召喚した式が強すぎて僕のやることがない   作:セパさん

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魔女を継ぐ者

「なんだ!?何事だ兄上!?」

 

「わからん、マリーさんの嫌気と呪いの気配…それと凄まじい魔力だ。シオン君のものじゃない。」

 

「マリーがカリフで魔術士と喧嘩?違う、カリフの者ではない。」

 

「え?なにかあったのですか?」

 

 テグレクト兄弟はレイチドと話しをしている最中、屋敷に近づく敵意に近い魔力と嫌気を感じ取っていた。

 

「とにかく、玄関口だ!兄上急げ!」

 

「ああ、レイチドさん。話しの途中だがすまない、これは緊急事態かもしれない。」

 

 テグレクト兄弟は屋敷の玄関へ走る。屋敷に向かって歩いてくるのはシオンとマリー。そして膨大な魔力を感じる麻袋だった。

 

   ◇     ◇     ◇

 

 テグレクト邸にある鍛錬場。ロンズデーライトと魔導銀の混合物で作製されており、たとえ金色龍王がブレスを吐こうが、ガルーダが音速で体当たりしようが壊れない、屋敷で一番頑丈に作られた部屋。

 

 その鍛錬場で、眠る少女が1人、真っ赤に光る魔力を押さえる呪縛樹と青白く輝く呪文を封じる呪縛樹、そしてマリーによる傾眠と意識消失の呪いでがんじがらめにされていた。

 

「なんだか凄く犯罪臭いが……よいのだろうか…。」

 

「兄上、シオンの話しを聞いていなかったのか?これでも危ないくらいじゃ。自称とはいえ、イリー=コロンを継ぐ者……。私達ですら太刀打ちできなかったマリーの幻術を、一部とはいえ看破してるのだ。目覚めたらどんな魔術が飛んでくるかわからぬ。そもそも話しを聞くに、藁人形に生命力を宿して身代わりにするなど、私達のホムンクルス召喚や錬成とは機序や概念が全く違う。まさに〝無〟から〝有〟を生み出す行為だ。もはや魔導師の域を超えている…いや自分で魔女といっていたか。策さえ誤らなかったら、今頃シオンもマリーも消し炭になってるはずだろう。」

 

 シオンとマリーが初仕事として行った行商の護衛、そして帰還時にテグレクト邸に2人が持ってきたものは麻の袋に入れられた、黒髪と瞳を持つ少女だった。シオンは護衛の帰り際に起こった甲冑の兵士との戦闘、考えられないほど遠隔からの雷の魔導陣。

 

 

 そしてイリー=コロンの終の棲家だったと思われる洞窟にいた少女がマリーを〝疫病神サイコシス〟として滅しようとしていた事についてテグレクト兄弟とレイチドに話した。

 

 

 

「皆さん!カリフの町の魔導師…特に王立の卒業生から聞き込みと、それらしい物を集めてきました。」

 

 レイチドが聞き込みのレポートと、いくつかの切り抜きをもって鍛錬場へやってきた。イリー=コロンの名を継ぐ少女と聞いて、開拓村で傷心していたレイチドは一瞬で回復したかのように目を輝かせシオンから更に詳細を聞いて、早馬に乗り町へ掛けだし探索業をおこなってのけた。

 

 

「まず、王立魔術士校で生徒がカリフに行く切っ掛けからですが。魔術士校は召喚術師校と違って王宮への実習試験がかならずしも義務ではありません。独自の魔導を極めたいと思ったならば例えばカリフで屋敷や牢獄管理の魔導、魔導具の錬成、治癒の魔導などを王国が承認した指導者の下で実習試験を受けられます。

 流石にカジノなどはダメみたいですが、ある程度の融通はきくそうです。もし彼女がイリーコロンの洞窟を見つける機会があったとしたら、この実習試験でカリフを選んだことが推測できます。

 

 次に聞き込みです。これだけの魔力…、おそらく私達とそう年が違わないことから元々凄まじい能力をもって入学したか、飛び級で入ってイリー=コロンの住処を見つけて数年鍛錬したかのどちらかと思い聞き込みをしてみました。当たりだったわ。

 

 9歳で魔導師学校に入学して10歳で退学をした黒髪と黒い瞳を持つという少女がいたという証言を5,6年前、現在は王立魔導師校卒業1,2年目の魔導師から伺えました。飛び級で入学した当初から成績も良くとても目立つ生徒だったので皆覚えていました。退学の理由は一切不明だったということです。名前はモリー=ウィーサ、おそらく私と同い年の15歳です。それとこれが……」

