時の勇者に成り代わったがオチを知らねぇ【完】 作:はしばみ ざくろ
春はあけぼの・・・・・・・・・おや?
まるで忘れ物をしたかのように吹き抜けた冷風が、春を迎えたはずの山を冷やす。
のどかな春空は灰に染まり、やがて堪えきれないように雪を降らした。
しんしんと。綿々と。
粉雪は大地を蹂躙する。凍りついた世界がその惨状を呈する。もはやこの山に安息はなく。ただ震える生き物だけが残された。
やがて寒波が三日を越えたころ―――――――風花の向こうから、山道を登る人影が見えた。
青年は深雪を踏みしめて歩く。被ったフードから見え隠れする青が山里を見渡した。鍛冶屋を見つける。
「ウゴォ~ォ!ウゴォ、ウゴウゴッ?」
「うるせえー!人が折角いいユメ見て・・・あっいらっしゃ~い」
からんからん、とベルの音に反応してカウンター向こうの男が振り返る。会釈をすれば、ソファーに寝ていた男を起こしてくれた。
「仕事は遅いが切れ味バツグン。山の鍛冶屋にようこそ。オレは主人のズボラだ」
「ウゴォ~ォ!ウゴ、ウゴ」
「そっちのバカでかいのはオレの助手でガボラ。力だけのデクノボウ野郎さ」
「剣を買いにきたんだが・・・。なるべく頑丈なやつがいいな」
「う~ん・・・。頑丈な剣っていったら金剛製だがな。ここんとこの異常な寒さのせいで、ゴロンからの仕入れが途絶えちまってね」
鍛冶屋で使う鉱石はゴロンの探鉱所から仕入れているらしい。
しかし突然の寒波により配達が来なくなり、姿も見なくなってしまった。そうでなくとも炉が凍りついてしまい、仕事ができないようだ。
「このまま春が来なきゃ、ウチの商売もあがったりさ・・・」
「ウゴォ~ォ!ウゴ、ウゴ」
「えっナニナニ?裏山の温泉?わかったことをいうな!このデクノボウ!この寒さじゃ温泉だって凍ってるだろ!」
「ウゴォ・・・」
温泉もあるのか・・・いいな・・・。
ゴロンの里への道を教えてもらい、鍛冶屋を出た。雪道を上っていけば湖にたどり着く。橋を渡ればゴロン族の住まいである。
む、誰か居る。
「さ、さむいゴロ・・・。この寒さの中で門番するのはつらいゴロ」
「ハロー。中に入ってもいい?」
「じゃあゴロンプレスで入り口を開けるけど・・・。中が寒くならないようにすぐに閉めるから、急いで入るゴロ」
門番も大変である。段差を飛び降りほこらに入ると―――――――。
「うえええええ~~~~~~ん!!!うわぁ~~~~~~!!!」
「う゛!?」
咄嗟に耳をふさぐ。脳を突き抜ける大声。閉ざされたほこらに反響し、四方八方から頭に響く。
リンクの聴覚にこの空間はきつい。防寒魔法に聴覚防護を重ねがけし、なんとか奥に進もうとすると、懐からチャットが飛び出てきた。
「なにようるさいわね!もう雪山は越えたの?」
「いまど真ん中かな・・・。ちょっと待ってて。聞いてくるから」
周りのゴロンに話を聞くと、長老の息子が泣き止まないそうだ。長老はスノーヘッドに出かけたきり戻ってこず、さみしがってぐずっているとか。
タルミナ北部の山岳地帯、スノーヘッドの頂上に巨人が眠ると言われている神殿があるようだ。
と、いうことはやはり山登りか・・・。冬の登山は危ないんだけどな・・・。しょうがない、山里に戻るか。
ほこらを出ると途端に叩きつけられる風。魔法で寒くはないが、やはり気は滅入るものだ。
「ホーホッホッホ。また会ったな、巫女の子よ。ワシの歌は役に立っておるか?」
「あ、フクロウ!」
「ゲポラ・・・」
ばさり、と羽音。目の前に降り立ったのは時の女神の遣い。ケポラ・ゲボラである。
「まわりのゴロンたちを見るがいい。この山はもうじき雪と氷におおわれ、生きる者の住めぬ場所になる運命じゃ」
「沼と同じだ。・・・ゲポラ、巨人達は何を封じていたの?」
「お主がそれを知るにはまだ時が来ていないの。子よ、この山の運命を変える決意はあるか?」
「もちろん。春がこないと俺も困るからね」
フクロウが笑う。大翼を広げてリンクを導く。
「今からワシがあのほこらまで飛んでいくから、その後をついてくるのじゃ。よいか?肝心なものほど目に見えず、触れることもできぬ。しかしそれでも信じることができる勇気こそ、この先をひらく力となる!」
空を舞う羽根はそのまま空中に止まった。うっすらと雪が積もるあの場所に、目に見えぬ足場があるのだろう。
軽快な足音を立ててリンクが跳躍する。フードが風に煽られて肩に落ちた。
髪を縛っておいてよかった。あっという間にほこらにたどり着き、宝箱を見つける。
「ホーホー。確かにお前の勇気と決意は見届けた。これから先も見た目にだまされることなく、自分の感じたことを大切にすることじゃ」
「ありがとう、ゲポラ」
「またいつかお前と会える日を楽しみにしておるぞ!」
まことのメガネを 手に入れた!
