召喚した式が強すぎて僕のやることがない   作:セパさん

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アムちゃん初めての学校

 伝説の召喚術師の館、テグレクト邸。テグレクト邸の一室で、テグレクト=フィリノーゲンは焦りや不安を押さえられずにいた。

 

 自分よりも召喚術に長け、46代目テグレクト=ウィリアムである曾祖父から目をかけられていた弟。その弟が47代目を継ぐにあたって課せられた試練に赴いて、既に10日が経つ。

 

 曾祖父は既に肉体は朽ち果て、病床で寝たきりとなっている。自身の肉体を凍結させ精神を解離させ、自分の精神を具現化し召喚することでのみ疎通がとれる。かつては伝説の四英雄のひとりに数えられた曾祖父の命はもう長くない。…というよりも、己の行える施術を最大限に行使して命を繋げている状態だ。

 

 そうなったのもテグレクト=ウィリアムの名を継ぐほどの才能を持ったものが、ここ100年現れなかったためだ。……フィリノーゲンとその弟が生まれるまでは。

 

 勝つにしろ負けるにしろ何か反応はあるはず。もし弟が敗れたならば、曾祖父が魔導陣よりあらわれ、47代目にふさわしい人間を再度指名し、再び試練を課すはずだ。しかしそうならないということは、弟は生きているということ。しかし勝利の報告も、敗北による逃走もない。

 

 

 5歳にして召喚と調伏、7歳で魔物の同時召喚および還付・憑依 9歳にして金色龍王の調伏までして、テグレクト一族の秘伝の全てをマスターしてみせた弟は、一族の掟に従い最後の試練というべき新魔の調伏・魔獣の生態研究までたどり着いた。「研究なんてめんどくさい!珍しい魔物に心当たりがある!」と笑いながら家を出て行った弟。

 

 その弟にいったい何があったのか、何かあったとして弟よりも力の弱い自分になにができるのか。兄の知らぬ間に、「アムちゃん」とあだ名を付けられていることも知らないフィリノーゲンは、深いため息をついて弟の帰りを待っていた。…待つことしかできなかった。

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

 

「がっこー?」

 

 47代目テグレクト=ウィリアム候補ことアムちゃん【命名:マリー】は、間の抜けた声で質問した。

 

「僕が通ってる召喚術師を養成するところなんだ、もしよければアムちゃんも見学してみないかなと思って…。」

 

 僕はあまり乗り気ではない提案を、目の前の幼い少女におこなった。何しろ目の前にいるのは僕の式マリーを強奪しようとした張本人。怒りが無いわけではないが、マリーの術であまりにも変わり果てたその姿には怒りをぶつける気にもならない。

 

 マリーはアムちゃんが元の記憶を取り戻し、僕やマリーのことを諦めさせるためには時間をかける必要があると言っていた。そしてマリーは僕の通う学校の授業を一緒に見学させると良いとも言っていたが、仮にも王立の名門学校に年齢が二桁いっているかも怪しい子をいれるのはどうかと僕は思ったのだが…。

 

「〝がっこー〟にいってみたい!おにいちゃんたちといくー!」

 

 目を輝かせる少女を前にすると、嫌とは言えなかった。マリーも乗り気のようだし、おそらくマリーの術で誰も違和感を抱かず授業を受けることができるのだろう。

 

 そしてアムちゃんを連れた初の授業は実技講習であった。小型の固定魔導陣を使用し、既存の魔物の召還でも調伏した魔物の行使でもなく、召喚獣そのものを術者が1から作り上げる基礎演習だったのだが…。

 

『 一部の記憶を消して 精神年齢を下げた わたしがアムちゃんにしたのはそれだけ 』

 

 マリーが言っていた言葉を、もっとよく考えていればよかったと反省するのは、この授業が始まってすぐの事だった。

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

 

 今日のカリキュラムは、新技術の基礎訓練となっている。

 

「それでは本日みなさんが学ぶのは、召喚術師には欠かせない秘術の一つです。シオン君、召喚術師が召喚獣を扱うために必要な3つの方法を述べて下さい」

 

「はい!

 

1つ目は、召喚の儀で魔物を召還し手なずけること。

2つ目は、魔物を調伏し召喚獣とすること。

3つ目は、錬成融合により魔物を錬成して一から召還術師が育て上げることです!」

 

 先生は僕の回答に、笑顔で「正解です。」と答えてくれた。

 

「しかし錬成・融合は、魔物の同時召喚・還付に次いで高等な技術です。媒介もなく単体で行うのは、今の皆さんでは不可能でしょう。そこで補助用の魔方陣を用意しております。皆さんの目の前にある小型の固定魔方陣がその役目となっております。」

 

 先生の長い話しが続いている間、マリーはアムちゃんを抱いて頭を撫でている。

 

「そしてこちらが、媒体として利用する鉄・黄麻・粘土・天然スライム・芥子です。今回は基礎なのでこちらでおこなってください」

 

 生徒分の融合材料がそろったところで各自、思い思いに材料を手にとって錬成を行う。

 

 僕も魔導陣に粘土2:鉄3:天然スライム4:芥子1を混ぜた媒体を置き渾身の力を込めた…。

 

「だめだぁ、光って形はできたけど…」

 

