時の勇者に成り代わったがオチを知らねぇ【完】   作:はしばみ ざくろ

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チョコレートミルク

からん、からんと軽やかなベル。バー「ラッテ」は大人の世界。

するりと入ってきたのは金髪の男。会員証であるお面を付けているのを確認し、マスターは声を掛けた。

 

「いらっしゃいませ。どうぞお好きな席へ・・・」

 

髪を靡かせ男は先客の隣に腰掛けた。昼間から居座り、開店から飲んだくれている客は顔を真っ赤にしている。どうも悪酔いしているようだ。

 

「おい・・・お前!ミルクだぞ・・・ミルクなんだぞ・・・。ミルクなんぞで酔えるか!!ヒック!」

「酔ってますよね?」

「酔っていますね。お客さん、絡み酒は良くないですよ」

 

お面の隙間から苦笑が見える。男は牛柄のカウンターに肘をつき、バブルガム色の照明に照らされた。

 

「ではマスターのオススメを」

「でしたらシャトー・ロマーニを。月見のお供に是非」

 

ビンテージミルクをマイグラスに注ぐ。ミルキーホワイトがふわりと広がり、鼻孔と視覚を喜ばせた。

舌で転がすように味わえば魔法の力がなみなみと湧いてくる。ゆっくりと咀嚼する、男の顔は柔らかい。

 

「・・・美味しい」

「何よりです」

「あちらの方も同じものを?随分飲んだみたいだけど」

「・・・なんだよヒック!・・・見るなよ、ヒック!」

 

客はとうとう机に突っ伏してしまった。震える背中が余りにも小さい。

 

「どうせわしは役立たずの次男坊だよ!アニキのように馬のあつかいはうまくない!弟のように馬の面倒は見れない!」

「・・・・・・」

「牧場飛び出して興業の世界を知って・・・あちこち旅して・・・でもいったいそこになにがあった?・・・なんにもねえ!!ああ、なんで芸の世界に入っちまったんだ・・・。寒い、寒いぜ・・・」

 

落とされた言葉は行き場のない寂しさに満ちていた。大人だって悩んでいる。

マスターにできるのは、それを黙って聞くことだけだ。聞かれてもいないのに答えを返すものではない。

金髪の客はどんな顔をしただろうか。この位置からでは見えないけれど、嗤っていないことだけはわかる。

背後の棚にビンをしまい終えると、男はステージの方に移動していた。

 

「・・・ショーをやる予定だったんだが中止になってしまってね。ここはいいホールだって評判だったからザンネンだな」

「そうなんですか」

「記念にサウンドチェックしたいんだが・・・。ねえキミ、演奏手伝ってもらえるかな?」

「私ですか?構いませんよ」

 

ステージにあがる背中は頼もしい。まだ若いだろうに、海千山千の強者(つわもの)のようだ。

 

「OK!オカリナだな。真ん中のスポットライトの下へ。・・・OK!いい感じだ!」

「なにがいい感じだ!ワケのわかんねえヘボイ演奏しやがって!!」

 

野次はするりと受け流された。男は続いてラッパを取り出す。左上のスポットライトの下へ。

次はドラムだ。左上のスポットライトの下へ。

 

「OK!いい感じだ!」

「・・・ケッ!」

「最後はギターだな。右のスポットライトの下へ」

 

音を取り込む貝が流す、重なる音色は波のごとく。

 

「ブラボー!最高だ!!」

「こっ、このメロディー・・・このメロディーはわしの思い出の曲!」

「スタンダードナンバー・風のさかな。先代ダル・ブルーの名曲だ!」

 

たゆたう温度はあの日の情景。眠れる想いを呼び覚ます。

 

「芸の世界に身を投じたのも昔、刻のカーニバルでこの曲を聞いたから・・・。芸をやってりゃいつか歌の主に出会えるんじゃねえか。そう思ってたが・・・そうかい・・・」

「あんたが聞いたのは初代ルル、ルルの母親だろう」

「今は娘が歌っているのか。そうかい・・・聞いてみてえなあ・・・」

 

運命は流れ星のように唐突で、月光のように輝いている。

この旋律も、誰かのための歌である。誰かの耳に届けばいい。

 

「あんた、ヤジって悪かったな。欲しかねえだろうけどもうすぐカーニバルだ。わしの面、受け取ってくれ」

 

座長のお面を もらった!