「これは・・・足跡?」
「長老のじゃない?スノーヘッドに行ったんでしょ?」
謎の足跡は山里まで続いていた。傾斜の険しいスノーヘッドへの道を進む。雪に埋もれた道は細くて滑りやすい。
・・・・・・足跡は崩落した道で途切れていた。長老は落ちてしまったのだろうか?
「どうするの?」
「・・・降りよう」
魔力で身体強化。念のため杖を手に持ち、崖から飛び降りた。
墜落
転落
落下
着地
「――――誰か埋まってる!」
雪で覆われた深い渓谷に、まことのメガネでしか見えない人影があった。杖を振るう。
魔力によって形成された炎が雪を溶かしていく。真っ赤な炎は舐めるように谷を這い、凍りついた谷間を暖めた。
埋まっていたのはゴロン族の男だ。首に大きな数珠をつけ、両腕にはボディペイントが施されている。
・・・体がとても冷たい。でも息はしているようだ。大きな怪我も見当たらないし、今ならまだ間に合うかもしれない。
ゴロン族は頑丈で熱に強いが、寒さと水には弱い。雪に突っ込んで動けず困っただろう。体を叩きながら意識の確認をした。
「まだ生きてるな?俺の声聞こえるか?」
「う・・・う・・・。おめぇは・・・」
「いま治してやるから。じっとしていろ」
「頼む・・・。里を・・・里の皆を助けてほしいゴロ・・・」
「なに盛大にフラグ立ててんだ!?お前が元気になって助けに行くんだよ!!」
オイオイオイ死にそうだわコイツ。遺言を託そうとするな。
「赤いクスリ飲めるか?ほら」
「すまねえ・・・」
赤いクスリは体の傷と体力を全回復する。ちなみに緑のクスリは魔力全回復だ。
薬屋で念のため買っておいてよかった。これでフラグは折れただろ。
「お前長老・・・、ではないよな?神殿に行こうとしてたのか?」
「ああ・・・。オラの名はダルマーニ3世、ほこり高きゴロンの勇者の血をひく者だゴロ」
ダルマーニはゴロンの里に悪さをしている魔物を退治しようと、スノーヘッドに一人で乗り込もう・・・としたが、スノーヘッドからふきだす吹雪で谷に落とされてしまったようだ。
おまけに神殿には神殿守のダイゴロンがいるはずだが、この異常気象から姿が見えなくなっていると。
「・・・くやしいゴロ!このままゴロンの里が氷づけになっていくのをただ見てるなんて・・・。でも体が動かないゴロ!」
「まだ回復しきってないんだよ。里まで送ってやるし、神殿には俺が代わりに行ってやるから」
「・・・おめぇがか?」
「というか、もともとそのつもりだったしな。俺は俺で神殿に用があるんだ」
とりあえず上にあがるか。
鍛冶屋まで飛んで・・・。あ、温泉があるっていってたな。浸けとくか?
「♪」
甘やかな低音が谷に反響する。
視界に翻るは白翼。幻想の羽根が三人を包み、瞬きの合間に地上に送る「大翼の歌」―――――。
「おめぇ・・・魔法が使えるのか」
「む?まぁそれなりに。こういうのとかもあるぞ」
いやしの歌を口ずさむ。どうもメンタルが凹んでるみたいだし、ついでに癒やしてやろう。
「イイ曲だゴロ。オラのキモチが曲の中にとけていくゴロ~」
ダルマーニが光に包まれる。光に・・・。
「オラのキモチをおめぇにあずけるゴロ。相棒。里を頼むゴロ・・・」
ゴロンの仮面を 手に入れた!
・・・・・・・・・・・・ん?
「・・・アンタ・・・」
「いやちがっ・・・そんなつもりじゃ・・・!」
「なにとどめを刺してんのよ」
「誤解だ!!!!」
ちがっ、違うんです!!!そんなつもりじゃなくて!!!事故!!これは事故!!!