 

レイチドが取り出したのはカリフの地図。

 

「 彼女が実習試験に来ていた場所、魔物の退治・調伏機関です。つまり魔導師とあまり関わりの無い場所です。どちらかといえば私達…いえシオン君達のような召喚術師の仕事で、機関には一応指導者権限のある魔術士がいたため、ほぼ強引に実習試験に行ったと思われます。

 

 その時の指導者さんは既に引退していてお話しは聞けませんでしたが、魔導師学校からの実習生なんて珍しい ということで専属の召喚術師の方が覚えておりました。彼女は本来30日の実習に10日ほどだけ顔を出してそれから来なくなったとのことです。この時期は退学した時期と合致します。

 

 また当時から魔物どころかブリドーの山を初めとした神話の魔物や神の退治に興味が強かったそうです。」

 

「なんとまぁ、恐れを知らない子供だ……。」

 

フィリノーゲンは魔女改め、モリー=ウィーサを見つめる。

 

「レイチド、ありがとう。それにしてもこれだけ短時間ですごいね…。」

 

「とにかく9歳にして飛び級で王立に入れる素質の子供がなんらかの拍子にイリー=コロンの晩年の研究室を見つけて、そこに籠もって5年に渡る修業を積んだということか。確かに恐ろしい存在だ。」

 

 レイチドの調査報告が終わり、皆が見守る中少女は目を開いた。

 

 

 ……瞬間魔力が暴発するように高まり炎とも雷ともつかない電撃と熱の塊が少女を中心に呪縛樹の周りに広がっていく。

 

「マリー!?術を解いたのか?」

 

『 … 違う 』

 

「なんだ!わたしの呪縛樹じゃぞ?これほど多重にかけた呪いを……」

 

「あああああああああああああ!!!!!放せええええええええええ!今すぐ殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!」

 

 

「僕たち2人で魔力封じを強める。シオンさんとレイチドさんは1回離れて。マリーさんこれは?」

 

「ちょっとマリー!あんたの呪い!?冗談でもやめてよ!」

 

『 違う 』

 

「マリー絶対に変だよその子!え~と、ウィーサさんに何をしたの?」

 

『 私の力に 似ている 』

 

「マリーでなかったらなんじゃ?……たしかに呪いも嫌気もマリーから感じないが。なんなのだ!」

 

『 彼女は 恐らく 』

 

「なんじゃ、助けられる算段が?」

 

 

『 サイコシスに 取り憑かれている 』

 

 

  ◇     ◇      ◇

 

 僕は目の前の出来事に混乱していた。マリーの銀髪を逆立てる様子はない、眠りと意識を失わせる術を既にかけ終えていたはずだった。本来マリーの合図がないと起きられないほどの強力な呪いだとこの1年で実感している。それをなんの合図もなしに目を開け、挙げ句にテグレクト兄弟2人がかりでやっと押さえきれるほど魔力を暴走させているのだ。僕は思わずマリーの背中に隠れてしまう、これほど凶悪な魔力はみたことがないほどだった。

 

「マリー!どうすればいい!?このままだと私達もろとも死ぬぞ!」

 

「完全に体の負荷を考えていない暴走だ、その前にこの子の体も持たない…」

 

 

『 このままだと 彼女が 壊れる 47秒 耐えて 』

 

「「わかった!」」

 

 マリーはテグレクト兄弟が魔力の暴走を呪縛樹で押さえている間に、銀髪を逆立てる。主である僕でも見たことがない繊細なある意味安らぎを含む逆立ち方であった。

 

 

『 情動脱力 及び 抗不安陶酔処置 』

 

 黒髪の少女、モリー=ウィーサの暴走した魔力が徐々に弱まり罵詈雑言を放つ口も呂律ろれつが回らなくなってきている。テグレクト兄弟の魔力を押さえる力も少しづつ弱まる。

 

『 … 完了 』

 

 彼女は再び呪縛樹にしばられたまま眠りについた。

 

「ふぅ…あんな呪いと逆のこともできるのかマリー…いやある意味呪いか、感じるのが苦しみか安楽かの違いだ」

 

うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ

 

 アムちゃんにしては珍しく汗だくになっている。それほど凄まじい暴走だったのだろう。

 

「それで、この爆弾娘はどうするの?私と兄上の2人でこれだけ手間がかかるのを近衛兵に渡したところで町が滅びるだけ。…マリーこの爆弾娘にサイコシスという疫病神が取り憑いてるってのはどういうこと?」

