で良ければだが」

「このソファが寝心地が良いんだ」

 そう言うとシージは執務室のソファにごろんと横になり、あっという間に寝息を立て始めた。

 相変わらず非常に寝付きが良い。

 実はこうしてシージが寝に来るのは初めてではなく、よく執務室に来てはソファに寝転がっている。

 何故こんな事になっているかというと……原因はエフイーターにある。

 先日エフイーターとシージが訓練上がりに連れ立って来た。

 元々この部屋のソファをいたく気に入っていたエフイーターはたびたび執務室にやってきてはソファでだらだらしていたのだが、それを一緒に訓練していたシージにわざわざ布教して連れてきたらしい。

 最初は本当にそんなに気持ちいいのかと半信半疑のシージだったが一度エフイーターと共に横になるとあっという間に虜になった。

 以来俺の執務室のソファ愛好家が二人に増えたという訳だ。

 というか寝るなら自室のベッドで寝れば良いんじゃないかと思うわけだが、ベッドだと熟睡してしまうので適度な時間で目覚める為にはこのソファで寝る必要がある……らしい。

 まあ理屈としては分からなくも無いが、美女二人が度々自室にやってきてはソファでだらだらするのは何とも不思議な光景だ。

 ある意味役得と言えるのかも知れないが。

「んん……よし、お陰ですっきり目が覚めたぞ」

「それは何よりだ」

「ドクターのソファはやはり素晴らしい。ふむ、そろそろ夕飯の時間か」

 きゅるるる。

 ……彼女の言葉にに応えるように腹の虫が可愛らしい鳴き声を上げた。

「……すまない」

「いや何も問題は無いが……もし良ければ食っていくか」

「良いのか?」

 口ではそう言いながらもシージは目を輝かせて尻尾をぶんぶん振っていた。

 猫さながらの仕草に思わず笑いが漏れる。

「構わないよ、俺の料理が君の口に合うかは分からないが」

「いやこれは絶対美味しい奴だ、間違いない、匂いでわかる」

「そうだといいがな」

 今日のメニューはシンプルにカレーとサーモンのマリネサラダだ。

 カレーは玉ねぎをバターで炒めてから投入してあるのがポイント、スタミナが付くようににんにく生姜も入れてソースで若干味を濃い目に仕上げている。

 サーモンのマリネサラダは特筆すべき点は無いがサラダにも肉や魚が入っていると少し嬉しいのでサーモンを入れた。

「シージは運動後だし大盛りで構わないか?」

「ああ、ドクターの分がなくならないなら多めに頼む」

「了解」

 シージの皿にたっぷりカレーを盛り、マリネはなんとなく良い感じに盛り付けた。

 自分で食べる時は盛り付けなんて適当だが女性に出す以上は多少見栄えを良くした方がいいだろう。

「シージ、そこのテーブルの荷物を少しどけてくれ。俺の机の上でいい」

「分かった」

「よし運ぶぞ。飲み物は……烏龍茶でいいか」

 カレーで晩酌もなかなか乙なものだが、シージはあまり酒を嗜むイメージがなかったのでお茶を淹れた。

「いただきます」

「どうぞ召し上がれ」

 早速サーモンのマリネを一口、続いてカレーを一口食べる。

「ドクター……我々が独立する暁にはグラスゴーのシェフにならないか」

「ははは流石に大げさだろ、俺より料理が美味い奴はロドスの作戦部内だけでもいると思うぞ」

「それは知ってるがそういうオペレーターは既にいずれかの組織に属しているだろう? ドクターなら引き抜けないかと」

「おい俺はロドスの幹部だ」

「ふふ、冗談だ……いやしかし本当に美味いぞ。運動後にはたまらない料理だ」

「口に合ったようで何よりだ」

 カレーをもりもり食べ始めたシージを食べ始めたシージを見届けると俺も自分の分を食べ始めた。 

 うん、今日も美味しく出来ている。

 残った分は冷凍してまた食べるとしよう。

「しかし、今更だがそんな真っ白なタンクトップでカレーを食べて大丈夫か?」

「ああ、問題ない。食事を跳ねさせるような愚は犯さない」

「確かに綺麗な食べ方だな」

「幼い頃にこの手の礼儀作法等は一通り叩き込まれたからな」

「なるほど」

 俺はまだシージの詳しい来歴については把握していない。

 彼女から今回の食べ方のように育ちの良さを感じる事はあるが、それでも深入りしようとは思わない。

 いつか彼女が話したくなるような事があればその時は受け止めれば良いだろう。

「ふう、美味しかった」

「お粗末様。おかわりも用意しようか?」

「良いのか? ではいただこう」

「そこまで気に入って貰えたなら俺も嬉しいよ」

 この日シージはカレー三杯を平らげると非常に満足した様子でお礼を言って帰っていった。

 カレーはほとんどなくなってしまったがシージを親交を深められた事を考えれば安いものだろう。

 実際この日を境にシージと少し距離が縮まった気がした。

 最も、料理を奢ることも増えたが……まあそこはご愛嬌だろう。

 

