召喚した式が強すぎて僕のやることがない   作:セパさん

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レイチド=キャンドネスト 探偵 

 けたたましい羽音を鳴らす無数の殺人蜂を還付し終え、アムちゃんは僕たちの元へ戻ってきた。

 

「あ~スッキリした!これでもう私に決着うんぬん言わないでしょうね。」

 

今だ痺れ毒によって固まったままの滅びの龍と式と同じように固まるマレインを軽く睨んでそう言う。

 

『 格好良かった 』

 

 うふふふふふふふふふふ

 

 ……どう考えても大人げない喧嘩にしか僕は感じなかったが、マリーはさっきの試合を気に入ったらしい。

 

「さて、私の用件は済んだんだけど、あなたたちはどうするの?母校で何かやり残したことない?」

 

「僕は…もう休学手続きもとってるしいいよ。レイチドは?」

 

「ああ、実はシオンを探しに私も休学したの。それに召喚術師の道じゃなくて別の仕事探そうかと迷ってたけど、シオンやアムちゃんを見て決断したわ、退学することにした!その手続きくらいかしら」

 

 レイチドはさらっと自分の人生に関わることを言って見せた。そこに口を挟んだのはフィリノーゲンさんだった。

 

「ふむ、確かに召喚術師としては未熟ではあるがシオンの居場所を突き止め挙げ句ハッタリで来客する度胸…君は探索者や冒険者に向いているのかもしれないな。」

 

僕も薄々感じていたことをフィリノーゲンさんも言う。

 

「そう、ありがとう。じゃあ手続きしてくるから待っててね。」

 

 そう言ってレイチドは学園内に入っていった。…瞬間マリーの銀髪が逆立ち下級生と教員及びマレインや野次馬の3期生100人以上が急に倒れだした。

 

「ちょっとマリー!?」

 

『 眠らせた  学内へ意識 及び 神経感覚変性処置完了 』

 

銀髪を逆立てたままそう僕に伝える。まだ何か呪いや術をかけているようだった。

 

『 認知機能低下処置 及び 睡眠前酔考状態処置 完了 』

 

僕もアムちゃんもフィリノーゲンさんも何を言ってるのか判らなかった。

 

 

『 テグレクト の名前 知られたく ないんでしょ? 』

 

うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ

 

 

「つまりマリーさんは眠らせて記憶を消したのかい?」

 

『 ちょっと 違う 』

 

「マリー!私たちにも判るように説明しなさいよ!」

 

アムちゃんがそう怒ると、アムちゃんの頭を撫でながらこう伝えた

 

『 全部 夢だった 〝かも〟 と 感じるはず 』

 

「つまりさっきの出来事を皆、朧気にしか感じていない…という解釈でいいかなマリーさん」

 

『 大体 合ってる 』

 

「戻りまし…ってどうしたの皆!?…って、まぁ大体察しは付くわ。シオンの式ね。」

 

 唯一マリーの術から逃れたレイチドが驚きながら戻ってきた。

 

うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ

 

『 ご名答 』

 

「じゃあ、今のうちに帰りましょう。レイチドはどうすの?仕事探しなら見つかるまでテグレクト邸に招いても私はかまわないけど。扱いは客人ほど丁寧じゃないし雑用頼むこともある。」

 

アムちゃんがそんな提案をする。

 

「え!?いいんですか?」

 

「他の生徒達は僕たちが神鳥だの風龍だのの召喚を見て、只者じゃないと気がついたが君は1の情報からたどり着いた。マリーさんが君に術をかけないあたり、なにか訳があるのかもしれない。僕からもお願いするよ。」

 

「は、はい!ではカリフの町を中心に仕事を探してみます。それまでメイドのように扱って下さい。」

 

 レイチドはあくまで謙虚にそう言った。

 

 僕たちの母校への帰還は、アムちゃんの決闘・レイチドの人生の選択という任務を終え、他の生徒達にとっては夢の出来事として終了した。

 

 テグレクト邸へ帰還した僕たち5人は、学園での話とレイチドの僕とマリー捜しの旅の話を聴ききながら大いに盛り上がった。

 

 ◇  ◇  ◇

 

 魔導による強固な鍵が掛けられた金庫。カリフの町の一角にある魔導師同士の闘場、〝カジノ〟その売り上げ金のすべてが入った金庫が、まるで風で開いた扉のように平然と空けられていた。大量の金貨・宝石が入っていた金庫には、魔物の顔の形にくり抜かれたカボチャがありその中に金貨が一枚だけ入っていた。

