召喚した式が強すぎて僕のやることがない   作:セパさん

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初めての〝冒険〟①

※  ※  ※

 

 各地に点在する秘境・洞窟・魔物の巣・埋蔵金のあるとされる廃墟・古城、それらをトレジャーハンターや冒険者は〝ダンジョン〟と称して闘争を続け、幾多の成功と敗北による逃走、そして屍を生み続けてきた。〝ダンジョン〟の難易度は魔物の強さや環境に支配されており、高位の魔物のいない場所でも迷宮のように入り組んだ森や断崖絶壁、空気の薄い高地なども難易度の高いダンジョンとされている。

 

 そしてそのダンジョンの最上位にして最難関と呼ばれるのが〝絆の城〟である。かつて古帝国において生存して還った者すらいない秘境・洞窟・魔物の巣・古城を〝悪魔の城〟として立ち入り禁止の命令を出していた。しかしその立ち入り禁止令は冒険者やトレジャーハンターに対して逆効果にしかならず、制覇を求めた勇敢なる猛者達が次々と悪魔の城の餌食となり生還者すら報告がでなかった。

 

 そして東西戦争の時代。四英雄により、悪魔の城の一つ常闇の古城が初めて制覇されたことにより〝悪魔の城〟は四英雄の絆の象徴として〝絆の城〟と名前を変え、西デラス王国の誇りの象徴にもなった。しかし〝悪魔の城〟の危険度が低下したわけではなく、今日も〝絆の城〟もとい〝悪魔の城〟は勇敢なる冒険者を喰らい続けている。

 

   参考文献:絆の城 考察と一覧

 

 

※  ※  ※

 

 

 吹雪に囲まれ前も見えず、コンパスも狂いクルクルと指針を失っている。空気が薄く意識が遠のく感覚が僕を襲う。

 

『 下がってて 』

 

 白雪と猛風が立ち籠め前も見えないほどの吹雪の中、マリーは僕を火龍から庇い両手をかかげ銀髪が逆立つ。

 

 火龍は咆吼をあげ、狂ったように雪山の氷に何度も頭をぶつけ、牙を立てる。そして火龍の鋭利な牙の1本が折れたのを確認し、マリーは火龍を痙攣させ泡をふかせ倒した。仰向けになった火龍に素早く近づいて折れた牙を手に取り、マリーは熟練の狩人のように火龍の柔らかな腹から皮を剥ぎ取り、恐ろしいブレスの元となる胃液とそれを生み出す胃石をぬきとる。まずは、ぼくに龍の皮を被せてくれ、その後自分にも同じように火龍の皮を被せ暖を取る。

 

『 火 』

 

「え?」

 

『 火 を 灯して 』 

 

 僕の気づかぬ間に、火龍の胃石と胃液でつくられた簡素な焚き火の準備がなされていた。僕は唯一できる魔導、爪の先に小さな火を灯す詠唱を行う。そして焚き火に小さな火を近づけると、ものすごい勢いで着火し炎柱があがる。

 

「あち、でもあったかい、死ぬかと思った。」

 

『 まだ 油断しない 』

 

 焚き火にあたり、僕にくっついて暖を取るマリーに活を入れられる。

 

 火で灯される雪山の中、現在地不明。この傾いた斜面を下っていったら山を下りられるのだろうがどれほどかかるのだろうか。道を踏み外せば瞬く間に命を落とす山の道、生命を保つ者の体温を奪う雪の中、二つの関門が僕とマリーを襲っていた。

 

 命の危機は些細なことから訪れる、それを僕は今まさに肌で感じ取っていた。

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

  二度目の憑依以降、徐々に憑依の失敗は少なくなってきた。……未だマリーにリードされてだが。

 

 フィリノーゲンさんは自身の鍛錬と共に、僕たちにもかなり気を掛けてくれている。まるで数ヶ月前死闘をおこなったと思えないほどだ。そしてひとしきり基礎訓練を終えたフィリノーゲンさんは、僕たちにある提案をした。

 

「ダンジョンの攻略ですか?」

 

「ああ、本来は未熟な者は行くべからず!……といいたいところだが、憑依も行えよになってきたし、何より君にはマリーさんという強力な式がいる。そろそろ実践に向けた訓練をおこなうことも必要と考えたんだ。僕も初めてダンジョンに挑んだのは君くらいの年だった。」

 

 そして、フィリノーゲンさんは机に剣と鋼鉄のナックルサックをおいた。

 

「召喚獣に頼ってばかりでは成長しないからね。蔵から持ってきた。仮にもテグレクト邸のものなので能力は保証する。まぁダンジョンへ赴く君たちへのプレゼントだ、どちらがいい?」

 

そう、問われると僕より先に何故かマリーがナックルサックを手に取った。

 

「ははは、マリーさんは幻術だけじゃなくて格闘もできるのかい?じゃあシオン君、君にはこの剣を授けよう。僕からの餞だ。」

 

「はい、なにからなにまでありがとうございます。」

 

 受け取った剣は思ったよりも軽い諸刃のミスリル製で余計な装飾はなく、錆び一つないものだった。

 

 ダンジョンは元々洞窟や廃墟となった城に魔物が住み着き、そこに支配者たる強力な魔族や魔物、悪魔が住み着いて出来たと言われている。魔物が集めた財宝や、哀れにも命を落とした冒険者の宝や装飾品が多くあるため、トレジャーハンターや冒険者のパーティーが好んで挑む場所だ。僕は少し覚悟を決め結論を話した。

