ヒーリングっどプリキュアvsジュウオウジャー ~歓迎! 動物戦隊御一行様~   作:runguri

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最終話

 □ □ □

 

「嘘、でしょ……」

 ナノビョーゲンに蝕まれ、その体内から溢れ出る瘴気で体表を漆黒に染め上げたキューブエレファントとキューブタイガーは、呆然とするキュアグレースの眼前でみるみる巨大化していく。

 ハートの展望台を優に超える大きさにまで成長し、その目に歪んだ眼光を迸らせると、濁った唸り声を上げながらプリキュアとジュウオウジャーに向けて突進してきた。

「みんな、逃げろ!」

 大和の掛け声とともに、一行はめいめいの方向に慌てて逃げる。二匹の巨体は嵐のような風圧を巻き起こし、土煙を撒き上げて周囲の木々を薙ぎ倒しながら、あらぬ方向へ突撃していった。

 彼らが踏み荒らしていった地面の無残な様子に青ざめながら、スパークルはタスクに向かって叫ぶ。

「どっどどどどうしましょうタスクさーん! キューブエレファントさん、あんなに大きくなっちゃいましたよ!」

「いや、ひなた、大きくなることは構わないんだ。そんなことより、」

「構わない!? どういうことですか、だってあんなに小さくてかわいいゾウさんだったのにぃ!」

「いやだから、そこは戦隊の常識はプリキュアの非常識というか何というか……」

「タスク君、説明はあとあと! キューブタイガー、やめなさい!」

「そうだ、やめるんだキューブエレファント!」

 アムとタスクは、相棒のキューブアニマル二匹に向かって叫ぶ。しかし、彼らはまったく聞き入れる様子もなく、駄々をこねる子供のように地団太を踏み、地響きを起こして荒れ狂っている。

「駄目だわ。全然、聞こえてない。無意味に地球を傷つけて、絶対あんなことする子たちじゃないのに……!」

「あの子たちが悪いんじゃありません。さっきあの二人が放ったナノビョーゲンのせいです。早くお手当してあげないと!」

 フォンテーヌの言葉に、タスクとアム、そして全員が目を見合わせ頷く。

 暴走する二匹に向かって駆けだそうとしたその矢先、その進路をふさぐように、突如空からマンホールの程の大きさの、半透明のエネルギー体でできた円盤が降り注いできた。

「もーっ! いったいぜんたい今度は何!?」

 憤慨するスパークルに応えるように、積み上がったメダルを破って現れたのは、緑色の連なった軟体を髪や装飾のように生やした、異様かつ妖艶な女性型の異星人だった。

 その見た目と言い知れぬ迫力にたじろぐプリキュアたち三人。すると、その後ろでレオが叫んだ。

「何しにきやがった、ナリア!」

 ナリアと呼ばれたデスガリアンの女性幹部は、レオの問いかけを薄い笑いで受け流すと、辺りの状況――というより、暴れ回るキューブアニマルたちを見て、さらに愉快そうに笑った。

「あらあら、なんだか面白いことになってるわね」

 そして、ジュウオウジャーにもプリキュアにも目をくれず、ジュウオウイーグルの剣の錆となったモンドの元へと歩を進める。

「そんなことより、私の使命はこっち。……あらもう、折角の輝きが台無しじゃない、ダイヤモンド……」

「モンド・ダイヤだど……そんなことよりナリア、こ、コンティニューを……」

 ぼろぼろの姿で懇願するモンドに、ナリアは口角を吊り上げると、懐から怪しい輝くを放つメダルを取り出した。

「ジニス様の細胞から抽出したエネルギーです。無駄遣いせぬよう、励みなさい」

 そして、モンドの左胸にある投入口をなぞるように、手にしたメダルを彼の体内へと入れた。その途端、モンドの体はびくびくと痙攣し、光を放ちながら加速度的に肥大化し、あっという間にキューブアニマル達をも超える巨大な姿へと変貌した。

「サンキュー、ナリアァァ!」

「ええぇぇーー!? こっちも巨大化ぁ!?」

「戦隊さんの方では大きくなるのって当たり前の事なのかしら……」

 再び目をひん剥いて驚くスパークルに対し、目まぐるしく変わる事態に何かがマヒしてきたのか、フォンテーヌはただただぼやくばかりだ。

 あまりの状況にグレースも息を呑むばかりだが、自分を奮い立たせるようにかぶりを振り、ぎゅっと表情を引き締める。

「でも、まずはエレファントさんとタイガーさんだけでも何とかお手当しないと、すこやか市が、ううん、地球が大変なことになっちゃう!」

「そうラビ、今こそ全力でお手当が必要ラビ!」

 三人、そしてヒーリングアニマルの三匹は、顔を見合わせて決意と共に頷き合う。

 しかし、グレースの後ろから、大和はその肩に手を乗せ首を振った。

「いや、のどかちゃん。巨大化したデスガリアンまで出てきてしまった。ここから先は、さすがに危ない。まずは、俺たち戦隊の力で彼らを鎮圧する。お手当は一旦後にして、ここはひとまず引いてほしい」

「大和さん……」

 マスクの下の、大和の表情は見えない。しかし、その声色だけで十分、自分たちを心底心配してくれているのが伝わってきた。

 グレースは少し逡巡したものの、ステッキを握る手にぐっと力を込めて、大和の目を見て言った。

「……いえ、わたしたちも一緒に戦います。キューブエレファントさんもタイガーさんも、今すごく苦しんで、必死にビョーゲンの力と戦っています。一刻も早く、救ってあげたい!」

「のどかちゃん……」

「それに、地球を守るために戦うのが戦隊なら、プリキュアだって、戦隊です!」

 大和の目をまっすぐ見つめて言い放つグレースに、フォンテーヌとスパークルも強く頷く。

 すると、ためらう大和に、彼の仲間たちも声をかける。

「大和、ここまで言われたらあんたの負けでしょ」

「そうだぜ。こいつらのガッツ、なかなかのもんじゃねぇか!」

「キューブエレファントたちも、あのビョーゲンズの力で妙なパワーを得てしまっている。先に彼女たちの力で浄化してもらった方が効率的だ」

「もう、タスク君。効率的とかそういうんじゃないでしょ、素直に協力してほしいって言いなさいよ」

 笑い合う仲間たちの姿に、大和は再びグレースのまっすぐな瞳を見つめて、頷いた。

「……わかった。プリキュアのみんな、力を貸してくれ!」

「はい、もちろんです!」

 花のような笑顔を浮かべるグレースと大和は、ぐっと固い握手を結んだ。

 その様子を満面の笑みで見つめていたスパークルが、ふと浮かんだ疑問をぶつける。

「あれ、でもでも、あんなに大きくなっちゃったデスガリアンと、いったいどうやって戦うんですか?」

「さっきタスクも言ってたでしょひなた、こうするのよ」

 大和、セラ、レオの三人は、相棒のキューブアニマルを取り出し、掛け声を上げる。

「キューブイーグル、ゴー!」

 すると、大和たちの手を離れたキューブアニマルたちはふわっと浮き上がり、手のひらほどのサイズだった彼らは、見る見るうちに見上げるほどの大きなサイズへと成長していく。

「ふわあ、すごいすごい!」

「キューブイーグルさん、こんなに大きくなっちゃうラビ!?」

「やっぱり普通に巨大化できちゃうのね、やっぱり戦隊さんってすごいわ……」

「なんというか、ボクたちとは色んな意味で次元が違うって感じがするペェ」

「やばーいでっかーい! ニャトランもさ、あんな感じで大きくなれないの?」

「いきなりとんでもない無茶いうニャ!」

 興奮する三人と三匹を見て笑いながら、大和たちはそれぞれのキューブアニマルに乗り込んだ。

『それじゃあみんな、背中に乗って!』

 キューブイーグルの操縦席から、大和の声が響く。

 グレースたちは、お互いの顔を見つめ、頷き合った。

「よし、オレたちもジュウオウジャーのみんなみたいに、バリバリ野生開放、本能覚醒させていこうぜ!」

 ニャトランの掛け声に、ラビリンとペギタン、そしてプリキュアたち三人は、おー! と声を合わせる。

「よーし、やっちゃうよー! ……あれ? でも、野生は何となくわかるけど、本能っていったい何だっけ??」

 スパークルの質問に、一同は顔を見合わせた。フォンテーヌが先陣を切って説明を試みる。

「スパークル、本能っていうのはね、……意外と説明が難しいわね」

「地球を守りたい! とか、あいつを倒したい! とか、そういうことペェ?」

「それだと、ちょっと具体的すぎる気がするラビ。お腹が空いたから食べる! とか、眠いから寝る! とか、そういうもっと直感的なことだと思うラビ」

 そうだね、と頷きながら、グレースはラビリンの言葉に続く。

「感じたままに……、本能のままに動いた時にわたしたちは、生きてる、って感じがするんじゃないかな?」

 そんなグレースの言葉に、フォンテーヌとスパークルはふっと微笑み、

「グレースらしい説明ね」

「……うん、なんか、わかった気がするよ!」

 頷く二人にグレースも笑顔で応え、「それじゃあ、行こう!」というグレースの掛け声と共に、三人はキューブイーグル、シャーク、ライオンの背中へとそれぞれ飛び乗った。

 

