時の勇者に成り代わったがオチを知らねぇ【完】 作:はしばみ ざくろ
「作戦会議をします」
「うむ」
「ウン」
聖地は静謐で安寧だ。・・・今は。
こうしている間にも魔は迫る。白を侵食し、混沌に染め上げ、欲のままに汚すだろう。
リンクとガノンドロフの間には、けして覆せぬ差がある。この世界の人間として生きた年月と、戦士として得た経験値だ。たとえリンクの精神が見た目と噛み合っていなくても、所詮戦争もない平和な21世紀の男。「武器を握った」年月は、多く見積もっても6年ほどだ。まともに相手をしていたらまず勝てない。
――――と、リンクは思っている。
リンクは勇者だ。
人よりも頑丈な体、伸びしろしかない才能群、鋭い音感、安定した精神。それに加えて、明確な目標を持って己を鍛えている。あり得たかも知れないIFよりもはるかに強い。それこそ、大魔王にも肉薄するほど。
しかしそこで「ならいいか」とならないのがこのリンクである。
準備、対策、用意。――――できるなら全てしておきたい。自分の直感よりも論理を信じている。感覚は不安になってしまうので実証しておきたい。
本番一発勝負?怖すぎるだろ!練習をさせろ!?
トライフォースをすっぱ抜かれたのもそれを加速させた。やっぱあいつこえーよ。魔王の名は伊達じゃねぇわ。
おそらくハイラル城で「目が合った」時点で、何かしらの推測は立てられていたのだろう。つまりこれは、
(俺のミスだな~。やっちまったぜ)
マスターソードが賢者・ラウルのもとに飛ばしてくれたおかげで、それでもかなり冷静になった。というわけで。
「ワシが思うに、おぬしは少々幼すぎるのではないかと思う」
「10歳です」
「10歳は子供よネ」
マスターソードを抜くのすら、台座に乗らなければいけなかったのだから、扱うなんてもっての他だろう。
根本的に身長が足りない。悲しい。最低でも170cmは欲しいんだけど伸びます?
「マスターソードを抜けたということは、時の勇者としての資格があることは間違いない。・・・だが」
「このまま戦っても負けるだろうな。せめて剣を振り回せるくらいには大きくならないと」
「大きくって・・・、それまでガノンドロフのことはどうするのよ」
うーーん、長期戦だな。
さすがにほっとくわけにはいかないし・・・。
「いや、それでも希望はある。賢者達を集めるのじゃ」
「む?」
「どういうこと?」
七人の賢者の力が目覚めし時 賢者の封印はすべての悪しき力を その彼方に閉じこめる。
むかしむかしから伝わる伝説。賢者と共に戦う力、それこそが時の勇者。
「光の賢者であるワシを除いて、あと6人。力を合わせれば、どうにか――――」
「・・・んー」
でも勇者が伝説の剣を使えないのはなぁ。だからたぶん、
ラウルや賢者達には悪いけど、ここは雌伏の時だな。
「ラウル、やっぱり俺はマスターソードを扱えるまで待つよ。もう数年時間が欲しい」
「・・・そうか、ならば魂だけを眠りにつかせるのはどうだ。体はともかく、精神が伴ってないとは思わぬ」
ラウルいわく、体だけ時の流れに浸し魂は眠らせれば、体は大人心は今のままで成長するらしい。逆○ナンくんじゃん。
「だがそれにはデメリットもある。ナビィのいったように、その間あの男のことは放置してしまうこと。なにが起こっても目覚めるまで無力じゃ。しかしおぬしの体感的には一瞬で済む」
「それでいいよ。あと、一つお願いがあるんだけど――――――」
こうしてリンクは眠りについた。スヤー!
◆◆◆
みんなひどい人になっていっちゃう。
母が亡くなったあの日から?お城が落ちたあの日から?
