召喚した式が強すぎて僕のやることがない   作:セパさん

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どっちが主人!?狂気の式マリー

 〝目の前の光景を説明して下さい〟 

 

 そう問われれば皆さんは、何と答えますか…?おぼろ月夜に照らされる、風に舞う花吹雪?寒気厳しい雪風に揺れる、枯れ枝葉?いろいろとありますね。

 

 しかし幾ら目を()らしても、どんなに言葉を(つむ)いでも到底(とうてい)信じられない、説明の出来ない光景が存在するのです。

 

 目の前にいる、桃色のドレスを身に(まと)った銀髪の女性が、その(うるわ)しい銀の髪を逆立てている時は特に……。

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

「嫌あぁぁああぁあ!大蛇が大蛇が大蛇が大蛇が大蛇が大蛇が大蛇が大蛇が蛇蛇蛇蛇蛇蛇蛇蛇嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌大蛇が大蛇が大蛇が大蛇が蛇蛇蛇蛇嫌嫌嫌嫌嫌!!!! 大蛇が大蛇が大蛇が大蛇が体中に!!!!!気持ち悪い!気味悪い気味悪い気味悪い気味悪い気味悪い気味悪い気味悪い気味悪い気味悪い気味悪い気味悪い気味悪い!」

 

 女性の聞くに堪えない金切声の悲鳴が辺り一面に木霊する。女性が目に恐怖を宿す先には、何も無い……。

 

 しかし何度も何度も何度も何度も………必死に虚空(きょくう)を手で払いのけるその動作は非常に切迫(せっぱく)したものであった。彼女の召喚した式である地を泳ぐ鮫も、何も無い場所へ噛み付きを行っており、酷く錯乱の様相を呈している。

 

 

 「死ぬしかない…。俺は……もぅ……駄目だ!他人を踏み台にして生きてきたんだ死ぬしかない。死んで(つぐな)うしかない…!才能だけではもう……。死ぬしか……。」

 

 そう呟くのは男性術師。王立召喚術師育成校ではトップクラスの召喚術師であり、学生にして滅びの龍と呼ばれる強力な魔物を式にしている天才マレイン=ヒューマピット。その目は(うつ)ろになり、ネガティブな独り言をつぶやいて、膝と頭を抱え座り込んでいる。

 

 そしてその式であるドラゴンといえば、まるで死んだ魚の様な目をして地面にうずくまっていた。

 

うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ

 

 2人の術師が狂気に(おちい)る中、不気味で可憐な笑い声が木霊している……。

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

 

 皆様初めまして。僕は王立召喚術師育成学園の3期生、シオン=セレベックスと申します。

 

 この学園は王都の専属近衛兵士や王族を護る近衆兵士、また都や村々での護衛・近衛兵士となる召喚術師を育成するために作られた学校です。〝王立〟と(かん)されているだけあり、卒業生には王族の護衛を任される者、主要都市で要職に就く者、魔物の知識を活かし防疫の最前線で働く者、領主管轄のお抱え術師となる者まで様々です。

 

 

 1期では召喚術のほか魔導、体術や剣術の基礎を習います。そして2期では召喚における基礎と実力を計るテストを行います。試験は厳しく挫折して留年する生徒も多いのです…。僕は赤点ギリギリだったものの、無事地獄の試験期間を乗り切り、召喚術師としての一歩を踏み出せました。

 

 そして3期生になって2ヶ月、初の生徒による本格的な召喚の儀がおこなわれました。生涯のパートナーとなる式を召喚する神聖な儀式です。…ああ、式とは自分が操る召喚獣のことです。

 

 さて、あるものは風や火の精霊を、あるものは機械仕掛けの電撃使いを、才能のあるものだと龍や剣豪、アンデットを召喚するものもいました。

 

 そして僕が召喚の儀で召喚したモノは……教師達ですら見たことのない、どんな魔物図鑑、引いては神話・悪魔辞典を紐解いても存在しない異質なモノだったのです……。

 

 

  ◇   ◇   ◇

 

 

 召喚の儀が終わり3ヶ月。この時期になると実践に向けた授業として教員付き添いの元、生徒同士の模擬試合がおこなわれる。

 

 火龍は空を舞い、敵の剣豪にブレスを放つ。剣豪は向けられた炎を二つに切り裂き、同時に噛み付きを行おうとした火龍に返す刀で峰打ちを行う。

 

 別の試合では、雷鳴を轟かせる異形の機械型の魔物が、風の精霊に電撃を浴びせている。風で軌道を防ごうとしているものの、雷の力は強くかなりを苦戦している様子だ。

 

 このように様々な試合が行われる中、一際異彩をはなっている試合があった。

 

 

◇    ◇    ◇

 

 

