召喚した式が強すぎて僕のやることがない   作:セパさん

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理不尽で デタラメな まおうさま ②

パァン!

 

 強烈な平手の一撃が、僕の頬に直撃する。目の前にいるのは…僕の初めての式マリーだった。

 

 どこまで覚えているだろう。たしかアムちゃんの危険を察知してみんなで客間に行き、僕はそこで本から呼ばれる声が聞こえてここに来てしまったのだ。そして呑気に魔王を自称する怪しげな女や魔物とお茶会をしている僕に活を入れてくれたのは…他ならぬマリーだ。

 

 

 マリーの銀髪がかつて無いほどの嫌気を帯びて逆立ち。目の前の魔王を自称する少女に詰問する。

 

『 主に なにをした 』

 

「う~ん、暇だったから私達の仲間になってもらおうかなと思って、ダメ?」

 

『 許さない 』

 

 マリーの髪は逆立ちを通り越して真上に上昇すらしている。

 

「でもこの館の主はわたしで、この絵本の主人公もわたしなの。物語は主人公の思い通りになるって知ってた?わたし嘘ってつけないのよ。だからシオン君も私の仲間になれば……。」

 

 

 魔王がそう言いかけた瞬間だった。魔王は突然口をぱくぱくと動かすだけで、言葉を発さなくなった。

 

 

『 言語球体遮断処置 完了 二度と しゃべるな 言霊の悪魔  』

 

 

 マリーは僕が絵本の呪いに取り憑かれ、取り込まれたのを追いかけ自身も絵本の中へ入ってきてくれた。僕がお茶やお菓子と称して提供された、色つき水と小麦を溶いた砂糖水を飲んでいるとマリーがやってきて僕に一発ビンタを入れて正気を取り戻してくれた。

 

「ことだまの悪魔?魔王じゃないの?」

 

『 違う 魔物でも魔王でもなんでもない、正真正銘の悪魔 言霊 』

 

「えっと…魔物との違いがよくわからないや」

 

『 神に近い存在 疫病神より質が悪い 』

 

 魔王…改め言魂の悪魔はマリーの術に驚いているのかしゃべられないことを歯がゆく思っているのか全身を使って僕たちに何かを表現している。

 

『 彼女の囁きは 全てが現実となる 』

 

 その後マリーは悪魔の部下達を次々と体勢を崩す奇抜な柔術で倒して行き、屋敷には僕とマリーと言魂の悪魔だけとなった。悪魔の目には、部下をやられた怒りの色が浮かんでいる。

 

 そして悪魔は、お茶会で卓に用意されていたナイフを手に持ち…自分の喉笛のどぶえにナイフを突き立てた。黒い血が噴水のように飛び出ている。しかしそんなことは気にも掛けずに、悪魔は花壇に植えてある歌花を引きちぎった。

 

 歌花はピイギイイイイイと断末魔をあげる。悪魔は歌花の根本をナイフで切り取り、切り裂いた自分の喉笛へ生け花のように突き刺す。

 

〝アァ アァ タダイマ マイクノ テストチュウ♪〟

 

 ……言霊の悪魔、囁きが全て現実となる神に近い存在に声が戻ってしまった。

 

『 … 遮断したはず 』

 

〝 シャダン サレテル ワヨ 〟

 

 

 マリーに冷や汗が出ている。おそらく二度としゃべることができないほどの呪いをかけたはずだが、こんな手をつかって声を取り戻すなど考えもしなかったのだろう。幾ら悪魔とはいえめちゃくちゃだ。歌花を使って声を取り戻すなど…ん?

