召喚した式が強すぎて僕のやることがない   作:セパさん

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間話 怪盗オーランタン 金の畑

 レイチドは泣きそうな顔でニュースを読んでいた。折角捕まえた怪盗オーランタンが、3日もしないで脱獄をしたのだ。

 

「いや、これはレイチドのせいじゃないよ。むしろ一度捕まえただけでも凄いんだから、それに領主の宝物庫からは何も盗まれてなかったんだし…」

 

「わたしの呪縛樹を魔導封じの呪いの中脱獄じゃと!?どれだけわたしを馬鹿に……。」

 

 アムちゃんはアムちゃんで、自分の式をあざ笑うかの様に脱獄したオーランタンに腹を立てている。

 

「それにしても、シーフなんてバレンタイン一族が衰退してから既に絶滅した人種だと思っていたが生き残りがいたとはな…」

 

「四英雄の勇者・拳闘士・魔導師・召喚術師が王国で祭り上げられてる間に影に潜んで力を付けてたんでしょう、影に隠れて繁栄なんていかにも得意そうだもの!」

 

「だが、彼の能力はシーフという種族と考えても凄まじい。弟でさえあれほど膨大な魔力を見破れなかったほどだ。並のシーフではないのだろう。」

 

そんな中レイチドは泣き声でこんな事を言った

 

「絶対…もう一回捕まえてやるんだから!!」

 

  ◇      ◇      ◇

 

「あ~狭苦しかったぁ!メシもマズイし、やっぱ娑婆が一番だなぁ。」

 

 地下牢から脱獄し、女性商人の姿に変異してカリフの町の関門を突破したオーランタンはそんなことを言う。

 

「にしてもカリフの町…テグレクト一族の近くは本当に油断ならん。てか金貨一枚損してるんだよなぁ。領主の屋敷からはこれしか盗めなかったし」

 

〝神出鬼没の怪盗オーランタン、逮捕より3日で脱獄。〟というニュースを見ながら脱獄がてらにヤカンごと拝借した唯一の〝戦利品〟であるお茶をすする。

 

「うん、メシはマズかったが茶は中々いけるな。」

 

 馬車よりも速く進めるシーフの歩法によって既にカリフの町が見えない場所、なんの変哲もない農村の近くまで来ていたオーランタンは次の行き先を考えていた。

 

「王都やコトボ、エンサーはもう行ったし、ノボラにある拳闘場の宝物庫も魅力的だがあれはファイターの賞金になるものだからなぁ盗むのも心が痛む。なんか本にまでなっちまってるししばらく身を隠すか?やっぱ金貨入れたカボチャ残すなんて目立つんだよぉ。誰だよこんな掟考えた馬鹿先祖は」

 

 シーフという職業柄目立つことを嫌うオーランタンはそんなことを考えた。

 

「ん?」

 

オーランタンが見つめる遥か先の農村ではなにやら喧嘩をしている父親と娘の姿があった。

 

 

(だから!貴族様だかなんだか知らないけどどうして?あそこにはお母さんも眠ってるんだよ)

 

(仕方がないんだ、売れと言われれば従うしかない。断れば相手は力尽くになるんだ)

 

(意気地無し!じゃあ貴族様に死ねって言われれば死ぬの!?)

 

(そうじゃない、大人の事情…って言っても理解はできないだろう。今ならば他の農村へ移動も考えてくれるそうだ。)

 

(そうやってお貴族様の言いなりになってお母さんが死んだんじゃない!私達だって口封じで殺されるに決まってるわ)

 

(そうかもしれない、だが他に道はないんだ。せめてキャロルだけでも生きていてほしいんだよ)

 

 

「ふぅん、訳ありだねぇ」

 

 オーランタンは遥か彼方に居る親子の会話を読唇術から読み取っていた。なんとなくで見つめていた親子の会話からオーランタンの琴線に響く言葉が発せられた。

 

 

(だいたいうちの土地から金が発掘されたなんて言いふらしたからよ!それから私達がおかしくなったんじゃない!)

