召喚した式が強すぎて僕のやることがない   作:セパさん

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理不尽で デタラメな まおうさま ①

「ああ、全てがデタラメだったらどれだけ素敵なことでしょう。」          

 

 それが魔王様の口癖でした。実際にデタラメでめちゃくちゃで捻くれものな魔王様でした。

 

 魔王といっても、魔物の軍勢を率いて世界を支配する……とかいうタイプではありません。ただ母親から受け継いだ、魔物しかいない屋敷の主で、他に名称が思い浮かばないので勝手に魔王を自称してました。

 

 あるとき部下のハーピーが冒険者の剣で討たれて神経をやられ、二度と羽根が動かなくなったことがありました。

 

「神経なんてなくても体が動けばいいのにね。」

 

 と魔王さまが囁(ささや)くと、屋敷から神経がなくなりました。それ以降、みんな神経や筋肉が無くても、自由自在に動き回り飛び回っています。

 

 あるとき部下の跳鳥が錬金術師の炎で火傷をしてしまいました。

 

 「火なんてなくなればいいんだ」

 

 と部下の治療をしながら囁くと、屋敷から火と明かりが消えて無くなりました。確かに火傷の心配はなくなりましたが、屋敷のコックは困りました。食事は生野菜と生肉ばっかり、それに魔王様の日課であるお茶会のお菓子も焼けません、お湯も沸かせません。

 

 仕方がないので麦の粉と砂糖を水で溶かした物と、水だけで入れた出がらしにすらならない色つき水でお茶会をしていました。

 

 「うん、これも悪くない」

 

 と笑顔なのは魔王様だけでした。部下は渋い顔をして、麦の粉を水で溶いた物を飲んでいました。火のない生活はしばらく続きましたが冬になると「やっぱり火があったほうが便利ね」と囁き、城に炎が戻りました。

 

 色々考えさせられることはありますが、それくらいデタラメな魔王様でした。

 

 「世界がわたしのものになれば素敵ね」

 

 と言えば、きっと世界は魔王様のものになっていたかもしれません。でも魔王様は小さな屋敷と、ダサイしあまり役に立たないけれど、自分に文句を言わずについてきてくれる部下がいればそれで満足みたいでした。

 

 そんな生活を何千年か続けていると、知らないうちにかなりの力を付けていたニンゲンが戦争を起こしていました。戦争になると魔物は狙われます。いい戦力になるからです。そして自分の領土を無差別に攻撃されると困るからです。魔王様は〝死〟というのが結構好きでした。

 

 これほどデタラメでめちゃくちゃなことは滅多にないからです。だから結構殺したり殺されたりするのが好きでした。もう少しで殺せそうなギリギリからいきなり本気で戦うのも好きでした。性格悪いですね。

 

「ああ!そうだわこのデタラメの素晴らしさを!理不尽の素晴らしさを!幼少期のお子様から青年、お年寄りまで幅広くご理解いただけるように絵本を書きましょう!」

 

 魔王様はそういって部下の跳鳥の毛を毟って、インクに浸し執筆を始めました。5分で挫折しました。

 

「そうだわ!なにも私が書かなくてもいいのよ!この屋敷ごと、絵本になればいいんだわ」

 

 そう囁いたとたんに荒野にそびえ立っていた2階建ての屋敷は一冊の本になりました。

 

 この本は様々な世界を回ります。

 

 読めば死ぬ絵本、持ってるだけで不幸になる絵本、奇跡を起こす絵本、捨てても戻ってくる絵本、不思議な事が起こる絵本……etc と様々な異名を持ちながら世界中を駆け巡っていきました。

 

 

 この絵本を最後まで読んだ人はいません。仮に読めたとしても、気まぐれな魔王様なので次の日には内容が一変してることでしょう。

 

 今日も魔王様は、ぼさぼさに羽根が伸びた跳鳥と化粧の崩れた醜女のハーピー、真っ白な髭の老龍、「ゲンザイ 火気ゲンキン!カキゲンキン!」と歌う、歌花・ソングフラワーとお茶会をして「なにか楽しいことないかしらぁ。」と呟いていました。

 

 ◇    ◇    ◇

 

 テグレクト邸の応接室で夫婦が緊張した面持ちで、魔力封じの封印硝子に入れられた一冊の本を机においていた。夫婦は主に本や絵画を卸す画商・書商人だったのだが、この本を手に入れてからというもの不思議で不気味なことばかり起こり、遂にはカリフの街の役人からこのテグレクト邸を紹介されたのだった。