 

 

 今日も今日とて平和なロドス艦内。

 シージは相変わらずちょくちょく執務室を訪れてはソファで休んでいる。 

 むしろ以前より頻度が増えている気がする。

 いやそれ自体は構わない。

 構わないのだが、最近ちょっとした問題が起き始めていた。

 それはある日俺が仕事の合間に疲れを取る為、ソファで仮眠を取っていた時の事。

「ふぁあ……もう三十分か。そろそろ夕飯午後の仕事を……」

 ごろん……ぎゅっ。

「ん?」

「すー……すー……」

「ってシージ!? なんでソファで寝てるんだ!?」

「んん……うるさいぞドクター……」

「腕を抱きしめてたまま寝に戻らないでくれ!!」

 まだ眠たげなシージをどうにか起こして引き剥がすとどうしてこうなったのか

聞き出した。

「ソファで寝ようと思ったらドクターがいた。隣で寝られそうだったから隣で寝た。それだけだが?」

「それだけだが?じゃあない! 俺がいる状態で何故寝られる!?」

「何も問題は無かったぞ? むしろ普段よりぽかぽかして落ち着いた気がするな。

 ドクター今度から休憩時は一緒に昼寝しないか?」

 出来るわけがない。

 シージは基本的に常識的な人物のはずだが何故かたまにこのような天然さを発揮する。

「シージ、コートで分かりにくいかも知れないが俺は男だ……」

「知っている」

「いや知っているなら男の隣にそんな軽率に寝ないでくれ!?」

「軽率ではない。貴様は信頼の置ける男だと思っているから隣で寝たのだ」

「ぬぐぐ……」

 シージからはっきりと信頼していると言ってもらえたのは嬉しい。

 しかそれとこれとはやはり別問題だ。

 率直に言ってシージのようなグラマラスな美人が隣で寝ていては休息を取っても理性は削れる一方である。

「シージが信頼してくれるのはありがたいが他のオペレーターから見られた場合によろしくない。

 そこは分かってくれ」

「むう、そうだな……ドクターがそう言うのなら仕方ない」

 若干残念そうではあるがシージは聞き入れてくれた。

 名残惜しそうに去るシージを見ながら俺は考えた。

 ここ最近ソファも競争率が上がってきた事だし何か対策を考えた方が良いのかも知れないと。

 

 

 