道は逸れて、足はふらつく。
あんなに楽しかった牧場の仕事だって、今は淡々とこなすだけ。
昨日は何も変わらなかった。今日も変わらない朝が来る。憂鬱にベッドを降りて、ため息を飲み込む。
――――――――旋律。
「――――この、歌、は」
牧場に響くオカリナの音。足を止めたのは馬だけではない。
「お、おい!その歌・・・!その歌をやめろ!」
ふらり、と。
緑の服の青年が現れたのは、午前の陽が差すとある日だった。
「ニイちゃんよ。馬に興味があるなら乗せてやるぜ。10ルピーでどうだ」
ずいぶん熱心に見ているので、気づいたインゴーが柵を開けたのだ。
背に剣を背負い、金色の髪を帽子が包んでいる。一見冷たく見える相貌は、好奇心に輝く青い瞳によって、彼が人形ではないことをしめしている。
「――是非」
声変わりした青年の、凛とした声が響く。
青々とした草を踏みしめ、馬と触れあいだした。
それだけならよかったのだ。いつも通り時間になったら退出させ、インゴーの懐はまた温かくなる。それだけだったはずなのに。
彼にとっては、馴染みの馬を探すための行動に過ぎない。
人になれ合わぬあの
血相を変えたインゴーが止めようと近づいてくる。視界の端では、大人になった少女が出てくるのが見えた。
そんな人間達の心情など知らぬと言わんばかりに、走ってきたエポナは一鳴きする。
「ねぇオーナーさん?この馬、譲ってほしいな」
「そ、その馬は・・・?エポナじゃねぇか!?そいつはガノンドロフ様に献上する馬だぞ!なんでその歌を知ってるのかわからねぇが、馬が欲しいなら他のやつをくれてやる!」
声が震えるのを隠せない。
暴れ馬をとたんに従順にさせた青年には、底知れぬカリスマの片鱗がある。
騒ぎを聞きつけて集まってきた従業員達でさえ、惚けた顔をして立ち尽くしていた。
「・・・なにが献上よ。インゴーさんにも懐いていないのに、ガノンドロフに御せるわけないじゃない」
マロンの声で膠着がとける。ずっと笑みの消えていた彼女は、しかし今、光を瞳に宿している。
「ねえあなた、森の妖精クンよね。その歌を知ってるってことは・・・」
「そうだよ、マロン。久しぶりだね」
「・・・っ。・・・お願い妖精クン。エポナを連れて行ってほしいの!ここにいても不幸になるだけだわ」
「な、な、なにを勝手なことを!?今のオーナーはオレだぞ!」
「エポナの主人はアタシよ・・・!」
言い合いを始めた二人を前にしても、青年はのんびりした雰囲気を崩さない。
エポナを撫でながら思考を巡らせ、会話が途切れたタイミングで口を開いた。
「では勝負をしませんか」
「あ?」
「馬での勝負と言えばレースでしょう。俺がオーナーさんに勝ったら、エポナを譲ってください。――ああ、負けるのが怖いのなら、別に」
「て、てめぇ・・・、言うじゃねぇか!オレが勝ったら、一生ここで働けよ!!」
「マロン、審判をしてくれる?」
「う、うん」
インゴーと青年が馬にまたがり、位置につく。
ようい、
「スタート!」
◆◆◆
いらいら、ムカムカ。
「まだか?」
「まだだヨ」
イライラ、ムズムズ。
「まだか?」
「まだだネ」
イライラ、そわそわ、そわそわ・・・・・・。
「だーーっ!」
「リンクはまだ帰ってこないのか!?」
森の外は変わってしまった。
外界を遮断し、村から出ないコキリ族が感じるほど。
サリアは森の聖域に籠もってしまった。いくらお気に入りの場所とはいえ、こんなに出てこないのは初めてだ。
きっかけが何かと言えば―――やはりあの子なんだろう。
コキリの中でも変わり者。畑をつくったり料理をしたり、素振りをしていたと思えば、家でじっと分厚い本を読んでいる。
でもみんな大好きだった。
旅に出ると言いだした時には驚いたけど、同時に納得していた。
あの子にこの森は狭すぎたのだ。もっと広い世界に行くべきだと、みんな口に出さないだけで思っていた。
あの子が、リンクのことが、大好きだったから。家族だったから。
――――――本当はみんな気づいていた。リンクがみんなと違うこと。人間なこと。
でも言わなかった。言えなかった。あの子が自ら出て行くその日にも。
だって、
「いつになるかわからないけど、――――――かならずまた帰ってくるよ」
「ここが俺の故郷だから」
だからみんな待っている。どんなに空の色が変わっても。
リンクならきっと、サリアのことだって助けてくれるから。
「―――ミド」
