時の勇者に成り代わったがオチを知らねぇ【完】   作:はしばみ ざくろ

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ムール・ウ・テュ・ドワ

(勇者リンクよ・・・聞こえるか・・・

 

ガノン城へ行く前に・・・お前を待っている者に会うがいい・・・)

 

 

 

 

 

って言われたから来たのに誰も居ないんだが。早く来すぎましたかね。

 

久しぶりに時の神殿に戻ってきたが、ここはいつでも変わらない。

外はあんなに暗いのに。

開け放たれた扉の向こう。ぽつんと残る台座が、ピースを無くしたパズルのようだ。

精霊石に反射した光が三色に染まるさまを、しばしぼんやりと見つめた。

 

「――――――随分呑気だな、小僧」

「・・・・・・ハロー、ガノンドロフ。ゼルダ姫が来ないんだけど、どこに連れて行ったんだ」

「わが城に決まっているだろう。貴様も来るがよい。勇気のトライフォースを持ってな」

 

身が竦むような声がリンクを誘う。

怯えるナビィを一撫ですると、勇者は神殿を出ていった。

極彩色の空が渦巻く、黒城を仰ぎ見る。

 

(我ら六人の力を結集し、ガノンドロフの城へ橋をかける。

 その中心の塔は邪悪な6つの結界によって守られておる!

 結界を全て解除し、ゼルダ姫を救うのじゃ!)

 

虹色の橋を進み、螺旋の階段を進む。

窓ガラスから差し込む光を浴びて、金髪がきらめいた。

 

「ナビィ、頼みがあるんだ。聞いてくれる?」

「どうしたの?リンク」

「おそらく、ゼルダのトライフォースはすでに奪われているだろう。城のどこかに閉じ込められているかも。探しに行ってほしいんだ」

「・・・ナビィが一人で行くの?リンクは・・・」

「ナビィ達には賢者のみんながついているから大丈夫だよ。俺は・・・」

 

「決着をつけてくる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ステンドグラスのはめ込まれた、美しい広間。

パイプオルガンを踊る魔王の指先。旋律が響く、絢爛な玉座。

扉の開く音。

 

「共鳴している・・・。トライフォースが再び、ひとつに戻ろうとしている・・・」

 

リンクの手の甲に浮かび上がる、聖三角の欠片。

 

「小僧・・・。オレはキサマの力を侮るなど、愚かな真似はしない。・・・故に」

 

ガノンドロフは闇の波動を放出する。床がひび割れ、天井が軋む!

 

「―――――ここで殺す。確実にだ」

 

力と知恵のトライフォースが、魔王の赴くままに神器の権能を振るう。

あの「勇者」を殺す力を。世界を支配する力を。

それはやがて魔の根源に到達する。あらゆる平行世界、剪定事象の可能性を引き出す。ゼロは無数に、無限に膨張していく。

魔王を邪悪な魔力が包む。あり得ざるIFがたった今顕現した。

 

 

それは―――――――獣。人間の獣性から生み出された、災害の獣。

災厄にして最悪。原始にして原初の終焉。

 

 

真っ赤に燃える炎の髪は伸び、しかし引きずられることはない。

禍々しい二本角が天を向く。たなびくマントは血の色か。

人は智慧を捨てられぬ。故に悪もまた捨てることができない

安寧を壊す人類悪。未来を望む人類愛。人の世を永劫呪い続ける必要悪、その全て。

文明より生まれ、文明を滅ぼす終わりの化身。

 

「虚空」の理をもつ(ビースト)

大魔王 ガノンドロフである―――――――――。

 

 

 

 

 

冷たい刃のような殺気に膝を折らなかったのは、その前に反射で動いていたからだ。

城そのものを揺らす衝撃波。その中心から少しでも離れ、かつダメージを軽減させるための跳躍を。

リンクが地に足をつけたときには、暗黒の空が見えるほど城の上部が吹き飛んでいた。

 

「な・・・」

 

(なんで角生えた!?わからん!!)

急に意味わからんパワーアップをしないでほしい。まだ戦ってないんだが?勝手に第二形態になるな。

 

槍の形状をした稲妻が光の速度で襲い来る。

リンクは魔力放出で跳び避けると、床が砕けるほどの踏み込みで斬撃を放つ。

しかしそれは、魔王の手の中にいつの間にかあった大剣で防がれた。

甲高い鋼の声。斬り上げを後ろに跳んで躱し、追撃する魔力の弾丸をディンの炎で相殺する。

剣に纏った炎の斬撃が無数に飛んでいく。白刃の暗線が捌きながら、怪物の膂力で前進する!