 

「確かにマリーさんがいなければ僕たちが暴走に巻き込まれてたか、彼女の体が持たずに死んでいただろう。そもそもこの子はマリーさんを疫病神サイコシスだといって殺そうとしてたって話しだけど。」

 

『 … 恐らく だけど 彼女に憑依している。 』

 

 僕たち4人は思わず眠る少女をみる。全員召喚術を学んでいる身であり、内2人はテグレクト一族という王国1,2を争う召喚術師である。それなのに少女からは魔物の気配がしない。かといって先ほどの暴走を考えると狂気の呪いが掛かっているか、マリーの言うとおり神レベルの怪物が憑依している。

 

「神の呪いが掛かっているのでなくて、神そのものが憑依しているのか!?そんな馬鹿な!」

 

中でも信じられないと言った口ぶりをみせたのは第48代テグレクト=ウィリアム、アムちゃんだ。アムちゃんで感知できないものを僕のような駆け出しが感知できるはずがない。

 

「魔物や神に憑依された者の解呪…我々一族にまわってくる専業のようなものだが憑依された相手と憑依している神があまりにも悪すぎる。下手を踏めば6人揃ってあの世行き、いやカリフの町にまで影響がでる…。」

 

 フィリノーゲンさんが顔を青ざめながら話す。

 

「って、ねぇマリー相手が神ならこうして目の前で会話してるの不味くない?」

 

『 サイコシスは そこまでの知能を 持たない 』

 

「まるで見たこと有るかのようにいうのね。」

 

アムちゃんがすこし怪訝そうな面持ちで言う。

 

『 無い でもわかる 耳はあるけど聞こえない 目はあるけど見えない 鼻はあるけど嗅げない 皮膚はあるけど感じない 口はあるけどしゃべれない それが サイコシス 姿までは 私も見えない 』

 

「それ、神としてどうなの…?」

 

『 混沌の塊 それだけ 私が狂気なら サイコシスは混沌 』

 

「いまいち違いがわからないわ…。」

 

「とにかく、僕や弟ですら感知できない神の解呪は無謀に近い。かといって弟の言葉を借りるならこの〝爆弾娘〟をどうしようか…。」

 

「あの…一般的な解呪ってどうするのですか?」

ぼくはフィリノーゲンさんに尋ねた。

 

「ん?ああ、神ほどのものは私も未経験だが希に魔物…特に怨霊の類に冒険者や一般人が憑依されることがある。まず解離をさせるのだが、それには感知できないとどうしようもないんだ。そして今サイコシスを感知できているのはマリーさんだけだ。解離をさせてそれから調伏なり退治なりをするのが基本だな。」

 

マリーはアムちゃんの手を不意に握りしめた。

 

『 あなたなら 耐えられるかも 』

 

「…? なにするのマリー?」

 

『サイコシスと ご対面』

 

「あなたを通じて?いいわ、やってやろうじゃない」

 

マリーと手を繋いだアムちゃん。

 

マリーが眠っている少女、モリー=ウィーサの頬に手を触れる。

 

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

アムちゃんの悲鳴とも付かない声なきか細い絶叫が鍛錬場を木霊した!

 

 

 

 マリーが眠っている少女、モリー=ウィーサの頬に手を触れる。

 

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 アムちゃんの悲鳴とも付かない声なきか細い絶叫が鍛錬場を木霊した。おそらくサイコシスをマリーを通じて見ているのだろう。幼児退行状態でないムちゃんの絶叫… それほど恐ろしい魔物いや神なのだろうか

 

「ジュニア!大丈夫か!?」

 

 フィリノーゲンさんもアムちゃんを心配して声をかける。

 

マリーがそっと少女の頬から手を放す。とたんにアムちゃんは腰を抜かし目が点になっている。アムちゃんはマリーにそのまま質問した。

 

「…あれはマリーの幻術ではないのだな?」

 

『 そう 』

 

「僕もみていたが、マリーさんが幻覚をおこさせている様子はなかった。ジュニア何を見た?」

 

「……自分のしっぽを口で囓り、グルグルとまわる目鼻口耳がでたらめについた醜態をさらした犬か豚のような何かと、6つの羽根をつけたこれまた、でたらめにグルグルと回っている何か……。気味が悪い、吐きそうじゃ。」

 

 アムちゃんは今だ目を点にしてそう話した。

 

「2体?サイコシスは1体ではないのか?」

 

「いや、1体じゃ。だが姿がグルグルと変わっていく…ぅぅぅすまぬ吐き気がする兄上!!」

 