 

「では、行って参ります!」

 

 

 フィリノーゲンさんに勧められ本格的に向かうダンジョン。僕は行き先に頭を悩ませていた。

 

 

 僕は冒険というのがそもそも初めてである。学校の教員もいなければ、フィリノーゲンさんもいない。僕とマリーの二人で魔物や過酷な環境と戦わないといけないのだ。

 

 もちろん冒険には憧れている、騎士道物語を読み〝こんな冒険ができたらどれほど楽しいだろう〟と心を躍らせ僕は王立学校に入学したのだ、だが学校を3期で停学して一人前になる前に挑むことになるのは予想外すぎた。

 

 テグレクト邸の近くには多くのダンジョンがあり、カリフの街にもトレジャーハンターや冒険者が多くいる。ざっと徒歩で行ける距離だけでもドラゴン・殺人跳鳥の巣、人食花の生えた森、地下迷宮、古帝国時代の残頭台跡地と様々だ。馬車や泊まり込みを考えれば候補は枚挙に暇がない。

 

 ダンジョンの難易度と達成した報酬は必ずしもイコールでない、高位のダンジョンを制覇し最深部にたどり着いた頃には、既に宝は誰かに取られた後だった……など、ありふれた在り来たりな話しだ。

 

 今回は鍛錬が目的のためその辺は気にしない。ならば焦点は〝どこが一番経験値になるか〟である。

 

「ねぇマリーはどこがいいと思う?」

 

『 私 は どこでも 』

 

「う~ん、モンスターの巣とか行ってもなぁ。」

 

「シオン、なにをそんなに悩んでおる?」

 

 会話に入ってきたのは11歳に似合わぬ貫禄と風格を持つ、本来のアムちゃんだった。マリーによれば人格の統合にはまだ時間がかかるらしく、子供のようになる日と第48代テグレクト=ウィリアムに相応しい人格になる日が交互にやってきている。僕はアムちゃんに経緯を説明した。

 

「ふむぅ、修行の為にダンジョン…、マリーの弱点を克服できるような所を私なら考えるが。」

 

「マリーの弱点?」

 

「マリーは狂気を操る。実質私も兄上も手足が出ないほどにな。だが大自然相手ではどうだ?吹雪の雪山や火山の噴火口近くなど、厳しい環境に晒されれば流石のマリーも手足がでまい。」

 

「なるほど…、それは確かに経験になるね。」

 

「この季節だと山がいいぞ、丁度寒い季節だ。頂上までいかなくても死なない程度に登って戻って来れればそれでよいではないか。」

 

「そっか、マリーはそれでいい?」

 

『 あなた は 主 まかせる 』

 

うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ

 

 そうして、僕たちの初めてのダンジョンは雪山へ決定した。

 

……僕たちはまだ本物の〝ダンジョン〟の恐ろしさを知らなかった。 

 

   

 ◇    ◇    ◇    

 

 

 僕とマリーの二人による初めての冒険。ダンジョンは雪山になった。

 

 といっても、なにも頂上まで行くわけではない。適度に山道の歩き方、山での魔物との戦いを学ぶために赴くのだ。僕は厚いコートを、マリーも普段の桃色のドレスの上にモコモコとした厚着を着ている。そしてコンパスと路銀を持ち山に向かって歩いていった。

 

 2回ほど野宿をする予定なので寝袋ももっていく。おもったよりも大荷物で、既にばてそうだった。道途中のモンスターはリザードマンから跳鳥程度で、マリーの術や僕の稚拙な剣で簡単に片づいた。

 

 そして予定通り2回の野営の後目的の山へ到着した。

 

「近くに来ると大きいねー。獣道だからはぐれない様にしようね。」

 

うふふふふふふふふふ

 

「じゃあ、よろしくね。マリー」

 

『 死なない ようにね 』

 

「…。」

 

 冬靴の足跡が付く程度の雪道、魔物も冬眠しているこの時期。山道はなだらかで至って平穏だった。途中冬眠し損ねた魔物の屍が転がっている。山頂まで道という道はなく、冬育の木々が生い茂っていた。2度の野営をしてまできた冒険と考えるとやや拍子抜けするほど、何も起こらず僕たちは2合目付近まで訪れた。

 

「マリー!洞窟だ、ちょっと入って休憩しようか。」

 

 とはいえ初の山道、まったく疲れないわけがない。寒さもあり、雪風の当たらない場所で体を休めたかった。丁度よい場所に洞窟ともつかない穴蔵があり、僕はやや駆け足で洞窟へ急いだ。

 

「マリー、どうしたの?入らないの?」

 

『…』

 

マリーは沈黙して、洞窟の前にたたづんでいた。

 

『 油断 した 』

 

マリーが洞窟の前で僕に伝える。

 

「 油断? 」

 

『 解呪 不可能 魔法によるもの 』

 

「どうしたのさ、マリー。」

 

僕は様子のおかしいマリーに僕の不安が募る。僕は洞窟をでてマリーに話しを聞こうとした。

 

その瞬間だった。

 

 洞窟からでると、出てきたはずの洞窟は岩肌に変わっていた。景色が一片し前も見えないほどの吹雪が吹き荒れている。ホワイトアウトした五感、足下は急斜面に傾いており、僕は思わずバランスを崩して転倒した。

 

 

僕が入った洞窟はそれ一つが大きな転移の魔導陣だった。

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