「・・・・・・リンク・・・?」
すっかり背を追い越した、生意気なアイツは。
いつも通り柔らかい笑みを浮かべて帰ってきた。
◆◆◆
「時が流れても変わらぬもの、それは幼き日の追憶」
シーカー族の伝統衣装に身を包み、白い包帯で口元を隠した。彼の名はシーク。
「思い出の場所へ誘う調べ。森のメヌエットを聞くがいい・・・」
リンクを導くハープの音色が、待ち人の居ない聖域に響き――――。
「リンク・・・、また会おう!」
「アッ、ちょっと!」
あっという間に姿を消した。
忍びの装いをしてるだけあるな。リンクはちょっとそわそわした。
「・・・で、どうするの?」
「行くに決まっているだろう。サリアが待っている」
体感では一瞬。時間にして7年。
目覚めたリンクがまず向かったのは、ロンロン牧場だ。
カカリコ村に行けと言われたのに、ロンロン牧場である。
まあ待ってほしい。これには理由がある。
廃墟と化した町、リーデッドが徘徊する城下。ゴーストショップとかいう怪しい店。
町の住民はカカリコ村に避難したらしいが、牧場住まいのマロン達はそうはいかないだろう。心配して見に行ったのだ。
そうしたらなんかタロンは居ないし・・・、インゴーが幅をきかせてるし・・・、マロンは沈んだ顔してるし・・・。
元気だったのはエポナだけである。いや元気って言うか、力が有り余ってふんすふんすしてた。
インゴーとの勝負はぶっちぎりで勝ち、正式にエポナを譲ってもらってから、カカリコ村に行ったのだ。
そこでにわとりネエサンから借りたコッコでタロンを起こし、お礼にブルーカラーがチャームポイントな手乗りコッコをもらった。
懐がぬくぬくしています。生命の鼓動を・・・感じる・・・!
なにやら滅茶苦茶怒っている、風車小屋のグルグルおじさんに「嵐の歌」を教えてもらい(イタズラしたオカリナこぞうって誰だろ?)。
なにかあるかな~、と思って行った墓場で、ダンペイさん秘蔵のお宝「フックショット」を貰ってから森に帰ってきたのだ。
話の流れから察するに、森の賢者はサリアだろう。
リンクは会わなくてはいけない。勇者として、友達として、家族として。
「行こう、ナビィ」
「うんっ」
「小僧、なかなかやるな。少しは腕を上げたというわけか・・・」
「・・・ハロー、ガノンドロフ。ようやくおまえを倒しに来たよ」
「倒しに・・・?ハハハ!所詮それは幻影にすぎぬ。オレと戦う時はこうはいかんぞ!」
狂った間取りの可笑しな神殿。悪霊が嗤い、絵画がうごめく。
「・・・それにしても、不甲斐なき奴!次元の狭間に消え去れい!!」
「・・・っ!」
突風がファントムを掻きまわす。リンクやナビィの体を叩きつけ、異次元の向こうへ消えていく。
静けさの戻った屋敷には、しかし彼女だけがいない。
「・・・サリアは?居ないのかしら」
「・・・いや、あそこだ」
青い光がにじむ。いつものワープ装置だろう。
でも、どうしてだろう。ボスを倒したというのに、なんだか心が晴れない。
誘われるまま賢者の間に戻る。緑の光の中に、サリアはいた。
「ありがとう・・・。あなたのおかげで、賢者として目覚めることができました・・・」
「サリア」
「リンク、なにも言わないで」
「・・・・・・」
「たとえ賢者でなくても、アナタとワタシは同じ世界では、生きていけない運命だもん」
寂しさをにじませて、しかし彼女は気丈に微笑む。
「リンク、どうか覚えていて、森はずっとアナタを愛しているわ」
「・・・うん。俺も、みんなのことを愛してるよ」
「――――離れていても、心は繋がっているの。ずっとアナタのそばにいる。ナビィ、どうかリンクをよろしくね」
「・・・も、もちろんヨ!サリアも元気でね・・・」
「このメダルを受け取って。―――――さあ、行くのよ」
「――――――ありがとう、サリア。大好きだよ」
「――――――うん、サリアも、リンクのことが大好きよ」
光が満ちる。影は離れて、――――でも、悲しむことはないよ。
どうか笑っていて、愛しい子。
入手:光のメダル 森のメダル フックショット 妖精の弓
ロンロン牧場の一人娘、マロンから譲り受けた馬。
マロンの母親が作った「歌」を知っているものにしか懐かず、暴れ馬として敬遠されていた。
7年後の世界で、ガノンドロフに献上される予定だったところ、あらわれたリンクによって牧場から解放。
以後、リンクの愛馬としてハイラルを駆けることになる。