 

「牧場にいたころを思い出したぜ。アニキや弟・・・元気にしてるかな・・・」

 

ミッドナイトは静かに過ぎる。

月夜、追想した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タルミナ平原の東を進むとイカーナへの道にたどり着く。北に進むとイカーナの墓場に続き、西に進むとゲルドの街に出る。

森、山、水、砂。奇しくも以前ハイラルを旅したときと同じ順番で神殿を巡っている。まあメタ的に考えてもこの順番で間違いないだろ。

岩壁に囲まれた道を尾花栗毛の馬が歩む。道の分れている場所に出ると、一鳴きして船を漕いでいる主を起こした。

 

「・・・ねっっむ・・・」

「昨日遅くまで起きてるからよ」

「つい話が弾んじゃって・・・」

 

折角クリミアさんに会員証を貰ったからと、バー「ラッテ」で夜を過ごしたのはいいが寝るタイミングを逃してしまった。

ラズリとアプリに「風のさかな」を教わっていたおかげで、座長を励ませたのでまあいいのだが。

 

「どこから行くの?」

「あっ・・・あの・・・」

「うーん。ゲルドは男子禁制だしむこうは崖だし、まっすぐ行ける墓場から行ってみようか。というか眠いから手近なとこから済ませたい」

「すみません・・・」

「え?なに?」

「? なんかいま聞こえた・・・」

「ここです・・・」

 

リンクですら耳を澄まさないと聞こえない声が、後ろから届いた。

 

「え?」

「えっ?」

「えっ?」

 

勢いよく振り向くと、崖に寄りかかるようにして兵士がうずくまっていた。

え?いつからいた?

 

「誰!?」

「全然気づかなかった・・・」

「気づいてくれたのはあなたが初めてです・・・」

 

兵士はシロウくんというらしい。怪我をして動けなくなっていたようだ。

 

「もう何日も手を振って助けを求めているのに、みんな無視して通っていく。オイラ石コロみたいに影が薄いから・・・」

「か、かわいそう・・・」

「げ、元気出しなよ・・・」

 

シロウくん・・・なんか光るタスキとかつけてたほうがいいんじゃない?もしくは兵士やめてバスケとか始めてみたら?

赤いクスリをあげると勢いよく飲み干す。おかわりもあるぞ。

 

「コレ、お礼です・・・」

 

石コロのお面を 手に入れた!

 

「さあ・・・ちょっとは目立つ練習でも・・・しよ」

 

シロウくんは町に帰っていった。なんか美味しいものとか食べてほしい。

イカーナの墓場には墓守がいた。ダンペイさんじゃん。いつもお疲れ様だな。

 

「ここにある墓はみ~んな山むこうの、イカーナ城の王さんの家の墓ダ。今でも夜になるとユーレイがでるおっかね~墓なんだゾ」

「それはそれは・・・。あの道の先もお墓ですか?」

「あの奥にはでっけぇ~ガイコツがいるダ。あれはこの墓を守っていた王家の兵隊のなれのはてだって、オラのオヤジが言ってたダ」

 

道の先には王家の宝があるらしい。死してもなお守ろうとする気概はとても立派だ。

倒れ込む巨体は誇りを失わない。しばし手を合わせていると――――。

 

『――――――――』

 

声なき声が聞こえる。まだ心の残りがあるのだろうか。オカリナを取り出した。

 

 

目覚めのソナタを 奏でた!

 

 

魔力と共に巨漢が起き上がる。リンクを見下ろすと、びりびりと空気を振るわせる。

 

「若き剣士よ、私を呼び起こすか。ならば語らう前にまずその腕を問わん。我が歩みを止め、炎の関を越え、見事私を打ち破ってみせよ」

 

瞬間、炎の壁が立ち上がる。後ろに飛び退くと地中からスタルベビーが二体起き上がってきた。

刀を抜きざまに一閃、踏み込んで二撃。炎が消えたのを認識すると縮地で一気に追いつく。

足下を刀で払うと体をぐらつかせた。跳び上がって背骨に刃を叩きつける。骨の鳴る鈍い音が鳴り、兵士が前に押し出されて体制を崩す。

骸骨の体に足をかけさらに跳ぶ。頭についているのはなんだろうか。よくわからないが唐竹割りを繰り出す。甲高い悲鳴。

 

「待て!私の負けだ!武器をしまわれよ」

 

そのままくるりと正面に降り立つ。頭をふる兵士は、先ほどとは違いどこか愉快な雰囲気を纏わせていた。

 

