皇女という設定でVtuber始めたら大変なことになった   作:フルシチョフ

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配信4回目!

「大丈夫?」

 

その出会いが必然ではないとしても、私はその出会いが素晴らしいものだと思ってしまった。

赤く染まった空から覗く彼女の凛々しさは胸の鼓動を早め、息を荒くさせる。

それが、小さい頃の、小さい物語だったとしても私を変えた人生の一幕ということを今も覚えている。

 

「あ、ありがとう…ございます…」

「そう、貴方が無事なら良かったわ。でも、無闇に道路に出ちゃダメでしょ?私が引き寄せなきゃ貴方引かれていたわ」

「ご、ごめんなさい…」

「ん、謝れて偉いわね。そうだ、お礼として一つお願いしてもいいかしら」

 

私はその言葉に少し胸がドキッとする。

彼女の身なりからかなり裕福な家庭で育っているということは一目瞭然。

だが、お礼として金銭を要求されたらたまったもんじゃない。

しかし、私の予想を嘲笑うかのように彼女の願いはただ単純なものだった。

 

「貴方の名前を教えて欲しいの」

 

その言葉にそれまでの邪な思考に陥っていた私はポカンと口を開ける。と、同時に笑いがこみ上げてきた。

その様子を見た彼女はおろおろしながら困惑の表情を浮かべる。

一頻り笑った後、目尻にたまった涙を指で拭った。

 

「ふー……。私は、桜山日菜。貴方は?」

 

彼女は銀色に靡く髪を押さえながら満面の笑みでこう言った。

 

ーーー私は、ただの皇女様よ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局、あの子の名前は教えてもらえなかったなぁ」

 

大学生となった私はあの子と二人で撮った写真を見つめながらそう呟いた。

あの皇女発言の後二人して笑い合ってその後一緒に遊んで、嫌がる彼女を説得して写真を撮って…。過ごした時間は本当に短かったけどすごく貴重な体験をした。

ベッドの上でゴロゴロしていると母親の声が聞こえてきた。

 

「日菜ー。お迎えが来てるわよ」

「ありがとう、お母さん。今いくわ」

 

服のシワを伸ばし、荷物をまとめ玄関へと向かうとそこにはスーツを着てる初老の男性がいた。

彼は私に軽く会釈すると家の横につけてある車へと私を促す。

 

「行ってきます」

「行ってらっしゃい。体には気をつけるのよ?」

 

車で数十分。初老が運転する車でとあるビルへと到着する。

車を降り、エレベーターで最上階へと向かう。

『社長室』と書かれているプレートへと入室し、私は躊躇することなく椅子に座る。

 

扉がノックされ、一人の女性が入ってきた。

 

「お疲れ様です、社長。本日のご予定なのですが」

 

私の名前は桜山日菜。

大学生(仮)の一人の女性だ。

 

そして、このVtuberの会社であるにじライブの社長である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆、こんにゃち……」

 

コメント:こんにゃち……

コメント:寂しげな声

コメント:大丈夫?

 

うう…。今日なんか知らんけど昔の夢見て悲しくなってる…。

あれは何年前なのかしら。

日菜ちゃん元気にしてるかなー。

 

「ちょっと懐かしい夢見て悲しくなってる」

 

コメント:さくちゃん泣かないで

コメント:でも悲しげなさくちゃん…いいわね

コメント:さく虐はNG

 

コメント欄は私を心配するこえで溢れているがこんなんじゃ今日の配信を無事に終われない!

よっし!切り替えて行こー!!

 

「でも今日はちゃんと配信するよ!」

 

コメント:偉い

コメント:この子は伸びる

コメント:さくちゃんはママで俺たちはパパだった…?

コメント:父性を得て、母性を得る

コメント:この熟語は流行る

 

「流行らんわ」

 

コメント:一蹴は草

コメント:否定助かる

 

この人たちは何を言っても助かるのでこっちも気にせず行けるから助かる(洗脳)

さて、今日やるのはマシュマロと歌配信だ。前段はマシュマロを消化し、後段は歌を歌う。

 

「マシュマロいっくぞー!」

 

コメント:ぞー!

コメント:ぞー!

コメント:ぞー!

 

『好きです付き合ってください』

「ダメです」

 

コメント:無慈悲

コメント:惜しくないやつをなくした

コメント:強く生きて

 

「初手これって中々に不安なんですけど…!次行きますよー!」

 

コメント:よー!

コメント:よー!

コメント:よー!

 

『ぴ』

「いやぴはわからんのよ」

 

コメント:草

コメント:どうしようねぇマシュマロだなぁ!

 

ほんとだよ!なんかこういいマシュマロ期待してたんだけど!!

いや期待した私がバカだった!!

でも、次行っちゃうぞー!

 

『炊飯器新しくしました!』

「おめでとうございます。……そういうのはTwitterでやってください」

 

コメント:大喜利始まったな

コメント:大喜利配信ってここですか?