 

(言いふらしたわけではない、サラ…母さんが金の発見を領主様に伝えに行っただけだ)

 

(それで急病で倒れた?挙げ句に死んだ?は、殺されたに決まってるわ。)

 

 

「ぅぷ!金!?農村からとなるとかなり金含量のある土壌…そりゃあ貴族も黙ってないわなぁ。この辺は…フレックス地区だから領主の貴族はフレックス侯爵かぁ、良い噂は聞かなかったがそこまで強引とはねぇ、ん~…休業間際に一仕事してみるかなぁ」

 

 オーランタンは薄気味の悪い笑顔を浮かべ、長考を始めた。

 

 

            ◇      ◇      ◇

 

 地方の貴族の屋敷としては異常なほど煌びやかなフレックス邸その一室で怒りを募らせる肥えた男がいた。

 

「で?あの農民共はまだ土地を譲らないと…」

 

「は!何度か使者を向かわせているのですがやはり報告にきたサラ殿の死に不信感を持っているようで…」

 

「より良い農村への移動と分け前をやると言ったのに儂にむかって無礼な口を聞くからだ、全く身分をわきまえたまえよ」

 

「ですが、家族一同の死となるといかにフレックス様でも…」

 

「お前も身分を弁わきまえられない口か?儂に不可能はない。なんなら村ごと疫病の疑いがあると焼き払ってしまえばいい!」

 

「はい、ですがなるべく穏便に済ませねば王都の者からも不審がられ…」

 

「やかましいわ!王都がなんだ、あんな木っ端役人の集まりと傀儡の王になにができる。おい、地下牢にこいつを入れておけ。」

 

「フレックス様!私はけして反抗するつもりでは…まってくれ!!はなせ!」

 

そう言って近衛兵の一人は地下牢へと連れ去られた。

 

「まったく身分をわきまえんヤツばかりだ。」

 

   ◇      ◇       ◇

 

 とある農村にある一つのカボチャ畑、そこを管理する親子が子供を保護したのは昼を過ぎた頃だった。

 

「どうしたんだい?こんな辺鄙な村へ子供一人で?」

 

「お父さん、この子お腹空かせてるみたい。なにか分けてあげましょう。…辛かったでしょ?狭い家だけど家においで、坊やは何が好き?」

 

「うん、ありがとう!僕カボチャが好き!」

 

そういってボロボロの服に身を包んだ子供が無邪気に笑った。

 

(ん~、家自体は一般的な農村のそれだなぁ)

 

もちろんただの子供ではない、オーランタンが変異によって姿を変えた偽りの孤児である。

 

「そっか、口減らしに親に…」

 

「しかし、子供の身でよくここまでたどり着いたな。そらパンプキンシチューだ、本来なら家で雇ってといいたいところだが…」

 

「ふん、意気地無し!」

 

「あったかい!おいしい!」

 

(ふむ!なかなか良いカボチャだ、腕も良い。牛の乳が入っているところを見るとそこそこ豊かな農村だったのだろうなぁ。金って怖いねぇ)

 

「とりあえず今日は一泊していくといい。明日の朝、近くにある農村や村、少し遠いがカリフという栄えた町もある。食料と地図を渡すから行ってみな」

 

「うん、ありがとう!」

 

 そして日没になり、親子が深い眠りに入った頃。子供の姿から青年に姿を変えたオーランタンは畑を見渡していた。

 

「たしかに、これはかなりの金含量だ。良く作物が育った物だな。どれ、火種を取ってみますかねぇ」

 

 そういって大きなカボチャの怪物を右手に出し、左手にはバグナグを装備した。それから畑を耕すよりも早くバグナグで器用に魔力を調整し土に含まれる金を砂金に変え、カボチャに食べさせていった。きりがないので金の含量が多い所だけを重点的に、それでも2刻ほど時間がかかった。

 

「ふあぁ、疲れた~。畑から金を盗むなんて初めてだぁ!」

 

そして2刻で集まった砂金は、下手な貴族の宝物庫を超えるほどの量であった。

 

「さぁて、これだけだと駄目なんだよなぁ。パンプキンシチューの恩返しくらいしないと」

 