「嫌あぁぁああぁあ!大蛇が大蛇が大蛇が大蛇が大蛇が大蛇が大蛇が大蛇が蛇蛇蛇蛇蛇蛇蛇蛇嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌大蛇が大蛇が大蛇が大蛇が蛇蛇蛇蛇嫌嫌嫌嫌嫌!!!! 大蛇が大蛇が大蛇が大蛇が体中に!!!!!気味悪い気味悪い気味悪い気味悪い気味悪い気味悪い気味悪い気味悪い気味悪い気味悪い気味悪い気味悪い!」

 

「死ぬしかない…。俺は…もぅ…駄目だ!他人を踏み台にして生きてきたんだ、もう死ぬしかない。死んで償うしかない…!才能だけではもう…。死ぬしか…。」

 

 

「終了!これまで、シオン!彼らを元に。」

 

 教員はシオンに向かって試合終了を告げたのだが…。

 

「マリー、もういいっておわり!ねぇ終わりだってー!やめてあげてよぉ…後でケーキあげるからさぁ!」

 

 

うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ

 

 

 可憐で美しい声色に反して、不気味な笑い声を上げている人型の女。

 

 グラマラスなボディを、仕立ての良い桃色のドレスで隠し、雪のような白髪は腰まで伸びて……、そして顔を隠すように桃色のクロスをあしらった人の形が、シオンの式となった〝マリー〟であった。

 

 マリーにシオンの願いが通じたのか、はたまたケーキにつられたのか、それとも飽きたのか……。マリーが軽くかかげていた左手の人差し指をおろすと、模擬対戦の相手は瞬時に正気を取り戻した。

 

「あれ?さっきの蛇は?あ!土泳鮫(グランドシャーク)は大丈夫!?」

 

「ん?さっきまでの気分は…、なんだったんだ?おい、俺のガイアは無事か?」

 

 無事なはず、鮫の術師が見た大蛇は全て幻覚。滅びの龍をもつマレインは、やる気・希望・自信を遮断する術をかけられていた。どれもシオンの式であるマリーが操る、精神操作によるものだ。

 

 シオンは騎士道物語の童話を幼少から何度も読み返し、騎士のサポートをする一人の伝説の召喚術師に憧れた。そして親の反対や経済的な負担、王侯貴族や役人の子が入学する王立学園に農民の子供として入学するハンデ、そのモロモロをクリアして入学したのがこの王立召喚術師養成学園であった。

 

 シオンの憧れは剣を取り、敵と激闘を繰り広げる剣豪や、宵闇の皇帝ヴァンパイア、魔導に長けたエルフや精霊の召喚…。しかし彼が召喚した式は、相手の精神を直接操作するという、陰湿で強力で奇々怪々な式であった……。

 

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 ……僕は授業のあと、学校の寮を回り対戦相手にひたすら謝り倒した。そんな中、あのマレインにはこんなことを言われた。

 

「お前みたいなガキに、いいようにやられて悔しい気持ちはもちろんある。だが結果は結果だ、受け入れる。これは試合なのだから、勝者のみが報われるのだ。…そして世間知らずの貴様に教えてやる。〝勝者が敗者に謝罪する〟ということは、敗者に対する最大の侮辱だ。次から覚えておけ!!」

 

 滅びの龍を式する学園一の天才児マレインは、そう言い残して扉を強い力でバタンと強く閉めた。

 

 

 僕はマレインの言葉にすこし悩みながらも、やっぱりあんな陰湿なものは試合じゃないという結論からもうひとりの対戦相手へ謝りに向かった。夜になり、僕は宿舎で寝そべっていた。

 

 

「はぁ……、疲れた。」

 

 僕は制服のままベットに横たわり、今まさにまどろみから眠りに変わろうとした瞬間、ある事を思い出した。

 

『 召喚獣を完全な形で手なずける方法は2つ有る。

 

1つは己の強さを誇示こじし、完全に主従を明確にすること。

 

2つめは信頼関係、俗に言う〝スキンシップ〟を怠らないでいることだ。 』

 

 これは何の授業のときだったろう、誰か先生が言ってたな……。僕はふと違和感を覚える、僕は〝思い出して〟などいない。この言葉は確実に僕の耳に、いや脳に直接入ってきたかのような言葉だ。そして、次には更なる驚きが待っていた。

 

 ふと横を見て僕は腰を抜かしそうになる。普段は僕の勉強机で脳科学や人体の解剖整理、果ては魔導や剣術の本を読むなど勉強に熱心なマリーが、いつのまにやら僕のベット…それも髪の毛が触れるほど近くに座っていたのだ。

 

『 あなたは私の主 スキンシップを怠らないのが 重要なんでしょう? 』

 

 

『 ねぇ主さま 私の秘密…知りたくない? それとも こんな化け物は嫌…? 』

 

 初かもしれないマリーからの明確な意思表示だった、これはさすがに無視はできない。それにしてもマリーの距離は僕のパーソナルスペースを完全に領域侵犯しており、女性特有の良い匂いで頭がクラクラとする。

 

