木村直輝の雑多な短編集   作:木村直輝

7 / 10
異世界を創造する能力

 『異能力』というものをご存じだろうか。

 読んで字のごとく、()なる能力のことだ。

 炎や水を出して操ったり、人の限界を超えた腕力を発揮したり、空を飛んだり触れずに物を動かしたり……。挙げればきりがないが、そういう異なる能力のことを、我々は『異能力』と呼んでいる。言い換えれば、超能力のようなものだ。

 そして、俺も異能力を有している。

 俺の異能力は〝世界を想像する能力〟だ。

 すごい能力だと思われるかもしれないし、実際そう言われて生きてきた。

 でも、俺から言わせればそんなことは全くない。俺はずっとそう思って生きてきた。ずっと恨んで生きてきた。ずっと呪って生きてきた。何の役にも立たない、糞みたいな能力だと……。

 百万馬力のパワーが出せたり、体がゴムみたいになったり、電撃を撃てたり、そういう他人の異能力がずっと羨ましくて仕方がなかった。いや、それは羨ましいだなんてものじゃない。妬ましくて、憎くて、黒くて熱くて狂おしくて仕方がなかった……。

 だってそうだろう? 考えてもみて欲しい。

 貴方は異世界を見ることができるだろうか? 貴方は異世界に干渉することができるだろうか? できないだろう? そりゃそうだ。

 俺にもできない。

 世界を創造することはできても、それを見ることも感じることもできないし、そこから得られるものなんてなんにもなかったんだ。ただの一つも、なんにもだ。

 こんなの、異能力がないのと一緒じゃないか。

 まだ、エウスタキオ管を自由に開閉できる能力や、しゃっくりが三回目で止まる能力や、おならの音を自在に操れる能力の方がマシだと思った。なんなら、バターやジャムを塗ったトーストを落とすと必ず塗った面が下になる能力の方がマシだとさえ思った。

 みんなの能力を横目で見て、俺は捻くれた。(すさ)んだ。やさぐれた。

 でも、こんな能力じゃ、非行にはしるにしたって、つるむような悪い仲間すらできなかった。俺は一人だった。

 みんな初めはすごいねって言うんだ。大半は冗談だと思われてまず笑われるが、それが本当のことだとわかると、世界的な偉人を見るような目で見られることも珍しくなかった。

 でも、ちょっと知られればすぐに馬鹿にされる。もちろん、表立って馬鹿にされることはほとんどなかった。でも、大部分が裏で馬鹿にしていることはわかったし、そうじゃなくても、安っぽい同情を向けてくるだけだ。

 俺にとって日々は地獄だった。両親を恨み、周囲を憎み、世界を呪い、自分を責めた。それでも何も変わらなかった。

 俺の異能力は〝世界を想像する能力〟のままだった。

 

 小さい頃はよく、世界を創造して遊んだ。見ることも感じることもできない異世界を創造しては、そんな異世界の様子を想像して楽しんだ。

 両親もすごいねと褒めてくれて、よく俺の空想につきあってくれた。それが楽しくて、嬉しくて、幸せだった。

 両親の笑顔の裏に隠れていた思いになんてこれっぽっちも気づかずに、あの日の俺は本当に自分がすごいんだと思っていたし、毎日が楽しくてしかたがなかった。

 俺の母親は一時期、俺に隠れるようにして泣いていた。俺がそれを見つけるたびに慰めにいっていたものだから、俺に見つからないように気をつけるようになったのだろう。少なくとも俺が知っているのは、一時期だけで、幼少期の記憶ではいつも母親は笑っていた。

 学校に通うようになって、俺はすぐに自分の異能力の無意味さを知るようになった。俺は泣いた。泣きまくった。そんな俺を、母親は泣きながら抱きしめた。父親も、悲しそうな顔をして慰めた。でも、俺はそれで満足はしなかった。

 俺は両親を悲しませないために、気丈にふるまうようになった。学校は一日も休まなかった。

 学年の低い内は、まだ友達もできて、まだマシな方だった。

 でも、いつ頃からか、俺の周りから人はいなくなっていった。陰口はたくさん言われたが、特に何かされるようなことはなかった。同情してくれるような奴らもいっぱいいた。

 でも、それが余計につらかった。少なくとも俺には、暴力を振るわれたり、物を隠されたり、そうやってイジメられる方がマシなようにさえ思えた。

 一時期は両親に当たった。「ごめんね……、ごめんね……」と言いながら泣きじゃくる母親に、俺は止まらない怒りをぶつけ、罵詈雑言を吐き散らした。そんな自分が許せなくて、おぞましくて、けがらわしくて、俺はよくトイレで吐いた。自分の顔が見たくなくて、俺の家からは鏡が消えた。

 母親と同じように謝ることしかしなかった父親に、一度だけ殴られたことがあった。俺が初めて母親に手をあげた日のことだった。すぐに我に返った父親を、俺は母親に泣きつかれながら何度も殴って大怪我を負わせた。それ以来、俺は父親と口をきかなくなった。

 いつしか俺も落ち着いて、母親に当たることもしなくなった。

 それでも家庭は裕福だった。寝食にも学費にも困らなかった。両親が俺に気を使っているのは、よくわかった。それが、余計にやり切れなかった。俺への償いみたいに生きる両親を見ているのが、耐えがたかった。