「ああ」

 

 フィリノーゲンさんはビショップを召喚し回復・治癒の魔術を施す。

 

「はぁはぁ。すまぬな楽になった。…マリー感謝する。今ので私には爆弾娘に取り憑(つ)いてる禍々しい神が見えるようになった。」

 

 アムちゃんは立ち上がり精悍(せいかん)な顔つきを取り戻して、呪縛樹の中で眠る少女を見る。

 

「マリーさっきの化け物とマリーだとどちらが強い?」

 

『 私は狂気 相手は混沌 勝負はつかない 』

 

「ふむ。つまりこの爆弾娘は元々の魔力の高さにイリー=コロンのもとで研磨(けんま)した技術、その上あれほど禍々しい魔物を憑依しているということか…ゾッとする話しじゃ。まず解離に入らないといけない。マリー何故こいつに取り憑いてるか心当たりはあるか?」

 

『 さぁ? 』

 

「そうか、では手がかりを探す必要があるな。あれほど嫌気と醜態の塊である神、何故この魔女に取り憑いているかを探らないと解離は難しい。手がかりとすれば……、わたしと兄をイリー=コロンの住処に案内してもらえるか?」

 

「わ、私もおねがいします!」

 

 どさくさに紛れてレイチドも言った。

 

              ◇      ◇      ◇

 

 僕とマリー、アムちゃん、フィリノーゲンさん、レイチドの5人で少女を拘束したまま、アムちゃんのガルーダとフィリノーゲンさんの風龍に乗る。

 

 僕とマリーの道案内で洞窟にはあっと言う間にたどり着いた。アムちゃんを除く全員、魔導類を遮断(しゃだん)するジュエルドラゴンの皮から作られた鎧を着用しているが、あの凶悪な魔力を見た後だと一流冒険者でもまず着ることのできないこの鎧が紙切れのように頼りなく感じてしまう。

 

 マリーは来た時の罠をすべて記憶しており、マリーを先頭に半刻ほど洞窟を歩くと目的の住処がみつかった。硝子の棺に入れられた英雄のミイラ、研究道具の一式、僕たちだけで来た時はプリーストンのランタンだけだったので気がつかなかったが束ねられた羊皮紙は洞窟天井に届くほどあり、改めて膨大な研究の量であることがわかる。

 

「これがイリー=コロン様の終の棲家か……。」

 

「この束が全部魔導の研究資料だとしたら凄まじい話しじゃ、流石ひいおじいちゃんのパートナー。」

 

 アムちゃんとフィリノーゲンさんが関心するように洞窟内の研究室を見渡す。

 

「書跡が違うものもありますね、おそらくウィーサさんのものでしょう。」

 

 レイチドが探る様に研究室内を見てそう話す。眠れる少女、モリー=ウィーサは呪縛樹に拘束されたまま洞窟の端に置かれている。

 

「たしか魔女の糾弾とサイコシスが関係あると言って、彼女はシオン君達を襲ったんだったね。だとしたら…羊皮紙の束でなく製本されている物から見ていった方がよいのだろうか。」

 

 棚には無造作な羊皮紙の束だけでなく、おそらくはイリー=コロン自ら製本したと思われる図書になっているものがあった。ただそれだけでも膨大な量であり、5人であたっても手がかりが掴めるまでどのくらいかかるか考えるだけで恐ろしいほどだった。

 

 しかしマリーとレイチドが素早く製本された本を調査すると要点は少しづつに絞られた。

 

 製本された内容は魔力の根源とは何かという物から、無機物に生命力を宿(やど)す魔導の概要とその具体的方法、魔女に対する糾弾とサイコシスの関係、サイコシスへの対処方法……。

 

 

「しかし何故イリー=コロンが人知れず、こんな洞窟に引きこもってサイコシスなどという多数いる神の一つに執着したのだ?」

 

 アムちゃんは新たな疑問を口にする。確かに四英雄として幾らでも王宮から莫大な資産の元研究を行えたであろうイリー=コロンそれが一人洞窟にこもりサイコシスという神に執着して英雄らしかぬ生涯を終えたのだ。思わず僕たち5人は硝子の棺に入れられた老婆を見る。

 

「イリー=コロン様……、過去魔女として糾弾された経験もあるとは聞いていたが、晩年にまで及ぶほどだったとは…」

 

 あとは5人がかりで製本された研究を読む、僕が読む内容は魔女の糾弾の歴史と混沌の神サイコシスである。

 

 ※      ※      ※

 