 

 夫婦の緊張はかなりのものであった。何しろ自分たちでも何が起こったのかわからないことばかり。そして女中らしき幼い少女がお茶を持ってきたかと思えば、椅子にドシリと座り「当館の主です」と言ったときには自分たちはまだ悪夢の中にいるのかと絶望した。

 

 ……とはいえカリフの領主が紹介した四英雄の末裔、藁にもすがる気持ちで夫婦はこの本を手に入れてから起こった不思議で不気味な出来事を目の前の幼い少女に話した。

 

「あ、ああこの度はお時間を作っていただきありがとうございます。私どもは主に製本や絵画を卸している行商なのですが…この本を手にしてからというもの不気味なことばかり起こるのです。」

 

「ふむ、具体的にお話しを伺っても?」

 

「ええ、信じてくれないかもしれませんが…そうですねぇ。まず荷馬車の馬が逃げたのです。それも喋って!これは私も妻も護衛も目にしています〝これまで扱き使ってくれてありがとうブヒヒヒヒンン〟と喋ったかと思うと蹄で器用にヒモを外してそのまま逃げてしまったのです。赤字は承知で3日かけて近くの町で馬を買い直して無事王都まで着いたのですが……。」

 

「ふむ…」

 

「今度は売り物である絵画や製本がぐちゃぐちゃになっていたんですわ!文字も表紙もバラバラ、絵画はまるでインクが解けたかのようにグチャグチャな絵になってしまっていて…とても売り物にならず。我々夫婦は破産宣告をすることになりました。」

 

「それはお気の毒に……。」

 

「いえ、それが王都の役所で破産宣告の手続きに行くと我々一介の行商ではまず会えないような大臣様が対応して、宝石箱一杯の宝をくれたのです。その大臣様もなんというか…目が虚ろで断ろうものならば夫婦もろとも近衛に切り捨てられそうな勢いでした。不気味に思いながらも宝石箱を売り抜いてなんとか破産の危機を脱したのですが……」

 

「その本だけがどうしても残ってしまう……といったところか?」

 

「そうです!そうなんです!火にくべようが、川に流そうが、土に埋めようがいつの間にか手元に戻ってきて…もう気持ちが悪くて悪くて。それでカリフの町の召喚師や魔術士様に相談したのですが、どうにも手に負えずこのテグレクト邸を紹介されました。…ああ遅れました。こちらが紹介状です。」

 

 

〝テグレクト様いつもお世話になっております。この度行商夫婦の持ち込んだ本について当院で解析を行いましたが、魔力の類は私達の微力では感知できませんでした。念のため魔導封じの硝子に封印しそちらへ送らせていただきます。どうか御高察と御高術のほどをお願いします。〟

 

 

(まぁ、体の良い丸投げじゃな。)

 

「わかりました。この本はわたくし共の館で管理させて頂きます。またお手元に戻ったりすることがあれば直ぐにご連絡ください。」

 

「本当ですか!ありがとうございます!!」

 

 夫婦は肩の荷が下りたように安堵の表情を浮かべ、何度も礼をして去っていった。

 

(さて、呪いの類だっていうならマリーの助力があれば心強いけども、あくまでわたしに回ってきた仕事。まずは調査からか。)

 

 そう考えながらジュニア 第48代テグレクト=ウィリアムはお茶を啜り…顔をしかめた。

 

 ジュニア自ら茶摘みから購入した、香りもよく柔らかな味わいの季節のお茶。それがただの色つきの冷たい砂糖水となっていた。

 

 危機を感じたジュニアは、部屋中に小さな魔導陣を数珠のように編み込んで連ね、蜘蛛の巣のように張り巡らせた。

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

「ふぅ…、マリーと憑依できる時間も大分伸びてきた!心強いよ。」

 

 うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ

 

 テグレクト邸のいつもの鍛錬場、アムちゃんから〝今日は客人がくるからあまり騒がしい鍛錬はしないでほしい〟と言われたので、僕はマリーとの憑依の特訓に勤しんでいた。レイチドも図書室で文献検索の練習をしており、屋敷はとても静かだった。

 

 いつもは汗だくになってばかりだが、たまにはこんな訓練の日も悪くない、フィリノーゲンさんも、特に僕たちに関与するでもなく自身の訓練に励んでいた。ウィーサさんもうるさくならない程度に操作魔法の練習か、何十本もの剣でジャグリングのようなことをしている。

 

『 … 』

 

「?」

 

 そんな平穏な空気の中マリーの雰囲気が変わった…気がした。

 