 

 支配人は血の気を失っている。近衛魔導師による調査もおこなわれたが、解除の鍵である解錠魔導は支配人しか知らない。支配人とて召喚術と魔導の町カリフでカジノを営む高位の魔導師だ、ましてや自身の店の売り上げを守る金庫に生半可な鍵はかけない。

 

「これは…オーランタンの手口かもしれません。先日まで王都で被害が続出しておりましたが、カリフの町に現れたとは。」

 

 オーランタンは王国全土を駆け巡る、一部で怪盗の異名まで持つ正体不明の泥棒。スティンガーが連射されても壊れないような金庫をスポンジのように破ったり、魔導の鍵がかけられた金庫でも簡単にあけられることから、姿や顔どころか剣士なのか拳闘家なのか魔術士なのか召喚術師なのか…それすら不明であった。

 

「支配人様は大変な目にあられましたね、我々もオーランタンを追ってみます。おい!まずは町に検問を、それから町の聞き込みだ。」

 

 魔術の盛んなカリフの町で魔術による金庫が空けられたなど町の恥以外のなにものでもない、近衛兵は直ぐさま行動に移し日中夜を通して聞き込みや見張りをおこなった。…それが徒労に終わることも知らずに。

 

 ◇     ◇     ◇

 

 テグレクト邸では幼い伝説の召喚術師、第48テグレクト=ウィリアムが、自身でさえ10回に一度しか呼び出すことの叶わない異界の魔道具……。過去を映す鏡を召喚してカジノでの様子を見ていた。周りには依頼をした近衛兵が囲んでいる。

 

「……だめじゃ、真っ暗闇の中で人影も見えん。金庫はかろうじて見えるが、勝手に開いてるようにしか見えぬ。まるで透明人間の仕業じゃな。」

 

「……そうですか、ご協力感謝致します。」

 

 鏡に映されていたのは、暗闇の中かすかに見える金庫がひとりでに開き、中の宝石や金貨がカボチャに変わる映像だけだった。

 

 

 コンコン 

 

「失礼します。お茶をお持ちいたしました。」

 

 

 緊迫した空気の中入ってきたのは現在就職活動中、テグレクト邸で即席のメイドをしているレイチドだった。

 

「ああ、ありがとう。我々は一杯いただいたら町へ戻ります。またご協力をお願いすることがありましたお願いします。」

 

「うむ、はやく見つけてくれ。我が屋敷に泥棒が入られても困る。」

 

 近衛兵達はお茶を流し込むように飲み任務へ戻っていった。

 

「……アムちゃん、さっきのは礼のオーランタン事件がらみですか?」

 

「そ、過去を映す鏡はわたししか召喚できないしね。見てみたけど何の手がかりも無かった。」

 

 ジュニアは〝48代テグレクト=ウィリアム〟としての話し方を崩し、お茶を啜(すす)る。

 

「過去を映す?そんな異世界の品まで召喚できるの?」

 

「まぁね。どこにあるかまでは判らないけど、一時的に召喚で借りられるの。私もそういう意味では泥棒ね。ニヒヒ。」

 

「もしよければ私にもその映像みせてもらってもいい?」

 

「いいよ、ちょっと待ってて。」

 

そういってジュニアは魔力を高め世界と通じる。徐々に一つの鏡が姿を現した。

 

「これがさっきの貴族の犬達に見せた映像、本当に不思議だよね~。わたしでもこんなことできない。そもそも魔法の解除は専門外だし。それにカボチャの置物と金貨一枚だけ残すなんて格好でもつけてるの?」

 

「…」

 

レイチドは映された様子を食い入る様に見つめていた。

 

 

  ◇     ◇      ◇

 

 僕は鍛錬場でマリーとの憑依一般の召喚と還付、そして教わったばかりのトップショットの練習でくたくたになっていた。マッドブルを召喚したときなど僕に突進してきてマリーに助けられたほどだった。

 

「よし、今日はこんなところかな。大分時間の短縮ができている、実践でも十二分に仕えるまでもう少しといったところだ。今日の課題はマッドブルの扱いとトップショットでの魔力の暴走だ、あとでレポートで反省をしておくといい。お疲れ様」