 

 ■ ■ ■

 

 

「あーもう、もはや何がなんだかって感じだね」

 遠巻きに事の成り行きを見守っていたダルイゼンは、高層ビルのような大きさに成長したモンド・ダイヤを見上げて半ば呆れ気味にぼやく。

 すると、彼の脇腹を肘で小突き、グアイワルはダルイゼンに指示する。

「おい、ダルイゼン。……やれ」

「えぇ、ウソでしょ。本当にやるの……?」

「あったりまえでしょ。ピカピカゴリラちゃんが巨大化するなんて想像もしてなかったけど、むしろ一層都合がいいってもんよ。うまくいけば一気に地球を蝕むチャンスなんだから!」

「はあ……、どうなっても知らないから」

 二人からの圧力に、やれやれとため息をつきながら、ダルイゼンは一歩前へと出て、さっと髪をかき上げた。

「進化しろ……、ナノビョーゲン」

 ダルイゼンから生み出されたナノビョーゲンは、巨大化した自分の様子に満足げにぐへぐへと笑うモンドに向かって飛んでいった。

 今のモンドの体からすれば毛穴ほどの大きさのナノビョーゲンは、彼の全く気付かないうちにモンドの体へと取り付く。しばらくしてモンドは、体内を駆け巡る悪寒に呻き声を上げ始めた。

「……ぐっ? な、なんだど、これ? だるい、しんどい、具合悪い……?」

 自分の体の異変に気付き始めたモンドだが、時すでに遅し。モンドの体に取り付いたナノビョーゲンは、その体の中心から加速度的に感染範囲を広げていき、四肢の先まで浸蝕していく。

 そして、悲鳴とも嗚咽ともつかない唸りがぴたりと止んだかと思うと、モンドはその目に瘴気の闇を灯して雄叫びを上げた。

「メガ、ビョォォォゲン!」

 その過剰なまでに逞しい両腕も、不釣り合いな輝きを見せる水晶も、全てを漆黒に染めたその巨体は、ビョーゲンの力によりさらにもう一回り大きくなり、ダルイゼンたちも今まで目にしたことのないような大きさのメガビョーゲンへと進化を遂げた。

「うわ、ほんとに進化した」

 自分で感染させておきながら、モンドの進化に目を見開くダルイゼン。一方、シンドイーネとグアイワルは歓喜の声を上げる。

「あらー、大成功じゃない! あのゾウとトラもなかなかのもんだけど、ゴリラちゃん今までで最大最強のメガビョーゲンじゃない!?」

「成程、やつらデスガリアンとやらは異星人。腕力やら体力やらは人間よりも上のようだが、地球の病気に対する抵抗力はさほどでもないようだな。ふむ、奴の事はメガモンドとでも名付けようか」

 満足そうに笑う二人に向かって、抗議の声を上げたのはデスガリアンの幹部、ナリアだった。

「ちょっと、何なのですか! 人のプレイヤーに勝手なことして! というより、そもそも貴方達は誰なんです!」

「何よ、アンタこそ失礼ね。人に名前を尋ねる時は、まず自分から名乗りなさいよ。地球の常識でしょ、知らないの?」

「いやいや、お前が地球の常識を語るなよ」

 にやにやしながらツッコミを入れるグアイワルに、あらそう? とシンドイーネも余裕の笑いを浮かべる。

「くっ、馬鹿な地球人……じゃないわね、異星人……? ってもう、そんなことどうでもいいわ! モンド・ダイヤ! ゲームの続きよ! せいぜいジニス様を愉しませなさい!」

 半ば八つ当たりのようにモンドに指示するナリア。しかし、

「メガ……、ビョーゲン!!」

「きゃあっ!?」

 メガモンドは、自分に対してがなり立てるナリアを敵と認識したのか、振り上げた拳をナリアに向かって振り下ろした。

 慌てて避けるナリアだが、巨大化した上にビョーゲンの力で強化されたメガモンドの拳の破壊力はすさまじく、地盤をも砕くその威力の衝撃で彼女の体は大きく吹き飛ばされた。

 なんとか受け身を取ったものの、土くれやら何やらを被りひどい有様となった姿でナリアは再び叫ぶ。

「くっ、一体どうしたというの、モンド・ダイヤ! 私の言うことを聞きなさい! ってちょっと! 聞きなさいったら!!」

「無駄だよ、今のアイツはもう、アンタたちの仲間のデスガリアンじゃない。メガビョーゲンさ」

 淡々とのたまうダルイゼンに、ナリアは苛立ちを隠しきれない声で言い返す。

「一体何のことだかわからないけれど、貴方達のせいだと言うのなら、さっさと元に戻しなさい……!」

「くっくっくっ、これだけの軍勢があれば、我々ビョーゲンズが地球を汚染しつくすなど容易いな!」

「キングビョーゲン様の復活も近いわね……嗚呼……いっぱい褒めて頂かなくっちゃ……」

「じゃあ、後のことは任せてオレ帰っていい?」

「聞きなさいよ……! 貴方もよ、モンド・ダイヤ! 私に逆らう事は、ジニス様に逆らうのと同じですよ!」

 しかし、明後日の方向を見つめて猛り狂うメガモンドが、ナリアの声を聞き入れる様子は全く無い。

「だから、アイツはいまメガビョーゲンが乗っ取っているから聞こえないんだってば。アンタ、意外と理解力が無いんだね」

「なっ……!? あなたみたいな魔少年はなぜだかわからないけど好みだから言わせておけば、デスガリアンの英知の光と呼ばれたこの私に向かって……!」

 怒気を込めてダルイゼンを睨みつけるナリアだが、彼はどこ吹く風でメガモンドの方を見つめている。

 メガモンドとダルイゼンの顔を交互に見て唸り声をあげた後、「覚えてなさいよ」という捨て台詞を吐いてナリアは虚空へ消え去っていった。

「よーし、なんだかよく分からない邪魔者もいなくなったことだし、本格的に地球侵略開始といきましょっか!」

「まずはあっちの森一帯だ。徹底的に地球を汚染しろ、メガビョーゲンズ!」

 意気揚々と、二匹のキューブアニマル、そしてメガモンドに指示を出すシンドイーネとグアイワル。

 しかし、

「……ん? なんだお前ら、こっちじゃない! あっちの森を蝕めと言っているんだっておおおおおいっ!?」

 三体のメガビョーゲンは命令を聞くどころか、ナリアと同様に彼女らを敵と判断したのか、シンドイーネたちに向かってその牙を剥いた。

 慌てて飛び退く三人が元いた地点を、まるで土砂崩れのような勢いで無残に踏み荒らしていく三匹に、シンドイーネとグアイワルの血相が変わる。

「ちょ、ちょっと、どうなってんのよ! アタシたちの言う事まで聞かないじゃないの!?」

「三匹とも、元の生命力が強すぎるんだね。実際、ビョーゲンの力が体を覆ってはいるけれど、姿形は変わってない。中途半端に進化したものだから、意識も半分残ってせめぎ合っている。結果、わけもわからず暴走状態、って感じかな」

 冷静に分析するダルイゼンに、ふん、とグアイワルは鼻で笑い、

「そ、それでもこの驚異的なパワー! 暴れ回ってくれるだけでも十分じゃないか!」

「はあ、これだから筋肉ダルマはお気楽だな」

「なんだとぅ!?」

 顔を赤くして怒るグアイワルを尻目に、ダルイゼンは周囲の木々を薙ぎ倒しながら暴れ回る三匹を指して説明する。

「ほら、見てみなよ。あいつら、ただ暴れまわって地球を『破壊』しているだけだ」

「アタシ達ビョーゲンズの目的は地球を『浸蝕』すること……。このままじゃ、キングビョーゲン様の養分になる前に、地球の土地やら何やら全て壊され続けちゃうってこと!?」