「マリーの秘密…無理には聴かないよ。化け物だからとかじゃくて、実際今日もマリーがいなければ僕はグランドシャークや滅びの龍に重症を負わされてたことだろうし。…ありがとう。」

 

「うれしい。じゃあ私の秘密。主人に特別に教えてあげる…。」

 

 そういってマリーは…顔隠し、ピンクのベールをゆっくりと外した。

 

 形容する言葉を僕は持たなかった。手垢の付いた言葉で説明するならその姿はまさに絶世の美女…嶺上で開花した胡蝶乱舞する清らかな花…どんな言葉を紡いでも言い表すことのできない、見惚れる以外することのできない美しい姿だった。

 

 優しげな微笑み浮かべるマリー、今まで見てきた出るとこが出て、それでいて引き締まった体。新雪を思わせる腰まで伸びた銀髪、それらすべてが調和したマリーは、王宮の姫君と言われても納得できるほどに美しかった。

 

 呆然とすることしかできない僕に仕掛けてきたのはマリーからだった。

 

「ひゃぁ!」

 

 急に耳を甘噛みされ変な声をだしてしまう、鼓動が急スピードで高鳴っていくのが自分でも判る。

 

「スキンシップが主従関係をはっきりさせるのに必要なんでしょう?じゃあ私は女性、あなたは男性 一番簡単なスキンシップがあるじゃない。」

 

 マリーの言葉を変な方向に捉えて…いやそのつもりで言っているのだろう、ドキリとして鼓動が益々速まる。

 

「い、いや!スキンシップってそういう意味じゃ!…うっぷ。」

 

 マリーはそう僕が言い切る前に僕の制服とシャツのボタンを外し豊満な胸を僕に押しつけ僕を抱きしめてきた。

 

「主はどうされるのが好み? 私を召喚してから胸元に視線が行きそうになり、あわてて目をそらし赤くなる主はそれはそれは愛らしかった。」

 

「あひっ、やぁ、ふぁあああ…。」

 

 耳の甘噛みはいつのまにか僕の耳を舌でなめ回す動きに変わっていた。

 

「さぁ、どうされたい? 甘噛みやなめ回すことができるのは耳だけじゃない 主の好きな所を思う存分なめ回す…夜明けまでまだまだ時間がある。ただ声は抑えて…主のかわいい声は他のものに聞かれたくない…」

 

うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ

 

 

 想像だにしなかった展開に脳内は悲鳴をあげていた。僕も3期生にも関わらず新入生に 「クラスはどこ?これからよろしくね!」 なんていわれるほど、外見年齢は低い。だが内面は立派な男なのだ……。

 

 ましてや相手は式のマリーである。僕の目の前にいるマリーは僕がいままで見たことのないくらい美しく麗しい存在であり、そんな愛しの式が僕を誘っている。そんなまぁスキンシップと言えば… でも召喚術師として召喚した式とそんな… 。

 

 脳内で色々な葛藤・混乱がある中、マリーはあろうことか殺し文句を僕に投げつけた

 

「主は……私では嫌……?」

 

 いつもの麗しい声は呟きほどに小さくなり、それも泣きそうな、懇願するような上目遣いの表情を向けられたのだ。そんなマリーを僕は無意識に抱きしめた。マリーは嫌?そんなはずはない。

 

 ただ一つ、僕にもこだわりはある。かわいいかわいいなんて言われ、からかわれることはあったが女性経験のない僕の一つの夢。

 

 それは……キス!スキンシップならば順番的にもそれが先決だろう、マリーから香る良い匂いで頭がどうにかなりそうだ…いや既にどうにかなっているのかもしれない。

 

 マリーと僕はお互い抱き合っており。今まで使ったことがないほどの勇気を振り絞り、マリーに唇を近づけた。…その瞬間だった。

 

 

ガァン!

 

 

 近づけた唇は空を切り、ベッドの鉄で出来た柵に頭をぶつけた。…じんじんとした痛みが僕の思考を現実へ戻す。

 

 マリーが消えたことに不安も恐怖も感じなかった。こうなった以上、何が起こったかなど決まっている。

 

 

 うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ

 

 

 本であふれた机、マリーの定位置。その椅子に座り今まで無いほど愉快そうに笑う顔をベールで覆った犯人、これはマリーが僕にみせた幻覚だ。相変わらず陰湿なことをする…。

 

 僕は半分脱がされたままのローブとシャツを直し、マリーにデコピンをしてから床についた。

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

 シオンの憧れた騎士道物語にでてくる、伝説の召喚術師が住む館、テグレクト邸。伝説の召喚術師はまだ生きていた。そして式を通じ、やりとりの一部始終をみていた。

 

 同じ英雄パーティの騎士・拳闘士、魔導師が命終した今、ただひとり生き残る伝説が生物の精神・狂気を操る召喚獣の情報を得て、目を光らせていた。そしてその目の輝きは若き光栄者への目ではなく、ひどく黒い輝きを持つ暗く静かな光であった。

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