 

 現在の師匠、フィリノーゲンさんはそう言って今日の鍛錬は終了した。

 

「ああ~、今日は一段と辛かったぁ。マッドブルを式にしてから特に!あんな暴れ牛僕の手にはあまるよ」

 

 うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ

 

そんな僕を慰めるようにマリーが僕の頭を撫でてくれる。それだけで疲れが半減するようだ。

 

「あれ?レイチド、どうしたの難しい顔して、本?」

 

 レイチドは僕の声など耳に入らないほど熱中して本を読んでいた。題名は最近ベストセラーになった【怪盗オーランタンの軌跡】と、古帝国時代のボロボロになった【職業斡旋一覧】

 

「ねぇ!レイチド!」

 

「え?あぁシオンごめんね。ちょっと考え事してて。」

 

「仕事探し?でもそれ古帝国時代の……もう1000年以上前のだよ?最新の職業探しの本ならいっぱいあるのに」

 

「ううん、これは考え事のための本。…そうだシオン、マリーって幻視は得意みたいだけど透視とかできる?」

 

 僕はマリーを見つめた。マリーは首を横に振った。

 

「そっか……。」

 

『 ただ 』

 

「 ? 」

 

『 捜し物 が あるなら あるいは 』

 

   ◇    ◇    ◇

 

 カリフの町はオーランタン騒動で喧騒の有様だった。近衛兵が絶え間なく闊歩して検問を各自に行っている。

 

そして僕とマリー、そしてテグレクト兄弟もレイチドに協力をしてくれるということであつまって町へでた。

 

「レイチドさん、本当にオーランタンの手がかりが見つかるのかい?」

 

「確定ではないけど、それらしいものを見つけたの。かなり大がかりになるからちょっと緊張しちゃった。」

 

「わたしはもう準備できておるが…これでなにもなかったら見損なうぞ。レイチド。」

 

 アムちゃんがそう鋭い目で言う。フィリノーゲンさんは曰(いわ)く、アムちゃんの言動に統一性がないのは、マリーの〝幼児退行〟の影響らしく、本来は無理に威厳(いげん)をつけようと古風な話し方をしていたらしい。……そして僕の師匠は、〝どっちも可愛いからまぁいいか〟というブラコンっぷりを見せてくれた。

 

『 じゃあ 始めましょう 』

 

 そういってマリーの銀髪が凄まじい嫌気と共に逆立つ。「先の尖ったものは持ってこないで」というレイチドの言葉通り剣やレイピアの類は持ってきていないがそれでも寒気がするほどマリーが呪いを強めている。

 

『 先端堅忌避認知 及び 不安性侵入思考 半了 』

 

 マリーの周りが徐々に狂気に陥る。まずは近衛兵が剣を投げ捨てだし、家々から包丁や針が飛ぶ

 

『 完了 アムちゃん 』

 

「は~い」

 

 そしてアムちゃんはバジリスクを召喚し、バジリスクの息吹によって町の半分の人々の時を止めた。

 

「じゃあ、皆で探して。わたしも急ぐから」

 

 そういって5人とも別れ、急いでレイチドの言う〝目的のもの〟を探す。何しろ町の半分の時間を止めたのだ、そう長くはいられない。

 

そして、〝目的のもの〟に出会ったのは僕だった。

 

「レイチド!みんな!あったよーーー!」

 

 皆が僕の元に集まる。何処にでも居そうな……それこそ街で会っても数秒で忘れそうなほど特徴がない普通の男。そんな男が投げ捨てたと思われる、あきらかに普通じゃないそれ。

 

「これよ!ねぇマリーかアムちゃん!この男に何時何処にいるかわかる術掛けられる?」

 

「じゃあ、私が。」そういってスティグマという魔物を召喚し赤い印を押したあとその印は直ぐに消えた。

 

「これでこのスティグマが常にこの男を監視している。もういいか?」

 

 うんじゃあ、これは元あった場所へ。

 

 レイチドの言った〝目的のもの〟 それは〝ひどく古い姿をしていながら良く手入れされたタガー〟だった。

 マリーが町の人達の呪いを解き、アムちゃんがバジリスクの息吹を解く。

 

「ん?何故私は剣を?申し訳ないお怪我は?」「ちょっと包丁窓から投げるなんて危ないじゃないの!」「すみません、なんだか急に怖くなって…今はなんともないです。」

 