 銀の仮面を被り、両手にバグナグ・腰には古びているがよく手入れされたタガーを付け、星明かりのみが照らす暗闇の中、一体のシーフはどんな夜間馬車よりも速くフレックス邸へ向かった。

 

(悪趣味な屋敷だこと、一領主が貴族になって調子に乗っちゃったんだろうねぇ)

 

 屋敷には門番もおらず、門には鉄製の原始的な鍵しかない。あまりにも外見とアンバランスな屋敷だった。門の鍵はバグナグによって一瞬で開いた。

 

(ちょいと失礼)

 

 フレックス邸へ侵入したオーランタンは中の様子にあきれかえった。

 

(宝物庫がないのが不自然と思ったら宝をあちこちに散りばめてるんだねぇ。成金趣味もここまで来ると清々しい)

 

 今回の目的は宝ではない、報酬は砂金で十分だったのでそれ以外に手を付ける気にはならなかった。

 

(さて、ここだねぇ。恐怖支配者が好みそうな部屋。ここだけヤケに頑丈につくられてらぁ)

 

 その部屋は聖銀製で幾つもの物理的な施錠と、職人技の感じる最新の金庫であった。

 

(魔法による施錠はなし…でも警報はあるな。)

 

 オーランタンは気にも止めず、解錠にとりかかる。局地的消音魔法をかけバグナグを幾度も変異させ、僅かな音も聞き漏らさない耳でダイヤルを回す。

 

(はい、終了)

 

 強固な金庫は、あっという間に開かれた。そして目当ての品々を見つけ…

 

(カボチャにこいつら食わすの初めてだなぁ、食あたりしないでくれよ相棒)

 

 部屋にあるすべてをカボチャに仕舞い込んだ。

 

(さて最後に)

 

部屋から出る間際、解錠した金庫を元通りに施錠しなおした。

 

 そして無音のままフレックス邸を出て、お世話になっている親子の所にもどる。そして再び子供の姿へ変異して眠りについた。

 

   ◇       ◇       ◇

 

「パーキン殿!扉を開けろ!フレックス侯爵からの使者である。」

 

 ドンドンと遠慮などなく扉が叩かれ3人は目を覚ます。

 

「はい、ただいま」

 

 出迎えたのは父親であった。

 

「何度も訪ねて用件はわかっているな?フレックス様もお怒りである。フレックス地区引いては王都の宝を親子2人で独占するなど言語道断、即刻退去し畑を手放せ!」

 

「…」

 

 沈黙する父親に割って入ったのは子供に変異した泥棒だった

 

「ねぇねぇどうしたの?畑になにかあるの?」

 

「なんだこのガキは?貴様に説明してもしかたのないことだ」

 

「あれぇ?昨日までカボチャ畑がキラキラしてたのになんだか普通の土になってるぅ」

 

「!!!???」

 

驚愕した使者が畑に目をやる。…確かに昨日まであった金含量の土が普通の畑になっているのだ。使者は父親の胸ぐらをつかむ

 

「貴様ぁ!畑になにをした!?」

 

「な、なにもしてません。そもそも私達はただの農民です。私にも何が何だか…」

 

「ああああ!フレックス様になんて報告すればよい!?下手をすれば我々の首が飛ぶのだぞ!」

 

「そういわれましても、すみません離してもらえませんか?」

 

「はぁはぁ、金がなくなった理由はどうでもよい。…ただ2人とも命はないと思え。」

 

そう行って使者は早馬に乗り去っていった。

 

「ねぇ!どういうこと?金って土に還るものなの?」

 

「わかるわけないだろう。ただ…今から逃げても遅いかもな。母さんの眠るこの土地で2人とも眠るか」

 

「それはどうかなぁ?」

 

「「!?」」

 

 昨日拾った孤児が、急に薄気味の悪い笑みを浮かべていることに親子は驚いた。

 

  ◇    ◇    ◇

 

フレックス邸では緊迫した空気が流れ、近衛たちも冷や汗を流していた

 

「今…なんといった?」

 