 そ、と頷くダルイゼンに、シンドイーネとグアイワルはさーっと青ざめ、慌てふためき始める。

「ちょっと、ピカピカゴリラちゃん、止まりなさい! やめなさいっつってんでしょ!?」

「おい、ゾウとトラに取り付いたナノビョーゲン! 戻ってこい! 進化を止めて、そう、退化! 退化するんだ!」

 必死に叫ぶ二人だが、当然彼らは聞く耳を持たない。その二人の様子を、口にこそ出さないものの「馬鹿でしょ」という目でダルイゼンは見据えている。

 すると、三匹が踏み荒らしていったその後を追うように、一羽の大きな鳥、そして鮫と獅子が駆けてくるのに気づいた。

「! あれは……」

 巨大な獣たちのその背には、暴走する三匹の背中を真剣な眼差しで追うプリキュアたちの姿があった。手をこまねくダルイゼンたちを置き去りにし、颯爽と駆け抜けていく。

 彼女たちの背中を歯ぎしりしながら見つめていたグアイワルは、頭を掻きむしって叫んだ。

「くあ~~~っ! 暴走して破壊を続けるメガビョーゲン! それを止めようとする宿敵プリキュア! お前はどっちを応援する!?」

「どっちも。じゃ、オレはこれで」

「コラー! 逃げるな!!」

 憤慨するグアイワルを無視して、ダルイゼンはそそくさといずれかへ去っていった。

「あーもう、アタシも知ーらない。キングビョーゲン様に怒られる結果にならない事だけ祈っておくわ……」

「……ちっ、そうだな、そうするとしよう」

 無責任な捨て台詞を残して、シンドイーネとグアイワルはがっくりと肩を落としてビョーゲンキングダムへと帰還していった。

 

 

 □ □ □

 

 

「……どうしたの、ペギタン?」

 地を滑るように走るキューブシャークの背中に乗り、暴走を続けるキューブエレファントの隙を伺うフォンテーヌは、少し気の落ちた様子のペギタンに問いかける。

「野生……。ボクみたいな臆病者には、そんなもの無いかもしれないペェ」

 しょげた瞳でぼやくペギタンに、フォンテーヌは笑いかける。

「何言ってるのペギタン。野生ってのは、何も勇気があるとか、荒々しいとか、そういうことだけじゃないと思うわよ」

「ペェ……?」

「臆病、ってことは、それだけ危険に対して敏感で、慎重だってことでしょう? 動物が生存していくためには、蛮勇よりも必要な能力よ。わたしも、たまに頭に血が上りやすいことがあるから、そういう時は、ペギタンのおかげで少し冷静になれたりするもの」

「それって、マジギレちゆちーの事ペェ?」

「……その呼び名の事は今すぐに忘れなさい」

 すごんだ瞳のフォンテーヌにはっと嘴をつぐむペギタンだったが、キューブシャークがひた走るその先に何かを見つけると慌てて再び口を開いた。

「って、フォンテーヌ! 前前前、前を見るペェ~~~!!」

 慌てふためくペギタンが指差した先、キューブシャークが邁進する道の脇に生えた樹木から大きく張り出した野太い枝が、キューブシャークの背の上、フォンテーヌたちのいる高さちょうどど真ん中へと迫ってきていた。

「わひゃあ!?」

 慌てて伏せるフォンテーヌのギリギリ上を、強烈なラリアットのごとく、枝が鋭い風切り音を上げて通り抜けていった。

「……こういう事よ、ありがとうペギタン……」

「ど、ど、ど、どういたしましてペェ……」

 思わず体を震わせる二人の真下、キューブシャークの中からセラの声が響く。

『ごめん! 二人とも、大丈夫だった!?』

「はい、問題ありません!」

「ボクたちの事は気にせず、エレファントさんを追いかけてくださいペェ!」

『オーケー、じゃあ飛ばすわよ、いいえ、飛ぶわよ!』

 意気揚々と叫ぶセラの掛け声と共に、キューブシャークは尾びれを振る速度を上げて加速すると、小高く隆起した場所を踏切台にして大きく跳躍した。

 そして、キューブエレファントの体を飛び越えて進行方向へと先回りし、素早く反転して興奮状態のキューブエレファントと対峙する。

『さあ、キューブエレファント! 大人しく治療を受けなさ、い!?』

 セラが呼びかけるより早いか、キューブエレファントはその鼻から大量の水を放出する。

「ぷにシールド!」

 スコールのように降り注ぐ水しぶきを、ペギタンのバリアが傘のように防ぐ。

『サメに水ぶっかけてどうしようってのよ、水を得た魚ってなもんでしょ!』

 キューブシャークはぬかるんだ地面を滑るように直進し、その咢を大きく開いて、出鱈目に水を撒き散らすキューブエレファントの鼻へと噛みついた。

『ちゆ、今のうちに!』

「「キュアスキャン!」」

 ペギタンの両目から放たれた眼光が、キューブエレファントの体内を透過し探っていく。すると、

「何、あそこ? エレファントさんの頭のてっぺん、他の場所より、もやが濃くてどす黒くなってる……!」

「エレファントさんに取り付いたナノビョーゲンは、あそこを中心に増殖を繰り返しているみたいペェ。つまりあそこは、ナノビョーゲンの病巣! あそこを中心にお手当してあげれば、」

「エレファントさんを浄化できるってわけね。やるわよ、ペギタン!」

 フォンテーヌは流れるような手つきで水のエレメントボトルをセットし、ステッキの先端に意識を集中させる。

「ヒーリングゲージ、上昇ペェ!」

「まだよ、あの大きな体にびっしり蔓延ったビョーゲンを浄化するには、もっとヒーリングゲージを溜めて……!」

 ヒーリングステッキにあしらわれた水晶が、蓄積されたエレメントパワーが臨界であることを告げるように、びかびかと点滅し始める。

「フォンテーヌ、今だペェ!」

「プリキュア、ヒーリングストリーム!!」

 ヒーリングステッキから解き放たれた清らかな水流の直撃を受け、キューブエレファントの脳天に取り付いていたナノビョーゲンの淀みは、押し流されるように消失していく。

 そして、キューブエレファントの全身を覆っていた真っ黒な瘴気も、ヒーリングストリームの余波を受け文字通り洗い流されていき、森林を思わせる深い緑を取り戻していった。

「大丈夫か、キューブエレファント!?」

 地上から戦況を見守っていたタスクが声をかけると、キューブエレファントは心配する相棒に大丈夫だと答えるように、その大きな鼻を振り上げ甲高い鳴き声を上げる。

 その様子に、フォンテーヌとペギタンは顔を見合わせ笑顔を浮かべた。

「「キューブエレファントさん、お大事に!」」

 

 

 □ □ □

 

 

『ひなた! ニャトラン! 振り落とされんじゃねえぞっ!!』

「アニキには安全運転なんて微塵も期待してないから、思う存分やっちゃってくれニャ!」

 操縦室からの宣言通り、キューブライオンは暴走するキューブタイガーと荒々しい戦いを繰り広げる。

 キューブタイガーの爪から放たれる鋭い衝撃波を、キューブライオンの咆哮がかき消し、その弾幕の合間にキューブライオンは押さえつけようと飛び掛かるが、キューブタイガーは素早い身のこなしでそれをかわす。

 その間、縦横無尽に揺れ動くキューブライオンの背中にしがみつくのに、スパークルとニャトランは精いっぱいだった。

「にしても、こりゃキツいニャ! キューブライオンさんが真正面向いて戦ってると、大っきい顔のせいで前が見えないし! どうお手当すりゃいいんだ!? ……ん? どうしたスパークル?」

 先ほどから不自然に黙ったままのスパークルにニャトランは問いかける。

「いや、あたしって、どういう時に一番、生きてるって感じるかなーって」

「まだそんな事考えてたのか!?」

「だって、本能覚醒させていこうって言ったのニャトランじゃん! キューブタイガーさん、あんなに大っきいし、お手当するには本能パワー全開にしないとって思って」

 うーんと考え込むスパークルの表情は真剣そのものだ。その様子にニャトランはぷっと吹き出しながら、

「んなもん、決まってんじゃん! ひなたの一番の本能は『かわいい』だ! かわいいものに目が無い! かわいいもののためなら頑張れる! それが平光ひなた、キュアスパークルだろ!」