 魔女として糾弾される中には占い師・予言者も混じっており、占い師・預言者の存在は魔導の発展と共に衰退してきた。混沌の神であるサイコシス、この神そのものは自然災害のような神であり時・場所・人を選ばず混沌を災いとして振りまいていく。

 

 その中で魔力が元々高い者に混沌の災いが振りまかれると相乗作用を起こし占い・預言といった現代の魔導ですら不可能なことが行えるようになることがある。これは時間感覚の連続性が混沌を起こし本来ならば精神肉体共に荒廃はずの人間が、魔力の高さでそれを補い時間の過去と未来を酔歩(すいほ)するように〝見る〟ということが可能になるためと推測される。

 

 そしていつしか自然災害の塊サイコシスによって起こされた混沌の災いは、その高い魔力で生き延びてきた占い師・預言者そしてより強い魔力を持つ魔導師を〝魔女〟として糾弾されるようになった。これが魔女糾弾、魔導師が王国より一時は魔女として迫害されてきた歴史の一つの原因であると私は推測する。

 

 ※       ※      ※

 

「ん~魔女が糾弾された歴史についてだけど。イリー=コロンが英雄になってからはほとんど行われてなかったのにね。王立の専門機関ができるほどだったのに。」

 

「だからこそこんな所に引きこもってたんじゃない?過去の王国の暗部について研究をしたいなんて英雄として堂々とはできなかったんでしょ。」

 

『 … 興味深い 』

 

 マリーは読書スピードが速く、既に製本は晩年の書物近くまで読破しかけていた。

 

『 アムちゃん みて 』

 

「何、サイコシスの考察と対策について?。ちょっと読むわよ。」

 

「…」

 

 アムちゃんがページをめくり製本に目を落とすと驚いた顔で読書を始めた。1文字1文字が驚きの連続とばかりにゆっくりとページを進めていく。

 

「これ…サイコシスの召喚方法が記載されている…」

 

 アムちゃんがそういうと僕をいれた他の3人はアムちゃんにあつまる。

 

「召喚!?イリ=コロン様は神の召喚魔導までたどり着いたのか!?」

 

「でもサイコシス自体は自然災害のように定住せずに厄災を振りまく神とどの書物にも書かれていましたが…」

 

「まって…同時に日記のような記載がある。これを書いていた頃にはもう晩年ね。」

 

 

  ※       ※       ※

 

 私はついに魔女迫害の原因であるサイコシス召喚の魔方陣を組むことに成功した。かつての同志テグレクト氏より教わり、背中を守り抜く中で少しずつ技術を盗んだ召喚の魔法。これでサイコシスを呼び出し私の手で討つことができたならば、私の悲願は成就される。

 

 二度とサイコシスによって魔導師が魔女と糾弾され迫害されることはないだろう。しかし私は既に全盛期の半分の魔力も残されていない、今更ながら東西戦争の仲間達が恋しくなる年となってきた。この年老いた文字通りの魔女にサイコシスが討てるかわからない。もし私が失敗したとしても後生にこの研究を託すものとする

 

  ※       ※       ※

 

 

「……この後に無機物に生命力を宿した魔導のまとめか。それから無機物に宿した生命に、混沌の厄災(やくさい)を転移させる魔導が記されてる。シオンやマリーを襲ったワラ人形とマリーの術の一部が通じなかった原因の人形がこれという訳か。」

 

「ということはイリー=コロン様の図書からサイコシスの召喚陣の組み方と召喚の呪文を知った、そこの少女…モリ=ウィーサが召喚の呪文でサイコシスを呼び出し…そして敗れて取り憑かれてしまったということか」

 

「神の怒りを買ったってところじゃな。しかし持ち合わせた高い魔力から、サイコシスに憑依されても人格の荒廃(こうはい)はせず、イリー=コロンの研究を信じるなら予言や占いの能力に加えて憑依された神の力を持つまでにパワーアップしてしまった。」

 

「でも1回魔導陣で自分で呼び出したなんて言ってなかったのに。」

 

「流石に混沌の神だって自分に対する記憶くらい消したのではないか?そして予言だか占いの能力で山にやってくる〝精神を司る神に等しい存在〟…マリーを見てこれそがサイコシスだって勘違いをした。そしてシオンとマリーが襲われたと推測(すいそく)が出来る。」

 

「なるほど、つまりイリー=コロン様が後生に残したと記されているサイコシスの討伐者がモリ=ウィーサさんとなるわけか。結果は敗れてしまった訳だが、本人の言うとおり魔女を継ぐ者だったのだな。」