「その…パーキンの畑から金が消えておりまして、原因は一切不明です。」

 

「あれほどあった含量のあった金だぞ?金が土に還るなど聞いたこともないわ!」

 

「はい、私もそう思い問い詰めたのですが知らぬ存ぜぬで…」

 

「もう構わん!フレックス地区、ひいては王都の宝を独占した罪として村ごと焼き払え!」

 

「は!畏まりました。」

 

「では、まず武器庫へ行こうではないか。王国広しといえどこれほどの兵器を持ち合わせているものも多くはあるまい。スティンガーと火龍の胃石の放射機で焼き払い、ジェノサイダーで村ごと更地にして…」

 

 肥えた領主は鼻歌交じりに自分だけが持っている武器庫の鍵を開ける。一流の職人に作らせた最新式の金庫であり、領主の自慢の一つだ。

 

そして解錠され、中をみた領主は腰を抜かせ床に膝を折った。

 

 

「な?何事だ?」

 

 

 金庫の中は聖銀の壁のみが広がるばかりで真ん中には金貨が一枚入った、顔の形にくり抜かれた緑のカボチャだけがあった。

 

 ◇     ◇     ◇

 

 それから5日、パーキン親子共々殺されるのではないかと不安に思っていた農村の人々は一切攻撃に来る様子のないフレックス侯爵を不思議に思っていた。そんななかある噂が流れる〝怪盗オーランタンによって武器庫の兵器がすべて盗まれた〟と

 

 元々恐怖政治によって支配されていたフレックス地区の人々が革命に走るのに時間はかからなかった。まずは村の人々がクワや鎌、鉈を手にフレックス邸に押しかけそれを聞いたフレックス地区の町の人々や他の農村からも打倒フレックスを掲げる物達が殺到した。

 

 武器は元々の近衛兵の剣のみ、多勢に無勢勝敗は既に見えている。フレックス侯爵は血の気を失い右往左往。牢獄に入れていた近衛兵も動員して妥協点を探していた。

 

「諸君、今フレックス地区は未曾有の危機にさらされている貴殿らの勇敢な精神を今こそみせてくれ!」

 

冷や汗を流しながらフレックス侯爵はそう演説する。その刹那だった。

 

 

「んが!???!??え?」

 

 

 フレックス侯爵ののど笛に剣がささった、ヒューヒューと音をたて血を流し倒れ込む。

 

「フレックス地区草民の総意、しかと受け取りました。追って王都に詳細を報告し、私も相応の罰を受けましょう。」

 

 刺したのは囚舎から開放された、穏健派の1人にしてパーキン親子の応援をしたために牢獄に入れられた近衛兵であった。

 

 

 ……かくしてフレックス地区の出来事は王都に報告が行き、王自らの謝罪の手紙と共に新たな領主が派遣された。フレックス侯爵殺害をした近衛兵への罰は再教育指導という名目で王都へ向かい、ゆくゆくは大臣として必要となる知識を含む教育が施された。

 

 畑でカボチャの手入れをする親子、その顔は笑顔で喧嘩する様子もなく平和なものだった。

 

「もう30日かぁ、領主が変わってから大分ちがうわね」

 

「ああ、一時はどうなるかと思ったが済まなかった。お前が怒った理由も、もちろん判る。父親として恥ずかしい姿をみせたな」

 

「ううん、いいの。だって私を守ってくれようとしたんでしょ?」

 

「…ああ、だがよかったよ。村も無事で殺される心配もなくなったんだ。」

 

「そうだ、お母さんにまだ伝えてないわ!切りの良いところまでいったらお母さんのところに行きましょう」

 

「サラか、そうだな。あいつももう少し遅ければ…いや考えてもしかたがない」

 

 

そうして親子は母親と妻の祈りにやってきて、あるものを見つけて大いに驚いた。

 

 

 子供の衣装を被せた顔の形にくり取られた黄色いカボチャ。

 

 ……その中にはカボチャ一杯に詰まった砂金と、子供が舌を出す様に金貨が一枚だけ刺さっていた。

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