 できあがったのはヘンテコで、ヘトヘトになった半透明な跳鳥だった。ほかの生徒も形は違えど似たようなヘンテコでフラフラなとても式として使えそうにないものばかり。

 

「今日は基礎ですので、錬成できただけ皆様十分です。さすが3期まであがって来れただけありますね。」

 

 先生の励ましも虚しく、生徒一同意気消沈である…、そんな中だった。

 

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 轟音・爆音と共に女生徒の悲鳴が響き渡った。

 

 

 そこでぼくが目にしたモノは…、クレヨンで描かれたような真っ黒な球体が、これまたヘンテコな大砲や見たこともないグニャグニャな兵器のような何かを無数にとりつけた物体だった。

 

 大砲は壁を撃ち抜き、別の筒から連続して弾丸が発射されて壁に無数の穴をあけていた。その正体に気がついたのは先生ただ一人だったようだ。

 

「エビルコア!?そんな、あんな材料でこれだけの式を作る生徒なんて…。」

 

 先生が驚きながらつぶやいていた。これが幻覚じゃなければ、そんなことのできる人間は一人しか知らない。

 

「皆さん!!実験室から避難を!至急支援を要請して参ります。」

 

 先生がそう言うと、他の生徒は一目散に部屋から避難した。僕とマリー、アムちゃんを除いてみんなだ。

 

 

「お兄ちゃ~ん!わたしもやってみた~!みてみて~。」

 

 …アムちゃんは無邪気に僕の袖を引っ張り、エビルコアを自慢している。

 

「あの…その、すごいね。」

 

 言葉が出てこなかった。記憶は消され幼児退行しているが、目の前の女の子は、本当に伝説の召喚術師の系譜であることを実感させられる。

 

 うふふふふふふふふふふふふふふふふふ

 

 マリーはこの状況を楽しんでいるらしい。

 

「マリー、あれなんとかして!死人が出る前に!」

 

 壁に開いた大穴を見て、現状を思い出した。エビルコア、高位のダンジョンの最上階でも中々お目にかかれない高位の魔物だ。いくらクレヨンで描かれたようなデフォルメをされていようと、力は本物のはずだ。

 

 そしてマリーはこんな絶望的な一言を伝えてきた

 

『 わたしの 能力は 精神操作と狂気 機械相手に 通じると 思う? 』

 

うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ

 

 そう僕に伝えて、いつものように不気味で可憐な声で笑い始めた。

 

 

 ◇   ◇   ◇

 

 

 幼児が黒のクレヨンで太陽を描いたらこんな形になるのだろう。

 

 そんな異形の塊は、ポンッポンッビー と間抜けな音を出しながら、砲弾や光線で実験室の備品を容赦なく破壊していった。形はマヌケだが、この黒い塊はエビルコアという高位の魔物、作り出したのは伝説の召喚術師の血を引くテグレクト=ウィリアム継承候補であり、マリーの術により幼児退行をさせられているアムちゃんなのだ。

 

 「やっほーい!やっちゃえー!」

 

 陽気にはしゃぐアムちゃんは、悪戯っ子の表情を浮かべている。

 

 そうだ!エビルコアを止められ無いのなら、その召喚者アムちゃんを止めればいいじゃないか。

 

「マリー!エビルコアをマリーがなんとかできないなら、アムちゃんを眠らせるなり何なりして止めて!」

 

『 あんなに 楽しそう なのに ? 』

 

「 … ……」

 

 思わず眉間にシワが寄った。命の危機に際しているのに、どうやらマリーは動じていないようだ。

 

『 怒らない 』

 

「うっぷぅ」

 

 何度目だろう、僕はマリーの胸に抱きすくめられた。僕の苛立ちを察したのだろう。そして苛立ちも不安感も、恐怖心もマリーの抱擁の中に溶けていく。温かい。眠い。優しい。幸せな…

 

 ……って違う!ダメだここは威厳を!この場で頼りになるのはマリーで、僕はその術者なんだ。なんとか僕がリードしないと…。ダメだ、頭が混乱してきた。

 

 うふふふふふっふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ

 

 堪えられないとばかりに、マリーが僕を抱えたまま笑い始めた。

 

『 遊びは 終わり 』

 

 マリーは僕を放してエビルコアへ視線を向ける。そして銀髪を逆立て指をくすぐるように軽く動かすと…。

 

バッビッバババババババババッ

 

 エビルコアは急激な振動を起こし、黒い煙と目映い火花を散らし、やがてドロドロと黒い蝋(ろう)のような液体となり、地面に溶けていった。僕は目の前の光景を見ている事しかできなかった。

 

「うぅ…ぐぅ…ううう。」

 

 マリーはそんな僕を構わず、おもちゃを失って、泣きそうになっているアムちゃんを抱きしめ慰め始めていた。

 

『 さっきの答え 機械相手に私の術は通じるか? 』

 

 

「え?」  

 

 咄嗟のマリーからの質問に僕は困惑する。

 

 

『 答えは通じる 脳に電気が走るように 機械にも行動の過程がある 』

 

『 覚えて おいてね 主様 』

 

 うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ

 

 僕は自分が呼び出した召喚獣の恐ろしさに、そして召喚術師の道の難しさに欠片だけ触れられた気がした。備品は壊れ、穴だらけの実験室。そこに僕とマリーとアムちゃんだけが残された。

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