 

「とにかく、何故彼女がサイコシスに取り憑かれたかはわかった。後は解離の方法、神の怒りを買ったのだとすれば厄介、解離自体はできても今度はわたし達に怒りが向くこととなろう。しかしここまで進んでしまえば我々でやるしかない。ワラ人形は……わたし達の魔力では使えないからどうしようも無いな。マリーよ?テグレクト邸でわたしにかけた、サイコシスの姿を〝見るだけ〟の保護、5人全員にかけられるか?」

 

『 不可能 アムちゃんと 主が限界 』

 

「じゃあ、あの怪物退治はわたしだけでするしかないか…シオン!マリーの嫌気全開よりも禍々しい姿だから吐くでないぞ!」

 

 ◇       ◇        ◇

 

 レイチドとフィリノーゲンさんには洞窟内部で待ってもらうころにして、僕とアムちゃんはマリーと手を繋ぎ、黒髪の少女の前に立った。

 

「じゃあ、解離を行うわ…。召喚の術も門もイリーコロンが記載した本にあった。神を無理矢理引っぺがすように解離させるのは難しいから助かるわ。私が魔方陣でサイコシスを召喚することでこの爆弾娘から解離してもらう。」

 

 アムちゃんが眠れる少女の前で呪文を唱える。いくつかの精霊が姿を現した。その精霊もアムちゃんにあわせて魔力を高めていく。徐々に魔力を高め周りの精霊の数も増えていく。

 

「ふむぅこんなところか、どれイリー=コロン借りるぞ!」

 

 アムちゃんは最大限まで魔力を高める。徐々に紋章が地面に現れる。たしかサイコシスを召喚する召喚陣だ。

 

「三度召喚させてもらう!!!!」

 

 召喚陣から光りが走り、すこしづつ姿をみせるサイコシス。その姿は、アムちゃんの口頭での説明以上であった。自分のしっぽを口で囓り、ぐるぐるとまわる目鼻口耳がでたらめについた醜態をさらした犬か豚のような何か…かとおもったら6つの羽根をつけたこれまたデタラメにグルグルと回っている何かに、そしてまた…と常にグルグルと姿が変貌していった。思わず吐き気を催(もよお)す。

 

 

 オオオオォォォオオォォォォオオォォオオォォォォォオオオオオォォォォォオオォォオオオ

 

 完全に召喚がおこなわれ、あとは調伏か退治のみ。

 

 「よっし!後は調伏のみ!」

 

 アムちゃんが数珠の様に束ねた小さな魔導陣をヒモの様に伸ばしグルグルと回るサイコシスに絡みつける。それを幾度も繰り返しどんな変異をされてもアムちゃんの放った魔方陣の束が絡まるようになりついに動きを停止させた。ヒモの様にとりつけられた魔方陣が徐々に大きくなっていく。

 

 アムちゃんはワラ人形からヒントをもらったと思われる、厄災の呪いを避ける魔法の代わりに妖精を召喚していた。気持ち悪さかマリーに護ってもらっても未だにある厄災の呪いかを妖精に転移させている。妖精達はあるものは混乱し、あるものは失神していた。

 

「このまま、逃げるでないぞ!!!」

 

 アムちゃんが最後の仕上げとばかりに魔方陣をサイコシス全体を覆うように多重にかけていく。そして…

 

「調伏完了じゃ♪ニヒヒ!」

 

 …あのおぞましい疫病神を調伏してみせた。

 

「おーい!終わったぞー」

 

 しばらくすると駆け足でフィリノーゲンさんとレイチドが戻ってくる。

 

「まさか…本当にサイコシスを調伏したのか?」

 

「うん、キモいので使う予定はないが一応。」

 

「ウィーサさんはどうなってます?」

 

アムちゃんは少女の頬にかるく手をあてる

 

「うん、サイコシスはもう感じないな。やっぱり一体だけだったようだ。」

 

「さて、ではあとはこの爆弾娘だけだな。事情も聞きたいし話したい。」

 

「サイコシスの憑依が解けた爆弾娘…どんな反応するかな?」

 

 うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ

 

『 じゃあ 起こしましょう 』

 

 パチン

 

マリーの合図と共に呪縛樹で縛られた黒髪の少女は少しづづ目を開いた。

 

「ふぁ!!?ここは!?なんで?なにで縛られてるの?魔力がきかない!冥界?天界?異世界?ちがう、イリー様の住処!なにこれ、どういうこと?あなたたち誰!?」

 

