時の勇者に成り代わったがオチを知らねぇ【完】 作:はしばみ ざくろ
「なあ、時の女神よ」
しわがれた声が部屋に響いた。
弟子達もお節介な隣人も留守にしている家は優しい沈黙を保っている。
老人はもう、ベッドから起きるのも難しい。
『なんでしょう。リンク』
脳裏に響く甘さと怜悧さの混じった声から、老人に対する隠しきれぬ愛を感じる。
思わず苦笑が漏れて、慌てて引っ込めた。
「トライフォースを、貴女の聖域に封印してはくれないか」
『・・・この私に頼み事ですか?』
「そうだ。最初で最後の、神への祈りをしよう」
沈黙の間に、壁に掛けられた時計の針がかち、かち、と音を鳴らす。
午前の陽光がカーテンの隙間から滑り込んだ。穏やかな一幕。
『・・・いいでしょう。貴方にも、それくらいの報いはあるべきです』
「ありがとう。・・・これで心残りはないよ」
きゃらきゃらと子供の騒ぐ声。
窓越しに届く生活音。口ずさむ歌。
春を喜ぶ妖精達。踊るように花びらが舞う。
桃色の花が満開になった日。とある村で、1人の老人が眠りについた。
彼の物語はここでお終いです。
めでたしめでたし。天寿を全うし、暖かな春の日に眠りにつきました。
だからこの先は、おまけというやつです。
『私の
「エッハイ」
『ウッ・・・なんて気高くて健気で美しいの・・・。本当に推せる・・・』
「リンク、時の女神はなんと?」
「・・・・・・・・・・・・えーっと・・・・・・・・・その・・・・・・」
一万年後のハイラルで、息吹の勇者が遠い目をしていることなんて、当然時の勇者は知らないのだ。
時の女神を通して伝えられたハイラルの長い長い歴史を、英傑達が書き出し、纏め、広め、そして遙かなる未来に伝わっていく。
誰も知らない冒険譚は、誰もが知っている物語に。
時の狭間に消え、居なくなった勇者の名前を、もう誰もが知っている。
『トライフォースは私が預かります。厄災ガノンという悪夢を越えられた、貴方たちにはもう不要でしょう』
「これは純粋な疑問なんですけど、時の勇者の前でもあの狂った感じで接してたんですか」
『そんなわけはないでしょう!!私は公私の区別は付けるタイプの女神です!!そもそも話しかけてきてくれたのが亡くなる少し前の一度だけで年をとってしわが増えてもなお魂の輝きは消えていないという本当に純真な子で声が震えなかったのが奇跡というかゲポラが側でフォローしてくれなかったら泣いているのがバレてたかもしれな』
「どうして時の勇者の話題を投げたんだい???馬鹿なの???こうなることはわかってただろ」
「真面目にすまん」
「すげー早口だな」
・・・続く?