召喚した式が強すぎて僕のやることがない   作:セパさん

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マリーとデート 狂気のルーレット

 テグレクト邸はカリフという街の近くにある。統一王国5大都市に数えられ〝魔導と召喚術の街〟の異名をもつ、王国屈指の栄えた街だ。

 

 

 テグレクト一族の修行には安息日というものが設定されている。過酷な修行を休みなく続けることは、心身を破壊してしまう。そのため6日に一度はなにもせずに5日間の疲労を取り除き次の修行へ移るという目的で設定されているとのことだ。

 

 丁度安息日であった僕たちは、カリフの街を見て回ることにした。マリーも乗り気の様子で、雪のような銀髪に、宝石をあしらった髪飾りをつけている。……マリーにもお洒落心なんてあったんだ。などという失礼な発言は飲み込んだ。

 

 

「でもマリー、やっぱりその姿の方が綺麗だよ、かわいい。」

 

 

 うふふふふふふふ

 

 

『 デートだもの 』

 

 

 マリーはそんなことを言って、僕を赤面させた。たしかに僕は女性と町を二人きりで歩くなんて初めてだ。初デートの相手がマリー……なんだか悪い気はしなかった。

 

 

 そもそもカリフが召喚術と魔導に盛んなのは、1000年の歴史を持つテグレクト邸の城下である影響が大きい。また四英雄の一人にして東西戦争終結後、謎の失踪を遂げた伝説の魔導師イリー=コロンが終の住として魔導の研究に勤しんでいた……。

 

 なんていう噂ともつかない都市伝説まである。そのため王立学園の卒業生達が、カリフの街で働きながら魔導や召喚術の研磨や研究を行うことも珍しくない。

 

 

 街は召喚術師と魔導士の町ならではの店であふれていた。

 

 

【ゴーレムによる建築・解体業務承ります】

 

 

【業界一、精霊を利用した清掃業務。顧客満足度年間1位!】

 

 

【日中夜警備万全。式にて、夜盗・泥棒を瞬時に察知!】

 

 

 

 などなど様々な看板が掲げられている。

 

 

 僕とマリーはひとしきりウインドウショッピングを楽しんだ。学校を停学してから親からの仕送りが止められている僕にとって、買い物は慎重にしなければならない事項。テグレクト邸の名前で私物を買うのは流石に気が引ける。

 

 

 そんな中、マリーが有る場所で立ち止まった。

 

 

 うふふふふふふふふふふふふふふふふふふ

 

 

 

 そして突然いつもの不気味で可憐な笑い声をあげはじめた。

 

 

 

『 私の好きな 気配がする 』

 

 

 

 そう僕に伝えマリーが指さした先は〝カジノ〟であり、僕は思わず眉をひそめる。

 

 

「無理だよマリー、今の手持ちだとギャンブルなんてできないし、マリーの精神操作でお金増やすのは泥棒みたいなものだし。」

 

 

『 見るだけ みせて 』

 

 

 一度興味を持ったマリーを止められる者はこの世にいないのではないか。そのことを知っている僕はしぶしぶカジノの中へ入っていった。

 

 

 カジノの中は魔導士であふれていた。そして僕でも知っているルーレットやコイントス、カップ&ボールなどのありふれたギャンブルが行われており、ディーラーも含めた魔導士は魔力を使い、本来偶然の輸贏(ゆえい)であるはずの結果を魔力でねじ曲げあっていた。

 

 

 ここはタダのカジノではない、魔導師がお金を賭けて自分の魔力を競い合っている場所だ。言ってみれば拳闘場の魔導師バージョンなのだろう。

 

 

 マリーはいつの間にか僕の財布から抜き取った銀貨一枚を握りしめてルーレットへ向かっていった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 召喚術と魔導の街、カリフの一角に構えられたカジノ。半数以上の客が魔導師でルーレットやコイントス、カップ&ボールといった比較的単純なギャンブルがおこなわれている。そこで行われているギャンブルは偶然に支配された賭けではなく、魔導師が自分の魔力を使い、本来偶然であるはずの結果をねじ曲げお金を掛け合う、いわば拳闘場の魔導師バージョンのような場所だった。