「マリー、どうかしたの?」

 

『 凶兆 』

 

 僕の質問にマリーは簡潔にそれだけ答えた、こういう時のマリーの感は外れたことがないので馬鹿に出来ない。どうやらそれに対してはフィリノーゲンさんやウィーサさんも同意見のようで二人とも鍛錬の手を止めて僕たちの元へ駆け寄ってきた。

 

「マリーさん、なにかあったのか?」

 

「ねー、凶兆ってアム君に来たお客さん?」

 

『 … 確証はない ただ 不気味な気配 』

 

 マリーの基準で不気味というほどなのだから、ぼくたちの感覚ではとてつもなく奇怪な現象に違いないことだけはわかる。僕とマリー、フィリノーゲンさんとウィーサさんの4人は、アムちゃんのいるであろう客間へ急いだ。

 

「ジュニア!?」

 

「アム君?」

 

 客間で僕たちが目にしたのは、アムちゃんが蜘蛛の巣のように魔導陣を張り巡らせて、硝子に入れられた一冊の本と格闘している様子だった。アムちゃんの顔には汗が浮かび、硝子に入れられた本はあのアムちゃんの術をまるで受け付けず弾いていた。

 

「兄上!マリー!シオン!ウィーサ!すまぬ、解呪を依頼された本なのだが私も気がつかない内に呪いが発動されている。並の魔導や呪いではない!…だめだ、わたしの調伏の術だけでは無理か、一度魔導陣を解くぞ。」

 

 そう言うと部屋中に張り巡らされていた魔導陣はすべてアムちゃんに吸収された。その後、アムちゃんからこの本の経緯を聞いた。

 

「ふむ、不思議で不気味なことばかりがおこる本…か。」

 

「馬が喋って逃げるなんてぶきみー!」

 

「あの、この本の中身そのものは行商の夫婦は読まれたのですか?」

 

 僕は何気なく思った質問をアムちゃんにぶつけた。

 

「いや、開く気にもならなかったと言っていた。たしかに読めば手がかりは掴めるかもしれないがこれほどの品だ、開いた瞬間に命が取られても不思議ではない。」

 

 5人が机に置かれた本に目を落とす。アムちゃんですら正攻法では解呪できない呪いの品、厄介なものを押しつけられた…という陰鬱な気持ちがテグレクト兄弟からは感じ取れた。

 

 

(あ、かわいい子!一緒にお茶でもしない?)

 

 突然僕の頭の中に声が響いた。

 

(おいでおいで、おいしいお茶もお菓子もあるよ。)

 

 声の主を思わず捜す。…それは直ぐにみつかった、目の前の硝子に入った本からだった。

 

(ねぇ、おいで。おいで。)

 

 僕は誘われるままにふらふらと本に近寄っていく。あらがうことの出来ない声だった。

 

「おい!シオンどうした?」

 

「シオン君、危ないぞ!」

 

「ねー、シオンどうしたの?なんか変だよ?」

 

 硝子に入った本…これはただの本じゃない。中には僕を呼ぶ誰かがいる。

 

「な?魔力封じの封印硝子だぞ!?なぜそんな簡単に空けられる。おいシオンどうしたんだ!」

 

 僕が手をかざすと、硝子は普通のカバンのようにぱかりと開いた。僕は本を手にとって…、その本のページをめくった。なにやら絵本のような挿絵が沢山ついているが、書いている内容は理解できない難しい言葉ばかりだった。そして、魔王さまのお茶会のページにさしかかると僕は急に天地が逆転したような目眩に襲われ意識を失った。

 

   ◇     ◇      ◇

 

「あら、いらっしゃーい。お客さんなんて久しぶり、というかこの屋敷が本になってからは初めて?よんでみるものだね。はじめましてこの館の主で、この本の主人公 魔王様です♪」

 

 月光花の光りが照らす薄暗い屋敷の庭で、僕に話しかけてきたのは柔和な笑顔の白と黒の入り交じった服を着た白い肌の女性だった。周りには魔物…なにやらみるからにやる気の感じられない跳鳥やハーピー、老龍がお茶会の卓を囲んでいる。

 

「まぁ立ち話もなんだから座ってお茶でもどうぞ。」

 

 そう言って自称魔王さまは僕にお茶を出してくれた。

 

「お砂糖は?」

 

「いえ、このままでいいです」

 

「へーお茶はストレートで!ってやつですか!見かけによらず男らしいのね」

 

 魔王さまがだしてくれたお茶は…ただの水の味がした。

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