 

「大喜利配信じゃありません!というか皆さん私への質問ないの!?」

 

コメント:そういう日もある

コメント:ランダム選択機能無能

 

そうなんだよね。

マシュマロが思った以上に来てたせいで選ぶのが大変だったからランダム選択にしたんだけど…愚作だった。

悪いけど選択機能は引退してくれぃ…。

 

『外見がアルエスト王国の某皇女の見聞した姿にクリソツな理由教えてください』

「お、まともなの来ましたね」

 

コメント:それ知りたかった奴

コメント:ランダム選択くん有能

コメント:掌くるっくる

 

コメント欄ではどうなの?と流れてくるがこれどうしようかな…。

別段答えてもいいけどこんなことやってるのメイド長に知られたり、サルエルトに見つかったりしたら大目玉だと思うんだよね。

 

「うーん…、単純にその皇女様の姿がドストライクだったからですね。だって、見聞した時点で美少女って感じだったし」

 

ここは誤魔化しておこう。あと、本当は美術のセンスがなく結局自分をモデルにしたことなんて誰にも知られたくないし。

 

コメント:自己紹介かな?

コメント:まぁそれは同意する

 

それから何個かマシュマロを消費するとちょうどいい時間になっているのに気付いた。

さてと、次は歌なんだけど…。あれ、なんだろうこの恥ずかしさ。

 

「……なんか恥ずかしくなって来たんですけど」

 

コメント:おうた弱々か?

コメント:大喜利で喉潰すから…

コメント:それらは俺らのせいであって

 

「ま、やっか」

 

コメント:!?

コメント:なんだ今のイケボ

コメント:男前皇女すき

コメント:新しい扉開いた

 

ん?なんか無意識に出した声が民どもに好評ぞ。

では、第一曲目聞いてくださいな。

 

「チューリングラブ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わった〜!どうだった?」

 

コメント:イケボとカワボの両刀使いとは恐れ入った

コメント:恐ろしいほど早い声替え…俺じゃなきゃ聞き逃しちゃうね

コメント:どや?俺の彼女すごいやろ?

コメント:お前の彼女じゃない定期

コメント:主将は農家で米を作っててどうぞ

 

おお〜、コメント見る感じかなりいい感じなのでは。

しかし、思った以上に男声の評判がいいですね。

……!

 

「じゃ、次の曲いくよ」

 

コメント:あびゃあああああああああああ!

コメント:かっこいいっっっっっ!!

コメント:まさか女にされるとは

コメント:さくちゃんそんな格好良くて誇らしくないの?

 

私が意識して出した男声でコメント欄が荒れに荒れ狂う。なんでしょうか。いつもコメント欄に踊らされてはいますがいざ立場が逆になるとこうゾクゾクってしますね…!!

さ、時間もないですしどんどん行きますよー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だっはー!!おっしゃどうだやってやったぞ!!!!」

 

コメント:誰だブリキノダンス3倍速歌ってくださいをリクエストしたやつ

コメント:【悲報】皇女壊れる

コメント:途中まで清楚だったのに…これじゃ清楚キャラが壊れるなぁ

コメント:ホラゲー配信でそれはもうぶっ壊されたでしょお爺ちゃん!

コメント:男声で3倍速ブリキノダンス歌う皇女かっこよかったよそろそろ結婚する?

 

 

おうおう!生憎そんなコメントに突っ込むほどの気力は残ってないんじゃい!!

というか本当に息が持たなかった!本当はやりたくなかったんだけどそれを言ったら逃げるの?って煽ってくるからついやってしまった…。

煽られたらやりたくなる年頃なの。

 

「ぜー…ぜー…、ん。では、歌も一段落した事ですし最後にマシュマロを一つ読んで終わりにしますか」

 

コメント:始まって2時間、体感2秒

コメント:良マロ期待

 

 

 

 

 

『ゲンガーの破壊光線!ピピピピピピピピピピ』

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーーーーーーーおつさく!!」

 

コメント:クソマロのトップオブトップで締めくくるVtuber

コメント:乙作〜!

コメント:おつさく

コメント:乙作

コメント:乙作

コメント:おつさく

コメント:今回(仮)こなかったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さくちゃんを崇拝するスレPart3

 

 

 

345:名無しの崇拝者

さくちゃん相変わらず可愛かったわ

 

346:名無しの崇拝者

クソマロを送ったやつはぜひ処してもろてですね…。

 

347:名無しの崇拝者

というか珍しくJD(仮)こなかったがどしたんだ?

 

348:名無しの崇拝者

なんでも仕事で見れなかったらしい

 

349:名無しの崇拝者

ソースはツイッター

 

350:名無しの崇拝者

大学生でれっきとした会社で働いているってそれ誇らしくないの?

 

351:名無しの崇拝者

ツイッターで荒ぶってて草

 

352:名無しの崇拝者

というか有能ニキもおらんなどしたんやろ

 

352:名無しの崇拝者

まぁ来たら労ってやるか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はあの日の記憶を掘り起こす。

そうだ、今日みたいな綺麗な夕焼けでそれであの子が私を助けてくれて…。

 

 

それでそれでそれでーーー。

 

 

 

 

でも、私は思い出せない。

あの子の顔が、あの子の声が、ただいたという事実だけが脳内にあって、不規則で規則的に彼女の顔と声だけがすっぽり抜け落ちていく。

 

 

写真を見る。

そこには小さい頃の私とーーー顔だけが黒く滲んだ少女の姿だけがあった。

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