いやしの歌を歌ったらダルマーニが仮面になった。何で?そうはならんやろ。なっとるやろがい!
さっきフラグ折ったじゃん!これ俺のせいか・・・?
とりあえず仮面を拾って・・・。どうしよう。被った方がいい?
「チャット、この仮面被った方がいいかな」
「デクナッツの時みたいに必要になるんじゃないの?今のうちになれておきなさいよ」
確かに。
ダルマーニ、お前のことは忘れないよ・・・。ありがたく使わせてもらうな・・・。
――――――装着。
魔力の奔流がリンクを包む。
体はぐぐっと大柄に。岩石のような堅さと、丸みのある体型を両立している。背中は岩肌のようにごつごつとしてたくましい。首の数珠は彼のものだろうか。
体重が随分増えたのか、体が重い。走るのは少し大変そうだ。パンチも強そうだな。大岩でも素手で壊せそうだ。
しばし体の点検をしていると、銀雪の向こうから騒ぐ声が聞こえた。温泉の方向だろうか。
「オ、オメエ・・・いやオメエ様はダルマーニ様じゃないゴロ?無事だったゴロか!」
「ダルマーニ様!無事で良かったゴロ!帰ってこないからみんな心配してたゴロ!」
「・・・おう。無事だゴロ」
違うって言いづらいなこの空気。なんか否定するのもな・・・。
騒いでいたのは案の定ゴロン族の二人だった。・・・あれ?あの凍ってるの長老じゃね?
「はっ!そうだ。ダルマーニ様。長老が大変ゴロ。氷付けになっちゃったゴロ」
「温泉で溶かそうとしたら温泉も凍ってるゴロ。なんならオラ達も凍りそうゴロ」
「なんだって?ゴロ」
見ないと思っていた長老は雪玉の中で凍っていたようだ。なんとか探しに来た二人が引っ張り出したものの、二進も三進もいかず困っていたらしい。
そういうことなら仕方がない。二人に離れているように言い、魔力を左手に集中させる。
一撃。炎を纏う拳は氷盤を打ち砕き、広がる熱がたちまち溶かす。熱気が冷気を吹き飛ばし、一気に空間を暖めた。
長老(氷)を温泉に沈めれば、あっという間に蘇生する。何よりである。
「・・・ん?ワシ何してたゴロ?・・・はっ!もうこんな時間ゴロ!そこをどくゴロ!話なら後にするゴロ!」
「長老、落ち着くゴロ。神殿なら俺が行くゴロ」
「ん???おっ、お前はダルマーニ!!」
こちらを認識した途端、一気に目がかっぴらく。ちょっとびっくりした。
そういえば長老の息子が大変なんじゃなかったっけ?おい息子さんがぐずってますよ。
「・・・なに?息子がワシを恋しがって泣いておるじゃと!?息子がワシを・・・クーッ。ゆるせ我が子よ!・・・ダルマーニよ、ワシはもう動けないゴロ。ワシの代わりに息子を安らかに眠らせてほしいゴロ」
「もちろんだゴロ。任せるゴロ」
「お前が小さかったころによく聞かせたあのメロディーだゴロ。思い出すじゃろ?この曲を・・・」
・・・・・・む?
「あれ?・・・もう一度いくぞ。思い出すじゃろ?この曲を」
・・・・・・ふむふむ。
「えっと・・・あっそうそう、こうじゃった!」
・・・・・・。
「ダメじゃ!出だししか思い出せん!!」
おいジジイ!!??
なんとか「ゴロンのララバイ」を覚え、息子とダイゴロンを眠らせて神殿まで来た。
ダイゴロンも呪いの影響を受けていたようだ。あの様子じゃ起きていたときのことは覚えていないだろう。
なにはともあれようやくここまで来た。いっくぞー!
画面越しに見ている。仮面越しにみている。
ゴロン族に比べたらずっと華奢な体躯は、杖の一振りでシロボーを消滅させた。やるじゃねぇか!
ゴロンジャンプにはまだ慣れないようだが、これから上手くなっていけばいいゴロ。
「アンタ何回落ちるのよ!?急に下手になったわね!?」
「いやこれ難しいよ・・・(マジで・・・全然うまく飛べないんだが・・・?)」
ダンジョンマップを読み慣れているあたり、おめぇ結構な熟練者だな?
だがスノーヘッドの神殿は縦に長く、足場も悪い。気ぃつけて進めよ!
(本物のボムチュウ全然可愛くない・・・)
・・・心配なさそうだな!