 

 

 ほかの魔導師でない客もそれを理解しているらしく、ディーラーを含めた有力な魔導師のどの人物が勝つかを賭けの対象としている。

 

 

 ルーレットの上で転がるボールは本来曲線に回るはずの軌道がぐにゃぐにゃと曲がり挙げ句宙を舞い再び盤面に落ち、再び盤面を踊るように廻り始め、ついにポケットへ落ちていった。

 

 

 

「24の黒です。結果はディーラーの総取りとなります。失礼致しました。」

 

 

 青髪の若い魔導師が勤めるディーラーは客たちに爽やかな笑みを浮かべ結果を伝え、客の賭けていたチップを回収していった。少なくとも爪の先に火を灯す魔導しか使えない僕にはどうしょうもできない世界であることだけはわかった。

 

 

 僕からいつのまにか銀貨一枚を拝借したマリーはその銀貨をチップに変え、青髪の若い魔導師のいるルーレットへ向かっていった。

 

 

「マリー!今の見てたでしょ?マリーも魔導は使えないんだし、幻覚で結果を変えても後でバレるよ。そうなったら牢獄行きなんだよ!」

 

 

 カジノは大抵、結果が記録されるようにプログラムされており、マリーが幻覚によって〝6の黒〟を〝7の赤〟へ見えるよう幻覚をかけても最終チェックで不正がばれてしまう。カジノのルールにも「掛けられる魔導は盤面を廻る球体のみ」と明記されている。

 

 

 

 マリーが幻覚で結果を変えるのは、拳闘場で対戦相手の花道へ事前に落とし穴を掘るような行為だ。そしてマリーは無機物である銀の球体にまで狂気の呪いはかけられない。

 

 

うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ

 

 

 

『 では 楽しみましょう 』

 

 

 

 マリーは僕の心配をよそにルーレットの席へと座った。

 

 

「ご新規様ですね。ご来店ありがとうござます。お名前とご年齢をお願いします。」

 

 

『 マリー  24 』

 

 

「畏まりました。ルールは既にご説明を受けておりますね?ではゲームを始めさせていただきます。皆様こちらのご婦人マリー様はご新規のお客様です。皆様よろしくおねがいします。」

 

 

 

 青髪のディーラーはそう慣れた口上を述べ、賭けを開始した。……というかマリーの年齢は絶対嘘なのだろうなぁ。

 

 

『 黒 』

 

 

 そしてマリーは銀貨一枚分相当の青いチップを黒に賭けた。……そのとき僕はマリーの銀髪が軽く逆立ち、ディーラーの男に何らかの呪いをかけたのを見逃さなかった。

 

 

 そして赤と黒のポケットのついた盤面にボールが投げ込まれた。テーブルに椅子は6つ内魔導師は3人、ディーラーを含め4人の魔導師によって銀球は不規則な軌道を描いて盤面を動き回る。そして、各自の魔力が拮抗し合い最終的にポケットへ落ちていった。

 

 

「24の黒です。マリー様2倍付け。アデラ様は3倍付けとなります。おめでとうございます。」

 

 

 僕は胸をなで下ろした、どうやらマリーが掛けた術は幻覚などではないようだった。だが、なにをどうやったのか……。マリーの主たる僕にもさっぱりわからなかった

 

 

 

『 黒 』

 

 

 

 次のゲーム、マリーはチップ2枚。すなわち先ほどの勝ちの全額を再び賭けた。

 

 

 そして再び盤面で銀球が踊り始める。しかし、一つ変化があった。なにかを感じ取ったのだろう、テーブルにいた客の3人の魔術師が魔力を止めた。銀球はいままでと違い綺麗な曲線を描いてポケットに落ちていく。

 

 

 

「…24の黒です。 マリー様・ジーノ様2倍付けです。おめでとうございます。」

 

 

 3度連続で24の黒にボールが落ちたのだ、魔力の勝負であるから確率など当てにならないだろうが、異常なことであることだけはわかる。

 

 

『 黒 』

 

 

 マリーは4枚のチップを黒にかけた。他の客は探るように少額を24にかけていた。

 

