召喚した式が強すぎて僕のやることがない   作:セパさん

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初めての〝冒険〟 ②

 フィリノーゲンは自分の犯したミスに戦いていた。雪山の環境で簡易なダンジョンと紹介したケイディ山。そして雪道と山の歩き方を指南・教授してシオンたちを出発させた。本当に信じられないほど初歩的で僅かで些細なミス、地図の道が一本ずれている。

 

 シオンとマリーが向かっている山はリブドー山、雪と山の神が住まうとされる高位のダンジョン。自分でさえ無事制覇できるかという難易度のダンジョンで初めて冒険に赴くものが向かう場所ではない。

 

「マリーさんが異常に気がついてくれればいいのだが……。」

 

 しかし、出発して既に3日。今から式を飛ばすにも遅すぎるし第47代テグレクト=ウィリアムの称号を弟に継承し弱体化した自分ではどうすることもできない。

 

 シオン君にはマリーさんという強力な式がいる。彼女とシオン君を信じて帰還を待つほかない。フィリノーゲンは幼児退行化している弟を見てそう結論を出した。

 

「生きて帰ってきてくれよ……。」

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

 吹き荒れる猛吹雪、手足の感覚もなくなるほどの寒さ、バランスを失う急斜面の山道に吹雪で途切れた視界。そしていつも側にいてくれたマリーがいないという環境。僕は転移の洞窟に入り雪山の高所まで転移させられた…。〝絶望〟の二文字が頭をよぎる。さっきまであった洞窟は既に岩肌になっており、吹雪から身を隠す術もない。

 

「そんな……。」

 

 その瞬間、触っていた岩肌からのるりと人影が見える。銀髪は吹雪で翻り、厚着のコートを着た仮面の女性。僕の召喚獣マリーだった。おそらくマリーも僕の後に洞窟に入り転移してくれたのだろう、マリーのことだ…危険を承知で。

 

『 おまたせ 』

 

そういって僕を抱きかかえる。麻痺した手足に血流が戻っていく感覚がする。

 

「ありがとう、そしてごめん!」

 

『 過ぎたこと 私も 遊びが すぎた 』

 

マリーは僕を慰めるようにそう伝えてくれた。

 

『 まずは 暖 召喚を 』

 

「召喚?」

 

『 憑依の準備 』

 

「え?今から?うん。」

 

『 火の魔物が 望ましい 』

 

 そして僕はマリーに抱えられたまま、魔力を高める。テグレクト邸でやったときの様に、焦らずにマリーと同期するように……。

 

 暗闇の中一匹の赤い龍が眠っているように見える。その龍を自分の体に寄せるイメージを持つ。もっと近くに、もっと具体的に、もっと迫るように

 

 ……突然の環境の変化からか雪山に似合わぬ一匹の火龍が跳ね起き咆吼をあげる。瞬時にマリーは僕との憑依を解く。式の契約を解かれた火龍は怒り狂い、ブレスの準備をおこない炎を放つ。

 

 火龍のブレスは雪山の肌を滑るように走り、雪を氷に変化させた。

 

『 下がってて 』

 

 白雪と猛風が立ち籠め前も見えないほどの吹雪の中、マリーは僕を火龍から庇い両手をかかげ銀髪が逆立つ。

 

 火龍は咆吼を挙げ、狂ったように雪山の氷に何度も頭をぶつけ、牙を立てる。マリーの得意の幻術だ。そして火龍の鋭利な牙の1本が折れたのを確認し、マリーは火龍を痙攣させ泡をふかせ倒した。

 

 仰向けになった火龍に素早く近づいて、折れた牙を手に取り、マリーは熟練の狩人のように火龍の柔らかな腹から皮を剥ぎ取った。そして恐ろしいブレスの元となる胃液とそれを生み出す胃石を抜き取る。まずは、ぼくに龍の皮を被せてくれその後自分にも同じように火龍の皮を被せ暖を取る。

 

『 火 』 「え?」 『 火 を 灯して 』 

 

 僕の気づかぬ間に、火龍の胃石と胃液でつくられた簡素な焚き火の準備がなされていた。僕は唯一できる魔法、爪の先に小さな火を灯す魔導を行う。勢いよく着火し炎があがる。

 

「あち、でもあったかい、死ぬかと思った。」

 

『 まだ 油断しない 』

 

 焚き火にあたり僕にくっついて暖を取るマリーに活を入れられる。

 

 

 そうだ、まだ何も解決していない。麻痺していた頭と体が暖によって冴えていく。

 

『 選んで 』

 

 マリーが尋ねる

 

『 快楽の夢の中命終する か 今の現実を一緒に戦う か 』

 

