時の勇者に成り代わったがオチを知らねぇ【完】   作:はしばみ ざくろ

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やっと退院しました。キツすぎて死ぬかと思った。(死なないために行ったんやぞ)



Abelia

三周目 1日目

 

 

断絶された崖を登ると、待っていましたとばかりに落石が襲ってくる。

岩のふりをしたネジロン達を躱して進めば、大川を有するイカーナ渓谷にたどり着いた。

川沿いの東の道は行き止まりだったが、岩肌に不自然な繋ぎ目がある。まだここは何かありそうだな。

深い川を横断すると古城が見えた。ギブドがウロウロしている。

 

「なんだか嫌な空気ね・・・」

「ああ。あんまり長居したくないな・・・」

 

念のためシロウくんに貰った石コロのお面をつけて散策する。

唯一の井戸はとうに枯れている。残った建物は殆ど廃墟になっていたが、1つだけ妙に綺麗な屋敷があった。

家具の埃が払ってある。誰か住み着いたのだろうか?

反対側にはイカーナ古城がある。キータのこともあるし、後ですこし様子を見てこよう。

ギブドが囲っている家には大きな…あれはスピーカーだろうか。蓄音器のようなものがくっついていた。

家の側面についている回転機械の下が抉れている。崖下に川があるし、水が流れていたのだろう。

跡をたどっていくと暗いほら穴がぽっかりとあいていた。

 

『わき水のほら穴 亡霊出没につき立ち入り禁止!』

 

看板を通り抜け中を進む。

光源もないのに妙に明るい。奥に進むにつれ、水の湧き出る音が大きくなっていく。

反対に禍々しい気配は強くなっていった。風の吹く音。

 

「死者のみが住まう地、イカーナ王国になんの用だ」

「!」

 

闇より這い出る亡霊がリンクを威圧する。

そういえば悪魔に遭うのは初めてだったか?魔王ならあるんだけど。

 

「ここはお前のような生にみちた者の来るところではない。それとも死者の仲間に入りたいとでもいうのか?」

「君がシャープ?・・・フラットを殺した」

「! フラットの手先か・・・!」

 

あっ早まったか?

一瞬で殺意を露わにした悪魔が指揮棒を振るう。どこからともなく不協和音が響いた。

耳が、体が、軋んでいく。暗黒のメロディ。

うるさっ!

 

「はははは!人間ごときにこの高尚な曲は理解できまい!」

 

センスが合わねぇな~とは思います。

オカリナを取り出す。フラットに教わった歌を奏でれば、悪魔の動きが止まった。

 

「な・・・なんだ、この曲は?」

 

呪いを吹き飛ばす黄昏の歌。悪意を祓う光のメロディ。悪魔が呻き出す。

 

「・・・ま、まさかこの曲は・・・!ああああああ――――――」

 

頭をおさえて身もだえて、フラットに取り付いた悪魔は抵抗しようとする。

しかし音色は途切れない。伸びやかな音は勇ましく、優しい低音が心を包む。

 

「! リンク、地下水が・・・」

 

かすかな地鳴りの後、わずかに溜まっていた水がどんどんと嵩を増していく。

やがて溢れでた水は大きな流れとなり、ほら穴の外に流れていった。

リンクとチャットが見に行くと川は回転機械――水車を動かす。歯車が回る。流れ出すメロディ。

 

「ギブドが・・・」

「消滅?成仏?していくな」

 

家を囲っていたギブド達が消えていく。

渓谷に響くのはさらばの歌。未練を溶かし眠りに導く。

 

「フラットよ。わが愛しき弟よ。死してなお王家の復活を夢見た、愚かな兄を許してくれ・・・」

 

哀しい声が聞こえる。

妄執に取り付かれ、全てを失い、されど光によって救われた男の声が。

 

「・・・死者を恐れぬ者よ・・・。弟の歌により私にかけられた呪いは解けた。全てはお前のおかげだ。」

「悪魔はいなくなったの?」

「ああ・・・奴は払われた。本来死した者はこの地に蘇ってはならぬはず。それを狂わせたのは仮面をつけた者の策略である」

 

