召喚した式が強すぎて僕のやることがない   作:セパさん

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閑話 フィリノーゲンの子守

 こどもべや の一室で一見少女にも見える赤髪の少年が泣いていた。気がついたら部屋にひとりぼっちだったのだ。見渡すとおもちゃもあるしなにやら絵本を動かしたような音を出す不思議な動く壁もあった、でもひとりぼっちでとても寂しかった。しばらく泣いていると部屋の扉が開いた。

 

「ジュニア!大丈夫か!?」

 

「おにぃちゃん!!あのね、あのね!うん…」

 

そういって少年は〝おにぃちゃん〟に駆け足で走り、胸に飛びついた。

 

「おっと!」

 

「おにぃちゃんきたからだいじょうぶ!にひひ」

 

「そうか、ならよかった」

 

 そういって〝おにぃちゃん〟フィリノーゲンは弟の頭を撫でる。すこしくすぐったいらしく胸の中でモジモジとしているが表情は屈託のない笑みだ。

 

「…寂しかったのか?」

 

少年は兄の胸に埋まりながらコクりと頷く、青年は少し複雑な表情ながらもよしよしと抱擁する。

 

     ◇     ◇    ◇

 

 マリーさんの呪いによって突発的に訪れる第48代テグレクト=ウィリアム…弟の幼児退行。時間が経つにつれだんだんと幼児退行の呪いは収まり、20日近く本来の性格を取り戻していたのだが…リバウンドとばかりに今回はかなり強烈な幼児退行が始まった。幼児退行しても記憶と能力は継承しているが、考えや物のとらえ方が本来の11歳よりもかなり下回り、甘えっぽい子供の性格と悪戯好きの悪童の二つを併せ持つある意味テグレクト邸で一番厄介な存在となる。

 

何しろ実力は折り紙付き、昨日も神鳥を召喚して式の契約を解き、パチンコで殺人豆キラービーンを飛ばして遊ぶという文字通り神をも恐れぬ悪戯をしていた。マリーさんの手によって眠ってもらうことでなんとか事なきを得たが、自分一人ではどうしようもなかっただろう。

 

 狂気の呪いや生命の波長を狂わせる呪いを得意とし、元より解呪や物憑きの調伏を生業として召喚術師として発展してきたテグレクト一族よりも遥か高見をゆく未だに謎の多い弟子シオンの式 マリー 彼女を持ってしても、一度掛けた幼児退行の呪いは人格が統合されるまで待たねばならぬらしい。マリーさんの話しでは、目の前の弟は呪いによって無理矢理変異させられた姿ではなく〝本来こうなることもあった〟という正当な人格の一つなのだ。

 

 召喚術師の家系に生まれ一族でも類を見ない高度な召喚・還付・調伏をやってのけ、遂には第48代テグレクト=ウィリアムを継ぐことになった弟、もし育ち方が少し違っていれば11歳にしてはやや甘えん坊でイタズラ好きな人間になっていた、ということらしい。

 

「おにぃちゃん!あそぼ!」

 

 そう言われるとただただ魔物を調伏して技を磨くことのみに専念し、それを強要していた家柄で甘えている余裕などなかったであろう。イタズラなどできなかったであろう。だからこうして子供らしい一面をみせる弟が兄としては愛らしく思えてくる。

 

「そうだな、なにして遊ぼうか」

 

「う~んとね冥界ごっこ!」

 

「え?」

 

「おにぃちゃんがけろべろすで~、わたしがめいおうで~、ああペルセポネが足りない!ちょっとまってて」

 

 油断していたマズイ!私は急いで扉の施錠をしにいくそして、緊急コールを鳴らす。これを鳴らせばマリーさんが来てくれることになっている。既に弟の前には召喚陣が描かれて荒廃した世界と繋がっている。

 

オオオオオオオオォォォォォォォォオオオオォオォォォオオォォォォォ

 

 現れたのは巨躯に兜を纏い片手に持つのは裁きの槍、冥界の支配者冥王ハーデスそのひとである。

 

「ワレヲヨブノハナニモノゾ」

 

「え~!はーですじゃだめー、わたしがぺるせぽねしないといけなくなるー」

 

「ワラシカ?ナゼヨンダ」

 

「まちがった!」

 

「ソウカ、デハ ヨウガナイ ノ ナラバ モドラセテ モラウ」

 

「あ~門までしめるな~~~もーーーーーーー」

 

「ジュニア!」

 

門に近づこうとした弟を庇う、間違って冥界にでも引きずりこまれたら大事だ!

 

「ひゃあ!」

 

間一髪、なんとか弟を閉まりゆく門から離した。

 

「冥界ごっこはまた今度な。」

 

弟は少し不満げな顔の後再び私の胸にくっついてきた。

 

うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ

 

「あ、おねぇちゃん!いまね!冥界ごっごしてたの」

 

「冥王ハーデスまで呼び出した。流石に死ぬかと思ったよ済まないな寝ていたか?」

 

『 大丈夫 それに … 』

 

「どうした?」

 

『 すごく  微笑ましい光景 』

うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ

 

 そう言い残してマリーさんは帰ってしまった。結局弟が寝付くまで相手をつづけぐっすりと眠ったのを確認して私も自室に戻り入眠した。

 

   ◇      ◇      ◇

 

 朝日も昇る前、フィリノーゲンは自分の部屋でのみ鳴り響く局地的警報音で目が覚めた。

 

「目覚めたか、ジュニア…」

 

 この音が鳴るときはジュニアが本来の大人びた性格を取り戻した合図である。喜びと少しの複雑さを持ちながら特設の子供部屋へ急ぐ。

 

「兄上!面倒をかけた!さて貯まっている仕事はないか!?変わったことは?ふむ、どうやら今回は長かったようだな。さて、館の主として腕が訛っていないか先ずは朝の鍛錬からだ!」

 

 そう言って颯爽と中庭へ駆け出す弟、その背中が見えなくなるまで兄は見送り完全に見えなくなった後、子供部屋の片付けを始めた。

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