 目に正気を宿しながら右往左往ひどく混乱していた。

 

「すみません、僕たちに見覚えありますか?」

 

 僕とマリー、彼女がサイコシスと言って殺そうとしていた僕たちが少女の前に立って話しを聞いてみる。

 

「知らないわよ!誰?ここはなに?私死んだの?何で縛られてるの!?」

 

 モゾモゾと呪縛樹をほどこうと暴れながら話す。どうやらサイコシスに憑依される前の記憶はないようだ。

 

『 ちょっと おちついて 』

 

 マリーは銀髪を優しく逆立てる。

 

 

『 抗不安情動脱力処置  完了 』

 

 

 少女は目を少しトロんとさせ、矢継ぎ早に放たれていた混乱の言葉は治まった。

 

「流石にもう大丈夫じゃろう、呪縛樹は最低限にまで解こう。」

 

「あ、ああ。ここまで来るとすごい犯罪みたいで心が痛む……。」

 

 テグレクト兄弟がそういうと彼女の全身を包んでいた赤と青の呪縛樹は後ろでに縛る程度まで治まった。

 

「わたしは四英雄が一人、テグレクト=ウィリアムを継ぐ者。第48代テグレクト=ウィリアム あなたが退治しようとしていたサイコシスは、私が召喚術師として調伏させてもらった。あなたは?」

 

 アムちゃんが目の前の少女に近づいてやや威厳を含めた声で話す。

 

「わ、わたしは、イリー=コロン様の研究を継ぐ者、モリー=ウィーサ…です。テグレクトってあの騎士道物語やイリー様の研究にもあちこちに名前がでていたあの?」

 

「うむ、イリー=コロンはわたしの曾祖父の仲間だった。あなたはサイコシスに取り憑かれていたから助けた。記憶はあるか?」

 

「そうだ…私はイリー様の洞窟を見つけて、そこから魔導を学んで…イリー様の悲願を受け継いでサイコシスを討伐しようとした。」

 

「あなた今、年は?ちなみに私は12歳!ニヒヒ」

 

「あ、一つ下の年…です。私は今11歳…」

 

「「 !? 」」

 

 僕たち一同ウィーサという少女を眺める。どう見ても体つきが11歳のそれではない。既に成長期の真っ直中にあり、高い背丈や女性らしい膨らみがみてとれる。どう見ても僕やレイチドに近い年齢だった。

 

「11歳の少女がサイコシスに挑んだのか!?」

 

思わずフィリノーゲンさんがアムちゃんを割って問いただす。

 

「洞窟を見つけたのが9歳。そこから2年研磨して生命力を宿す魔導を学び、イリー様の書から討伐のヒントを得て召喚の紋章を描いて魔力を注ぎ…… ああ、だめそこから思い出せない。」

 

「辛いことを伝えるようだが…敗れてしまい怒りを買って憑依されてしまったのだろう。だがサイコシスの厄災ではなく、サイコシスそのものが憑依されていたにも関わらず3,4年も心身ともに荒廃せずにいられるとは…並の魔導師ではない。」

 

「混乱しないで見てくれ。これが今のあなた……。」

 

 アムちゃんが召喚の術で鏡を取り出す。過去を映すものではなく普通の鏡だ

 

「え!えぇ!?なに?私、大きくなってる…。そういえばサイコシスを討伐したってあなたが?」

 

 ウィーサがアムちゃんに改めて尋ねる。

 

「うん、討伐じゃなくて調伏じゃがな。召喚術や魔物の調伏なら、専門職に任せればよかったのだ。」

 

「調伏…、実習で聞いた…。じゃあサイコシスはまだ生きてるのですか!?」

 

「わたしの式としてな。なんならもう一回見るか?キモイからわたしは見たくない、別室でみてくれ。式になったからもう憑依されることはないのでそこだけは安心していい。」

 

「式?こんな女の子の?そんな…、私とイリー様の苦労は……。」

 

 ウィーサは落胆したように項垂(うなだ)れた。

 

「1から神の調伏なんて出来るわけ無かろう!?お主やイリー=コロンが残した対処法があったからできただけの話しじゃ!!それにわたしは男だ!」

 

 

「ジュニア、とにかく直ぐに事情を説明して理解してもらうのは難しそうだね。3,4年の記憶が無いなんて誰でも混乱する。一度テグレクト邸へ戻ろう。……この子は曾祖父の仲間の悲願を継承した者であり、終の棲家の発見者でもある。丁重なもてなしをするには十分な理由がある。」

