時の勇者に成り代わったがオチを知らねぇ【完】 作:はしばみ ざくろ
@月◆日 雨
豆だ!!!!豆を手に入れた!!!!
売ってるおじさんにはすごい引かれた。やっぱりこれ食べれます?って聞いたのはまずかったか。でも一番大事なところだし。
いっぱい欲しいです食用に。っていったらそんなに苦労してんのか・・・みたいな目で見られた。否定はしません。
味噌と醤油と、あと酢も欲しいなここまできたら。
城下でお使いのふりしてお酒も手に入れているので、準備はばっちりである。味噌汁をつくるのだ!
@月◆日 曇り
カカシのボヌールが曲を覚えられるというので、きらきら星を弾いてきた。
これくらいなら俺も弾けるのである。
俺がいまできる魔法は、投影魔法によって楽器を作り、その音色で攻撃する音楽魔法だ。サリアの歌からアイディアをもらった。
楽器の音色は聞き手の精神に深く作用する。精神干渉というやつだ。
またリズムに乗ることで魔力を練ることもでき、物理的な攻撃も可能。
それから今の俺に足りない能力を考えた結果、飛行能力だろうという結論になった。
なのでできるようになりたい。なった。イェイ!
いやフロルの風とかいう便利能力もあるのだが、これはあくまでも加護だからな・・・。突然取り上げられたら怖いし・・・・・・。
大事なのは想像力だ。体を流れる魔力が渦を巻き風と成す。風は俺の体を浮かせ、また体から離れて攻撃になる。
もっとシンプルなやり方があればいいのだが、どうも風というよりは空気の塊のようで。
攻撃が真空の刃になるのはいいが、浮くのはあまりうまくいかなかった。
どうもそれは俺の魔力に属性がないことが原因らしい。ナビィが教えてくれた。
無属性なので、使用する武器や防具に属性がついているならそれに染まる。今の持ち物にそういうたぐいのものはないので、ただの魔力でしかない。
うーむ。なかなか難しいな。精進あるのみ。
@月▲日 雨
ジャブジャブ様のお腹の中どうしてあんなんなっちゃったんですか?
もとからああなんですか?大丈夫なんですか?
こんな言い方は怒られそうだが、ルト姫の救出はいい経験になった。
ディンの炎と魔力砲、真空刃だけで攻略。ボスは音色で混乱、催眠、のハメコンボ。
剣が使えなくても攻撃には困らなそうだ。
ルト姫はなかなかツンデレの素質がある。精霊石を俺にあげたことは内緒だそうだ。
確かに王様にはなにも言ってないな。バレてなきゃセーフである。
*月〇日 晴れ
えーーーーとどこから何を書けばいいのか。
とりあえず17歳になりました。なかなか美人なのでまあいっかな・・・。みたいな・・・。
◆◆◆
「ルト姫、探しましたよ」
「・・・な、ナニものじゃ?」
理想の騎士がいるのならば、彼こそがそうなのだろう。
謙虚で、強くて、賢くて。きらきら輝くきんいろの。
「と、とにかくいまはかえれぬ。そのほうこそ、さっさとかえれ!」
「・・・なにか理由があるのなら、お聞かせ頂けませんか?きっとお力になれますよ」
涼やかで、優しくて、穏やかで。
ゾーラにはない森の緑を纏った彼。
「いまのジャブジャブ様は、すご~くヘンじゃ・・・。ビリビリするクラゲや、へんなアナなんかあいてるし・・・」
「黒き砂漠の民に呪いを受けているんです。俺は貴女と、ジャブジャブ様を助けるためにきたんですよ」
突っぱねても怒らずに、根気よく話しかけてくれた。
「・・・そんなにわらわのことがシンパイか?」
「ええ」
「ならば、とくべつにわらわをはこぶ“めいよ”をあたえる!ただし・・・、さがしモノがみつかるまで、ぜ~ったいでてゆかんぞ!」
「光栄です、水の王女」
両手で大事に抱えられて、すっかり見違えたお腹の中を進んでいった。
背中に背負った剣を抜くこともなく、舞い上がる炎と無限に吹き荒れる風が魔物を蹴散らしていく。
「――なるほど、お母様の石なんですね」
「うむ。食事をはこんできたら、きゅうにのみこまれて・・・」
いつのまにか口は言葉を零す。ささくれだった心は流されて、希望の煌めきを放つ。
このものがいればなんとかなる・・・。そんな信頼が泡のように膨らんで。
「キャー!なんじゃこのタコ~!?」
「姫さま!?」
一時的に離れたのは、大目に見てやろうと思う。
その後すぐに来てくれたから・・・。わらわは寛大ゆえ。
「そなた!思ったより・・・カッコよかったぞ」
「ありがとう。貴女もご立派でしたよ」
このサファイアはわらわの夫となる者にさずけよ、と母上からいただいたもの。いわば、ゾーラのえんげーじりんぐ・・・。
でもそなたになら・・・。
「父上にはナイショ・・・ゾラ!」
「・・・ん?内緒・・・?」
これが運命というものか・・・。わらわは幸せ者ゾラ!