「失礼する」

「ああシージ来てくれたか」

 後日、俺は執務室にシージを呼び出した。

 以前から考えていた昼寝環境の改善計画を行動に移す為だ。

「さて今日来てもらったのは先日の危機契約の貢献者へのボーナスの件だ」

「ああ、通常の報酬とは別に特別報酬が出るという話だったな」

「その通り。と言っても俺個人から出す報酬という形だからそんな大それた物ではないが……」

「構わない。ドクターからの贈り物というだけで価値がある」

「はは、そう言って貰えるならこの肩書も捨てたもんじゃないな」

「そういう意味ではないのだが……まあいい」

「?」

 というわけでいよいよシージへの贈り物のお披露目だ。

「じゃん! ソファだ!」

「これは、ドクターの執務室にあるのと同じソファか?」

「流石に分かるか。そう、色は違うが同じ製品だ。

 今までは昼寝の為にわざわざ俺の部屋に来ていたが、これがあれば自室で昼寝出来るぞ!」

「なるほど……」

 ちなみにエフイーターにも同じソファを用意した。

 あの子も俺のソファを随分気に入っていたからきっと役立ててくれるだろう。

 しばらくソファに座ったり横になったりしていたシージだが、確認を終えたようで立ち上がった。

「ありがとうドクター、これはありがたく使わせてもらおう」

「ああ、是非そうしてくれ。一人で運ぶには大きいだろうから誰か力持ちのオペレーターを呼ぶと良い」

「そうだな、インドラ達に手伝ってもらうとしよう」

 この後有志の手でソファは無事シージの部屋へと運ばれた。

「ふう、これでシージも休みやすくなったし俺も遠慮なく寝られる。一石二鳥だな」

 俺は早速空いたソファに座って休憩に入った。

 さて、これでこの話は終わりになるかと思ったが……俺の予想は外れる事となる。

 ソファを贈ってから一週間後、シージは再び執務室にやって来た。

「失礼する」

「こんにちはシージ。ソファの事で相談があるという話だったけど、何かソファに問題があったか?」

「いや、ソファ自体に問題はない。あれは素晴らしい物だ、ありがとう」

「じゃあ相談というのは?」

「……ドクター、やはり昼の休憩は貴様の執務室で取らせてはくれないだろうか?」

 シージの口から出たの意外な言葉だった。

「ふむ、それはまたどうしてだ?」

「このソファで私がリラックス出来たのはどうもソファだけが原因ではないらしい。

 私の部屋で寝てみても何かが足りないんだ。この一週間それについて考えていてようやく分かった」

「一体何なんだ?」

「ドクター、貴様だ」

「なるほど、俺か……俺!?」

「そう」

 ずいっとシージは机に乗り出して言葉を続けた。

「思い返してみればこうしてドクターの側にいる時が一番落ち着く。

 インドラ達に背中を預けている時も確かな安心感があったが、それとは違うんだ。

 ドクター、貴様には近くにいるだけで何か安心させる不思議な力があるようだ。

 せっかくソファを貰ったのに申し訳ないが、やはりここで休憩を取らせてはくれないだろうか?」

「シ、シージ、話は分かったからまずは少し離れてくれないか? 顔が近い……」

「む、失礼した」

 俺の言葉を聞いたシージはおとなしく身を引いてくれた。

 しかしそうだな……シージの言葉についてよく考えてみた。

 俺はシージがいちいち執務室に来るのは面倒だろうというのもあってソファを用意したが、この部屋で寝るのもそう悪いものでは無かったという事か。

 ……シージが俺の側にいたいというのはどの程度の感情か計り兼ねるが、この子はこの前も言ったようにどうも距離感が近いきらいがあるから深い意味合いはないだろう。

 彼女が安らげるというのならば執務室のソファを引き続き使わせるのは吝かではない。

 俺の休憩は……いや頑張ろう、頑張ればきっと大丈夫だ。

「構わないよ。元々シージがが自室のほうがくつろげるかと思って渡したものだからな。

 こっちのソファの方が落ち着けるというのならこっちで寝てくれるのは大歓迎だ」

「そうかありがとう」

 そう言ってふわっと笑ったシージはいつもより柔らかい笑みを見せていて、思わず少し見とれてしまった。

「……? どうかしたか?」

「い、いやなんでもない」

「そうか、ところでドクターの料理だが今日も作ってもらえるか? また食べたい」

「ん、そうだな。それぐらいなら……ってシージまさかそれが目当てか?」

「い、いやそんな事は決して無いぞ……? 本当だ」

「まったく……いやまあいいけどな」

「違う、違うぞドクター!」

 焦るシージの様子は面白かったがあまりからかいすぎるのもよくないだろう。

「ふふ、分かった分かった、少しからかいたくなっただけだ」

「むう、しょうがない奴だ……」

 この日はこの後料理をたっぷり食べさせるとシージは機嫌を直してくれた。

 

 

 

 こうしてシージは再び俺の執務室で寝るようになった。

 結局元に戻っただけだが、まあそういう事もあるだろう。

 回り道や試行錯誤こそが人の生活を豊かにしていくと俺は思っている。

「ドクターやはり一緒に寝ないか?」

「ダメだ」

「むう……」

「いいじゃんドクター、こんな美女二人が一緒に寝ようって言ってるんだよ? 据え膳食わぬはなんとやらだぞー」

「エフイーターお前分かってて言ってるだろ!?」

「ぬふふなんのことでしょうね~」

 最近はエフイーターまでやっぱりこっちの方が落ち着くー等と言い執務室に入り浸っている。

 彼女達のソファは談話室に寄付されたので無駄にはならなかったが、何故こうなったのか。

 そして今は二人揃って一緒に寝ようとからかってくる、頭が痛い。

 いやシージは天然なのかも知れないが、エフイーターは絶対分かっていてやっている。

「シージ、お前もあまりエフイーターのジョークにあまり乗らないでくれ」

「……私は決して冗談だけでお前を誘っているわけではないぞ」

「シージ?」

「なんでもない!」

「あーあドクターも罪な男だね~」

「何故そうなる……さて、そろそろ昼にするか。二人共少し手伝ってくれ」

「はいよ~!」

「分かった」

 分からぬは夏の日和と人心。

 どういうわけか美女が増えた執務室で俺は今日も料理を振る舞い仕事に勤しむのだった。

「おいエフイーター近いぞ」

「いやこのキッチン狭いんだって! てかシージも近いし!」

「私はただすぐに指示を仰げるように……」

「分かった二人共あとで配膳頼むから一旦戻ってくれ!!」


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