時の勇者に成り代わったがオチを知らねぇ【完】   作:はしばみ ざくろ

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7年後の未来編、スタートです。


ずっと真夜中じゃ困るわ

「作戦会議をします」

「うむ」

「ウン」

 

聖地は静謐で安寧だ。・・・今は。

こうしている間にも魔は迫る。白を侵食し、混沌に染め上げ、欲のままに汚すだろう。

リンクとガノンドロフの間には、けして覆せぬ差がある。この世界の人間として生きた年月と、戦士として得た経験値だ。たとえリンクの精神が見た目と噛み合っていなくても、所詮戦争もない平和な21世紀の男。「武器を握った」年月は、多く見積もっても6年ほどだ。まともに相手をしていたらまず勝てない。

――――と、リンクは思っている。

 

リンクは勇者だ。

人よりも頑丈な体、伸びしろしかない才能群、鋭い音感、安定した精神。それに加えて、明確な目標を持って己を鍛えている。あり得たかも知れないIFよりもはるかに強い。それこそ、大魔王にも肉薄するほど。

 

しかしそこで「ならいいか」とならないのがこのリンクである。

準備、対策、用意。――――できるなら全てしておきたい。自分の直感よりも論理を信じている。感覚は不安になってしまうので実証しておきたい。

本番一発勝負?怖すぎるだろ!練習をさせろ!?

 

 

トライフォースをすっぱ抜かれたのもそれを加速させた。やっぱあいつこえーよ。魔王の名は伊達じゃねぇわ。

おそらくハイラル城で「目が合った」時点で、何かしらの推測は立てられていたのだろう。つまりこれは、

 

(俺のミスだな~。やっちまったぜ)

 

マスターソードが賢者・ラウルのもとに飛ばしてくれたおかげで、それでもかなり冷静になった。というわけで。

 

「ワシが思うに、おぬしは少々幼すぎるのではないかと思う」

「10歳です」

「10歳は子供よネ」

 

マスターソードを抜くのすら、台座に乗らなければいけなかったのだから、扱うなんてもっての他だろう。

根本的に身長が足りない。悲しい。最低でも170cmは欲しいんだけど伸びます?

 

「マスターソードを抜けたということは、時の勇者としての資格があることは間違いない。・・・だが」

「このまま戦っても負けるだろうな。せめて剣を振り回せるくらいには大きくならないと」

「大きくって・・・、それまでガノンドロフのことはどうするのよ」

 

うーーん、長期戦だな。

さすがにほっとくわけにはいかないし・・・。

 

「いや、それでも希望はある。賢者達を集めるのじゃ」

「む?」

「どういうこと?」

 

 

七人の賢者の力が目覚めし時 賢者の封印はすべての悪しき力を その彼方に閉じこめる。

 

むかしむかしから伝わる伝説。賢者と共に戦う力、それこそが時の勇者。

 

 

「光の賢者であるワシを除いて、あと6人。力を合わせれば、どうにか――――」

「・・・んー」

 

でも勇者が伝説の剣を使えないのはなぁ。だからたぶん、今じゃない(・・・・・)んだよね。俺が魔王(アイツ)を倒さなきゃ。

ラウルや賢者達には悪いけど、ここは雌伏の時だな。

 

「ラウル、やっぱり俺はマスターソードを扱えるまで待つよ。もう数年時間が欲しい」

「・・・そうか、ならば魂だけを眠りにつかせるのはどうだ。体はともかく、精神が伴ってないとは思わぬ」

 

ラウルいわく、体だけ時の流れに浸し魂は眠らせれば、体は大人心は今のままで成長するらしい。逆○ナンくんじゃん。

 

「だがそれにはデメリットもある。ナビィのいったように、その間あの男のことは放置してしまうこと。なにが起こっても目覚めるまで無力じゃ。しかしおぬしの体感的には一瞬で済む」

「それでいいよ。あと、一つお願いがあるんだけど――――――」

 

 

こうしてリンクは眠りについた。スヤー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みんなひどい人になっていっちゃう。

 

 

母が亡くなったあの日から?お城が落ちたあの日から?

