木村直輝の雑多な短編集   作:木村直輝

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フラットのあなぐらのたたかい

 頭上からけたたましい音がした。

 薄暗いあなぐらの中でじっとしていた俺は、忌々しいその音がする方へと手を伸ばす。

 音は止まった。

 ここは“フラットのあなぐら”。俺は生きていくため、毎日のようにこのフラットのあなぐらで、あのけたたましい音と戦っている。

 いったい、いつ頃からだっただろうか。こんなにも苦しい戦いをしなくては、生きていけなくなってしまったのは。いったい、いつ頃からだっただろうか。もう、思い出すこともできない……。

 俺は静まりかえったあなぐらで、身を縮め、残り少ない平穏を抱きとめた。

 ここには神も仏もいない。いるのは俺だけだ。ただ一人、俺だけが絶望の中で横たわっているだけだけだ。

 俺は身をよじる。あたたかな空気があなぐらの中に滞留している。そのぬくもりはしかし、この後すぐにやってくるヤツの存在感を際立たせる。

 そう、あのけたたましい音はまたすぐに鳴り出すのだ。そうして最後にはやってくるのだ。あの忌々しいヤツが……。

 俺は、鳴るな、鳴るなと。まだ鳴るな。あともう少しだけ、あともう少しだけでいいからと祈った。

 しかし、そんな祈りも虚しく、また頭上からあの音が鳴り響いた。けたたましい、あの音だ。

 俺は音の正体へ手を伸ばす。殺意を込めて振るわれた指の一撃が、音をかき消し再び束の間の安息を勝ち取った。

 だがしかし、これで最後だ。次にはもう、ヤツがくる。もう、後がないのだ。

 これはカウントダウンだ。この咆哮は、この騒音は、このけたたましい音はカウントダウンなのだ。俺は毎日この音と戦っている。だが、それはいつだって序曲にすぎない。

 俺は身を震わせ縮こまる。来るのだ。もう、次にはヤツがくる。

 静寂の中、最後の平穏を俺は力なく抱きとめて、(むさぼ)るように(すが)りついた。そうしている間にも、刻一刻と時間が過ぎてゆく。

 絶望のカウントダウンが、俺の心臓の鼓動のように止まらずにやってくる。

 ああ、ヤツがくる。

 ああ、ああ、ヤツがくる。ヤツがもう、すぐそこに……!

 もうじき、最後のアラームがやってくる。やってくるのだ。

 そうして俺は出ていかなくてはならない。このフラットのあなぐらを、ぺたんこの布団を出て、そうして俺は仕事に行くのだ。また、一日が始まるのだ。

 ああ、ああ。最後のアラームだ。最後のアラームが鳴り響くぞ!

 ああ、ああ! ああ!

 

 

 

 

 

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二〇二一年 一月二六日  着想

二〇二一年 一月二七日  脱稿

 

 

【元ツイート】

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落書き

『フラットのあなぐらのたたかい』

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2021年1月27日

https://twitter.com/naoki88888888/status/1354152927779143681

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