 自信満々に言い切るニャトランに、スパークルはぱっと瞳を輝かせる。

「やっぱり!? そうだよね! さすがあたしのパートナー、あたしの事よくわかってる! かわいい!」

「おう! もちろんだぜ!」

 ニャトランの顔をくりくりと撫でながら、スパークルは再び何かを考え始める。

「かわいいものかわいいもの……、そうだ、レオさん!」

『ん? なんだ?』

 キューブタイガーの猛攻に必死に応戦しつつ、レオは操縦席の中から背中の方に向かって振り返る。

「ドレッドヘアーで一見怖そうに見えるけど、意外と気さくで子供っぽいのがかわいい!」

『おう! よくわかんないけど任せとけ!』

「んでもってー、次はキューブライオンさん!」

 キューブタイガーと取っ組み合いを繰り広げていたキューブライオンだったが、スパークルからの突然の呼びかけに、疑問符の混ざった鳴き声で応える。

「でっかくなっちゃっても、体がカクカクしててお顔もどーんとでっかいところがすっごくかわいい! よしよし~」

 目の前に壁のようにそびえるキューブライオンの後頭部(?)を、すりすりと撫でるスパークル。

 すると、キューブライオンは気を良くしてごろごろと喉を鳴らし、もっと撫でてほしいとばかりに頭を下げた。

 その途端、ごんっ、と重く鈍い音がスパークルの上前方から響き渡る。

 キューブライオンと組み合っていたキューブタイガーの脳天に、予測もしない動きでキューブライオンの石板のような頭がクリーンヒットしたのだった。

 そのままキューブタイガーは地に突っ伏すようにもだえ苦しむ。

「おおっ、なんかよくわかんないけどチャンス! キューブライオンさん、そのまま頭下げといてね!」

「キュアスキャン!」

 突如開けた視界に、ニャトランの瞳からサーチライトが走り、キューブタイガーの体を調べ上げていく。

「! 見つけた! キューブタイガーさんの背中の真ん中、ナノビョーゲンがうじゃうじゃ沸いてるニャ!」

「オッケー、よくわかんないけどそこを徹底的にお手当すればいいんでしょ! やるよニャトラン!」

 スパークルは素早く光のエレメントボトルをステッキにセットし、ナノビョーゲンの群れの中心に狙いを定める。

「ヒーリングゲージ、急上昇ニャ!」

「プリキュア! ヒーリングフラーッシュ!」

 ヒーリングステッキの先端から眩い閃光が迸り、キューブタイガーの背中へ向けて照射される。

「……のぉ、本能覚醒バージョン!!」

 その光はスパークルの叫びと共に増幅され、極大の光線となってキューブタイガーの全身を照らし上げる。

 キューブタイガーの体を包み込んでいたナノビョーゲンの黒い淀みは、まるで太陽に照らされる影のようにかき消され、キューブタイガーの体は一転、元の純白のボディを取り戻した。

「キューブタイガー! よかった、治ったんだね! ひなたちゃん、本当にありがとう!」

 元に戻った相棒の脚に愛おしそうに抱きつきつつ手を振るアムへとVサインを送るスパークルに、ニャトランは笑いながらツッコむ。

「何が本能覚醒バージョンだよ、いつも以上に気合を込めたってだけじゃねーか」

「えへへ、それでちゃんとお手当できたんだからいいじゃん。キューブタイガーさん、おっだいじにー!」

 

 

 □ □ □

 

 

『のどかちゃん、大丈夫かい!? 落ちないように気を付けて!』

 雲にも届きそうな高度を飛ぶキューブイーグルの操縦席から、大和の声が響く。

 吹きすさぶ風に、ドレスの裾がばたばたと激しくはためく。頬を切るような上空の冷たい空気に顔を歪ませつつ、キューブイーグルの背に乗ったグレースは声を張り上げて答える。

「大丈夫です、気にせず飛んでください! まさか、デスガリアンまでメガビョーゲンになっちゃうなんて……!」

「ただでさえ大きくなっちゃってるのに、メガビョーゲンの力が上乗せされちゃってるラビ! まずはお手当して、ビョーゲンズの力を切り離さないと手に負えないラビ!」

 空を駆けるキューブイーグルは、周囲の山々をいたずらに踏み荒らしながらすこやか市の市街の方へと歩を進めるメガモンドの背中へと迫る。

「よし、この距離まで近づけば! ラビリン!」

「キュアスキャン!」

 正眼に構えたヒーリングステッキのラビリンの瞳から発せられたサーチライトが、メガモンドの体をシークしていく。しかし、

「うぬぬ、体が大きすぎて、ナノビョーゲンの病巣がなかなか見つけられないラビ……!」

 目を四方に走らせるラビリンだが、モンド・ダイヤに取り付いたナノビョーゲンが住まう根城はなかなか見つけられない。

「ラビリン、どう?」

「わからないラビ……。下手すると、ここからじゃ届かない足の方に潜んでいる可能性もあるラビ」

「そんな……。ううん、頑張って探そう!」

 グレースたちが手こずっている間に、背後の気配に気づいたメガモンドは振り返り、自分をつけ狙う一羽の鳥に苛立たし気に目を光らせる。

『まずい……!』

 慌てて旋回態勢を取ろうとする大和。しかし、メガモンドはその動きを読むかのように、その巨大な拳を突き出しキューブイーグルへと狙いを定めた。

「メガ、ビョーゲンッ!」

 そしてメガモンドは、自慢のロケットパンチを放った。ジェットの尾を引き飛来する極限まで巨大化したその拳は、もはや隕石そのものだ。

 大気を暴力的に震わせる轟音を上げながら襲ってくるそれを、何とか回避しようとするキューブイーグル。しかし、ぎりぎり避けそこなった翼の先端が少し触れただけで、拳の質量はキューブイーグルの機体を大きく揺さぶった。

「きゃっ……!」

『のどかちゃん!』

 舞い落ちる木の葉のように大きく揺れる機体から弾き出されるように、グレースの体はキューブイーグルから投げ出され、そのまま真っ逆さまに落下していく。

 大和も咄嗟に追いかけようとするが、キューブイーグルの態勢を立て直すのに精いっぱいだ。

「グレース、グレース! ……まさか、気絶してるラビ!?」

 必死に呼びかけ続けるラビリンだが、グレースからは全く反応が無い。その間にも、グレースの体は重力に乗って速度を増していく。迫り来る地表と、苦しげな顔で目を閉じたままのグレースを交互に見ながら、ラビリンはただ焦るばかりだ。

「さ、さすがにこの高さはいくらプリキュアでもまずいラビ! どうすれば……、うぇっ!?」

 すると今度は、墜落するグレースを迎え撃つかのように、彼女たちの真下から漆黒の瘴気が放たれ襲い掛かってくるのにラビリンは気付いた。

「こんな時に!? ぷにシールド!!」

 とっさにラビリンは、ヒーリングステッキを握ったままのグレースの掌ごと彼女の眼前に躍り出て、バリアを展開して受け止める。気絶するグレースの眼前で、光の障壁と迫りくる瘴気が激しくスパークする。その衝撃と明滅に、グレースは目を覚ました。

「……っ、ん……? え、ら、ラビリン!? わたし、イーグルさんから落ちて、これどうなってるの!?」

「グレース、目が覚めたラビ!? とにかく今は、着地姿勢を取るラビ!」

 状況を飲み込めていないグレースだが、ラビリンの指示に頷き、まずはヒーリングステッキを構え直し、正面から押し寄せてくる瘴気の奔流をしっかり受け止める。

 そして、その流れを受け流しつつ、反動を利用して体の上下を反転させる。そして、瘴気の波動を押しのけるようにして自らの体を弾き出し、脚のクッションを最大限に利用して何とか地上に着地した。

