時の勇者に成り代わったがオチを知らねぇ【完】   作:はしばみ ざくろ

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無事に引っ越しが終わりました!いやあ大変だった。
ネットも開通して一安心です。



晩ご飯は豚の角煮でした

「――――本日はボートクルーズにようこそ。沼の景色を心ゆくまでお楽しみください。

正面をごらんください。ダイオクタが進路をふさいでいます。本船はこのままダイオクタにつっこみます。しっかりおつかまりください。

デクナッツの城前でございます。毒の沼が広がっていますので足元にご注意ください――――」

 

 

 

 

 

デクナッツ国に繋がる橋の上に降り立つ。

本来ならば緑の木漏れ日が降り注ぎ、青々しい森林に囲まれている国なのだろう。今は見る影もない。

毒によって濁った沼と枯れた植物。毒素は土壌を侵食し、食物を腐らせ、この土地を沈めるだろう。

これは素手では触れない方がいいな。自然でこれなら人の皮膚などあっという間に溶ける。

つん、と鼻をつく悪臭。煙のように漂う魔力。これは嫌なものだ。澱んで澱んで放置された挙句の、コールタールのような魔。

青年の体にはちぐはぐな国だ。周りを見渡しながら歩いていると、眼前に影が降り立った。

 

「オマエ!変わった力もってるだろ?森からここまでずっと見てた!」

「サル?」

「君たちはさっきの子と違うね。どうかした?」

 

3匹の白猿が縋ってくる。膝丈より小さな生き物に、体を縮めて応対した。

 

「沼地の先にあるウッドフォールの神殿あやしい。だけど入り口わからない」

「もしかして守護神がいたり?」

「そう!」「そう!」「神殿はデクナッツのモノ。ずっと守ってる」

 

守護神が弱り土地も弱る。それは道理が通っている。

しかし傷ついた理由と、ムジュラとの因果関係はいまだ不明だ。

 

「オイラの兄弟、神殿に行くためにデクナッツの王に会いにいった。そしたら捕まってこの城の中」

「この国には人間も入れるの?」

「普段は観光客も来てる。でも今は・・・」

「国が混乱してるから難しいかな」

「うん」「うん」「でもこのままだと兄弟も沼地もあぶない。助けて!」

「もちろん。まかせておいて」

 

カバンからデクナッツの仮面を取り出す。お面屋の言うことが事実ならば、リンクの身に力が宿るだろう。

――――――装着。

魔力の奔流がリンクを包む。視界に瞬く光景。暗雲。立ち尽くす影。追い立てる影。冷たい風。責める影。

逃げる。

逃げる・・・

逃げ、る

 

 

 

 

 

 

 

逃 げ る

 

 

 

 

 

 

 

逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて・・・・・・・・・

怖い怖い悲しい悔しい惨めで怖い啜り泣きできないできないできないなれないあの子あの子があの子をあの子をこんな無理だよだってだって誰かボクにはだってやめてよできないよ見ないで怖い誰かボクはボクはいっそボクにはできない無理だよ怖いよ行けないいっそ死んでしまいたい――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

ぐくんと下がった視界。ちょこんとした2頭身。体の表面は木の木目。

ちまっとした手足。タコのような口と黄色く光る丸い目。服は外套だけが残っている。腰のカバンはそのまま。

魔力を放出すると口からぽぽぽっとシャボンに変わる。周りをふよふよと飛ぶ玉は、光にあたって虹色に光った。くるりと一回転。

門番は見なれぬ子供に首を捻って、しかし道をあけた。王宮には喧騒が響いている。

 

「このへんでは見かけない顔じゃ。旅の者か?」

「はい、西の方から」

「本来ならオマエのような者が国王の間に入ることは許されんのじゃが、今日は特別じゃ!これから我がデク国の姫を誘拐したバカザルをおしおきするところじゃ!王室の者にふざけたことをしたヤツがどうなるか・・・目にモノ見せてやる!」

 

怒りに燃える国王はすっかり周りが見えなくなっている。慌てる執事の声ももはや届かず、巨体がぶるぶると感情のままに震えた。

部屋の中央で燃える火種が、見守るデクナッツ達を煽るように燃える。

 

「オレは見たッピ!あのサルと姫様が夜中に神殿に入っていくところを!」

「あのサルは姫様を利用したんだッピ!」

「恐ろしいことだッピ・・・」

「サルめ!姫様をどこにやったッピ!」

 

ざわざわざわざわ。頭の木の葉が揺れる音。話し声は噂を呼ぶ。

 

「オイラを捕まえたって姫は戻ってこないってー。何度言ったらわかるんだよ~!ボヤボヤしてたら姫はバケモノのえじきになっちゃうよ~!」

「みなのもの!ナベの用意を急ぐのじゃ!」

「全然聞いてないし・・・。オイラの話信じてくれよ・・・」

 

飛び交う声が白猿の証言を跳ね除ける。国の異常事態に加え大事な姫が行方不明だ。デクナッツ達は完全に混乱していた。柱に縛りつけられ項垂れた小猿に、二人はこっそり近寄って話しかける。