 

 再び盤面で銀球が踊る。

 

 

「……24の黒です。 マリー様2倍付け、アデラ様・ジーノ様・ミラン様・ユキ様36倍付けです。おめでとうございます。」

 

 

 

 

 

「………24の黒です。 マリー様2倍付け、アデラ様・ジーノ様・ミラン様・ユキ様・タナド様36倍付けです。おめでとうございます。」

 

 

 

 

 

「………24の黒です。 マリー様2倍付け、アデラ様・ジーノ様・ミラン様・ユキ様・タナド様36倍付けです。おめでとうございます。

 

 

 

 

 

「…………24の黒です。 マリー様2倍付け、アデラ様・ジーノ様・ミラン様・ユキ様・タナド様36倍付けです。おめでとうございます。

 

 

 

 

 

「……………24の黒です。 マリー様2倍付け、アデラ様・ジーノ様・ミラン様・ユキ様・タナド様36倍付けです。おめでとうございます。

 

 

 

 

 

「……………に、24の黒です。 マリー様2倍付け、アデラ様・ジーノ様・ミラン様・ユキ様・タナド様36倍付けです。おめでとうございます。

 

 

 

 その後もマリーの座るルーレットの卓は異常さを極めていった。結果マリーが坐る前を合わせると13連続で〝24の黒〟のポケットに銀球が落ちたのだ。

 

 マリーのチップは2048枚になっている。そして他の客もかつて無いほどの大勝をしており一度支配人のチェックもあったが異常はないとのことだった。そして次のゲーム。すでに青髪のディーラーは涙目で手元が震えている。

 

 

『 赤 』

 

 

 12連続黒に賭け続けていたマリーはチップを2枚残し2046枚を赤に賭けた。他の客もマリーの異常性に気がついたのだろう。皆24に賭けるのをやめマリーに便乗しほぼ全額を赤にかけた。テーブルが高額のチップの山で埋め尽くされている。

 

 

 そして盤面で銀球が踊りはじめる。

 

 

 みんな魔術を使うことなく銀球を目で追いかける。綺麗な曲線を描きながら徐々に惰性を失ったボールはポケットに落ち、ディーラーは結果を震えながら伝える。

 

 

 

 

「…………に、24の黒です。結果はディーラーの総取りとなります。大変失礼致しました。」

 

 

 

 うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ

 

 

 

 客の皆は呆然としていた。そんな客を尻目にマリーは笑いながら僕の元へもどってきた。

 

 

 

『  チップ 一枚 勝った 』

 

 

 

 チップを銀貨2枚に換金し、僕はマリーが勝った銀貨一枚分で喫茶店に入った。マリーは早速置いてある本を読み優雅に紅茶を飲んでいる。

 

 

 

「ねぇマリー、種明かししてよ。」

 

 

 

『 ? 』

 

 

 

「さすがにマリーが座ってから13連続も24の黒にボールが入るなんてあり得ないし、マリーが何らかの呪いを掛けたことくらいは僕でもわかったよ。」

 

 

 

うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ

 

 

 

『 強迫性観念 及び 不安性侵入思考 』

 

 

 

「マリー…、毎回だけどわかりやすく説明してほしいな。」

 

 

 

『 あの中で 一番魔力が 強いのは 青髪 』

 

 

 

「それは僕もなんとなく気がついてた。一人ずば抜けてたね。」

 

 

 

『 彼に 自分の意思に反して 同じ行動を取らねば という 術をかけた 』

 

 

 

「つまり、マリーが座る前に賭けてた 24の黒 にボールを入れる魔術を〝繰り返さないといけない!〟って思い込んじゃうってこと?」

 

 

 

『 簡単に言えば こだわりや癖 抗えない とても強力な 』

 

 

 

「でも、最後は結局マリーが来る前くらいにチップが戻ったね。なんだか泥棒してるみたいで気がきじゃなかったからよかったよ。」

 

 

 

うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ

 

 

 

『 楽しかった 』

 

 

 

 マリーはそう言って、ギャンブルによって領地も財産も家族も失った貴族の物語をクッキーを食べながら読んでいた。

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