 

「ぐ・・・っ!」

 

雷の魔力と共に切っ先が、リンクの心臓めがけて襲い来る。

紙一重で剣の腹で受けるものの、巨体を受け止めきれず後方へ吹っ飛ぶ。空中で体制を直し壁に着地すると、着地と踏み込み、両方の衝撃で無残に崩壊した。

頭上からの渾身の斬り落とし・・・に見せかけた魔力放出。床に罅の入る轟音と共に懐に入る。右切り上げ、左薙ぎ。

野生動物のごときしなやかさで躍りかかるリンク。だが剣撃は魔力障壁に阻まれる。

常人には視認できぬ音速の剣戟。迷い無く首を狙うためらいなさ。何手凌がれても引くことはない。

それら全てが大剣によって受け流され、払い、逸らし、絡め取られる。本当に――――。

 

「・・・惜しいな、勇者」

 

不意に跳ね上げられた切っ先に、重心が持っていかれる。

リンクの顔に汗が浮かび、筋肉に熱が発生する。酸素を求めて開いた口元を見た魔王が動く。

いくら頑丈自慢な勇者といえど全速力で動き、同時に魔力を放出し続ければ。どこかで必ず息切れし、致命的な隙がうまれる。

一手足りない。

退魔の剣の聖なる力だけでは、獣を御することはできぬ。

ましてや17歳の体。いかに身体能力を強化しようと、魔王――もとい獣――の体躯を受け止めるには重量が足りていない。

無防備になった腹に右足が叩き込まれる。内蔵を衝撃が走り、口元を血が汚した。

もんどり打つ様に床に倒れるリンク。ノーモーションで落ちてきた雷をほぼ無意識に転がるように避け、しかし余波は頬と金髪を焼いた。

 

「それ程までの才、ここで亡くすには惜しい。思考も理性も消して再利用してやってもいいが・・・」

「冗談!!」

「残念だ」

 

思ってもないことを言うんじゃねぇ!!

てかおま・・・何!?なんか俺だけ敵のレベル違くない!?魔王ってこんなに強いんか!?ヤバ・・・・・・。

 

「では―――――魂ごと消え失せよ」

「へっ?」

 

―――――――それは文字通り、掌の上。

リンクはその瞬間、魔王の手に乗っていたのだ。

錯覚か、幻覚か。天を突くような巨大な男。まさしく蟻と象。人と巨竜。感嘆もなく握りつぶされる。

それでお仕舞い。御終いだ。

肉体も精神も崩壊し、消滅し、否定される。存在することなど許されない。「死」よりも恐ろしい魂の蹂躙。獣の掌の中で壊される。もうここには何も無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――しかし何事にも例外はあるものだ。

 

 

とぷん、とどこかに落ちたリンクを、見つめている誰かが居る。

極彩色がまだらに浮かぶ空間。どちらが上か、下か。地面もなく、天もない。

 

『森の民よ』

「・・・はっ!」

 

どこからか掛けられた言葉に、散っていた意識が鮮明になる。

目眩のしそうな妖しい世界をリンクは漂っていた。ここはどこだろう。

 

『同族がすまないな』

「あなたは・・・魂の神殿の・・・」

 

目の前にあらわれる影は人の形をしている。しかし顔がわかるほど鮮明ではなく、粘土のように柔らかに脈動していた。だけど声でわかる。

 

「・・・ゲルドの人?・・・ええと、助けてくれてありがとう」

 

誰かは微笑んだ。

 

『ここは時の海。またの名を虚数空間。本来人間が生身で存在できる場所ではない』

「時の海・・・」

『だが同じ“虚数属性”。もしくはそれによってつくられた魔法を纏うことによって、例外的に入り込む事ができる』

 

誰かから譲渡された加護は、魔王からの死の命令を防いだ。

リンクの内側から魔力が溢れてくる。意識して剣に纏えば、輝きはそのままに、マスターソードは黒い炎を纏った。

 

「すごい力をありがとう」

『礼を言うのはこちらの方だ。・・・これで本当に最後だ。もう行かなくては』

 