 

「なんだオマエ。もうオマエらには何も言うことないよ・・・」

「俺たちは君の兄弟に頼まれてきたんだよ。そのバケモノの話を聞かせてくれるか?」

「そうよ。アイツらと一緒にしないでよね」

「なに?オイラの兄弟に?クーッ!すまねえ・・・」

 

小猿の沈んでいた瞳が明るくなる。ちらちらと柵の向こう側を気にしながら、姫の行方を教えてくれた。

やはり毒は神殿から流れ出しているらしい。沼の上に登っていけばそこには滝があり「ウッドフォールの神殿」がある。しかし神殿はバケモノたちの住処になっており、姫は捕まってしまった。なんとか小猿だけでも命からがら逃げれたものの、デクの王は話を聞いてくれない。

・・・姫はもしかして無断で出かけたのだろうか。なかなかお転婆の気配がする。

 

「神殿に入るメロディーを教えるから、姫を助けてくれ!オマエ、デクナッツならデクラッパ持ってるだろ?」

「えっああ多分」

「バレたらまずいからこっそり言うぞ!耳はいい方か?」

「それは大丈夫!・・・おーけー聞こえた!まかせろ!」

 

王様に伝えるべきかとも思ったが、ただでさえあの錯乱ぶり。先に救出して姫の口から弁明してもらった方がよいだろう。・・・いや、あの執事くらいには伝えておくか?

もう外は昼を過ぎている。流石のリンクも初見の神殿を攻略するのは大変だ。最悪朝日を拝むだろう。

わらびのようなくるんとした髭の執事に言付けて、二人は城を出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デクラッパって何だ。そんなん持ってないぞ。

ヘイ投影魔法!デクラッパを創って!ついでにあの花の傘みたいなやつも!

祭壇でメロディーは奏でられる。眠っている魂を、物を、目覚めさせる奏鳴曲。

ラッパは土地に広く遠く響いた。沼の底から神殿が迫り上がる。起きろ。起きろ。水底からいでよ!

デク花を飛び出して、リンクとチャットは神殿に踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画面越しに見ている。仮面越しにみている。

自分とは違う君を。自分ではない君を。

 

「ウッ!クサい!!このニオイ・・・!?」

「ずっといたら鼻がおかしくなるな・・・。はやく片付けよう(ウワーーッ!帰りてぇ!)」

 

慣れない体で魔物に突っ込み、シャボンを飛ばし、壺を持ち上げ・・・ようとして諦めた。デクナッツの、それも子供の体では壺すら重い。びっくりするぐらいひ弱なのだ。

 

「た、戦いづらい・・・(剣は無理だし、魔力を纏わないと壺すら割れねぇ!縛りプレイじゃん!)」

「しっかりしなさい!ほらドラゴンフライが来るわよ!」

 

しかしその代わりに出来ることがある。軽い体は水の上を走れるし、毒にだってやられない。

 

「もう明らかにデクナッツじゃないと進めない作りだな。仮面があってよかった(ヒューッ!デク花ジャンプたーのしー!)」

「そうね。アンタもだいぶその体に慣れたじゃない」

 

桃色の花傘で飛ぶ。子供なのでまだプロペラはついていないが、それでも十分だろう。

 

「ダイナフォスよ!」

「よし燃やそう。あ、宝箱(おっこれいいやつやんけ~。ありがたく貰っとこ)」

 

ダイナフォスを瞬殺したのには驚いたけど・・・。炎魔法で一瞬だった。

でもゲッコーにはちょっとイライラしてた。顔にはまったく出てなかったけど。

 

「こいつはデクナッツじゃ無理かな・・・」

「挑発されてるわよ。アンタ舐められてるんじゃないの」

「ははは(ンンンああ!?!?無敵モードあるやつかてめえ!!すぐ捌いてやっからまってろ!!)」

 

ボス部屋の鍵を手に入れ、弓で一矢。回転する燭台はあっさり火をつけられた。剣だけじゃなく、弓も凄く上手だ。

 

(お腹空いてきたな~。これ終わったらご飯にしよ)

 

特に深呼吸も躊躇いもなく、最後の部屋の扉は開けられた。

密林仮面戦士オドルワ。

この神殿に巣食う魔物である。――――ただ、リンクの敵ではなかった。存在の格が違う。

デク花ジャンプからのデクの実爆弾。空腹なのでさくさく進めるリンクにオドルワはただ翻弄されるばかり。あっさり目を回して膝をつく。

どこからか拾ってきていた木の枝でオドルワの目を攻撃する。・・・剣ではなく木の枝。別に舐めているわけではない。

 

(必殺目潰し!目を突かれたらみんな死ぬ!痛いからな)

 

・・・むしろ剣でないだけマシなのかもしれない。オドルワの悲鳴が神殿に木霊した。

無我夢中で呼び出した蟲は炎に飲まれて燃える。デクナッツは火に弱いが、流石に自分の魔法で燃えたりはしない。

 

(デクアターーック!炎モード!)