道は逸れて、足はふらつく。

あんなに楽しかった牧場の仕事だって、今は淡々とこなすだけ。

 

昨日は何も変わらなかった。今日も変わらない朝が来る。憂鬱にベッドを降りて、ため息を飲み込む。

 

 

――――――――旋律。

 

 

「――――この、歌、は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

牧場に響くオカリナの音。足を止めたのは馬だけではない。

 

「お、おい!その歌・・・!その歌をやめろ!」

 

ふらり、と。

緑の服の青年が現れたのは、午前の陽が差すとある日だった。

 

「ニイちゃんよ。馬に興味があるなら乗せてやるぜ。10ルピーでどうだ」

 

ずいぶん熱心に見ているので、気づいたインゴーが柵を開けたのだ。

背に剣を背負い、金色の髪を帽子が包んでいる。一見冷たく見える相貌は、好奇心に輝く青い瞳によって、彼が人形ではないことをしめしている。

 

「――是非」

 

声変わりした青年の、凛とした声が響く。

青々とした草を踏みしめ、馬と触れあいだした。

それだけならよかったのだ。いつも通り時間になったら退出させ、インゴーの懐はまた温かくなる。それだけだったはずなのに。

 

彼にとっては、馴染みの馬を探すための行動に過ぎない。

人になれ合わぬあの(レディ)は、きっと今でも目につくところには居ないだろうと。

 

血相を変えたインゴーが止めようと近づいてくる。視界の端では、大人になった少女が出てくるのが見えた。

そんな人間達の心情など知らぬと言わんばかりに、走ってきたエポナは一鳴きする。

 

「ねぇオーナーさん?この馬、譲ってほしいな」

「そ、その馬は・・・?エポナじゃねぇか!?そいつはガノンドロフ様に献上する馬だぞ!なんでその歌を知ってるのかわからねぇが、馬が欲しいなら他のやつをくれてやる!」

 

声が震えるのを隠せない。

暴れ馬をとたんに従順にさせた青年には、底知れぬカリスマの片鱗がある。

騒ぎを聞きつけて集まってきた従業員達でさえ、惚けた顔をして立ち尽くしていた。

 

「・・・なにが献上よ。インゴーさんにも懐いていないのに、ガノンドロフに御せるわけないじゃない」

 

マロンの声で膠着がとける。ずっと笑みの消えていた彼女は、しかし今、光を瞳に宿している。

 

「ねえあなた、森の妖精クンよね。その歌を知ってるってことは・・・」

「そうだよ、マロン。久しぶりだね」

「・・・っ。・・・お願い妖精クン。エポナを連れて行ってほしいの!ここにいても不幸になるだけだわ」

「な、な、なにを勝手なことを!?今のオーナーはオレだぞ!」

「エポナの主人はアタシよ・・・!」

 

言い合いを始めた二人を前にしても、青年はのんびりした雰囲気を崩さない。

エポナを撫でながら思考を巡らせ、会話が途切れたタイミングで口を開いた。

 

「では勝負をしませんか」

「あ?」

「馬での勝負と言えばレースでしょう。俺がオーナーさんに勝ったら、エポナを譲ってください。――ああ、負けるのが怖いのなら、別に」

「て、てめぇ・・・、言うじゃねぇか!オレが勝ったら、一生ここで働けよ!!」

「マロン、審判をしてくれる?」

「う、うん」

 

インゴーと青年が馬にまたがり、位置につく。

 

ようい、

 

「スタート!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いらいら、ムカムカ。

 

「まだか?」

「まだだヨ」

 

イライラ、ムズムズ。

 

「まだか?」

「まだだネ」

 

イライラ、そわそわ、そわそわ・・・・・・。

 

 

「だーーっ!」

 

 

「リンクはまだ帰ってこないのか!?」

 

森の外は変わってしまった。

外界を遮断し、村から出ないコキリ族が感じるほど。

サリアは森の聖域に籠もってしまった。いくらお気に入りの場所とはいえ、こんなに出てこないのは初めてだ。

きっかけが何かと言えば―――やはりあの子なんだろう。

コキリの中でも変わり者。畑をつくったり料理をしたり、素振りをしていたと思えば、家でじっと分厚い本を読んでいる。

 

でもみんな大好きだった。

 

旅に出ると言いだした時には驚いたけど、同時に納得していた。

あの子にこの森は狭すぎたのだ。もっと広い世界に行くべきだと、みんな口に出さないだけで思っていた。

 

あの子が、リンクのことが、大好きだったから。家族だったから。

 

 

――――――本当はみんな気づいていた。リンクがみんなと違うこと。人間なこと。

 

 

でも言わなかった。言えなかった。あの子が自ら出て行くその日にも。

 

だって、

 

 

「いつになるかわからないけど、――――――かならずまた帰ってくるよ」

 

 

「ここが俺の故郷だから」

 

だからみんな待っている。どんなに空の色が変わっても。

リンクならきっと、サリアのことだって助けてくれるから。

 

「―――ミド」

「・・・・・・リンク・・・?」

 

すっかり背を追い越した、生意気なアイツは。

いつも通り柔らかい笑みを浮かべて帰ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時が流れても変わらぬもの、それは幼き日の追憶」