◆◆◆
寒気のする暗雲の下、ハイラルの城門は閉まっている。
己のちっぽけさを自覚してしまうような、さみしい夜だった。
「雨だ」
「はやく雨宿りできるトコロにいきましょ。カゼひいちゃうワ」
風が体に追突していく。
魔力跳躍で城門を越えれば、中に入るのはたやすい。本降りになる前に足に力を込めて――――。
「・・・ん?蹄の音。馬が来る」
「こんな夜に?誰かしら」
門の向こうから音がする。
鎖が鳴り、跳ね橋が軋みながら下りてきた。
そこを待つのも惜しいとばかりに白馬が駆けていく。リンクをあっという間に抜き去り、平原の向こうへ走って行く。
「ゼルダ?」
「インパもいるワ!ちょっと、どこへ行くの!?」
声が届いたのか少女が振り返る。
縋るような視線と共に、何かが投げられた。弧を描いて堀に落ちたそれを追いかけて、リンクとナビィも後ろを向く。
間髪入れずに蹄の音がもう1つ。黒い馬が闇から浮かび、またがった男を視認する。
「・・・アッ!」
(・・・ガノンドロフ?ということは・・・)
燃えるような紅い髪の偉丈夫。ハイラル城で視線だけ交わった、ゲルドの盗賊王。
「・・・そこの小僧!今、白馬を見たはずだ。どっちへ行ったか教えてもらおう」
底知れぬ威圧を放つ金の目が、リンクを睥睨する。
震えたナビィをよそに、リンクは静かに話し出す。この程度で怯えたりはしない。
「・・・ハロー、ゲルドの王様。ハイラルの王族に何をしたの」
「・・・ほう。質問を質問で返すか。多少は肝が据わっているようだな」
リンクには少し気になったことがある。ガノンドロフがこのタイミングで動いた理由だ。
森、山、水の民に呪いをかけ、しかしそれはリンクによって破られた。術者本人である男が、それに気づいていないはずがない。
しかし凶行はおこなわれた。つまり、それでも問題は無いと判断したのだ。
それは何故?
精霊石はリンクの手にある。殺して奪えばいいと思ったのか?
やけに悠長だ。・・・おかしいな、・・・何か見落としてる?
リンクが把握していなくて、ガノンドロフが知っていることがあるならば、むやみに進むのは危険では?
「面白い小僧だ・・・。気に入ったぞ。オレの名を覚えておくがいい」
雨脚は強くなっていく。
雷鳴が落ちて光が散る。遅れて音が、二人の間にとどろいた。
「オレの名はガノンドロフ!世界の支配者となる者だ!」
「コキリの森のリンク。剣士です」
この名乗りが後の人類史に大いに影響を与えることになるなど――――。
リンクは当然、ガノンドロフだって知らなかったのだ。
さて、どうしようかね。
「これは・・・時のオカリナ!」
「国宝じゃないか。濡れてしまったな」
ゼルダの堅強な肩により、お堀にドボンしたオカリナを拾う。ナイスフォームでした。
(リンク・・・、きこえますか?)
「ん?」
神秘的な楽器から囁く声がする。え?声って言うか映像?