やはりムジュラか。あいつマジで碌な事しないな・・・。

 

「お前が本当に死者を恐れぬなら、我らを苦しめる呪いの根源を断ってほしい。そのためには・・・まずは我が王に会うのだ」

「もしかしてあの古城にいるのか?」

「ああ・・・王は地下にあるという隠し神殿のことを知っておられる。そして、己の呪いを解いてくれる者が来るのを待っておられるはず」

「ふむ・・・そういう感じか・・・」

 

ムジュラが地下の神殿を開く→呪いが撒かれる→巨人が弱る→タルミナ全体が弱る。これだな!

完璧な推理・・・。天才かもしれん・・・。

 

「・・・頼んだぞ・・・」

「うん。任せておけ」

 

シャープはかすかに微笑んで、あるべき場所に還っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?女の子・・・」

 

水車の家の近くで少女が川を眺めている。

リンクが近づいてくることに気づいた子は、驚いた顔をすると慌てて家の中に入っていってしまった。

ノックをしても反応はない。カギが閉まる音もしたので、話を聞くのは難しいだろう。

 

「しょうがない。先に城に行こうか」

「あの崩れている所から入れそうよ」

 

正門から左に数歩行くと、壁が崩れている箇所がある。

中に入ると右手に太陽のブロックが、左手にクリスタルスイッチがあった。スイッチを起動しミラーシールドでブロックをどかす。これで城内に入れるようになった。

古城は周りを壁と崖で囲まれている。随分閉鎖的だ。防犯にはいいのかもしれないけど。

正面の入り口から城に入るとさっそくリーデット達が出迎えてきた。隊長のお面を被ってやり過ごし、柱上部にある凍った目玉スイッチを炎の矢で射貫くと左右の扉の鉄格子があがる。

北の部屋に入るとデク花が咲いていた。デクナッツの仮面を被って攻略する。

床スイッチを押して開いた扉に進むと、スタルチュラと機雷がはびこる部屋に出る。ここもデク花だ。

階段を上ると屋上に出た。柵沿いに進むとスイッチを見つけたので、押して地上に戻る。

 

「・・・静かな場所ね」

「嫌な静かさだな。妙なものが出てこないといいが」

 

今度は南の部屋に進む。

差し込む光で太陽ブロックを消し、リーデットの間をすり抜け、次の部屋で出てきたウィズローブをさっくり倒す。そのまま階段を上って屋上へ。

 

「リンク、ここだけ岩が脆くなってるわ!」

「お、本当だ。大バクダン・・・はないので力尽くでいきます」

 

魔力を纏った拳で粉砕し、開いた穴から降りる。これで玄関の太陽ブロックが消せるようになった。

東の道を進んでいくとやがて豪華な広間にたどり着く。上座には玉座があるしこの部屋で最後だろう。

 

「暗黒の地イカーナにいまわしき光を持ちこむ不届き者よ・・・。お前が導く光の前に、我がシモベはなすすべもなく倒れた・・・」

 

おどろおどろしい声が聞こえる。

地鳴りと共に広間のカーテンが降ろされていった。暗くなった部屋。玉座にあらわれるかつての王。

 

「だがしかし、シモベの住む暗黒はしょせん仮初めのモノ。真の暗黒がどのようなものか、おのれの目で確かめるがいい!」

 

左右に控える部下が嗤う。

骨を鳴らし剣を振りかぶり、リンクに襲いかかる!

 

(まあ所詮前座。むしろ一番楽なまである)

 

前触れもなくカーテンが燃えた。

リンクの魔法だ。部屋は一気に明るさを取り戻す。

一薙ぎで骨の体を崩した二人はミラーシールドであっさり浄化される。動転したように立ち上がった王が剣と盾を顕現した。歯を鳴らして接近してくる。

生前は強かったのかも知れないが、スタルになった時点でリンクの相手ではない。

落雷の音が広間に轟いた。ミラーシルドで浄化。終わりです!