 

 ふいに僕にできそうなことが一つ…、本当に一つだけだが思い浮かんだ。この場面、魔王を自称する悪魔はマリーを、マリーは言魂の悪魔にのみ集中しておりどちらも僕など眼中にない、ならばこそ僕にできそうなことが一つだけある。

 

〝 ソウネ マリーサン アナタナンテ コノヨカラ キエテ イナクナ… 〟

 

 

 言霊の悪魔が、仮の声でそう囁こうとした刹那だった…間に合った。

 

 

 僕はガタガタと震える手で剣を鞘に納める。そうだ、歌花で仮の声を取り戻してるのならその歌花ごと切り落としてしまえばいいんだ。僕はテグレクト邸の鍛錬でしかろくに使ったことのない剣を使って歌花の仮の口を切り落とした。

 

 二人の様子を見るべく、僕は震えながら後ろの2人に振り返る。腰が抜けて足に力も入らず、ほぼ尻餅に近い形でやっと後ろを向いた僕が見た光景は…。唖然とした様子で僕を見つめるマリーと言魂の悪魔であった。そして…

 

 うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ

 

 マリーだけがいつもの可憐かつ不気味な笑い声をあげた。

 

『 流石私の主 あなたこそ 消えてなくなれ 』

 

 マリーはそう言って銀髪を逆立てる。

 

 今度は言霊の悪魔が冷や汗をかく番であった。悪魔は今まで温存していたのか、突如膨大な魔力を放出した。僕は再び天地が逆転したような目眩に襲われた…。

 

  ◇    ◇     ◇

 

「おい!おい!シオン!大丈夫か?」

 

 未だに失せない目眩の中アムちゃんの声が聞こえる。横にいるのはアムちゃんとウィーサさん、フィリノーゲンさんだ。僕は目眩を押して起き上がる、少し吐き気もするがそれよりも何が起きたのかの方が気になる。

 

「すみません、僕は?」

 

「マリーが行ったことは知っているな?急に本の中に吸い込まれたかと思ったら、二人揃ってまた本の中から飛び出てきたのだ。もうなにがなんだか……。」

 

「ああ、マリーは無事なんですか?」

 

 僕は思わずマリーを探す。マリーにしては珍しくぐったりとした様子で椅子に横たわっている。恐らく僕と同じように急な目眩や吐き気に襲われたのだろうか。

 

「それにしても…、あの本はなんだったんだい?」

 

 フィリノーゲンさんが僕に尋ねる。僕はマリーの話したこと、絵本の中での出来事。そして言霊の悪魔の存在をすべて話した。

 

「悪魔の絵本!?そんなものが本当にあったなんて……。」

 

「いや、僕は逆に納得だ。通りでジュニアでさえ、魔力も呪いの力も感じないはずだよ。」

 

「じゃあ、この本は今どうなってるんです?まだそのコトダマの悪魔とやらがいるんですかね?」

 

 ウィーサさんのその一言に、アムちゃんが恐る恐る魔導陣を本に近づける。…つい先ほどまでアムちゃんの術をはじき続けてきた本は、なにもない空間を通るかのようにするりと抜けていった。

 

「これは…もしや!?」

 

 アムちゃんが本を手に取りページを開く、するとアムちゃんの顔が驚愕に彩られた。僕も途中まで読んだ絵本の中身がすべて白紙になっていたのだ。つまりは…、最後の最後でぼくたちは悪魔に逃げられたのだった。

 

   ◇     ◇     ◇

 

 結果としては、本の正体は悪魔によるものであり魔力や呪いの類ではないこと。既に本自体の解呪は行われているが悪魔自体は払うことができなかったことを報告書にまとめてカリフの領主へ送り、テグレクト邸は報酬をもらい受けることとなった。

 

 はじめは僕やマリーの活躍のお陰だからと、そのすべてを僕たちに譲ってくれようとしたが、修業をさせてもらって寝食の世話までさせてもらっている身なので丁重にお断りした。

 

 アムちゃんからは「シオンは本当に悪魔なり九尾なりマリーなり変わった女に好かれるな」と、冗談ともつかないことを言われた。悪魔や九尾はともかく、マリーが来てくれなかったら僕は今頃まだあの薄暗い絵本の屋敷の中で魔物と悪魔に混じってお茶会をしていただろう。本当にマリーには感謝だ。

 

『 格好 良かった 』

 

「 ? 」

 

『 なんでも ない 』

 

うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ

 

 やはり、あんなお茶会よりもマリーと一緒に過ごす一時の方が何倍も何十倍も楽しいし幸せだ。マリーはベッドで悪魔辞典を読み、僕は今日の鍛錬内容のレポートを書く。そんな日常がまた戻ってきたことがとても嬉しかった。

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