影が溶けていく。

リンクも戻らなくては。まだ戦いの途中だ。

この力があれば少しは対抗できるだろう。

狭間から浮上する一瞬に、聞こえてきたのは男の声。

 

『・・・あの子を、解放してやってくれ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静寂。

一人になった魔王が、勇気のトライフォースを手にしようと足を踏み出し――――――反射的に身を引いた。

避けきれなかった斬撃が鎧もろとも胸を裂く。決して浅くはなく、また奇妙な魔力を感じる傷だった。

黒い炎が襲いくる。魔力で相殺しようとして、しかし飲み込まれるように(・・・・・・・・・)魔王の攻撃が消える。

視認する人影。

 

「・・・・・・なぜ生きている?」

「・・・運が強いので」

 

口元を無造作に拭ったリンクが立っている。

一呼吸置いて剣を構えた。蒼い瞳が真っ直ぐに魔王を見ている。

 

「―――――――く、くくくくっ」

 

 

「ハハハハハハハッッッ!!!流石勇者!!そう来なくては!!!!」

 

魔力が吹き上がって巨大な砲弾と化す。

構わず突進するリンクを、黒い炎が包み障壁になる。弾くのではなく、触れた瞬間に吸収して(・・・・)

 

「やはりそれは影の力。虚数魔法だな」

 

虚と聖、2つの力を纏ったリンクの剣と、魔王の大剣が鍔迫り合う。

影の炎は魔力障壁を浸食し、魔王の体に無数の赤い線を走らせる。

 

「そんなものをどこで手に入れた?キサマとは相性が悪いのではないか?」

「存外お喋りだな、おまえ。これは少し借りているだけだよ」

 

雷が縦横無尽に走り回り、炎が踊り狂う。あんなに美しかった部屋はもはや見る影も無い。

その瞬間は。―――――その、大いなる人類史。この先も遙かに続いていく人理からみれば。

きっと一ページにも満たないこの時を。確かに二人は殺し合った(生きていた)。その果てにしか理解できぬものが存在した。

千の剣戟がリンクを破壊しようと迫る。袈裟切りを受け流し、逆風の太刀を絡め取り、鋭い三段突きを返す。

戦いの中で相手の技術を盗み成長する。リンクの並外れた観察眼が、魔王の剣術を吸い取っていく。

大剣がリンクの脇腹を抉り、聖剣が魔王の右腕を深く切りつける。骨の砕ける音。

 

「・・・勇者よ。キサマは何故戦う」

 

それは気まぐれか。獣の本能が囁いたか。

 

「平和な世界に不必要なのは(・・・・・・)キサマとて同じだろう。未来は我らの屍の上にしか無く」

「うん、知っている。所詮俺たちは表裏一体。立っている場所が違うだけだ」

「女神に使われる傀儡のままで良いのか?」

「――――――なにか勘違いしているみたいだけど」

 

金属音と共に間合いを取り合う。

さすがに心臓は無事でも、左腹から血が流れ続けるのはまずい。もうまもなく幕引きだろう。

 

「俺が、自分の意志で、ここに立っているんだ。あまり侮らないでよね」

 

「それに―――――知らないようだから教えてあげる。体も、魂も、この剣も俺のものじゃなくたって。

俺の心は俺のものだ。それだけは、どんな神だろうと奪えないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・生意気な小僧だな」

「従順な方が好きなのか?」

 

・・・鼻で笑われた。

城の敷地を飛び出し、魔王が天高くに移動する。

 

(ソラ)よ」

 

空間が歪む。

重力は圧縮され、密集し、時空はゆがみ、光すらも逃げ出せない圧倒的質量。

黒い太陽―――――もとい。後世でいうブラックホールである。

ハイラルどころかその近隣国すら塵芥と化す、死のエネルギー。逃げる場所などない。

 

「ふふっ・・・」

 

ところでこの世には2種類の人間が存在する。

追い詰められたときに臆してしまう人間と、負けず嫌いが跳ね上がる人間だ。

 

「上っ等・・・!」

 

リンクは後者である。

 

「――――――マスターソードよ!」

 

退魔の剣(マスターソード)。鳥が翼を広げたような形の鍔に、青い柄。その中央には菱形の飾りがはめ込まれている。女神が来たるべき時のために、剣の精霊と共に残した剣。

大空の勇者によって鍛え上げられ、女神ハイリアに祝福を受けた、勇者にしか扱えぬ聖剣。

 