 

「む」

「まだ動けるのかしら」

 

先ほど倒した部下の骸骨が浮かぶ。憎々しげにリンクを睨んではふわふわと漂った。

 

「ジャマだ、どいてろ!またやられるだろ!!」

 

あっ吹っ飛んだ。

 

「ジャ、ジャマ~?やられたのはお前がヘボだからだ。オレのせいにするな!!」

「なにっ!もういっぺん言ってみろ!」

「ヘボ ヘボ ヘボ ヘボ ヘボ ヘボ ヘボ ヘボ ヘボ ヘボ ヘボ」

 

小学生か??

 

「よさぬか!このバカモノ!」

 

怒号と共にイカーナの王が起き上がる。こちらも頭蓋だけだが。

 

「お前たちはまだわからんのか!王国が滅びて我らがこんな姿になってしまったのは・・・このような小さい争いの積み重ねが原因だったではないか・・・」

 

王の威圧に部下達の魂が消えていく。もう呪いと共に目覚めることもないだろう。

 

「闇に光をもたらす者よ。私はイカーナ王国の王イゴース・ド・イカーナ。お前がもたらした光によって我々にかけられた呪縛はとけた」

「どういたしまして。ところで、地下の神殿のことは知ってる?」

「ああ、大昔に作られたという地下神殿。そこには異界に繋がり、災厄を撒き散らす門があるという・・・」

「その神殿にはどうやって行くんだ?」

 

地下神殿は井戸の底からいけるらしい。あの枯井戸か。

 

「地下神殿は四方の守護巨人によって封印されていた。しかし、仮面の者によって開け放たれたことによりこの地は狂ってしまった・・・」

「・・・・・・」

「勇あるものよ、まずは砂漠の巨人に会うのだ。そして、せめてもの礼にこの歌を授けよう。さあ覚えるがいい!」

 

ぬけがらのエレジーを 奏でた!

 

「どうかわが王国に、この地に真の光を――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめて!お父さん!ダメ!ダメよ!」

 

古城から出た二人に叫び声が届く。

慌ててオルゴールハウスに向かうと、先ほどの少女が必死にドアの前で踏ん張っていた。

がたがたと鳴る扉は今にも破られそうだ。どうするべきかしばし逡巡し、少女に声を掛けた。

 

「そこの君、お父さんがどうかした?」

「アナタだれ?私たちのことはほっといて・・・きゃあ!」

 

扉に押し返された少女を抱えて後ろに跳ぶ。

家の中から出てきたのは虚ろな目をしたミイラだった。しかし他のギブド達とは違い、中途半端に包帯が巻かれ、かすかに呻いている。

 

「あのミイラちょっと様子が変ね。リンク、早く何とかしてあげなさいよ」

「お父さん!お父さん!」

 

暴れる少女を片手でおさえながらオカリナを取り出す。落ち着け落ち着け。あっ片手で吹け・・・ないですね。

少女を離してすぐに奏でる。あっこら近づかないの。

 

いやしの歌を 奏でた!

 

「ウ、ウ・・・ア、ア、ア・・・」

 

頭を抑えてミイラが悶える。

男に取り付いたギブドの魂が癒やされていく。呪いは浄化され、残った欠片は形となる。

 

「・・・?」

「・・・お父さん?お父さーん!」

 

白衣を着た男は、呆然としてあたりを見渡した。涙をこぼした少女が抱きつく。

 

「パメラ!私は今まで何をしていたんだ・・・」

「なにも・・・してないよ・・・。悪い夢を見て少しうなされていただけ」

「・・・パメラ」

 

ギブドのお面を 手に入れた!