 マリーがいつもの笑い声も挙げずに言う。もし死ぬのならば僕に幻術を見せそのまま死んだことすら判らず息絶えるのだろう。マリーの幻術ならそれは可能なことだ。逆に言えばマリーを以ってしても下山するのはそれほど過酷という意味を含んでいるのだろう。

 

「マリー、一緒に山を降りよう。」

 

 うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ

 

 その一言を聞いてマリーはようやく笑ってくれ、僕を胸の中へ押し込めた。火龍の衣とマリーの抱擁、山に来て初めての温かな時間。しかしその時間をずっと享受しているわけにもいかない。

 

 マリーは余った火龍の皮と髭でなにかを作っていた。鱗を牙で剥がし、軽く穴を空け髭を通し堅く結ぶ。鱗のはがれた皮はツルツルとしており、髭によって取っ手がついた一見バックの様に見える。

 

『 ソリ 』

 

「そり?」

 

『 雪道を 滑る 乗り物 』

 

  ◇     ◇      ◇

 

 そして焚き火が消えた頃合いを見計らい。マリーは僕を抱えるように二人でソリに乗った。

 

『 覚悟 は いい? 』

 

「う、うん」

 

 ほぼ断崖絶壁に近い角度の急斜面、それをこのソリで一直線に駆け下りようとしている。マリーが足を離すと、僕らを乗せたソリは直滑降に発射して雪道と吹雪の中を駆け下りる。

 

 うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ

 

 僕は体験したこともないスピードと浮遊感に近い天地が逆転するような体への負荷で悲鳴すらあげられずにいた。マリーだけが楽しそうに笑いながらソリを運転している。右へ曲がり、左へ曲がり、雪塊を跳ね飛び上がり、ソリは更に加速する。

 

 顔面に痛いほどの吹雪の粒を受けながら滑走していくソリは、あっという間に平たい雪面にたどりついた。吹雪は少し収まり、やや視界を取り戻す。山頂が雲に覆われ、まだまだ下はほど遠い。やっと6合目付近といったところだった。

 

「死ぬかと思った…。」

 

 

 僕たちは埋もれそうなほど積もった雪の中を、ソリをつかって本当に埋もれないよう歩いていく。……マリーはどこでこんな知恵をつけたのかすごく気になった。読書家だから本で読んだのだろうか。

 

 

 冬育の木々が淡い光りを放ち、幻想的な光景を見せる。まもなく日没、洞窟でもなんでも見つけないと凍えて死んでしまう。そんな中雪原で異様な光景を目にした。

 

 青白い奇妙な衣装に身を包んだ女性がちょこんと座っている。柔和な笑みを浮かべ僕たちに会釈する。思わずその笑みにゾッとしてしまう。何事かわからないが、タダの人ではない。

 

「あら、珍しい。お客人だなんて。お寒い中、大変でしたでしょう。火にあたっていきませんか?」

 

何もない雪原の中、青白い女性はそう言った。思わずマリーを見る。

 

『 聞かれてるわよ? 』

 

 うふふ

 

 マリーが軽く笑い答える。

 

 

「え?あ、はい。」

 

 僕は異様な女性と恐る恐る会話をする。

 

「では、こちらの焚き火へどうぞ。狭い家ですがおくつろぎ下さい。」

 

 

 女性の手をかざす先には焚き火はおろか、何もない……。雪が広がるばかりだ。

 

 これは本格的にヤバい。魔物?いや意思の疎通のとれる魔物なんて、僕が生きてきた中でみたことあるのはマリーと九尾の狐くらいだ。つまり目の前の青白い女性は2人に匹敵するほどの能力をもつ、神に近い存在か神そのもの…

 

 おそらく僕がなにも見えないのはマリーが幻術を遮断しているからだ。マリーから離れれば焚き火と家でも見えるのだろう。ここは探る様に演技をするべきなのか、マリーが笑っているのことだけが頼もしい。僕はマリーに聞かれた。

 

 幻術の中楽に死ぬか、現実を見て生きるか。僕は後者を選択した。ならば、僕がこの場でこの女性に話すことは一つだけだ。

 

 

「す、すっみません。雪しか見えないのですが。あなたは…何者ですか?」

 

 青白い女性から、一瞬で笑顔が消えた。

 

そして ふぅ と溜息をついた。

 

「おかしいとは思ってたわ。横の女、何者じゃ?」

 

 女性は突然口調を変え厳しい低い声で尋ねてきた。

 

『 私 は マリー 』

 

「…この山の宝樹が目当てでは無さそうじゃな。何故この山へ来た。山荒らしならば命を取ろうと思っていたがそんな気配もない。おい童や、お前に聞いておる。返答次第ではタダでは済まさぬ。」

 

厳格な、氷の様な表情で青白い女性が尋ねる。

 

「し、修行に来ました。山の歩き方と雪道の歩き方を学びに」

 