 そのまま尻もちをつくように地面へと座り込み、安堵ともに深く息をついてラビリンに頭を下げた。

「あ、ありがとうラビリン。おかげでぺちゃんこにならずに済んだよ……」

「一時はどうなることかと思ったラビ……。もう、こんな緊急事態に一体誰ラビ!」

 グレースとラビリンが、自分たちが墜落するはずだった地点の方を振り返ると、そこに立っていたのは、

「ちっ、惜しかったね」

「……ダルイゼン」

 先ほど瘴気を放った右手の様子を確かめるように指を動かしながら、ダルイゼンは乾いた目でグレースとラビリンを見据えている。グレースは慌てて立ち上がり、ヒーリングステッキを構えた。

「グレース、今はダルイゼンに構っているヒマはないラビ。もう一度、あのデスガリアンの所に向かわないと!」

 ラビリンの言葉にうなずきつつも、グレースはいつもと少し様子の異なるダルイゼンに違和感を憶えていた。普通なら、あのメガビョーゲンを浄化させないために邪魔をしてくるはずなのに、あまりにも敵意が無さすぎる。

 すると、ダルイゼンは向こうで唸り声を上げるメガモンドをつまらなさそうな目で見上げ、誰にともなく語り始めた。

「……あいつら、デスガリアンだっけ。なんでそんな体の構造になってるのかワケわかんないけど、左胸の穴を通して外部から体内にエネルギーを投入できるようになっている。逆に言うと、あの部分は外部からの影響を受けやすい、人間で言うなら鼻や口みたいなものだ」

「……? それって」

「オレのナノビョーゲンも、あそこからアイツの体内に侵入していったのを見た。そこまで奥深くにまでは進まないはずだ」

「! ということは、左胸の近くがナノビョーゲンの病巣になっている可能性が高いってことラビ!?」

 ダルイゼンはメガモンドの様子を見上げながら何も答えない。が、その無言は肯定だと感じられた。

 グレースは、彼の冷淡な表情を見つめながら問いかける。

「……なぜ、そんなことをわたしたちに教えてくれるの?」

「さあね。ま、信じるかどうかはお前ら次第ってことで。それじゃ」

「待って、ダルイゼン!」

 その場を立ち去ろうとするダルイゼンの背中を、無意識にグレースは呼び止めていた。

「……何」

「さっき、あなたの攻撃で押し返されてなかったら、わたしはあの勢いのまま地面に衝突して、たぶん、ただじゃすまなかった。……もしかして」

「考えすぎでしょ。オレは、さっきのでお前が倒せるなら、それはそれでよかった。……ただ、アイツらがこのまま暴れ続けるのも、こっちには色々都合が悪いんでね。ま、後は頼んだよ、地球のお医者さん」

 皮肉っぽい口調で言い残し、ダルイゼンは手を振りながら林の奥の闇へと消えていった。

 彼の去った後を見つめたまま立ち尽くすグレースに、ラビリンは問いかける。

「グレース、どうしたラビ?」

「……ううん、何でもないよ、ラビリン」

「何でもなくないラビ! グレースはもっと怒っていいラビよ! ダルイゼンのやつ、自分でメガビョーゲンにしておいて、こっちに後始末をまかせるなんて!」

 ぷりぷりと怒るラビリンを苦笑しながらなだめつつ、グレースは遠くで唸り声を上げるメガモンドの巨体を見上げた。

「とにかく今は、あのデスガリアンをお手当しないと!」

 グレースの言葉に、ラビリンも力強く頷く。

 すると、後ろからフォンテーヌの呼び声が飛んできた。合流したスパークルと共にこちらへと駆けてくる。

「グレース、大丈夫だった!?」

「もう、気付いたらグレースが空からぴゅーって落ちてくるからびっくりしたよ! 何ともない!?」

「うん、平気! ラビリンと……、ううん、ラビリンのおかげで助かったの!」

 ほっと胸を撫で下ろす二人に、心配ばかりかけてごめんね、とグレースは頭を下げる。

「それより、エレファントさんとタイガーさんはどうなったの?」

『この子たちならもう大丈夫だよ!』

『すまない皆、迷惑をかけた!』

 少し遠くからアムとタスクの声が響いたかと思うと、キューブエレファントとタイガーの二匹が地面を揺らしながらグレースたちの元へと辿り着く。先ほどまでとは打って変わって、優し気な鳴き声を上げる二匹の様子に、グレースは顔をほころばせる。

「よかった、二人とも、治ったんだね!」

 そこに、キューブシャークとライオン、さらにキューブイーグルも上空から舞い降り、キューブアニマルたちが一堂に集った。頭上から大和の声が降り注ぐ。

『ごめん、のどかちゃん! 大丈夫だった!?』

「はい! それより、あのデスガリアンに取り付いたナノビョーゲンの位置がわかりそうなんです!」

 グレースの力強い返事に、ジュウオウジャーたちと彼らの駆るキューブアニマルたちは大きな歓声を上げた。

「でも、あのメガビョーゲンは、わたしたちの力だけじゃお手当できません。だから、戦隊の皆さん、最後にもう一度、わたしたちに力を貸してください!」

『もちろんだよ、のどかちゃん! 地球を元気にするために戦うのがプリキュアなら……、戦隊だってプリキュアだ!』

 自信満々に言い放つ大和。

 しかし、先程までの反応とは打って変わって、周囲の反応はまるで時が止まったかのようにぱったりとしていた。

『……あ、あれ? みんなどうしたの? そこはこう「もちろんだぜ!」って感じで頷くところじゃないの?』

『いや、流石にそれは無理があるでしょ大和』

『俺たちの一体どこがプリティでキュアキュアなんだよ』

『大和、怒られないうちに謝った方がいいんじゃないか』

『うーん、私がプリキュアならキュアタイガー……? それだと可愛くないし、やっぱりキュアホワイト? なんかそれはめちゃくちゃマズい気がするなぁ……』

 約一名を除いて白けたムードになる仲間たちに、大和は憤慨しながら答える。

『もう! そこは何ていうかノリでしょ! ノ・リ! のどかちゃんも何とか言ってやってよ!』

「いやー、あの、あはは……」

『のどかちゃんまで!? ちゆちゃんもひなたちゃんも笑ってないでフォローしてよ!』

 苦笑するグレースの傍らで、フォンテーヌはぷるぷる震えながら笑いをこらえ、スパークルは遠慮もなく大爆笑している。

「ぷっ、ごっ、ごめんなさ……ぶふっ」

「はー、面白い……。やっぱ、動物戦隊のみなさんやっぱサイコーだね!」

 二人と大和の間に割って入り、グレースは場を仕切り直す。

「コホン。と、とにかく、あのメガビョーゲンをお手当するためには、弱らせて隙を作らないといけないんです。でも、今のわたしたちじゃ、さすがにあの大きさの相手にダメージを与えるのは……」

「でもでも、いくらキューブアニマルさんたちがこんなに揃ったって言っても、ちょっと大きさが違いすぎるよね……」

『それなら心配しないでひなたちゃん。キューブエレファントとキューブタイガーが戻ったんだ。動物たちの群れの本領、とっておきを見せてあげるから!』

 グレースとスパークルの不安を吹き飛ばすように、大和は意気揚々とジュウオウチェンジャーを開き、キーをプッシュする。

 すると、大和たちの後ろから、さらに三匹のキューブアニマルが飛んできた。

「ああっ、ゴリラさんだ! キューブゴリラさんだよフォンテーヌ!」

「そのゴリラに対する異様な食いつきの良さはなんなのグレース……」

「あとはキリンさんとモグラさん……? 大和さんの言ってたとっておきって何だろうね? もう、今日は驚きすぎて疲れたから、よっぽどのことじゃない限りあたしはもう驚かないよ……」

 スパークルが遠い目をしている間に、大和はジュウオウチェンジャーのキーを立て続けに六回プッシュし、豪快に叫んだ。

 

『『動物大合体!!』』

 

「何あれ、四角い火の輪っか……?」

 ジュウオウチェンジャーの呼び声に応えるように、空中に浮かび上がった八つの火の輪をグレースがきょとんとした顔で見つめていると、キューブアニマルたちは我先にとその輪っかに飛び込んでいく。

 そして、立方体状に戻ったキューブアニマルたちは、統率された動物の群れのように空中でぴたりと整列し、一つ、また一つと順々に地上へと着地し塔のように積み上がっていく。

『4! 3! 2! 5! 1! 6!』

 こだまする雄叫びと共に積みあがったキューブたちは、瞬く間に脚、胴、腕へとその姿を変え、天を突くほどの巨人が生まれ出でる。そして、彼らを統治する巨大な剣、ビッグキングソードが天空から飛来し、キューブたちをまとめ上げるように刺し貫く。