 

「邪魔しちゃいけないわ」

「そうだね。行こう」

 

かたく抱きしめ合う親子を横目に、リンク達は渓谷を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、どうやってゲルドに入るのよ」

「うーむ」

 

砂漠に近いゲルドの街は、厳重な警備によって守られている。

もちろん通り抜けて神殿に行くだけなら不可能ではないが、今までの事を考えると、この砂漠の神殿もゲルド族にしか入れない可能性がある。なのでできれば正面から行って協力を仰ぎたいのだが――――。

 

「ピリピリしてるわね」

「不穏だな。下手に話しかけるのは不味そうだ」

 

やけに空気が悪い。こんなんのこのこ行ったら殺されっぞ。しかしいつまでもここでウダウダしているわけにも行かないので。

 

「こういう時は先人に習っていこう」

「先人?」

 

先人・・・いや年代的に俺の方が先なんだろうけど。気持ち的にね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひらりと桃色のフェイスベールが揺れる。淑女の服とパンツを身につければ、気分はアラビアンダンサーだ。

金色の髪が風に揺れる。声は意識してすこし高めに。武器は念のため全て仕舞って。

息吹がいけたんだから俺だっていけるやろ。さあ刮目せよ――――。今世紀最大の女装っぷりを!!!

 

「サヴァーク、ゲルドの街にようこそ。おや、ずいぶん華奢な子が来たね」

「サヴァーク!旅の者です!」

 

いけたわ。(コロンビア)

さすがリンク()。ゲルドの服も似合ってるよ・・・。

いつか使うかもしれんと旅の途中で買っといてよかった。イケメンは女物の服を買ってても笑顔ですり抜けられる。旅の中で学んだことです。

さあどんどん行きましょうね。族長、もとい王様はどこかな。あの一番でっかい建物だろうか。

街はざわざわと喧騒に包まれている。

風通しの良さそうな宮殿には当然見張りがついていた。入れるかな?

 

「サヴァーク。ここは誰が住んでいるんですか?」

「サヴァーク。ここには族長アベリア様がいらっしゃる。しかし族長は現在お休み中だ」

「そうですか・・・。あの、巨人がいるという神殿についてお聞きしたいんですが・・・」

「・・・なんだって?」

 

む、流れ変わったな。

見張りの兵士二人は顔を見合わせると、再び口を開いた。

 

「あの神殿に興味があるのか?」

「ええ、とても。ぜひ訪ねてみたいんです」

「・・・少し待て。確認する」

 

数分して奧に駆けていった兵士が戻ってくる。中に入ってもいいそうだ。

案内されたのは玉座ではなく客間だった。向かいに座っているのが族長、アベリアだろう。

 

「ようこそ、お客人」

「初めまして、アベリア様。リンクです」

 

アベリアは若い女性だった。そしてお腹が大きいな?もしかして妊婦?

 

「リンク、単刀直入に聞こう。お前は強いのかな」

「はい。強いです」

「・・・ふふっ。そうかそうか」

 

彼女はゆっくりと立ち上がると、窓に近づく。そして外を指さした。

 

「あの雷雲が見えるかい?巨人の神殿はあの中にあるんだ」

 

リンクも立ち上がって外を見ると、確かに雨のように雷が降り注いでいる場所があった。

 

「数日ほど前に突然暗雲が立ちこめてね。どうしたもんかと困っていたところさ」

「お腹に子がいらっしゃるからですか・・・?」

「そうさ、もうすぐ産まれるんだ。だから危ないことはできなくてね。しかしあの神殿は代々ゲルドの王族が守ってきた神聖な場所。本来なら私が行かなきゃいけない」

 

促されて席に戻る。アベリアはリンクの瞳を真っ直ぐ見て行った。

 

「リンク、私の代わりになんとかしてきてくれるかい」

「お任せください。・・・あの、もしかしてもう信用されてます?」

「ああ。私の勘が、お前は信用できると言っている」

「勘」

「勘だよ。それと、お腹の子がお前を信じろと言っている」

「・・・ええと」

「ふふっ!冗談だよ。あの神殿に興味を持つなんて、ただ者じゃないことくらいはわかる」

 

彼女は懐から耳飾りを取り出した。雷の力を宿すといわれるトパーズだ。

 

「この耳飾りを付けていくといい。雷の雨も越えられるだろう」

「ありがとうございます」

 

最後の神殿は砂と雷鳴の中。

いざ行かん、巨人の元へ――――――。

 

 

 




ギブドのお面
能力:ギブドになりすませるぞ。
お面屋のコメント:これはいいお面だ。親子の愛がいっぱいつまっている。アナタはいい仕事をしましたね・・・。


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