「――――私は丘の上のイカーナ王国で軍を指揮していた、スタル・キータと申す者。王国で起きた戦いに敗れ屍となってからも、我が魂を呼び起こしてくれる者が訪れるのをここで待ち続けていた」

「ふむ」

「若き剣士よ、そなたの力を見込んで頼みがある。燃えさかる炎の中にある我が国の宝と我が魂を手にし、死してなお私への忠誠をつらぬき通す我が部下たちに、私の言葉を伝えてほしい。もう戦いは終わったのだと・・・」

「構わないよ。任せてくれ」

「ありがとう・・・これで私は安らかな眠りにつくことができる・・・。隊長どの!しばらく休暇をいただいてもよろしいでしょうか?」

 

背筋を伸ばし敬礼をするスタル・キータに、リンクも答礼を返した。光に包まれ、魂は天にかえる。

 

 

隊長のボウシを 手に入れた!

 

 

炎の中の宝箱にはミラーシールドが入っていた。ありがたく受け取っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一眠りした後は海岸の廃墟へ。すっかり散策を忘れていた。思い出せてよかった。

年代物だろう建物は、ほこりっぽさを除けば中々立派だった。それなりに財のある人が住んでいたのかもしれない。

地下への階段を降り玄関を抜けると廊下に出る。蜘蛛の巣をくぐり抜け、左手の扉を開けると書庫に入った。

図鑑から料理本まで様々な書籍が揃っている。時間があれば読みふけりたいくらいだ。リンクが知っている本もいくつかあったが、半分が言語すらわからぬ本か古書だった。住民は随分前にいなくなったらしい。

階段の前には食堂がある。

四人がけの机と椅子。空っぽの冷蔵庫。戸棚にしまわれたティーセット。

シャンデリアはぼんやりと明かりを灯していた。もう誰も居ないのに。

一通り見回ってから、階段を降りて下の階に向かう。

 

「あれ?開かない」

「カギが掛かってるみたいね」

 

降りてすぐの部屋は施錠されていた。しかたがないので先に進み、突き当たりの部屋に入る。

 

「!げほっ」

「埃っぽいわね。物置かしら」

 

木箱や布をかき分けカギを探す。しばらく漁っていると壺の中にそれっぽいものがあった。取りあえず試してみよう。

 

「お」

「開いたわね」

 

最後の部屋は寝室だった。ベッドにベッドサイドランプ。シンプルで感じのいいレイアウトだ。俺もこういう部屋がほしいな。

 

「ところでベッドの上にあるこれは何?触れないと駄目?」

「駄目じゃない?」

「駄目かぁ・・・」

 

微妙に逸らしていた視線を抵抗する心ごとギリギリと戻す。だってなんか明らかにヤバイ感じするもん!こんなん置いてくなや!

白い髪に目弾き。人の人相だとは思うがその割にはやけに禍々しい。

恐る恐る手に取ると大きな魔力を感じる。ということは仮面か?これ。持ってっていいやつ?呪われたりしない?

 

「呪いのアイテムの呪詛と俺の悪運。どっちが強いと思う?」

「アンタでしょ」

「そっかぁ・・・」

 

しばし考えた後、リンクは無言でカバンに仕舞った。なるようになるべ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん?ああっ!隊長~どの!!し、失礼しました。みなのもの隊長に敬礼!!おひさしぶりです、隊長どの!」

「うむ、久しぶりだな」

「隊長の命令どおり、毎日順番に墓を警護しておりました!みな隊長どのの次の命令を心待ちにしておりますぞ」

「そうかそうか。ところで、最近なにか変わったことはなかったか?墓の下から声が聞こえるとか・・・」

 

夕暮れ、隊長のボウシを被ったリンクは墓地に戻ってきていた。空は雲が途切れ、深い藍色に染まっていく。

 

「そういえば最近あの墓からピアノの音が聞こえるのです。たしか音楽家の墓だったと思うのですが」

「ふむ・・・。じゃあちょっとあばくか」

「あ、あばく?イエッサー!みなのもの!われに続け~!」

 

かわいいなこいつら・・・。キータが心配したのもわかる。

夕飯を食べてきたので今はとっても元気だぞ。墓は後で戻せばセーフ。

スタルベビーが墓石をずらしてくれたので飛び込む。途端に冷気がリンクを包んだ。

真っ暗かと思った地下は転々としたエメラルドグリーンが光っている。恐らく夜光石だろう。

天井にはコウモリがぶら下がっていた。刺激しないように静かに通り抜けると、鉄の扉が出迎える。

中は広い石造りの空間だった。背後で扉が施錠される音、前方には鎧の兵士。

 