人の身では大変な石のブロックも、ゴロンの怪力なら楽々だ。
ほう、その氷は燭台の火で溶かすのか。頭が柔らけぇな。
(ご・ま・だ・れ~♪)
天井の巨大なつららを弓で射る。氷柱とぶつかり盛大に砕けた。
障害物のなくなった足場を軽快に跳ぶ。とんとん、とリズムを刻んだ足は、その勢いのまま雪玉を蹴り壊した。
「足癖が悪いわよ」
「まあまあ。お、小さなカギだ(氷も魔法で良かったかな~。まあ節約節約)」
この足場はちいとややこしいな。わかるか?相棒。
流石にここはゴロンプレスじゃないと押せないか。・・・ん?おい危ねぇぞ!
「ん~?ここを押したらあそこが・・・うわ!?」
「ちょっと何してるのよ。ゴロンの体じゃ重くて跳べないわよ!」
「はい・・・(えっもしかしていちいち仮面を外さなきゃいけないんですか!?ヤダー!)」
そこは大目に見てくれや。そもそもこの神殿は、俺たち以外が入ることを想定してないからなぁ。もしくはおめぇのように仮面を持っているかだ。
「チャット、俺が落ちないように祈っててね。(ゴロンジャンプだーー!ヴァー!)」
「すっかり苦手意識ができたわね」
戦線恐々としながらも橋を越え、ウィズローブのいる部屋にたどり着く。
弓矢があっという間に部屋を掌握する。高く打ち上がった矢が四つ同時に魔物を射貫いた。
薄々わかっちゃいたが、強えなコイツ・・・。
「分身も全て当てれば問題ない(お?この俺を煽るとはいい度胸だな?)」
「さらっと凄いこと言うわねアンタ・・・」
地響きと共に、中央部屋の巨大な柱が高くなる。
雪の斜面をはちゃめちゃに嫌そうな顔で通り抜け、雪玉を投げてくるイーノーをさっくり躱す。
4階で待ち構えるのはダイナフォス2匹。剣があれば居合いが出ただろうが、あいにく素手である。代わりに落雷が落ちた。
しかし今度のウィズローブには若干手こずったというかもうイライラしていた。落ち着け。
「またお前か(増やすな鬱陶しい!!)」
「しつこいわね!さっさとやっちゃいなさい!」
ボス部屋のカギを手に入れ、柱の北辺から真下にある橋の上に降りる。
そうそう、あからさまに挟まっているその氷をはじき出すんだ。もうゴロンの体には慣れたか?
「もしかしてこれわざわざ起こすの・・・?」
「そうみたいね。ほら、はやくする!」
仮面機械獣ゴート。
氷の神殿で封じられていた、鋼鉄の獣である。・・・・・・今回はリンクの一番苦手なタイプだった。
まず剣がないのが痛い。痛すぎる。リンクはなんやかんや剣士なので、反射的に手が伸びるところに武器がないのはつらい。
そしてこの円周状の部屋。待ち構えるにも弓だって有限である。相手が何発で倒れるのかわからないのに、悠長にしていられない。
魔法で動きを止めるにも弱点の目玉が出ていないと意味がない。
さらにただ転がるだけじゃなくて、電撃を放ったり岩を蹴り上げたり。むこうもガンガン攻撃してくる。つまり―――――――。
「自分の体を張って体当たりしてでも、ヤツの暴走を止めるのよ!」
「ですよね(ええん苦手だよお)」
頑張れ相棒!気張れよ!
ゴロンは丸まった姿で一定時間転がり続けると、体がハガネの様になり爆発的な攻撃力を生む。
小回りがきかねぇのがちいと不便だが、おめぇならできる!
(う、うおおおお!ゴロンアタック!)
2周ほど追いかけた威力の、鋭いトゲが生えた岩の体躯がゴートに襲いかかる。
うめき声を上げて倒れ込んだ巨体に、リンクは仮面を外して近寄った。魔力を集める。
巨大な氷で動きをとめたら、雷と炎が螺旋に絡み合う渦を発生させる。露出した目玉めがけて、大槍のごとく叩き込んだ!
―――――勝負あり。残骸を残し魔物は消えた。
「・・・つ、疲れた(無理・・・・・・)」
「アッ、また仮面があるわよ」
「ほんとだ・・・。またあの巨人かな」
よくやった相棒!!おめぇは最高だぜ!!
これでやっとゴロンの里に春が来る。冬の呪縛から解放される。―――――――ありがとうな。
剣がないのでストレスを貯めていくリンク=サン。がんばれ。