 俺はそんな日々の中で、異能力をよく使った。あんなに恨んで、呪って、許せない異能力を使って、よく異世界を創造しては、現実から逃げるように、想像の世界に入り浸った……。

 世の中には俺ほどではなくても、普段の生活の役に立たないような異能力を持っている奴らがある程度いる。

 だから、不利になっても就職ができないというようなことはなさそうだった。有用な異能力を持っている奴らからすれば、無能な奴らはある意味ではいい戦力なのかもしれない。どうしようもない明確な力の差があり、自分を追い越す心配はなく、いなくなっても替えのきく駒なのだから。

 だから俺は、早々に就職して、学校を卒業したら家を出ようと思っていた。

 勉強に励んだが、相変わらず日々は地獄だった。

 目標はあったが、それは前向きなものではない。のどを通らない豪勢な食事も、なかなか寝つけない寝心地のいい布団も、罪悪感と(おび)えに(まみ)れた両親の愛も、すべて耐えられなかった。

 逃げるための努力だった。地獄からまた地獄へ、逃げるために俺は勉強をして、いつしか俺の中で

〝死〟が大きくなっていった。

 俺が自殺すれば、両親は今より罪悪感にさいなまれるだろうと勝手に思っていたが、それは、俺の死にたくない本能がそう思わせているだけなんじゃないだろうか。俺が死ねば、両親は苦痛から解放されるんじゃないか。そんな気持ちが次第に大きくなっていった。

 むしろ、俺はなんで今まで死のうと思わなかったのか。死のうとしなかったのか。不思議で仕方なくなった。俺は死のうという決意を日々募らせていった。

 そんなある日だった。

 俺に手紙が届いたのは――。

いせかいのさくしゃさんへ

 

 はじめまして。まずは、ありがとうございます。わたしは、びょうきです。うまれたときからびょうきで、そとからでたことがありません。ずっとびょういんのべっとのなかにいます。おそとにでるとびょうきになっちゃうそうです。あるくこともできません。ちりょうしないとしんでしむそうです。おへやには、おいしゃさんとおかあさんとおとうさんしかはいれません。おかあさんとおとうさんは、それもたまにです。いつもはガラスごしにマイクでおはなしをします。でも、わたしはさびしくないよ。わたしはいのうりょくがあります。いせかいをみるのうりょくです。わたしはよく、いせかいをみます。そこには、おへやとちがっていろんなものがあります。とくにすきなのは、ゆきのせかいです。しろくてきれいなふわふわのゆきがたくさんふります。とってもきれいです。みんなふくをたくさんきているのに、それでもさむいといいます。さむいのに、きつねさんやうさぎさんや、どうぶつがいます。あと、ほのおのせかいもすきです。どうくつのなかにはあついどろどろのまぐまがもえています。ふんかするとそれがどびゅあーってでて、すごいおとがしてびっくりします。くろいはいがはらはらでてきれいです。うみのせかいもすきです。みずのなかでも、みんないきができます。おさかなさんともおしゃべりができて、わたしもつめたいみずのなかをおよいでみたいです。ほかにもいろんないせかいがあります。かぞえきれないくらいです。みんなみんな、いせかいのさくしゃさんがつくってくれたんだよね。わたし、ききました。おとうさんとおかあさんとびょういんのせんせいがさがしてくれました。みんなでさがしてくれたそうです。そのひとたちにもありがとう。わたしは、ずっとありがとうがいいたかったです。いせかいのさくしゃさん。ありがとう。もしもおくすりがかんせいしてびょうきがなおったら、わたしはまずそとのせかいにいきたいです。そこでいせかいのさくしゃさんにあうんです。いせかいのさくしゃさんは、いせかいをみれないとききました。かわいそう。だからわたしがはなしてあげるんです。だからこれからも、いせかいをつくってください。わたしはいせかがだいすきです。おとうさんもおかあさんもびょういんのせんせいもみんなだいすきです。いせかいのさくしゃさんもだいすきです。いせかいのさくしゃさん。ほんとうにありがとうございます。




『異世界を想像する能力』木村直輝

二〇二〇年 四月二一日  執筆





 ―――――――――――――――――――― 



――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
『異世界を創造する能力』木村直輝
 1/2

 落書き。異能力もの。

 二〇二〇年 四月二一日  執筆
――――――――――――――――――――
2020年4月21日
https://twitter.com/naoki88888888/status/1252600130861056008
――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
『異世界を創造する能力』木村直輝
 2/2

 落書き。異能力もの。

 二〇二〇年 四月二一日  執筆
――――――――――――――――――――
2020年4月21日
https://twitter.com/naoki88888888/status/1252601842388701184
――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
 高校時代に「エウスタキオ管を開閉する能力(エウスタキオキネシス)」を思いついた流れで思いついたしょうもない能力「異世界を創造する能力」がメインの物語を昨日観測して今日落書きしてみた。
 最後の部分書いてて思ったけど、何かを暗に重ねてメッセージを込めたとかではないです。
――――――――――――――――――――
2020年4月21日
https://twitter.com/naoki88888888/status/1252602607706595334
――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。