時の勇者に成り代わったがオチを知らねぇ【完】 作:はしばみ ざくろ
35周年も迫ってきましたし、楽しみですね。
・・・今年中に完結するかね?
広大な牧場は侘しくて暗い。
思わず戸惑って足を止めてしまうほど、暗澹とした空気に包まれていた。
時刻はまだ午前半ば。だというのに馬や牛が放牧されているわけでもなく、ただ青い草が風にながれている。
戸惑う足取りのまま話に聞いていた姉妹の家にたどり着く。隣は牛小屋だろうか。小さな犬が鼻を動かして来客を見上げた。
「アッ、アレ!!アンタの馬じゃないの?」
母屋と隣接する小屋で愛馬と再会する。やはりここに保護されていたようだ。
しかしどことなく元気がない。何かあったか?
「エポナ。何かあったのか?」
『リンク・・・。ロマニーが・・・』
まことのお面をかぶると動物と話すことができる。もちろん馬もだ。
『ロマニーが浚われてしまったの。犯人は東の方に逃げていったわ・・・』
「何だって?」
牛も一緒に浚われたらしい。なんてこった。
どうりで空気がめちゃめちゃ重いわけである。
エポナはなんとかしてあげたいようだ。気持ちはわかるし、まぁ・・・なんとかできないこともない。
というか、基本人間に興味のないエポナがここまで言うとは・・・。もしかしなくてもロマニーはマロンに似ているんだろうな。
お面を外し母屋の様子を伺う。
・・・こちらの家には居ないようだ。そうこうしている内に、牛小屋の扉が開く。
「・・・あ、お客様ですか・・・?」
「お邪魔しています。牧場主さんですか?」
青白い顔の女性が出てくる。キャロットオレンジの髪は艶を失って流れた。
まっすぐ立っているのさえ辛そうな様子に、リンクは思わず走って近寄る。
「ご体調が優れないようですが」
「・・・いえ、すみません・・・。妹が・・・少し・・・」
母屋の扉を開けると、ありがとうございますとかすれた声が返ってくる。このまま上がってもいいのだろうか。
「あの、牛乳を買いに来たんですよね。それともチーズですか?・・・もう牛は居ないので、出てる分だけになるんですけど」
「ではパックの牛乳を二本いただけますか?・・・それと、妹さんの友人から言付けを預かっているんですが」
「・・・・・・」
商品を持つ手が震える。紙袋にゆっくりと詰め、口を折りたたんだ。
料金と引き替えに受け取る。ほんのわずかな沈黙のあと、重い口を開いた。
「妹は・・・おととい・・・居なくなりました」
「・・・心当たりは?」
「お化けが、出るって言ってたんです。でも私信じなくて・・・。気のせいよって・・・」
合っていた目が伏せられる。どんどん声に涙が混じってきて、肩が震えた。
「私・・・私が・・・あの子の言うことを、ちゃんと聞いてあげていれば・・・」
「クリミアさん、」
「私が・・・悪いんです・・・!」
思わず手が伸びて、慌ててバッグに引っ込む。さすがに体に触るわけにはいかない。
変わりに未使用のタオルを差し出す。こらえきれない嗚咽が吸い込まれてくぐもった。椅子を引いて、努めて優しく声をかける。
「クリミアさん、少し座りましょう」
「・・・すみま、せん・・・」
場違いに温かい暖炉がぱちぱちと燃える。机の一輪差しは我関せず。
時計の針が動く音だけが、部屋の中を巡った。
「あの、」
「どうしました?」
「お友達の・・・プラムですよね。ごめんねって、伝えてくれますか」
「・・・ええ」
「タオル、洗って返します」
「お気になさらず。・・・少しお休みになられたほうがいいですよ」
小さく頷いて、クリミアが二階に上がっていく。
リンクとチャットも静かに退出した。
「エポナ、悪いがもう少しここで待っていてくれ」
「ぶるる・・・」
頬を擦りあわせて別れの挨拶をする。なんとか・・・するか~。あれは見て見ぬふりできんな。
「チャット、コッコ小屋に寄って戻ろう」
「・・・・・・。あ、ウン・・・・・・」
「どうした?疲れたか?」
「・・・・・・」
こっちも急に元気がない。どうした。
「ねぇ、ロマニーが浚われたのも・・・あの仮面のせいかしら」
「いや、まだそうとは決まっていないぞ。判断するにも情報が少なすぎるしな」
あ~・・・だんだん責任を感じてきたのか。あのクリミアさんを見ればなぁ。
「まったく関係ない事件かも知れないし、そんなにお前が落ち込むことはない」
「・・・別に落ち込んでないわよ」
「そうか。ところでエポナはまだ連れて行けないから、俺の懐が空いてるんだよな」