 その頂にそびえる荘厳な顔に、王冠のごとく金の装飾があしらわれ、山のように巨大な動物の王者が誕生した。

 

『『完成! ワイルドジュウオウキング!』』

 

「どえええぇぇぇーーー!? アニマルさんたちが、ロボットになっちゃった!!??」

「スパークルって、なんというか、上客よね……」

 そのメガモンドにも勝るとも劣らない巨大な姿に目をひん剥いて驚くスパークルだったが、やがてその瞳はきらきらと輝き始める。

「ふええぇー、どうしよう! めっちゃくちゃかっこいいんだけど! お兄ぃ見てるかな? めっちゃロボット好きなんだよね!」

「あー、ひなたのお兄さんってそっち系?」

「ん? そうだよ? お兄ぃの部屋に、なんか日本刀持った赤っぽいロボットのプラモデルとか飾ってあったしー」

 きゃいきゃいとはしゃぐスパークルを他所に、グレースはあまりにも巨大な王者の姿に口をぱくぱくさせている。

「これ……これはもう、生きてるって感じを超えた何かだね……」

「あまりの迫力にグレースが言葉を失ってしまったラビ……」

 そんな三人に、遥か頭上から大和の声が降り注ぐ。

『三人とも、乗って! これが最後の戦いだ!』

 はい! と三人は応え、差し出されたビルのように巨大な両腕を飛び跳ねるように伝い、フォンテーヌは右肩、スパークルは左肩、そしてグレースは金色に輝く胸部装甲の上へと降り立った。

『よし……! いくぞ、みんな!!』

 大和の掛け声と共に、ワイルドジュウオウキングはのっしのっしとその歩を進め、メガモンドへと立ち向かっていく。

「こ、こんな大きなロボットが動くなんてすごいラビ……!」

「まるでアニメの世界みたいペェ」

「なんだかそれは逆のような……いや、何でもないニャ」

 ヒーリングアニマルたちのぼやきをかき消すように、ワイルドジュウオウキングの接近に気づいたメガモンドは驚きの声を上げる。

「メガ……っ!?」

 自分と同じ大きさの敵にメガモンドはたじろぎつつも、まだ距離のあるうちに迎撃しようとロケットパンチの発射体制に入る。

「させるもんですか! 氷のエレメント!」

 フォンテーヌは渾身の気合を込め、ヒーリングステッキから凍てつく波動を放つ。

 その青い光は、炎を噴き出し始めたメガモンドの拳の根元へと命中する。すると、拳を撃ち出すための高温のジェットはその火力を失い、その剛腕はワイルドジュウオウキング目がけて発射した途端に失速し途中で墜落してしまった。

「メ、メガ……!?」

 慌てて反対の右腕を構えようとするメガモンドに、スパークルは立て続けにステッキを振るう。

「雷のエレメント!」

 雷光を纏った金色の光は、メガモンドの頭上の雲へと辿り着く。ゴロロ……と低い唸りが周囲に響き渡った後、一拍遅れて巨大な稲妻がメガモンド目がけて落ちる。

 その稲妻は、メガモンドに大したダメージは与えられない。しかし、その雷光はメガモンドの視界を奪い、たじろがせる。その隙に、一気に距離を詰めてきたワイルドジュウオウキングの鉄拳が飛んだ。

『『はっ!!』』

 左腕を失い防御も取れないメガモンドは、ジュウオウジャーたちの掛け声と共に放たれた渾身の右ストレートを、その顔面に強かに喰らう。巨大化した時に復活した自慢の水晶も再び見事に砕かれ、その欠片は日の光を反射しながら、森の上空にきらきらと舞い散った。

 そのままワイルドジュウオウキングは、メガモンドの両肩をがっちりと掴み、その体を拘束する。

『いまだ、ラビリン、のどかちゃん!』

「「キュアスキャン!」」

 ラビリンの目が、再びメガモンドの体を走査していく。

 間近で見るメガモンドの体は、グレースたちからすればただひたすら延々と広がるビルの壁も同然だ。しかしラビリンは、ダルイゼンの助言に従い、左胸の周辺を中心に調べていく。すると、

「! 見つけたラビ! 左胸のみぞおち近く、あそこを中心にビョーゲンの力が広がっているラビ!」

『ナイス、ラビリン! 場所が特定できたんなら……、おおおおりゃっ!』

 負けじと抵抗してくるメガモンドに、大和は操縦席のキューブを勢いよく回転させ、ワイルドジュウオウキングに強烈な前蹴りを放たせる。

「すごい……!」

 絶望すら感じるほど巨大なメガモンドの体が、ワイルドジュウオウキングの蹴り一つで倒れ、空に轟くほど大きな音を立て倒れこむ。その光景に思わずグレースは息を呑んだ。

 しかし、圧倒されている場合ではない。ワイルドジュウオウキングの肩から離れグレースの元へと集まっていた二人と目を合わせる。

「決めよう、フォンテーヌ、スパークル!」

「ええ!」

「やっちゃおう!」

 三人は頷き合い、懐から華麗な羽があしらわれたエレメントボトルを取り出す。

「「「トリプルハートチャージ!」」」

 ミラクルヒーリングボトルを装着したステッキを天にかざすと、三人を、いや、ワイルドジュウオウキングをも包み込むほどのエレメントパワーが、眠っていた大地を照らす朝日のように、周囲の空間を温かな光で満たしていく。

 戦いで荒れ果てた大地も一時的に息を吹き返し、緑と潤いと輝きを湛えた姿に変わっていく。三人は、その溢れんばかりのヒーリングエナジーを、それぞれのヒーリングステッキへと集約させ、放った。

 

「「「プリキュア! ヒーリング、オアシス!!」」」

 

 重なり合う切っ先から、三色の光が堰を切ったように溢れだし、三重螺旋を描く光の渦となってメガモンドへと撃ち放たれる。

 狙うはもちろん左胸、ナノビョーゲンたちの巣食うモンド・ダイヤの患部。渦巻く癒しの光の束が、メガモンドの病巣へと直撃する。

「メ……ガァァァッッ!!」

 しかし、メガモンドの体の芯にまで侵攻したナノビョーゲンの淀みは、まるでコールタールのようにへばりつき、ヒーリングオアシスの直撃をもってしてもびくともしない。

 跳ね返ってくる反動を押し返すように踏みとどまりながら、それでも三人は己がエレメントパワーを込め続ける。

「ううっ、メガビョーゲンの力が、デスガリアンの中で育ちすぎたラビ……!?」

「ヒーリングオアシスでも、浄化しきれないかもしれないペェ……!」

「よく考えたら、ここまで連戦だったもんな。オレたちのエレメントパワーもそろそろ限界かもしれないニャ……!」

 苦し気な声を上げる相棒たちに、プリキュアたちは必死の形相に笑みを浮かべて応える。

「何言ってんの、ニャトラン、みんな! ここまで来たら、何が何でもやってやるしかないっしょ!」

「そうよペギタン。これ以上、地球の病気やら訳のわかんない宇宙人なんかに、この街を、地球を好き勝手させてたまるもんですか!」

「ラビリン、大和さんが言ってたよ。こんな時は、こう言ってやるんだって……!」

 三人は、ヒーリングステッキを両手で握り直し、渾身の力を込めて叫んだ。

 

「「「この星を、なめるなよ!!!」」」

 

 その雄叫びとともに、ヒーリングオアシスの三重螺旋は、メガモンドの胴を丸ごと飲み込むほどの巨大な光の竜巻へと膨れ上がり、ナノビョーゲンの群れが織り成す淀みを押し流し、切り離し、モンド・ダイヤの体から引きはがした。

 その猛烈な勢いは、モンド・ダイヤの全身にまで広がったナノビョーゲンたちをも引き連れるように吹き飛ばす。浄化されたナノビョーゲンたちは、モンド・ダイヤの輪郭を象る影法師のように、すこやか市の上空にふわりと舞い上がり、そのまま光の螺旋に導かれるように天高く霧散していった。