剣は主の想いに呼応して力を発揮する。故に勇者の半身と呼ばれた。

リンクの中にわずかに残る魔力と、マナ―――自然界に満ちている星の息吹たる魔力を指す―――を吸収、光に変換。集束。加速。莫大なエネルギーを纏う。

天高く構えたその姿は、スカイウォードと呼ばれた技によく似ていた。

 

しかし、この技に名などなく。

時の勇者が求めたのは、線。獣を貫き、邪悪を絶つ。ただの一振りである。

 

 

 

 

 

人々は見た。

ハイラルを覆う黒雲を裂き、黒い太陽があらわれるのを。

天変地異にもほどがあるその悪夢が墜ちてくるのを、ただ呆然と眺めるだけだった。

 

 

人々は見た。

眩いばかりの光が、堕ちたはずの城からうまれるのを。

それはやがて集束し、一振りの斬撃となる。 

 

 

人々は見た。

黒い太陽と光の奔流がぶつかる。

衝撃。天は爆ぜる。

超重力をぶち抜く光よりも速い、金色の昇り竜を。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――――見事だ、リンク」

 

多方面に放出された熱エネルギーは雲を吹き飛ばす。7年ぶりの青空であった。

しかし吹き飛ばされたのは、リンクの足場であった魔王城も同じ。瓦礫と共に二人は落ちていく。

 

「だがこのままではキサマも死ぬぞ?」

 

面白がるような声に、血痰まじりの声が返ってくる。

 

「構わないよ。刺し違えてでもおまえを止める」

 

剣を下に構え、息を整える。全力(・・)の魔力放出―――――――!

 

「な――――どこに―――そんな力が――――」

 

煌めく刀身が魔王の心臓を貫いた。勝敗が決する。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・ああ、聖剣の鞘か?」

「・・・正解」

 

マスターソードが時の神殿の土台に刺さっているとき、その鞘はどこにあったのか?

答えは「人間には視認できていないだけで、その時も刀身を納めている」だ。

つまりリンクは鞘ごと抜いていたのだ。そしてそれを認識したのは、賢者ラウルと出会った時である。

マスターソードは女神の祝福こめられし聖剣。しかし、傷が付かないわけではない。なぜならあくまで退魔の能力を付与されただけで、決して壊れない剣ではないからだ。

 

なら傷ついたらどうするのか?どうやって回復させるのか?

正解は「鞘に納めて眠らせる」だ。つまりマスターソードの鞘には、聖剣の傷さえたちどころに回復させる治癒能力がある。

 

 

そしてもう一つ。世界に存在する物体としてだけでなく、認識できない概念化することができるということ。

それは前述した通り、剣が封印の鍵として刺さっているときに主に発揮されている。

リンクはその鞘を、自身の体に取り込んだ(・・・・・)。刀身を治す力を、リンク自身の肉体の回復に使うために。

 

――――そんなことが可能なのか?

いや、本来は不可能だ。

だから他の勇者の方々はくれぐれも真似しないでほしい。

行なった場所が、世界の狭間に近い聖地であったこと。このリンクが精霊の愛し子であり、妖精の子であるという、限りなくあちら(・・・)に近い存在だからこそ通った例外処理。

 

そしてそれは(・・・)、役目を終えて剣の奥底で眠る精霊をたたき起こすのには十分だった。

再起動、再構築、再編成、再認識。

剣の精霊は、マスターの覚悟を受け取った。

 

 

ちなみにリンクが眠りにつく前にラウルに頼んでいたのは、変わりに刀身を納める新しい鞘を作っておいてほしい。というものだ。

 

 

鞘がもつ治癒能力が、時の勇者の肉体を、魔力を、失った先から回復させていく。わずか数秒分でも問題ない。この一太刀が届くのなら―――――――!

 

「・・・さようなら、ガノンドロフ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――そして。この世界、この時代の、魔王と勇者の戦いが終わる。

 

 

 




ネガ・オーダー:EX
相手の存在を否定・消滅させる権能。生命の存在しない「虚空」の世界に分解して堕とす。
あらゆる防御を解除・無効化するため、発動したら防ぐ術はない。
英霊、人間、魔物、精霊、神性、「死」という概念のない上位存在。全てに例外なく発動され、肉体も精神も崩壊する。その気になれば星そのものを「なかったこと」にすることすら可能。
同属性である「虚」の魔力を持つ者のみST判定が発動。
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