 

 フィリノーゲンさんはそういって呪縛樹を完全に解いた。

 

「あ、動ける!…この洞窟こんなに禍々しい魔力なんて感じなかったのに。」

 

「ウィーサさんの魔力だ、と言っても今は理解できまい。来た道を戻るのだが、魔法による罠が多数ある。ウィーサさん気をつけて。」

 

「は、はい。」

 

 そしてその後ウィーサさんは洞窟を歩く中アムちゃんに多数の質問をしていて時折驚いたり、泣きそうな顔になったりしていた。ウィーサさんは10~11歳のときに仕掛けた野党の侵入を防ぐ魔法は朧気に覚えていたが、その何倍も凶悪な魔力でつくられた罠には記憶がなかった。

 

 そしてマリーの先導によって洞窟を抜け出し、これからテグレクト邸で一時的に彼女を保護しよう。そう考えていた時だった。

 

 

〝 心に 炎を 宿したもう 〟〝 万願成就 感謝いたします。 〟〝 私の仲間 よ ありがとう 〟

 

 僕たち全員の目にマリーの幻覚のような空中文字が浮かんだ

 

「マリー?じゃない!って…」

 

 洞窟だった入り口は巨大な魔導銀の球体で覆われた。

 

「なにがあった!?入り口が!!条件発動の魔導!?禍々しい魔力に隠れてて気がつかなかった。」

 

「イリー様のお屋敷が!それにあの煙…。」

 

 山の一角から煙があがっている。ガルーダで飛びその煙の元へ急ぐと地面に埋まるように煙突が設置されていた。煙が強くとても中には入れない、おそらく場所的にはイリーコロンの棺があった部屋、研究室そのものが燃えているのだろう。

 

「あれほど膨大な魔導の研究が……。」

 

「なんじゃ?そんなに燃やしたいほど見られたくない研究だったのか!?」

 

 その様子を呆然と眺めていたモリー=ウィーサが、アムちゃんにそっと囁く様に話し始めた。

 

「…いえテグレクト=ウィリアムさん、あの研究資料は元から部屋から一歩でもでると全て文字が消える書跡で書かれていました。私は全ての研究資料を読んだおそらく唯一の人間、イリー様の記した研究資料には端々に葛藤も挫折も自己嫌悪もすべてが包み隠さず記されていました。

 

 魔導師がこれから王国で発展していく中その指導者たる自分がこんな自らの過去に縛られている事への葛藤、そのために本来〝無〟であるものに生命力を宿すという非倫理的な魔導を作り上げてしまったこと。またサイコシスへの恨みと挫折の中にある一種の自己嫌悪。自分の代で終わらせられなかった事を悔やむ晩年の絶望、すべてを読んだ私にはイリー様の掛けたこの滅びの魔導が少し判る気がします。

 

 魔女迫害なんていう過去の暗部、本当に自分の代で終わらせたかったのです。そして〝過去に縛られる英雄〟という矛盾をイリー様は受け入れて、残りの人生のすべてをかけてサイコシス討伐に挑みました。しかし晩年まで掛かってしまい、力が失われていく絶望が研究資料からも感じ取れました。晩年の研究資料はほぼ日記のようでした。毎日のように東西戦争を共にした仲間、あなたのひいおじいちゃんのことも書かれていました…。」

 

そしてモリー=ウィーサは涙を流しながら話しを進める。

 

「先ほどの皆様も見たメッセージ〝 私の仲間 よ ありがとう 〟それがイリー様晩年の全てを表しているのかもしれません。苦楽の冒険を共にした15年の仲間達、その仲間がいずれ自分の生涯の悲願を叶えてくれるのではないかと。たとえ英雄として王国に貢献できなかった自己勝手な自分でも、笑いながら自分の苦しみに手を差し伸べてくれるのだろうと信じていたのだと思います。」

 

 

 ……思わず全員が無言になってしまう。その中でモクモクと上がり続けていた煙が徐々におさまりやがて、煙突から何ものぼらなくなった頃。入り口の魔銀の塊が消えた。

 

 僕たちは再び洞窟へ入って行くモリー=ウィーサのかけた魔法による罠も全て解除されている。洞窟の奥深くは焼け焦げており、やはりあれだけあった製本も束ねられた羊皮紙も残されていない。

 

 その中でひとつだけ、おそらくモリー=ウィーサによって納められた硝子の棺に入る老婆のミイラ。何の魔力も残されていない洞窟で、イリー=コロンの亡骸だけが残されていた。

 

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