 その光景に、ジュウオウジャーたちは操縦席から歓声を上げた。

『やったぜ、アイツらやりやがった!』

『よし、今度はこっちの番だ!』

 ジュウオウジャーたちは、手にしたジュウオウキューブを一度、二度、三度と捻りこみ、操縦席のキューブへと叩きこむ。

「……ん? あれ? オデ、一体何してただど? 確かナリアからジニス様のエネルギーをもらって大きくなって、それから……?」

 自分の置かれている状況の理解が追い付かず、一回りほど小さくなったモンド・ダイヤは右往左往する。すぐ目の前で、巨大な獣の砲口が今まさに唸り声を上げているのも気づかずに。

『『ジュウオウダイナミックストライク!!』』

 金色の胸部装甲から溢れ出るほど充填されたエネルギーが、ジュウオウジャーたちの叫びと共に解き放たれる。荒野を駆ける獣の群れのように大挙するジューマンパワーの洪水が、あっという間にモンド・ダイヤの体を飲み込んだ。

「げええええっ!? オデ、巨大化してからまだ何も活躍してない、どおおおおおぉぉっっ!!??」

 その断末魔をかき消すように、光の波動はモンド・ダイヤの全身を爆砕した。

「勝った……の?」

 跡を漂う噴煙をぼんやりと見つめながらぼやくグレースに、操縦席から大和の声が飛ぶ。

『そうだよ、のどかちゃん。大勝利だ!』

 その声に、グレースはスパークル、フォンテーヌと顔を見合わせ、一拍遅れて歓声を上げる。

「やったー、勝ったー! あんなでかい相手に勝っちゃったよー!!」

「もう、ロボットまで出てきた時は本当にどうなることかと思ったけど、勝ててよかったわ……」

「わたしも、誘拐された時はもうお終いかと思ったよ……。ありがとう、フォンテーヌ、スパークル。そして、ジュウオウジャーのみなさん、本当にありがとうございました!」

 グレースたち三人は、背後にそびえるワイルドジュウオウキングの顔へと振り返り、深々と頭を下げた。

『こちらこそ、ありがとう! 地球のお医者さんたち!』

 操縦席からも、セラ、レオ、タスク、アムの拍手やら歓声やらが響き渡る。その様子に、グレースたちは再度笑い合った。

 

『…………あっ。でもよく考えたら、まだ全てが終わったわけじゃないんだよね……』

 アムの一言に、一同はぴたりとはしゃぐのを止め、周囲を見渡した。

「た、確かに……」

 メガビョーゲンたちとの戦いにより、悲惨な有様となったすこやか市周辺の山々を見つめて、グレースはただただ固まるばかりだった。

 

 

 □ □ □

 

 

「……あの、本当にわたしたち、手伝わなくていいんですか?」

 グレースは、すでに変身を解いた大和、セラ、そしてレオに尋ねる。

「いや、俺たちもそう言ったんだけどね」

「キューブエレファントとタイガーが、自分でやったことの責任はちゃんと自分たちで取りたいって聞かなくて」

「ま、男が自分でケジメつけるってんなら、従ってあげねえとな!」

 そうですね、と笑うグレースが見渡した先、キューブエレファントは自分たちやメガモンドが踏み荒らしてしまった土地を、その大きな脚で均すように踏み歩き、キューブタイガーは倒れてしまった木々をなるべく元の位置に戻るように立て並べている。

 小一時間ほどかけて、二匹は一旦作業を終えた。

『ごくろうさま、キューブエレファント、キューブタイガー!』

 ジュウオウジャーの姿のままのアムは、ひと仕事を終えた相棒たちに、操縦席からねぎらいの言葉をかける。

『しかし、まだ花や草は潰れてしまったままだし、樹木はただ立っているだけで地面に根付いていない。……のどか、本当にキューブエレファントにできるんだろうか……?』

 グレースたちの元へと戻ってきたキューブエレファントの操縦席から、タスクの心配そうな声が響く。

「大丈夫ですよ、タスクさん! だって、戦隊だって、プリキュアなんですから!」

 その一言に、傍らに立っていた大和はぴくっと反応し、気恥ずかしそうに頭を掻いた。

「の、のどかちゃんてば……。まあいいや、よろしくね!」

「はい! やろう、フォンテーヌ、スパークル!」

「ええ!」

「あたしたちとジュウオウジャーさんの力を合わせれば、なんだってできるよ!」

 そう言って三人は、それぞれのヒーリングステッキにエレメントボトルをセットする。

「実りのエレメント!」

「水のエレメント!」

「光のエレメント!」

 そして、淡い光を放つヒーリングステッキを、キューブエレファントに向かってその輝きを届けるように優しく振るった。

 先端から放たれた穏やかな光の帯が、キューブエレファントの胴体へと注がれていく。エレメントの温かな力に包まれたキューブエレファントは穏やかな鳴き声を上げ、その長い鼻から周囲の緑に向かってシャワーのように水を吹きかけた。

 その水しぶきはほのかに光を纏い、風に乗り輝く霧雨となって、戦いによって荒れ果てた大地へと降り注がれていく。そのシャワーを浴びた草木は、少しずつではあるが息を吹き返し、じわりじわりと色濃い緑を取り戻していくように見える。

 その様子にグレースたちは笑みを浮かべ、キューブエレファントにエレメントパワーを送り続ける。キューブエレファントも、傷を負った大地全てに行き届くよう、シャワーを振り撒き続ける。

 しばらくすると、木のエレメントさんがどこからかふらりと顔を出し、グレースたちの元へと飛んできた。グレースは聴診器を取り出し、エレメントさんの声を聴いた。

『プリキュアの皆さん、そして戦隊の皆さん。ありがとうございます。倒れてしまった木々は、すぐにとはいきませんが、再び根を張り始めています。草も花も、時間をかけて元に戻っていくことでしょう』

「……ですって!」

 のどかからの報告を受け、ジュウオウジャーたちからも喜びの声が上がった。キューブエレファントとキューブタイガーも、嬉しそうに甲高い鳴き声を上げている。

 その姿に微笑みながら、グレースたちは変身を解除し、元の姿に戻った。

「って、あれ? のどかっち、着物だったの?」

「そういえば、うちのお手伝いをしていてもらった最中にさらわれたんだったわね」

「えへへ、すっかり忘れてた」

 従業員用のえんじ色の着物に身を包んだのどかは、照れくさそうに舌を出した。

「……って、そんなに驚きます? 大和さん」

「あっ、いやいや、のどかちゃんがキュアグレースになったり戻ったりするのを見るの初めてだからさ」

「そっか、それもそうですね。ふふっ、なんだか変な感じですね」

 朗らかに笑うのどかに、大和はすっと手を差し出した。

「改めてありがとう、のどかちゃん、ちゆちゃん、ひなたちゃん。それにヒーリングアニマルのみんな。君たちのおかげであのデスガリアンを倒すことができた。それと、地球のお手当の力になれて、何だか誇らしいよ」

「こちらこそ、地球さんを守るために戦ってるのがわたしたちだけじゃないんだって、戦隊のみなさんと繋がることが出来て、本当に嬉しいです」

 大和とのどかは固く手を握り合い、満面の笑みを浮かべた。

「しかしまさか、旅先でこんな出会いが待ってるなんて、夢にも思わなかったけどね」

 大和の一言に、はっと何かに気づいたアムが叫び声を上げる。

「って、そうだよ、旅行旅行! げっ、もうこんな時間!? 全然すこやか市の観光できてな~い!」

「いやそんな場合じゃなかったでしょアム……」

 淡々とツッコむセラに、アムは負けじと食い下がる。

「そうだけど! 一泊しかしないんだよ、帰るまでにもうほとんど遊ぶ時間ないじゃん……」

「確かに、昨日もなんだかんだで、それほどゆっくりできていないしな」

「腹ァ減ったな……」

 タスクとレオも、不満げな顔でアムに追従する。

 しょげる戦隊の面々に、つつつとちゆは擦り寄り、リーダーの大和の耳元で囁く。

「……お客様。なんでしたら、もう一泊いかがでしょうか」

「な、何っ、もう一泊だって……」

「今でしたら、若々女将特権で、宿泊料金の割引も可能でございます……」

「ちゆちー、意外と商魂たくましいね」

「さすが、旅館沢泉の跡取りって感じ」

 ちゆの提案に、大和はしばらく考え込んだ末、かっと目を見開き言い放った。

「……よし、それならもう一泊しちゃいますか~~~!!」

 その宣言に、真っ先に目を輝かせたのはもちろんアムだ。

「ほんと!? 本当にいいの大和くん!?」

「ま、このままだと本当に戦ってばっかで終わっちゃうしね。せっかくすこやか市まで来て、こうしてのどかちゃんたちとの繋がりも生まれたんだもん。もっと楽しんでから帰らないと! あ、でも本当にいいのかい、ちゆちゃん?」