 町は当然半狂乱になっていた。マリーの呪い本人曰く〝先端堅忌避認知 及び 不安性侵入思考〟

 

 かみ砕いて言うと超強力な尖端恐怖症の呪いらしい。それによって剣や包丁、タガーや針の類を極度に恐れ身につけられなくなるというのだ。

 

 それもこれもレイチドが〝ひどく古い姿をしていながら良く手入れされたタガー〟を持った人を見つけたいと言ったことから始まった。ここまで大がかりになるとはレイチドも僕も予想外だったが…

 

 そしてタガーを持っていたのは黒髪の何処にでも居そうな普通の青年だった。ぼくたちは一度テグレクト邸へ戻りスティグマという監視を行う魔物をアムちゃんが召喚しその男を映した。

 

「なんだったんだ?今の感覚、俺のタガーは…ああよかった無事だ。先祖の呪いかな?まだまだ未熟ってか?ははははは」

 

そう言ってタガーを拾い、町を散歩しだした。

 

「ふむ、正直あの男からなんの魔力も感じなかったし体つきも剣士や拳闘士のそれではない。至って普通の人間にしか見えないが…」

 

アムちゃんは男を見た感想をそのまま述べる。

 

「いや、ここまで私の想像通り。さっきの人言ってたでしょ?先祖の呪いって台詞。これをみてほしいの。」

 

 そういってレイチドが僕たちに見せたのは、古帝国時代のボロボロになった【職業斡旋一覧】の1ページだった。

 

 ※  ※  ※

 

【シーフ】

 

 野党として罪なき人々へ剣を向ける野蛮な者と違い、独自の考えと掟の元行動する盗賊。冒険者の一員となっていることも多い。物取りは勿論のこと手先の器用さに加え、身を隠す術や影で発展した一族の中には独自の魔法技術や万能の鍵とも言える技術を持つ者達もいる。古王国ではバレンタイン一族がシーフの身でありながら貴族として皇帝に仕えて、敵対する組織への密入・盗技を活かし貢献した。

 

 ※  ※  ※

 

「シーフの末裔?あの冴えない男がか?」

 

 アムちゃんは驚きの声を上げる。

 

「そう、そしてシーフには魔術士の杖、剣士の剣と同じ…もしくはそれ以上にタガーを愛用する伝統があるの。ましてやあれだけ鮮やかな盗技、一代でできる技術じゃないきっと古帝国時代に滅びたバレンタイン一族並の盗賊と踏んだわけ。そしたら案の定見つかったわあんな冴えない男に似合わない装飾だらけの古いタガー、それもかなり手入れが行き届いたものをね。」

 

 

「そうか、それであんな大がかりな………ああ!!!???」

 

「どうしたのアムちゃん!?」

 

「スティグマが、刻印が外された。私の術をこんな簡単に!?馬鹿な…」

 

 アムちゃんの驚きは周りの4人にも伝播する。第48代テグレクト=ウィリアムの付けた刻印、それを1刻もしない内に気がつかれ外されたのだ。

 

    ◇      ◇      ◇

 

 黒髪の青年は、ほぅ っと安堵の溜息をつく

 

「なんだって監視の呪いがついたんだ?さっきのタガーの事といい…ちょっとカリフの町を舐めすぎたかな」

 

 男は自らのアジト、何の変哲もない集合住宅の一室に入る前に癖となっているボディーチェックをした。すると背中から強い魔力を感じたのだ。それもよりによって監視の呪い盗賊としては一番やっかいな呪いの一つだ。おそらくかなり高度な術者が掛けたのだろうオーランタンの技術を駆使しても半刻も解呪に時間がかかってしまった。

 

「とりあえずカジノは終わったし、あとは…高利貸しの家か領主の館といったところだなぁ。」

 

 〝草民の宝に手を出すべからず〟というオーランタン一族の掟に則り青年は計画を立てる。どこもかしこも近衛兵や捜索者であふれかえっているが、誰も彼をオーランタンと見破れなかった。なにしろ手ぶらの冴えない格好をしたどこにでも居そうな青年。捕まえられるはずがない。

 

 青年は体の内に秘めた膨大な魔力を右手に宿す。すると顔の形にくりとられた大きな黄色いカボチャが現れた。中に入っているのは金銀宝石、カジノから拝借した半分はスラム街の痩せ細った家族や飢えて死にかけている老人や子供にカボチャに入れて配ったので少し減っている。