「・・・フン!しょうがないわね」
外套の内ポケットに潜り込んだ相棒をあやしながら、コッコ小屋に向かった。
「オレ、じいちゃんに聞いたよ。月が落っこちるんだって?あんなにでっけえんだ、この牧場もダメだろうな。はあ・・・」
肩を下ろす青年の周りでは、小さなひよこたちがちょこちょこと走り回っている。
外の騒動など黄色い塊には関係ない。ナデクロの優しい視線を浴びてのびのび育っていた。カワイイ。
「まあいいや。どうせオレはもう昔みたいに走れないしな。兄ちゃんは早く逃げなよ」
「ええ。ところでヒヨコ可愛いですね。近くで見ても?」
「おう。・・・ああ、でも。オレの心残りは、こいつらがコッコになった晴れ姿が見れねえことかな。オレが動ければこいつらを運動させて、もっと成長させてやるんだけどな・・・」
掌におさまるほど小さな命を慈しむ、ナデクロはいい男だ。
そして―――――動物、成長、運動。・・・なるほど。こういう時に使うんだな。
ブレー面を取り出す。今からリンクは動物楽団の隊長だ。オカリナを構え――――――。
「ん?」
「ピヨ、ピヨ」
軽快なリズム。飛び出すスキップ。
「ピヨ、ピヨ」
伸びやかなオカリナ。お面の白い羽根。
「ピヨ、ピヨ、ピヨ」
ヒヨコたちは列をなす。跳ねる黄色。大きく。大きく。
「ピヨ、ピヨ、ピヨッ!」
立派なとさか。ふっくらボディ。すらりとした足。
「「「コッ、コッ、コケーーッ!!!」」」
「みんなコッコに・・・これオマエがやってくれたのか?みんないっちょまえにトサカなんかつけちまって・・・」
「とても立派なコッコだ。あなたの育てかたが良かったんだね」
「そうか・・・。これで心残りはねえ。コレやるよ。昔足が速かった頃かぶってたんだ」
ウサギずきんを もらった!
「ありがとう。コッコ達と仲良くね」
「礼を言うのはこっちのほうだ。こいつらみんなオンドリなんだな。ヘヘッ!」
剣道場は町の西にある。
一日目も二日目も閉まっていたので、てっきりやっていないのかと思っていたが。
三日目の午後、剣道場は明かりを灯していた。
「失礼しまーす・・・」
様子を伺いながら開けた先で、い草の香りとぶつかる。今はもう遠い、前世をわずかに想起する香り。
部屋の奥に畳の間。座布団に座するは老人。座禅を組んだ佇まいは、自然と背筋が伸びてしまうほど凛としていた。
「客人とはな」
「・・・は、初めまして」
――――――――――圧。
一声発しただけで。
殺意ではなく、敵意でもない。今までに対面したことのない圧迫感がリンクを襲う。
磨いで磨いで叩いた刃物の剣先が喉元に突きつけられているようだ。こんな人間が
構えたまま動けないリンクを見て、老人はふっと息を吐くように笑った。
「そう気張らずともよい。若人にはちときつかったか」
「あなた、何者・・・?」
「さて、いまはただの剣道場の主よ。剣を教わりたいのかな」
「・・・ええ、是非」
体が震えたのは武者震いか。なんという幸い。この老人は俺より強い―――――。
「真剣でも構いませんか」
「威勢がよいな。買ってやろう」
―――――いざ。
刃が空を切る、鋭き音。
「・・・ッッ」
歩法、体捌き、呼吸、死角。数多の現象が絡み合い昇華した技術は、もはや次元跳躍に等しいという。
物体が発する《気》。識を操る《意》。その両方をコントロールしたとなれば、もはや相手に対応する術はない。
リンクがその刀を受け止められたのは、類希なる聴覚の鋭さによるものだった。反射的に剣を掲げ一撃を防ぐ。
「ほう」
反撃のために打ち払おうとした刃は、しかし反対に絡め取られる。
切っ先が天を向く。剣だけではなく体全体が傾くのを、背筋の筋肉で無理矢理振り下ろした。
踏み込んだ斬り上げはわずかな後退で避けられる。横薙ぎ、逆袈裟、右薙ぎ・・・。
老人の刀は舞うような軌跡を描く。まるで流水が流るるように、受け流しすり抜け滑り落とす。
柔能く剛を制す。重力を支配下に置いた刀術は、リンクの重い剣撃を赤子の手をひねるように狂わせていく。
「・・・ハ、ッ。・・・ふー・・・ふー・・・」
しかし。
徐々に、徐々に――――。リンクの剣が動きを変えていく。並外れた観察眼が、その水の舞いを取り込まんと動く。
剛ではなく柔。岩ではなく水。しなやかな柳。
喉元を狙った刺突。弾かれる。逆らわずに体は跳んだ。すり抜けて後ろへ。
一撃では足りぬ。二撃でも足りぬ。ならば三撃――――――!