「もちろんです、お部屋も空いておりますので! 歓迎いたします、動物戦隊御一行様!」

 笑顔で答えるちゆに、セラたちも顔を見合わせ色めき立つ。

「それならまず、他の温泉巡りしましょ! 泳いでもOKな温泉ってないのかしら……」

「いーや、それよりまずは、うまいもん巡りだろ! 朝から戦いまくりで腹が減ったぜ!」

「確か、ハーブショップもあるんじゃなかったか? 落ち着いた香りに包まれながら読書と洒落こみたいところだ」

「セラちゃん、レオくん、タスクくん! そういうのぜーんぶチェック済みだから! よーし、じゃあまずは荷物を取りに旅館に戻ろ!」

 これからの予定についてあれやこれやと語らいながら、ジュウオウジャーたち五人は軽快な足取りで旅館沢泉への帰路に着く。のどかたちもそれに続いた。

 

「見ててラビ? こうして全力で走ってー、野生……、解放ーーーっっ!! ……って、のどかが囚われているところまで勢いよくぴょーんって……あれ?」

 のどかを救出したシーンを再現しようと全力で飛び跳ねるラビリンだったが、せいぜい人間の腰の高さほどまでジャンプして、ぽてっと地面に着地した。

「いや、全然跳べてないペェ」

「火事場の馬鹿力みたいなもんだったんじゃねぇか?」

「そ、そんなはずないラビ! それはもう見事なラビットジャンプだったラビ!」

 その後もぴょんぴょんと慎ましいジャンプを繰り返すラビリンに、ちゆとひなたはくすくすと笑う。

 そんな彼女たちの背中をしばらく見つめた後、のどかは小さく深呼吸をした後、二人に声をかけた。

「あ、あのね! 二人にちょっと、聞きたいことがあるんだけど……」

 

「プリキュアの力で何とかしたいって思っちゃうことー? そんなのあるよー、ありまくりだよー!」

「ありまくり、って程ではないけど、まあ時々思うわよね」

「や、やっぱり? それってどんな時?」

 内心、胸を撫で下ろしながらも、のどかはさらに尋ねる。

「遅刻しそうで走ってるとかいっつも思うしー、ていうかこないだ朝起きたら始業時間の10分前でさ、変身して学校に飛んでいこうとしたらニャトランに止められてさー」

「すでに未遂なのね……。わたしは、そうね。ハイジャンプの前とか、時々考えるわよ。プリキュアになったらあのバーどころか観客席まで飛び越えられるわよね……なんて」

「ち、ちゆちゃんでもそんなこと考えたりするんだね」

 そりゃそうよ、と苦笑しながらちゆは続ける。

「ただまあ、当然だけど、プリキュアになって記録出したって意味がないしね。そういう時は、イメージだけ借りるの。自分の体が軽くなって、どこまでも飛べるような」

 それで記録が伸びるわけでもないんだけどね、とちゆは笑う。

 すると、そんな彼女のポケットから、短い着信音が鳴り響く。ちゆはスマートフォンを取り出して画面を見た途端、「げっ」と彼女らしからぬ声を上げ、血相を変えた。

「? どうしたの、ちゆちゃん」

「……わたし、少しカッコつけすぎたかもしれない。プリキュアの力で何とかしたいって思う事、今まさに発生したわ」

「え、なになに? どゆことちゆちー?」

 ただならぬ様子のちゆは、送られてきたメッセージに素早く返信するとスマートフォンを閉じ、深いため息とともに告げた。

「……川井さん、本日も復帰ならずよ。今日は土曜日だっていうのに……」

「「ええ~~~!?」」

 素っ頓狂な声を上げる二人を他所に、ちゆの顔色はますます沈んでいく。

「他にも休みの人がいるから、今日はやる事山積みよ……。涼しい顔してやってるように見えたかもしれないけど、大浴場の掃除も何気に重労働なのよ……。水のエレメントボトルを使えば簡単に終わったりするのかしら……ふふ……」

「ちゆちゃん、目が笑ってないよ……」

 遠い目をしながら顔をひきつらせるちゆに、のどかはにこっと笑いその手を取った。

「じゃあさ、今日も手伝うよ、旅館のお仕事!」

「えっ……?」

「あっ、あたしもあたしも! 着物また着てみたいしー!」

「ひなた……。二人とも、本当にいいの?」

「もちろん! わたしとちゆちゃんとひなたちゃんが力を合わせれば、乗り越えられない事なんてないよ!」

 ふん、と鼻息を荒げるのどかに、ちゆは少し吹き出しつつも、

「ありがとう、のどか、ひなた! お願いするわ。でもお互い、無理は禁物ね」

「よーし決定! それじゃあ善は急げ! のどかっち、ちゆちー、さっそく旅館に急ぐよ!」

「ま、待ってよひなたちゃん! 着物だとうまく走れないんだってば~!」

 ばたばたと駆け出した三人は、前を歩く戦隊の面々を追い越していく。そんなのどかの背中を見て、大和はふっと微笑んだ。

「……よかったね、のどかちゃん」

「ん? 何か言ったか大和?」

「何でもないよレオ。それより、俺たちも急ごう! 俺たちの旅行は、まだ始まったばかりだ!」

 颯爽と駆け出した大和に、ジューマンの四人も笑顔で続く。

 大和たちのどかたちの笑い声が、晴れ渡るすこやか市の青空に、どこまでも響き渡っていった。

 

 

 

 ヒーリングっどプリキュアvsジュウオウジャー ~歓迎! 動物戦隊御一行様~ おわり




最後までお読みいただいた方々、ありがとうございました。

ヒープリが始まる前、動物と地球がモチーフで香村純子さんが脚本って、完全にジュウオウジャーじゃん…とか考えながら視聴を開始し、ジュウオウジャーと同じく安定感のある面白さでヒープリにハマっていったのですが、二作品の間にモチーフだけにとどまらない共通の雰囲気や相性の良さを感じ始め、クロスしたら絶対面白くなるよな…という想像が止まらなくなり、執筆を始めました。

案の定、書き始めると両作品間のキャラの掛け合いはスムーズに思いつき、この作品同士ならでは、というネタもぽんぽんと生まれました。
プリキュアはあくまで浄化する力なのでデスガリアンは倒せない、一方戦隊は武力は高いが浄化はできない、という対比を持たせることで戦いに緊張感を持たせる。
ちゆやひなたに対して色やパートナーなど共通項の多いセラやレオに比べると立ち位置が弱くなるタスクとアムに、ではパートナーのキューブアニマルがさらわれその上メガビョーゲンにされてしまう事でストーリー上の役割を持たせればドラマも生まれるのではないか。
のどかと大和を繋ぐドラマとして旅館での失敗があり、そこからピンチに繋がって、お互いの相棒が協力して助けに向かう……等々、大まかな話を組み立てる上で、双方のキャラの役割がうまい具合に噛み合う感触があり、原作の相性の良さを改めて感じた次第です。

なるべく原作を尊重したい派であることと、イメージにないキャラを出すと混乱を招くという懸念から、オリジナルのデスガリアン、モンド・ダイヤを出す事には少し抵抗があったのですが、温泉を求めてすこやか市にやってくるなどシチュエーションに合わせて自由に動き回れるキャラにしたかったのでこのような形になりました。
その分、名前や口調、性格をとことんわかりやすいものにして「まあこんなヤツだろう」と思ってもらえるキャラにしたつもりなので、受け入れて頂ければ嬉しいです。本編でも少し触れましたが、外見としては仮面ライダービルドのゴリラモンドをタツノコナイズしたものを想像してもらえばそれで正解です。

二つの作品が絡むならこういうネタや掛け合いをやりたい、というのは全て詰め込めたと思います。個人的に好きなダルのど要素もさりげなく(なくない)挟むことができたので満足しています。

連載の経験がほとんどないので更新ペースも遅く、途中長く間が空いてしまうこともありましたが、楽しんでいただけたのなら幸いです。どんな形でもよいので感想を頂けると励みになりますのでより幸いです。
改めて、最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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