 

 「おっと、魔力で探られても困る」

 

 直ぐさま青年は再び魔力を体の内に潜める。王国最高峰の召喚術師アムちゃんですら見破れなかった魔力の隠蔽技術だ。青年は長考し計画を練り夜を待つ。あまり長い滞在は禁物である。次の仕事を最後にこの町を出よう。そう決めていた。

 

   ◇       ◇      ◇

 

 カリフの町をまとめる貴族の屋敷。近衛兵が列を成し交代で見回りをする最中、髪の毛ほどの細い線が猛スピードで屋敷に入っていく、誰もその姿を捉えられずいつ来るか判らぬ盗賊を近衛兵は見張っていた。

 

 黒い線は一直線に宝物庫へ、屋敷の地図は既に頭の中に入っている。壁や天井を伝い、屈強な番兵がいる宝物庫には鍵すら開けず隙間から蚯蚓(みみず)の様に侵入した。

 

 中は光りもない暗闇だが問題ない、例え星の明かりすらない森の中でも自在に動けるオーランタンにとって隙間の明かりが眩しいほどだ。

 

(金庫か、流石にでっけぇな)

 

 そして宝物庫には聖銀製で多重に施錠と警報の魔法が掛けられている。スティンガーの連射でも壊れないだろうし、魔法使いが解鍵しようとしたらまず警報が鳴るだろう。

 

 黒い髪の毛の様な細い姿は徐々に人の姿を成していき、銀のマスクに腰には古びているが良く手入れされたタガー、そして爪のような手袋でありながら指以上に繊細な工作ができるバグナグが装着されている。

 

 姿を現したオーランタンは、音もなく金庫に近づく。まずはバグナグで物理的な鍵を瞬く間に解除しつつ独自の局地的消音魔法と念波遮断の魔法をかける。これで警報は意味を成さない、次に5層にわたってかけられている魔法陣による鍵。バグナグで魔方陣をクルクルとパズルのように回しあっという間に解除してみせた。

 

(あっけないねぇ)

 

 そう心で思い金庫を空けた瞬間だった。

 

 

「ようこそ我が屋敷へ。オーランタン様。」

 

 

 突如明かりが付いた。そこにいるのは領主である貴族、少年と少女、顔をベールで覆った銀髪の女、そして噂に名高いテグレクト兄弟だった。

 

 

「本当にレイチドの言うとおりになった…すごいや。」シオンは素直に横にいる少女を称える

 

「あんたが私のスティグマを解除したのね、そんな膨大な魔力を隠せる魔導師がいるなんて聞いたこと無かったわ、いやあなたはシーフだっけ?」

 

「見張りを分ける事もしないで一点張りとは恐れ入ったよレイチドさん、2,3日泊まり込みも考えてたんだが今日で良かった運もよかったよ」

 

うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ

 

 

「…下手を踏んだなぁ、誰だい?流石にテグレクト兄弟が居る前で逃げるなんて愚策はしないからおしえてくれよ」

 

「話しに来てくれたのはテグレクト様ですが、あなたがここに来るとおっしゃったのはこちらの少女、レイチド様です。」領主はそう言って緑髪の少女を見る。

 

「…こんなガキに踊らされたかぁ先祖には死んで詫びないとな、どうしてわかったんだい?」

 

オーランタンは銀のマスクとバグナグを外し青年の姿を現してレイチドに尋ねた。

 

「あなたの本、ベストセラーになってるのは知ってるわよね?勿論物語だから色々脚色されてるけど一個だけ共通点があったの、あなた町を出る最後に一番難易度の高い仕事をすることとかね」

 

 

「あちゃぁ、まあ一族の掟というか悪しき風習だねぇ」

 

 

「それで今回の町の刃物投げ騒動、それで番兵も増えてこれ以上カリフの町で仕事をするのはデメリットしかない、かといってこのまま立ち去るとも思えなかった。なにしろカリフではカジノ1件しか泥棒してないんだからね。最低でも2、3件は盗賊として活動するはずよ。それに護衛が増えるほど、やる気を燃やすのもシーフの悪い癖。絶対もう一件仕掛けると思ったわ。だとしたら町外れの高利貸しの屋敷かこの領主の屋敷。」

 