(わたしです、ゼルダです!)
「ゼルダ?」
脳内に・・・直接・・・!?
(あなたがこのオカリナを手にしたとき・・・、わたしはあなたの前から、もういなくなっているでしょう)
あっ違うわ。過去の風景を再生してる?すごいなこの楽器。
(あなたを待っていたかったけど・・・、もう間に合わない・・・)
・・・棺桶が見えますね。あいつ
(せめてこのメロディを送ります。時の扉を開いて、トライフォースを守って!)
リンクは 時の歌を 覚えた!
時の神殿の石版の前で弾くことによって、聖地への道を開けるぞ!
「リンク、はやく神殿に入りましょう!」
「う~ん、そうだね・・・」
いいのかなぁ。行っていいのかなぁ。
な~んか見落としてる気がするんだよな。
そうは言っても、行かないという選択肢もない。
ゼルダの安全を考えても、リンクがここで逃げるわけにはいかないのだ。
でも俺がトライフォースを手に入れたら話終わっちゃわない?絶対まだあるだろ。
“ゼル伝”がこれだけで終わるわけないじゃん!でも何がおこるかわかんないんだよ~。
う~むずむずする。
内心半泣きになりながらも神殿の中に入っていく。
静謐な雰囲気を放つ、石造りの建物だ。石版に文字が書いてある。
『三つの精霊石を持つ者 ここに立ち 時のオカリナをもって 時の歌を奏でよ』
「弾くよ、ナビィ」
「うん」
清らかな旋律が響く。外界の喧噪なんて知らぬように。
精霊石が呼応して煌めいた。聖地の扉は今、開かれる。
・・・・・・アー・・・・・・・・・。
「リンク、あれは・・・!?」
「ウワ・・・・・・」
「これは伝説の剣、マスターソード!!」
ウワ・・・・・・そういうことか・・・・・・・・・。
全てを理解した・・・・・・。
そうだデクの樹サマ言ってたな・・・・・・こんな露骨に刺さってるもんなのか・・・・・・・・・。
・・・・・・抜きたくねぇ~~。・・・てかアイツ後ろに居るじゃん・・・。ゼルダを追ってったんじゃね~のか・・・。
マスソは欲しいが抜きたくねぇ・・・。どうぞ襲ってくださいって言ってるようなもんじゃん。背中から殺られますよ。
「・・・すまんマスターソード。フォロー頼む」
マスソお前凄い剣なんだからなんとかできない!?丸投げで悪いがこの状況は窮地過ぎるぞ。
流石に聖地を後ろに戦うのは無謀すぎる。相手の手の内も判明してないんやぞ。
てか人間じゃん!ガノンドロフ・・・人間じゃん!ブレワイの理性ゼロ殺人マシーンじゃなくて知性も理性もある人間だから力押しは通用しねぇ~!危機~!
しかし聖剣は抜かれた。
光が溢れて、広がって、リンクとナビィを包む。
そこに踏み込む影が一つ。
「ごくろうだったな、小僧。オレが居ることに気づいていたようだが、お前にその剣を抜かない選択肢はない!」
腹の底から響く声。愉快な気持ちを隠さずに男が笑う。
(む、むかつく・・・!覚えてろよお前・・・!)
「クックック・・・、よりにもよってお前がオレを聖地に導いてくれるとは・・・。感謝するぞ」
そうだね-!俺が入れたようなもんだな!
ちくしょう完全にマスソのことを失念してたわ!俺に抜かせるためにわざと泳がせてたな・・・!
「・・・おまえに感謝されても嬉しくないな!」
正面から重なる視線は、マスターソードから巻き上がった魔力によって遮られる。
どこかに俺たちを連れて行くようだ。フォローサンキュー!マスソマジ有能。
「次はこうはいかないからな」
「よく吠える小僧だな。ここで殺してもいいが、トライフォースを得るのが先だ。」
消えたリンクを気にすることもなく、ガノンドロフは聖地の奧に進んでいった。
そして――――――――時が流れる。
追加装備:銀のウロコ ブーメラン ゾーラのサファイア 時のオカリナ マスターソード