 

シーカー族の伝統衣装に身を包み、白い包帯で口元を隠した。彼の名はシーク。

 

「思い出の場所へ誘う調べ。森のメヌエットを聞くがいい・・・」

 

リンクを導くハープの音色が、待ち人の居ない聖域に響き――――。

 

「リンク・・・、また会おう!」

「アッ、ちょっと!」

 

あっという間に姿を消した。

忍びの装いをしてるだけあるな。リンクはちょっとそわそわした。

 

「・・・で、どうするの?」

「行くに決まっているだろう。サリアが待っている」

 

体感では一瞬。時間にして7年。

 

目覚めたリンクがまず向かったのは、ロンロン牧場だ。

カカリコ村に行けと言われたのに、ロンロン牧場である。

 

まあ待ってほしい。これには理由がある。

 

廃墟と化した町、リーデッドが徘徊する城下。ゴーストショップとかいう怪しい店。

町の住民はカカリコ村に避難したらしいが、牧場住まいのマロン達はそうはいかないだろう。心配して見に行ったのだ。

 

そうしたらなんかタロンは居ないし・・・、インゴーが幅をきかせてるし・・・、マロンは沈んだ顔してるし・・・。

元気だったのはエポナだけである。いや元気って言うか、力が有り余ってふんすふんすしてた。

インゴーとの勝負はぶっちぎりで勝ち、正式にエポナを譲ってもらってから、カカリコ村に行ったのだ。

 

そこでにわとりネエサンから借りたコッコでタロンを起こし、お礼にブルーカラーがチャームポイントな手乗りコッコをもらった。

懐がぬくぬくしています。生命の鼓動を・・・感じる・・・!

 

なにやら滅茶苦茶怒っている、風車小屋のグルグルおじさんに「嵐の歌」を教えてもらい(イタズラしたオカリナこぞうって誰だろ?)。

なにかあるかな~、と思って行った墓場で、ダンペイさん秘蔵のお宝「フックショット」を貰ってから森に帰ってきたのだ。

 

話の流れから察するに、森の賢者はサリアだろう。

リンクは会わなくてはいけない。勇者として、友達として、家族として。

 

「行こう、ナビィ」

「うんっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小僧、なかなかやるな。少しは腕を上げたというわけか・・・」

「・・・ハロー、ガノンドロフ。ようやくおまえを倒しに来たよ」

「倒しに・・・?ハハハ!所詮それは幻影にすぎぬ。オレと戦う時はこうはいかんぞ!」

 

狂った間取りの可笑しな神殿。悪霊が嗤い、絵画がうごめく。

 

「・・・それにしても、不甲斐なき奴!次元の狭間に消え去れい!!」

「・・・っ!」

 

突風がファントムを掻きまわす。リンクやナビィの体を叩きつけ、異次元の向こうへ消えていく。

静けさの戻った屋敷には、しかし彼女だけがいない。

 

「・・・サリアは?居ないのかしら」

「・・・いや、あそこだ」

 

青い光がにじむ。いつものワープ装置だろう。

でも、どうしてだろう。ボスを倒したというのに、なんだか心が晴れない。

誘われるまま賢者の間に戻る。緑の光の中に、サリアはいた。

 

「ありがとう・・・。あなたのおかげで、賢者として目覚めることができました・・・」

「サリア」

「リンク、なにも言わないで」

「・・・・・・」

「たとえ賢者でなくても、アナタとワタシは同じ世界では、生きていけない運命だもん」

 

寂しさをにじませて、しかし彼女は気丈に微笑む。

 

「リンク、どうか覚えていて、森はずっとアナタを愛しているわ」

「・・・うん。俺も、みんなのことを愛してるよ」

「――――離れていても、心は繋がっているの。ずっとアナタのそばにいる。ナビィ、どうかリンクをよろしくね」

「・・・も、もちろんヨ!サリアも元気でね・・・」

「このメダルを受け取って。―――――さあ、行くのよ」

 

 

「――――――ありがとう、サリア。大好きだよ」

「――――――うん、サリアも、リンクのことが大好きよ」

 

 

光が満ちる。影は離れて、――――でも、悲しむことはないよ。

どうか笑っていて、愛しい子。




入手:光のメダル 森のメダル フックショット 妖精の弓


勇者の愛馬(エポナ):A+
ロンロン牧場の一人娘、マロンから譲り受けた馬。
マロンの母親が作った「歌」を知っているものにしか懐かず、暴れ馬として敬遠されていた。
7年後の世界で、ガノンドロフに献上される予定だったところ、あらわれたリンクによって牧場から解放。
以後、リンクの愛馬としてハイラルを駆けることになる。
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