「もし俺が高利貸しの屋敷に行ってたらどうするつもりだったんだい?一応候補だったんだぞ」

 

「来たんだからいいじゃない。まぁあえて言うならスティグマを張られたのは覚えてるわよね?あれ実は近衛魔術士じゃなくて横にいるテグレクト=ウィリアムがやったの。あなたはそれをこの屋敷の人間がやったと思い込んだとしたら意趣替えしにここにくるって思ったわけ。ビンゴだったわ」

 

 

「……無意識だったんだがなぁ。そこまで読まれたか。急に俺がタガーを捨てたくなったのはそこの銀髪の姉チャンだろ?」

 

 

「そうだけどなんで?」

 

「あんたが自慢げに俺の種明かしをしてるのが気にくわなくてさ、実はシーフにも〝人を見る目〟があるんぜ?牢獄に行く前に披露してやるよ、とくとご覧あれぇ」

 

 

 そういってオーランタンは6人を見渡しながら小考する。

 

 

「そこの少年は召喚術師、銀髪の女がその式。レイチドさんは…召喚術師を挫折した身だな手傷やなんの痕跡も無いところをみると仕事してないな? 俺が宝物庫に入って姿も気配も確認できなかったのは式である銀髪の姉ちゃんの力……

 

 ……テグレクト兄弟は既に呪縛樹を召喚して床に眠らせていて脱出は絶望的 銀髪の姉チャンの能力は禍々しさから…多分狂気を操るもの そして俺様が自慢の盗技で姉ちゃんの宝樹の髪飾りを盗もうものなら俺は即座に発狂して悶え苦しみながら死ぬ。 どうだ?合ってるか?」

 

 

「「 … 」」

 

 全員無言になる。大当たりも良いところだったためだ。

 

「じゃ、俺の自慢終了。牢獄は地下かい?領主さん、案内してくれこれでも力は弱いんだ優しく案内してくれよ!じゃあなレイチドちゃん!」

 

そういってオーランタンは御用となった。

 

  ◇     ◇     ◇

 

 オーランタン逮捕のあと、牢獄にオーランタンを呪縛樹で縛りテグレクト邸に帰還した。領主からは大いに感謝され宴も開かれた。

 

「うわぁ、これ全部レイチドと僕たちに?」

 

「まぁ私達は宝なんてもらってもしかたないんだけどねぇ」

 

「気持ちの品だありがたく受け取ろう」

 

 オーランタン逮捕のニュースはカリフだけでなく王国中を巡った、そして捜査に大きく貢献したレイチドの名前も

 

「こんなにもらっちゃって…いいのかな」

 

 特に大きな宝箱一杯の財宝をもらったレイチドは困惑しながら周りを見渡す。僕から見ても今回の一番の功績者はレイチドなんだからいいと思うのだが。

 

「うむ、今回の件でレイチドを見直したぞ!召喚術は教えられないが、探索者として力をつける稽古ならテグレクト邸で行っても良い。非力では捜索者や冒険者は勤まらないからな。」

 

 アムちゃんはそんな提案をする。

 

「え?いいんですか?」

 

「うむ、いつまでもメイドまがいの事をさせているのもどうかと思っていたんだ。基礎訓練だけでも参加すれば大分違う、シオンと共に訓練に励むと良い。…ということで兄上あとは頼んだ。」

 

「え?ああ、シオン君レイチドさんは弟弟子だ。修行内容は二人とも異なるが明日からの稽古を共にしてもらおう」

 

「はい!ありがとうございます。」

 

 そうして僕以外に学園からテグレクト邸の弟子ができた。

 

  ◇     ◇     ◇

 

キャアアキャキャキャキュキャキャアアキャキャキャキュキャキャアアキャキャキャキュキャ

 

 カリフの町を管理する領主の屋敷にある地下牢。鋼鉄と魔法銀の檻に窓一つ無い岩壁、領主管轄の魔術士が粋を込めて作り上げた魔力封じの呪い。そんな地下牢にけたたましい笑い声が響き渡った。

 

「なんだ!!?何事だ?」「9番囚舎からだ!急げ」

 

 笑い声のする方向へ一直線に走った先で看守達が見たものは、呪縛樹に縛られた大きな魔物顔のカボチャと金貨が一枚入れられた同じく魔物の顔の形に切り抜かれた小さな黄色いカボチャだけだった。

 

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