 

オドルワが弱いわけではない。リンクが強いのだ。

懐に一撃。勝負あり。

亡骸を残し魔物は消えた。

リンクは不気味な仮面を拾い上げ、首を傾げ、取り敢えずカバンに突っこむ。

 

「ヘンな仮面ね」

「とりあえず持っていくか(よくわからないぜ。入れとこ)」

 

軽やかにワープゲートを潜り抜ける。その背中がどうしようもなく格好よかった。

仮面に宿る魂。幼いデクナッツ――――デク助は、ずっと見ている。

そしておそらくこのデク助こそが、リンクの本当の声を聞いた初めての人物になるだろう。

 

(晩ご飯何にしよっかな~)

 

リンクの本性はわりとぐだくだしているとか、周りが思ってるほどクールじゃないとか、結構ご飯のことしか考えてないとか。美貌とかみ合わない中身でもデク助は気にしない。

生きているのか死んでいるのかもわからないこの身で、己のために歌を奏でてくれた人をどうして嫌いになれようか。

 

デク助は見ている。その勇ましい姿に魂が揺れて、揺さぶられて。

リンクはもう勇者ではない。退魔の剣は置いてきたし、緑の衣も纏っていない。

ただしそれはあくまでもリンクの自認であって、周りからどう見えているのかはまた別の話なのだ。

勇者とは何だ?何をもってして勇者となるのか?

その答えの1つがここにある。揺らがぬ信念と生き様は、鋭き剣の一振りなり。

それはやがて――――――世界の因果すら断ち切るだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ・・・?」

 

霧に包まれて目を開ける。柔らかい光の差す晴天の場所だった。

立っているのは塔か、柱か。下を見下ろしても白いもやが流れるばかり。

 

「ねぇ・・・なにアレ?」

 

チャットの声に振り向く。雲の流れる空の向こうに人影が見えた。

その姿はリンク達よりもずっと大きく――――。

 

「巨人・・・?」

『――――――――』

 

何か言って・・・、歌っている?

 

「もしかしてあの鳴き声、何かの曲を伝えようとしてるんじゃないの・・・?」

「・・・うん。あれは何かのメロディーだ」

 

オカリナを取り出す。耳を澄ませて歌を聴いた。

歌声を追いかける音色は徐々に寄り添うように。やがて共に響きだす。巨人の低い声、オカリナの透き通る音―――――。

 

『誓いの号令・・・』

「え?」

 

巨人が見ていた。リンクとチャットに、ただ真っ直ぐに呼びかける。

 

『よ ん で』

「呼ぶ・・・?」

「ちょっと!アンタたちはナニモノなの?」

 

雲海が遠ざかる。いくつかの謎を残して、ウッドフォールの呪いは解かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父様のバカ!!!ナニをしているんです!!」

「姫・・・王様ーーーーー!?」

 

デク姫誘拐事件(冤罪)は無事に解決した。

王様は盛大に説教を食らったが、まあ自業自得だろう。小猿と姫から感謝の言葉を受け取り、執事はお礼をしてくれるらしい。チャットと共に城の隣にあるほこらに向かった。

 

「リンク様、このたびは姫様のこと本当にありがとうございました」

「いえいえ」

「お礼と言ってはなんですが、あなた様のお役に立つ品を用意させていただきました。ワタクシの後についていらしてください」

「はーい(あっここでくれるわけではないのね?)」

 

執事を追いかけてほこらを駆ける。リンクを不思議な感覚が包む。

 

(なんか・・・これやったことあるような・・・?存在しない記憶か・・・?)

 

暗い道を走り、魔物を飛び越え水場を跳ぶ。あっという間にゴールにたどり着いた。

 

「さすがリンク様!では約束の品でございます。どうぞお納めください」

 

 

ブーさんのお面を 手に入れた!

 

 

「実はあなた様を見ていると、家を飛び出した息子を思い出しまして・・・」

「ほほう。息子さんがいるんですか」

「ええ。今はどこで何をしているのか・・・。昔のように息子と競争しているようなそんな気持ちになり、年がいもなく力を入れてしまいました・・・。失礼をお許しください」

「構いませんよ。・・・息子さんが心配ですか?」

「それはもちろん!・・・しかし、正直帰ってくるとは思っていません。ワタクシはあの子のことを何もわかってやれなかった・・・」

「・・・後悔しているんですね。きっと、謝れる時がきますよ」

「・・・ありがとうございます。最後に湿っぽい話をして申し訳ない。お帰りはそちらの光の中からでございます」

 

手を振って別れる。

人生は選択の連続で、間違いも後悔も存在しない者などいない。だからせめて、願うことだけは自由でありたいものだ。

 

「またお会いできる日を楽しみにしております。・・・お気をつけて」

「あなたも。お元気で」




ブーさんのお面
能力:ニオイをかぎわける力が鋭くなった。
お面屋のコメント:よく手入れしてあるお面だ。前の持ち主の方は几帳面なお方のようですね。
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