「――――よい腕だ」
「・・・・・・は?」
膝をついていたのはリンクの方だった。
躱され、いや、斬られた――――?手応えはなく、ただ断ち切られた感覚がある。
もしも老人に殺る気があったなら、リンクは死んでいたかもしれない。
「剣の頂は各々違うが」
老人が刀を鞘に収め、手を差し出しながら語り出す。
「儂が目指したものは、斬るべきを斬り、斬るべからざるを斬らぬ剣」
「・・・概念、魂。そういうものだけを斬るってこと?」
「理解が早くて結構。構えるがよい」
夜が更けるまで打ち合いをした。リンクはまだまだ強くなる。
花火が高々と打ち上がる。空で火薬が燃焼、破裂。鮮やかな火花が花開く。
からくりの時計が動き出し入り口が上がった。木造の階段を登れば、そこはもう赤い空。
「月が・・・!」
「笑ってる・・・」
にたりと嗤う月が見下ろす。
なぜ今まで気づかなかったのか――――――。地をねめつける残忍な目玉。
タルミナの狂った月を背負って、スタルキッドが立ちふさがる。
「ネエちゃーーん!!」
「あっトレイル!も~アンタたち探したわよ」
ふわふわと浮く紫の妖精はトレイル。はぐれていたチャットの弟だ。
「ねえねえスタルキッド。アンタのかぶっている仮面、もう返してあげたら?」
「・・・・・・」
「ねえちょっと、聞いてる?」
「ネエちゃん・・・スタルキッドはもう・・・仮面に飲まれちゃった・・・!」
トレイルの悲痛な声が届く。
嘲る笑い声が空に木霊した。
「引っ込んでろ!バカ妖精!」
「ああっ!弟になんてことするのよ!」
スタルキッド―――――否。ムジュラの仮面に飲まれた今、ただの悪意の塊と化す。
理不尽な暴力がトレイルを襲う。リンクの剣を握る手に力が籠もった。
「ムジュラ、どうしてタルミナを壊すんだ。人が憎いのか?」
「憎い?草を毟るのに理由がいるのか?お前も一緒に壊してやるから安心しろ」
白線が空を走る。
常人には到底視認できぬ一撃であったが、仮面に届く前に謎の風にかき消される。
(これは・・・。この感じ・・・。まさか月が落ちてくるのって空想具現化か!?)
文字通り、空想を具現化する能力である。
本来は自然、世界の触覚である精霊が持つ能力であり、自己の意思を世界と直結させ、範囲は局所的ながら因果に干渉する。望む空間になる確率を意図的に取捨選択し、世界を思い描く通りの環境に変貌させることができる。
デクの樹が己の領域である森を、迷いの森に変化させたのもこの能力である。
ということはあの仮面は精霊・・・?いや、儀式に精霊種を使ったのか・・・?
(となると・・・まるごと吹き飛ばさないと無理だな)
剣に全身の魔力を込めていく。
膨大な魔力をもつリンクの、その全てが一振りの剣に収ま――――――
バキッ!!
「・・・・・・」
「? ・・・・・・!」
「あ?」
お、
折れたーーーーーーー!?
「な、なにしてるのよアンタ!はやくアイツを何とかしないと!」
「いやちょっと待って・・・。ここで折れちゃうかぁ・・・」
よくよく考えればただの金属の剣。で、あんな名人と打ち合ったんだからそりゃ罅くらいは入る。
魔力を通しやすい合金でもないし、今まではただの剣として使用していた。なのにうっかりコキリの剣やマスターソードと同じように力を込めてしまったのは完全にリンクのミスである。初心者か?
「・・・と、時の歌」
「え?この歌は・・・?」
リンクがオカリナを吹いた。死んだ目で。
時が巻き戻っていく。戻っていく。七色の風が導く。過去へ、過去へ。
「――――――今のはいったい何だったの?あれここは・・・一日目に戻ってる・・・?アンタいったいナニモノ?さっきの曲といい、その楽器といい・・・」
「ただの魔法使いで音楽家だよ。・・・さすがに剣は戻らなかったか」
とても反省しています。はい。すいませんでした・・・。
あの
「チャット。巨人を助けに行こう。恐らく何か知っているはずだ。あと俺も少し鍛え直さなきゃな」
「ウン。アンタ・・・なんかなれてない?その調子で残りの3人もがんばって助けてあげなさいよ。ねえ!その・・・アンタに今までしたことと馬のことは・・・謝るわ。・・・ゴメン!ちゃんと謝ったからね!根にもたないでよ!」
「はいはい、もたないよ。じゃあ、行こうか」
いろいろあったが、二週目である。気を取り直していこう。
次に目指すはスノーヘッド。鍛冶屋とゴロン族。そして巨人の住まう神殿である。
最初の朝 ―あと72時間―
ウサギずきん
能力:野生の力がわいてくる!足がとっても速くなるぞ。
お面屋のコメント:これはいいモノだ。動物への優しさがいっぱいつまっている。
デクナッツの仮面
能力:デクナッツに変身する。
お面屋のコメント:幼いデクナッツの魂を感じます。これはいい仮面だ。アナタへの感謝と尊敬が溢れんばかりにつまっている。いい仕事をしましたね・・・。