時の勇者に成り代わったがオチを知らねぇ【完】 作:はしばみ ざくろ
プロローグ いやしの歌
――――――その日。
かつて時の勇者と呼ばれたリンクは、人生で二度目の17歳になった。
美しい金髪は腰につくほど長い。気分に合わせてざっくり結んだり、三つ編みにしたり。
ハイネックのインナーに、脚にぴったりとあう細目のスキニー。革のブーツ。フードのついた外套。
愛馬に乗って歩む姿は、どうしたって人目を引いた。
「ハロー店主さん!これは何という名前の食べ物?材料は何を使ってるんだ?」
「ん?兄ちゃんたこ焼きははじめてか?これは小麦粉の中に食用オクタを入れて焼いてるんだ」
「食用オクタ」
とうとう食用になったのかあのタコ。うっめぇ!
山を越え、海を越え、とうとう東の大陸まで来た。このあたりの建物や食べ物は前世で言うアジア系統なので、住むならこの辺がいいかもしれない。
7年の旅路はリンクをさらに強く、手のつけられない自由人に成長させた。勇者の責務から離れたのも大きい。永住先を探しつつ、のんびり日々を過ごしている。
最近は四次元・スゴイ=バッグの解析に興味があります。使い魔募集中。
「おじさん、この辺で観光できるところはある?」
「観光か。そんならもう少し行くと、カーニバルの町があるぞ。ああでも・・・」
「?」
馬宿の出店は情報通だ。
ここだけの話だと言わんばかりに声を潜めたので、遠慮無く聞くことにした。
「あの鳥居のある山には近づかねぇほうがいい。鬼が出るっていうからな」
「鬼?スタルキッドとか?」
「いや、それより恐ろしいもんだ。山に入って帰ってきた奴はいないとか・・・」
「ふむ」
そんなこと言われると・・・そんなこと言われたら・・・。
「気になるだろ。なぁエポナ!」
「ぶるる」
きたぜぬるりと。霧が凄いです。
高い木々に囲まれた道を、ゆっくり進みながら周りを見渡す。特に変わった気配も・・・。
「・・・そこの妖精達」
「「!?」」
紫と白の妖精がふよふよと姿を現す。
まさかバレているとは思わなかったのか、驚いたように飛び交う。
「スタルキッド!こいつただ者じゃないわ!」
「スタルキッド!やっちゃえ!」
声援に反応して前方の草陰から、妙なお面をしたスタルキッドがあらわれた。
・・・あれそのお面・・・ムジュラの仮面じゃない・・・?ブレワイのDLCにあったぞ。俺も持ってたし。
へーここで出てくるのか。
・・・ん?てことはまた何かに巻き込まれてんな?もう始まってる感じだな?
「ヒヒッ、よく気づいたな!これならどうだ!」
明らかにやべぇ魔法を使おうとしたので、こちらも魔法で防御を張る。
なんかその仮面持ち続けてるのやばくない?はやく捨てた方がいいと思うよ。
「スタルキッド、その仮面はどうした?もしかして盗んだんじゃないだろうな?」
「・・・! 返さないぞ!これはオイラのものだ!」
あっ逃げた。
エポナを走らせて追いかける。
でっかいキノコや大木の切り株を通り過ぎ、木のトンネルを走り抜けた。燭台のともる広場に出る。
「なんだよ。せっかく遊んでやろうと思ったのに・・・」
「そうだな、急に追いかけて悪かった。一緒に遊ぼうか」
「・・・じゃあその馬貸してくれよ」
「うーん、いじめたりしないか?この子は少しお転婆だからな」
エポナいける?ええ・・・無理ですね・・・。そこをなんとか・・・あとで人参いっぱいやるから。
明らかに乗り気じゃないのをアイコンタクトで抑え、スタルキッドに貸してやる。エポナはリンクと、元主人のマロンを彷彿とさせる女性以外に厳しいのだ。
おそるおそる戯れだした妖精とスタルキッドを見守りながら、一息。
『――――――――』
「む?」
声なき声が聞こえる。
見渡すと広場の隅に隠れるように、奇妙な木が生えていた。
今にも泣いてしまいそうな、弱々しい童のようだ。
事情も原因もさっぱりわからぬが、子供(のような雰囲気)を無視するのはリンク的にナシだ。コキリの家族を思い出してしまう。
せめて慰めになればとオカリナを取り出した。
『いやしの歌』
これは魂を癒やす魔法の歌。
君が安らかに眠れますように。世界の全てに怯える気持ちが解けますように。
「ヒヒーン!」
「うわぁ!?」
「えっ」
どうしたエポナ。やっぱり好みじゃなかったか。
なにやら癪に障って走り出した愛馬を追いかけようとして、先ほどの木が光っているのにぎょっとする。
『―――――さま――――い―――』
「んん?」
なんだこれ。お面?
木がお面になったぞ。どんな進化だ。あああエポナ待ちなさい。とりあえずお面をひっつかんで走る。
木の扉を潜り、トンネルを走り、なぜか中々追いつけぬまま石畳の空間にたどり着く。水路の橋を渡り、スロープを上に昇る。あいつらここ通ったのか?
ぐるぐるまわる柱は何を動かしているのか。あれ?これゴシップストーンじゃない?なんでこんなところに・・・。
「そこの剣士さん。お急ぎですか?」
「・・・いいえ。何かご用で?」
うわびっくりした!背後に唐突な気配。
しあわせのお面屋。と名乗った男は、ハイリアで店をやっていた者とよく似ている。同一人物・・・?
そしてやはりあの仮面は盗んできたものらしい。いけませんよそういうの。
「途方にくれていたところ森を走るアナタを見つけ、失礼と思いながらもずっと後をつけさせてもらいました・・・」
まじで?全然気がつかなかった。
俺結構全力で走ってたんだけど・・・。それについてくるって、少なくとも一般人ではないな。
「ところでアナタの持っているそのデクナッツの仮面・・・。大変な悲しみを感じます。どこで手に入れたのでしょう」
「実は手に入れたのは偶然なんだ。仮面ってお面とは違うんだろうか?よければ教えてほしい」
「構いませんよ。仮面はかぶるとその仮面が持つ力が乗り移り、変身するものを呼びます。それ以外がお面だと思ってくれれば」
ということはこれを被るとデクナッツに変身するのか。
「それで・・・もしよろしければですが」
「ムジュラの仮面を取り返してほしい。だろう?あのスタルキッドには俺も用があるんだ。任せてくれ」
「ありがとうございます!もしまたお面や仮面を手に入れたなら、ワタクシが鑑定いたしますので・・・」
恩はざくざく売っておけ。後はリンクさんに任せておけ。
よくわからんが乗るしかないこのビッグウェーブ。
見慣れぬ模様の描かれた扉を押し開ければ、そこはもう知らぬ街。
カーニバルの町 タルミナ
「元」時の勇者リンクの 新たな物語のはじまり、はじまり――――――。