「…」

 

女性は僕の正直な返答を聞いてしばし沈黙し…

 

 

「ぷっ…ふうふふふ…あはははあははははあはははははははははははははははははは!!!!」

 

大笑いされた。

 

「このリブドー山に?雪山の歩き方を?お前のような童がか!馬鹿か!?あははははは。」

 

 

「えーと、リブドー山?僕たち違う山に行くつもりだったのですが…」

 

 

「はぁはぁ、面白い童じゃ。おい横の女、お前ほどの者。この童の目的と違うことくらい気がついたであろう。遊んだな?冬育の宝木が目的でないのに、この山を登らせるなど非道い女に引っかかったな童や」

 

 

うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ

 

 

 マリーが笑う。マリーは最初からここが目的地のケイディ山じゃない事に気がついていたようだった。

 

 

「斧も持たぬ童と恐ろしい力を感じる女が来た時は、何事かと思っておったわ。宝樹の森へ登らせ、火龍の召喚をみてやはり山荒らしかと探ってみれば、この山の吹雪は避ける挙げ句に儂の術も通じぬときた。本物の山荒らし…〝とれじゃーはんたー〟とか言ったか?、ならば儂も決死の覚悟で臨まねばならなかったが、無益な争いは好まん。山を降りたくば降りるがよい。」

 

青白い女性がそう言うと、突然割れるように直線の雪道ができた。

 

「その火龍の皮で滑れば直ぐに下へ着く。女、見事な雪山の対応じゃった。もう一度聞くが何者じゃ?」

 

『 私 は 私 』

 

「……童は?」

 

「ぼ、僕はシオン=セレベックスです。召喚術師見習いです!」

 

「シオンとマリーか、面白い童と不可思議な女として覚えておく。儂はリブドー山第82代首領、生憎名前は持ち合わせておらん。この山と宝樹の管理を代々しておる。…もうよいか」

 

青白い女性がそう言うとさっきまでの吹雪が嘘のように収まった。

 

「童、せっかくリブドー山に来て無傷で帰れるのじゃ。良い修行になったじゃろう。刺札代わりにくれてやる。持って帰れ」

 

 そういってこの山の首領を名乗る女性がくれたのは宝石のような実のついた淡い光りを放つ木の枝だった。

 

「吹雪で折れた枝じゃ、どうせ土に還る。童やお前に儂から良いこと教えてやろう。」

 

「はい。なんでしょう。」

 

女性は顔を引きつらせ笑いを堪えながら言った。

 

「お前には女難の相がでておる。精々気をつける事じゃな。」

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

 そして僕たちは雪道をソリで直滑降にスベり降り、ブリドー山から下山した。初のダンジョンは予想以上の難易度への挑戦となり、それこそ神の気まぐれで生き延びることができた。

 

「でも…改めてみるとすごく綺麗な樹だね。」

 

 僕は刺札…名刺代わりにともらった宝樹の枝を見る。

 

 

『 遊びが過ぎた 私の責任 』

 

「そんなことないよ!雪山の攻略もマリーがしてくれたし、僕だけ転移されてあのままマリーが来てくれなかったらそれこそ死んでたのは間違いないんだから。」

 

 どうやらマリーは目的地と違うことに気がつきながら、そのまま登らせたことを責任に思っているようだ。だが目的の経験値という点ではこれでもかというほど付いた。

 

「そうだ、マリーちょっとかがんで。」

 

『 ? 』

 

 僕は宝樹の枝の荒れている部分を火龍の皮をヤスリ代わりにして削り丸くする。そしてマリーの綺麗な銀髪に差してみた。

 

「わぁ!思ったより似合うよ。髪飾り、僕からのお礼。」

 

『 … 』

 

うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ

 

 僕はマリーにそのまま抱きしめられた。疲れからか僕はそのまま眠ってしまいそうだった。そして再び2日の野営の後、テグレクト邸へ帰り。僕らの無事とマリーの髪飾りを見てテグレクト兄弟に大いに驚かれた。

 

 こうして僕らの初めての冒険はなんとか〝生還〟でおわった。

 

 

◇   ◇   ◇

 

 リブドー山第82代首領にして冬を司る神は、式である雪女を使いやや荒れた山を片づけていた。

 

「まったく火龍の骨で焚き火なんぞしおって、片づけまでが登山の掟じゃと伝えるべきだったかの。」

 

 火龍の骨とその肉片を雪に埋め、自分が眠りにつく夏までには土に還る様に処理せねばならない。

 

「それにしてもあの女…本当に何者じゃ?」

 

 仮にも四季の一つを司る自分の力と同等…あるいは上回っていた恐ろしい女を思い出し、そんな女があんな童に執着していることに首をかしげた。

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