「アイアンナックよ!」

「これ使ってみる?」

「えっ大丈夫なの?」

「わからない・・・。でも一度試してみないと・・・」

 

先ほど手に入れた仮面を取り出す。まあ死にはせんだろ・・・。

――――――装着。

魔力の奔流がリンクを包む。

闇、闇、闇。司るは闇の魔。全てを飲み込む邪悪。全てを染める黒。全てを砕く力。

これなるはまつろわぬ神。鬼神が一柱。

金色の髪は銀髪に、瞳は紅く目弾きを差す。天つく二本角は人外の証。白と銀で彩られた羽織袴が美しい。

刀はいつの間にか両手剣に変わっていた。数字の8のように捻れた形をしている。

 

「・・・ゥ?」

 

力が―――――。腹の底から力が沸き上がる。誰かの声が脳で囁く。壊せ、壊せ、壊してしまえ!

殺して千切って潰して刺して抉って壊して歪めて犯して喰らって飲み込んであげる。我こそは荒ぶる混沌。この世の全てはオレの食事。さあ―――――鬼ごっこを始めよう!

 

「リンク、来るわよ!ちょっと!」

 

顔を押さえたまま動かないリンクに、アイアンナックの斧が襲いかかる。――――が、頭蓋を砕くかと思われた一撃は右手に受け止められて動きを止めた。

力を込める。斧が砕ける。動揺したように後ずさったアイアンナックに、両手剣が叩きつけられた。

制御しきれない膨大な魔力が体から零れ、空間を浸食する。壁に叩きつけられた兵士はそのまま動かなくなった。鎧の壊れる音が響く。

 

「・・・こ、の・・・!ぐ・・・!」

 

あああうるせえ頭の中でわめくな!お呼びじゃねぇよ奈落に帰れ!力だけ置いて帰れ!

力を制御するのに必要なのはイメージだ。鮮明で強固な想像をつくる。

腹の中には渦があった。それが体から漏れた魔力を吸い取っていく。飲み込まれた魔力は血液を通り全身に宿るだろう。過剰ともいえる力は腕を伝い剣に宿った。すべてこの身に収めてみせる。

 

「はー・・・、はー・・・」

「だ、大丈夫・・・?」

「・・・多分」

 

なんかえらい目に遭ったんだが?誰だか知らんがはやく成仏しろ?

仮面を外すと元に戻る。どっと疲れが襲ってきたのを気力で耐え、震える膝を押さえつけた。汗メッチャかいてる・・・やだ・・・。

仮面をカバンにしまうとステージの幕があがった。スポットライトが輝き、男の声が響く。

 

「私の魂を解放してくれたのはお前か?」

「あー・・・一応そんな感じです。あなたは?」

 

あらわれたのはどこかで見た覚えのある幽霊だった。この人いつも死んでない・・・?

 

「私はイカーナ王家に仕えていた作曲家のフラットと申す者である。この地に残る王家ゆかりの曲は全て私と兄のシャープが作曲したもの」

「ほう」

「しかし・・・おお・・・シャープ。わが愛しき兄よ。悪魔に魂を売り私をこんな所に閉じ込めた張本人・・・」

「・・・・・・」

「死者を恐れぬ者よ。私の後ろに刻まれた曲をよく覚えてほしい・・・。そしてどこかで兄に会ったら告げてほしい。わが歌がいざなう光は呪縛を砕き、黄昏の空すら抱きしめるだろう!・・・頼んだぞ」

 

 

黄昏の歌を 覚えた!

 




座長のお面
能力:鬼の目にも涙。座長のふりができるぞ。
お面屋のコメント:これはいいお面だ。心の奥に忘れかけた純粋なキモチがつまっている。アナタはいい仕事をしましたね・・・。

石コロのお面
能力:石コロになる。周りの風景に馴染むぞ。
お面屋のコメント:これはいいお面だ。小さな喜びがいっぱいつまっている。アナタはいい仕事をしましたね・・・。

隊長のボウシ
能力:スタル・キータ隊長になりすませる。リーデット達をやり過ごせる。
お面屋のコメント:部下たちが敬意を払って忠誠を誓う、リッパな隊長の姿がしのばれるものですね。

鬼神の仮面
能力:被ると鬼神に変身する。
お面屋のコメント:これは・・・。本物の鬼に堕ちてしまわないよう・・・くれぐれも扱いには気を付けてください・・・。
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